照りかえる朝日が彼女達を歓迎する。時はまさに――朝だ。
ここは杜王町の川をまたぐ3本の橋のひとつ。エリア【H-03】の橋だ。
そんな川のせせらぎが静寂な時間を支配するこの場所に二人の女性がいた。
ひとりの女性はほぼ生まれたままの姿で日光を全身に浴びながら深呼吸をし、
もうひとりの女性はしゃがみこんでメモをとっている。ヒザを机にしている姿はとてもめんどくさそうだ。

「ハイ、徐倫……メモを取っといたよ。死んだ人間も禁止エリアもバッチリ。ついでに角砂糖もどうッ!? 」
「しつこいっつってんだろミドラァァーッ!! 」

誇り高き血統の一人空条徐倫とドス黒い心を持つ殺し屋の一人ミドラーは終始この漫才を続けている。
ここまで余裕であるのはそれなりに理由があるからであろう。
空条徐倫にとってこの殺人ゲームの知り合いは実の父、空条承太郎と刑務所で知り合った男……いや女囚、エルメェスしかいない。
この二人は極めてタフな人間だ。そう簡単にくたばる人物じゃあない。
実際放送では二人の名は呼ばれなかったのでよりいっそう安心したのだ。
そしてミドラーもまた同様である。彼女の知り合いはDIOかDIOに忠誠を誓った者ぐらい。
名前と顔だけなら承太郎達もそうなのだが……DIO以外は別に死のうがどうって事はない。
はやくもジョセフ・ジョースター、ヴァニラ・アイスが脱落したことには驚いたが、それも赤の他人に興味を持つレベル。
むしろ誰に殺されたか、どうやって死んだかに興味が湧いていた。

(案外DIO様に血を吸われちゃったか、捧げたか……ま、DIO様が無事なら結果オーライってヤツ? ムキャッ!!)

「で……今私達の目の前にあるこの橋が7時に渡れなくなるのね」
「甘いわよ徐倫……橋だけじゃあないわ。この……四角の一マス全体がアウトになるわけ。
 ウッカリ入っちゃったらダメよ。特に陸の部分……マスの隅は死角ね。四角だけに」
「オマエは黙ってろッ!そんなギャグを言うためにわざわざ説明したんじゃあないだろうなッ!? 」
「ごっめ~~ん徐倫ッ!でもわかって……これもアンタと仲良くしたいからなのよ? 」
「親父とオマエがどーいった関係なのか知らないが……アタシはこれっぽっちも信頼してないからなッ!!
 レストランでジョンガリ・Aをまんまと逃がしちまいやがって! 一体どんな手を使ったんだ。
 いままで黙ってたけど言わせてもらうわ……ホントはヤツと裏で手を組んでたんだろ? 」
「それは誤解よ徐倫。アタシだって奴を捕まえるつもりだった。逃がすつもりなんてなかった……でもなんかやっちゃったのよ」
「だったら手を組んでない証明なりしてほしいわね……ま、アンタじゃあ無理かもしれないけど」

徐倫の蔑んだ視線にミドラーは何も考えていないバカな女のように笑顔を向ける。
もちろん腹の内ではどうやって徐倫の信頼を得ようかと作戦を練っていた。
ジョンガリ・A を安全な場所まで逃がすためとはいえ、道草を食いすぎたのだ。
あのDIOからチラっと聞いた事があるが……ジョースターの一族は互いにどこにいるかぼんやりとだがわかるという。
徐倫はいわば中途半端な「承太郎探知機」だ。
その彼女が何も言わないということはこれまで通ってきた道に承太郎はいない、ゆえに道草。
目の前にある橋も通れなくなるのは都合がよかった。もう彼女に道をまかせてもいいころだろう。
しかしその為には彼女そろそろ信頼を築いておかなければならない。信頼を得る為にはまず、こちらが折れるのが大切。
つまり、こちらが相手を信頼しなければ始まらない。即ち自分の情報を話す……自分も不利にならない程度に(ここ重要)。

「……できなくはないわね」
「え? 」
「アンタにとっっっておきの情報を話す。自分でも信じられないくらいのね。多分この情報はこの先重要になってくるわ。
 アタシと一緒にいなかったら確実に混乱していたかもね? ……これでどうかしら」
「……さっさと言ったら? アタシはアンタを親父のところに連れていけばいいだけだしね」
「OK、交渉成立ね。……結論から言うと『アタシ達は別の時代からやってきた人間同士』なの。
 レストランでジョンガリ・Aの風貌を説明したときの事を思い出して。アナタの知ってるジョンガリはオッサンでしょ。
 でもアタシの知ってるジョンガリはガキのジョンガリなのよ。あの場にいたのはオッサンだったけど、
 アタシにはずっと疑問だった。そしてアナタの存在。アタシの知ってる承太郎はまだ結婚していないはず」
「…………」

