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H-7。
杜王グランドホテルからまっすぐ南下した位置。橋を渡れば工場が立ち並び、杜王港が見えてくる場所。
そして…15時以降、誰も入れない……入る事を許されない区域、禁止エリア。
その区域には今や人間どころか、一匹の鼠さえもいなかった。

そう………………『ルール』の上では。

実際にはそこには生きた人間が一人、息を潜めていた。
人間の名は虹村形兆。第2放送の後にブローノ・ブチャラティと意見を違え、死んだはずの人間。
しかし…実際は主催者打倒のためブチャラティに『処理』され、荒木の『盲点』となったのである。
彼は今ブチャラティの作った洞窟の終点…橋の真下のところで腰を下ろしている。
「そろそろ放送だな……」
ポツリと口を開く。それは形兆自身の耳にも入るかどうか、と言うかすかな声だった。
首輪がない以上会話することに問題は無い筈だが、いつ・どこで・誰が・どうやって盗聴しているともわからない状態だからである。
孤独でいることや荒木打倒の為への不安や恐怖は微塵も無い。それよりも『情報が入らないこと』の方が几帳面な彼にとっては不安であった。
もちろんこの数時間、ただボーっとしていたわけではない。
地上の…それも障害物が多く目立たないような位置にグリーンベレーや狙撃兵を極少数配備し、『目』の代わりとして警戒していた。
しかし地上に目立った動きは無く、ほとんどの時間をそれまでの状況の整理に費やしていた。
『………あーテス、テス……ピザ……ピザ、モッツァレラ♪ レラレラ……』
何度目になるか分からない考察を、もう一度整理しなおそうと思った矢先、運命の放送が始まった。
「フン…ピザの歌、か………俺が昔“矢”で射った音石が好んで歌いそうな歌だな……しかし、気楽な男だ。」
そう小さくぼやきながらも精神を張り詰め、放送に神経を集中させる。

*    *    *    *


「………よし。『呼ばれた』」
放送を聴き終え、形兆は息をつく。
自分が死者として呼ばれると言うのはどうも奇妙な体験だが、そう言っている場合じゃあない。
こうして晴れて『死人』になったのだ。自分に出来る任務を全力で遂行しなければならない。
まずは放送の考察からか………そう呟きながら形兆は自分の考えを整理し始めた。

「今回の放送で一番大きな内容と言えばやはり『主催者の参加』だろうな…」
まず形兆の頭によぎったのはその事だった。形兆自身もまさか荒木が参加するとは思ってもいなかったのだ。
よほど自分の力を過信しているか……はたまた本当に参加者としての優勝が出来る程の能力なのか……――
しかし、この宣言によって自分達のような『反ゲーム組』の人間の覚悟がより強くなるだろう、と言うことは十分に理解できる。
ブチャラティはどう動くのだろうか…?すでに自分のように誰かを『殺した』のだろうか…だとしたらこのエリアに来る人間は誰なのだろうか…?
もっとも、こうして形兆を『殺して』いる以上は軽はずみな行動を起こすことはしないだろうが………ここはひとつブチャラティに任せよう。
半ば自分に言い聞かせるような形で一旦の考察を終え、形兆は息をつく。
勿論考察している最中や放送の間も『目』を光らせてはいたが周囲に気配は無い。
このままでは頭と精神、どちらの力も消耗すると考えた形兆は一度配備についていた兵たちに撤収の命令を出す。
勿論、スタンドを引っ込めてその場から消すことも可能だが、自身の性格と『戻ってくるまでに何か見つけるかも』と言う可能性から、あえて撤収の命令を出した。

「次に禁止エリアだな」
部隊が戻ってくるまでの間も形兆の考察は続く。
今回は駅にホテル…後はここ、H-7からはすぐそばの川沿いの位置だった。おそらく参加者を動かすための荒木なりの計らいだろう。皮肉な野郎だ、と小さく漏らす。
しかし…橋に関してはここと隣接しているとは言え自身が動くことはかなり困難だろう。それは自分の能力と立場をよく知る形兆自身が一番分かることだった。
もし途中で誰かに出くわして『テメーなんで首輪してねぇんだアァ!?』なんて叫ばれたら一巻の終わりだろうし、大きな建物も無いこの近辺じゃあ隠れる場所も無い。勿論戦闘にも不向きだ。
もっとも…形兆はここから動く気などは無かった。この地下……と言っても橋の下だが……ここほど安全なところは他には無いだろう。もう一箇所も橋ではあるが無理をして移動することも無い。
それに………自分が下手に動けばブチャラティの『覚悟』を『裏切る』ことになる。そうなればブチャラティに申し訳が立たない。それだけは形兆自身、一番避けるべき事だと理解していた。
だがしかし……こうも人間が集まる場所を禁止エリアにされたらブチャラティも『殺人』を起こしにくいだろう。
まさか荒木が自分たちの行動に気付くとも思えないが……用心するに越したことは無いな。まぁ、とりあえずのところは問題ないだろうか。
禁止エリア内を動かないと決意した形兆にとっては、他のエリアなど、正直言って後でどうにでもなることだった。
次の放送の禁止エリア次第では自身の行動範囲も広がるだろうが今のところ優先すべきことではない。

