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……放送が終わった。
「荒木」の声は、どういう訳か、周囲の住宅の『全て』から響くようにして聞こえてきた。
まるで路面や家々の屋根、壁自体がスピーカーであるかのように。街自体が震え、音声を発した。
――スタンド能力を使っているのか?分からない。
少なくとも、この放送手段では参加者は聞かざるを得まい。

(スポーツ・マックス)
エルメェス・コステロは荒木によって語られた一人の死亡者の名前を反芻した。
(誰かがもう殺っちまったか……まあいいさ。もう『贖罪』は済んでるんだからな)
謎は残る。完全に消滅したはずのスポーツ・マックスが、どうして復活したのか?
そもそもこのゲーム、この『事態』をどう解釈すべきなのか?

エルメェスは頭を掻く。サッパリ分からねえ。
(考えてても始まらねえな。とりあえず今、あたしがやるべき事は一つだ。……ジョリーン達に合流する。
 このゲームの謎を解き明かすのは、その後だッ!)
住宅街を歩き続ける。見知らぬ街で行く当てなどなく、ただ南の方向に。既に夜は明けている。
エルメェスは、周りをキョロキョロ探りながら後ろを付いてくる少年を見る。
(さて、こいつ、『ドッピオ』は……どうするかねえ)
『放送』もこの少年はボーッとした様子で聞いているだけだった。不気味だ……参加者の中に知り合いはいねえのかよ?

 * * *

ヴィネガー・ドッピオは疲弊した表情で、前を進み続ける一人のスタンド使いの後ろを、
まるでそいつのスタンドであるかのように付いて歩いていく。
それにしてもこの男……いや、女の歩行の速さは異常だ。軽く小走り気味にしないと付いていけないくらいにずんずん進んでいく。一回攻撃されてるってのに。
もう随分進んだんじゃないか?なんて体力だ……。


数時間前……気付いた時には、ドッピオの目の前には暗殺チームのプロシュートの死体と、
彼の攻撃を受け、体を倒し気絶しているらしいエルメェスがいた。
(えっ……何が起こったんだッ!?)
疑問が生じた途端に、ボスから連絡が入った。ドッピオはいつの間にか持っていた『携帯電話』からボスの命令を聞き、
『腕』を使いエルメェスを公衆電話前まで運び、彼女を「出し抜いて逃げた」と騙したのだった。
『いいか、良く聞けドッピオ。そこのプロシュートは今、私がそこに出向いて始末してやった。
 そして、エルメェスは息がある……生きている。奴を運び出し、『何とか逃げてきた』という事にするのだッ!急ぐのだ』
「は、はい……分かりました、ボス」



その後、なんとか彼女を騙し通す事に成功した。
再び歩き始めたエルメェスに付いて行き……。
現在も、ドッピオはボスからの命令をキチンと遂行している。

しかし、あのアラキの『定期放送』が行われた為に、彼はボスからの新しい情報が欲しかった。
(アアーッ不安だ……死んだ奴の中に、僕の聞いていないボスの知り合いはいるんだろうか?
 アラキについて何か情報は得られたんだろうか?
 まだこのエルメェスに付いて行くべきなのか?
 これからどう行動すべきなんだ?『連絡』が欲しいッ!)

でもなー、と周囲を警戒しながらドッピオはさらに考える。
(ここで連絡が入るってのもマズいよなあ……エルメェスに怪しまれたら危険だしなあ……。
 なんとかして……ボスと僕が他抜きの『一対一』になれる状況が欲しい)

そんな事を考え続けながら、明るくなりつつある街の中、ドッピオは前を歩き続ける男みたいな女にヒイヒイ言いながら付いていったのだが……。
(アッ!そうだッ!)
一つの『作戦』が頭の中に閃き、ドッピオは思わず手を打ちそうになった。
我ながら、中々いいアイデアを考えついたと思う。
エルメェスに怪しまれず、それでいてボスと『一対一』になれる状況を作る方法!

よし、早速実行だッ!


「あのォ~~……エルメェスさん」

ドッピオはおずおずと前の背中に話し掛けた。
恥ずかしげに言うのがポイントだ。怪しまれてはいけないッ!

