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86 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 20:44:26.59 ID:PFwEHQpd0
『……』 

『どうか、なさいました?』 

『……VIPの動きが少し……。……戦争になるのかも、しれません』 

『……ここが、ですか?』 

『私は、ここを離れたくない。あれと、あなたとの思い出が詰まったこの町を』 

『……』 

『荒巻王は懸命なお方だ。何事もなく終わることも……』 

『お父様、思い出で命はかえりません。失いたくない気持ちは私も同じ。ですが……』 

『……年を取るというのは、弱くなるという事かもしれない。大切なものが増えすぎた……』 

『……』 

『ですが、それでも、私の最も大切なものは……』 

『お父様……』 

『最後に、ひまわりを見に行きましょう。あなたが愛したひまわりの花畑。思えば、長いこと行っていなかった』 

『……はい』 

『私は、あなたを守ると誓った。これから先も、ずっと、ずっと――』 

89 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 20:45:55.80 ID:PFwEHQpd0
                         ―― 四 ―― 



 緑の村。広大な敷地の中で、身を寄せ合うように集まった木造りの家々。巨大な風車が眠気を誘うような動き 
で回っている。細長い煙突から白い煙が輪っかになって、空の青と同化していく。 

 畑の隅にある切り株に腰かけ、流れる汗を拭きながら一息ついている老人。老人の隣で舌を出しながら座って 
いる黒い犬。はたきのような尻尾を左右にふりふり、土煙をおこしている。 

 簡素な井戸の周りに三人の婦人が集まって談話していた。ひとりの婦人がしきりにおなかをさすっている。い 
たわるようにさすりつづける姿は、命を感じさせる。がたいのいい婦人が何かを話した後、三人揃って声を上げ 
てわらいだした。夫の悪口でも言っていたのかもしれない。 

 村の建物の中で比較的大きな建物。その前で、数人の少年少女が集めっていた。ひとりの少年が不安定な格好 
で赤い球の上に乗っており、周りの子供たちがはやしたてている。少年は崩れたバランスを取り戻そうと球の上 
で腰や肩や腕などを動かしていたが、結局落下してしまった。お尻を打ちつけたのか、手を当てながらぴょんぴ 
ょんと飛び跳ねている。 

 その様子をショボンは見つめていた。長い髪に隠れた瞳は、ひとりの少年を捉えている。 

J( 'ー`)し「あの……、うちの子たちがなにか?」 

 井戸の周りで話していた婦人のひとりが、ショボンに話しかけてきた。おなかをさすっていた婦人とがたいの 
いい婦人が、ショボンのほうをちらちらと見ながら声を潜めて話している。よく見ると、村の人間たちが遠巻き 
に、奇異なものを見る目をショボンへ投げかけている。 

 ショボンはそれらの視線を意にかえした様子もなく、ひとりの少年を見つづけている。 

J( 'ー`)し「あの……」 

90 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 20:47:26.13 ID:PFwEHQpd0

 表情を変えず、ショボンは目の前の婦人に向き直る。 

 茶系でまとまった地味な服装。髪の毛が後ろに纏められているが、くせっ毛なのか、纏まらずに所々はねてい 
る。後ろ側に引っ張られあらわになった額には、幾筋もの皺が刻み込まれている。困った顔をしながらも気丈さ 
を失わない顔は凛としたもので、若い頃は美しい顔だったと窺わせる。 

(´・ω・`)「あなたが、孤児院の責任者ですか?」 

 ショボンの声に婦人が戸惑った様子を見せる。どう反応していいのかわからないといった表情だ。辺りが露骨 
にざわめく。遠巻きに窺う女衆にまぎれて、数人の男たちが鍬を持って睨みをきかせている。 

J( 'ー`)し「は、はい……!」 
(´・ω・`)「そうですか……」 

 ショボンは口を閉ざし、まぶたを閉じる。誰も動かない、止まった時間が過ぎる。 

(´・ω・`)「あなたは、血の繋がらない子供を、自分の子と呼んでいましたね」 

 おそるおそる、婦人は頷く。 

(´・ω・`)「なぜです?」 

 婦人はあごに手を当て、考え込むポーズをつくった。頭の中で捻りだそうとしているのではなく、当たり前の 
言葉をどうやって伝えようか迷っているようだ。たっぷりと時間を置いた後、婦人は、今度は毅然とした態度で 
話し出した。 

