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「出血が…止まらない…」

 放送の後、花京院典明は民家で休息をとっていた。
 改めて傷の処置をし、食料のパンを胃に押し込んだ。

「これから…どう動くか…」

 じきに赤く滲んでゆく止血帯を見ながら、花京院は考える。
 考えることによって、ともすれば薄れそうになる意識を押し留めるために。

「何処にいる…承太郎…?」

 一刻も早く仲間と合流し、荒木を倒すための策を練らねばならない。

「ポルナレフ…会えるのか…僕は…」

『磁力』を操る敵から受けた傷は、頭部を含め全身に及んでいる。
このままでは、仲間に出会うまえに、自身が殺されてしまう可能性が高い。

「いや…それより先に…失血死…か…」

 たった6時間のあいだに、13人もの人間が死んだ。殺しあいの末に。
 自分もいずれは…重症を抱えた花京院が、そう考えたのも無理はない。

「ジョースターさん…!」

 敬愛するジョセフの死が、彼の不安をいっそう駆り立てていた。
 心の奥底に棲みついた不安は、さらに致命的な『臆病さ』を生む。

「…どうして…あまりに…早すぎる…!」

 他愛のないジョークを飛ばすジョセフの姿が、脳裏に浮かんでは消えてゆく。
 体力は、少しは回復した。しかし花京院は、立ち上がることができなかった。

「ジョースターさんが死んだ…あの機知に富んだ、ジョセフ・ジョースターが!
僕もこのまま…仲間を探し当てることも…できずに…」

 悲痛は激しさを増し、彼を自暴自棄に陥らせるかに見えた。




 しかし、

「…いや…僕は…」

 ジョセフの死は、いつしか花京院に『覚悟』をもたらしていた。
 心を刺すような悲しみは、一転して冷静沈着な怒りへと変わっていた。

「…どうやら…勘違いをしていた…」

 『臆病さ』はいつも、花京院の卓越した『思考力』の裏返しにほかならない。

「このままでは…遅かれ早かれ…失血死する…それは『確実』…そう…
『味方に攻撃すれば目を覚ます』…それくらい『確実』なんだ…!」

 見知らぬ町に放りだされた不安によって、無意識のうちにわずかに乱されていた彼の思考
は、しだいに温かさを増してゆく朝日のなかで、落ち着きを取り戻しつつあった。

「いま…重要なのは…『仲間を探す』…こと…じゃあなかった」

 花京院はおもむろに地図を広げると、記憶にしたがって目を走らせる。

「…重要なのは…この最悪の…状況を…『生き延びる』ことだ」
 …そして、伝えることだ…『誰か』に…荒木の秘密を…」

『法皇の結界』に、再び活力がよみがえる。

「そうだ…仲間を…なんてのは…僕の『甘え』にすぎなかった。
承太郎たちで…なくてもいい…『誰か』に伝えれば、『意志』は受け継がれる。
たとえその場で…僕が…殺されるとしても!」

 死を覚悟した花京院の眼は、これまでにない『決意』に満ちていた。

「…だとすれば…一番近いのは…」

 地図を閉じ、結界を保ったまま、民家を後にした花京院は進路を北に向けた。




   *********

 この俺、ホル・ホースは『拳銃使い』だが、『狙撃手』じゃねえ。
 ほとんどの奴等はそこんトコを勘違いしてるようだが、おなじ『銃』でも拳銃と狙撃銃
はまったくの別モンだぜ。なにが言いたいかっていうとだな、だから当然、『拳銃使い』が
『狙撃』も得意と決まってるわけじゃねえってことだ。

 言い訳じゃねえぜ。
 俺はたんに『事実』を述べたまでだ。俺は根っからの『拳銃使い』、それは『事実』さ。
 だが遠距離での『狙撃』はできねえ、それもまた紛れもねえ『事実』だ。

 だから、俺にとっちゃこの狙撃銃はとんだ「宝の持ち腐れ」ってやつだ。作りからしても
おそらく、かなり性能の良いものに違いない。射程距離は1キロってとこか? おまけに、
このスコープの倍率ときたら! 軍隊も真っ青のシロモノだぜ。

 もちろん『狙撃銃』だからって、引き金も引けねえってわけじゃあねえ。だが、さっきの
野郎をぶち抜いたときみたいな目に遭うのは、もう御免こうむりたいね。はずれた肩はなん
とか入れたが、痛みがひどい。これじゃあ、この狙撃銃でまともに狙えるのはせいぜい200
メートルが良いトコだろう。まったく、俺としたことが情けない話しだぜ。

 このホテルを中心に半径200メートルが、俺の『テリトリー』というわけだ。
 まぁもっとも、いま独りきりの俺には、戦う気なんざ微塵もないがね。
 俺はもともと、誰かと『コンビ』で力を発揮するタイプだからな。

