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「さて……どうしたものか……」

虹村形兆は自分の「ランダム支給品」に「乗り込みながら」、口の中で呟いた。
「荒木」とやらの能力で飛ばされた彼の目の前にあったのは、セダンタイプの、ごくごく普通の乗用車。
デイパックの中にあったキーを挿せば、しっかり噛み合う。戸が開く。
支給品と共に入っていたメモに書かれていた一言、「真の支給品はお前のすぐ傍にある」、の通りだ。
直接戦闘に役立つものではないが、形兆はこの支給品に満足する。
クラッチのないオートマ車。免許などの問題はともかく、一応動かすことはできそうだ。
未知のスタンドが相手でも、自動車の速度とパワーがあればある程度は優位が得られる。
そして何より、移動がラクになる。移動中の隙も減らせる。

「ここが杜王町だと言うのなら……気になるのは、おやじのことだな」

現在地は杜王町の駅前商店街の一角。見覚えのある道である。
ここが杜王町だというなら、住宅街にある『あの家』には彼らの『父親』がいるはずだ。
いや、この無人の街の様子では居ないのかもしれないが、それでも一度は、確認せねばなるまい。
そしてもし、あの家に『父親』が居るのなら。

「おやじを殺せるスタンド使いが、いるかもしれねぇ。あの教会に居た顔ぶれの中に、いるかもしれねぇ。
 いや、あの中に居なくても……あの『荒木』とかいう主催者ならば、おやじを殺せる可能性があるッ!
 なんとかして、その『能力』を利用できればッ!」
ともかく、一旦自分たちの家に帰る。そして『父親』が居るかどうか確認する。すべてはそれからだ。
『父親』が居れば、他の参加者に殺させる算段を考える。あるいは『荒木』に殺させる計画を考える。
居なければ――それはその時に考えよう。
……他の参加者といえば、教会で見かけた顔ぶれの中に、気になる人物が2人。

「億泰の奴も、参加者の1人のようだな。またどこかでバカをやってなければいいんだが。
 奴も探したいところだが、弟も一度は家に戻ってくるだろう。
 つまり、家に帰れば一石二鳥というわけだなァ~っ。
 あと気になるのは、東方仗助の出方だが……まあ、今は保留か」

弟の億泰は、まず自分の敵になることは無いだろう。今後どうするにせよ、合流しておいて損はない。
ただ探すにしても居場所の手がかりすらない。同じ群体型でも、『ハーヴェスト』と違って捜査には向かない。
億泰に遭遇するためにも、一旦は兄弟たちの原点であるあの家に戻るべきだろう。
一方、先日彼が『弓と矢』を使って『作った』スタンド使い、アンジェロを倒したという東方仗助。
形兆にとっては厄介な存在であり、このバトルロワイヤルの中で始末できれば丁度いいのだが……
ただこれは、あまり優先順位の高い問題ではない。後回しにしてもいい。
形兆は深夜の街中から自分たちの家に移動しようと、エンジンをかけ、車のライトを点けて――

そして、彼は見た。乗用車のライトが照らす闇の向こうに、それを見た。
道の彼方から走ってくる、得体の知れぬ巨大な物体を。
地響きを立てて迫ってくる、1999年の日本の風景には馴染まぬ『その乗り物』を。

「あれは……『スタンド』、なのかッ!? いや、実体があるっ!?」


 * * *

「UROWOOOO! 全て蹴散らしてくれるわッ!」

タルカスは自分の「ランダム支給品」を「乗りこなし」ながら、そのパワーに大いに満足していた。
支給品の代わりに、デイパックの中にあった一枚のメモ。「真の支給品はすぐにお前の所にやってくる」。
その言葉の通り、自分で走ってやってきた「それ」を、タルカスは豪腕でもってねじ伏せ、乗りこなしていた。
技のブラフォードに対しての、力のタルカス。『77の輝輪』の試練を腕力だけで乗り越えた猛者。
純粋な腕力だけなら、全参加者の中でも相当高い部類に入る。

「ふふふ、なんとも古風な『乗り物』だが、こいつらならばッ! 我が力、最大に発揮できるッ!」

それは、そう、16世紀に生きた歴史上の人物・タルカスから見ても、古い時代の戦争の道具。
それが20世紀末の日本の商店街を疾走するのだから異様極まりない。地鳴りのような音が深夜の街に響く。
やがてタルカスはその進路上に2つの眩い光点を見つける。
タルカスにとっては未来の乗り物。乗用車が放つライトの光。
その中に乗っているのは、間違いない。あの首輪のデザインからして、参加者の1人……!

