「だんな様……起きて下さい。放送が始まります。これまでに、窓からはどなたも見えませんでしたよ」
気味の悪いそいつ……ヨーヨーマッの呼び掛けに目覚めたおれは、ヨーヨーマッの手から時計を奪い時刻を確認した。
五時五十七分。放送のジャスト三分前。
「メモとペンがデイパックに入っていました……放送の内容はだんな様自身がメモするのが宜しいでしょう。
私も一応、この頭脳で記憶して置きます」
ヨーヨーマッは角の生えた頭を指で突付き、ニタリと笑った。
やれやれだぜ……。このスタンド……不気味な野郎だが、仕事はキチッとこなしてくれている様だな。
おれはメモとペンも奴の手から引っ手繰った。奴は何も言わずに、この店の一階への階段を降りようとする。
「おい、何処へ行く?」
「ちょっと一階を調べてみます……放送の形態を観察するために」
「まあ、好きにしな」
奴は無言で降りて行った。全く、何を考えてるんだか分からねー。
ところで、その放送ってのは何処から聞こえてくるんだ?
スタープラチナにペンを弄らせながら、おれは窓から、静か過ぎる町並みを眺めていた。
* * *
『……えー皆聞こえてるかな?……』
だらだらと間延びした、耳障りな声が街に響き渡って来やがった。
スピーカーか何かか?この放送の音源を探ろうと一瞬考えたが、すぐに意味の無いものと理解した。
スタープラチナの超高感度の耳の遠近感覚が伝える。この放送には『音源』が無い。『街』それ自体が、音声を放っている様なイメージ。
今聞こえるこの放送もあの……荒木のスタンドの一部だってのか?不気味な能力だぜ。
『……それじゃあただいまから一回目の放送を……』
おれは奴の言葉一字一句をメモに取り始める。荒木の野郎が内容の何処かに、
この『ゲーム』のヒントを埋めているかも知れねえからな。
しかし、奴の眠たそうな声からは何か暗号を隠しているとか、そういったものはどうにも感じられねえ。
それに、こいつは何かおかしい。
野郎がこの音声を出力している筈の『場所』……放送室のようなもの……がどのような場所なのか、
スタープラチナの聴覚で放送の『バックノイズ』を聞き分けて、探ろうと思っていたんだが。
チッ。聞こえるのは奴の声それだけで、奴の声に付帯する筈の情報が、全く掴めねえ。
微かに何かの音が漏れているとか、奴が狭い部屋で喋ってるとか、そういった詳細情報が全く分からん。どういう事だ?
恐らく、これも奴の能力の一環なのだろうな……全く、とんでもねえスタンドパワーだぜ。
「だんな様!このテレビを見て下さいッ!『荒木飛呂彦』ですッ!」
「何ッ!?」
おれはペンを走らせながら、一階からの階段からのそのそと昇ってきたヨーヨーマッと、奴が両手で掲げる中型のテレビのモニターに視線を向けた。
荒木だッ!
薄暗いどこかの中央に一人の男がいて、町中に響き渡る放送と同様のものを述べていた。
その表情は微笑んでいるようにも見える。
奴の動きのどこかギクシャクしている所が、さらにおれをイラつかせた。
『……そうだな、まず死んだ参加者から話そうか。
君たちだっていの一番に知りたいだろう?……』
荒木の野郎ッ!
おれは画面の中、奴の背後に存在している『闇』に対し、スタープラチナの視力でもって分析を行うッ!奴はどこにいるッ!?
『……誰の『運命』が潰れたのかを……』
……だが、やはり何も見えねえ!糞ッ!
こいつの背後は、『闇』だッ!無限の暗闇でしかないッ!
先を読まれているッ!おれの能力を知り尽くしているのか、荒木はッ!
『……死亡者を発表するよ。死亡したのは――――』
ちっ……結局『情報』は奴によって語られる事実だけと言う訳か。
荒木は名を告げ始めた。この不可解なゲームの犠牲者の。
『……ジョナサン・ジョースター、ロバート・E・O・スピードワゴン……』
呼ばれた死者の名を書き込み始め、おれはその『意外』な名前に眉根を寄せた。
ジョナサン・ジョースター……ジジイと同じ姓。そう、以前ジジイから聞いた……ジジイの祖父。
百年前にDIOと対決し、DIOにその肉体を奪われた男……の名前だ。
何故、百年も前のおれの先祖の名が?
ロバート・E・O・スピードワゴン……こいつもジジイから聞いた名だ。古い知り合いで、スピードワゴン財団の創立者。
やはり、おかしい。何十年も前に既に死んでいる男だぜ。どうしてゲームに参加出来る?
『ジョナサン・ジョースター』も同様に、名前が同じだけの全くの他人なのか?
いや、それにしては……何か妙な予感がするぜ。計り知れねえ『何か』があるような気がする。
とにかく、名簿から他に『過去の人間』の名があるかどうか、調べる必要があるな。
そしておれは確認する。奴の映っているテレビから伸びた、プラグに刺さっていないコンセントの先を。
テレビの電源さえも自由自在か。やはりこいつは凄まじいスタンドだぜ、『荒木飛呂彦』ッ!
死者の名は続く。おれは放送の分析に失敗したこの状況、メモだけは完璧なものにしようと考えていた。
『……黒騎士ブラフォード、ジョセフ・ジョースター……』
しかし、おれの指から、ペンが滑り落ちる。スタープラチナの手がペンを掴み上げて、おれの『代筆』を始めた。
肉体の方の指は、テーブルの上、ピタリと止まっていた。
まさか……だろ?
ジジイが……ッ!
