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第十二話  『弥生 なのは』」(2007/02/20 (火) 15:54:19) の最新版変更点

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12話 弥生 なのは編 月明かりの中、振りかえろうとする彼女の背中に若干の緊張を覚える。 そういえば、3月に遊びに行くと上手く避けられてきた気がする…… 振り返った彼女は、何か絶対の自信を瞳に宿し、すべてを理解しているかのように俺を眺めた。 「はじめまして、星霜四葉君……最後の人格へようこそ」 「おう、名前はなんていうんだ?」 頼れる明かりが月光のみの世界で、彼女は妖艶に微笑む。 「"なのは"だ。長月に言われて名前で呼ぶようにしてるみたいだが…私のことは"先生"でいい」 ブランコが風に揺られ、キイィキィイと音を鳴らす。その風は冷たく俺たちにぶつかって来た。 「皆がそう呼ぶのでな。今日は君に力を借りにきた」 「どういうことだ?」 ブランコの鳴らす音は、しばらく公園に響き続けたが、やがて止まった。 「いままで、私が君を避けていた事は理解しているだろう?流石に共同生活を始め、何れかは会うと思ってはいたが……」 「何で避けて来たんだ?」 直感的に思う。コイツは…何かが違う……言いようが無いが、他の彼女たちとは何かが違った。 「君に協力して欲しい、協力してくれるのなら、私は知っていることを伝えよう」 「……協力の内容にもよるぜ?」 その言葉に、自分の生徒が模範解答を持ってきたように彼女はうなずいた。月明かりはどこまでも青白く世界を染める。 小さな虫たちの声が微かに聞こえ、風で森の木々が揺れる。彼女はそれらに耳を傾けながら、俺を見てまるで心を読んだように釘をさす。 「私が誰だかは自分で考えろ。それを考えないように私たちは暮らしているのだから……」 心理学の本によると多重人格の各人格は、己が生まれた理由を一応は知っているのだが、考えずに生きているらしい。考えれば、それだけ自分の存在が危うくなるからだ。 「私からの要請は一つ、頼む。私たちを…ぽぷらを救ってくれ。それが君の贖罪だ」 「それが、俺に出来るならやっている」 何の贖罪だかぽぷらが誰だかは知らなかった。ただ彼女たちの救いになることはすべてやってきたつもりだ。 「私が教えよう」 自信満々に言うと彼女は一歩だけ俺に歩み寄った。風がざわざわと鳴り、どこからか梅の匂いを運んできた。 「まず、お前が俺を避けた理由を教えてくれ」 「簡単だ…君に惚れて、計画をフイにはしたくなかった」 俺に……惚れる? 「私たちが生まれたのも、すべては事故と君によって生まれた」 「待て!事故ってなんだ?……それに、俺に惚れたから?意味がわかんねーよ」 「だからそれを全て教えようその代わり、君には贖罪として私たちを救って手伝いをしてもらう……私たちは、まるでコップの水に浮かぶ氷のようなものだ。物質的に一緒でも浮いている」 風はいつのまにか止んでいた。梅の匂いも消えている。 「じゃあ、誰が"水"なのかを教えてくれ」 「君はもう知っているはずだ……自分で考えろ」 それだけ言うと彼女はどこから取り出したのかうまい棒を齧った。その顔はちょっとだけ幸せそうな顔をしていた。月光が冷たく俺たちを照らしていた。 俺は家に帰り、頭を抱える。明かりをつける気はせず、窓から漏れる月明かりだけが支えだった。 先生の計画は全てを全人格に教えることだった。それによって人格が崩壊しようとも主人格だけは生き残るはずだ。全てを記した紙をすでに渡されている。 そうすれば、病気は治るのかもしれない。それくらい彼女の勘違いは大きい。だが……他の人格はどうなる?粉々になってしまうんじゃないのか?くそっ彼女を想うなら私の計画を実行しろだと…彼女を想うからこそ悩むんじゃないか! 部屋を見渡す、そこにはオルゴールと他の子に渡したくないといって俺に預けた蜜柑の指輪が見えた。 その隣にはあの時マフィンを入れた籠。いつのまにか向日葵が壊してしまった時計。 菖蒲と帰って小さかったから置いておいた傘。他にもこの部屋には思い出が詰まりすぎていた。 見上げれば、天井の穴が俺視界に写る。なんとなくちゃぶ台を使って中を見てみると、何かがあった。 箱?中には手紙とチョコレートが11個入っていた。 手紙にはこう書いてあった、 「なんとなくバレンタインチョコを渡し損ねちゃったから、ここに置いとくね。皆の分まで作っておいたよ、ちゃんと食べないとパンチなんだからっ」 なんだ、屋根裏上がる奇人は蜜柑だけじゃないじゃないか……思わず、くすりと笑うと同時、涙がぽたりと落ちて手紙を濡らした。そのまま、号泣するが…涙が止まることは無かった。 そして、彼女たちの幸せのためにも………覚悟は出来ていた。全てを見ていた月だけが明るく町を照らす… 12話 弥生 なのは編 完 おまけ いやだいやだいやだ。うそだ。おとーさんおかーさんっ。かみさまおねがいです。悪いことは全部ぽぷらがもって閉じこもるから、大切なものを返して下さい。お願いです。もう、大切なものを持っていかないでください。 いい子にするから、他の大切なものを皆に分けてあげるから…だから……お願い…