J( 'ー`)し「血が繋がってるとか繋がってないかなんて、考えたこともありません。それは、はじめからすべて信 
      頼するなんてことはできませんけど。でも、いたずらとか、喧嘩とかの危ないことをしてるのを見る 
      と、本気で叱っちゃうんです。それこそ、村中に響くような声です」 

92 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 20:48:56.09 ID:PFwEHQpd0

 婦人は顔を伏せて、はにかみわらいをする。 

J( 'ー`)し「そうして叱ってる間に、『あ、私はこの子のことを愛してしまったのね』って気づくんです。一緒に 
      いる間に、情がうつってしまうんですね。あの子たちの事を、これ以上なく想ってしまうんです。あ 
      の子たちもそれに応えてくれる。私の事を想ってくれる。きっと、たぶん、想うことは想い合うこと 
      なんですよ。血が繋がっていなくても、私たちは想い合える。だから、私は母であれるのだと思いま 
      す……」 

 婦人は話を終え、長い事しゃべったせいか、恥ずかしさからか、顔を赤らめてわらっている。ショボンもつら 
れるようにしてわらった。 

(´・ω・`)「……あの子たちがうらやましいです。僕には叱ってくれる人がいなかった」 
J( 'ー`)し「そんな、私の気が短いだけですよ」 
(´・ω・`)「それでも、彼らは今、しあわせだ……」 

 ショボンの顔が険しいものに変わる。それは羨望や諦観がないまぜになったような、複雑な表情に見える。だ 
が、髪に隠されている上に一瞬のことだったので、彼の表情が婦人に悟られる事はなかった。 

「カーチャン、どうしたお?」 

 いつの間にか、孤児院の前にいた子供たちがショボンと婦人の前に集まってきていた。その中のひとりの少年 
が前に出て、ショボンと婦人の間に割り込むように入ってきた。 

J( 'ー`)し「なんでもないのよ。少しお話してただけなの」 
「ふうん?」 

 少年はなっとくいかないといった表情をしたまま、ショボンのほうを見た。 

「おじさん、かみのけながすぎだおっ!」 

94 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 20:50:25.85 ID:PFwEHQpd0

 婦人が少年を嗜めようとしたが、それよりはやくショボンが口を開いた。 

(´・ω・`)「そうだね、もし今度会う機会があったら、髪を切ってさっぱりしてからにするよ。きみの顔がよく 
      見えるように、僕の顔が、見えるように」 

 それだけ言うと、ショボンは婦人に軽く会釈し、顔を隠すような格好のまま去っていった。ショボンがいなく 
なった後、傍観していた村人たちが婦人の下に集まっていた。 



 正式に外出を許されてから三日、この世界に来てから六日目が過ぎようとしていた。この三日間街の中を隈な 
く探したが、DATは依然見つかっていない。ショボンにも聞いたが、やはり見つかっていないとのことだ。 

 街の外にあるのではないかとも考えたが、僕が持っているDATの共鳴はこの付近にあることを示している。 
形を変えているとしても見ればわかるから、見過ごしてしまったという事も考えづらい。 

 完全に行き詰っていた。 

(主^ω^)「……見つからないお」 
(*゚ -゚)「……ざんねん」 

 赤色がなりを潜め、遠くの空が黒に覆われようとしている頃。いつものようにしぃと帰路に着いていた。六日 
間で最も変わった事は、しぃの僕に対する態度だと思う。といっても、そんなべたべたするような関係になった 
わけではない。少しだけ会話できるようになって、瞳の中の意思をごくまれに見せてくれるようになっただけだ。 
ショボンの目が怖かった。 

 しぃは僕のDAT探索に毎日ついて来た。目的があってついて来ているのではなく、単純な好奇心でのことら 
しい。こっちは必死になって探しているというのにその理由はなんだ、と思ったが、この広い街の中をひとりで 
探し回ることを想像すると、しぃの存在は非常にありがたかった。 

98 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 20:51:55.59 ID:PFwEHQpd0

