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「えーと……この丁字路はどっちに行けばよかったんだっけ」

ボストンテリアのNICE GUYことオレ、イギーは大統領を守るSPのように移動中。
『亀』の中にいるロハンとコーイチを安全に運ぶ為には、人に見つかっちまったらアウトだからな。
とはいえ……正直面倒くさいぜ。
つーか何でオレ一人で『亀』を運ばなきゃいけねーんだよ。
そりゃ人数が少ないほどエンカウント率が下がるのは当然だけどよ……。
『ごめんねイギー。露伴先生と今後のことを慎重に話し合いたいんだ……』なんて言われたら気がひけるっつの。

そういや太陽が真上に来てるなぁ……もうすぐ正午か。
ジョースターの一味はどうしてんのかね。簡単に死ぬ奴らじゃあないのは勿論だが……。
オレたち3人? が今まで出会ってきたヤベー奴らと、ドンパチやったらアイツらだってただじゃあ済まないだろう。
見ろよこのコブ。せっかくのイケメンが形無しだろ? あの神父の野郎、今度あったらただじゃおかねー。
ぶっちゃけオレ自身、あの時死ぬかと思ったし。
……愚痴っててもしょうがねーな。オレはオレのすべき事をやろう。

スタンド・『愚者』に『亀』を抱えさせて、俺は周囲を確認する。
いかなる匂いも逃すつもりはねぇ。メンドクセー事は匂いと共にやってくるってもんだ。
その匂いと出会わないように、俺が目的地に着けば万事OKなわけ。
それにしても……俺はなんで『亀』を置き去りにして逃げようと思わねーんだ?
確かに俺はさっき承太郎の匂いを感じた。いつもの俺ならさっさと奴の所に行くはずなのに……
ロハンに「移動しよう」と命令されたらそんな気分が薄れちまった。
思えばロハンと出会った時から何か変だよな。俺は奴に何かされたのかね……?



※  ※  ※

「……じゃあ、スタンドの姿形だけでなく」
「ああ。僕が紙に描いたネームすら、発動する素振りを見せない」

僕と露伴先生は今、『亀』の中にいる。
『亀』の中は思っていたよりも快適で、一人暮らしをするには申し分ないアパートのような造りだった。
お風呂がないのはちょっと不満だけど、冷蔵庫があるのはいい(空っぽだけど)。
あーあ……こんなことなら、もっと早くに『亀』を使いこなせるようにしておくんだった。
この『亀』の体内にある『不思議な居住空間』に身を隠し、イギーに外を任せればあんな事にならなかったのに。
そう――露伴先生のスタンド、ヘブンズ・ドアーの消失。

「やはり……あの神父が僕のスタンドを使用不可にしたと考えて間違いないだろう。
 いつぞやの、ジャンケン小僧の能力のように……『抜き取った』と言ったほうがわかり易いかな。
 だからあいつらを倒さない限り、僕のヘブンズ・ドアーは、おそらく元に戻らない」

露伴先生は鼻息を鳴らしながら、両手を軽く上げて、お手上げのポーズをとった。
自分の身に危険が起こっているのに……全く動揺していないようだ。

「イギーが大人しく言う事を聞いていることから察するに……今までやってきた『書き込み』までは解除されないようだ。
 イギーの『康一くんと僕を守る』とシュトロハイムの『僕に逆らえない』、そしてアナスイの『人殺しが出来ない』。
 現状で残っているのはこの3つか。あの二人が死んでなきゃ使える道はあるな」

この何を考えてるのかわからない振る舞いは露伴先生らしいといえばらしいけど……
そんな素振り見せ付けられるほど、僕の心は締め付けられる。
どうせならはっきり『お前のせいだ』と言ってくれたほうが、僕としても気が楽になるんだけどな。



「話は変わるが康一くん、イギーはどこに向かっているんだい? 」

露伴先生は、自分のスタンドが使えなくなってもいいのだろうか。
僕にはとても考えられない。先生は……どうして平静としていられるのだろう?

