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119 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:05:25.05 ID:PFwEHQpd0
『お父様、今、よろしいでしょうか』 

『……はい、なんですか?』 

『私と似た少女を見つけたのですが、彼女と私には何か関係性があるのでしょうか』 

『ん、少女? ……ああ、あれですか。あれにはあなたの母と同じ遺伝子が組み込まれてます』 

『では、彼女は――』 

『ですが、出来損ないですね。造られたにしてはあまりに凡庸すぎる。あなたとは比べるべくもない』 

『……』 

『それに、あれは所詮メス。慰み物にしかなりませんよ』 

『……そうですか』 

『安心してください。あなたは誰よりも優秀だ。あんな物の存在を心配することはない』 

『はい』 

『あなたには誰にもできなかったことを、私の夢を継いでもらわなければならないのです』 

『はい』 

『アカシャ。そして、私たちをも取り巻く運命の輪からの逸脱。それは、他の誰でもない、あなたが――』 

『……はい』 

122 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:06:55.03 ID:PFwEHQpd0
                         ―― 五 ―― 



 目覚めるとショボンの姿が見当たらなかった。天井から差し込む太陽の恵み。いつもの朝より陽が高い気がす 
る。そういえばと、昨日の夜は中々寝付けなかった事を思い出す。寝付けなかった事を思い出すと、その理由も 
思い出し、意識すると同時に異臭の存在に再び気づかされる。口の中に、何とも言えないあの味がよみがえる。 

 目玉蜘蛛の屍骸、その山。腐った血液の臭いの元。片付けようとしたら「明日でいいよ」とショボンは言った。 
意外と横着なやつなのかもしれない。けれど、いきなりの事態に身体的にも精神的に疲れていたし、進んでやり 
たくなるような仕事ではなかったので、僕も放っておいた。僕も怠け者なのだろう、放って寝ることに決めた。 
結局、吐き気を抑えるのに必死ですぐに眠るような事はなかったが。ショボンもしぃもすぐに寝ていたようだが。 

 どうやっても視界に入る屍骸の山を、それでも瞳に映らないように努める。しぃは屍骸の山などないかのよう 
に、いつもどおり窓の横で体育座りをしていた。僕よりはやく起きていたらしい。 

(主^ω^)「ショボン知らないかお?」 

 しぃはしゃべらずに、ゆびを指して答えた。指した先は昨日僕が突き刺したテーブル。割れ目にはまだぬめっ 
た液体が付着している。近づきたくはなかったが、そういうわけにもいかない。見ると、僕が作った傷、元から 
ついていた木目模様以外に、新しくできた削り跡がある。それは文字のように見えた。 

『しぃ たのんだ て だしたら ころす ぶちころす』 

 誰が彫ったかは一目瞭然だった。どんなつもりでこの文字を彫ったのだろうか。これでは、もう二度と帰って 
こないようにすら読み取れる。それは、非常に困ることだ。現に今、僕はショボンのことを強く求めている。 

(主^ω^)「……メシ寄こせお」 

 今日は朝飯抜きだった。 

123 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:08:24.60 ID:PFwEHQpd0



(主^ω^)「今すぐ探しに行ったほうがいいお!」 

 僕は叫ぶように言った。気が立っていたのだと思う。襲われたからかもしれないし、夜の闇でも隠せない大量 
の屍骸やこびりつくような悪臭のせいかもしれなかった。原因は他にも考えられるが、挙げていけばキリがない。 
とにかく、一刻もはやくDATを探し出しに行きたかった。 

(´・ω・`)「この暗闇の中でかい?」 

 ショボンは指をくるくると回している。目玉蜘蛛が現れる前にしていた複雑な表情はすでにない。僕のことを 
見ようともせず、指だけを見つめている。 

(主^ω^)「暗くても問題ないお。見ればわかるんだから、暗さは関係ないお」 
(´・ω・`)「ダメだ」 
(主#^ω^)「なんで!?」 

 つかみかかりそうになる手を、必死になって抑えた。焦燥が僕の中を埋めている。 

(´・ω・`)「僕が六日、きみが三日かけて見つからなかったんだ。夜、少し長く探したくらいで見つかるとは思 
      えない」 
(主#^ω^)「今まで見つからなかったってのは、次は見つかるってフラグになるんだお! 時間をかければその 
       分はやく見つかるお!」 
(´・ω・`)「そうだね、人間が無限のスタミナと集中力を持つ生物ならそうなるだろうね。残念ながら、人は疲 
      れるし見落とすものだ」 
(主#^ω^)「それでも!」 