        *************************


さぁ~~て言っちゃったよ。アタシの切り札の一つ、「時代を越えた『運命』の情報」ってのをねぇ……。
大奮発だよ徐倫。まだアンタにしか話していない……アンタにこの情報は勿体無すぎるくらいだよ。
でも空条承太郎に出会ったたらその場でバレちまう情報なんて使い勝手の程は知れてるし……。
肝心のアタシの真のスタンド能力がバレなきゃいつでも暗殺できるからなッ!
今、アタシの能力を知っているのはDIO様とジョンガリだけ……どうみてもコッチの方が重要。
これだけの人数がいれば誰かが『時代を越えた人間がいる』可能性を考えそうだもんね~~ッ!
だからアタシが先に徐倫に言っとかないと……あら? プッ、 徐倫何その顔。ひょっとして混乱してる?
そんなマヌケ面しなくてもいいじゃあないの。そんなにショッキングだった?



        *************************


神様、これは何の冗談でしょうか。
アタシのここ最近はどうかしてます。無実の罪を着せられ、スタンド使いになり、親父と出会って、気合を入れ直しました。
すると今度は殺し合いをさせられることになり、最初に出会った女はキナ臭く、その女は空想にふけりだしました。
アタシ、そんなに信心深くないんですけど何か悪いことしましたか? とても信じられません。
違う時代からきたなんてそんな、まるでアレよ……ニホンのアニメ『ねこドラくん』(だっけ?)にでてた『タイムマシン』
でも無い限り不可能です。いやマジで。
これはギャグと考えていいのでしょうか。いやギャグでしょう。アタシ、今決めました。
ミドラーはセンス抜群のコメディアンということでよろしいのですね?        


        *************************

「あ~~わかったッ!それイイッ!かなり大爆笑ッ!! 」
「え?」
「いや~~アンタギャグの才能あるってッ! 絶対イケるッ!いやマジで。今からでもおそく」
「ジェームズ・キャメロン」
「……は!? 」
「どう思う?ハリウッドの映画監督の彼のこと」 
「……別に。えと、あの、なんだっけ。そう……大ヒットした……船のやつ……『タイタニック』の人よね。
 アタシが5歳ぐらいの時に映画館で」
「今『5歳』って言ったッ? 言ったわよね。あ~~あとそっから先は言わなくていいから。楽しみがへっちゃう」
「ミドラー……アタシ映画にはあんまり詳しくないんだけどさ。本題は何? 」
「まさにそれよ。アンタは『5歳』ぐらいの時にその映画を知ってる。でもアタシはそれを知らない……
 当時ガキんちょのアンタでも知ってるはずの大ヒット映画をアタシが知らないなんてちょっとおかしいと思わない?
 アタシの年齢は内緒だけど、アタシが知ってる時代、1980年代ではジェームズ・キャメロンっていったら……
 『エイリアン2』なのよ」
「エイリアン2!? (古ッ! ) てか1980年代ッ!? 」 
「そう、1980年代……この際だからもう一度ハッキリと言わしてもらうけど。
  ――アタシとアンタは互いにとって『過去』と『未来』の時代から来た人間なのさッ! 
 理由はさっぱりだけどね……でもこれは確実にマジよ。じゃあなきゃジョンガリ・Aの件の説明がつかないもの」
「な……なんだってェーーー!?」


川のせせらぎが支配した時間の中で、時間の話題が交わされる。
驚き、納得、確信……互いの思考は混ざり合い、事実をたたき出した。
その結果生み出された情報の共有を感じ取ると、二人はまた沈黙するのであった。



        *************************

ムキャ!ナハハハハハハハー!!徐倫のヤツ必死に考えこんでるぞォーッ!
アタシでも正直ビックリしてるこの事実を受け入れることと、アタシがそれを打ち明けたことで
予想以上にアンタが混乱して思考回路がショート寸前? ってな感じになってんのがッ! よぉくわかるぅーーーッ!!
そりゃそうよねぇ~ッ。
ま・さ・か信頼してない人間からこんなオイシイ『情報』をいただけるんなんてねッ!
嘘だと疑ってもかまわないんだよ? どーせ誰かにあったらわかることさね。
ま、その時になったらせいぜい悔しそうなアンタの顔を拝ませてもらうよ。
アタシは真実を教えてくれる頼もしい『パートナー』だって納得してくれるんだよねェ~?

ムキャ!!ムキャナハハッ!!

ナァーッハッハッハッハッハッ! ムキャッ! ムキャキャキャキャハッ!

ムキャナハハハハハハハハハーーーーーーーーーーーー!!!




