放送を間近に控えた昼。このD-4エリアに二人組がやってきた。
いや、正確にいえば1人と1匹だろう。人間のほうは名を空条承太郎、ペット――だろうか、人間とは思えない容姿をしたその生き物――はヨーヨーマッと言った。
彼らは自分の曾祖母からの情報を頼りに、このD-4のどこかにいるであろうウィル・A・ツェペリという男を探しにやってきたのだ。
情報によれば「彼は未だに崩れた家のあたりをうろついている筈」との事だった。
エリア内を少し歩けば、承太郎のスタンド、スタープラチナの視力を持たずとも通りに面したところで崩れている一軒の家を見つけ出すことは容易だった。
そして・・・・・・承太郎はツェペリの容姿をリサリサから聞いていたので、その家の折り重なった瓦礫に腰かけている男をすぐにツェペリだと認識できた。
その右手には水の入った小さなショットグラスが、そして、少し下がった左手には・・・メガホンが握られている。
「旦那様、おそらくあの男が先ほど曾御婆様がおっしゃっていられたツェペリという方なのでは・・・?」
ヨーヨーマッが沈黙を破る。どうやらまだ声はツェペリには聞こえていないらしい。承太郎は低い声で答えた。
「・・・ああ。そうだろう。だが―――俺はまだお前に喋っていいという命令はしていない。良いと言うまでマスクの中のその口を開けるんじゃあねえ」
ヨーヨーマッは申し訳なさそうにうなだれたが、そのマスクの奥の表情はわからない。承太郎は続けて、
「――俺が一人であの男と話をする。お前は何もするな。この位置に立っていろ。一歩も動くんじゃあねえ」
とだけ言い、ひとり瓦礫の山に近づく。ツェペリは何か考え事をしているのだろうか・・・グラスの中の水をぼんやりと眺めている。
相手との距離が縮まり、承太郎はツェペリの腰掛ける瓦礫のすぐ下のあたりから彼の後姿を見上げるような位置に立ち止まる。そして・・・口を開いた。
「ウィル・A・ツェペリだな?」
ツェペリが驚いたようにこちらを振り返る。当然だろう。背後から聞き覚えのない声で自分の名を呼ばれたのだから。
そして・・・・・・その振り返る時の勢いのよさと、バランスの悪い足元のせいで――――転んで瓦礫の奥にひっくり返っていった。
承太郎はあっけにとられたようにその一部始終を見ていたが、ハッと我に返り、その瓦礫に走り寄る。
「おい、大丈夫か?手を貸してやるから上がって・・・―――!!」
いない。本来ならそこにあおむけに倒れ、腰だの頭だのをさすっているであろう筈の男が姿を消したのだ。
コイツはスタンド使いなのか、とも一瞬思ったがリサリサの情報で『それはない』という結論がすぐに浮かぶ。なら一体どこへ――?
・・・・・・―――!!
急に背後に気配を感じた承太郎は、勢いで殴りかかろうかとでも言うような速度でバッと振り返る。
そこにはさっき自分の目の前で転んだはずのツェペリが立っていた。
その服には一切の土埃もなく、その手に握られたグラスからは・・・一滴も水はこぼれてはいなかった。
ツェペリの目はじっと承太郎の目を見つめていたが、その輝きの中には警戒心こそあれど、殺意は感じられなかった。不意にツェペリが喋り始める。
「そういう君は何者だね?どうして私の名を知っている?」
「・・・質問はひとつずつにしてもらえないか。」
承太郎のそっけない答えにツェペリは「もっともだ」というような表情をして少し笑ったが、承太郎の目にはその顔がどことなく寂しさを感じさせるように見えていた。
自分の答えで沈黙を作ってしまった承太郎は、慌てるようなそぶりはしなかったが、その場を取り繕うように、
「まぁ、良いだろう。まずは俺の名だな。俺は空条承太郎。そして、お前の名はリサリサという女から聞いた。」
と続けた。この時、承太郎にしては珍しく探りを入れるようなことを口にしなかった。その必要はないと判断したからである。
そして、その予想通り、ツェペリはその目を大きく見開き、やや興奮気味に質問を投げかけてきた。
「おぉっ、君はリサリサ嬢に出会ったというのかッ!?して、彼女はどこへ?君はなぜここに来た?・・・と、すまない。質問はひとつずつだったの。」
一気に喋り終わった後のツェペリの冷静さに承太郎は関心した。仮に・・・そう、アブドゥルやポルナレフのような『アツくなるタイプ』ならこう上手く話は進まないだろう。
