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「――アヴドゥルッ!」

何が起こったのか、全く理解が出来ない。
確かに眼前に存在していたはずの、闇の帝王――DIOの姿は、“いつの間に”やら消失していた。
その上、我が仲間の承太郎も“いつの間に”か部屋の隅に移動し、私に向けて呼び掛けている。
私はたった今、彼と共にこの屋敷の奥に潜む、DIOの姿を目撃した筈なのだ。
しかし――上手く説明が出来ないが――“次の瞬間には、承太郎は移動し終わっていた”。
DIOに攻撃され、私は暫くの間気絶していたのか?
いや、有り得ない。
私は一切の攻撃を受けていない。一ミリたりとも、『たった今』から移動していない。
承太郎と共にDIOを探索し、結果奴を発見した。私が行った行動は、たったそれだけだったのだ。
戦闘は、始まってさえいないはずなのだ。

なのに……。

“何故、承太郎の衣服には生々しい血飛沫がこびりついているのだろうか”?

「これは――!?」
「説明する時間はねえッ!
 今から俺が言う通りにしてくれッ!」
『――あーテス、テス――』

開始された荒木の放送を背後に、承太郎が私に向けて叫ぶ。
その怒気と勢いに押されて、私はつい頷いてしまう。
何が起こっているのか、未だに分からない。
事態は切迫しているらしい。“いつの間に”なのだろうか?
部屋の奥の壁に、人が入る程の巨大な穴が開いているのが見える。

「“『ヨーヨーマッ』の主人を、これよりモハメド・アヴドゥルに変更する”!
 アヴドゥル、『同意する』と言うんだッ!」
『――ピザ……ピザ、モッツァレラ♪――』
「ど……同意、する」

訳が分からぬまま、承太郎の言う通りにする。
今の言葉の意味は何なのだろうか? DIOは何処に行ったのだ?
私がその言葉を言い終えると、承太郎は大きく頷き、
部屋に開いた風穴に顔を向けた。

『――レラレラ……ふう、大丈夫だね――』

状況は依然全く飲み込めない。彼は何をしているのだ?
如何なる事態が我々に起こっている?
これがDIOのスタンド能力なのか? 超スピードか、あるいは幻覚か?

「待て、承太郎、一体これは何――」

私が承太郎に向けて、疑問の全てを言い終わる前に……。

承太郎の姿は、一瞬にして消滅した。

*  *


『その記念すべき瞬間に、また私の声が聞けるといいね―――』
荒木による、第三の放送が終了した。

「…………」

私は、承太郎が存在していたはずの場所を呆然と見つめ続けていた。
今現在も、承太郎とDIOに何が起こったのか理解出来ない。
大切な放送の内容も、殆ど聞き逃してしまっていた。

ただ一つ私が理解している事実は、
『承太郎とDIOは、一瞬にして消え去り、この家から離れた』と言う事だけだ。
何故彼等がこの家を離れたのかも、どの方角に行ったのかも分からない。
全ては、私の理解の及ばぬ境地にあった。

「…………」

私は、考えるのを止めた。
幾ら思考を巡らせても、答えが出そうに無いからだ。
DIOのスタンド能力の正体、それに対する承太郎の行動……
仕方が無い、私が知らない背景が多過ぎるのだ。
思考を止めると同時に、苦い思いが私の胸に吹き上がる。
必然的に、私の心を支配するのは一つの感情――失意に取って代わる。
……生き延びて、しまったのだ。
夜の影が差し掛かった、音も誰の気配も無い屋内で、
私はただ一人で、そこに勃然と存在していた。
自身に刻まれている≪運命≫を、私は呪った。
浅はかな、実につまらない一つの『誤解』の為に、
このモハメド・アヴドゥルは余りにも多くのものを壊し過ぎた。
闇の中にあった私の心を呼び覚ましてくれた承太郎。
彼に報いるために、忌まわしき宿敵、DIOとの対決――
この闘いにおいて、自らの命を捧げてでも、彼を助けるつもりだった。
だが……私は、生き延びてしまった。
あのDIOに、一撃さえ与える事も叶わずに。
文字通り、手も足も出ないまま、何も出来ずに。
気付いた時には、事態の全ては私の前から過ぎ去ってしまっていた。
私は蚊帳の外だった。『決意の戦死』さえ出来なかったのだ。