「UOHHHH! 丁度いい、その貧弱な鉄の塊ごと、踏み潰してくれるぅっ!」

タルカスは破壊の衝動に駆られて叫ぶ。手綱を使って鞭を入れる。さらに加速するっ……!

 * * *

「……流石に『アレ』と正面からぶつかるのは良策ではないッ! 戦略的撤退ッ!」

形兆は素早くバックギアに入れ、急いで方向転換すると……迫ってきた「それ」に背中を向け、逃げ出した。
アクセルを踏む。車が加速する。完全に追いつかれる前に、なんとか時速60キロに到達する。
しかし「それ」を全然振り切れない。数メートルの間を置いてぴったり車の後ろにくっついてくる。
形兆はバックミラーの中の「それ」を改めて観察する。冷静な形兆の額に、僅かに冷や汗が浮かぶ。

「それ」の先頭で頭を振っているのは、巨大な馬だ。恐竜にも見間違うような異様な馬だ。それが並んで2頭。
どういう仕組みになのか、その頭部には針のようなものが何本も突き立ち、しかしそれでも馬は生きている。
生きているどころか並大抵の馬より強靭なパワーを発揮して、その後の戦車を引っ張っている。
立ち乗りを前提とした古代の二輪馬車の上に立っているのは、こちらも時代錯誤な鎧の騎士。
しかもデカい。やたらとデカい。
そしてあの体格と顔には、見覚えがある。教会に集められた参加者の中でも特に目立っていた1人だ。

そう、屍死人・タルカスに支給された『武器』は、なんと吸血馬2頭に引かれた古代の戦車。
あのまま真正面からぶつかっていたら、形兆の車はその蹄と車輪に踏み砕かれ、即死していただろう。
尻尾を巻いて逃げるのは形兆の流儀ではないが、他に選択肢がなかったのは事実。
タルカスの戦車に追われ、車が走っていくのは駅の方向。形兆の目的地・虹村家の方角とは正反対だ。
バックミラーの中につかず離れず戦車が居るのを確認して、しかし彼はニヤリと笑う。

「だが、このまま逃げるだけってのは我慢できねーぜぇぇ!
 オレは几帳面なんだ。予定を乱されると気分が悪くなるんだ。
 この化け物に我が『中隊』の力、思い知らせてやるぞぉ~~! 歩兵隊ィ~~! 配置につけッ!」

 *  *  *

「URRRRYYYY! 逃がすとでも思ったかぁぁあ!」

タルカスは叫ぶ。叫びながら吸血馬たちに鞭を入れる。
路上に放置されていた車を踏み潰し、街灯を薙ぎ倒しながら形兆の車を追う。
逃げる獲物を気分良く追い回しながら――しかしタルカスは内心、首を捻っていた。
武器が無い。剣でもあれば、戦車を逃げる車の隣に寄せて斬り付けるところだが、しかし今は武器がない。
鎖の1本、丸太の1本でいいのだ。何か武器さえあれば、逃げる奴に一撃を喰らわせてやれるのに。
手綱を握りながら、考えを巡らしていたタルカスは……そして、車の上に、不思議なモノを見る。

「URY?」

僅かに隙間の開いた窓から、乗用車の屋根の上に登ってきたモノたち。
それはタルカスの指先ほどしかない、小さな小さな、小人たち。およそ20体ほども居るだろうか。
彼らは時速60キロで疾走する車の屋根の上、一糸乱れぬ匍匐前進で這い進んで……
そのまま、伏せたまま綺麗な幾何学模様の隊列を作ると、揃って小さな武器を構える。
タルカスがおや、と思った時には、既に遅かった。

ビスビスビスビスッ!
形兆の持つ群体型のスタンド、『極悪中隊(バッド・カンパニー)』。揃ってその小さな銃を放つ。
正確な射撃がタルカスの顔面を穿ち、針で刺したような穴が無数に開く。
タルカスだけではない、吸血馬にもその攻撃は容赦なく浴びせられて……

「な……なんだぁっ!?」

痛みよりも何よりも、まずタルカスは驚きの声を上げる。
これは……この小人たちは、『敵』だ!
この小人たちこそが、この車に乗っている男の『能力』であり、『武器』なのだ!

武器が必要だ。この敵に攻撃するための武器が。反撃のための武器が――!

