イギーに会い、F・Fと一悶着起こし、露伴に会い、アナスイに襲われ、露伴が負傷し、
続け様にプッチ神父との戦闘になり、リキエルの参入により神父を取り逃がし、 露伴のスタンドが出現しなくなり、
更にダイアーに襲撃され、イギーの捨て身の行動により助けられ、イギーは命を失った。 このゲームが始まってから、康一にとっては苦難の連続であった。
そして、イギーとの出会いから始まった康一の小さな旅も、 次の邂逅を最後に、終焉を迎える事になる。

 * * *

僕は手の中の砂を握り締め、涙を堪えていた。
イギー…
ゴメンね。
僕は君を護ろうと、ずっと君の傍に居たのに、
今までの事を振り返ったら、君にはずっと護って貰ってばかりだった。
そして僕は、君の事を一度も護れなかった。
それどころか、僕や露伴先生の都合で君を危険に晒してばかりだった。
こんな事なら、僕は君と一緒に居ない方が良かったのかも、って思う。
そうすれば、君は今頃死なずに居る事が出来たかも知れないから。
僕は…
「康一君、気付いているかい?」
突然、頭上から露伴先生の声がした。
「え?」
僕は驚いて顔を上げる。
重症だから余り歩かせないよう、露伴先生は亀の中に入って貰っていたのに。
「そんなに俯いてばかりでは、周りの事が分からないだろ?」
露伴先生に指摘されてはっと気付く。露伴先生の言う通りだ。
僕がこんな状態では、何時敵に襲われるか分からない。
もっとしっかりしなくちゃ。
「ホラ、あそこに居る、…確か、噴上といったか?
君は奴にも気付いていなかったんじゃないか?」
「…あ」
露伴先生の指差す方向には、確かに誰かが居た。
肩で息をしながら、壁に手を突いてひざまづいている。
まるで何かから全力で逃げて来たかのようだ。
彼の事を知っているらしい露伴先生に、彼が何者か訊ねる。
「露伴先生の知り合いなんですか?」
「今の君は知らないだろうけど、僕より君の方が親しいぜ。
アイツの名は噴上裕也。
最初は敵だったけど君を助けるため仲間になり、君と仗助の奴を自分の身を犠牲にして助けた事もある奴だ」
「そうなんですか」
そんな人なら、警戒する必要も無いだろう。
というよりも、多分仲間になってくれるんじゃないか。
「で、どうする?」
そう訊ねてくる露伴先生に対し、当然僕の答は1つ。
「勿論、会いに行きますよ。噴上君…でしたっけ・
彼がダイアー達に会ったら危険じゃないですか」
「まぁ、そうなんだがな」
「?何か不満そうですね」
「いや、アイツが最初の頃、未だ敵の頃の噴上裕也だったら危険だと思ってね」
あ、そうか。それも判断つけずに近付くのは危険だ。
「どうにかして判断出来ませんか?」
そう露伴先生に訊ねると、あっさり答が返ってきた。
「噴上が康一君の名前を知っていれば仲間だ。
奴が康一君の名前を知るのは、仲間になった頃だからな」
そう教えてくれる割には、露伴先生はぶすっとしている。
「露伴先生。まだ何か問題が?」
そう訊ねる僕の視線から目を背け、露伴先生は呟くように言った。
「…僕は一度、あいつに負けているからな」
成程ね、渋る訳だ。
でも、露伴先生も噴上君に会う事自体は賛成らしい。
もしいやなら、いつものワガママで強引にこの場を離れる筈だ。
それに僕は、知らない人に会うと100%の確率で問題が起きたり攻撃されていたので、
(今の僕は知らないけど)友達と会えるというのが嬉しかった。
そして僕と露伴先生は一度顔を合わせ、お互い無言で頷き、2人で噴上君の下へ向かった。

 * * *

「ハァ、ハァ」
闇雲に走った俺は、走り疲れて遂に地面に膝を突いた。
今、何処に居るのか分からねぇ。
何処をどう走ったのかも分からねぇ。
どこかの道を曲がったような気もするし、真っ直ぐ進んだような気もする。
ただ1つだけ確かなのは、俺は未だ逃げなくちゃいけないって事だ。
ココはまだ安全じゃない。
安全な所へ、俺が死なずに済む所へ逃げないと。
ココじゃ、まだ俺を殺そうとする奴が追いついて来る。
奴らの魔の手から逃れないと。
地面に突いていた手は、いつの間にか顎を弄っていた。
「噴上君」
その時だった。
俺に声が掛けられたのは。
「!!!」
驚いて顔を上げると、そこには広瀬康一と岸辺露伴が居た。
「広瀬、康一…、と岸辺、露伴?」
「あぁ良かった。露伴先生の言う通りだった」
2人が近付いて来る。
「顔色悪いけど、どこか怪我でもしたの?」
ジョセフのナカマであるコウウイチとロハンがこっちへムかってクる。
「でも、大丈夫だよ。一緒に仗助君を探そう」
ジョナサンノカタキヲウチニ、チカヅイテクル。
「………う」

   オレヲコロシニ   ヤッテクル

「うわああぁぁぁぁ!!!」

 * * *

突然噴上君は叫び声を上げた。
何か怖い事でもあったのだろうか。
僕は取り敢えず噴上君を落ち着かせようと、近付いて声を掛け…
「噴上君!?どうし…」
「近付くなあああぁぁぁ~~~~~~っ!!!」

   ドン!!!