『――どうしたのさ、モハメド・アヴドゥル君?
 らしくもなく考え込んじゃってさぁ。そんなのは君のキャラじゃないよっ。
 何が起こったのかは、ぼくにもサッパリ分からないけどさぁ、
 とりあえずはこの屋敷から離れて、もっと人のいる所に行こうぜ?
 そう、他人が集まっている――『背中を見せる事ができる相手』のいる――場所に向けてさぁ。ねっ?』

背中で喚くのは一体のスタンド。何処までも本能に忠実な、不気味な怪物。
私は鼻で笑う。皮肉な事だな。
DIOも承太郎も消えたこの静かな場所で、唯一の『他者』と言う訳か、コイツは。

「フンッ……たまには正しい事も仰るじゃないか、相棒。
 私もその気持ちは山々だがな……では一体何処に行けというのだ?
 承太郎も、DIOも消えてしまった。彼等が何故この家を離れたのかさえ、私には分からんのだぞ?
 ……そもそも“あれ”は一体何だ? DIOも承太郎も、“気付いた時には既に消えていた”。
 この事態は何なのだ? 全く理解出来ない」
『そんな事は、ぼくも知らないよっ……!
 とにかく、ぼくはアンタを喰い殺して、違う奴に乗り移りたい。それだけだよっ』
「……チッ」

私は後悔する。状況に気が動転しているのだ。
こんな『ハズレアイテム』に意見を仰いでも、意味は無い事なのは明白なのに。
DIOと対峙できなかった、“外部に置かれてしまった”事実が、私を苛立たせていた。結果、躊躇いも無く見解を語ってしまったのだ。
私は自身の本心を理解する――情報が欲しいのだ。この街や、参加者や、仲間に付いての、様々な情報が。
何か良い手立ては無いものか……とりあえず、私は今自分がいる、この部屋の様子を確認しようとした。

『――ふむ、そうですね』
「……!?」

突如聞こえた、何者かの声。
私は声の聞こえた方向を仰ぎ見る。

『……こうして二人で話すのは初めてですかね?
 モハメド・アヴドゥル様』

私の隣にあった椅子に、奇妙な容姿を持つ生物が座っていた。
何故か承太郎の隣にいて、ずっと我々と行動していた奴だ。
気に止めていなかったが、一体コイツは何者なのだ?

『――私にも、何が起こったのかは把握出来ていません。
 恐らくだんな様と同じ程度の『実感』しか無いでしょう。
 私の『元だんな様』……空条承太郎様と彼の宿敵のDIOは、
 “この屋敷から去り、何処かへと行ってしまいました”。
 私が見知った事実は、それだけです。私には知覚関連の特殊能力はありませんからね。
 ですが、この部屋に色々とヒントはありそうですよ。例えばあの大穴……』

そいつは、ペラペラと私に向けて講釈を始めた。
私は当然の質問で、それを断ち切る。

「おい……少し待ってくれ。
 お前は、一体何者なんだ?」

こいつは……何だ? スタンドなのか?
では本体は何処にいるのだ? スタンドが意思を持ち、自動的に動いていると言うのか?
そんな事が有り得るのか? そもそも何故承太郎と一緒にいたのだ? 疑問は尽きない。

生物は、平然とした様子で私に返答した。

『……私の名前はヨーヨーマッ。ヨーヨーマッです。
 だんな様――そう、あなた、モハメド・アヴドゥル様――に仕える、下僕ですよ』

 *  *  *

『……と、こんな所ですかね。さらに説明が欲しければ、いつでも何なりとどうぞ』
「うむ。大体理解したが……」

召使いスタンド『ヨーヨーマッ』が、自らに課せられた使命と制約を私に語り終えた。
メモ用紙に向かい、ペンを素早く走らせながら。
彼は放送の要約と、自らの推測を纏めて書き込んでいるらしい。

「つまり、我々が最後に見た際の承太郎の言葉は、
 私にお前――ヨーヨーマッの所有権を委託させるキーワードだった訳だ」
『はい。それは確かでしょうね。
 事実、私の所有権はだんな様、つまりモハメド・アヴドゥル様に移りました。
 だんな様、いえ、空条承太郎様……あの時、とても急いでいる様子でしたね』

それにしても驚いた。何よりも、このスタンドが自己紹介したその正体に。
自身、『魔術師の赤』を持ち、また多くのスタンド使いと接してきた私だが、
完全に本体の意思から独立し、行動するスタンドなど聞いた事も無い。
スタンドは、能力者の意思が形を持ったもの。
だから本体と共に存在し、意思を同一にするものと私は考えていたのだが、
そのような常識はもはや完璧に覆されてしまった。
今思えば、背中の『チープ・トリック』もこのタイプのスタンドなのだろうか?