「……康一くん? 」
「えっ……あ、ハイ。靴のムカデ屋です。
 あそこなら仗助くんたちの家からも、駅からも同じくらいの距離ですから、そこを拠点にしようと思ってます。
 僕とイギーは、あそこで一度、一緒に隠れていたんですよ。だからイギーにとっても馴染みのある……」
「ちょっと待ってくれ。……まさかこの後、仗助の家にも行くのか? 」
「ハイ。だって先生の負傷です。仗助君に治してもらうのがやっぱり一番てっとり早いですよ。
 それに最初に僕が、僕の家に行こうって提案してのに、"それは困る”って言ったの先生じゃないですか。
 先生の家にも近いのに……何か行けない理由でもあったんですか? 」
「い、いやぁ~~そ、そうだった……スマナイ。まだスタンドを封じられたショックから立ち直れなくてね。ハハハ」

露伴先生は明らかにさっきより動揺している(かなり怪しい)。よほど自宅で何かあったに違いない。
でもそれは永遠に教えてくれないんだろうなぁ……。
そして、露伴先生をよそに、僕はあの時のことも思い出していた。
露伴先生からスタンドを奪った奇妙な二人組み……一人はリキエル、もう一人は『シンプ』様って呼ばれてたっけ。
『シンプ』と聞いて真っ先に思いつくのが『神父』だけど……
この名簿に載ってる「エンリコ・プッチ神父」がそうなのかな?
そしてこの人のすぐ側に「リキエル」という名前がある。
あの二人は互いに知り合いだったみたいだし、この名簿の並びは、知り合いほど近くに載っているのだろうか。
僕の名前の側に仗助くんと億泰くんの名前があるように。
ジョースターさんと承太郎さんが離れたところに記載されているのも、何か理由があるのかな。
ひょっとしたら……ジョースターさんと、承太郎さんの前後に載っている名前の人は信用できるってことなのかな……?



「康一くん、イギーの動きが止まったよ……どうやらムカデ屋に着いたようだ。だが……」

露伴先生に呼ばれて、僕は一緒に『亀』から外の世界をのぞいた。
確かに『靴のムカデ屋』の看板がギリギリ見える……ここは、店の正面からみて左側の壁らしい。
イギーは壁にもたれながら、顔を少しだけ出して入り口を見ている。
困ったことに先客がいたようだ。店の入り口の前でしゃがみこんでいる。
かなりガタイのいい……男の人だ。これは困った。
イギーは、僕と露伴先生の命令を2つ、忠実に守っている。
それは「僕たちを守る」事と「ムカデ屋に行く」事。
でもこれじゃあ袋小路だ。
店の前にいる人物の素性がわからない以上、迂闊には近づけない。
かといってこのままじゃあ店には入れない。

「……康一くん、ムカデ屋はあきらめようか。このままじゃあラチがあかない。
 イギーは、あの男に気づかれるか気づかれないように、隠れているとはいえ……
 あの男の素性がわからない限りは、接触は危険だ。何をされるかわからない」

露伴先生が僕に耳打ちをする。
確かにその通りだ。何もこの店に固執しなくてもいい。
また拠点を決めなおせばいいんだ。

僕たちはやむを得ず、その場を去ることにした。

――のだが

「生命反応が『二つ』……おい、お前たち。そこに隠れているのはわかっているぞ?
出て来い。言っておくが、この私から逃げよう等とは考えるなよ」

ああ、僕たちはなんて運が悪いんだろう……。



※  ※  ※

(露伴先生、バレちゃってますよ!? )
(落ち着け康一くん。イギーを『亀』にしまうんだ)

僕、岸辺露伴はこの状況を冷静に分析する。
なぜ、奴は僕たちのことがわかったのか――――奴は探知系のスタンド能力者なのか?

「店の壁にもたれていたのが命取りだったな。
 貴様らの呼吸の波が、同じく壁にもたれていた私の体を伝って、この水の入った容器に現れていたぞ」

呼吸の『波』? どういうことだ……? 
だとしても、なぜ『二つ』なのか―――呼吸をしていたのは僕、康一くん、イギーと『亀』の4つじゃあないのか?
だが本当に4つ中2つしか、奴のセンサーに反応していないのなら……これは間違いなくイギーと、『亀』だ。
この二匹が壁にもたれていたんだからな。
どういうわけか知らないが……『亀』の中に入っていた僕たちはカウントされてないらしい。
つまり……これをふまえれば、奴の前に姿を出す者はイギーじゃなくてもいいって事だ。

