※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

××月××日午前8時30分

小さめの帽子は、被るというより乗っけている、というべきか。
全身に纏う網目模様が一流モデルのようなプロポーションをよりエロティックに見せる。
歩く度にしゃんと揺れる長髪は、すれ違う人々なら一度は振り返ってしまうだろう。
左手には戦利品、不幸(UNLUCK)が刻まれた『幸運の剣』。
意志は、この場にいる全ての者の殲滅。
想いは、愛する人のために。
自称・空条徐倫の婚約者……名はナルシソ・アナスイ。

(【D-4】……もうすぐ【D-2】に着くぜ。狙い目は単独行動をしていて、かつ隙だらけな奴だ。
  禁止エリアから脱出して、ホッと一息吐いている奴を一網打尽にしてやる。あー……痛ってぇな畜生)

負傷した右手に気をかけながら、先へ先へと闊歩する。
気分は優れないようだが、その足取りに迷いはない。
朝方に出会った岸辺露伴たちへの憎悪は、もう収まったのか……。
今は他の参加者の抹殺の為に、エリア【D-2】への移動で頭が一杯らしい。

そして時間は過ぎ、彼が【D-3】と【D-4】の境に近づいた頃……それは現れた。

(何だあれは……『支給品』の『ディバッグ』が……『二つ』!?)

アナスイの足元にある、二つの落し物。
それはどこからどう見ても支給されたバッグだ。

「こいつは実に『奇妙』だぜ……ダイバー・ダウン! 慎重にな」



スタンドを潜行させてバッグを隅から隅まで調べる。
一体何故バッグがここにあるのか、アナスイは知らない。
ほんの少し前に、噴上裕也が狂気に溺れて捨てていった事を。
安全を確認したのか、アナスイはバッグを開け、改めて中身を確認する。
食料、地図、水の入ったペットボトル、双眼鏡、『球』のないアイアンボールボーガンetc……
まさに、宝の山だった。

(……どうやら本当にただのバッグみてぇだな。罠でも仕掛けられていると思ってたんだが……。
このボーガンは『球』無しかよ……軟弱な武器だぜ。この折れた右腕の添え木代わりにはなるかもな)

一頻り品定めを終えたアナスイは。
ボーガンを分解し、バラバラのパーツにする。
そして穴の開いた壁に注ぐコンクリートのように、パーツ自分の右腕に埋め込んでゆく。
『改造』された右腕は、通常の機能を取り戻し、正常に筋肉を働かせているようだ。

(痛みは残るがガマンしよう。普段どおりに動かせるだけマシってなもんだ)

※  ※  ※

××月××日午前9時30分

前方に広がる雄大な湖。
風のざわめきが湖面に波を起こす。
だがナルシソ・アナスイにはこの自然の演奏が目に入らない。
彼の注意力は全て目の前に男に奪われてしまったようだ。

「こんな所で眠るなんて……どんな神経をしてるんだ? イカれてやがる」



湖のほとりに聳え、太陽の恵みを一枚一枚の葉で受け止めている菩提樹。
樹齢は短いであろうその守り神の根元で、眠りこける銀髪の男がいた。
すやすやと寝息をたてており、全く微動だにしない。

「双眼鏡から見た時はなんの冗談かと思ったぜ。どうぞ殺してくださいと言ってるようなもんだ」

アナスイは呆れてため息をつく。
午前9時から禁止エリアになる【D-2】からやってくる参加者を、
ハンティングしようと目論んでいた彼にとって、
そこに眠っている男(ポルナレフ)の存在はここで待ち伏せする無意味さを表していたからだ。
男がここで眠っているということは、少なくとも誰もこの【D-2】を通っていないことになる。
自分のような殺人鬼ならば容赦なく彼を殺しているはずであり、
仲間を募ろうと考えている奴なら彼を見殺しにはしないのだ。