 このホテルの屋上にいるのは、あくまで『見張り』のためだ。『見張り』に徹するっての
は、あんまり上等な役回りじゃねえが、生き残るためには仕方がない。客室でおネンネして
るジョースターの旦那が、回復するまでの辛抱ってわけさ。

 そういえば、放送で『ジョセフ・ジョースター』が死んだって話してたな。確か承太郎の
祖父に当たるジジイだったか。それに、『ジョナサン・ジョースター』もだ。こいつは確か、
ジョースターの旦那の息子だったな。『アイス』ってのもやられたようだが…俺には関係
のない話しだ。みんなまとめて、ご愁傷さまってやつだぜ。




 ジョースターの旦那が目を覚ましたら、放送の内容は伏せておいたほうがいいかもな。
 とことん利用してディオに取り入ってやるぜ。いや、ここはひとつ承太郎たちを言い含め
てやるってのも、快感かもしれないが。まぁ、ゆっくり考えるさ。

 …って、オイオイ、俺が頭を使い始めた途端、誰か来やがった。
 来たってもそれは、このスコープで覗いて見える範囲まで近づいたって意味だがな。

 ここから、北西に500メートル程のところだ。なんだ、まだガキじゃねえか。あいつも参加
者らしいな。首輪をつけてやがる。しかしよぉ…首輪はいいとして、頭のあれはなんだ?
変わった帽子だな…いや、包帯かもしれん。

 妙にビクビクしやがって、あれで警戒してるつもりかよ。
『殺してください』って看板ぶらさげて歩いてるようなもんだぜ。

 …っと、こっちばっかりに気をとられてちゃマズかったな。
 南の方角からも一人お客さんだ。こいつは…承太郎の連れにいたヤツじゃあねーか。
名前は確か…『カキョーイン』とかいったか。ダセェ名前だぜ。それに、よく見りゃあ
コイツすでにけっこう重症じゃねえか。ずいぶん派手にやりあったな。

 まぁ何にせよ、このまま行けば二人はぶつかる。何も手をくださずとも、潰しあえばどちら
かが死ぬことになる。俺としてはまさに、『高見の見物』ってわけだ。

 いい気分だぜ、相手に気づかれずに誰かを『利用』するってのはな。
 …って、まさかこの二人、知りあいじゃねえよな?





   *********

 花京院が目指した場所、それは『病院』だった。
 しかし、第一の目的は『治療』ではない。

 この『ゲーム』が、最初の6時間であれだけ多くの犠牲者を出すほど残酷で激しいものであ
るとすれば、死なずとも深手を負った参加者は少なくないだろう。そして、そうした『誰か』
が目指す場所といえば、設備の整った『病院』か診療所が候補にあがるだろう。

 治療を終えたその『誰か』に、あるいはその『誰か』に付き添っている仲間に、荒木の秘密
を伝えること…それが花京院にとってもっとも優先順位の高い目的だった。

 もちろん、仮にそこに誰もいなかったとしても、『病院』であれば自身の治療ができる。
『輸血』の設備もあるだろう。その場合は、治療をしながら、後に来る参加者を待つことがで
きる。より好ましいその可能性も考えに入れたうえでの選択である。

 戦闘の起きやすい町中をむやみに歩き回るより、自然と人が集まる場所で待つ。深手を負っ
た花京院にとって、それが現時点で最善の選択肢だった。

 半径20メートルの『法皇の結界』を張っていれば、至近距離からいきなり襲われるといった
心配はほとんどない。だが、それでも、探知した相手が敵か味方かまで判断することができる
わけではない。花京院は、もし何者かが網にかかったら、戦わず回避するつもりだった。もち
ろん、それが誰であるかを見極めることができれば、それに越したことはない。

 だが、出会いは予想外のかたちで彼を訪れた。

 前方100メートル以上離れたところにある交差点、『法皇の結界』の射程範囲を遥かに超えた
先に、一つの小さな人影があった。遠すぎて、年齢や性別までは確認できない。

「誰だ…承太郎か…? いや、違うな」

 その人影は、何かを探し求めるかのようにキョロキョロと周囲を見回している。用心深げな
仕草とは裏腹に、こちらにはまったく気づいていないようだ。

「承太郎なら、あんな目立つ行動はとらない…」

 民家のかげに潜みながら、花京院は考えた。
「ポルナレフなら」と思った矢先、人影は十字路を東へ折れた。

「いずれにせよ…ここでの戦闘は回避しなければ…」



 花京院は、手近な角を右に折れた。
 あのまま真っ直ぐ進んで、引き返してきた相手に遭遇するのは避けねばならない。そのため
には、相手の行く先を見極めてから回避する必要がある。だがそれ以上に、相手が誰であるか
を確かめておきたいという気持ちも、彼にはあった。