(康一くん、率直に言おう。僕か君のどちらかが、『亀』を持って奴と会うんだ)
(えっ……イ、イギーじゃあダメなんですか!? )
(ヘブンズ・ドアーが使えない今、アイツは僕たちの切り札だ。
 動物のスタンド使いがいるなんて、ましてや『二匹』いるなんて普通思いつかないさ)
(でも、露伴先生はスタンドも無いし、重傷じゃないですか! )
(そんな事は問題じゃあないんだぜ康一くん)
(問題ですよ! ……わかりました。僕が行きます。この状況じゃあ最初から僕しか出ようがありませんよ)

康一くんが少ししれっとした目で、こっちを見てくる。
おいおい……別にそんなつもりで言ったわけじゃあないんだが。



※  ※  ※

ムカデ屋の入り口に立つ。
あくまで顔は向けない。意志表示は、姿を現すだけで十分だよね。
さて、この人は一体どうやって僕たちに気づいたのか。
そして何者なのか。

「ほう……まさか小僧と亀が出てくるとは……この町にも生き物がいたのか」

……生き物を初めて見ただって? ……そういえば僕も見てないな。なんでだろう。
どういう事だろう? 僕たちが最初の遭遇者なのか? 
何も言ってこないということは、やっぱりこの人はイギーの姿を『見た』わけじゃあないんだ。
……さっさと用件を聞こう。

「あ、どうも初めまして。僕は広瀬康一と言います。こっちはペットのココ・ジャンボです」
「こちらも自己紹介しよう、我が名はダイアー。お前に聞きたいことがある」

ダイアーさん、か……イマイチ掴みどころの無い人だな。
まぁこんな状況じゃあ自分の素性をペラペラ喋るのは危険過ぎるもんなー。僕も名前だけしか言ってないし。
『亀』には何も触れてこないから……やっぱりイギーには気づいてなかったのかな。

「はぁ、どうもダイアーさん……それで、話はなんですか? できれば簡潔にお願いします」
「よかろう。単刀直入に言うが、お前はスタンド使いか? 」
「はい。そう、ですけど…………」



空気が凍りついた。わかる。確実に。
何故だかわからないけど……ダイアーさんが、微妙なオーラを出している。
う~ん……なにかマズかったかな。
でも、これで気を悪くしたのならチャンスだ。適当に悪態を付いて別れる口実になる。

「何か気に触る事でも言いましたか? 生憎僕は故郷であるこの町で、最後の思い出作りをしてる途中なんです。
あなたに危害を加えるつもりはありませんし、もう誰とも関りたくありません。
 できれば……ほっといてもらえんませんか? 」
「……そうか。すまなかった。もういい……行ってくれ」

僕はずかずかと、ダイアーさんに背を向けて歩き出す。
ごめんなさい。仗助くんだったら一緒に行動してくれたんだろーけど……
今の僕は、とてもじゃあないけど人間不信になってます。
あなたは見た目も強そうだし……僕が一緒になくても大丈夫ですよ、ね?

「そうそう……言い忘れていたが……」

うわあ……関わらないでって言ったのに……聞こえないフリ聞こえないフリ。かまったら負けだよね。

「相手が意味の分からん事を言ったら、普通……聞き返すよなぁ」

…………………………………………!?
その時、僕は(おそらく他のみんなもだが)ドス黒いオーラをダイアーさんから感じた。
これは紛れも無い……漆黒の『殺意』ッ!
僕は慌てて振り返る。
ダイアーさんは既にこっちに向かって飛び蹴りを放っていた。
この緩いスピード……エコーズACT2でも十分防御できる!



バシィィィーーーーーーーz_______ッ!!

「……え? ぼ、僕の両手が……ダイアーさんの足にくっついて動かないッ!? 」
「かかったなアホが! ただの飛び蹴りと勘違いしたのが運の尽きだ……喰らえ、必殺! 稲妻空烈刃! 」

ズドンッ!!

※  ※  ※

フッ……決まった。
角度、スピード、威力、共に申し分ない。
私の「稲妻空烈刃」の手刀が小僧に炸裂する。
全く嘗められたものだ。このダイアー、容赦せん!

