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271 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:39:43.91 ID:PFwEHQpd0
                         ―― 十 ―― 



(主;゚ω゚)「いっっっ……でぇ!!」 

 しぃを助け出して安心したせいか、半ば眠りかけていた痛みが目覚めだした。というか、どうなってるんだこ 
れは。掌は皮膚の下の筋肉が露出し、指紋が焼失、おまけにガラスが突き刺さった痕が貫通している。手首は中 
の骨が見えるほどに細くなってる上に、目玉蜘蛛の刃の形の沿って、肉がこそげ落ちている。体中に咬み傷が残 
っているし、大量の目玉に押し潰されたせいで背骨が軋む。呼吸もうまくいかず、息苦しい。 

 こけたときにつくった頬の傷がひりひりするし、強く叩きつけた額からはまだ血が止まらない。そういえば、 
この教会に入る前にショボンにぼこぼこにされたんだっけ。その事に思い至ると、蹴られた箇所が熱を持って、 
自己主張を開始した。 

 よくもまあ、こんな状態でここまで駆けて来れたものだと思う。痛みで気絶してしまいそうだ。排出した血液 
が意識の混濁に拍車をかける。なんだか眠気まで近づいてきた。 

(* - )「……っゅんっ」 

 しぃが小さなくしゃみをした。ぬれた髪先から雫が零れつづけている。肌はまだ青白いし、唇は紫に変色して 
いる。寒さからか、体が小刻みにふるえている。水を被ったまま外気に晒されていたのだから当然かもしれない。 

 僕は穴だらけになった、服とは呼べないようなぼろを脱ぐ。寒そうにしているしぃのために、という気持ちの 
他に、体を隠してあげたいという心理が働いた。裸だから、だけではない。蛸足に吸い付かれていた箇所に残っ 
た、紺色の痣が痛々しかったのだ。肌に張り付いて中々剥がれないぼろを脱ぎ、しぃに着せる。自分が着ている 
ときは気づかなかったが、ぼろは元の色がわからないほどに赤く染まっていた。よくわからない感慨を覚えた。 

(*゚ -゚)「……びちょびちょ」 
(主^ω^)「いや、まったく、こりゃごめんだお」

273 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:41:13.58 ID:PFwEHQpd0

 着る者が変われば変るもの。ただの小汚い布にしか見えなかったぼろが、今は真紅のドレスに見える。僕の視 
線に気づいたのか、しぃはぼろの端をちょこんと手に取り、うやうやしく吊り上げた。首をちょびっと傾げれば、 
ほら、“貴族のお嬢様ポーズ”の完成。 

 愛嬌あるじゃないか、このやろう。 

(*゚ -゚)「……クルベは?」 

 小首を傾げたままの格好でしぃは言った。瞳だけ動かして、僕の全身を見回している。 

(主^ω^)「僕は、ほら」 

 「わたしにこの服を渡して、クルベは寒くないの?」という意味だと受け取り、僕は股間を指し示した。当然、 
剥きだしているなんて破廉恥な事はしていない。初日にショボンから貰ったぼろの腰蓑、そいつはまだ、僕の恥 
部を覆っている。まさかこんな風に役に立つとは思っても見なかった。 

(主^ω^)「さあ、行くお」 

 閉じようとするまぶたを物理的にこじ開け、足を踏み出し、痛みで脳を覚醒させながら立ち上がる。やること 
は、まだまだある。 

 目玉野郎、アナンシ。あいつは僕のDATを狙っている。例えこの世界で逃れたとしても、次の世界へと追い 
かけてくるだろう。この世界で決着をつけなければならない。けれど、今の僕ではアナンシには到底敵わない。 
渋沢と、あと、あの筋肉さんも、強いのだろうけど、ズタボロ状態だ。いつまで持つかわからない。はやく、こ 
の世界に飛来したDATを取得して、加勢しなければならない。 

 けれど、そのためには。DATを己の娘と言った男。僕は彼から奪わなければならない。DATと、想いを。 
迷っている暇はない。これは、僕がやらなければならないことだ。DATがある世界からやってきた、僕が背負 
わなければならない責任。その結果がどうなろうと。

275 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:42:42.52 ID:PFwEHQpd0

(主;゚ω゚)「ぉおッ!?」 

 爆発音と同時に、部屋の中がうねった。縦横無尽に暴れまわる強烈な振動が、三半規管を狂わせ立っていられ 
ない。音を立て、部屋のあちこちに亀裂が走る。緑色灯を保護していたガラスが砕け、破片となって降りかかっ 
てきた。呆然として動かないしぃを強引に組み伏せ、覆いかぶさる。ついで、自分の頭も抑える。 

