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   **********

 なんだ? おい、おかしいんじゃねえか?

 南から来たカキョーインは、北から来た帽子野郎に気づいて身を潜めている。一本東側の通
りに出てくるのを、じっと待ってるってわけだ。それはわかる。戦う気があるのか、それとも
逃げるつもりか…そいつは知らねえがな。

 だが、こっちの帽子野郎は、なんでいきなり立ち止まったんだ? T字路の角の所で、これ
まで以上に警戒して身を潜めてやがる。ヤツの姿はコンビニのかげに隠れちまって、俺のいる
屋上からは見えない。帽子野郎が東に曲がった段階では、カキョーインの姿に気づいた様子は
なかった。それなのに、どうして隠れたりするんだ?

 あるいは…気づかなかったふりをしていたのか?

 くそっ! やきもきするぜ。早くぶつかりやがれってんだ。
 俺は、スコープの倍率を上げて、帽子野郎の潜んでいる辺りを注視する。

 …なるほど、多少イラついて注意を怠っていた。それは認めるぜ。しかしな、

 ゴウンゴウンゴウン…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴオォォォォォォ!

 振り返った俺に向かって、ラジコン飛行機が突っ込んできやがった!
 しかも、ご丁寧に機銃から実弾をバラ撒きながら迫って来やがる。

 ボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!
「う、うおあああぁぁぁ! なんだ、コイツはっ!?」

 避けきれなかった弾丸が、俺の腕や太股に命中する。
 射撃の精度は、イマイチ正確じゃないようだが。

「ちくしょう、戻ってきやがる!」

 突然の攻撃に対処しきれず、ぶざまにぶっ倒れながら、俺は叫んだ。
 あの急旋回! ラジコン飛行機にこんなマネはできねえ。



「スタンド、か!? うおおおぉぉぉ!」
 ボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!

 今度は、弾丸の大部分を避けた。来るのが分かってれば、それほど怖くねえ。まとめて食ら
わなければ、弾丸一つひとつの威力はそれほど強くはないようだ。

 しかし、それほど広くもない『屋上』っていうこの場所が正直ヤバイぜ。少しずつ体力を削
られて、じわじわとフェンス際にでも追い詰められたら、マズイことになる。

 ボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!

 そして実際に! この戦闘機の動きはそれを狙っている動きだ!

 だが、あれがスタンドだとして、本体は何処にいるんだ? 何処から俺のことを確認してや
がる? まさか、ジョースターのやつが!? これはあの男の…いや、これだけのスタン
ドがあるなら、さっき襲われたときに出さなかったのはおかしい。

 ボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!

 てことは、下にいるガキどものうち、どっちかのスタンドか! だが、カキョーインのスタ
ンドにこんな能力はなかったハズ。とすると、あの変な帽子をかぶったガキか!

 ヤツが立ち止まって隠れたのは、カキョーインに気づいたからじゃねえ。発見されていたの
は俺のほうだったんだ。どうやって探知したのかは分からねえがな。

 俺は貯水タンクの後ろに隠れて、戦闘機スタンドの攻撃をやりすごした。
 戦闘機はやや遠方まで飛び去ったあと、例の急旋回でこちらに向き直ろうとする。
 タンクの上から回りこまれたこの状態では、俺の姿が丸見えだ。

 もっとも、やつに『眼』がついているとしての話だが、な。
「エンペラー!」ドゴォン!ドゴォン!ドゴォン!

 旋回中のスピードが落ちた瞬間を狙って、俺は『エンペラー』の銃弾をぶち込んだ。
 計三発の弾丸は、通常ならありえない軌跡を描いて、戦闘機の後背部に命中する。

『拳銃使い』の面目躍如ってとこか?