平静を装う度胸は上出来だったが、爪が甘かったな。
ちゃんと礼節を弁える者が、何の気遣いも無く、他人を見捨てるようにその場を去るのは、不自然であろう。

まあ、貴様が『スタンド使い』とわざわざ名乗った時点で貴様の命運は尽きていたがな。
本当に接触をさけようとしているだけなら、それまでだ。もう用は無い。
だがコイツが何か隠し事をしているとしたら……捕まえて吐かせる必要がある。

「小僧ッ! 威力は抑えてある。何か隠しているなら洗いざらい喋ってもらおうか」
「……いえ、喋る必要はありません。だって、もう出てきてしまいました」

小僧の顔はちっとも引き攣っていない。恐怖に喘いでもいない。
何故? 何故だ? 確かに私はこいつの体に自慢の手刀を……ん?
私の体に……砂!? 『亀』の背中から……砂が出ているのか!?

「既に砂があなたの体に絡み付いていました。もう動けませんよ」



ヌオオオオ……体が言う事を聞かぬ。この『亀』もスタンド使いだったのか!?
炎を操るスタンド使いの次は砂を操るスタンド使いか。
己ェ己ェ……どこまでもこの私を舐めおって。これは予定変更だな。

「刻めッ! 我が血液のビートッ!」

バリバリバリバリバリッ!

「アギャギャギャッ!? 」
「ああッ! イ……イギィィィィィィィィィーッ!? 」

ム!? 『亀』の中から『犬』が飛び出して来たぞ。
全く次から次へと……この小僧は何を企んでいるのだ!?
この犬が、私の波紋で痺れているのはわかるが、何故こいつに効果が……!?
アヴドゥルは『スタンドのビジョン』と『本体』にしかダメージは与えられないと言っていた。
しかし砂に流れた波紋の衝撃は『亀』には伝わっていない。
つまりこの砂は操作されたものじゃあなく、この犬のスタンドその物なのか?
この小僧の慌てようを見ると、その可能性は高い。

「大丈夫かいッ!? 早く隠れるんだッ! 」
「アギャギィッ! 」

小僧が犬を『亀』の中に仕舞おうとするが、犬は小僧の手を振り払う。
犬は砂を寄せ集め、異形の獣に姿を変える。
創りられた化け物は拳を振り上げて、私に殴りかかった。
なるほど……その『獣』こそが貴様のスタンドの正体か。砂を操るのではなく、砂に変化できるのだな。
犬コロの癖に参加権が与えられているだけはある……実力も相当なものだろう。

「だが貴様の砂は私には効かん。『はじく波紋』ッ!」

拳を弾かれたスタンドをやり過ごし、私はありったけの力を込めて犬の顔面を打ちのめす。



「キャインッ!! 」

犬は大きく吹き飛ばされ、そのまま地面にバウンドした。
小僧が青ざめて、犬に駆け寄る。動揺のあまり戦闘意欲もすっかり削がれたか。
匿ったはずの仲間に、庇われる図は見てて滑稽だな。私の波紋で……自分の浅はかさを噛み締めるがいい。
ついでだ……ここらで、ダメ押しをしてやろう。

「フッ……その犬はもう助からん。実は攻撃と同時に、口に毒を仕込んでやったからな。
 それも威力としては申し分ない"青酸カリ”だ! 今のうちに別れの言葉をかけておけ……。
 そして冥土の土産に貴様らにも教えてやろう。
 我が名はダイアー。チベットはヌー川の上流に住む師・トンペティの下で修行を積んだ『波紋使い』だ! 」
「は……波紋……ジョースターさんが使えるっていうあの体術……」
「そうだ。厳しい修行の果てに会得した技で、超人に近づく術だ……
 ポッと出の超能力を使う、貴様らスタンド使いとは格が違うのだよ! 」

うむ。自分で言うのもあれだが、中々気持ちがいい。
小僧の顔色には絶望が見える……まあそうだろう。
己の未熟さで同胞が死んでいくんだからな。
こいつらは精神的動揺を来たした……今はこちらが絶対的優位。
さて、遊びは終わりに……?

「ウウウウウウガァァァァァァァァァァァッ!! 」

犬と小僧と、亀の周りに砂嵐が舞い上がる。
砂はどんどん勢いを増して、私の視界を奪っていった。
しまった……うっかり調子に乗りすぎた。
まんまと逃げられてしまったかッ……!?