「いや、気にしなくていい。だが答えるのはひとつずつだ。そして、すべてに答え終わってから次の質問を聞く。それまでは話を中断しての質問はなしだ。
・・・まず、俺はここの南西、E-3でリサリサにあった。そして、リサリサと出会い、情報を交換した。そこで聞いた話じゃ、俺は血縁上リサリサの曾孫にあたるらしい。
まぁとにかく全ての情報を交換し、今お前らが三手に別れて病院を襲撃する、という計画を持っていることも聞いた。で、俺はリサリサのババアに協力を頼まれた。
ババアは俺と別れ一人で別の方角・・・南へ仲間を探しに行った。その時俺はババアにこの家に寄ってから東に行くという旨を伝えた。ババアも了承したので、俺はあんたと接触しようと思ってここに来た。
・・・と、これですべての質問に答えられたかな。さあ、なにか質問は?」
一度に話し切り、承太郎が息をつくのを見とどけ、ツェペリは質問を開始した。
「ふむ・・・それなら空条承太郎・・・面倒な名前じゃな。条承、ジョウジョウ・・・・・・ジョジョじゃな。ジョジョがここに来た理由も納得がいくわい。じゃあ、質問させてもらおう。
リサリサ嬢から聞いたと思うがわしは『スタンド使い』というものではない。ジョジョはスタンドとやらを持っているのか?これが一つ目の質問じゃ。
後は・・・そうじゃな、二つ目の質問――いや、とりあえずはこれで最後かの。・・・今後の具体的な予定は何かあるかの?
わしは1度この家を離れようと思ったんじゃが、ここまで派手に壊れた家なら、このままここにいれば立ち寄る者も多いのではと思い返しここに戻って来たんじゃが。」
承太郎も、ツェペリに言い、そしてツェペリがそうしたように全ての質問が終わるまでその声に耳を傾けていた。
「・・・じゃあまず一つ目の質問だな。確かに俺はスタンド使いだ。スタンドは『スタープラチナ』と呼んでいる。能力は特にないが精密な動作、スピード、そして攻撃力には自信がある。普通スタンド使いでないあんたには見えないと思うんだが・・・見えるか?」
承太郎は自分の横に寄り添い立つような形になるようにスタープラチナを発現させた。『時を止められる』という能力は、承太郎自身もはっきり「出来る」と言い切れる自信がないので口にはしなかった。
「・・・おお!ジョジョ、君の横に大柄な男の像が現れたぞ!これが『スタンド』というものじゃな!シュトロハイムからその存在と特徴は聞いておったが・・・」
ツェペリが納得してくれたようなので承太郎はスタープラチナを引っ込める。これにもツェペリは驚いたが、どうやら質問をしなくてもこの驚きは自分自身で解決できたようだ。出したモノは引っ込んでいく。当然だろう。
「――で、二つ目の答えだ。俺はこの後東に向かうとは言ったが、具体性はほとんどない。ただ、俺には何人か信頼できる仲間がいる。そいつらを探し・・・全員で病院の襲撃を協力しようと思っている。」
「ふむ。納得じゃわい。・・・と、今気付いたんだが、あそこにいる人形は何かわかるかの?」
ツェペリは承太郎の背後のほうに視線を向ける。その方向を向いた承太郎は・・・深くため息をつき、ツェペリに答えた。
「あれは俺の支給品だ。ヨーヨーマッと言う、あれもスタンドだ・・・おい、こっち来い。ただし、喋るな。一切を口にするんじゃあねえぞ。
・・・俺の召使いだと本人は言っているがほとんど役立たずだ。死ぬ条件は色々とあるんだが、普通に殴っても蹴っても死にやしない。コイツのマヌケな言動のおかげでこの腕も折れちまったしな・・・」
動かない左腕を指差してもう一度ため息をついた承太郎が話し終わる頃には、待ち構えていたかのようにすばやく歩いてきたヨーヨーマッが承太郎の横にたち、少し礼をしていた、ように見えた。
おそらく、承太郎が喋るなと命令していなければ自己紹介と―――タルカスの時のような挑発ついでの尋問でもしていただろう。
「・・・ほう、面白い支給品じゃな。そしてジョジョ、君は今その腕を骨折していると言ったね?どれ、わしが直してやろうか。」
言い終えるなり、ツェペリは承太郎の腹に拳を・・・いや、正確にいえば拳から一本だけ立てた小指を叩き込んだ。
不思議と承太郎は防御しなかった。なぜか『平気だ』という確信があったのだ。ツェペリに向かって飛びかかろうとしたヨーヨーマッをスタープラチナで蹴り飛ばし、一歩も動かずに立ち尽くしていた。