(´・ω・`)「おかえり」 
(主^ω^)「ただいまだお」 
(*゚ -゚)「……いまだお」 

 家に帰ると既にショボンがいた。一応今日も聞いてみるが、やはり見つからなかったとのこと。 

 恒例の食事。初日は固すぎて噛み千切れなかった干し肉も、今では普通に食べれるようになった。食べるため 
にはコツがあり、それを見つけると意外なほど簡単に食べれることを発見した。相変わらず味は最悪だったけど。 

 いつもはこの後に川へ行って汗を洗い流して、裸で山に向かって吼えて返事をもらい、それから家に帰って寝 
ている。だが、今日は違った。 

(´・ω・`)「クルベ、きみはたしか父親に頼まれてDATを探しているんだよね?」 
(主^ω^)「………………へぁ?」 

 初日以来、ショボンから質問をしてくるのははじめてのことだった。ショボンから話しかけてくる記憶自体、 
すんなりと頭からでてこない。だから、はじめ僕に向かって質問したのではなく、しぃに向かって言ったのか 
と思った。僕の意味不明な返事も意にかえさず、ショボンはつづける。 

(´・ω・`)「きみにとって父親とは、どんな存在なんだい?」 
(主^ω^)「どんなって――」 
(´・ω・`)「答えてくれ」 

 有無を言わせぬ言い方だった。いつものショボンにはない、鬼気迫る気迫がある。 

 僕は気恥ずかしいものを感じながらも、父について話した。若い頃は勇者として世界に名を轟かせて、現在は 
世界を構成するDATを祭った神殿の管理人をしていること。そして、もっとプライベートなこと。何でもでき 
る、強くてやさしい僕のヒーロー。僕の自慢の、父親。

100 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 20:53:25.15 ID:PFwEHQpd0
(´・ω・`)「父親の背は、広かったのかい?」 
(主^ω^)「広かったお。越えられそうにないくらいに」 
(´・ω・`)「そう、か……」 

 気持ちの悪い、沈黙。今日のショボンは、とてもショボンらしくなかった。彼はいつも、もっと余裕のある、 
超然とした態度をしている。僕では覗けないような深さで、何を考えているのか悟らせなかった。だが、今のシ 
ョボンは、焦っているような、迷っているような態度が表情に浮かび上がり、意識の片鱗を見通す事ができる。 
本当にらしくない。 

 “らしく”生きろ。三日前の渋沢の言葉を思い出した。 

 ショボンが立ち上がった。長い髪に隠れた瞳が僕を見ている。いつの間に持っていたのか、手の中の重量感の 
ある黒色が鈍い輝きを放っている。はさみの柄のようになっている部分に指を挿入し、細長い円筒部を僕に向け 
ている。円筒の内側をぎざぎざが渦を巻いて、奥の暗闇へと消えている。 

 ぞんざいな口で、ショボンは言った。 

(´・ω・`)「クルベ、戦うのは得意かい?」 

 円筒の暗闇が白色に燃えた。 



(主;^ω^)「な、な、なん!?」 

 ショボンの手から発射された何かは、僕の脇を過ぎ、背後にいた巨大な目玉を貫通した。人の頭ほどもある目 
玉から蜘蛛の脚がはえ、赤や灰色の視神経らしきものが垂れている奇怪な物体。人の血よりも赤黒い液体を噴出 
しながら、脚をキシキシと動かして蠢いている。生物なのだろうか、これは。 

 ショボンが手の中のものからもう三発発射すると、目玉は動かなくなった。 

102 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 20:54:54.77 ID:PFwEHQpd0

 僕が目玉の屍骸に目を奪われていると、意外なほど近くから、犇きあった蟲が蠢くようなキシキシという音が 
聞こえてきた。生理的嫌悪感を抱かせる、乾いたものが擦れあう音。体の芯にぞっとしたものが走る。 

(´・ω・`)「しぃ!」 

 ショボンの声に合わせて、しぃがテーブルの下に駆け込む。同時に、窓や壁の隙間、天井から大小様々な目玉 
の蜘蛛が姿を現した。本物の蟲のように、何匹いるかわからない。 

 視神経を引きずりながら歩く目玉の蜘蛛。歩き方もまるで蟲だ。瞳孔と虹彩の部分がカメラのシャッターのよ 
うな動きで、高速に開いたり閉じたりを繰り返している。開いたときに内部で、有機的な長いものがぐねぐねと 
うねっているのがかすかに覗けた。一匹一匹が例のキシキシという音を鳴らす。単体ならそれほどでもないのか 
もしれないが、集団で鳴らされると頭の中を犯されそうなノイズになる。 