「どうした?何か見たか?」

エルメェスは立ち止まり、振り向いた。
ドッピオは体を『もじもじ』と動かしている。頭の中で、先ほど作り出したセリフをもう一度読み直し、不自然でないことを確認すると、言葉に出した。

「こんな、訳の分からない状況で……本当に失礼なんですが……。
 ちょっと僕……『トイレ』に、行きたくなりましてねェ……ハイ……」

「は、はぁ」
エルメェスは顔を歪める。

ドッピオは続ける。このまま畳み掛けるッ!
「ちょっとエルメェスさん……歩くの速いんですよ……! 僕、ずっと付いて行ってるじゃないですか。
 正直言って軽い運動ですよ、コレ……。
 でね……人間の肉体は運動を続けると……体内の『巡り』が良くなって、ですね……ちょっと……」

「ああーッ、もういいッ!確かにこんな状況だろーと『トイレ』は必要だよなッ!用件をさっさと言いなッ!」
エルメェスは叫ぶように『了承』した。


内心でガッツポーズをした。噴出しそうになる。
よしッ!これでボスとの『会話』が出来るッ!
おっと……嘘だということがバレてはいけない。落ち着いて演技せよッ!
「そこに、家があるじゃないですか……そこの『塀』の裏で、ちょっと。離れててくれません?」

ドッピオが指を差した先に一つの民家が見える。その周りの『塀』は、人が隠れるには十分の大きさだ。

エルメェスはかなり苛立った様子で答える。
「ああ、好きにしなッ! まあ、別にあたしはこの機会にお前が逃げるとか思ったりはしてねーよ。
お前は『無害』だからなッ。しかし一応条件を付けるぜ」

エルメェスは指を一本立てた。
「『一分』だ……一分以内に、全てを終わらせろッ! それが過ぎたら、問答無用でそっちに行かせてもらう」

「あ、ありがとうございますッ」
ドッピオは『許可』を得ると、さっさとその民家に向かっていった。


塀に入り込み、死角のない淵に潜り込む。
もちろん、トイレうんぬんは全て演技だ。名演技だった……!これでボスとの『接点』が得られるッ!
しかし時間は有限!一分しかないぞッ!
ドッピオは思わずズボンを下げようとしてしまったが慌てて手を戻す。

(さあ来てくださいボス、早く連絡をッ!
もう携帯はこの手の内にあるんだッ!『着信音』が鳴れば、一瞬で出てやるッ!)
運良くその辺の地面に落ちていた『石ころ』を睨む。

永遠と思われた十秒。指先に取っている『石ころ』をじっと見つめ続け、その時ッ!

「トゥルる」
(来たアアアアァーーーーーッ!)
ドッピオは速攻で、石ころの『ボタン』を押した。

『携帯電話』を耳に当てると、いつものボスの声が聞こえてきた。
しかしどうやらボスも少し急いでいるようだ。どのような状況にいるんだろう?

『ドッピオッ!私は見ていたぞ。素晴らしいタイミングで、最高の演技だったッ……!
 長く話は出来ない……良く聞くのだドッピオ! まずその場から『逃げる』のだッ!
 ずっと考えていたが、このゲーム、私の想像を超えた事態だッ!
 とにかく私の命令通りにするのだ……この機会で、エルメェスから逃げろッ!』

ドッピオは囁き声で石ころに話し掛ける。
「ええーっと……どうやって、ですか!? どこから逃げれば」

『塀伝いに進めッ!家の後ろ側に回り、裏から抜け出すのだッ!
 音を立てないように……しかし、とにかく速く!急ぐのだッ!』

ドッピオは命令通り、ゆっくりと塀伝いに進んでいく。
「今、家の裏に回ります、ボス……!」

『よし、とにかくあのエルメェスから退くのだ。そろそろ一分だッ……!
 あの女は、決してお前を信用してなどいな……!』

ボスの言葉が終わる前に、ドッピオの体は、ぐい、と動いた。
(何ィッ!)
いや、動かされた。ドッピオは、何かの力に体を後ろ側に引かれ、それは凄い勢いで――!
尻を先ほど体を隠していた部分の塀に強くぶつけ、そのままドッピオは、体を動かせないッ!
何かの『力』が、僕の体を引っ張って、塀に『磔』にしているッ!