 破砕音と、巨大なものが落下する音、それが地面に叩きつけられた音などが、抑えた頭の中に入り込んでくる。 
背中の上に瓦礫の欠片がぶつかったのがわかった。 

 致命傷になるような瓦礫が落ちてこない事を祈りながら、揺れが収まるのを待った。 

(主;^ω^)「収まった……かお?」 

 やがて、巨大なうねりは収まった。だが、細かい振動が消えることなく響きつづけている。ただの余波ではな 
い、第二波を感じさせる揺れだった。砕けずに残った明かりが明滅を繰り返していて、部屋の中が薄暗い。だが、 
今の部屋の状態が、先程までとはまるで違う様相を示している事は、容易にわかった。 

 この規模の揺れだ、当然この部屋だけではすまないだろう。今ここで、何かが起こっているのは間違いない。 
それも、とてつもなく危険な何かが。 

(主^ω^)「急ぐお!」 

 組み敷いていたしぃを、抱え気味に起こし上げる。とにかく、じっとしてはいられない。原因がなにかはわか 
らないが、他にやることがある。それに、ショボンも心配だ。今はまず、ショボンと合流する事を考えよう。 

 しぃの手を握り、僕らはもう一度駆けだした。

277 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:44:12.01 ID:PFwEHQpd0
 予想していた通り、通路も惨状に見舞われていた。ほとんどの明かりが消えてしまい、目を凝らさないと伸ば 
した指の先さえ見えないような暗闇となってしまっている。大小様々な瓦礫が道を塞ぎ、一々蹴り崩さなければ 
先へと進めない。更にわるいことに、蹴り崩した振動によって新しい瓦礫が道を塞ぐという悪循環にすら陥った。 
粉塵が肺の中に入り込み、ただでさえ困難な呼吸を、より苦しいものにさせられる。そして、 

(主#゚ω゚)「ぬうぅぅぅあああぁぁぁぁぁぁああああああ!!」 

 天井がひしゃげたせいか、自動で開いていた扉がまったく反応しなくなってしまっていた。手動で開けようと 
試みるが、どんな材質でできているのか、異常な重さで遅々として開かない。僕が足止めをくらっている間も、 
地下全体に轟く揺れは収まらない。新たな瓦礫が音を立てて崩れ落ちる。 

(* - )「……んんんっ!」 
(主#゚ω゚)「ひぃぃぃらぁぁぁぁあああっっ!! けええええええええええええええええええっっっ!!」 

 力を合わせ、扉をこじ開けた。というより、破壊した。扉は壁に吸い込まれることなく、中腹からぐしゃぐし 
ゃに折れ曲がってしまった。ぎりぎりで通れなさそうな隙間しかできなかったが、強引に体を捻じ込み、押し広 
げるつもりで隙間を抜けた。 

(主;゚ω゚)「!? またッ!」 
(*゚ -゚)「……ゆれが……」 

 振動が、また強まった。最初の激震ほどではないにしろ、真っ直ぐ立つのが難しいレベルの揺れだ。それに、 
これから先、最初の振動以上の破壊が控えている事は容易に想像できる。急がなければならない。 

(主;゚ω゚)「! ぷあっ!?」 

 後方の通路から、巨大な音と振動が響いた。粉塵が視界をまやかし、喉を痛めつける。粉塵が晴れた後に現れ 
たのは、天井から押し潰れた、通路だったものの姿。僕たちがこじ開けた扉も巻き込まれている。もしかしたら、 
あの扉が支柱になっていたのかもしれない。できた隙間がもう少し狭かったら、もっと拡げようと粘っていたら。 
考えると、体が強張った。 

280 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:45:41.56 ID:PFwEHQpd0

 (主 ゚ω゚)「ショボン!」 

 いくつかの扉を開け、何度も心臓にわるいを思いをしながらも駆けつづけ、ショボンと別れた場所に辿り付い 
た。ショボンは、ひとり佇んでいた。僕が来るのを待っていたようだった。 

 ショボンの手の中と、僕のDATが共鳴する。ショボンが持つDAT。血にまみれた、欠片の形。 

(主 ω )「……やったのかお……?」 
(´・ω・`)「ああ、殺った」 
(主#゚ω゚)「っっっ!!」 

 知らぬ間に、殴りつけていた。拳にもならない中途半端な形で殴りったために、接触面から骨が砕けるような 
音が響いた。思わず呻き声が漏れるが、そのまま最後まで殴りぬいた。ショボンは黙ったまま動かない。 