 *  *  *

「な……なにぃ~~!?」

歩兵の一斉射撃が、タルカスとその馬たちを捕らえたその時。虹村形兆もまた、驚きの声を上げていた。
限界に近い速度を出している戦車と馬。ちょっとでもバランスを崩せば致命傷ともなる危険な乗り物。
バッド・カンパニーの歩兵が撃つM16は決して威力の高い武器ではないが、しかし、当たればかなり痛い。
痛みのあまりうっかり乗り手が転落したり、牽いている馬が暴れだしたりする展開を期待していたのだが。
左頬に無数の穴を開けられてなお、しかしタルカスは全くダメージを感じていない様子で。
馬たちに至っては、撃たれてできた小さな傷が片端から治っていく。

そう……タルカスは既に死せる屍死人。波紋以外の攻撃では、痛みすら感じない。
そして馬たちは、人間の吸血鬼には劣るとはいえ、再生能力を備えた吸血鬼。
彼らの驚異的なタフネスの前には、あまりに貧弱過ぎる攻撃であった。

「し、しかし、我がバッド・カンパニーの兵器はこれだけでは……なぁッ!?」

歩兵だけでは埒が明かない、と見た形兆は、さらなる戦力を投入しようとするが。
それらが配置につくよりも前に、バックミラーの中に映る光景に我が目を疑う。

ただ追いかけるだけで直接の攻撃手段が一切ない、と思われていた巨漢とその戦車。
だが、タルカスはその丸太のように太い腕を大きく構えると……
なんとそのまま、道路脇に立っていた交通標識に、力強いラリアットを喰らわせる。響き渡る轟音。
吸血馬のパワーと速度もあいまって、頑丈な標識は僅かに曲がりながらも地面から引き抜かれる。
タルカスはそして、端に丸い板のついた鉄の棒を、片手で振り上げる。

「WWWWRRRRYYYY!」

タルカスの手にした交通標識が、通りすがりの店の軒先を掠める。『靴のムカデ屋』の看板が吹き飛ぶ。
そして巨漢は大声で吼えながら、その交通標識を振り上げて……!

 *  *  *

パワーが身上のタルカスと、小さいことが強みのバッド・カンパニー。
両者の戦いの余波は夜の街を破壊しつつ、しかし爆走は止まらないッ……!
【巨象と戦争アリの戦い または はた迷惑なカーチェイスバトル?】

【杜王駅前商店街/1日目 深夜~黎明】
 (『靴のムカデ屋』前を通過。今まさに駅の方向に向かって移動中)

【虹村形兆】
 [スタンド]:バッド・カンパニー
 [時間軸]: 仗助と康一が初めて虹村兄弟と遭遇する直前。そのため父親を殺すことしか考えていない。
 [状態]:屍生人のタフネスやパワーにやや混乱中。ただし戦意は十分、ダメージも皆無
 [装備]:特になし
 [道具]:支給品一式、ごく普通の乗用車(AT)(ランダム支給品)
 [思考・状況]:
  1)虹村兄弟の家の場所に戻り、父親がいるかどうか確認(今走ってる方向とは逆方向になる)
  2)億泰を探す(探してどうするかはまだ決めていない。探すためにも一旦「自分の家」へ)
  3)すぐ後ろのタルカスをなんとかする。あわよくば倒す、最低でも追えないようにして逃げ出す。
  4)3)のために、歩兵以外の手持ち戦力も繰り出す。
  5)優先順位は落ちるが……参加者の中にチラリと見た東方仗助に警戒感。

【タルカス】
 [種族]:屍生人(ゾンビ)
 [時間軸]:ジョナサンたちとの戦いの直前。ディオに呼ばれジョナサンたちと初めて対面する前。
 [状態]:バッドカンパニーの歩兵から銃弾を受けたが、蚊に刺された程度のダメージもない。戦闘の高揚。
 [装備]:吸血馬×2頭+チャリオット(ランダム支給品)、へし折った道路標識
 [道具]:支給品一式
 [思考・状況]:
  1)殺し合いのゲームに乗る(ただしDIOやブラフォードと遭遇した場合どうするかは、まだ考えてない)
  2)1)の延長として、目の前の形兆を倒す
  3)まずは、この凶器で殴りつけてやる! いや、投げつけるか?!

 [備考]:この2人の移動しながらの戦いはかなり激しい。
    通過する街並みの近く・あるいは進行方向に第三者が居れば気付かれる可能性大。

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虹村形兆 32:『Oh! That's A Car Chase!!』
タルカス 32:『Oh! That's A Car Chase!!』