  * * *

エルメェス・コステロは、スタンド『ザ・キッス』のヴィジョンを背景に、
鬼気迫る表情で呟いた。

「『ザ・キッス』……お前のズボンの『ボタン一個』は、既に分裂させて『二つ』にしている。
 逃げようとしていることは分かっていたぜ。そのバレバレの演技で……」

一歩、民家に向けて進み出る。

「『一分』経った。その瞬間に分裂したお前のボタンからシールを剥がして……。
 二つのボタンは元に戻ろうとする。しかし『塀』が邪魔をする。
 二つのボタンはお互い近づいていくが、間の塀のせいで、そこに固定されたままになる。
 お前のズボンも……お前も……その裏側にな」

エルメェスの手から離れたボタンは、塀の一つの箇所に張り付いている。
その裏にもう一つのボタン、つまり『ドッピオ』がいるのだ。

「ま、万が一、『本当』って事もあるだろうがな……!
 それでもこの野郎にはこれくらいの『賭け』は必要だぜ」

エルメェスは素早く塀の中に回り込んだ。
やはりッ!そこには(トイレ中などではない)ドッピオが、塀に『磔』にされている。
慎重に近づいていく。まあ、妙な動きをしたら『ザ・キッス』をブチかますだけだ。
それにしても、コイツ、何か体が大きくなっているような……?

「てめーーーーッ!何者なんだッ!嘘付きやがって!
 正体を教えやが――」


 * * *

エルメェスは自分が地面に、うつ伏せに倒れていることに気が付いた。
腹部に痛みを感じる。いや、これは――痛みなんてモンじゃねえ。
『腹』を、ブチ抜かれている。ドテッ腹にデカイ穴を開けられて、体が思うように動かねえ……!

(……く、糞ッ……!やられちまった……!)

視界に小僧の姿が見えねえ。誰もいねえ。あたしのスタンドが解除されちまったせいで、奴は『磔』から脱出して逃げた。
そしてあいつ……ドッピオはスタンド使いだったんだ。最初からあたしを騙していたって事か。
大嘘吐き野郎がッ!
それもとんでもねえ『パワー型』のスタンド……!

(しかし……いつの間に?)

一つの疑問が過ぎる。速い。速すぎる攻撃だ。『ザ・キッス』だってパワー型。
『磔』にされちまってるような奴に、遅れを取るとは思えねえ。一体、どういう攻撃なんだ、ドッピオのスタンドは?

(畜生……誰かに、伝えなくては)

奴にも何か問題があったことは確かだ。あたしに止めを刺せなかった。
とっととトンズラをする必要があった訳だ。
結果として、あたしの腹には穴は開いているが、後、一分程度は動ける……か――?
その内に、参加者の誰かに『ドッピオ』を伝えるのだ。奴の恐るべき能力を。

エルメェスは腕を動かして地面を這って進み、『塀』の外に出ようとした。
誰かが通り掛ってくれれば。あたしは死ぬだろうが、あの恐るべき少年を倒すための『策』を『推し進める』事は出来るだろう。

這い進み、外部まであと1メートルの所で、体力の限界を感じる。
腹から漏れ出す大量の血液は地面を濡らしていく。意識が薄れていく。
それでも地に爪を立て、エルメェスはじりじりと進み続ける。

(糞ッ……こんな状況で……ワケ分かんねえまま死ぬのかよ……!)

エルメェスはなんとか道路側に這い出た。渾身の力で首を回して周囲を確認する。
視界がぼやけている。しかしエルメェスは見た。
学生服を着て、誰かを抱えている一人の男が、自分の姿を見つけてくれたことを。


 * * *

「糞ッ!逃げ切ることが先決だったため……!
 エルメェスに完全なる止めを刺せなかったッ!」

住宅街の中を、南に向かい走り続ける男。
筋骨隆々とした肉体をレース網だけで覆っているその男こそ、ドッピオを始めとするギャング組織『パッショーネ』の頂点に位置する絶対存在、ボス――ディアボロだった。

「まあそれは大した問題ではないかな……!
 腹をブチ抜いてやった……もう死んでいるはず」

ディアボロは周囲を確認し人気が無い事を確認すると、一つの民家に侵入した。

「エルメェスのスタンド能力が……ドッピオを塀に『磔』にした瞬間から、
 私が『出て来る』準備はしていたが……!ギリギリだったな」

民家には誰もいなかった。ディアボロは奥の部屋に入り込む。

「ドッピオに教えてやらなくては……!この『街』に存在するスタンド使いの密度。
 『私はスタンド使いではない』と言い張ることの出来ない状況が近づいている事。
 エルメェスは騙せたが……あの方法ではブチャラティは騙せん」

