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  紅葉も散り始めた11月某日俺は椿と並んで、通学路の銀杏並木を歩いてた。
  11月は、多分俺の知りえる中で、最もやさしい時間を過ごせる月だ。なぜなら……
「なあ、今日の一時限目って何の授業だっけ?」
「…………」
  彼女は、俺の質問に対し首を傾げる事で答えた。
「……そうだ体育だよ…お前、体操服忘れてないよな?」
「…………」
  次は、ただコクンと頷くだけだ。会話が続かない。これはこれで他の人格とは別に疲れるのだが…それでも、こいつは──
「なあ、俺煩いか?それなら黙るけど……」
「…………」
  椿は俺をじっと見つめると……
「…………貴方との話は…好き」
  とだけ言って、スタスタと先を急いでしまう。そうこいつは、彼女たちの中で一番わかりやすく、素直なのだ。ただちょっと恥ずかしいけど……



  6話
  霜月 椿編
「…………」



  銀杏並木は黄色い葉を落とし、夕日に染められ、通学路に黄金色の絨毯を作っていた。たまに吹く風が、金色を中へと舞わせる。
  隣りにいる彼女は何を考えているのかいまいち伝わらない表情で、ちょこんと数本だけまとめて伸びた髪を風に煽られつつ、それでもきにせず突き進む。
  俺はニコリともしない彼女を眺めながら、会話がなくても心地よい雰囲気を楽しんだ
「…………どうしたの?」
「どうしたって…なにが?」
  椿は立ち止まらず、ゆったりとこちらを見上げる。その眼にちょっとだけ悲しみが映っている気がした。
「…………だって…ちっとも話しをしてくれないもの」
「そうか、ごめんな。偶には静かなのも良いと思ってさ」
  すると、彼女はキョトンと俺を見上げ、ちょっと微笑む。
「…………よかった…同じ」
「え?……」
  聞き返す俺にもう一度微笑むと、ちょっと足を早めた。彼女なりの照れ隠しだろうか?まるでもう言わないとでも言うように……
  そして、少しだけ先行し、振り返って破顔しながら、俺の袖をちょこんと摘む
「………急ご………お腹空いた」
  皐月みたいことを言い出して、引っ張っる彼女は抱き締めたいくらい可愛かった。


  アパートに戻って食事の作れない彼女の分まで俺が作り、二人分の食事を済ますと、二人でTVを観て過ごす。会話は少なくとも、とても優しい心地のよい時間を過ごせた。
  そういう時間を過ごしているうちに、気が付けば既に夜は深く、ゆっくりとした時間は終わりが近づいていた。
「そろそろ、夜も遅いぞ。明日学校だし、帰る準備……どうした?」
  彼女は何も言わなければ、いつまでも帰ろうとしない。だから、ある程度夜遅くなると、俺が声を掛けるのが慣習だった。
  いつもは一言だけ、こちらにサヨナラを告げて帰る彼女だったが、だが今日は、いつもと違った。何故か立ち上がると蛍光灯を切り、窓に近づく。
  そして、ちょんちょんと手招きをして俺を呼んだ。
「…………綺麗」
  彼女の行動の真意は、すぐに解った。
  窓を見上げ、ぼそりと言った声を頼りに俺も釣られて見上げると、そこには大きな満月が浮かんでいたのだ。
  流石に十五夜と比べるとやや見劣りするが、それでも十二分に大きい満月が11月の澄んだ夜空を飾る様は、とても美しく、何も言わず見上げる彼女に何故かとても似合う気がした。
「……本当だ」
  なんとか返した返事はひどく頼りないものだったけれど、彼女は満足したように、僅かに微笑む。
  満月の刺すような月明かりは青白く、でも、とても暖かく、僕らを照らしていた。
「…………」
  しばし二人で月を眺めていると、ふと思い出した事があった。
「そういえば、昔俺、酷いことしたよな」
  なんか、いつもは彼女達が昔話してくるのに、今日は逆だな…だが偶には良いだろう。思いながら、当時を邂逅する。
  それは、今みたいに二人で会話なく紅葉を眺めていた時だった。今はもう慣れたが、当時俺はまだ幼く、会話がない空気にに耐えきれなかった。
「あの時お前、なにやっても驚かなくてさ、近所の猫が近づいてきたから俺が追いかけてみたら、見失ってさ。それで──」
「………どうだったのって聞いた」
  彼女も覚えているのか、ちょっとだけ懐かしそうな顔をして言葉を次いだ。蛍光灯の明かりがなくても、十分にその表情は伺いしれた。
「俺は、お前を驚かせたくて、ちょっと嘘付いたんだよな。たべちゃった…って」
「………あれは驚いた」
  月明かりが照らす裏庭と俺達だけの世界で二人はクスリと笑いあう。
「ふふ、そしたらお前本当に涙ぐんでさ、後で嘘だって言ったら、カンカンに怒って叩いてきたんだよな」
「だって……………」
「あの時お前、可愛かったぜ?」「っ!………///」
  少し、月明かりの世界が変わった。椿の雰囲気が変わったように感じて、月から目を離し、彼女に向ける。
  けれど、その顔は伺い知ることは出来なかった。彼女の顔を見る前に、雲が帳を落としてしまったのだ。
  刺すような月明かりが戻ってきたとき、彼女はいつもの平常心の鉄面皮を取り戻していた。
「…お前今……」
  俺はちょっとだけ驚いて、彼女を見つめる。
見つめ返す彼女は、まるで何事もなかったかのように、澄んだ目を返すと、思い出したかのように、
「………帰る」
と、告げて、蛍光灯を付け直し部屋を出て玄関へ向かう。
  なんだ、動揺してるじゃないか、今まで一度も自分から帰るなんて言ったことないし、帰る時は必ず言うサヨナラが今日は聞こえない。
  コイツも一人前に動揺するのか……そう思うと、先ほど刹那だけ見えた表情をひどく可愛く感じることが出来た。




  帰り際、私は彼に聞こえないように小さく零す。
「……………私もイタズラしたかったのに…」
「え?」
  何でもないと言う意思を手で表し、私は彼の部屋を去った。



  6話
  霜月 椿編
  完
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