 僕の声は完全な叫び声になっていた。見つかる見つからないではなく、ただただ動きたかった。じっとして、 
我慢する事なんてできそうになかった。 

124 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:09:53.61 ID:PFwEHQpd0

(´・ω・`)「しぃはどうする。しぃにも探すことを強要するのかい?」 

 言葉に詰まる。視野の外側だった。しぃは自分のことが話題になっているというのに、まるで気にした様子は 
ない。しぃにもショボンにも目を合わさないようにしながら、考えてもいなかった事を口にする。 

(主;^ω^)「しぃにはここで待ってもら――」 
(´・ω・`)「さっきの目玉が襲ってきたら?」 

 また、言葉に詰まる。追い詰められていく。 

(主;^ω^)「それじゃあ……やっぱり一緒に――」 
(´・ω・`)「この暗闇の下、きみひとりでしぃを守りぬけるかい?」 
(主;^ω^)「……じゃ、じゃあ三人で――」 
(´・ω・`)「だったら、陽が登ってから二手に分かれて探したほうが効率がいい」 

 ぐぅの音もでない。それでも、何かを口にしようとするが、頭の中は焦りの言葉しか浮かんでこなかった。 

(´・ω・`)「クルベ、きみが焦っている理由が、僕たちを巻き込んだ事に責任を感じているからだっていうのは 
      わかっている。そういう風に考えることのできるきみを、僕は“いいやつ”だと思う。けどね、僕 
      は巻き込まれたなんて考えていないよ。自分から首を突っ込んだんだから。そういう心理は、はっ 
      きり言って鬱陶しい」 

 回転させる指が薬指に変る。 

(´・ω・`)「きみにとってのDATと僕にとってのDAT、意味するところは違う。けれど、目的は同じだ。い 
      まだにきみひとりの問題だと思っているなら、改めてくれ。DATを見つけたいと本当に思ってい 
      るなら、今日は休んで、明日に備えて体力を蓄えておいてくれ」 

 僕は小さく頷いた。ショボンの指は、止まったまま動かなかった。 

126 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:11:23.49 ID:PFwEHQpd0



 ゆるやかな風が吹き、密着した樹々がゆれた。互いに触れあい、葉が擦れる音を立てる。空から差し込む白い 
光が樹々の隙間を縫い、世界のへそのように佇んでいるまるい池の中へと吸い込まれていく。池の表面は、陽の 
白、空の青、樹々の緑で描かれている。また、風が吹く。池の表面にさざなみが立つ。三つの色が混ざり合い、 
やさしい調和の色が産み出された。 

 クルベと渋沢が会談した場所。その中心にある池を、ショボンは覗き込んでいた。池の表面にショボンの顔が 
映しだされる。嫌悪感を剥き出しにした表情、さいなむ瞳は池に映った自分を越え、見えない何かを、それでも 
しっかりと睨んでいる。 

 ショボンは拳を振り上げ、自分の顔へと振り下ろす。突然振るわれた暴力に池は調和を崩し、濁った色を作り 
出す。けれど、池に映ったショボンの顔はゆらめいただけだった。池の中へと、拳を叩きつける。何度も何度も 
叩きつける。片手だけで行っていたその行為は、両手を使い、更に苛烈なものになっていく。はねた水が目の中 
へと入ろうと、ショボンは止まらなかった。 

「騒がしいねえ。何かいやな事でもあったか? 少年」 

 ショボンの後方から“くっくっ”と押し殺した笑いが聞こえてきた。ショボンは片手を池の中に突っ込んだま 
まの格好で、動きを止めていた。風が吹き、池の中に再び調和が戻る。掌を“お玉”のようにして水を汲み取り、 
一度だけ顔を拭うと、ショボンは男の方に向き直った。 

(´・ω・`)「いやな事か……。考えたこともなかったよ、『ライトニング』」 
( ,_ノ` )「知られているとは光栄の極み……、と言いたい所だが、その通り名では余りにも遅すぎるんでな、 
      渋沢で記憶してもらえるとありがたい」 
(´・ω・`)「僕も“少年”ではない。あなたのように名乗るなんて真似はしないけどね」 