   **********

「いったい、何が起こってるんだ?」

 始めに響き渡ったのは機関銃のような連続した発射音だった。花京院が音の来た方角に目を
やると、ホテルの屋上を旋回する小さな物体が見えた。

 しばらくすると、さらに別な銃声が聞えた。さきほどまでの唸るような発射音とは違って、
単発の拳銃を続けざまに発射したような音が、静寂の町にこだました。

「屋上で争っている者がいるのか? …あるいは?」

 どちらか一方は、さきほどの人影が放ったスタンド攻撃かもしれない。すでに戦闘準備に
入ってしていたのだとしたら、その人物が隠れて出てこなかったのも合点がいく。

 しかしそうすると、その人物のスタンドの射程はかなり長いということになる。立体的な
索敵範囲だけを比べれば、『法皇の結界』よりも広いと言えるだろう。だが少なくともいまの
ところ、花京院やそのスタンドに気づいている様子はない。

「いずれにしても、いま動くのは上策じゃないな」

 ハイエロファントの送ってくる情報に注意しながら、花京院は呟いた。

「もうしばらく、様子を見る」




   **********

「ぐおぉぉぉ痛てえぇぇぇ! ちくしょう! またやりやがったな!」

 全身の激痛を耐えながら、ナランチャはレーダーを睨み付けた。

「テメェ!ちくしょう、ブチャラティのスタンドじゃねえ! ジョルノでもねえ!
 くそっ! もう手加減しねえぞ!」

 叫んでから、ナランチャははっと気が付いた。

「手加減…なんて、最初っからしてねえ!」
 ボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!

 相手のスタンドは、攻撃の種類だけをみれば自分によく似ていた。
 全身に刻まれた傷からして、銃弾のようなものを撃ちだして攻撃するタイプだろう。
『エアロ・スミス』と違って、狙いはかなり正確なようだが。

「うおぉぉぉ! また撃ちやがった!この野郎オォォォォォォ!」

 左腕に空いた銃創をかばいながら、ナランチャは叫んだ。
 早く倒さないと、階下の住人が加勢にやってくるかもしれない。

「だが…! 決定的なのはよぉ、射程距離の差だぜ!」

 何度か攻防を繰り返すうちに、分かったことがある。屋上にいる敵のスタンドは、おそらく
本体のすぐそばから攻撃してきている。そしてどうやらその攻撃は、『エアロ・スミス』との
距離が遠ざかるにしたがって、威力が弱まるらしいのだ。

「ならよぉ、テメェの攻撃の届かねえところから攻撃してやる!」

 叫ぶが早いかナランチャは、『エアロ・スミス』を急上昇させた。




   *********

 ドッゴオォォォォォォォォォォォォォォォン!

 これまでになく大きな爆発音とともに、ホテルの屋上で火柱が上がった。

「スタンド攻撃…でなければ手榴弾か何かか?」

 屋上を見上げていた花京院は、しかし、やがて別な何かに注意を奪われた。

「なんだ…こいつ…『飛び跳ねて』いる…」

 ハイエロファントが送ってくる、150メートルほど北にいる人物の情報だ。

「…歓喜…『喜んで』いるってわけか…
 …『勝利』を確信し…足を踏み鳴らして…!」

 もはや間違いない。たったいま屋上で爆発を起こさせたのは、ハイエロファントが探知して
いる人物のスタンドだ。おそらく、何かの飛行物体を模したスタンドだろう。

「なるほどな…しかし…」

 そうなると厄介なのは、その飛行スタンドの索敵能力である。その人物のいる場所からホテ
ルの屋上までは、数10メートルの距離がある。数10メートルの距離を立体的に探知でき、
その範囲に攻撃を仕掛けることができるスタンドというわけだ。

「スタンドは…まだホテルの上空を飛び回っている…」

 おそらくは、止めを刺したかどうかを確認しているのだろう。

「だがいまは…爆煙のせいで探知不能といったところか…?」

 いずれにせよ、恐ろしい能力を秘めたスタンドであることに変わりはない。
 少なくとも、このまま北西の病院へと向かうわけには行かない。
 相手に見つからずに回避するのは、きわめて難しいだろう。