(主#゚ω゚)「それはぁっ! それは僕がぁっっ!!」 

 自分でもわからない程に、僕は激昂していた。理由はいろいろ考えられた。どれも違う気がしたし、どれもが 
合わさっているような気もした。 

(´・ω・`)「僕には彼を殺す直接の理由があった。きみにはなかった。だからこれは、これでいいんだよ」 
(主;ω;)「僕がぁ……。僕がやらなきゃぁ……」 

 涙が零れた。精神の昂まりをコントロールすることができない。くやしさからの涙、殺してしまったことへの 
涙、そして、なによりも、己の責任を果せなかったことへの涙が、留まることなく流れつづけた。 

(主;ω;)「これはぁ……、僕の責任だったんだおぉぉ……」 

 間接的にとはいえ、DATを持ち込んでしまった世界の人間が取らなければならない責任だったのだ。これで 
は、これでは、自分に対して、ショボンに対して、片目の男に対して示しがつかない。

283 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:47:10.71 ID:PFwEHQpd0

(´・ω・`)「責任? 責任だと?」 

 殴られたままの格好で、淡々とショボンは言った。垂れ下がった前髪が表情を隠している。しかし、剥き出さ 
れた拳が、何よりも多弁に表情を固めていた。 

(#´・ω・`)「……ぅぅぅぅううううううざけんッッなぁぁぁあああああっっっ!!」 

 ショボンの拳が頬を突き破り、脳天を揺り動かした。衝撃のままに吹き飛ばされ、したたかに背中を打ち付け 
る。壁の表面が割れ、天井から瓦礫が崩れ落ちてきた。それなりの大きさのものが、僕の頭に直撃した。 

(#´・ω・`)「何が責任だ! 背負わなくていいもん背負ってマゾヒズムに浸ってるだけじゃねぇか!!」 

 罵声が頭を殴る。反論しようと声を上げたが、出てきたのは風が消えるような擦れた音だけだった。 

(#´・ω・`)「てめえの責任は世界を取り戻すことだろうが! てめえはかえれるんだろ、取り戻せるんだろ!? 
       だったらぁっ! かえるべき世界を取りかえすことがてめえの責務だ!!」 

 わかっていた。ショボンが言う事だって、考えていないじゃなかった。けれど、それでも、心はそれを許して 
くれない。僕は男を殺せないだろうという事も、わかっていた。僕には、とてもじゃないけど、僕“らしくない” 
ことができるとは思わなかった。だけれど、心は許さない。きっと、想いは理屈じゃないのだろう。 

(´・ω・`)「……ほらっ」 

 ショボンが手を差し出してきた。目元から流れ続ける涙を拭い、胸のわだかまりを全部吐き出すつもりで、力 
の限りショボンの手を握った。 

 握った手が、とても痛かった。 

285 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:48:43.36 ID:PFwEHQpd0

 紆余曲折あったが、とにかくこの世界のDATは手に入れた。残った問題はあとひとつ。最後の懸念、アナン 
シの下へと向かった。未だ戦っているであろうふたりを助けるために。だが、 

(主 ゚ω゚)「……なんだこれ……」 

 通路の途中から、一切のものが消えていた。壁がないとか、床がないとか、そんなものではない。本当に何も 
ない。水平線よりも遠く、光の届かぬ暗闇がつづいている。足を踏み外したら、そのまま奈落へと直結しそうだ。 
何をしたらこんなことになるのだろうか。 

(*゚ -゚)「……戦争でも……、おこったみたい……」 

 しぃは変らぬ顔でそう言い、ショボンは苦々しげな顔で無言だった。アナンシから流れていた闇の波動は感じ 
られない。渋沢と筋肉さんが倒したのだろうか。では、この惨状は二人の手で行われたのか。わけがわからない。 
目の前の光景は、僕の理解の範疇を超えていた。 

 ひとつだけわかるのは、さんざ「ボクの敵」と言われていたのに、結局、まともに戦う事はなさそうだという 
事実だけだった。なんというか、これはこれで見せ場を横取りされた気分だ。 

(主;゚ω゚)「ッッ!?」 

 足が砕けそうな振動が、再び圧し掛かってきた。意思とは関係なしに腰が抜ける。前も後ろもわからない。浮 
遊する圧力は僕の行動を圧倒的に制限し、なすすべなく座り込むことしかできない。 

 地下全体を揺らす轟音に紛れ、近くから、硬いものが細かくひび割れる音が聞こえた。つぶてのような細かな 
破片が、僕の頭に大量に降りかかってきた。見上げると、天井に蜘蛛の巣のような亀裂が走っており、今にも巨 
大な岩盤が落ちてきそうに思われた。 