※  ※  ※

「こ……ここは…イ、イギー! また砂で安全なところまで運んでくれたの!?
 君って奴は……酷い怪我なのに……ウッ……無茶して……エグッ」

康一くんがイギーを抱きかかえて泣いている。顔も鼻水でぐしゃぐしゃだ。
……いずれこうなることはわかっていた。
『僕と康一くんを守る』……そう僕に書き込まれた瞬間から既に決まっていたんだ。
イギーという犬の運命は、この僕が、死なない限り……忠実に命令の従うのみ。

「イギーッ! しっかりするんだ……そうだ応急処置を…… まだ諦めるには早いよ!
 露伴先生、何か知ってませんかッ!? 毒物に対する応急処置ですッ! ……アンタ漫画家だろッ! 」
「……知っているともさ。 だが今すぐここではできない。 適切な処置を施さないと……病院に行くんだ康一くん! 」
「ハイ! イギーごめんね。病院に行くまでこの『亀』の中に入ってて」



イギーを『亀』に戻し、康一くんは病院に向かって走り出す。
康一くんは涙を拭いながら、先へ先へと進んでいく。大切な仲間を失いたくない気持ちで一杯なのだろう。
だが……正直に言うと、これは徒労にしかならない。
青酸カリを服用して、何もしないまま放置された患者の猶予時間は……実際ほんの数分だ。
ここから病院は遠すぎる。
かといって100%濃度の酸素を初めとした、治療に必要とする物質はそこにしかあるまい。
くそッ……こんな時、僕のヘブンズ・ドアーがあれば……!

「露伴先生! 何ボーッとしてるんですか。イギーをちゃんと見ててくださいッ! 」
「あ、ああ……すまない。」

僕は蹲って動かないイギーに近づく。
イギー、まさか死んでな………………?



ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド




…………イギー………………………………お前って奴はッ!!!




※  ※  ※


このダイアー、波紋の戦士として誇りを持っている。
波紋を操り、屍生人、吸血鬼、悪人を裁くことが生きがいだ。
そんな私の目の前に現れた未知なる存在――スタンド使い。
精神が本体の守護者となり、本体の代わりに戦闘をこなす種族……。
最初は私も『スタンド』への興味を持ち、その粋に恋焦がれていた。
だが……先で知り合ったスタンド使い達は自分本位で、スタンドを持たぬ私をこき下ろすばかり。
だから私は決心した。
全てのスタンド使いを亡き者とし、波紋使いこそが最強だという事を示してやると。
最初に殺した虹村億泰は、実にとるに足らない男だった。
スタンドが無ければ、ただの青年。
卑怯な手とはいえ、私の奇襲に成す術も無く絶命した。
あの時の爽快感は忘れられない。スタンド使いにもピンキリがあるのだと知った。
だが……それではまだ足りぬ。私はもっと知りたい。
敵を知り、己を知らばなんとやらだ。
こいつらから完全なる勝利を勝ち取るために、私は更に上へ進まねばならない。

「……逃げずにここに残った行動は評価するが、
 その行為は見境の無い『ノミ』と同じく……『勇気』とはいえんな。
 犬コロとはいえ、貴様もスタンド使い。一瞬であの世に送ってやろう! 」

STEP“2”だ。『死に体とはいえ、真っ向から挑んでくるスタンド使いに、勝つ』――――ミッションスタートだ。



「死ねェィッ!」
「『愚者』! 」

互いの攻撃が交差する。
私の拳は犬を頬をかすめ、犬のスタンドの掻撃が私のデイバッグを裂く。
口を開いた鞄が、だらしなく中身を吐き出していくが、そんなものはお構いなしだ。
間髪いれずに振り向き、互いの撃が、再びかち合う。
しかし双方の攻撃はすき紙を通すが如く、直撃しない。
地面では、私と犬の武闘によって踏み荒らされた日用品が、舞踏している。
くやしいがこの犬の戦闘センスは……非凡のようだ。
しかしッ!