 傷をかばって歩く花京院の左前方、民家の屋根越しに『杜王グランドホテル』の看板が目に
入った。この建物も、ほかの参加者が隠れるのには好都合である。しかし、逆に云えばそれだ
け探しだすのは面倒だということになる。花京院のスタンド能力をもってしても、20階建ての
このホテルを探索するのは、骨が折れるに違いない。

 花京院は角のマリンスポーツ専門店のかげから、北の方角を覗き込んだ。

「さっきのヤツは、まだ現れていないか。…だがそれも、時間の問題だろう」

 しかしながら、花京院のこの予想は外れることになる。
 それからゆうに5分が過ぎても、さきほどの人影が花京院の視野に現れることはなかった。
『法皇の結界』にも、誰かが通過したことを示す反応はない。

「妙だな…まさか、僕のことに気づいていたのか?」

 その可能性は低いと考えながらも、花京院は次の手を打った。

「ハイエロファント・グリーン!」

 道路沿いにスタンドの触肢を伸ばし、大通りや、建物と建物のあいだ、曲がり角などをくま
なくチェックさせる。三次元ではなく二次元、つまり平面上であれば、『ハイエロファント・
グリーン』は、いっそう広い範囲を索敵することが可能だ。

「…いたぞ! 150メートル前方…さっきの角に隠れている!」

 やはり、相手もこちらに気が付いていたのだろうか? 今度はその可能性もしっかり考えに
入れながら花京院は、相手の出方をうかがいつつ、次のプランを模索していた。





   *********

 ピコーン、ピコーン、ピコーン…

 コンビニエンスストアのかげで、ナランチャはレーダーを凝視していた。
 モニターには、同じサイズの光点が二つ、点滅を繰り返している。

「ヤバイなあぁぁぁ、見つかったかもなぁぁぁ」

 光点は、通りの斜め向こうのホテルにいる生物の存在を示している。そのうち一体は、14
階の客室に潜んでいる。そしてもう一体は、屋上に陣取っているらしい。

「まさか動物ってことはないよなぁ。俺は学校は行ってないけどさぁ、動物はホテルに泊まっ
たりしないってのはさぁ、それくらいは分かるぜ、常識だもんなあぁぁぁ」

 ナランチャは、自分に言い聞かせるように、何度もうなずきながら呟いた。

「それに屋上のこいつはよぉ、さっきからずーっと、こっちの角に止まったまんまだしよぉ、
さっき覗いたとき、何か光が反射してキラッと光ったんだよなぁ。あれはスコープじゃねえの
かなぁ、狙撃とかに使うさぁ。だとしたらヤバイよなぁ、絶対ヤバイ!」

 だが、もし相手がこちらを発見したのなら、どうして攻撃を仕掛けてこないのか。
 実際、ナランチャの頭を悩ませているのはそのことだった。

「気づいてるのに攻撃を仕掛けてこねえってことは、つまり…どういうことだ?」



 もし相手が攻撃を仕掛けてきたなら、もちろんナランチャは反撃しただろう。または、相手
に発見されている可能性が全くない状態であったとしたら、ナランチャはやはりためらいなく
不意打ちを仕掛けたに違いない。

 もちろん、相手が攻撃してこないのは、攻撃の射程距離外だからかもしれない。
 あるいは、たんに戦意がないだけのことかもしれない。それらの可能性は高い。

 しかし、
「ひょっとすると、俺のことを知ってるヤツなのかもしれない」

 その考えはナランチャを魅惑した。もしその考えが正しいとすれば、屋上の人物は『敵側』
の人間ではなく、ナランチャの『味方』だということになる。

「ブチャラティ…」

 真っ先にその名前が、ナランチャの心に浮かんだ。

「ジョルノ…」

 その男は新入りだが、とても強い『精神』の持ち主だ。

「誰だろうと関係ない…殺らなきゃ…でも…いや…」

 ブチャラティとジョルノ! もし今ホテルにいるのが、この二人だとしたら。

 その希望は、確かにナランチャを魅惑した。しかし、その希望に勝るとも劣らない恐怖が、
彼の心に巣くっていた。第一にそれは、この残虐なゲームの主催者であるアラキに対する恐怖
だった。そのうえに、先刻出会ったディオという男に対する凍てつくような恐怖が根を生やし
ている。けれども、それらすべてを養っているのは、わけもわからないまま二人の人物を殺害
してしまった、自分自身に対する恐怖だったかもしれない。

「殺らなきゃ…ブチャラティ…関係ねえ…殺される…まえに…」

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キャラを追って読む

46:仮説・それが真実 花京院典明 62:テリトリー×テリトリー(後編)
52:DIO軍団再結成に向けて ナランチャ・ギルガ 62:テリトリー×テリトリー(後編)
34:全てが噛み合わない ホル・ホース 62:テリトリー×テリトリー(後編)
34:全てが噛み合わない ジョージ・ジョースター1世 62:テリトリー×テリトリー(後編)