* * *
『じゃあ、おおむねそうゆうことでよろしくね―――』
闇の中の男のビジョンが消滅する。コンセントの刺さっていないテレビは電源の切れた、本来の状態に戻った。
テレビを抱えていた召使スタンド、ヨーヨーマッは『主人:空条承太郎が見やすい方向に向けていたテレビ』を床に置いた。
「どうやら、終わったようですね……だんな様?」
椅子に座った空条承太郎は指の上に頭を置いて、何か考えている様子だ。
ヨーヨーマッは放送の内容を自分なりに整理して主人に伝える。
「中々興味深い結果ですね。四分の一が脱落とは……。意外と参加者は動いている様です。
あと、最悪の状況……禁止エリアに囲まれてしまう様な事は起こりませんでしたね。
いずれの位置もここからは二マス以上離れています。しかしこの禁止エリアにいる参加者は近々必ず動くでしょう。
そこに近づくかどうかはだんな様にお任せしますが……。
ああそうだ、だんな様……死者の中に知り合いはおりませんか?私、だんな様の『ゲーム開始直前』の事情を知らないものでしてね。
いやあ、正直私自身もかなり混乱してるんですけれども……」
「黙りな」
承太郎は低い声で、ただそれだけを言い放った。
ヨーヨーマッは臆することなく語りを続ける。
「申し訳ありません。纏わり付き、主人の世話をするというのが私の能力なのです。
私がだんな様に対し有益と思われている事を話す。それは私の能力であり、私自身にもどうしようもない。
聞き耳を立てなくてもいいですが、私自身では、話すことを止める事は出来ません。
まあ、イラ付いたらぶん殴るでも何でもして下さいブガアァッ!」
ヨーヨーマッは顔面にスタープラチナの拳を受けた。拳は顔はめり込み、
その丸い体は吹き飛んだ。壁に体がぶち当たり、破壊された壁の欠片が薄暗い部屋に飛び交う。
「ヴゴゴゴゴゴオォォッ!ワタグシに、物理コウゲキは効きませン……!
幾らでも殴ルがイイデショウッ。きっとだんな様は今、非常に苛立っておられブハウゥゥッ!ゴオウゥッ!オオッ!」
空条承太郎は椅子の上に腰掛けたままだ。指一本動かしてはいない。
殴ったのはスタンドだった。そしてその足は光速を超えるか否かの速度でヨーヨーマッの頭部にめり込んだ。
「アアアゴッウゴゴゴゴッ!
ガハアァゥッハアァァガガッ!もっとッ!もっとッ!」
承太郎は動かない。しかしスタープラチナは執拗にヨーヨーマッを攻撃する。
テーブルの上、指に隠れ表情は伺えない。承太郎は脅すようにヨーヨーマッに告げる。
「そうだぜ。イラついてんだよおれはよ……!
ジジイが死んじまった。誰がやったのか?何時やられたのか?おれにはサッパリ分からねー。
それがまた無性に腹が立つ。全然分からないまま、やられちまったんだよ。
不甲斐無いなんてレベルじゃねえ。おれのスタンド、スタープラチナは強い。強いが、この状況ではどうしようもないだろ?」
スタープラチナはヨーヨーマッに拳をぶち込む。何度も。何度も。
穴の開いたその体を蹴り飛ばし、天井に不気味なボディを食い込ませる。
「アガッブゥッゴォォォォォッ!」
「一個人の無力さを……思い知ったぜ」
ぼそりと呟き、空条承太郎はテーブルの上のペンとメモをデイパックに閉まっていく。
暴れていたスタープラチナは既にそこにおらず。
ヨーヨーマッは天井からずり落ち、そのダメージは急速に回復していく。
「……ぞ、ゾレでッ……これカらドうなされるのデスガ?だんなザマ」
下僕の主人への問いに、承太郎は帽子の位置を直し立ち上がり、いつものクールな調子で答えた。
怒りはすでに静まっていた。激昂してはいけない。何処に待ち構えるとも知れぬ敵につけ込まれるから。
おれが簡単にやられちまったら、死んだジジイに申し訳が立たねえ。
「ここから動く。仲間として行動出来る者を探し……
『荒木』を倒す」
【ムカデ屋二階(F-04)/一日目/朝】
【空条承太郎】
[スタンド]:スタープラチナ
[時間軸]:ロードローラーが出てくる直前
[状態]:冷静(荒木、DIOに対しての怒りはある)
[装備]:なし
[道具]:デイパッグ
[思考]
1:仲間や協力出来そうな参加者を探す
2:ヨーヨーマッを利用する
3:荒木を倒す
4:DIOを殺害する
5:『過去の人物の名』にやや疑問
【ヨーヨーマッ(支給品)】
[現在の主人]空条承太郎(主人変更の命令があれば主人は変わる。ただし変更対象人物の同意が必要。
主人変更の命令をされた時、次の主人候補がヨーヨーマッの視界に入っていなければ命令は無効化される)
[装備]マスク
[持ち物]なし
[任務]
1:承太郎に付いて行く
[備考]・ヨーヨーマッは攻撃できない。能力も完全に封じられている(主人がヨーヨーマッ自体を利用して攻撃というのは可能かもしれない)
・主人の命令には絶対服従。しかし、命令を曲解して受け取ることもあるかもしれない。(ヨーヨーマッを殺すような命令には従えない)
・ヨーヨーマッは常に主人の半径20メートル以内にいなければならない
・ヨーヨーマッの主人が死んだ時またはヨーヨーマッが規則を破った時ヨーヨーマッは消滅する(荒木によってDアンGの首輪が爆破される)
*承太郎は、アヴドゥル、花京院、イギーがこの世界に生きている謎に気付いていません。
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最終更新:2007年05月06日 13:32