「だが…それならそれで、策はある…ハイエロファント・グリーン!」



   *********

「うおぉぉぉぉぉぉ! やった! 殺ってやったぞ!」

 ナランチャは、歓喜の叫びをあげていた。『エアロ・スミス』が投下した爆弾はまちがい
なく、レーダーに映った光点の中心を捉えて爆発したのだ。

「勝った! ザマーミロ! 黒コゲか? コッパ微塵か?」

 傷の痛みも忘れてナランチャは、その場で小躍りした。

「どうだ!思い知ったか! 俺の勝ちだぜ! 俺は勝ち続けてやる! 死んでたまるか!
これからもずっとだ! 俺は死なねえ、絶対に生き残って…う、…ぐわぁ!」

 悦びに湧くナランチャの身体を、奇妙な紐状の物体が絡めとっていく!

「な、なんだこれ! な、まさか、奴のスタンド…?」

 抗おうとしたが、もはやまにあわない。淡く緑色の光沢を放つその紐はすでに、油断した
ナランチャの全身に、幾重にも巻きついていた。目と耳だけを残して。

「くそっ! 締め付ける『力』自体はそれほど強くないのに…何重にも巻きつかれて
身動きが…できない! あの野郎!近距離型じゃなかったのか!?」

 だが、そのときナランチャは、もう一つ別の可能性に気がついた。

「そうだ! 14階にいたヤツ! あいつが援護に来たのかもしれねえ!」

 だが、『エアロ・スミス』の爆弾によって生じた二酸化炭素のせいで、レーダーで屋上を
探知することはできない。それなら範囲を変えて14階を探知すればよいのだが、思わぬ攻撃
を受けて混乱したナランチャは、その単純なことに気づかなかった。

「ちくしょう、油断したぜぇぇぇ。けどよおぉぉぉ…スタンドはスタンドでしか攻撃で
きないってんならよおぉぉぉ、そうするまでだぜ! 戻れ!エアロ・スミス!」

 ナランチャの命令が飛ぶと、ホテル上空を旋回していた『エアロ・スミス』が、およそ信
じがたい角度でエンジン音とともに急降下してくる。もちろん、その銃口は本体であるナラ
ンチャ自身にむけられているのである。

「ぶちこめエアロ・スミス! この『紐』をぶっとばせぇぇぇ!」

 だが、次の瞬間ナランチャは自分の目を疑った。

「どうした、エアロ・スミス!?
 なんでそんなトコで引っかかってんだあぁぁぁ?」

 建物のあいだの狭い隙間に入り込んだ『エアロ・スミス』は、そこに張り巡らされた目に
見えない無数の『紐』に絡めとられ、コントロールを失っていた。

「エアロ・スミス! ちくしょう!どうなってんだあぁぁぁ?」






   *********

『ハイエロファント・グリーン』の触肢が相手のスタンドを捕捉したのを確認してから、
花京院は相手との距離を縮めていった。どれぐらいの距離で相手のスタンドに探知されるの
かを知るには、これしかない。とはいえ、スタンドと本体の両方を捕らえている以上、探知
されたとしても攻撃されることはないはずだ。

 案の定、本体のいるT字路から100メートルを切った辺りで、叫び声が聞えた。

「テメェ! もう一人いやがったのか! 騙しやがって!
 地上にもう一人! 隠れていたってことかあぁぁぁ!」

「…おまえが『慎重な』やつで…その狭い隙間に潜んでいてくれたのが幸いした。
僕たちは…案外似たもの同士かもしれないな」

 まだ見ぬ人物に向かってさらに近づきながら、花京院は言った。

「だが…戻す…と思っていたよ…それは…確信していた」

 相手との距離が100メートル以上あったさきほどの状況では、『法皇の結界』を相手の周り
に張りめぐらすことはできない。しかし、建物と建物のあいだの狭い隙間であれば、ハイエロ
ファントの触肢をクモの巣のように張り渡すことができた。