(´・ω・`)「さて、こいつらは何だろうね。友好的ではなさそうだけ、ど!」 

 飛び掛ってきた目玉に向かって、ショボンは手の中の物を乱射する。発射されたものは正確に目玉蜘蛛を貫き、 
屍骸の山がひとつ、またひとつと増えていく。そのたびに、部屋の中に赤黒い液体とこびりつきそうな腐った血 
液の臭いが広がっていく。 

(主;゚ω゚)「うわ、わ、わ!」 

 余所見をしていると、足元に目玉蜘蛛の群れができていた。その中の一匹が脚を折り曲げ、弾かれるようにし 
て跳躍した。目の前に飛来した目玉蜘蛛と目が合った、と思う間もなく、目玉蜘蛛の瞳孔と虹彩の部分が開く。 
間近で見て、わかった。開かれた部分にはチェーンソーのように微小な刃がびっしりと張り付いている。そして、 
内部に見えた長いものは、人の腸のような、ミミズのようなものが折り重なって固まったものだった。所々に鼻 
の穴みたいなものがあり、透明な液を分泌している。 

 目玉が閉まる。僕の顔を飲み込んだまま。 

104 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 20:56:24.76 ID:PFwEHQpd0
 鼻先を何かが通った。直後、腸のようなものから赤い液体が噴出し、目玉の内側が赤色が溜まっていく。 

(主;゚ω゚)「うわあ、ああ!?」 

 頭を振り乱して目玉の内側から逃れる。目玉は抵抗なく落ち、赤い液体の溜まった床で“べちゃり”と音を立 
てて潰れた。意識があるようには見えないが、脚だけが細かく動いている。首筋に痛みが走る。“歯型”がつい 
ているかもしれない。顔にまとわり付いた粘性のある液体が不快で、あわてて拭き取る。 

(´・ω・`)「戦えないなら隠れてて」 

 ショボンはこちらを見ないまま、僕の前にいる数匹の目玉蜘蛛を撃ち抜きながら言った。「邪魔だから」と後 
につづきそうな言い方だった。 

 その言い方がひどく癇に触った。僕は鼻息をひとつ鳴らして、強くDATを握りしめる。僕だって戦えること 
を、少なくとも自己防衛くらいできることを見せつけてやりたかった。 

 DATに想いを込める。この世界に来てもっとも強さを感じたものを想像し、具現化する。刀身部が透けてし 
まいそうなほどの薄さを保った、小さなナイフ。消え入りそうな半円模様が浮かび上がる。頭の中で描いた構え 
を取り、目玉蜘蛛と対峙する。 

 今僕の前にいる目玉蜘蛛は三匹。大きめなやつが一匹と、小さいのが二匹。大きいやつが僕の顔目掛けて飛び 
かかる。バックステップ、とは言えないような動きで体を後ろに逸らす。同時に、僕の顔があった場所目掛けて 
ナイフを振り上げる。 

 ナイフは目玉蜘蛛に触れた。一瞬だけ固い感触が手に伝わるが、目玉に切れ目が入ると水を切るように中心部 
まで一気に切れた。どこに溜まっていたのかわからないほどの赤い液体が、吐瀉されたように流れ出す。吐き気 
を堪え、更に力を込めて切り裂こうとしたが、ぬるりとすべる感触が邪魔してうまく切ることができない。目玉 
の中にあった腸のような物体、そこから分泌されていた液体のせいかもしれない。 

 苦心していると、小さな目玉蜘蛛の一匹が僕の足目掛けて跳ね飛んでくる。咄嗟に片足立ちの格好になってか 
わし、そのまま足を落として踏みつける。僕はこの世界に来てから今まで、靴というものを履いていない。血眼 
になって探す必要性を感じなかったので、なんとなくそのままでいたのだ。深く後悔した。目玉の感触を直に味 
わうはめになってしまったのだ。 

 表面はつるつるのボールに油を塗ったような感触。踏み込むと水が溜まったベッドみたいにへこんで、足がず 
ぶずぶと飲み込まれる錯覚を覚える。ある地点まで踏みつづけると抵抗がなくなり、目玉の白い表皮の部分が弾 
け飛び、中から液体と腸のようなものが散乱した。鼻先に腐った血液の臭いがまとわりつく。脚だけがキシキシ 
と蠢きつづけている。熱いものが、喉元にまでせり上がってくる。 

