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第二話  『長月 紅葉』」(2007/02/20 (火) 15:21:40) の最新版変更点

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  9月某日   2話   長月 紅葉編──   長いようで短かった酒乱と波乱の夏休みも終わり、金髪を元の色に染め直した彼女と別れを告げ、今は九月。   夏休みが終わったからといって、茹だるような暑さは消えずに残り、まさに呼んで字の如く残暑となっていた。 「四葉よ、どうした?」   そして、今は運動会シーズン真っ盛り、つーか、運動会当日。内藤と何より今月は長月が居る俺達のクラスは紅組で、完全な圧勝ムードだった。 「いや、人格が代わると身体能力も変わるんだなぁって……」   俺は、ポニーテールに結んだ長髪と凛々しい光を宿した真っ直ぐな瞳を持つ少女に向けて言った。   運動音痴の皐月や水無月と比べるまでもなく、彼女、長月紅葉は抜群の運動神経の持ち主だ。 「それは、確かに不思議に思うかもしれんな…だが、私達にとっては当たり前のことなので、説明のしようがない…すまない」 「いや、謝られても仕方ないけどさ」   それだけ会話を交わすと、また二人は眼前で繰り広げられる徒競走に視線を戻した。   結局、体育祭は圧倒的な戦力差で紅組の勝利に終わった。   俺は出場種目の内、1つを除いた全てに置いて敢闘賞という不名誉な結果に終わったが、それなりに楽しむことが出来た。   何より、女子応援団長を務めた長月の学ラン姿を拝むことができたのは、眼福だった。   だが、事件は体育祭ではなくその直後に起きたのだった。   我が校の体育祭は、終了間際にキャンプファイヤーを囲んで、フォークダンスをするのが慣例だった。   校長の長い式辞が終わり、まだ仄かに茜色の残る空の下、キャンプファイヤーに炎が灯る。   カップル達は楽しげに、独り身はここぞと相手を探し、或いは妬みといった様々な思いを乗せつつ、炎は躍る。   去年一緒に妬み組にまわった内藤は、ツンを誘って踊っているようだった。   ドクオも居るが、端の方で体操座りしている姿を見ると、ちょっと近寄りがかった。 「…あれ、長月?」   気が付くと長月はいつの間にか、姿を消していた…   長月の姿を探し、人通りの多い場所を進む。   フォークダンスといっても自由参加の競技だ、参加しない生徒は各自応援席に戻っているか、体育館裏で遊んでいるかのどちらかだった。しかし、どちらに寄ったところで、彼女の姿を見かけることは叶わなかった。途中見つけたクラスの連中の話によると、どうやら、校舎へ赴いたらしい。   俺はすぐにピンときて、夜空を見上げると彼女の元へと駆けて行った。   予想は的中し、その姿を認めた俺は彼女の脇に立つ、そこからは踊る人々と躍る炎を一望出来た。 「四葉……どうしてここが?」   やはり、屋上は風が強い。パタパタと長月の長いポニーテールを揺らす風に、髪を支えて対抗しつつ彼女は尋ねてきた。 「お前、こういうとこ好きだろ?人気のないとことかも…そう考えたらピンときたよ」   答えを聞いて、納得したのか頷き、こちらから目を逸らしてまた巨大な焚き火に魅入った。 「驚いた…四葉は本当に私達を…いや、アノ子を愛しているのだな」   俺は唐突に愛しているだの言われて面食らい、キョトンとして返す。 