「なに…? なんのことだ!」

「おまえのスタンドさ…戦闘機の形をした…名前は…知らないがね」

 交差点に辿り着いた花京院は、怒りの形相でこちらを睨みつけている少年と対峙した。

「このクソ野郎! 俺やエアロ・スミスをどうするつもりだ!」

 その少年――ナランチャは、唯一自由に動く目玉をギョロギョロさせてわめいた。

「エアロ・スミスというのか…なかなか良い名前だな」

「なにっ!?」

「だが…そう簡単に名前は明かさないほうがいい…名前を知られるということは、
相手に支配されるということを意味するからだ…わかるかな?」

「う、うるせえ! なに言ってんだテメェエエエエエエ!」

 正直なところ、花京院はひどく驚いていた。どうすれば、自分と同じ年頃の(おそらくは
年下の)少年が、これほどまでに残酷で苦悶に満ちた表情をもつに至るというのか。

「屋上の相手との関係…僕の仲間のこと…おまえの目的…聞きだしたいことは
山程あるが…まずは僕の話を聞いてもらおうか」

「誰が聞くか! この紐をほどきやがれ! そうでなかったら殺せ! このままテメェの
腐った声をきくぐれーなら、死んだほうがましだぜ! オエェェェッ!」

 花京院にとって、承太郎たちの情報はもちろん気になる。
 この少年の能力なら、複数の参加者の動向を把握していても不思議ではない。
 しかし、花京院にはそれ以上にまず果たすべき『使命』があった。




   *********

(なんだあぁぁぁ? 何話してんだこいつ!?)

 紐(状のスタンドを操る)男の話は、ナランチャの理解を越えていた。

(荒木の能力…? そんなの考えもしなかったぜえぇぇぇ)

『空間と時間を操る能力』!
 教会での荒木の仕業は、すべてこのことで説明がつくと紐男は言う。
 そう言われればそんな気もするが、ナランチャにはよく分からない。

「それならよおぉぉぉ! あの放送はどうなんだ? 目の前の砂がいきなり文字みたいになっ
てよおぉぉぉ、あれはどうやって説明するってんだあぁぁぁ?」

「放送…確かにそれはまだ…考慮に入れてなかったな」

「ンだと、テメェ! ナメてんのか!」

 すっかり相手のペースに乗せられていることに気づかず、ナランチャはわめく。
(なんだぁコイツ…自分の身体ももう『フラフラ』なんじゃねえのかあぁぁぁ?)

「いや…しかし…そう…説明はつく…おそらくね。
 砂が動いたってのは、教会で見せた人体浮遊と同じ理屈だろう。周辺の空間を操作すること
 で、砂自体が動いているように見せかけることができる。問題はむしろ僕のほうだ。なにより
 僕の場合は、捨ててあったテレビに映像と声が流れたんだが…おまえの場合とは違ってな
 …しかし、おそらく原理は同じことだ」

 目眩を起こしそうなナランチャを無視して、紐男は続ける。

「音声も映像も、それを構成している最小単位は『波』だ。音や光の『波』が…ものすご
いスピードで空間のなかを進んでいく。そしてそれが僕たちに届くとき、僕たちはそれを音声
や映像として認識する。その『波』が発生した瞬間に…『空間』を操作して別の場所につ
なげれば…それはまるで…音声や映像が飛んできたみたいに…思われるんじゃな
いか? あたかも…その場で壊れたテレビが喋りだしたかのように…」