 ショボンの返しが気に入ったのか、渋沢のわらい声が大きくなる。 

129 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:12:52.45 ID:PFwEHQpd0
(´・ω・`)「『ライトニング』、すべてを斬り刻む雷光。ラウンジの生まれ。生まれつき身体能力が突出してい 
      るラウンジ住人の中でさえ異質な存在。たったひとりで十万の兵を全滅させた、一夜にして三つの 
      都市を地図上から消し去ったなど、逸話が絶えない。つわもの狩りの『ビースト』と並び称される 
      人物。そして、その得物は……」 

 渋沢の手元を見る。 

(´・ω・`)「自前のナイフ、ただひとつ」 

 渋沢が押し殺していたものが、決壊した。張り上げたわらいが空気中を伝播し、樹々をゆらし、池の表面をさ 
ざめかせる。呼吸困難になるのではないかと思うほど、わらいつづけている。 

( ,_ノ` )「いや、楽しい、楽しいなっ、おい! 持って回した言い方! 最高だ、少年! 『ビースト』と並 
      び称されるか! いや、いや、ほん、っとにぃ……!」 

 唐突にわらうことを止め、元のわらっているのか憮然としているのかよくわからない表情へ戻る。 

( ,_ノ` )「俺の方が強いに決まってるだろうが」 

 突き出したナイフをショボンに向けながら言う。自身に満ちた言い方だった。 

(´・ω・`)「あなたに、いや、“あなたたち”に僕は斬れない、殺せないよ」 
( ,_ノ` )「俺の仕事はあくまできみらの捕獲なんだが……、“くっくっ”、真正面からそう言われると、試して 
      みたくなるな……」 
(´・ω・`)「やってみなよ」 
( ,_ノ` )「いいだろう、では……! いっくぜぇッ!!」 

 風の斬り裂かれる音が、世界中に轟き渡った。 


130 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:14:21.65 ID:PFwEHQpd0

(主;^ω^)「おおう!?」 

 耳の中を質量を持った何かが貫いていった。耳の奥で硬質な音が残響する。掻き出そうと指を突っ込むが、当 
然取れるわけがなく、非常に歯痒い。見ると、しぃも違和感を感じているのか、耳の中に水が入ってしまったと 
きのように、頭を傾けてとんとんと叩いている。 

 朝飯を抜かれても、前日の夜にあんなことがあっても、やる事は同じ。足を使って、DATを探す。歩き慣れ 
た瓦礫の街。愛着すら沸いてきた、僕の街。 

 けれど、今の僕に、そんな余裕はない。焦ってもしょうがない、平静通り探さなければダメだと自分に言い聞か 
せる。だけど、心はささくれ立ち、足は頭に反して歩を速める。自分の心を自分でコントロールできない。それが 
また、苛立ちの原因になってしまう。 

(*゚ -゚)「……まって」 

 かぼそい声が聞こえる。知らぬ間に、しぃとの距離が随分開いていたようだ。ひとりで勝手に思いつめて、周 
りに迷惑を掛けてしまう。何て格好悪くて、惨めなやつなんだろう。申し訳ないと思う気持ちと、情けないと思 
う気持ちが、胸の内に広がっていく。ふと、父の事を思い出した。父ならこんなときに冷静でいられるのだろう 
か。DATを奪われたとき、何を思っていたのだろう。今の僕を見たら、どう、思うのだろう。 

(主^ω^)「……ちょっと、休憩するかお」 

 腰かけるのに丁度いい瓦礫を見つけた。溜まった埃を払い、座る。大きく一度深呼吸をする。とにかく、少し 
落ち着いて、雑念を払いたかった。このまま探していても、見逃してしまいそうな気がする。それに、それ以上 
に、こんな気持ちのままでいるのが苦しかった。 

 しぃが、僕がしたように埃を払い、瓦礫の上で体育座りをする。軽い重みが僕の肩にかかる。しぃは背中を僕 
の肩に密着させて、寄りかかっていた。しぃの肩が上がり、頭が少しだけ仰け反る。仰け反った頭が僕の髪先に 
触れた。空気の漏れる軽い音共に、頭と肩が元の位置に戻る。僕の真似をして、深呼吸したのかもしれない。 

132 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:15:51.92 ID:PFwEHQpd0

(*゚ -゚)「……クルベは、こわくないの……?」 

 消え入りそうなのに明瞭な、しぃの不思議な声。背中の振動から、直接伝わってくる。 

(主^ω^)「怖い?」 
(*゚ -゚)「……うん」 

 しぃの鼓動が、密着した体から伝わる。僕の心臓の拍動も伝わっているのだろうか。意識しだすと途端に動き 
がはやくなる。それは気のせいかもしれない。しかし、少なくとも僕には、はやくなっているように感じられた。 