「なんでそうなるんだよ…」 「いやなに、よく見ているということだよ…だが、アナタは私達の向こう側に見とれている……悲しいことだ」   え? それはまるで… 「だが、今日みたいに特別な日くらい、大目に見てくれはしないだろうか……」   そういって、彼女は少し頭を腕に預けてきた 「頼む…」   とても、とても小さく儚い声が、ちょっと乱暴に扱ったら壊れそうで、俺はそっと長月の頭を撫でた。 「四葉」   しばらく、ジッと腕に体を預けていた彼女は、顔を上げ一歩離れてもう儚くない、はっきりとした笑みで俺を呼んだ。 そして、無理が分かる声でこう告げたのだ 「無理を言ってすまなかった…忘れてくれ」 「嫌だね」   悲痛な表情を浮かべ、謝る彼女はちっとも忘れて欲しくない顔をしてて、だから即答してやる。 「それは、お前の…いや、お前たちの本音じゃないのか?」 「それは…」 「だったら尚更ダメだ…お前に言われたら、特にな」   腕を軽く組んで乗せると、手すりに体重を預ける。   キャンプファイヤーは佳境に差し掛かり、炎は一層大きく周囲を照らし出していた。 「今の俺には、まだ荷が重いかもしれないけど…努力はしてみる……もう涙は流させないから」 「では四葉…私達を名前で呼んでくれないか?」   俺と同じように体重を手すりに預け、踊る級友たちを眺めながら、彼女は言葉を紡ぐ。 「それが、努力の証、第一歩だ…どうだ?」 「ああ、解ったよ…紅葉」 「っ! …っ!! ………」   ちょっと唐突で面を食らったのか、紅葉は言葉に詰まったが、まんざらでもない顔で微笑み返してくれた。   彼女は、はにかんだ笑みのままこちらを見ると、気恥ずかしいのか話題を変えてきた。 「なあ、いつだったか、四葉をチンピラから守った時のことを覚えているか?」   俺も紅葉も少し赤らんだ顔を紛らわすように軽く振り、ちょっと遠くを眺めながら、応対を繰り返した。 「あぁ、確か小3の時だったよな? お前が竹刀振り回して全滅したんだ」   よく思い出せば、コイツは俺が居なけりゃ素手でも勝てた気がするが… 「それはないぞ、四葉。あれで精一杯だったし、それに…四葉とのコンビネーションは最高だった」   彼女の声に気恥ずかしさを覚えて、俺は話を無理やり戻す。 「……それでさ、お前、お腹を盛大に鳴らしてさ、クレープ奢ってやったんだよな」 「受け取りを拒絶した覚えもあるな」   そうだったそうだった…だから、もっと欲望に忠実に生きろって教えたんだ。皐月ほどは困るけどw 「あのときの紅葉、格好良かったぜ?」 「そうか?」   また風が吹いて、ポニーテールの毛先を揺らす。ちょっと顔を上げて星を眺める姿は、かなり絵になっていた。 「なぁ、まだ私は踊って居ないわけだが…」   グランドでは既にキャンプファイヤーは消され、次の式辞が始まっているようだった。   紅葉は不満なのか悲しいのか、多分両方だろう複雑な表情で尋ねてくる。 「…なら、これでどうだ?」 「なんだそれは?オルゴールか?」   それは、古びた木目調の簡素なオルゴールだった。開けると美しく物悲しい旋律が辺りを包み込んだ。 「これだって、立派な音楽だろ?紅葉、踊ってくれるか?」 「はい」   手を取り合い。踊りを教わりながら、不器用なステップを踏む。   その姿は、滑稽だったろうが、俺にとって最高のキャンプファイヤーだった。   今グランドで行われている式辞をすっぽかし、俺達は笑い踊っていたが、やがてオルゴールのゼンマイが切れるまで踊り続けていた。   そして、屋上からの去り際、紅葉が一声漏らす。 「あっ流れ星」 「……願いごとしたか?」 「いや…これ以上は、贅沢というものだ」 「そっか……」   帰ろうと思っていたけど、少しの間夜空に魅入ってしまった。   ……この幸せが…続きますように…彼女の願いは、届いただろうか?   しっかりと聞こえていた優しい彼は、唯一1位を取れた二人三脚の相方の肩を叩くと、抜け出していたことを叱られるため、長い校長の式辞終わらぬグランドへと急いだ。 2話 長月 紅葉編 完