   *********

「もう…いいぜえぇぇぇ…グラッツェ!」

 花京院の言葉をさえぎるかのように、しかし思いのほか静かに少年は言った。

「ありがとう…? 理解したってことか? 僕の話を理解し…ほかの参加者にも伝
えてくれるってことか? だとしたら、報われる…これで、僕も…・」

 出血のため再び意識が遠のきかけていた花京院は、すがるように言った。
 だが、少年の答えは激しい皮肉と憎悪に満ちたものだった。

「グラッツェってのはよぉ、テメェの話の内容に関してじゃあねぇぜ…そっちはよぉ、
まるで分かんなかったぜえぇぇぇ、俺ってばアタマ悪いからなあぁぁぁ」

「分からなかった…? そうか…ならもう少し単純に…」

「だからよおぉぉぉ、もういいって言ってんだぜえぇぇぇ! 『時間』はたっぷり稼いでも
らったからなあぁぁぁ、グラッツェってのはよおぉぉぉ、そのことだぜ!」

 このときになって始めて、花京院は危機を感じた。彼らしくもない不覚だった。少し揺ら
ぎかけた意識のなか、荒木の秘密を伝えることに夢中になっていたとはいえ。

「エアロ・スミス!」

 少年の言葉に促されるように、花京院は空を見上げた。
 戦闘機型のスタンドの腹部から、一個の爆弾が投下されるところだった。

「はっはっは! ありがとよ! エアロ・スミスが爆弾を装填する時間をくれてよぉ!
 あの爆弾はよぉ、エアロ・スミスがテメェのスタンドに捕らえられた『後で』装填された
もんだぜ。だからよぉ、テメェの紐に『縛られてる』ってことはねえ!」

「そうか…そういうことか…」

「テメェのスタンドに『包まれて』守られてる俺は無事だろうがよおぉぉぉ!
『包んでる』テメェはどうかなあぁぁぁ? このインテリ野郎があぁぁぁ!」

「…間にあうか…? エメラルド…スプラッシュ…!」


   *********

 ちくしょう! やってくれたぜ!あのガキ!

 帽子野郎のスタンドが爆弾を投下した瞬間、俺のなかに焦りはなかった。
 そもそも独りで戦いを始めたときから、何か嫌な予感はしてたしな。

 戦闘機スタンドは俺の射程外に出たわけじゃあなかったが、かといって致命傷を与えられ
る距離でもねえ。人体と違って、急所が何処にあるかも分からねえんだからな。

 だから俺は、落ちてくる爆弾の弾頭に向かって『エンペラー』の引き金を引いた。
 狙いはもちろん見事的中! 爆弾は俺には届かず、空中で四散したってわけだ。

 とはいえ、近距離で爆発に巻き込まれたのは事実だ。背中に火傷を負ったらしい。
 それになにより…衝撃波と爆音で…意識が朦朧としていやがる。

 だがそのとき俺は、決して聞きなれたとは言い難いが、やけに懐かしい声を聞いた。

「ポル…フ君!…っかりしろ!…か? どうして…に…」

 やれやれ、まさか、コイツに助けられることになるとは…な。

 と思った矢先、遥か下方から、太い爆発音と鈍い衝撃が伝わってきた。
 あのガキ…今度はカキョーインとやりあってやがんのか?

「な……大変だ……爆…? とにか…助け…!」

 え…いま何を…まさかそれって…おい、ジョースター!
 ダメだ…声にならねえ…止めろ…行くんじゃねえ…

「まず君を…安全な…その後…通りの…行く…!」

 マジかよ…そんな…俺……ナマエ……マズイ……




   **********

 ズッガアァァァァァァァァァン!

『ハイエロファント・グリーン』の触肢から放たれた光輝く飛礫は、『エアロ・スミス』か
ら投下された爆弾を、二人の頭上数メートルのところで打ち抜いて爆発させた。
 燃えあがった炎は、地上の二人よりも『エアロ・スミス』の機体を好んで襲った。

「テ…メエェェェ! 紐を操るだけの…能力じゃ…!」

 真上から降り注ぐ瓦礫を睨みながら、ナランチャは叫んだ。

「…ふ…甘く…見たな…」

 爆風で後方に飛ばされた花京院は、衝撃によって薄れゆく意識を必死で押し留めていた。
(まだだ…まだ…スタンドを解除するわけには…)