呼吸こそできなかったが、何か体内に不思議な力が湧き上がってくるように感じていた。
「はじめのうちは少し苦しいが・・・すぐに君の“呼吸”がその痛みを消すだろう。どれ、ついでにこの火傷も少し手当てしたほうがいいじゃろ」
ツェペリは苦しみの表情を浮かべながらも立ち続ける承太郎の胸のあたりに今度は軽く掌をあてた。すると、先程まであった火傷の傷がほとんど目立たなくなっていったのだ。
「・・・っく、ハァ、ハァ・・・・・・ああ。確かに痛みがなくなった。礼を言おう。この力が、俺がババアから聞き、俺のジジイ、ジョセフ・ジョースターが使った“波紋”なのか?」
苦しみも少なくなり、手が自由になったのを腕を振りながら確かめ、承太郎はそう聞いた。
「その通り。察しがよいの。――…とにかく、これで準備は整ったの。後はいかにしてわしやジョジョの仲間を探して歩くか、じゃな。」
ツェペリの返答、そしてその提案は承太郎が切り出そうとしていた内容と全く同じだった。
「そうだな。それも、出来るだけ早いほうがいい。」
短く答える承太郎に対し、ツェペリはもう一度同じセリフを口にした。
「そうなんじゃが・・・やはり効率よく仲間を探したいものじゃろ?それをいかにして・・・・・・?」
先程までの覇気や調子の良さがどことなく抜けている気がするその口調に、承太郎は、
「そのメガホンを使えばいいんじゃあないか?」
と視線を促す。そこには承太郎の腹に小指を叩き込むためにツェペリが置いた拡声器が転がっていた。
「あれが使えるのか?さっきはあれから荒木とか言う男放送の声が聞こえたもんじゃから、てっきりそのための道具かと思っておったわい。
・・・しかし、あぁ、そうじゃったな。リサリサも放送が聞こえてくる前に『これは声を大きくする機械』と言っとったの。」
ツェペリが調子を取り戻し、拡声器を拾い上げる。だが承太郎はもう一言、
「そうだ・・・・・・だが、それは自分たちの居場所を相手に伝えちまうようなもんだ。」
と付け加えた。それは分りきっていた事だ。ツェペリからは、
「・・・うむ。この道具をうまく使うことさえできればのう・・・」
と言う短い返事が返ってきた。少し物思いにふけり―――何かいい手段を考え込んでいるような口調だった。
「ああ。だが・・・そうやって俺達が拡声器で居場所をさらして『殺してくれ』と言うような行為に走らなくてもいいんじゃあないか?」
あくまでも一般論だが、と付け加えようとする承太郎を遮るように、
「そうなんじゃが、だからと言ってここで黙っているわけにも・・・―――――!!」
ツェペリが言いかけ、何かひらめいた様だった。
「そうじゃ!!この手がある!!」
承太郎からリサリサの名前を聞いた時と同様の興奮した口調でさらに続ける。承太郎は黙って聞いていた。
「コイツじゃよ!ジョジョ、君の“召使い”に頼めばいいんじゃあないのか?さっき君は『コイツはスタンドで、死なない』と言ったじゃろ!?それを利用するんじゃよ!」
―――もっともな意見だった。承太郎は、自分がうっとーしいとしか思っていなかった奴にこんな使い道があるとは思ってもみなかった。コイツなら背後から撃たれても死にはしないし、さらに自分達が攻撃した奴の背後をとることも出来るのだ。
「・・・そうだな。たしかにコイツに放送をさせて俺達は少し離れた所に隠れていれば俺達が攻撃される心配は無いな。」
そう答えた承太郎は振り返る。すでにヨーヨーマッも頷いている。まるで『そうですよ旦那様、こういう時こそ私を使ってください』とでも言うような表情で。
「なら・・・そうだな、ここで第2放送・・あと五分くらいか。それを聞いた後にこいつに何をどう話させるか決め、ある程度放送するのに適した場所に移動すればいいだろう。」
承太郎がそう付け加えるとツェペリも、
「そうじゃな。下手にリサリサ達の名前を出すと彼女たちも狙われかねん。わしら3人で何を話すかよく考えようじゃあないか。」
と意気込んでいる。しかし承太郎は今の発言の一つだけ引っかかる点を、
「いや、こいつは今までに1度、俺のために情報を聞き出すとか言って敵を挑発し、プッツンさせたことのある奴だ。話し合いを聞くことはいいが参加させるべきではないと思う。」