  9月某日   2話   長月 紅葉編──   長いようで短かった酒乱と波乱の夏休みも終わり、金髪を元の色に染め直した彼女と別れを告げ、今は九月。   夏休みが終わったからといって、茹だるような暑さは消えずに残り、まさに呼んで字の如く残暑となっていた。 「四葉よ、どうした?」   そして、今は運動会シーズン真っ盛り、つーか、運動会当日。内藤と何より今月は長月が居る俺達のクラスは紅組で、完全な圧勝ムードだった。 「いや、人格が代わると身体能力も変わるんだなぁって……」   俺は、ポニーテールに結んだ長髪と凛々しい光を宿した真っ直ぐな瞳を持つ少女に向けて言った。   運動音痴の皐月や水無月と比べるまでもなく、彼女、長月紅葉は抜群の運動神経の持ち主だ。 「それは、確かに不思議に思うかもしれんな…だが、私達にとっては当たり前のことなので、説明のしようがない…すまない」 「いや、謝られても仕方ないけどさ」   それだけ会話を交わすと、また二人は眼前で繰り広げられる徒競走に視線を戻した。   結局、体育祭は圧倒的な戦力差で紅組の勝利に終わった。   俺は出場種目の内、1つを除いた全てに置いて敢闘賞という不名誉な結果に終わったが、それなりに楽しむことが出来た。   何より、女子応援団長を務めた長月の学ラン姿を拝むことができたのは、眼福だった。   だが、事件は体育祭ではなくその直後に起きたのだった。   我が校の体育祭は、終了間際にキャンプファイヤーを囲んで、フォークダンスをするのが慣例だった。   校長の長い式辞が終わり、まだ仄かに茜色の残る空の下、キャンプファイヤーに炎が灯る。   カップル達は楽しげに、独り身はここぞと相手を探し、或いは妬みといった様々な思いを乗せつつ、炎は躍る。   去年一緒に妬み組にまわった内藤は、ツンを誘って踊っているようだった。   ドクオも居るが、端の方で体操座りしている姿を見ると、ちょっと近寄りがかった。 「…あれ、長月?」   気が付くと長月はいつの間にか、姿を消していた…   長月の姿を探し、人通りの多い場所を進む。   フォークダンスといっても自由参加の競技だ、参加しない生徒は各自応援席に戻っているか、体育館裏で遊んでいるかのどちらかだった。しかし、どちらに寄ったところで、彼女の姿を見かけることは叶わなかった。途中見つけたクラスの連中の話によると、どうやら、校舎へ赴いたらしい。   俺はすぐにピンときて、夜空を見上げると彼女の元へと駆けて行った。   予想は的中し、その姿を認めた俺は彼女の脇に立つ、そこからは踊る人々と躍る炎を一望出来た。 「四葉……どうしてここが?」   やはり、屋上は風が強い。パタパタと長月の長いポニーテールを揺らす風に、髪を支えて対抗しつつ彼女は尋ねてきた。 「お前、こういうとこ好きだろ?人気のないとことかも…そう考えたらピンときたよ」   答えを聞いて、納得したのか頷き、こちらから目を逸らしてまた巨大な焚き火に魅入った。 「驚いた…四葉は本当に私達を…いや、アノ子を愛しているのだな」   俺は唐突に愛しているだの言われて面食らい、キョトンとして返す。 「なんでそうなるんだよ…」 「いやなに、よく見ているということだよ…だが、アナタは私達の向こう側に見とれている……悲しいことだ」   え? それはまるで… 「だが、今日みたいに特別な日くらい、大目に見てくれはしないだろうか……」   そういって、彼女は少し頭を腕に預けてきた 「頼む…」   とても、とても小さく儚い声が、ちょっと乱暴に扱ったら壊れそうで、俺はそっと長月の頭を撫でた。 