「しばらくそこでアタマを冷やせ…岩牢に閉じ込められた猿のようにな…」

「て、テメェ! ど…どーゆーつもり…だ!」

 爆発で砕かれた建物の破片に打たれて、うつ伏せに倒れながらナランチャはわめいた。
 瓦礫は容赦なくナランチャを襲ったが、しかし彼の身体に直に命中することはない。

「なんでスタンドを解除しねえぇぇぇ!? この瓦礫でダメージを受けるのはテメェのほう
なんだぜえぇぇぇ!? テメェのスタンドが俺を包んだままってことはよおぉぉぉ!」

「…『希望』…だ…」

 仰向けに倒れた花京院は、声だけをナランチャに向けて、言葉をつないだ。

「荒木の能力…伝わらなかったのは残念だが…大切なのは『希望』…」

「…『希望』だと? 何のことだっ?」

「荒木も…僕やおまえと同じスタンド使い…能力は一つ…神のように万能では
ない…必ず…付け入るスキはある…勝ち目はあるんだ…」

 ビルの隙間からのぞいた太陽が、花京院の顔を照らす。

「…いいか…よく聞け…重要なのは『知識』じゃあない…
 …荒木を倒すという強い『意志』と…それを支える『希望』だ…」

「この野郎おぉぉぉ! 勝手なこと言ってんじゃねえぇぇぇぜえぇぇぇ!」

「…伝えてくれ…その『希望』を…おまえの…仲間に…」

「うるせえぇぇぇ! なにを…グ、ぐがっ!」

 最後の破片がナランチャの上に落ち、それと同時にハイエロファント・グリーンの触肢も
姿を消した。頭部に命中したコンクリートの衝撃と、降り積もった瓦礫の耐えがたい重みが、
ナランチャの意識を遠ざけてゆく。

「ぐ…ちくしょう、『仲間』だと…俺にはもう…『仲間』なんて…」



   **********

「いったい何が起きているのだ?」

 気絶した「ポルナレフ」をホテル最上階のレストランに安置したジョージ・ジョースターは、
いつ果てるとも知れぬ長い階段を駆け下りていた。踊り場の表示は16階と読める。

 屋上から小型の望遠鏡を使って覗いた先には、血まみれの少年が路上に倒れていた。

「もしや、噂に高いダイナマイトか…」

 ジョージの生きる19世紀後半といえば、スウェーデン生まれの化学者ノーベルの発明した
ダイナマイトが、西欧各国へと広まっていた頃である。

「だが、ポルナレフ君のいた屋上をどうやって爆破したのか?
 …気球、あるいは飛行船を用いたとでも…」

 しかし少なくとも、二度目の爆発音のあったとき、上空に飛行物はなかった。

「とすると、二度の爆発は、別々の人物によるものだな」

 ジョージは彼なりの仕方で、いま起きた出来事を解釈しようとしていた。

 だが、現代文明を知らずスタンド能力も持たないジョージにとって、現状はあまりにも謎に
満ちている。ホテルの屋上から眺めた景色も、彼にとってまったく馴染みのないものだった。

「こんな見ず知らずの場所で、二人は無事でいるだろうか…」

 ジョージは、先刻見聞きした『人影』と『声』のことを思いだしていた。

「あれは夢だったのか? それとも…」

 その人影は、鏡台の横に置かれた箱のガラス面に現れた
 人影から発せられる声によって、ジョージは目を覚ました。

 いや、目を覚ましたような気がする、といったほうが正しいかもしれない。
 あれは現実であったのか、それとも夢の続きであったのか、判然としない。

 それは、夢にしてはあまりにもリアル。
 しかし、現実にしてはあまりにも残酷。

「ジョナサン…!」

 人影は、この『ゲーム』の始めに教会で見た『アラキ』という男のようだった。
 男はやけに軽い口調で、ジョージの息子ジョナサンの死を告げた。 
 その口調の軽さが、かえって男の言葉に説得力とリアリティを与えていた。

「本当に、死んでしまったのか?」

 うめくような疑問に答える者とてなく、ただ彼の足音だけが階段にこだました。

 箱から聞こえる声が途切れ、人影が消えると、ジョージは再び深い眠りに落ちた。それから
というもの、さきほど屋上の爆発音によって叩き起こされるまで意識を失っていたのだ。