とだけ修正した。自分の方がこの野郎との付き合いは長いからな、と付け加えるとツェペリもそれなら、と納得して承太郎の修正を了承した。
「・・・とにかく、今後の方針が決まったんじゃ。少しここいらで身を落ち着かせて、放送を待とうじゃあないか。」
ツェペリが切り出す。
「そうだな。・・・ああ、そうだ。あんたの事はツェペリ、と呼ばせてもらう。よろしくな。」
承太郎は返事とともに右手を差し出した。
「おう、よろしくな。ジョジョ。」
ツェペリがその手をがっしりと掴む。
そしてこの三人組・・・いや、二人組と一匹は崩れた家の・・・大通りから死角になる位置に向って歩き出した―――――。
岸辺露伴の家の前(D-4)/一日目/昼、第2放送5分前】
【波紋の達人と幽波紋の達人】
【ウィル・A・ツェペリ】
[能力]:波紋
[時間軸]:双首竜の間で、天地来蛇殺の鎖に捕らえられた瞬間。胴体を両断される直前。
[状態]:今までの傷はほぼ全快。 ジョナサン達を失ったことへの悲しみはあるが新たな希望によりやや興奮。
[装備]:ショットグラス×2、 水入りペットボトル(共通支給品だが、波紋カッターや波紋センサーに利用可能)
[道具]:支給品一式×2、拡声器(スポーツ・マックスの支給品) 、薬草少々(ツェペリと分けました)、岸辺露伴の手紙
[思考・状況]
1)放送を聴き、その後拡声器で話す内容について承太郎と会議をする。
2)4回放送までに病院(C-4)襲撃の為の仲間を探す。特に岸辺露伴、リサリサの知り合い。
2)参加者の中にいる吸血鬼・屍生人を倒す。
3)ジョースター卿が屍生人になっているかどうかを確かめる。もしかしたら違う?
4)スタンドの存在を自分の目で確認。疑惑は少なくなった。
[備考]:ツェペリは、荒木が『時空』に関わる力を持っているのかも、と考えましたが自信ゼロ。
これについても放送後に承太郎と検討したいと思っています。
【空条承太郎】
[スタンド]:スタープラチナ
[時間軸]:ロードローラーが出てくる直前
[状態]:傷はほぼ全快(動かすことに支障はない)。冷静(荒木、DIOに対しての怒りはある)
※ツェペリに「パウッ」されましたが波紋は使えません。あくまでも治療でした。
[装備]:なし
[道具]:デイパッグ
[思考]:
1)放送を聴き、その後拡声器で話す内容について承太郎と会議をする。
2)放送で仲間を募りたいが、下手に名前を出すのはまずいとも考えていて少々不安。
3)ヨーヨーマッを利用する(まさかこんな使い方があるとは。でもやっぱりウザい)
4)荒木を倒す、DIOを殺害する。駅にいた奴ら(ワムウ達)はとりあえず無視。あとでツェペリと検討したい
5)『過去の人物の名』にやや疑問
[補足1]:承太郎とリサリサが家に入る時に聞こえた音は、康一とプッチの戦闘の音です。
[補足2]:承太郎にとってリサリサは曾祖母ですが、『曾ババァ』と呼ぶのが面倒なので、承太郎から見て年取ってる人間と云う意味で『ババァ』と呼んでいます。
[補足3]:承太郎はツェペリに「ヨーヨーマッが敵を挑発した」と言いましたが敵の名がタルカスということは言っていません。後の会議で話題に出そうと思っています。
【ヨーヨーマッ(支給品)】
[現在の主人]空条承太郎(主人変更の命令があれば主人は変わる。ただし変更対象人物の同意が必要。
主人変更の命令をされた時、次の主人候補がヨーヨーマッの視界に入っていなければ命令は無効化される)
[装備]:マスク
[持ち物]:なし
[任務]:
1)承太郎を“助ける”
[補足]:
1)ヨーヨーマッは攻撃出来ない。能力も完全に封じられている(主人がヨーヨーマッ自体を利用して攻撃というのは可能かも知れない)
2)主人の命令には絶対服従。しかし、命令を曲解して受け取ることもあるかも知れない。(ヨーヨーマッを殺すような命令には従えない)
3)ヨーヨーマッは常に主人の半径20メートル以内に居なければならない
4)ヨーヨーマッの主人が死んだ時又はヨーヨーマッが規則を破ったならヨーヨーマッは消滅(荒木によってDアンGの首輪が爆破される)
5)ヨーヨーマッの思考は『やっと喋れる&主人の役に立てるでうれしい』でいっぱいです。
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最終更新:2008年02月11日 23:31