「『ズームパンチ』ッ!!」

長き格闘も、私の渾身の一撃で遂に幕間を作る。
波紋で射程を伸ばした腕は、獣を捕らえて殴り飛ばしたのだ。
今までの攻撃は、リーチを相手に刷り込ませる為の伏線よ。
貴様はまんまと、急にリーチが変わった私の一撃に、敗れたのだ。



「さぁ……貴様の命はあと僅かだッ! このまま文字通り“負け犬”になるかッ!? 」
「フッ……ギャウウウゥゥゥ!!」

犬は私の発破に答えるように大きく吼える。
すると……奴のスタンドの砂が、私の周りを取り囲む。
砂は瞬く間に形を整え……ドーム状になって、私を閉じ込めてしまった。
外は全く見えない。完全に包まれている。

「……一体何を考えているのだ。酸欠にして私を窒息させるつもりか?
 残念だよ。根競べというものは、同じステイタスの者同士がやってこそ意味があるのだ。
 それに貴様の砂は、私の『はじく波紋』で簡単に打ち破ることができるのを忘れたかァァァ!!
喰らえ必殺!『はじく波…… 」


――――――――――――フッ……―――――――――――――

…………笑った、だと?
そういえばさっきあの犬は……笑っていた。
なぜだ? 奴は何故あの時笑ったのだ?
犬が『笑うこと』に気になったというより、犬が『笑った理由』が……気になる。
何が可笑しい!? 何があの犬を微笑ませるッ!?




ピチャ……

          ピチャ……


ふと、私は自分の足元から液体が滴る音を聞いた。
砂ではなく、『水』。なぜ、こんな時にこんな音が?
この砂のドームのどこに水分が?
私は足元に視線を移した。
謎の音の正体は……なんだ、これか。
ただ、私のデイバッグからばら撒かれていた、『容器』から液体がこぼれていただけだ。
全く、とんだ………………………………………



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……………………



この容器は……なんだ。
他の容器とは違い、これだけ『材質』が異なる。
厳重な雰囲気を感じさせるそれは……まるで宝石を守る為に作られた宝箱のような、ビン。
これに入ってたものは、水ではない。水の入ってた容器ではないのだ。
私自身、このビンにはとても見覚えがある。
そんな……まさか!
この液体は全て『支給された飲料水ではない』のか!?
奴は……最初から『これ』を狙って……!?

馬鹿な! あの犬は、私の荷物の中身を散在させるフリをして…





『青酸カリ』入りのビンを割ったのかッ!!



……昔、何かで読んだことがある。
毒物というものは、その三態の如何で致死量が大幅に変容する、と。
つまり種類によっては液体の状態よりも、気体の状態のほうが何倍も威力を持つ……という事だ。
今、砂のドームの中には私と散らかった荷物と、底に広がる液体の溜まりのみ。
奴はこのドーム内で、青酸カリを蒸発して充満させ……私を中毒死させるつもりかッ!
しかもこの密閉された空間では迂闊に呼吸が出来ないッ! 既に青酸カリが気化しているやもしれん。
ゆえに波紋も練れぬのだッ! これでは『はじく波紋』で砂をはじいて脱出することが出来ないッ!
私に出来る事は、あの犬がくたばってこの束縛から解放されるのをただ待つしか……信じられん。
いつの間にか、このダイアーが『根競べ』の壇上に上げられているッ!?

気化に必要な時間、致死量、応急処置……私が青酸カリの詳しい性質を知っていればこんなことには!
……いや待て。知っていたしても、おそらく無駄だろう……でなければ奴がこんな『捨て身の賭け』をするはずがない。
波紋の性質を知っていても、到底踏み込めぬ英断だ。
犬……いやイギーよ。
貴様のような戦士と合間見えたことを心より感謝する。

この私と、本気の勝負だ。
波紋戦士は呼吸を操るのが基本。
私の息止めを……嘗めるなよッ!


※  ※  ※



ハァ……ハァ……ちくしょー……ハァ……苦し…い……
頭が……痛ぇし……めまいもする……意…識が……やべぇ……
せっかく治りかけてたコブも……更に酷くなっちまったっつーの……