「おそらく……俺が、最初にここでお前を見つけた人間なんだろな。
ま、恨むならお前さん自身の運の悪さと、無神経さを恨めよ」

アナスイは持っていた剣を握りしめ、寝ている男の喉元に向かって突き立てる。
剣は男の喉を掻っ捌いて、血を撒き上げ……



「おおッ!? グッ……ど、どうなってんだこれは!? 」

……る事はなかった。
剣の切っ先は男の喉元を外れ、反転しアナスイの足に傷をつける。
突然のことにアナスイは思わず尻餅をついてしまう。
青冷める表情を見るからに、かなり動揺しているようだ。
呆然としていたアナスイは、ハッと我に返るとすぐさま剣を振り上げて目の前の獲物に襲いかかる。
しかし、当たらない。
どれほど斬りかかろうとしても、突き刺そうとしても、剣は空を裂き、寸での所で動きを止めてしまう。

「な、何故殺せないんだ? 『殺せない』……これがこいつの『スタンド』なのか!?
  いや、待て……まさか……これは岸辺露伴のした『書き込み』のせいか!? 」

アナスイはもう一度剣を掲げると、ゆっくりと男の体に当てた。
今度は何事も無く剣で『触れる』ことが出来る。
次に、アナスイは木に斬りかかる。
斬撃はそのまま自分に返ってきたようだ。

「……殺意を持たなかったらこいつに触ることが出来た。で、いざ斬ろうとすると……剣が弾かれる。
 でも、木を斬ってもダメージが自分にいっちまう……だがこの寝てる男はダメージを受けねぇ。
 つまりこの木は『スタンド』じゃあない。少なくともこの男のな。だが傷つけた俺自身はダメージを受ける。
 ……断言は出来ねぇが、ヤッベ! マジヤッベ! ……なんてふざけてる場合じゃあねえな。
 洒落にならねー……『ダメージが跳ね返る』ように『書き込み』されちまったのか……?
 いや待て……ならさっきのボーガンはどうして分解できたんだ……?
あ~~わっかんねぇ……!
 とにかく……とりあえず……こいつはマジでここで寝てるってことか。……へヴィすぎるぞ」




アナスイは頭を掻きながら舌打ちをする。
『殺し』がしたい、でも出来ない――そんなジレンマが彼を苦しめる。
苦悩の末、アナスイは眠っている男、ポルナレフが持っているバッグを勝手に調べ始めた。
だが出てくるものは、何者かの首輪や、自分が持っている備品と同じ物ばかり。
あってもいいが、なくてもいいものばかりだった。食料は既に事足りている。
アナスイは夢にも思わなかっただろう。
そこにジョルノが蔦に変化させたスレッジ・ハンマーがあったことを。
傷つけた菩提樹が、ジョルノの『G・エクスペリエンス』によって作られた為に、ダメージが跳ね返ってきたということを。
露伴の書き込みはあくまで『殺人が出来ない』のみだということ。

「フン……菩提樹に救われたな。次に会う時にゃてめーが死体になってる事を祈ってるぜ」

捨て台詞を吐きながら、殺人鬼ナルシソ・アナスイはその場を後にした。
大樹の側で眠りこける『奇妙』な男を背にして。

※  ※  ※

××月××日午前11時40分

まもなく、第二放送が流れる。
ナルシソ・アナスイはこの6時間何をしてきただろうか。
喧嘩を売って、返り討ちにされ、落し物を見つける幸運に出会えば、
殺しが出来なくなったかもしれない、という不運に悩まされる。
果たして彼は自分の意思どおりに行動をしていたのか? 答えはNOだろう。
胸を張って前に進む事がすっかり出来なくなってしまったのだ。



「なぁ……こんな時お前たちならどうするんだろうな」

ある建物に向かって彼は、聞こえるか聞こえないかのトーンで語りかける。
彼にとって嘗て共に戦った仲間も、もはや敵同然だ。
真っ向から、背後から、いつでも殺せる覚悟は出来ている。
だが、動けない。
自分に絡む恐怖という呪縛が彼を立ち止まらせる。
もし、本当に今の彼が岸辺露伴のせいで殺人が出来ない状態だったとしたら、返り討ちにされるのは明白だろう。