我々はテーブルを前に椅子に腰掛けている。
その状態にて、二人――いや、一人と一体の対談は始まった。
メモを書き終えたらしく、ヨーヨーマッはデイパックにペンを戻している。

「早速、幾つかお前に質問をしたいのだが、良いだろうか?」
『ええ。何なりとどうぞ』
「では、まず疑問に思っていた事を一つ。
 承太郎は、何故お前との関係を切り離したのだと思う?」
『その答えは単純ですよ。
 承太郎様は私が邪魔になったのでしょう』
「……邪魔?」
『承太郎様はこの屋敷から、即座に移動する必要があったのですよ。
 『20メートルルール』は既に説明しましたよね?
 “私と所有者の距離が20メートルを越えた瞬間に、
 私の本体であるDアンGの首輪が爆発し、私は消滅する”。
 承太郎様が私を手放した理由が、それです』
「……?」
『分かりませんか。では話を進めましょう。
 『承太郎様が私の所有権を、だんな様に委託した』。
 この行動の、考えられる理由は三つ。
 理由その①。あの時の承太郎様に、私の身体を担いで移動する余裕が無かった為。
 強大なパワーを持つ『星の白金』の全速力でもって、
 万全の体制で、移動しなければならなかった事情が発生していたのです。
 理由その②。だんな様に所有権を移す事で、私にメッセンジャーの役割を担わせる為。
 承太郎様が屋敷を離れる以上、私をここに残して情報を渡しておいた方がいいと考えたのでしょう。そう、ちょうど今我々が話しているように。
 理由その③。承太郎様が、単純に私の存在を鬱陶しく思っていた為。
 ……まぁこれはいいですけど』
「……ふむ。
 では何故、あの時承太郎は私にそれらの理由を説明しなかったのだ?
 私にお前を押し付けて、すぐに行ってしまったじゃないか」
『はい、その点も重要なヒントになり得ます。
 つまり“私の主有権をだんな様に委託する訳を説明するだけの時間の余裕さえも、
 承太郎様は持っていなかった”のですよ。
 猶予は一刻も無かったのです。一瞬早くにでも、屋敷から移動する必要があった。
 そのような、切迫した状況に承太郎様はあったのです』
「……なるほどな」
『纏めてみましょう。
 承太郎様は、『全力で持ってして、すぐさまにでもこの屋敷から移動する必要があった』のです。
 そして、この背景から導き出される結論は、一つです』
「……なんだろうか?」
『“承太郎様はDIOを追っている”のですよ。
 逃走したDIOを追い、勝負の決着を付ける為に、屋敷を離れたのです』
「逃走……だと? DIOは逃げたのか」
『はい。推測する限り、ほぼ間違いないでしょうね。
 順番に説明しましょうか。
 まず、承太郎様の服に付着していた鮮やかな血液。
 あれはDIOを攻撃した事による返り血でしょう。
 あなたに所有権の交渉をした際に、
 承太郎様自身がダメージを負っている様子はありませんでしたね。
 そして、壁に開いているあの大穴。
 承太郎様の『星の白金』のパワーに関しては、私がこの肉体で持って体感しております。
 詳細に記憶していますよ……あの途轍も無い程のエネルギーを。
 あそこの真新しい穴は、『星の白金』の攻撃を食らい、
 吹き飛んだDIOが壁に激突して作られたものではないでしょうか?
 あの時、私が見る限りではDIOの姿は既に部屋から消えていました。
 『星の白金』のパワーや、前述の状況を重ね合わせれば、
 この推測が一番論理的に筋が合いますよね。
 結論を纏めます……DIOは承太郎様の『星の白金』に攻撃され、
 壁を突き抜けて屋敷の外部まで吹き飛んだ。
 深いダメージを負ったDIOは自身の戦力不足を感じ、
 屋敷から何処かへと逃走した。そしてそれを承太郎様が追った……こんな所でしょうかね』
「ううむ……隙が無い論理だな」

『ヨーヨーマッ』の洞察力と、その厳密な論に、私は非常に感心した。
自動操作型とはいえ、本体の特性はスタンドに加味されているだろう。
こいつの本体の『DアンG』とやらも、やはり相当に賢く冷静な人物なのだろうか。