 手をつき、足を蹴りだして逃げようとするが、振動のせいで力が入らない。おまけに、焦るものだから尚更う 
まくいかない。動かない、動けない。天井が音を立てて、降ってきた。僕は、目を閉じた。 

286 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:50:12.72 ID:PFwEHQpd0

 頭皮を後ろから引っ張られた。僕の体は少しだけ浮き、直後、したたかに腰を打ちつけた。目を開く。僕が座 
っていた床が、根こそぎ奪われていた。天井の落下に巻き込まれて、奈落の底へと心中したようだ。けれど、僕 
の内に助かった安堵感や、後少しでも遅れていたらという恐怖感が沸くことはなかった。というか、 

(主;゚ω゚)「いたいいたいいたいいたい!!」 

 耳をつかまれたうさぎのように、僕の髪はショボンにつかまれたままだった。このままでは禿げてしまうと本 
格的に心配し始めたころ、ようやくショボンは手を放した。目の前を通り過ぎていく幾本のもの髪の毛から、哀 
愁という言葉の意味を知った。 

(´・ω・`)「広がりすぎた空間が、地上の自重に耐え切れなくなっているらしい。崩れるのは時間の問題だろう」 

 他人事のように、ショボンは言った。まるでどうでもいいような口振りだった。 

(主;゚ω゚)「そんな! ここまで来て!」 
(´・ω・`)「何を言っている。きみにはDATがあるじゃないか」 

 そう言って僕の手を握り、男から奪ったDATを押し付けた。この世界に飛来した、僕がここへ来る切欠とな 
ったDAT。ひとりの男の人生を狂わせてしまった、血にまみれたDAT。 

(´・ω・`)「目的は達成したんだ、きみは次の世界に行けばいい」 
(主;゚ω゚)「でも、それじゃあ!」 

 僕の声を掻き消すように、振動と轟音が一段と強くなった。頭が左右に振られ、そのまま後ろに倒れこみそう 
になる。だが、繋いだ手が引かれ、僕の体はショボンの方へと寄せられた。額同士がぶつかり合った。 

(´・ω・`)「そうだな、ここでお別れだ。正直、思い残す事がないじゃない。だけど、結局こうなることが、僕 
      としぃの『運命』だったのかもしれない。“悪霊”は“悪霊”“らしく”、“残された墓所”で眠 
      るのが相応しいということなのだろう」 

288 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:51:42.75 ID:PFwEHQpd0

 掌の痛みと、額の熱さが離れていった。ショボンはしぃの肩を抱き、壁に寄りかかっている。ショボンの顔に 
悲愴や諦めの色はない。あくまでも超然とした、いつも通りの表情。これから起こることなどまるで感じさせな 
い、あまりにも人間らしくない表情。 

 しぃはどうなのだろう。ショボンの腕の中で、小さく縮こまっている。キャップが目元を覆い、表情は窺えな 
い。体が揺れているのは振動のせいなのだろうか。それとも。 

 僕たちが通ってきた通路が、音を立てて瓦解した。もう、行く事も引く事もできない。僕が僕の世界を取り戻 
すには、ショボンの言うとおり、今ここで次の世界へ行かなければならない。取り戻したい世界、記憶の中の友 
人たち、偉大な父の背中を思い浮かべ、ふたつのDATを重ね合わせる。 

(´・ω・`)「どうしたクルベ。速くしないと間に合わなくなるぞ」 
(主^ω^)「……ショボン、ひとりで逃げるなんて、僕にはできないお」 

 DATを重ね合わせたまま、僕は言った。僕に動こうとする意志がないのを感じ取ったのか、咎めるような口 
調で、ショボンは口を開いた。 

(´・ω・`)「まだ言わせるつもりか、きみは行くんだ。己の責務を果せ」 
(主^ω^)「それとこれとは別の問題なんだお。僕はかえる。けれど、それは何をしてもいいってことじゃない 
      お。僕がここに来たのはDATのためだけじゃないんだお。しぃも、ショボンも無事じゃなきゃ意 
      味がない。三人一緒に帰らなきゃ意味がない。僕は――」 

 この世界には、長い間滞在していた。多くのことを学んで、沢山の事を考えさせられた。パンや干し肉は固く 
てまずかった。残されたひまわりから戦争を知った。奪う側の心の痛みを教えられた。残された絆を想うのが、 
僕だけじゃないことがわかった。この世界や、ショボン、しぃとの間に生まれた絆。例え、僕の独りよがりな想 
いでも、自分から断ち切ることなんてできない。今までも、ここでも、これからの世界でも手に入れるであろう 
もの。靄にかかった、不確かなものだけど、僕は、それを手放すわけにはいかない。僕は――。 