(主^ω^)「目玉蜘蛛のことかお?」 

 しぃが頭を横に振るのが、振動で伝わる。 

(*゚ -゚)「……しっぱいするのが……」 

 失敗という言葉が胸の内に浸透していく。僕にとっての失敗とは、なんだろう。DATを奪われること、敵を 
倒せないこと、いや、違う。僕の失敗。それは、かえる場所を取り戻せないことだ。父との約束を果たせないこ 
とだ。僕の考えをよそに、しぃはつづける。 

(*゚ -゚)「……しっぱいして、絆がとぎれるのが……、……こわく、ないの……?」 

 心の中を見透かされた気分だった。絆が途切れる。失敗すれば、二度と会うことはできない。言い訳もできな 
い。失敗するということは、約束で繋がった最後の絆を、自分から断ち切る行為なのかもしれない。考えれば考 
えるほどに、それは、おそろしいことに思えた。こわいことのような気がした。 

(*゚ -゚)「……わたしは……、……こわい……」 

 背を丸め、しぃは言った。いつもより小さな声に聞こえたのは、背を丸めた分、体が離れたからだろうか。 

133 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:17:22.11 ID:PFwEHQpd0

 しぃは、僕と同じなんだ。なぜだか、そんなふうに思った。事情はわからないけど、しぃもまた、大切な人と 
残された絆で繋がっている。失敗してしまえばたちまち切れてしまうような、とても細く、脆弱な絆。けれど、 
細くとも、弱くとも、それは、大切な人と繋がった最後の糸。 

 僕は考える前に行動していた。しぃは考えてしまったのだろう。そして、失敗を恐れた。動かなければ、約束 
が果たされることはなくても、絆は途切れない。感情を表に出さないのも、ともすれば、約束を果すために動き 
たくなる衝動を、殻の中に押し込むためなのかもしれない。 

 はじめて会ったときはまるでわからなかったしぃの気持ちが、今ではまるで、自分のことのようによくわかっ 
た。寄りかかられた重みから、しぃの気持ちが伝わってきたみたいだった。僕も、はじめに考える事をしていた 
ら、こんなふうに心を閉ざしていたかもしれない。小さな背中が、とてもいとおしいものに見えた。 

(*゚ -゚)「……クルベは、どうして探すの……?」 
(主^ω^)「どうしてって……」 
(*゚ -゚)「……だって、こわいのに、さがしてる……」 

 なぜ探すのか。決まっている。父との約束、かえるべき世界、友だち。取り戻さなければならないものがある。 
やらなければならないことがある。怖くても、立ち止まるわけにはいかない。その旨を、しぃに伝えた。 

(*゚ -゚)「それは、ちがう」 

 しぃには珍しい、はっきりとした口調で否定された。 

(*゚ -゚)「それは、クルベのことばじゃない……。どこかで聞いて、だれかが言った、つくられたきれいなことば 
     ……。わたしが聞きたいのは、クルベのこえ……」 

 しぃは言った。僕の言葉は、僕のものではないと。それは違うと思う。あれは、僕の本心だ。けれど、僕がD 
ATを探す理由は、それだけではない気もした。これでは、頼まれたから、言われたから探しているような気が 
する。もっと、切実な何かが、根幹がある気がしてならない。言葉にならない、なにかが。

135 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:18:51.72 ID:PFwEHQpd0

(主^ω^)「多分、多分だけど……」 

 多分、なんだろう。自分の底の最も大切なものが、靄にかかったみたいに言葉にならない。こころの中を模索 
していると、何かよくわからないものが網に引っかかる。勢いに任せて、僕は、それを口にした。 


(主^ω^)「想いは、理屈じゃないんだお」 


 まず、自分でおどろいた。言葉の意味がわからない。なのに、今までのなによりも、自分の心情をうまく表せ 
たと思える。おかしかった。おかしくて、声をだしてわらった。あれこれ悩んでいた事が、こんな簡単な言葉で 
片付いたのが、おかしくてたまらなかった。しぃは動かない。呆れられているのかもしれないが、不思議と気に 
ならなかった。くぐもっていた視界が、開けたみたいだった。 