「では、もう一つ質問してみようか。彼らはどの方角へ向かったのだろうか?
 是非私もDIOを追って、承太郎の手助けをしたいのだが……」
『そこまでは私にも分かりませんね……。
 まぁ、この屋敷の位置――【C-8】ですが――を考える限り、
 西から南の方角に逃げた可能性が高いのでしょうけど、大した有用性は無い話です。
 恐らく、移動方法はスタンドのパワーを利用した極めて高速なもの。
 だんな様が今から追い付くのは難しいでしょう』
「ふうむ……」

結局私は蚊帳の外、と言う訳か。
私はヨーヨーマッに、続けてある疑問を呈する。
恐らく彼にも理解不能なのだろうが、彼が感じた、彼なりの印象を聞くだけでもいい。

「では、最後の質問だ。ヨーヨーマッ、お前は『あの状況』をどう思う?
 お前も実感していたんだろう? DIOの姿は、“何時の間に”か消えていた。
 それに承太郎も一瞬にして……消失したように見えたぞ」

正直、これが今最も自分が気になっている点だ。
ヨーヨーマッは平然と二人の戦闘について言及しているが、
それでは“私がDIOを発見した直後”に既にDIOと承太郎は一戦を交えていた事になる。
承太郎の『星の白金』のスピードが驚愕すべきものとは言え、幾らなんでもあれは速過ぎるだろう。
あの時の私の実感――今思い返しても、明らかに妙な矛盾がある。
私が一時的に気絶していたようにも思えるが、
前述した通り、その可能性は有り得ない。私はただそこにいただけだ。

『ああ――『あれ』ですか?
 え、だんな様、もしかして……ああ、そうなんですか?』

何故かヨーヨーマッは私の質問に首を傾げ、少しの間何かを考えていた。
そして彼の返す言葉に、私は驚愕し続ける事になる。

『だんな様、もしかして知らないんですか?
 DIOのスタンド、『世界』の正体を。
 “この世の時間を停止させ、その中を自由に移動する”能力を』
「は……!?」
『私もだんな様の反応が何かおかしいと思っていたのですが、そういう事だったのですね。
 承太郎様は私に話してくれたのですが……だんな様は『世界』の能力を存じておられなかった、と』
「……?」
『なるほど、大体掴めて来ましたよ。
 承太郎様は以前、だんな様を始めとする“既に死んだ人間”がこの街に呼び出されている点に疑問を持っていました。
 しかし、残念ながらつい先ほど亡くなられてしまったツェペリ様や、ポルナレフ様達との情報交換で、
 その謎に対する解答は、“荒木が異なる時代、時間から我々を呼び寄せている為”だと決着しました。
 だんな様は、承太郎様がDIOに会う直前に部下の手によって亡くなられたらしいですね。
 つまり、それ以前の時間から、荒木にこの街に呼び出されている。
 そう考えてみれば当然ですよね、『世界』の正体を知らないと言うのも』
「……おい、さっきから何を言っているんだ!?
 DIOの能力とか、異なる時代とか、既に死んでいるとか、訳が分からんぞ……!」

『ヨーヨーマッ』の語る全ての言葉に混乱する。
私が叫ぶ様に言うと、奴はめんどくさげに溜息を付いた。

『はあ……全く知らないらしいですね、様々な事柄を。
 では、一通り説明しましょうか。幸い時間はありますし……。
 私と承太郎様の出会いと、これまでの経緯を話しましょう。
 そして『荒木のゲーム』について判明している事実を』

――ヨーヨーマッは私に語り始めた。
まず、参加者たちが、時空を超えて集められていたという真実。
そしてあの教会から街に飛ばされてから、ヨーヨーマッを連れた承太郎が出会ってきた人々。
承太郎がJ・P・ポルナレフ達とチームを結成し、打倒荒木を目指し行動し始めた事。
荒木に召喚され命を落としたジョルノ・ジョヴァーナという少年が、ポルナレフに託した荒木の能力の詳細。
承太郎が集合の号令を伝える為に、街の西部へと移動し、
途中出会ったジョージ・ジョースター達の情報を頼りに、DIOの潜むこの屋敷に向かった事。
そして私との対決……。
その全てが実に興味深い内容だったが、
特に目を引いたのは、あの波紋戦士ダイアーについての話だった。
『ヨーヨーマッ』によれば、彼はスタンド使いに憎悪を抱き、参加者への無差別攻撃を行っていたらしい。
旧友のツェペリに諭され改心したらしいが、その時彼は、既に二人の参加者を葬っていた……。
私は深く後悔する。
スタンド使いを憎む切っ掛けを作り、彼を殺戮者へと変貌させてしまったのは、他ならぬ私なのだ。
彼と行動を共にしていたあの時、私はもう少しだけでも彼の気持ちを汲み取れなかったのだろうか……?
幾ら悔やんでも悔やみ切れるものではない。