 眼前のナイフが突き刺さった目玉蜘蛛が、脚を突き出してきた。ほとんど無意識のうちに歯を立てて、その攻 
撃を防ぐ。目玉の脚先が、口腔の奥に触れる。全力で顎を閉じると、“パキリ”と軽い音を立てて、やはりとい 
うか、粘性のある液体が溢れてきた。 

 ナイフの突き刺さった目玉蜘蛛を両手で持ち上げ、、残りの一匹、小さな目玉蜘蛛に叩きつけた。二匹は衝突 
の衝撃で、気色の悪い音を立てて潰れた。赤ん坊のようにえずいて口の中に溜まったものを吐き出し、突き刺さ 
ったナイフを引き抜く。刀身がぬらぬらと光っている。 

 三方向からそれぞれ一匹づつ目玉蜘蛛が襲い掛かってきた。 

(´・ω・`)「伏せろ!」 

 ショボンの言葉の意味を理解して、というより、反射的に体を伏せた。僕の頭上をショボンが跳んだ。何かが 
ぶつかり合う音が聞こえ、頭上が数回煌いた。ショボンは僕の目の前に着地すると、天井に向けて腕を伸ばし、 
手の中のものを発射する。赤いものが雨のように降り注ぎ、次いで、穴の空いた目玉蜘蛛が落ちてきた。 

 見ると、僕に襲い掛かってきただろう目玉蜘蛛は、一匹は蹴られたようなへこみを持ち、壁に叩きつけられて 
潰れている。後の二匹は穴だらけだ。ショボンは、それが自然であるかのように構えなおす。 

 普段の表情だった。 

110 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 20:59:24.58 ID:PFwEHQpd0


 無限にいるかと思えるほどの数だった目玉蜘蛛も、あらかた片付いた。一匹一匹の耐久力は少なく、十分太刀 
打ちできるレベルであった。 

 そして、ショボンが最後の一匹に止めを刺した。 

(主;^ω^)「終わったかお……?」 

 しゃべると口の中から自分のものではない臭いと、形容しがたい味が広がって、顔をしかめてしまう。体中に 
自分の汗以外の液体がへばりついている。安堵すると同時に不快感が全身を覆った。 

 テーブルの下で隠れているはずのしぃに終わった事を告げるため、腰を曲げて覗く。 

(主;゚ω゚)「!? しぃ!」 

 しぃの背後に小型の目玉蜘蛛がいた。僕はしぃの手を握り、思い切り引き寄せる。しぃをテーブルから引きず 
り出した後、テーブルの上から目玉蜘蛛目掛けてナイフを振り下ろす。木の固い感触に弾かれることなく、ナイ 
フは柄の位置までテーブルに突き刺さった。 

 引き抜くと、一匹分多めに赤黒い液体が付着していた。それは、テーブルの切れ目にも伝っていった。 

(主;゚ω゚)「しぃ、大丈夫かお!?」 

 腕の中のしぃに尋ねる。必然、抱きしめるような格好になっていた。しぃはきょとんとした表情をし、そのま 
ま僕を押し退け、小走りにショボンの影に隠れた。顔だけだしてこちらを見ている。 

(主;^ω^)「……それだけ動ければ大丈夫だ、よかったお。はっはっは……」 

 意味のない、乾いたわらいだった。 

111 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:00:53.96 ID:PFwEHQpd0



(´・ω・`)「本当、なんだったんだろうね」 

 ショボンが疑問を口にする。答えを期待してるのではなく、ただ口に出してみただけのようだ。けれど、僕に 
は答えがわかっていた。戦っている最中はそれどころではなかったので、“それ”を感じ取っても思案する事は 
なかったが、こうして落ち着くと、“それ”は間違いなく知っている感覚だった。 

(主^ω^)「……こいつらは、僕の敵だお」 

 幾度となく感じた闇のオーラ。この世界にも敵は来ていた。僕の前に現れたという事は、狙いはこの世界のD 
ATと僕が持つDAT。そして、僕自身。その事を、簡単にショボンへ説明する。 