「四葉」   しばらく、ジッと腕に体を預けていた彼女は、顔を上げ一歩離れてもう儚くない、はっきりとした笑みで俺を呼んだ。 そして、無理が分かる声でこう告げたのだ 「無理を言ってすまなかった…忘れてくれ」 「嫌だね」   悲痛な表情を浮かべ、謝る彼女はちっとも忘れて欲しくない顔をしてて、だから即答してやる。 「それは、お前の…いや、お前たちの本音じゃないのか?」 「それは…」 「だったら尚更ダメだ…お前に言われたら、特にな」   腕を軽く組んで乗せると、手すりに体重を預ける。   キャンプファイヤーは佳境に差し掛かり、炎は一層大きく周囲を照らし出していた。 「今の俺には、まだ荷が重いかもしれないけど…努力はしてみる……もう涙は流させないから」 「では四葉…私達を名前で呼んでくれないか?」   俺と同じように体重を手すりに預け、踊る級友たちを眺めながら、彼女は言葉を紡ぐ。 「それが、努力の証、第一歩だ…どうだ?」 「ああ、解ったよ…紅葉」 「っ! …っ!! ………」   ちょっと唐突で面を食らったのか、紅葉は言葉に詰まったが、まんざらでもない顔で微笑み返してくれた。   彼女は、はにかんだ笑みのままこちらを見ると、気恥ずかしいのか話題を変えてきた。 「なあ、いつだったか、四葉をチンピラから守った時のことを覚えているか?」   俺も紅葉も少し赤らんだ顔を紛らわすように軽く振り、ちょっと遠くを眺めながら、応対を繰り返した。 「あぁ、確か小3の時だったよな? お前が竹刀振り回して全滅したんだ」   よく思い出せば、コイツは俺が居なけりゃ素手でも勝てた気がするが… 「それはないぞ、四葉。あれで精一杯だったし、それに…四葉とのコンビネーションは最高だった」   彼女の声に気恥ずかしさを覚えて、俺は話を無理やり戻す。 「……それでさ、お前、お腹を盛大に鳴らしてさ、クレープ奢ってやったんだよな」 「受け取りを拒絶した覚えもあるな」   そうだったそうだった…だから、もっと欲望に忠実に生きろって教えたんだ。皐月ほどは困るけどw 「あのときの紅葉、格好良かったぜ?」 「そうか?」   また風が吹いて、ポニーテールの毛先を揺らす。ちょっと顔を上げて星を眺める姿は、かなり絵になっていた。 「なぁ、まだ私は踊って居ないわけだが…」   グランドでは既にキャンプファイヤーは消され、次の式辞が始まっているようだった。   紅葉は不満なのか悲しいのか、多分両方だろう複雑な表情で尋ねてくる。 「…なら、これでどうだ?」 「なんだそれは?オルゴールか?」   それは、古びた木目調の簡素なオルゴールだった。開けると美しく物悲しい旋律が辺りを包み込んだ。 「これだって、立派な音楽だろ?紅葉、踊ってくれるか?」 「はい」   手を取り合い。踊りを教わりながら、不器用なステップを踏む。   その姿は、滑稽だったろうが、俺にとって最高のキャンプファイヤーだった。   今グランドで行われている式辞をすっぽかし、俺達は笑い踊っていたが、やがてオルゴールのゼンマイが切れるまで踊り続けていた。   そして、屋上からの去り際、紅葉が一声漏らす。 「あっ流れ星」 「……願いごとしたか?」 「いや…これ以上は、贅沢というものだ」 「そっか……」   帰ろうと思っていたけど、少しの間夜空に魅入ってしまった。   ……この幸せが…続きますように…彼女の願いは、届いただろうか?   しっかりと聞こえていた優しい彼は、唯一1位を取れた二人三脚の相方の肩を叩くと、抜け出していたことを叱られるため、長い校長の式辞終わらぬグランドへと急いだ。   2話   長月 紅葉編   完

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