次に『ヨーヨーマッ』はDIOの能力、『世界』についての情報を私に語った。
“この世の時間を停止させ、その中を自由に移動する”……。
『世界』は私の想像以上に凶悪なスタンド能力だった。
私の『魔術師の炎』程度の能力が、対抗出来る自信が全く持てない。
先程、一瞬にして殺されていた可能性も十分に有り得たのだ。

「……いや、待て。
 時を止める能力については把握できた。しかしそれでは、説明可能なのはDIOについてだけだ。
 私の感覚では、承太郎も『停止した時』の中を移動していたようだったが」
『ああ、それですか。
 私も不思議に感じていたのですが、考えてみれば簡単な話ですよ。
 恐らく承太郎様も、同じ時間停止能力を使ったのでしょう』
「……何だと?」
『だんな様が本体を倒してくれた、あの『ハム状のスタンド』との戦闘中、
 承太郎様に時折“時を停止していた”素振りがありました。
 だんな様が知らないのなら、恐らくごく最近に習得した能力なのでしょう。
 『世界』と同様の時の停止こそが、『星の白金』に隠された特殊能力。
 そう考えればつじつまが会うんですよね……
 承太郎様が瞬間的に移動した事も、DIO程の実力者が易々と逃げ出した事も』
「なるほどな……」

承太郎の真の能力。それはDIOと同じ時の停止。
多少信じ難いが、それが恐らく真実なのだろう。
そうであれば、彼の先の行動にも納得できる……
DIOの無敵の『世界』に立ち向かえるのは、承太郎ただ一人だけなのだ。
対決の場に居ても殺されるだけだから、彼は私を引き止めていたのか。

「承太郎……」
私の心より溢れる感謝の思いが、遠く去ってしまった彼に届く事は無い。

 *  *  *

夜の風が、俺の全身に吹き抜ける。

『星の白金』の脚力にて、街の家から家へ、屋根から屋根へと飛翔する。
それは奴――DIOも同じ。夜の帳の中、50メートル程先で跳躍しながら移動を続けている奴の姿がハッキリと見える。

屋敷にて奴を吹っ飛ばしてやった際、DIOは俺が『止まった時の中を動ける』事に、少なからず動揺していた。
皮肉にも、奴が俺を殺す為に送り出した、あの『ハムスタンド』との戦闘が丁度良い訓練になったのだ。
最初は苦労したが……今はもう自由に時間停止が出来る様になったぜ。

……と。
俺と同様に街を跳ね飛んでいたDIOの姿が、一瞬にして奥へと移動した。
時を止められるのは、奴も同じ。
停止時間に関して言えば、奴の方が俺よりも少々長い。
つまり、二つのスタンドの脚力を同等と考えた場合、奴の方が移動速度は上。
このまま距離は広がるばかりか――チッ、厄介だぜ。
DIOは恐らく、事前に話し合い、何処かに潜伏している自分の部下と落ち合おうとしている。
部下と数人掛かりで、時を止める能力を持つ俺を攻撃するのが最善と判断しているのだろう。
だが、奴が仲間の元に向かっているのならば、奴が俺の能力に手を拱いている事実も意味している。
つまり、今が奴を打倒する最大のチャンスなのだ。
応援を呼ばれる前に。これ以上の被害者が増える前に。
一刻も早く、奴の肉体を完全に破壊しなければならない。

現在の俺達の座標は【C-7】辺りか。
『西』に向けて――あの屋敷から、DIOは西の方角に逃げ続けている。
恐らくこの先が、部下が潜伏している場所なのだろう。

「オラァッ!」

『星の白金』が全力でビルの壁を蹴り上げ、俺は弾丸の如き動きでDIOの元へと向かう。
このまま、思惑通りに逃げられてたまるかよ。
『真西』の仲間に合流するまでに、落とし前は、しっかりと付けさせて貰うぜ。

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103:帝王始動(後編)~覚醒 モハメドアヴドゥル~ 空条承太郎 115:『くだらない仕掛け その②』
103:帝王始動(後編)~覚醒 モハメドアヴドゥル~ モハメド・アヴドゥル 115:『くだらない仕掛け その②』
103:帝王始動(後編)~覚醒 モハメドアヴドゥル~ DIO 115:『くだらない仕掛け その②』