「俺が本気で殺しにかかったら、お前たちは迷わず俺を『殺してくれる』。きっとそうだ」

しかし彼にとってはそれは耐え難いことだった。
今死ねば、彼はもう徐倫に尽くすことは出来ない。
徐倫を生き残らせることも出来ない。
そして……そんな彼が今、最も悩んでいること。
この建物に入るべきか、それとも立ち去るべきか。
仮に建物に入ったとして、一体何が出来るか。

苦悩し続けるナルシソ・アナスイの気持ちを代弁するかのように……彼の目からは水滴が流れ落ちていた。


「俺は随分と腑抜けになっちまった……もう……どうすればいいかわかんねぇ。
 どうせ殺そうとしたって、きっとそれは失敗に終わっちまうんだ。
 なぁ……こんな時お前たちならどうする?




 教えてくれ………………………………………………………ウェザー…………! 」


しとしとと降り続ける雨を浴びながら、アナスイ建物に向かって嘆く。
その建物とは、【F-3】に位置する、杜王駅を南に下った先にある民家だった。
それはウェザー・リポート、エルメェス・コステロ……荒木打倒に燃えるアナスイの仲間たちが集う場所。

D-2とD-3の境目にある菩提樹を後にしたアナスイは、これまでずっと線路の西側を下っていた。
だが【F-3】まで進んだとき、彼は運が良いのか悪いのか、目に入ってしまったのだ。
空が晴れ模様なのにも関わらず雨が降る……『奇妙』な民家を。
彼は即、この謎を解いた。
間違いなくこれはウェザー・リポートが雨を降らしているのだ、と。
仲間を集めるためか、敵やプッチ神父をブチのめすためなのか彼にはわかる術もないが、
少なくともアナスイは……その民家に引き寄せられるように接近してしまったのだ。

アナスイは窓から中を覗く。

(中に……ウェザーがいる! エルメェスもだ! 倒すべき……俺の仲間がいる。だが……!)

雨は相変わらず降り続けている。
アナスイの目からも相変わらず雨の水滴が流れている。
そこに悲しみの涙が混ざっているのかは、彼にしかわからない。
出会ってしまった事を悲しむ涙が流れているのかは、彼にしかわからない。

(大人しく取り入るか、逃げるか……それしかないのかよ!? )



時はもうすぐ正午。
太陽は頂点に登ろうとしている。

日光は人工的に降らされている雨と触れ合い……空に虹を映していた。



【杜王駅近くの民家の周辺(F-3)/一日目/昼(放送直前)】

【ナルシソ・アナスイ】

[スタンド名]:ダイバー・ダウン
[時間軸]:対プッチ戦終盤、徐倫がプロポーズをOKした瞬間
[状態]:右前腕骨折治療完了(痛みはありますが普段通り動かせます)、精神的動揺
[装備]:『幸運?』の剣 (柄に由花子の髪が絡みついて離れない。髪の下に「UN」の血文字が隠されている)
    ※右腕にアイアンボールボウガンをバラバラに分解したパーツを埋め込んで補強しています。

[道具]:支給品一式×5(自分、由花子、ブラフォード、噴上、ジョナサン)。ただしバッグは一つです。 
[思考・状況]
1)徐倫を護るため、あえて『殺人鬼』になる
2)徐倫以外を全て殺した後、自分も死ぬ。
3)ウェザー達のいる民家に入るのか、それとも逃げるのか考え中。
4)ウェザー達を殺すことに迷いはないが、返り討ちにされるのは間違いない。困った。
5)露伴の書き込みにより『殺人はできない』
  ※アナスイはとにかく『相手に殺意の攻撃が出来ない』と認識しています。
6)(本人の意識には上ってないが、なんでも分解してしまう癖が再発中)

投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

61:Dancing In The Street ナルシソ・アナスイ 92:イカれてるのさ、この状況で