ディアボロは死角の無い場所を探すと、そこの床に座り込んで
ぶつぶつと独り言を続ける。
デイパックから参加者の帳簿を取り出し、内部を確認する。

「やはりッ!『ヴィネガー・ドッピオ』の名前が無いッ!迂闊だったッ!
 これから考えなくてはならない……他の参加者へのドッピオの『偽名』ッ!
 さらに、『何故ドッピオの名前が無いか』に対してのドッピオへの私の説明ッ!」

デイパックから飲料水を取り出し、水分を補給する。
さらに地図、ナイフや奪った拳銃を確認する。

「もっと深い考慮が必要だ……!この『ゲーム』を生き残るためにはッ!
 ドッピオを使い!いかにして生き残るかッ!
 そして……!」

ディアボロは一枚の壁を見た。いや違う。その瞳は壁の『奥』を見ている。
その『方角』を見ている。

「『トリッシュ』ッ!近いッ!非常に近いッ!
 どんな因果か分からんが……!やはり最初に始末するべきは奴だッ!
 絶対に逃がしはしないッ!ドッピオを使い……!完全に始末するッ!」

日光の当たらない暗闇の中で、まるで吸血鬼の寝床のような場所で、ディアボロは思考を続ける……。


 * * *

とてつもなく運が良かった。
近づいてきた学生服の男のスタンドが気絶しかかっていたエルメェスの体に触れた。
次の瞬間には、エルメェスの腹の傷は完全に『治っていた』。
そいつは『治す』スタンド使いだった。
それも見ず知らずの血濡れの人物にその能力を行使したのだ。
「超ラッキー!」とでも言いたい状況だったが、その男の持つ雰囲気は、エルメェスにそう言わせることを拒んだ。
ぼやけていた視界が回復し、男はエルメェスを『治している』最中にも、涙を流し続けていることを理解したからだった。

エルメェスはこれだけ言った。
「ありがとよ……恩に切るぜ」

大男を担いだその男は、ぼそぼそと語り掛けて来た。その表情は虚ろだ。
「生きてりゃこんなに、簡単に治せるのによ……。
 死んじまった奴の『命』はもう、治せねえ。つまんねースタンドだよな、ったくヨォ……」

エルメェスはそこで初めて気付いた。担がれている男の体には、既に『生気』が宿っていない。
聞くべきではない、と思いながら、既に口は開いてしまった。
「そいつは……知り合いなのか?」

学生服の男は首を振って、エルメェスの問いに答えた。
「いいや、この糞ゲームで初めて出会った奴だ。
 初めて出会った奴だよ……。こんな奴、俺は知らねえな……」

男はしばらく黙った後に、こう続けた。
「でも、妙な親近感があんだよ……まるでこいつがさっきの放送で呼ばれた、
 俺の親父、ジョセフ・ジョースターであるかのようにな……」
男は、泣き続けていた。

【民家(H-04)/一日目/朝】
【ディアボロ・ドッピオ】
[スタンド]:『キング・クリムゾン』
[状態]:疲弊
[装備]:DIO様の投げナイフ、ミスタの拳銃
[道具]:支給品×2、またプロシュートの支給品から食料等をゲット
[思考・状況]
1:民家に潜み、体力の回復を待つ
2:ドッピオに対する指令、作戦を考える
3:トリッシュを最優先で始末する
4:ブチャラティ、ジョルノ、ナランチャ、ポルナレフ、リゾットを始末する
5:空条承太郎を警戒する


【住宅地(H-03)/一日目/朝】
【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[状態]:良好
[装備]:ライフル
[道具]:ドル紙幣等に加え、大量の石ころ
[思考・状況]
1:誰かにドッピオの秘密を伝える
(パワー型スタンドの持ち主である事。二重人格である事は知らない)
2:仗助に疑問を持つ
3:ジョリーン、F・Fと合流する

【東方仗助】
[スタンド]:『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:四部終了時
[状態]:悲しみと荒木への強い怒り。右太股にツララが貫通した傷(応急手当済み)歩行に少し影響。
ジョセフの体を担いでいる。
[装備]: 無し
[道具] 支給品一式、小型時限爆弾、スコップ
[思考・状況]
1:目の前の男(ジョセフ)を霊園に埋葬する
2:億泰たちを探す
3:打倒荒木!

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時系列順で読む


キャラを追って読む

29:ドッピオ、兄貴と戦う ディアボロ 74:一期一会
29:ドッピオ、兄貴と戦う エルメェス・コステロ 58:片思いは朝日を浴びて
42:灯台もと暗し 東方仗助 58:片思いは朝日を浴びて