(*゚ -゚)「……たんじゅん」 

 いつもの調子でしぃは言った。しぃの言葉があまりにも的を射ていたので、わらいを堪える事ができなかった。 

(主^ω^)「アハハ、違いないお」 

 わらっていると、肩にかかった重みが増した。あたたかみが伝播してくる。 

(*゚ -゚)「……でも……、……きらいじゃない……」 

 時間はゆるやかにながれた。 

 やさしくしたい、気持ちになった。 

 それは、長くはつづかなかった。 

136 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:20:20.42 ID:PFwEHQpd0

 瓦礫がゆれ、擦れ合う音に紛れ、キシキシと蟲が犇きあって蠢く音が聞こえてくる。どこから湧いてきたのか、 
瓦礫の隙間、瓦解した家の中、地面の割れ目から、大量の目玉蜘蛛が這い出てきた。目視する限りでは昨日より 
少ないが、どこにどれだけ潜んでいるかわからない。油断はできなかった。 

(主^ω^)「……しぃ、離れるなお」 
(*゚ -゚)「……ん」 

 しぃが僕の背に身を寄せる。ショボンに頼まれたからではなく、僕が、僕自身の想いが、しぃを守りたいと訴 
えた。同じ悩みを持った仲間を、守りたいと想った。 

 DATに想いを込める。しぃを守りきるには、ナイフだけでは心許ない。頭の中で、昨日の想いと、それとは 
別の想いをイメージする。細長い円筒、内側をぎざぎざが渦巻いて、暗闇の中に消えていく。鋏の柄のような所 
に指をかけ、取っ手を引くと高速で何かが射出される。斬るものと貫くものを、複合させ、想う。 

 ショボンが持っていたものに酷似した武器。ごつごつした固い感触。細長い円筒部の下に渋沢のナイフ。柄の 
部分の長さと円筒部の長さが同じで、刀身部のみが重ならずに飛び出ている。想像していたより重い重量感に戸 
惑う。だが、精一杯の虚勢を張って、威嚇するように複合形ナイフを突きつける。 

 目玉蜘蛛がにじり寄ってくる。窺うような緩慢な動作から、一転、俊敏な動きで跳ねてきた。思っていたより 
も高く跳ねたせいで、力なくナイフを振り上げる形になってしまう。ナイフと手の距離が離れているせいで、距 
離感がつかめない。当たったのは刀身部ではなく、ナイフの柄の部分になってしまった。伸ばしきった腕の先に、 
武器と目玉蜘蛛の重みが加わる。 

 更にもう一匹跳びかかってくる。重みに逆らわず腕を降ろし、跳びかかってきた目玉蜘蛛に狙いをつけ、指に 
かかった出っ張りを引く。信じられない衝撃が全身を伝わる。肘と肩が外れそうになる。それでも、武器は手放 
さない。 

 跳びかかってきた目玉蜘蛛は、赤い液体を噴出しながら地面に転がった。発射時の振動のせいか、ナイフの上
に乗っかっていた目玉蜘蛛が体を浮かし、無防備になっている。伸ばした腕を引きながら全力で斬り裂く。腕か
ら先の感覚が麻痺しかけているのか、抵抗感は皆無だった。 

 引いた腕を、そのまま突き出し、別の目玉蜘蛛を刺す。顔に粘性のある液体が降りかかってきたが、気にせず 
に次の動作に移る。伸ばした腕をそのまま振り回し、目玉蜘蛛が突き刺さったナイフを、別の目玉蜘蛛にぶつけ 
る。ぶつかった目玉蜘蛛はどちらも潰れ、床の上に落ちた。 

(*゚ -゚)「うしろ……!」 
(主 ゚ω゚)「ふせろぉぉぉぉおおああああああ!!」 

 ナイフの重さを利用して、思い切り回転する。武器部ではなく拳にぶつかったが、気にせず降りぬく。遠心力 
を利用した裏拳は目玉蜘蛛を吹き飛ばし、壁に叩きつける事に成功した。叩きつけられた目玉蜘蛛は派手に中身 
を撒き散らして、“ずるずる”と重力に従った。 

 またもう一匹、今度はしぃ目掛けて飛んできた。空いた腕を目玉蜘蛛の開いた口の中に突っ込む。ぬめるよう 
な感触が掌に伝わって来た後、目玉蜘蛛の口が閉じる。 

(主;゚ω゚)「い、ぎぃっ!?」 

 細かい刃が、徐々に腕の中に侵入していく。刃は回転しているのか、刺されるというよりも削られていく感覚 
に蹂躙された。慌てて目玉蜘蛛を突き刺し、発射する。目玉蜘蛛が吹き飛ぶと同時に、焼け付くような熱量が突 
っ込んだ掌に伝わってきた。発射した弾がかすったのかもしれない。 