放送に関する考察も残りは『呼ばれた連中』のことくらいだろう。部隊もある程度帰還し始めてきた。
15人も死んだと言っていたな。まだ日の出ている時間にその人数だ。夜になったらどうなることか……
それと…タルカスが呼ばれていたな。まさかブチャラティが『処理』したとも思えないし…おそらくは本当に死んだのだろう。
ミキタカを連れ去ったときのもう一人、ワムウの名は無かったが…どういうことだ?あの時の会話の内容からしてあの二人が仲間割れをして戦ったとも思いにくいが…
とにかく、自分の仲間たちは大方無事なようだな。それを確信した形兆は、軽く名簿に目を通しながら放送の内容を思い出す。
後は他に俺が知る連中は特にいないな。アンジェロを倒した仗助との身内らしい空条と言う人間もいたが承太郎ではない。名前から言って女。姉妹か…妻か、娘か……まぁ重要なことでは………―――

!!

名簿を手にしていた手が小さく震える。形兆は静かに深呼吸をし、もう一度その仮定について考える。徐倫と言う女の事ではない。『空条』と言う姓のことだ。
「……この放送で呼ばれた人間の順番は何だ?」

*    *    *    *


思わず大きな声を出しそうになった。もう一度だけ深呼吸をする。名簿に目を落とす。
――…五十音順ではない。ここまでは聞いていれば誰だってわかる。現に『にじむら』の後に『くうじょう』が呼ばれたのだから。
死んだ順番だろうか…?だが形兆が『死んだ』のは第2放送を聞いた直後だ。その後すぐにブチャラティに別れを告げたのだ、時間にして10分もしなかっただろう。
その僅かな時間に…自分の前に6人も死んだのだろうか……?放送の最中、それを聞き逃すほど戦っている人間もそういないだろうが……。
だとしたらこの『順番』は一体何だ?形兆は自分の思考を隅から隅まで思い出し、整理し始めた。
今回の放送に限らず、すべての放送の内容と名簿を照らし合わせながらひとつずつ考察を続ける。
自分がかつて『矢』で射った山岸由花子は第1放送で、この世界での再開を果たせなかった弟は第2放送で………―――
名簿を指でなぞりながら形兆の頭に疑問がひとつ、浮かんできた。
「なんだ……この名簿には『日本人が少なすぎる』じゃあないか!?
 しかも…必ず『外国人たちに挟まれるような形で名簿に載っている』だと…!?」
自分自身が何を考えているのかがまったく理解できなかった。
動揺と疑問で押しつぶされそうになる頭を何とか回転させ、整理する。否が応でも息が荒くなるが…どうにか落ち着かせ、言葉にして整理する。
「はあッ…はあッ……フゥ。らしくなく取り乱しちまったな。どれ、もう一度名簿を見てみるか。
 …フーム、どうもイギリス系の名前やイタリア系の名前が多いみたいだな。出身国順に並んでいるのか?
 しかもよく見てみりゃあイギリス人、日本人、イタリア人、という順番だな。多少の違いはあるみたいだが…何かこう『分類』でもされているかのような……?」
そう言いながらもうひとつの仮説を立てた。誰に話している訳でもなく、自分の考えをハッキリさせるため、ゆっくりと口を開く。
「俺たちは…どこから連れられてきたんだ?」

今まで殺し合いと言う過酷な状況下にあったせいか、無意識に放棄していた疑問に目を向ける。
「そうだよな……ブチャラティは外人だよな。ミキタカなんか宇宙人とか言っているし…本当にそんなもんが居るかは微妙だが…」
いくら形兆が頭がよかったとは言え、イタリア語…まして宇宙語など話せる訳が無かった。他の連中にとっても同じだろう。
その筈なのに、言葉で話す事も、筆談で…文字で会話する事も難なく出来たのだ。
これも荒木の能力のひとつの形なのだろうか……――?
「…くっ、しかし俺一人じゃあ結論付ける事は出来ない疑問だな。少し整理しておいて、あいつらと合流できた時に話す事にしよう。」
自分たちが他国語を意図も簡単に話せること、名簿の順番の意味など、疑問に残る点をいくつか書き記し、大きく息をつく。
ずっと頭を回転させていた形兆はその精神的疲労から、足を投げ出し橋脚に背中を預け……とても普段の形兆らしくない格好でゆっくりと休息をとり始めた。

