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「フゥ……フゥ……ハァ……!」
明るさが増してきた静かな町の中を、のろのろと、上部の金属板が歪んだ車が進んでいた。
その運転席に座るのは、十字架の描かれた服を着る色黒の男、エンリコ・プッチ神父。
顔にはおびただしい量の汗が浮かんでいる。そのハンドルを切る動きさえ、おぼつかない。
(やはり……マズイ……ダメージが、大きすぎる)
体中に痛みが走っていた。当然だ。腹と腰の銃創からは血液が漏れ続けていたし、右足の骨がバラバラに砕けている。
痛覚の『DISC』を体から抜き取ることも考えたが、気を抜けばすぐに途切れてしまいそうな意識状態を考慮すると、
全身に痛みの走っていたほうがまだ『マシ』だ。
(死ぬわけには……いかない……。『天国』へ……私は……行かなくては)
市街地の中、車は十字路に到達した。神父は地図を思い出す。病院までの道のりを。
(ここを、右……)
周囲を視線だけで確認する。
走行を開始してから一人の姿も見えなかったが、用心に越したことはない。
そう、用心に越したことは……少ないがやはり起こり得る可能性についての。

(いた……!)
遥か遠くに、3つの人影が確認できた。何者なのか?それは薄闇の中で遠すぎて、良く分からない。
しかし、なんということだ、彼らの姿は神父の進行方向である、『右』の道におり、影はほんの少しづつ大きくなっていき……!
こちらに、向かってくるではないか!
「クッ……!」
病院までもう少しというところで、邪魔が入った。
今の怪我の状態で『参加者』と鉢合わせるのは危険過ぎた。それも3人ならば、まず戦って勝ち目は無いだろう。どれだけの危険人物がいるか?
(後進し、迂回する……!)
細心の注意で、ゆっくりと車の向きを回転させ、地図の経路を思い出し、修正しながら、『3人』から逃れる道を選ぶ。
(これは『試練』だ……私は……)
全身からさらに汗が吹き出る。研ぎ澄まされる精神のせいで痛みが引いた気さえする。
しばらく行くと……見つからずに済んだのだろうか?何者かが追ってくる気配も無く、再び無人の街を、静かに車が走り続ける。

「フゥ……フゥ……!」
神父は安心し、深く息を付いた。危険な状態であることには変わりないが。
(この、道)
目の前で道が分岐している。病院までの道のり。
(あの場所で迂回したから……ここは、左、に曲がるんだったか……?)
神父のハンドルを握る腕が、震える。
(クッ……!)
アクセルを踏みすぎた。車が塀にぶつかりそうになる。咄嗟に左足を動かしブレーキを捕らえ、車は停止した。
「グ……ハァ……ハァ……!」
血液はただ胴から漏れ、神父服を濡らしていく。すでに座席は血の海になっていた。
(ヤバイ……意識が……グッ……!)
視線が上を向きそうになる。『気力』のみで、眼球を前方になんとか留める。
薄暗い街を、車はゆっくりと進んでいく。



(DIO……君は今、どうしている?)
エンリコ・プッチは運転しながら、教会に響いた、あの良く通る声を思い出していた。
(私は……)

空条承太郎に倒されたはずの『彼』がどうして、あの場に存在していたのか?それは分からない。
しかし、それは参加者名簿に書かれている――神父自身が刑務所で銃殺したジョンガリ・Aや、
突然行方不明になった(恐らく倒された)スポーツ・マックス――についても言えるだろう。
死者が復活し、再びの生を奪い合う不可解なゲーム。異様な能力を持つ『アラキ』という男。
やはり『天国』への最後の試練ということなのか?
――何にせよ、重傷を負い、病院を目指す事のみを考えているプッチは、今その問題について深く考えることは出来ない。