 痛みを堪え、拳を握る。少しだけ細くなった手首から、血が噴出した。涙で視界が滲む。 

 しかし、敵は攻撃の手を休めない。まだ、まだくる。涙を拭う事はせず、まばたきをして強制的に排出する。 
低い弾道で跳ねてきた目玉蜘蛛に、地面に転がった屍骸を蹴り飛ばし、ぶつける。手首が細くなったほうの腕で、 
屍骸になった目玉蜘蛛をつかみ、盾にする。盾に咬み付いてきた目玉蜘蛛を、盾ごと貫く。 

 屍骸を投げつける。咬み付かれたら、噛み付き返す。跳んできた目玉蜘蛛をかわし、全力で踏み潰す。武器だ 
けに頼らない。全身をフルに活用し、全力で抗いつづけた。 

138 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:23:19.50 ID:PFwEHQpd0



 もう、何匹倒したかもわからない。全身血だらけで、咬み付かれた跡が痛くてしょうがなかった。だが、目の 
前の敵は減ったようには見えない。むしろ、増えつづけている。腕には、麻痺の代わりに鉛が入れられ、まるで 
持ち上げられそうにない。それでも、動かす。弾を射出し、ナイフで斬りつける。 

 目玉蜘蛛が数匹同時に跳びかかってくる。刺して、撃って、咬み付かれて、噛み返す。とても対処しきれない。 
頭を飲み込もうとした目玉蜘蛛を、首を引っ込めてかわす。そのまま頭上へとヘッドバッド。液体が滝のように 
流れ出し、視界が赤色に閉ざされた。 

(*゚ -゚)「……! ……やっ……」 

 小さな悲鳴。声が出せない。しぃがいたはずの場所へ腕を伸ばす。しかし、やわらかいしぃの体はそこになく、 
代わりに悲鳴を上げたくなる激痛が襲いかかってきた。塞がれた視界の中、あたりをつけ、激痛の原因にナイフ 
を突き刺す。気持ちのわるい感触が伝わる。目元を拭い、しぃを探す。目玉、屍骸、屍骸、脚、目玉――。 

 主をなくしたキャップが佇んでいた。 



(´・ω・`)「……ッ!?」 
( ,_ノ` )「……おう?」 

 ショボンと渋沢、共に顔を歪める。ショボンは痛みと驚愕によって。渋沢は、なっとくいかないような表情で、 
しかしどこかたのしげに。ショボンの頬に真一文字の線が刻まれている。赤く滲んではいるが、血は出ていない。 

 風が吹いた。線が開き、皮がめくれる。肉が露出し、程なくして、血液が噴出する。ショボンが更に顔を歪め 
る。同時に、ショボンの後方にあった樹々がことごとく崩れ落ちた。鋭利な刃物に斬られた切り口をしている。 
渋沢が“くっくっ”とわらう。 

140 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:24:48.87 ID:PFwEHQpd0

( ,_ノ` )「首を切断したつもりだったんだが、おもしろい。どんなカラクリなんだ? 少年」 

 渋沢の軽口に付き合うことはせず、ショボンは頬を押さえ、距離を取る。懐から拳銃を取り出し、構える。ト 
リガーに指をかけ、発射。高速で射出された弾丸が、空気を突き破り、最短距離で渋沢へと向かう。 

 だが、渋沢は弾丸の回転にナイフを沿わせ、運動を停止させる。完全に停止した弾丸をつかみ、興味深げに弾 
丸を眺めている。 

( ,_ノ` )「いやいやいやいや、こいつはおもしろい! はじめて見たぜ。何ていうんだ、それ? いや、いい 
      や。それより、何回発射できるんだ? もうちょいやってみてくれよ」 

 ショボンは撃ちつづける。だが、ただの一発も渋沢の体に傷をつけることはできない。渋沢はうれしそうに笑 
みを浮かべながら、のんびりとした歩調でショボンに近づいていく。掌の弾丸が溜まっていく。 

( ,_ノ` )「螺旋回転を描きながら高速で直進、対象を貫くのか。殺傷能力も申し分なさそうだ。遠距離から攻 
      撃できることも考えると……、“くっくっ”、こいつはすばらしいなあ! 欠点を挙げるとするな 
      らば、軌道が素直すぎるといったところか。いやいや、それにしたってたいした問題じゃあない。 
      この速度、視認してから避けるなど俺にしかできん」 