*    *    *    *


程なくして、形兆の座っている足元には配備していた兵達が…極少数だったとはいえ、全員帰還し、整列、敬礼をして形兆の指示を待っていた。
帰還の命令を出してからはまったく指示を出していなかったにも関わらず、兵達は『部隊』としてきちんと整列していた。形兆にも無意識の行動…行動を起こしているかさえ分からなかった。
「……そうだったな。よし、一時解散だ。」
そう呟きスタンドを消す。普段の形兆からはなかなか見られない『ボーっとしている』状態だった。
形兆の『バッド・カンパニー』が広瀬康一の『エコーズ』のように意思を持つスタンドだったなら兵達のどよめきが口々に聞こえてきそうな程だった。
「あいつは無事だろうか……」

形兆は一通りの考察を終えた後、ぼんやりとそんな事を考えていた。
ブローノ・ブチャラティ。
彼ほどまでに『敵にしたら厄介で、味方にすれば心強い』と言う人間もそうはいないだろう。
形兆は、決してセンチな気持ちになった訳ではないが、彼の行動を思い返していた。
能力の分からない相手への自己犠牲的な単身での攻撃、臨機応変な戦い方、戦闘中でも自分を過信せずに相手の弱点を見抜く才能……
考えれば考える程、深みにはまっていく。ブチャラティは一体何者なのだろうか……
「…俺の、弱点…か……―――」
形兆が呟く。それは、ブチャラティに『殺された』時に彼の口から聞いたものだった。
『“几帳面過ぎる”それがお前の弱点だ。
 お前は隊列を整えて攻撃する場合、攻撃を受けて一旦隊列が乱れると、反撃する前に隊を再整列させずには居られない。
 しかし、それは致命的な隙を生む。
 几帳面さが生む隙を克服しない限り、お前は勝負に勝つ事など出来なかったのだ』
その言葉を思い返す。
―――反論出来なかった。いくら荒木を出し抜くための芝居だったとは言え、本気でやりあった相手なのだ。弱点も嘘ではない。
事実、ついさっきの『目』の帰還の時も、ほとんど無意識に部隊を整列させていた。
大きくため息をつく。今までスタンド使いになってからは1度も負けを経験したことが無かった形兆が、たった一日で弱点を突きつけられ、敗北したのは事実である。
少し考えて形兆は腰を上げ、スタンドを発現させる。美しい幾何学模様になった部隊が目の前に現れる。
「……これじゃあ駄目だな。あいつの言う通りだ」
恐ろしいまでに整列された部隊は、静かに指示を待っている。『兵隊は何も考えない』と言う表現がよく似合うだろう。
「よし、全部隊にこれから唯一の指示を出す」


部隊に緊張が走る。
「…今後は、部隊としてでなく、個人として自由に戦っていい。目標に攻撃さえすればどんな手段をとってもいい。自由に戦うんだ。」
そう形兆が言い終え、一呼吸すると、
「「「「「イー」」」」」
ときれいに重なった返事が返ってきた。何人が返事をしたかも分からない程の揃い具合だった。
「……あぁ、だからそうじゃあなくって、無理に部隊として揃わなくてもいいんだ。誰がどこからどう攻めたって良いんだ。分かるか?」
「「「「「イー」」」」」
………形兆は思わず肩を落とした。自分のスタンドにこれ程までに手を焼くとは思わなかった。
「だーかーらァー…分かってるのか?まぁ今ここで目標となる相手もいないのに無理な話か…かと言ってここで砲撃の練習をする訳にもいかないし…」
「「「「「………」」」」」
――スタンドは精神の才能である。形兆の場合はその几帳面さが形となって『中隊』のスタンドとなったのだ。
虹村形兆は、自分の精神や心の奥底の性格を乗り越え、さらに『先』に行くことは出来るのだろうか……―――
「と、とにかくだ!お前らは俺が指示しなくても自分の好きなように戦っていいんだよォーッ!」
「「「「「イー」」」」」
―――――………司令官は辛いものである。




【H-7、橋の下(北側)/1日目/夜(放送直後)】

【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:仗助と康一が始めて虹村兄弟と遭遇する直前
[状態]:首輪解除(死亡扱い)。軽傷(バッド・カンパニーはほぼ全隊呼び出せる)
[装備]:無し
[道具]:支給品一式。ブチャラティのメモが書かれた地図
[思考・状況]:
1)覚醒。ブチャラティ達を死なせない為に荒木を斃すと決意。
2)その為にブチャラティの案に乗る。
3)ブチャラティが荒木の居場所を特定した後、首輪の無い自分が荒木を暗殺する。
4)3)の為に、ブチャラティの連絡があるまでは誰にも生存を悟られないようここを動かない。
5)放送での荒木の参加に軽い動揺。
6)名簿の順番(=“部”の存在)に疑問(当然ながら部と言う概念はない)。
7)ブチャラティの忠告を受け、几帳面な性格を乗り越えようと決意。
8)親父はこの世界に居ないようだし頭の中からは一時除外。

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91:形兆死亡(前編)~覚醒~ ??? 121:『箱庭の開放』(前編)~絶大は絶対の前には無力~