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放送が終わった後の暗闇の中で一人の男がその目を開き、ゆっくりと立ち上がる。
やっとこの俺の時間が来る、と呟きながら。
放送の少し前に風の流れが伝えてきた『タルカスの死』という事実に心は動かない。
そのことはタルカス自身に最後の命令として言っておいたのだから。
こつこつと床を鳴らしながら入り口に向かう。そして……辿り着いた。タルカスの消えた場所に。
爆発の音はワムウがいた駅の奥にも聞こえてきていたし、爆発の証拠ともいえる焦げや抉られた地面がありありと残っていた。
勿論、柱の男と呼ばれる自分と如何に強くともたかだか屍生人であるタルカスには、戦闘術としても種族としても絶対的な差がある。
同情だとか感傷だとか、そんな気持ちには一切ならなかった。
ならなかった、が………ワムウは何故かそこで立ち止まる。
何故だかはワムウ自身にもよく分からなかった。
だがワムウは…どうしても、主従という関係を超えて、タルカスという男の生き様に敬意を払いたくなったのだ。
そう――ワムウ自身は知ることではないが…元の世界でジョセフがワムウの死に敬意を払っていたように。

「貴様も自分の戦いに誇りを持って死んでいったのだろう。いいだろう……褒めてやる」
ほんの僅かな時間、タルカスに対する最初で最後の賞賛のために立ち止まったワムウだったがすぐに向き直る。
駅の出入口…いや、ワムウにとっては無限に続く闇への入口だろう―――その先に広がる町並みを見据え、歩き出した。
入り口に近付くとほんの僅かな風がワムウの身体を通り抜ける。
普通の人間だったら―――いや、人間を超越した者たちにも気付かれないようなごく僅かな風。ワムウの流法が風だったからこそ感じる事の出来た風。
それは…“ここから離れていく動きがある”事を告げていた。
「ほう……自分達の実力を十分に理解し、俺から離れようとした判断はなかなかのものだな」
半日間の日光による束縛から解放された喜び、戦うことの出来る相手の存在に知らず知らずのうちに口元が歪む。
「どれ……まずはこの逃げていった奴らを追うとしよう」
ふと視線を落とせばそこには何かの車輪――ポルナレフたちが乗っていったバイクのそれだが――の跡があった。
この長く続く車輪の跡、それはワムウにとっては敵が身近にいる幸運であり、去っていったポルナレフたちにとっては勿論、強敵が追ってくるという不運であった。
その跡の方を辿るように駅から一歩踏み出す。実に半日ぶりに、空気の層によって身を守ることも無く自由に外に出られたのだ。頬を撫でる風がワムウの闘争心をさらに煽る。
コキコキと肩をならしながら準備運動も兼ねて手近にあった柱を軽く小突く。それだけで柱はがらがらと音を立てて崩れ去った。
ふん、と鼻を鳴らしたワムウだったが背後に迫り来る気配にゆっくりと振り返る。

「……お前か」
そこにはタルカスが最期に西の入り口に放っていた吸血馬が近付いてきていた。
吸血馬がワムウの元に歩み寄り、ブルルッと鼻を鳴らす。彼もまた、この暗闇に対する気持ちの昂ぶりが抑えられなかったのだろう。
「ふん―――良いだろう。行くがいい。ここから北東に逃げていった人間どもがいる。この道沿いに行けば追いつく筈だ。お前の足ならそれほど時間はかからないだろう。“お前が”行くのだ」
そうワムウが言い終えるとまるで『分かった』とでも言うかのように小気味良く鼻を鳴らす吸血馬。
「よし…―――――行け」
そう言って吸血馬の背を軽く叩く。その合図を待ち望んでいたかのように、吸血馬は場の空気が震えるかという程の声で嘶き、全力で走り始めた。
―――……ワムウをその背に乗せずに。
勿論これは予想していたことである。と言うよりもこれがワムウの“戦略”だった。
同時にワムウも走り出す。吸血馬の走りに勝るとも劣らない脚力で大地を蹴り続ける。世が世なら、この足で大陸を横断し群衆を沸かせる事が出来ただろう。
およそ30m程走ったところでワムウが吸血馬に並ぶ。だが、ワムウ自身このまま病院まで自分の脚力を使おうとは考えていなかった。
たん、と軽く地を蹴りやや上方に飛ぶ。着地点には吸血馬がペースを落とすことなく走っている。
宙に浮くワムウと地を駆ける吸血馬、その距離は次第に縮まっていき、最後はワムウが吸血馬の背中に直立する様な形になった。
だが、ワムウの足が吸血馬の背に触れたその瞬間、その足がずぶずぶと吸血馬の体内にもぐりこんでいったのである。


この能力は、ワムウに限らず“柱の男”と呼称される人間たちには造作の無いことだった。
「吸血馬を使う戦いでは結局こうなるものなのだな」
腹部まで埋まってきた時にワムウはどこと無く嬉しそうにそう呟く。ジョセフとの戦車戦でとった戦術を、今回はこの街で同様に行おうとしているのだから。
だが、吸血馬の体内に潜りながらワムウは自身の違和感に気が付く。潜り込む速度が落ちてきていたのだ。
周辺を見回したワムウは…その疑問をすぐに解消出来た。ワムウが振り返ったところに吸血馬の鞍が付いたままとなっていたのだ。
ふう、と息をつき、吸血馬に刺激にならないように鞍を外し、後方に放り投げた。吸血馬の速度と放り投げた勢いが相乗し、瞬く間にチャリオットは見えなくなっていった。
鞍を外す間もワムウが潜り込むのは止まらなかった。やがて…胸、腕、頭部と潜り込み、ワムウの身体は一切見えなくなった。
一方の吸血馬は鞍を外された事にも潜り込まれた事にも気付かず、一目散に北東へと向かって走り続ける。
―――ワムウは知っている。
“C-4の病院に集まる人間が多数いる”という事を。
タルカスとポルナレフたちが戦っていた間、ワムウもただ黙っていた訳ではない。
額から触角を出し、風の流れを“情報”としてその身体に取り込んでいたのだ。
戦っていた人間たちの呼吸、爆発の規模、戦闘中のそれぞれの立ち位置までも寸分狂わず把握していた。
そして……人間たちの会話さえも空気のささやきを介して聞いていたのだ。
(身体を晒し吸血馬に乗って行ってもいいのだがな…相手の油断を誘うなら裸馬一頭の方が良いだろう。
先の人間たちがこいつを見てどういった対処をするのかは一種の賭けだが…出来ればこのまま病院に行きたいものだな)

宵闇に浮かぶ月を背に吸血馬が一頭。目指すべきは北東。狙う獲物には不足は無い。
吸血馬の体内でワムウは知らず知らずの内に歪む口元を抑えきれずにいた。


【杜王駅東北の道(E-4)1日目 夜(19時20分前後)】


【ワムウ】
[モード]:『風』
[時間軸]:首だけになり、ジョセフが腕を振り下ろした瞬間
[状態]:健康。服は焦げている。吸血馬の体内にいる
[装備]:無し。
[道具]:無し。
[思考・状況]
1)病院に向かう。
2)病院に1番最初にたどり着き、待ち伏せをして戦いたい。
3)その為に吸血馬の脚力と体内に潜り込む能力を利用している。
4)戦いを楽しみつつ、優勝を目指す。
[補足]
1)支給品は駅内部に放置しました。
2)吸血馬の体内に入っているワムウに視覚があるかどうかは不明です。

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106:インタールード(間奏曲) ワムウ 120:戦士たちの戦い