 渋沢がひとりでうれしそうにしゃべっているのに対し、ショボンは無言で撃ちつづけている。ショボンと渋沢 
の距離が近づく。だというのに、渋沢は余裕の表情で弾丸をいなす。飛んできた弾丸にナイフを沿わせ、自身の 
ナイフのように向こう側が透けて見える程に薄く斬り、「りんごの皮むきだ」などと言ってわらっている。 

 渋沢がショボンの下まで辿り着く。銃を撃たれる前に渋沢は銃身をつかみ、銃口を空へと向ける。飛びのこう 
と“タメ”をつくったショボンの首筋にナイフをあてがう。ショボンの動きは完全に抑制する。だが、ショボン 
の表情に諦めの色はない。超然とした、いつもの表情。渋沢は“くっくっ”とわらう。 

( ,_ノ` )「本当におもしろいなあ、少年は。生殺与奪の権を握ってるのは俺だってのに、まるでそんな気がし 
      ない。まるで、“幽霊”と相対してる気分だ」 

142 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:26:18.61 ID:PFwEHQpd0
(´・ω・`)「それで正解だよ、『ライトニング』。僕は“幽霊”、それも、とびっきりの“悪霊”さ。だか――」 

 ショボンの声を遮るように、地が、轟音を立てた。異常な震動が地面を揺るがす。斬られずに残っていた樹々 
が根こそぎ倒れていく。池の表面が不自然に隆起していく。マグマが噴火する前のように中心が盛り上がり、“ 
中のもの”を吐き出そうともがいている。ショボンは片膝をついて揺れに抵抗した。渋沢はわらっているのか憮 
然としているのかよくわからない表情をして、平常通りに立っている。だが、その声だけは力強く。 

( ,_ノ` )「きたか……、『ビィィィィストォォオオ』ッ!!」 

 渋沢の声に応えるかのように、池が噴火した。重力に逆らい、天に昇る滝。その頂点に何かがいる。何かは太 
陽を隠し、辺りは影に包まれる。最高点まで到達した水の塊が、ようやく重力に従い降り落ちる。雨というより、 
巨大な波となった水がショボンと渋沢に容赦なく襲い掛かる。水が引き、ショボンはずぶ濡れになる。渋沢に濡 
れた様子はない。 

 未だ太陽を支配していた何かが、急激な速度で落下をはじめる。人の形をしたそれが、大地を蹂躙する。地響 
きの後、埃が舞う。晴れた先には、人の形をした狂獣が、世界を踏みしめていた。普通の成人男性よりも一回り 
も二回りも大きな体躯。異常なまでに膨れ上がった筋肉。人の頭よりも巨大な拳。ゆっくりと上がる顔。何を考 
えているのかわからない瞳。それが、敵を捕捉する。つわもの狩りの『ビースト』が、標的を見定める。 

(*゚∋゚)「…………」 


 筋肉――降臨! 


( ,_ノ` )「少年、仕事はキャンセルだ。今からここは“戦場”になる」 

 渋沢は体を『ビースト』へ向け、ショボンを見ずに言った。『ライトニング』と『ビースト』が相対する。ふ 
たりの間だけ気圧が変る。常人では押しつぶされてしまうような、圧倒的圧力。風すらも、ふたりの間を避けて 
行く。 

146 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:27:48.81 ID:PFwEHQpd0

(´・ω・`)「……いいんだな?」 
( ,_ノ` )「構わんさ。すきでやっていた仕事ではない。少年に興味はあるが、それよりも目の前のこいつだ」 

 後ずさり、走ろうとした矢先、ショボンは渋沢に呼び止められる。 

( ,_ノ` )「あー、言い忘れた。少年、パスは“AKASHA”だ」 
(´・ω・`)「……ショボンだ」 
( ,_ノ` )「そうか、ショボン。今度会ったらその武器貸してくれ」 
(´・ω・`)「やなこった」 

 それだけ言い残すと、ショボンは全力で駆け出した。駆けて間もなく、暴力的な轟音が世界を揺るがす。だが、 
気に取られた様子もなく、駆けつづける。流れる汗を拭うこともしない。表情は、いつもの超然としたもの。た 
だ、瞳には微かな迷いが見て取れた。ショボンは駆けつづけた。迷いを振り払おうとしているかのように。 