(もう、本当に終わりかもしれない……)
プッチは朦朧とした意識でアクセルを踏みながら、教会のあの声と、はるか過去の金髪の男の姿を思い出していた。

そもそも、この状況でどうやって『天国』へ行くというのだ?
ここまでの重傷は、プッチの生涯で初めてのものだった。スタンドを自由に動かすことさえままならない。
銃が何発も貫通している……病院に行ってどこまで治せる?『ゲーム』の中で、何ヶ月掛かる?
いや、病院に行ったところで、『参加者』のスタンド使いが待ち構えている可能性だって。
もう……敗北のようなものじゃないか。
(駄目だったかな、『天国』に、私では……?)
唇から、血が漏れる。内臓を大きく損傷していた。今生きて運転していることが不思議なくらいだ。
(最後に…ほんの少しでもいい)
大きく息を吐く。

(君の姿を見せてくれ……DIO……)




ギイッ……。

「……」
神父の運転する車が、路上で、止った。
意図して止めたのではない。アクセルは、半ば投げ出されたように踏まれている。
この機械を力動させるためのエネルギーの源である、『ガソリン』が、切れたのだ。
そして……車の停止は、燃料の限界であるとともに、神父の体力の限界も決定付けた。
「……」
座席に乗って、呆けたような目で、ただ、前方の路面を見つめている。

が。

そこに、デイパッグが置かれていた。『参加者』に渡されるもの。
まるで、それを渡された誰かが、「こんなもの必要なし」と、投げて捨てられたようにして、置かれていた。
さらに、その隣に『なにか』が撒き散らされていた。
糸だった。糸の集まりだった。糸の集まりが何故か路面の上に、一つの文様を作り出していた。
『馬』だった。
糸で作られた奇妙な馬のオブジェは、夜の明ける街の中、まるで落書きのように置かれていた。



それは、DIOの側近、ヴァニラ・アイスに渡されたランダムアイテム。『ゾンビ馬』。説明書きまで付いて。
忠実なヴァニラは主人の行動に習い、全ての支給品をスタート時点であるこの場所に捨てていた。

――しかし、これほどの偶然が起こり得るのだろうか?
今、プッチ神父が最も求めていたものは――『天国』を除いては――深く傷ついた肉体の短期間での回復。
彼は命が途絶える間際の、ギリギリの、ギリギリで、得られぬはずのそれを手に入れた。
『偶然』車を迂回させ、そこに居合わせ。『偶然』そこでガソリンが枯渇し、車は止まり……?


いや。違う。

それは『引力』だった。神父の精神と肉体に付随した、『あるもの』へ導かれる力が、奇跡的な可能性を切り開いたのだ。
捨てたヴァニラも、使うプッチも、惹かれるものは同じもの。ある一つのもの……。
『引力』は、そこに引かれていく。惹かれていく。
――帝王DIOという、中心に向かって。



「DIO……君なのか?君が助けてくれたのか?」

『馬』は、意外にも中々の効果を発揮した。この糸をホワイトスネイクの余力で肌に突き刺し、怪我に縫い付ければ、
傷口からの出血は数分で治癒し、さらにゆっくりと体力が回復していくのを感じる。
(しかし……完全回復までにはまだ時間が掛かるか)
全ての傷に糸は縫い付けた。右足の骨折にまで効くのかは微妙だったが、この道具の力を信じることにする。
どこかに隠れて、回復を待つ。そして……。
「私には……やはり『天国』への『引力』が……」
プッチ神父はもう動かぬ車から、右足を引きずりながら、よろよろと歩き始めていた。

夜明けが近づいていた。第一のアナウンスが。


【市街地(D-5)/1日目・早朝】
【エンリコ・プッチ】
[スタンド]:『ホワイトスネイク』
[時間軸]:刑務所から宇宙センターに向かう途中
[状態]:ホワイトスネイクの暴走状態:左耳鼓膜破裂、ゾンビ馬で回復中、なんとか歩ける程度
[装備]:無し
[道具]:デイパッグ(鋼の太いワイヤー、僅かのゾンビ馬(一つの怪我が治せる程度))
[思考・状況]:
1)どこかに隠れて回復を待つ
2)DIOには会いたい
3)ジョースター家の抹殺
4)天国への道を探し出す

 *D-5にガソリン切れの車が置かれました

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34:全てが噛み合わない エンリコ・プッチ神父 69:ディオ・ブランドー