思えば…ここに来てからずっとそうだ………
コーイチや……ロハンを守るのに精一杯で…………
他の……事、なんて考え……られなかった……


まったく……オレって…………奴は……何やってんだか…………

何のトラブルもない……人生を……送るはずだったのに……

ちくしょう……ミスったぜ……

※  ※  ※



サラサラサラ……サラサラサラサラ……

崩れる砂粒の山、巻き上がる旋風。
拷問部屋は終に跡形もなく消え去った。
どうやら長いようで短い戦いが終わったようだ。

「ゴホッゴホッ…………ハァ……」

危なかった。このダイアー、久々に死を覚悟したぞ。
気体が完全にドームに溜まっていたら、確実に『痛みわけ』をしていた。
しかし……ドーム内で溜まる毒は私だけを苦しめない。
イギー、貴様の砂のスタンドも触れていたのだ。
スタンドのダメージは本体のダメージ……即ち貴様もドーム内に体と入れている事と同じになるのだよ。
そして、私は皮膚呼吸もコントロール出来る……だから結果的に、私の限界がにお前の限界を上回ることとなったのだ。
貴様だからこそ出来たこの戦法は、貴様だからこそ、そのまま敗因に繋がったんだ。
だがこの勝負は……私の完全なる勝利と言うには程遠い。
さて、奴は一体どこに……なッ!?

「…………おい、お前……もう許さないぞ……ッ!! 」



ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド





いつ……戻って来たのだ……私は……気配を感じなかったぞ……!
イギーは、大事そうに抱えられてる……私が最初に命を奪おうとした『広瀬康一』の胸にッ!
こ、こんなことが…………これが……奴の真の狙いだったのかッ!
わざわざ時間稼ぎの為に、主人が戻ってくる為に、自分の命を『捨て鉢』に……!
いかん、呼吸が乱れて、は、波紋が……!

「イギー……お疲れ様……後は……僕に任せて……くらえ! エコーズACT2! 」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーッ!! 」



………………………………………………………………?


な……な……なぜ……なにも……なにもしてこない?

私は恐る恐る両目を開く。

「……なんだと」

ありのまま、起こったことを話そう。
助けに来たはずのイギーの主人が、砂のように崩れて。
ボロボロになった主人は、抱えていたイギーを落としながら風に流され散っていった。
そうか、私は……最後の最後に一杯食わされたんだ。
イギーは最後の力を振り絞り……主人を象って、さも、たった今そこに到着したかのように、私を錯覚させたのか。
これは……『もし本当に主人が来ていたらお前はここで死んでいる』……という意思表示のつもりなのだろう。


「ニヤリ……グッ…………」

イギーが血反吐を出して倒れる。今度こそ息絶えたか。
私には奴の死に顔が笑顔に見える。
今にも『やりィ! 騙されるなんて頭悪ィぜぇ~ヘヘ~~ッ』と言いそうな顔だ。
フッ……死ぬ間際まで相手を上回ろうとする、その往生際の悪さ。
やはりスタンド使いは……貪欲な愚か者ばかりだ。

この勝負、結果は日を見るより明らかだな。



勝利への貪欲さで……私の負けだ。

このままでは……私もいつか必ず敗北する。
成長せねばなるまい……完全なる勝利への道を、もっと渇望するのだダイアー。

卑しく飢えた『獣』ではなく、気高く飢えた『波紋戦士』として!


※  ※  ※


僕の目の前で瀕死になっていた『イギー』が崩れ去った。
崩れた『イギー』は小さな砂の山になり……二度と動かなくなった。
つまり……完全に制御を失ったのだ。
……本当に逝っちまったんだな、イギー。

奴がこの数十分で行った作戦はこうだ。

まず、ダイアーから僕たちを少し離れた場所まで運ぶ。
そしてその場で、砂で作ったもう一人の『イギー』を残しておき、自分はダイアーの所まで戻る。
動かないお前を心配した僕たちは、もう一人の『イギー』を連れて勝手に安全な場所へ行く。
それだけこの『砂で作った偽のイギー』は良く出来ていたな。
一方自分は、『主人』を守りながら戦う必要が無くなり、全力でダイアーの相手をすることが出来る。
良くて相討ち。しかし悪くても足止めには充分。
確かに『露伴と康一を守って』いる。

予定は滞りなく進み……今こうして僕と康一くんは、砂の塊を心配しながら先へ進んでいる。
康一くんは……イギーが偽者だと気づいていないのかな?
いや、ひょっとしたら……気づいていない『フリ』をしているのかもな。
まあいいさ。もうすぐ放送が流れる。
嫌でも現実に引きずられるんだから、今は黙っておこう。