 現実だとすればそれは、ジョージを絶望させるに足るものだった。
 夢だとしてもそれは、彼に不吉な予感を与えるには十分だった。

 屋上から見た瀕死の少年の姿はいまや、ジョージのなかで息子の面影と重なっていた。
 どうあってもあの少年を助けなくてはならない、とジョージは思った。
 少年を死の淵から救うことが、あの禍々しい夢から逃れる道であるかのように。



【E-7/1日目/午前】

【花京院典明】(杜王グランドホテル北の路上)
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[時間軸]:DIO相手に結界を張った時点
[状態]:大量失血(思考力低下)・重傷(特に両足・歩行不能)・気絶
[装備]:アーミーナイフ
[道具]:支給品一式+リゾットから奪った食料
[思考・状況]
1)荒木の能力…まさか僕の予想通りなら何て恐ろしい能力なんだ
2)できるだけ多くの参加者に荒木の能力を伝えなくてはならない
3)2のためなら、自分の命も投げだす覚悟(もちろん無駄死にはしない)
4)とはいえ、できれば治療もしたいし承太郎たちと合流もしたい


【ナランチャ・ギルガ】(杜王グランドホテル北の路上)
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:ヴェネチア入り後
[状態]:全身に銃創と打撲・胸部に火傷(軽度)・肺にダメージ・気絶
[装備]:ヌンチャク、ハート型の飾り(@DIO)
[道具]:支給品一式 ・拾ったガラスの破片
[思考・状況]
1)生きてる…なら、俺の勝ちだ!やった!(高揚感)
2)ブチャラティ達だろうと誰だろうと会ったらブッ殺す!
3)機会があれば、可能なかぎりDIOの命令を遂行する
4)DIOに対する恐怖心・絶対に敵に回したくない
5)どんな手を使おうと絶対に生き延びる
6)荒木の能力…? ダメだ俺にはさっぱり分かんねえ



【ホル・ホース】(杜王グランドホテル最上階・展望レストラン)
[スタンド]:『皇帝』
[時間軸]: エジプトでDIOに報告した後
[状態]:全身に銃創・背中に火傷(軽度)・気絶
[装備]:狙撃銃(フル装填)
[道具]:支給品一式
[思考]:
1)ジョースターの野郎!余計なコトすんじゃねえーーーッ!
2)出来るだけ戦わずにやり過ごしたい(でも覚悟はキメる、やる時はやるぜ)
3)利用できる味方を増やしたい
4)とにかく生き残りたい
5)ジョースター郷を利用し尽くす


【ジョージ・ジョースター1世】(杜王グランドホテル6階~5階の階段)
[スタンド]:なし
[時間軸]: ジョナサン少年編終了時
[状態]:健康・不安と焦燥
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(狙撃銃の予備弾)、ライター
[思考]:
1)路上の少年(花京院)を助ける!
2)ジョナサンは死んでしまったのか?
3)出来る限り争いを阻止する
4)危険人物相手には実力行使もやむを得ない
5)荒木の打倒
6) ディオ(とジョナサン)の保護



[補足1]:ジョージは放送を聞きましたが、その記憶はかなり曖昧なようです。
[補足2]:屋上から見たジョージには、ナランチャの姿は確認できていません。
[補足3]:ナランチャは、瓦礫のあいだから頭部と右肩だけ露出しています。
[補足4]:ジョージは、ホル・ホースの名前を『J・P・ポルナレフ』だと思っています。

投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

62:テリトリー×テリトリー(前編) 花京院典明 66:激戦(前編)~背信~
62:テリトリー×テリトリー(前編) ナランチャ・ギルガ 66:激戦(前編)~背信~
62:テリトリー×テリトリー(前編) ホル・ホース 66:激戦(前編)~背信~
62:テリトリー×テリトリー(前編) ジョージ・ジョースター1世 66:激戦(前編)~背信~