 目指すは街の外れ、廃教会。 



(主 ゚ω゚)「うあああああ! あああああああああ! ああ!? ああ!? あああああああああああ!!」 

 僕は目玉蜘蛛を突き刺した。最早原型は留めていない。それでも、僕はナイフを振り上げることを、振り下ろ 
すことをやめなかった。表皮を、内臓を、刺せなくなるまで破壊しつくす。破壊が終わったら、まだ原型を保っ 
たままの目玉蜘蛛をつかみ、同じ事を繰り返す。 

 敵は全部倒した。もう、僕に襲い掛かってくる敵はいない。けれど、しぃもいない。新しい標的を突き刺す。 
目玉の表皮が跳ね跳び、僕の顔に付着する。 

 気にもならない。肉や血に塗れた体、今更気にする必要もない。刺した感触も、よくわからない。咬まれた箇 
所に感じていたはずの痛みも、どこかへ消えた。 

149 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:29:18.70 ID:PFwEHQpd0

 憎いわけじゃない。怖いわけでもない。ただ、こうやって体を動かしていないと、叫びつづけていないと、僕 
が消えてしまいそうな気がするから。必死になって保たないと、想うことを忘れてしまいそうになるから。一刺 
し一刺しに、僕の存在を確認する。刺しつづけていないと、自分の存在を確認できなかった。 

 新しい標的をつかみ、腕を振り上げる。だが、ナイフを突き刺す前に、目玉の口が開いた。僕はナイフを振り 
上げたまま硬直する。 

「ごきげんよォう、ボクの敵ィ! 随分とハッピーそうじゃァねェでェすかァ」 

 目玉の口から、所々イントネーションが外れた金物のような甲高い声が聞こえてきた。嘲るような口調に苛立 
ちを覚えながら、僕は尋ねる。 

(主 ゚ω゚)「……誰だお」 
「ボクの名はアナンシィ、フォックス様のシモベでェす!」 

 鼓膜を破るような甲高い音が聞こえてくる。超音波による攻撃かと思ったが、どうやら笑い声らしい。フォッ 
クス。わかっていても、こうやって敵の口から聞くと、心にかかる重圧がまるで違う。アナンシ、この世界に送 
られてきた、僕の敵。 

「単刀直入に言やァ、ボクが欲しいのはテメエが持ってるDATでェす。そして、テメエが欲しがってるDAT 
 はボクの手の内にありまァす。ついで言やァ、テメエのそばにいたメスガキもここにいまァす」 
(主;゚ω゚)「しぃが!?」 

 自分でも予想していない大声が出た。アナンシは不機嫌さを隠そうともしない。 

「うっせェなァ、黙れよクソガキィ……。今はまだ生きてまァすけェどねェ、速くきヤがらねェとォ、わ 
 かンでしょォう?」 
(主;゚ω゚)「どこに、どこにいるんだお!?」 
「うっせェつってンだろォがよォ! バラしたメスガキィ、今すぐプレゼントしてもいいんでェすよォ!?」 

155 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:30:48.56 ID:PFwEHQpd0

 声がでなくなる。その様子がわかったのか、アナンシは軽くわらった。 

「街の外れの廃教会。その底の底の更に底。そこで待ってまァすよォ」 

 街の外れの廃教会。記憶が甦る。両手を下げた、首のない女神像。渋沢との邂逅。しぃが、入りたがらなかっ 
たこと。あれには、意味があったのだろうか。今となっては、わからない。 

「DATはちゃァんと持ってきヤがってくださァいよォ。でねェとォ、なにスっかわかンねェでェすよォ」 

 チンピラのような陳腐な脅し文句。だが、相手はフォックスの手下だ。やると言ったら、やるだろう。喉に絡 
みつくものを無理矢理飲み込む。 

(主^ω^)「……話はそれだけかお」 
「ええェ、これで終わりでェす。それじゃァあ、来訪を心待ちにしてまァすよォ。アディオスアミ――」 

 アナンシが言い終わる前に、ナイフを振り下ろした。目玉は沈黙し、場は静寂に包まれた。 

 しぃが生きている。まだ安堵できる状況ではないにしろ、この事実は僕の心を活性化させた。まだ、ショボン 
の頼みは守ることができる。なにより、僕と同じ境遇の仲間を助け出す事ができる。 

 正常な意識が戻ってくると同時に、体のいたる所から、立っていることすら出来ないような激痛が走った。痛 
い、痛くてしょうがない。けれど、それでも、立ち上がる。しぃのキャップを握りしめ、腕を広げて、風を切っ 
て、駆ける。目指すは街の外れ、廃教会。 

 腕にかかるわずかな抵抗が、僕がここにいることを証明していた。 



                         ―― 了 ―― 
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