「………たの?」
声を掛け終える前に、お腹に強い衝撃を感じた。
「え?」
視線を噴上君から腹部へ下げる。
僕の胴は、噴上君のと思われるスタンドの腕に貫かれていた。
これって、どういうことだ?
僕は、噴上君に、殺される?
ちょっと待って。彼は仲間じゃなかったのか?
露伴先生、どういう事なんですか?
僕は腹を貫かれたまま首だけ後ろに回し、露伴先生の方を見る。だが、
「康一君!!!」
露伴先生は、僕の下へ駆け寄ろうとして、
「来るなあああぁぁぁ~~~~~~!!!
来ないでくれえええぇぇぇ~~~~~~っ!!!」
噴上君が、叫び声を上げながら僕の体からスタンドの腕を引き抜き、その手刀で露伴先生の首を ………断ち切った。
『露伴先生!』
そう声を上げたつもりが、声が全く出ない。
吹き飛んだ露伴先生の首は、血を撒き散らしながら僕の頭上を越え、路上にごろりと転がる。
僕の下へ駆け寄ろうとしていた露伴先生の胴は、まるで首が無い事に気付いていないかのようにそのまま踏み出し、
その足が地に着いて初めて………崩れ落ちた。
露伴先生が、噴上裕也に、殺された。
迂闊だった。コイツ、ゲームに乗っていたのか!
くそっ…!
だが、致命傷を負った僕は、自分の身を護る事も、露伴先生の仇を討つ事も出来ない。
今の僕に出来るのは、噴上裕也を睨みつける事くらいだった。
返り血を浴び、呆然としながら荒い息を吐く噴上裕也。
そして、僕は“それ”に気付いた。
噴上裕也のあの表情。あれは…怯え!?
「………う」
顎を弄りながら焦点の合わない目でキョロキョロと辺りを見回していた彼は、
「!!!」
僕と目が合い、
「うわああぁぁぁぁ!!!」
…逃げ出して行った。


そうか、そういう事だったのか。
ドサツ
地面に倒れこみながら、僕は噴上裕也の表情と、僕達が殺された理由に気付いた。
彼はゲームに乗った訳じゃない。
恐怖の余り錯乱しているんだ。

致命傷を受け地面に伏しながらも、僕は未だ辛うじて生きていた。
とはいっても、それは未だ死んでいないというだけ。
そう遠く無い先、僕は死ぬ。
でも、だからといって全てを諦めてこのまま目を閉じる訳にはいかなかった。
僕には死んで欲しくない大切な友達、仲間が居るんだ。
仗助君、億泰君、承太郎さん…。
みんなにはこのゲームを生き残り、杜王町を救って欲しい。
僕が今まで会った人間、アナスイ、プッチ、リキエル、ダイアー、噴上。
彼らは全員危険だ。
特に噴上裕也に仗助君や億泰君が会ったら、僕と同じ目にあってしまう!
そのために僕に出来る事は…
「エ…コー…ズ………act.…1」
僕はエコーズact.1を呼び出す。
ゴメンね、act.1。僕はもう助からない。だから君も…。
ホントにゴメンね。
でも、最後に力を貸してくれ。仗助君や億泰君を護る為に。
エコーズact.1。僕の全生命力を使って構わない。
この危険を皆に知らせてくれ!
そしてエコーズact.1は、僕の全生命力を使用し音を出す。



   「アナスイ!プッチ!リキエル!ダイアー!噴上はゲームに乗った!」



町中を轟かしたのではと思える程の大音量。
死の淵の人間でも、全生命力を使えばこれほどの音が出るのか。
余りの音の大きさに、音源付近にいた僕は吹き飛ばされたような感触がした。
既に目も良く見えないし耳も余り聞こえない状態なので、本当にそうなったかは分からないけど。
でも、少なくとも鼓膜は確実に破れてる。
噴上裕也が余り遠くまで逃げていないのなら、彼の耳も只では済んでいないかも知れない。
それほどの大音量だった。
それに、いつもは1単語位しか音を発する事が出来なかったのに、長い文を音に出来た。
厳密には噴上裕也はゲームに乗った訳じゃないと思うけど、
流石にそこまで詳しく音には出来ないので、ああ簡略化した。
それでも最後に皆へ伝えたい事は言えた。
act.1。有難う。
音を出したのを最後にピクリとも動かずに消滅していったエコーズに、胸の中でお礼を言う。

とにかく…。
コレで…仗助君達に伝わってくれれば…良い。
仗助君…億泰…君…。どうか…生き………
あぁ、もう考える…気力も…なくなっ…て………きた。

イ…ギー…。……の世…で…会え…ら
僕……君に…謝……た…い
………………
………

 * * *

第二放送が始まったのは、康一の死から10秒もしない内である。
紙一重の差で康一と露伴は第二放送を聴く事が出来なかった。
併し、其れは康一にとってはせめてもの救いだったのかも知れない。
第二放送を聴いていたら、康一は億泰の死と云う更なる絶望に追い遣られていただろうから。

こうして広瀬康一の小さな旅は終わりを告げた。





【市街地 (E-05)/1日目/昼(第二放送直前)】
【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[状態]:無傷。疲労。全身に返り血。錯乱
[装備]:無し
[道具]:無し

[思考]:
1)死への恐怖
2)特に、ジョースター一味やリキエル達に出会い、殺される事への恐怖

[補足]:
1)噴上の走り去る方向は不明です。
2)エコーズの音に耳がやられたかどうかも不明です。
3)康一と露伴の支給品類は全てE-05に放置されています。



【市街地 (E-05)/1日目/昼(第二放送直前)】
【岸辺露伴探検隊】全滅

【広瀬康一 死亡】
【岸辺露伴 死亡】


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キャラを追って読む

41:逃亡 噴上裕也 94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その①
83:Stooge(ストゥージ)は誰だ!? 広瀬康一
83:Stooge(ストゥージ)は誰だ!? 岸辺露伴

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最終更新:2007年10月15日 21:17