でも『タイタニック』が大ヒットねぇ……それって昔のリメイクじゃあないの? 人類の夜明けだわこりゃ。



        *************************


アタシ、空条徐倫の思考回路はまさにショート寸前。
なんてこと……違う時代から来た者同士だって!? でも言われてみればあのレストランの内装も納得がいく……
どこか古臭さがあったあのつくり。あれがアタシにとって過去のものだとしたら可能性はある。
でもアタシの時代にだってあーゆう古臭さをウリにした店だってみかけるし……どうなんだろ。
ミドラーの情報は『嘘』か『本当』か。しかし『嘘』である必要がない。悔しいけど。
誰かに会えば……例えばアタシの親父に会えば全てが解決するはず。親父がアタシが知らなければ間違いなく『真実』。
アタシにとって『過去』の空条承太郎だろうから。でもそんな若い頃の親父なんてわかるのかッ!?
アタシもミドラーも知らない時代の空条承太郎という可能性もある。
それにミドラー……あの女の素性がメチャ気になってきた。1980年代ってことは親父もアタシぐらいのはず。
その頃の知り合いなんでしょ?しかもスタンド使い。
かなり親密に……つまり、その、ほら、あれってさ、かなりサポート系なスタンドじゃん?アイツの女教皇ってさ。
物体に潜るくらいしか能がないし、多分親父と行動をともにしててさ、で、そのまま……………。


……ちょっと待った。



これってどーゆー事? アイツのスタンドは『物体に潜るくらいしか能がない』のよね。
じゃあ普段どうやって身を守ってるの? あのちっぽけスタンドがパワー型とは思えない。
普段は誰かが――それこそ親父がサポート役になってるんじゃあないの?
だったらトンネルでアイツにアタシが着いていかなかったらどうするつもりだったんだ?
思えば最初になんの気兼ねも無しに話かけてきた時から違和感があった。 
支給品は角砂糖だけ。武器を隠し持てる格好でもない……この状況で生き残れるワケがないッ!
身を守る為にはせめて現地調達でもするしか……そうよ。あのレストランッ! 
レストランには調理できそうにない食料があったわ。そして……調理器具、つまり『包丁』一式も。
あそこにあった物にミドラーは見向きもしなかった。何故? アタシを信頼されてるから? 
まさか。あの目は違う。「徐倫のヤツ必死に考えこんでるぞォーッ!」と言わんばかりの見下した目。
人の本性はやっぱり“しるし”として体に現れてくる……さてはまだ何か隠してるな。
アタシをこれっぽっちも信頼なんてしてない目だわアリャ。たぶん手駒に位しか考えていないんでしょ?
なるほど……よくわかったよミドラー。アンタが親父の仲間だとしてもゲスな野郎ってのはよくわかった。
やっぱりアンタの『バカ』は上っ面にはっつけただけの『バカ』だったわけね。
いいわ。親父に会ってからが勝負だ。
親父と合流するその時までは我慢しとく……せいぜい笑ってなよ。




ハァ……アタシの男運が悪いのは……親父の女運の悪さからきてるのかも、ね。




【橋の入り口(H-03)/1日目/早朝~朝】

【空条徐倫】
[スタンド]:『ストーン・フリー』
[時間軸]:『ホワイトスネイク』との初戦直後。エルメェスがスタンド使いだとは知らない。
[状態]:健常
[装備]:自動式拳銃(支給品)
[道具]:道具一式
[思考・状況]
1.ミドラーと町を移動する。
2.父親に会う。(ジョースター一族の星のアザの影響でなんとなく位置がわかるらしい)
3.ミドラーを警戒し、ミドラーの『秘密』を探る。

【ミドラー】
[スタンド]:『女教皇(ハイプリエステス)』
[時間軸]:DIOに承太郎一行の暗殺依頼を受けた後。
[状態]:健常
[装備]:無し
[道具]:道具一式、角砂糖(大量)、テキーラ酒
[思考・状況]
1.徐倫と町を移動する。
2.生き残る。
3.徐倫の信頼を得て、手駒として動かしやすくする。
  そのため違う時代にいた自分達がここに存在する謎を話したが、スタンドを彼女に明かした以上に使うことは極力避ける。
4.今のところはこれ以上徒党を組む必要性を感じていないが、好みのタイプである承太郎は別。
5.程良いタイミングで徐倫を殺害し、放送で徐倫の名前が呼ばれた12時間後に『トラサルディー』へと舞い戻る。

※徐倫は『女教皇(ハイプリエステス)』の能力を「物体に潜る事ができるだけ」だと思っています。

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40:信奉者達の盟約(前編) ミドラー 85:疑心暗鬼
40:信奉者達の盟約(前編) 空条徐倫 85:疑心暗鬼

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最終更新:2007年06月10日 13:56