 ショボンは深く聞いてくるようなことはせず、「ふうん」と、納得したのかどうかわからない声を上げただけ 
だった。 

(主^ω^)「だから、速くDATを探し出さないとこいつらは何度でもここに来るお」 

 自分でも驚くくらい素っ気のない言い方になったのは、巻き込んでしまったことに対しての、後ろめたさから 
かもしれない。 

(´・ω・`)「それじゃあ、これからどうするんだい?」 

 ショボンが聞いてくるが答えはでない。それよりも今気になるのは、体に付着した悪臭を放つ大量の液体だ。 

(主^ω^)「とりあえず……。川に入ってさっぱりしたいお」 

 体は正直だった。変な意味では断じてない。 

112 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:02:24.80 ID:PFwEHQpd0


「……ふン」 

 まったく光の差さぬ、闇が満ちた空間。アナンシは鼻息を漏らす。別段期待していたわけではないが、あわよ 
くばという考えがなかったわけではない。包帯に巻かれた顔が、そう語っていた。 

「まあ、いいでしょォう」 

 所々イントネーションが外れた金物のような甲高い声で、アナンシはひとりごちる。そうして、女の叫び声よ 
りも甲高い笑い声を上げた。笑い声というよりも超音波のように聞こえるそれに紛れ、アナンシの体の内側から 
キシキシと蟲が犇いて蠢くような音が鳴る。 

 アナンシがわらっていると、闇の中に白い光が差し込んだ。 

「相変わらず不健康なことだ。こんな所にいたら、俺は二分で気が滅入るね」 
「ボクには落ち着く場所なんでェすよォ。『ライトニング』ゥ」 
「『ライトニング』はやめてくれ。遅すぎるんだよ、その呼ばれ方は」 

 “くっくっ”と押し殺したようなわらいをし、『ライトニング』が軽い口調で言う。 

「ボクは『ライトニング』のテメェを雇ったンでェすからァ、この呼び方に間違いはありませェん。それよりィ、 
 ここ数日なにをしてヤがったンでェすかァ。テメェにはたけェ金払ってンでェすよォ。その分の仕事はしても 
 らわねェと、わりにあわねェんでェすよォ」 
「よく言う。元々はお前の金じゃないだろう」 
「金は天下の回りモンでェすよォ。誰かが作って、回りまわってボクの下にきたァ。それだけでェすよォ」 
「盗賊の理屈だな。屁理屈がすきなやつだ」 
「テメェに言われたかねェでェすねェ。こちとら死んだみてェなじじィと引きこもってンでェす、気分が落ち込 
 んでェ、ついつい“お痛”をしたくもなるンですェよォ」 
「で、あの人はまた?」 

114 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 21:03:54.65 ID:PFwEHQpd0
 『ライトニング』は一方を見つめる。軽い口調に反し、その顔は険しい。 

「かわンねェでェすねェ。死んでンのかもしンねェでェすけどねェ。ボクには何考えてンのかわかンねェでェす 
 よォ。テメェにはわかりやがりまァすかァ?」 
「俺にもわからんな。だが、想像することならできる」 

 アナンシが「はァん?」ととぼけた声を出すが、『ライトニング』は気にした様子もなくすまし顔である。 

「いいでェすけどねェ、別に知りてェわけじゃありませェんしィ。ボクにはテメエが働いてくれねェことのほう 
 が問題でェす」 
「アナンシ、俺はな、不確かな明日のために今を犠牲にする蟻――」 
「その話は聞き飽きまァしたァ」 
「変なところで口を挟むなよ。これじゃまるで、俺が蟻みたいな言い方だ」 
「是非蟻であってほしいものでェすよォ。働いてくださァい存分にィ。お金の分だけェ、ボクのためにィ」 
「働き甲斐のある仕事ならやるんだがな」 
「それじゃあァ、ヤル気のでる話をしてあげまァす」 

 アナンシは声を潜め、子供が内緒話するときのようなしゃべりかたで言った。 

「『ビースト』が出没したそうでェす」 
「……それは、そういう事と解釈していいんだな?」 
「テメエで勝手に考えヤがってくださァい」 
「そうか……」 

 「たのしみだ」と、アナンシにも聞こえないような声でつぶやく。『ライトニング渋沢』の得物が暗闇を切り 
裂いた。 


                         ―― 了 ―― 
5