それにしても……なんという事を考えるんだ。
確かに僕は「守れ」とは書き込んだけど……何もここまで律儀にやる必要はないんじゃあないか……?
ここまで頭の回る犬なら、最初から書き込まなくても良かったのかもしれないな。
奴はもともと康一くんと行動していたのだから、裏切るような真似はしなかっただろう。
すまない、イギー。埋葬ぐらいなら……後でやってやるよ。


しかし……なるほどね……どうりで『神父』が『僕のスタンド』を抜き取るわけだ。
これは『天国』の『神様』が僕に下した『天罰』なんだよ。
だってそうだろう?
奴の優秀さは間違いなく荒木打倒の一員に持って来いだったんだ。
だが僕は奴の『運命』を弄んだ挙句、死に至らせてしまった……。
そんな男に……『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』を開く資格は無い。

フフフ……実にスゴイ体験だなあ……こんな体験、滅多にできるもんじゃあないよ。
『天罰を実際に受ける』……これを作品に生かせば……いいネタになる。
今の時点では全て妄想に過ぎないのが残念だが、これからも僕には『試練』がやってくるだろう。
そしてその『試練』は、きっとわくわくするような『体験』に違いないッ!
康一くんには申し訳ないが……ちょっぴり荒木に感謝しなければいけないなあ~~。
勿論……一番すべきことが何かはちゃーんとわかってるつもりさ。


わかってる……わかってるよ……?


フフフフフフ…………ハハハハ…………アハハハハ………!


【靴のムカデ屋前(F-4)/一日目/昼】

【ダイアー】
[能力名]:波紋
[状態]:軽い疲労。
[装備]:なし。(閃光弾はアヴドゥル戦で使い切り、青酸カリもイギーとの戦闘で使い果たされました)
[道具]:支給品一式(億安のものと合わせ二人分、ただし水こぼれてしまったのでありません)
[思考・状況]
1)スタンドよりも波紋が上という事を証明するためゲームに乗る(殺すのはスタンド使い優先)
2)その為にもっと勝利を渇望する。
3)ツェペリさんに会った時はどうしよう
4)自分を嘗める者は許さん


【市街地(E-5)/一日目/昼】

【岸辺露伴探検隊】

【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズACT1・ACT2』
[状態]:疲弊/混乱
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、シャボン液、ココ・ジャンボ
[思考・状況]:
1)『亀の中にいるイギー』を急いで北の病院(C-4)か東の病院(E-6)に連れて行く。
以下、全て(1)が終わってからの優先事項です。

2)露伴の負傷を治すために仗助君を探す。
3)露伴のスタンドを取り返すためにプッチ神父を探す。
4)もっと力がほしい
5)襲ってきたアナスイへの怒り
6)打倒荒木。けど本当にできるのか不安


【岸辺露伴】
[スタンド]:『ヘブンズ・ドアー』(プッチにDISCとして奪われた)
[状態]:重症(左脚・肋骨骨折、打撲多数、頭も打っている)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、イギーの形をした『砂』の塊(崩壊寸前)
[思考・状況]
1)自分に軽く酔ってる。(ヘブンズドアーは取り返せても、取り返せなくてもいい)
2)ヘブンズ・ドアーを奪った奴(プッチ神父)への怒りは完全に冷めました。
3)でも怪我は治したい(くそったれ仗助に治してもらうのは気が進まないが)
4)康一の荒木打倒に協力する(あくまでこっちを優先するよ? ……多分、ね)
5)漫画のネタ探しのために、荒木や『未来人』に『取材』したい
6)余裕があればイギーを埋葬したい。

[捕足1]:露伴と康一の持ち物は全て『亀』の中です。
[捕足2]:『亀』の中にいるイギーが偽者だと、康一が気づいているかどうかはわかりません。
[補足3]:プッチがヘブンズ・ドアーを盗った為に、露伴はスタンドが使えません。
[補足4]:露伴はヘブンズ・ドアーを盗られましたが、アナスイ、シュトロハイムへの命令は消えていない可能性があります。


【イギー 死亡】


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キャラを追って読む

73:その者共、同様につき その② ダイアー 90:師の教え(前編)~兄弟弟子の再会~
71:奪われたスタンド 広瀬康一 86:断末魔のエコーズ
71:奪われたスタンド 岸辺露伴 86:断末魔のエコーズ
71:奪われたスタンド イギー