  12話   弥生 なのは編   月明かりの中、振りかえろうとする彼女の背中に若干の緊張を覚える。   そういえば、3月に遊びに行くと上手く避けられてきた気がする……   振り返った彼女は、何か絶対の自信を瞳に宿し、すべてを理解しているかのように俺を眺めた。 「はじめまして、星霜四葉君……最後の人格へようこそ」 「おう、名前はなんていうんだ?」   頼れる明かりが月光のみの世界で、彼女は妖艶に微笑む。 「"なのは"だ。長月に言われて名前で呼ぶようにしてるみたいだが…私のことは"先生"でいい」   ブランコが風に揺られ、キイィキィイと音を鳴らす。その風は冷たく俺たちにぶつかって来た。 「皆がそう呼ぶのでな。今日は君に力を借りにきた」 「どういうことだ?」   ブランコの鳴らす音は、しばらく公園に響き続けたが、やがて止まった。 「いままで、私が君を避けていた事は理解しているだろう? 流石に共同生活を始め、何れかは会うと思ってはいたが……」 「何で避けて来たんだ?」   直感的に思う。コイツは…何かが違う……言いようが無いが、他の彼女たちとは何かが違った。 「君に協力して欲しい、協力してくれるのなら、私は知っていることを伝えよう」 「……協力の内容にもよるぜ?」   その言葉に、自分の生徒が模範解答を持ってきたように彼女はうなずいた。月明かりはどこまでも青白く世界を染める。   小さな虫たちの声が微かに聞こえ、風で森の木々が揺れる。彼女はそれらに耳を傾けながら、俺を見てまるで心を読んだように釘をさす。 「私が誰だかは自分で考えろ。それを考えないように私たちは暮らしているのだから……」   心理学の本によると多重人格の各人格は、己が生まれた理由を一応は知っているのだが、考えずに生きているらしい。考えれば、それだけ自分の存在が危うくなるからだ。 「私からの要請は一つ、頼む。私たちを…ぽぷらを救ってくれ。それが君の贖罪だ」 「それが、俺に出来るならやっている」   何の贖罪だかぽぷらが誰だかは知らなかった。ただ彼女たちの救いになることはすべてやってきたつもりだ。 「私が教えよう」   自信満々に言うと彼女は一歩だけ俺に歩み寄った。風がざわざわと鳴り、どこからか梅の匂いを運んできた。 「まず、お前が俺を避けた理由を教えてくれ」 「簡単だ…君に惚れて、計画をフイにはしたくなかった」   俺に……惚れる? 「私たちが生まれたのも、すべては事故と君によって生まれた」 「待て! 事故ってなんだ?……それに、俺に惚れたから? 意味がわかんねーよ」 「だからそれを全て教えようその代わり、君には贖罪として私たちを救って手伝いをしてもらう……私たちは、まるでコップの水に浮かぶ氷のようなものだ。物質的に一緒でも浮いている」   風はいつのまにか止んでいた。梅の匂いも消えている。 「じゃあ、誰が"水"なのかを教えてくれ」 「君はもう知っているはずだ……自分で考えろ」   それだけ言うと彼女はどこから取り出したのかうまい棒を齧った。その顔はちょっとだけ幸せそうな顔をしていた。月光が冷たく俺たちを照らしていた。   俺は家に帰り、頭を抱える。明かりをつける気はせず、窓から漏れる月明かりだけが支えだった。   先生の計画は全てを全人格に教えることだった。それによって人格が崩壊しようとも主人格だけは生き残るはずだ。全てを記した紙をすでに渡されている。   そうすれば、病気は治るのかもしれない。それくらい彼女の勘違いは大きい。だが……他の人格はどうなる? 粉々になってしまうんじゃないのか? くそっ彼女を想うなら私の計画を実行しろだと…彼女を想うからこそ悩むんじゃないか!   部屋を見渡す、そこにはオルゴールと他の子に渡したくないといって俺に預けた蜜柑の指輪が見えた。   その隣にはあの時マフィンを入れた籠。いつのまにか向日葵が壊してしまった時計。   菖蒲と帰って小さかったから置いておいた傘。他にもこの部屋には思い出が詰まりすぎていた。   見上げれば、天井の穴が俺の視界に映る。なんとなくちゃぶ台を使って中を見てみると、何かがあった。   箱? 中には手紙とチョコレートが11個入っていた。   手紙にはこう書いてあった、 「なんとなくバレンタインチョコを渡し損ねちゃったから、ここに置いとくね。皆の分まで作っておいたよ、ちゃんと食べないとパンチなんだからっ」   なんだ、屋根裏上がる奇人は蜜柑だけじゃないじゃないか……思わず、くすりと笑うと同時、涙がぽたりと落ちて手紙を濡らした。そのまま、号泣するが…涙が止まることは無かった。   そして、彼女たちの幸せのためにも………覚悟は出来ていた。全てを見ていた月だけが明るく町を照らす…   12話   弥生 なのは編   完   おまけ   いやだいやだいやだ。うそだ。おとーさんおかーさんっ。かみさまおねがいです。悪いことは全部ぽぷらがもって閉じこもるから、大切なものを返して下さい。お願いです。もう、大切なものを持っていかないでください。   いい子にするから、他の大切なものを皆に分けてあげるから…だから……お願い…

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