(主^ω^)「僕“らしく”かえらなきゃ意味がないんだお!」 

289 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:53:13.44 ID:PFwEHQpd0

 天井の亀裂が広がる。今にも崩れ落ちてしまいそうだ。残された時間は、あまりにも少ない。重ねたDATを 
乗せた手を、ふたりの前に伸ばす。 

(主^ω^)「手を重ねるんだお!」 

 動こうとしないふたりの手をつかんで、強引に僕の掌に合わせる。ふたつのDATが薄く発光する。みんなで 
帰るには、この方法しかない。 

(主^ω^)「ふたつのDATに想いを込めて、ぼくたちは三人で帰らなきゃダメなんだお!」 
(´・ω・`)「三人に対してふたつのDAT。エネルギィは足りるのか?」 
(主^ω^)「……わからない」 
(´・ω・`)「それじゃあダメだ、しぃだけ連れて行ってくれ。僕はここに残る」 

 ショボンが手を引く。 

 だが、 

(*゚ -゚)「……いっしょに……!」 
(´・ω・`)「しぃ……」 

 しぃがショボンの腕をつかんだ。強い口調で、一緒にかえろうと。 

(主^ω^)「さっきの言葉、そのまま返してやるお。ショボン、お前はマゾヒズムに浸ってるだけだお。思い残 
      す事があるくせに、僕やしぃのために道を譲ろうなんて、そんなのただ破滅に酔ってるだけだお! 
      『運命』がなんだ! そんなもん糞喰らえだ! 自分“らしさ”を求めるってのは、そこまでと区 
      切る事じゃない。もがいて、あがいて、生きづらい人生の中を苦しみながら答えを探しつづけるこ 
      と、そのものなんだお!! いいかショボン! ショボンが手を重ねるまで、僕はDATに想うこ 
      とをしないお!」 

291 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:54:43.44 ID:PFwEHQpd0
 ショボンは僕の目を見る。しぃとも目を合わせる。そして、無言の内に、手を重ね合わせた。 

(主^ω^)「DATは想いによって反応する物質、意識に不純物が紛れてたら絶対に失敗するお。かえりたいっ 
      て意識を、想いを、ひとつに合わせなきゃダメだお!」 
(*゚ -゚)「うん」 
(´・ω・`)「わかっている」 

 DATの発光が強まっていく。それに比例するように、周りの振動も力を上げる。足元の床に亀裂が走ったの 
が、感触でわかる。周りの騒音が、想うことを阻害しようとする。 

(主^ω^)「ふたりとも、目をつむって! 一緒に……」 

 そう言って、ふたりを見る。 

(*゚ -゚)「いっしょに……」 

 しぃが目をつむる。 

(´・ω・`)「一緒に……」 

 ショボンが目をつむる。 

 ふたりが目をつむったのを確認して、僕もまぶたを閉じる。 

 とじたまぶたの裏。DATの光と、DATに照らされた僕らだけの世界。想うことは同じこと。 

 想いのすべてをDATへ。想いのすべてをかえることへ。 

 重ねた手を強く握りしめる。ふたり分多い、人のあたたかみ。 

295 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:56:13.35 ID:PFwEHQpd0



 思い出すのは、父のこと。 

 力強く、誰にでも誇れる広い背中。 

 最後のとき、託された想い。 

 投げ出された、知らない世界。 

 考えるより先に、体が動いた。 

 けれど。 

 自分が、見えなくなった。 

 自分を、見つめなおそう。 

 取り戻そう、本当の想いを。 

 父のためにも。 

 自分のためにも。 


 そのために―――― 



299 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:57:42.85 ID:PFwEHQpd0



 思い出すのは、父のこと。 

 弱々しく、嫉妬と猜疑に満ちた哀れな瞳。 

 最後のとき、託された想い。 

 投げ出された、秩序の世界。 

 考えだした、偽の答え。 

 けれど。 

 そこに、求めるものはなかった。 

 人形の自分とは、決別しよう。 

 世界を、運命から解き放とう。 

 父のためでなく。 

 自分のために。 


 そのために―――― 



302 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:59:16.83 ID:PFwEHQpd0



 思い出すのは、父のこと。 

 やさしく、強く抱いてくれた厚い腕。 

 最後のとき、託された想い。 

 投げ出された、獣の世界。 

 考える内に、動けなくなってしまった。 

 けれど。 

 想いは、理屈じゃない。 

 絆を保ち、約束を守ろう。 

 地を、人で満たそう。 

 父のために。 

 自分を捨てても。 


 そのために―――― 



306 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 23:00:46.80 ID:PFwEHQpd0














                         今一度、我が家へ 














                         ―― 了 ――