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『……初の放送とはいえ実はそんなに話すことなんて……  そうだな、まず死んだ参加者から……君たちだっていの一番に知りたい……誰の『運命』が……』 ほぼ無風に近い微風。太陽が昇ったか、僅かに肌に温度を感じる。 周囲の家々から漏れ聞こえる音声、これが『放送』という奴か? 何から流している? いったい何から流れているのかよく分からないが、しかし放送よりも気になっていることがある。 『……亡者を発表するよ。死亡したのは……ナサン・ジョースター、……O・スピードワ……ラフォード  ジョセフ・ジョースター、ストレイツ……ーズ、ペット・ショッ……ニラ・アイス、山岸由花……良吉影、  プロ……アッチョ……ツ・マックス……13人。およそ四分の……頑張るねぇ。この分だと今日中に……』 ピクリ。自分の口元が思わず動くのを感じる。 『ジョースター』。それが2人も。徐倫を除けば残されたターゲットはあと3人しか居ない。 それはオレにとっては重大事なのだが、まずは今はこの場を乗り切るのが先だ。 さりげなく、放送に気を取られているフリをしながら、ゆっくりと『マンハッタン・トランスファー』を移動させる。 『……重要事項、禁止エリアについて……1度しか言わないから……該当するエリアは……  まず7時からI……に9時にD-2……時にD-6 とりあえずこの3箇所に……』 オレが進もうとしていた道の先。平屋建ての建物の屋根の上。 身を伏せてこちらを伺う人物が1人――。 その位置は、確かに普通なら見えない場所だろう。隠れる側の腕や狙いは悪くない。 だがオレは元より目が見えず、オレのスタンド『マンハッタン・トランスファー』は気流を読む。 本来なら死角になるその場所を、オレの感覚は正確に捉えていた。 オレがコイツの存在に気づき、ほぼ同時にコイツもオレに気づいたのが、放送開始の直前。 奴は素早く屋根の上に登って身を隠し、オレは素知らぬフリをしながら相手の様子を伺っている。 まだ相手はオレのスタンドの存在に気づいていないらしい。これを幸いと、さらに観測衛星を近づける。 相手の意図もさることながら、さっきから気になっているモノがあった。 『……れからもゲームを余すことなく楽しんで欲し……妙な考えはあまり関心しな……  ……言い忘れていたけど、このゲームを頑張った人には……』 屋根に伏せ、身構えた姿勢。それはまるで『狙撃手』のソレだ。 そして彼女――そう、よくよく体型を確認すれば、それは一応女のようだ――が、手に構えているもの。 それは『銃』。小さな拳銃でしかないが、紛れも無い『銃』。 いや、これは手に持っているのではないのか? 手と一体化している? これは――子供の遊びのように『銃の形にした手』から、直に『拳銃のパーツ』が生えている! 『……ゼントをさし上げようと思う……ても『素晴らしいもの』であることは約束し……。  巨万の富? ……になれる処世術? あるいは……あいいさ。どう解釈するかは君たち次第……』 放送に聞き入るフリをしながら、オレは冷静に相手の状態を見極める。 遠目に『視た』時には、拳銃を持っている、ように『視えた』。だからオレは隠れもせずに道の真ん中に居た。 はっきり言ってこの距離、通常の拳銃を常人が扱うなら、狙われたところで当たりはしない。 オレの『マンハッタン・トランスファー』のサポートでもない限り、拳銃での狙撃は事実上不可能。 しかしこれが実物の拳銃ではない、となると話が違ってくる。 拳銃の形をした、おそらくはスタンド能力。だとしたら、その射程や弾丸の性質は常識では推し量れない。 咄嗟に物陰に飛び込みたくなる衝動を必死に抑え、オレは観察を続ける。 女の口元が何やら動いている。女の表情を気流から読み取る。 『……っている38人の参加者のみんな、おめで……が明けた……  ……になるかもしれない『朝日のあたたかさ』を……次の放送は……正午……』 その短髪の女は、何やら呟いている。迷いのある表情で、ブツブツと。 読唇術の要領で、オレはいくつかの単語を拾い上げる。 『どうする』『なんで看守が』『もっと近づいてくれれば』『話し合いを』『いやしかし』 なるほど……向こうも迷っている、というわけか。しかもどうやら、まだ『銃の指』の間合いではないらしい。 そして何より、『看守』の一言。 確かにオレは今、グリーンドルフィン刑務所の看守の制服を着ている。 このゲームに引きずり込まれる前、徐倫たちを襲うために奪ったものだ。 だが、この制服を見て『警備員』と考える人間は多いだろうが、瞬時に『看守』と分かる人間は限られてくる。 そしてその事実が、オレの微かな記憶を呼び起こした。 綿密な下調べの途中で確かに確認していた、しかし完全にどうでもいい情報として忘れ去っていた記憶。 『じゃあ、おおむねそうゆうことでよろしくね―――』 放送が終る。これでもう、「放送に聞き入っているフリ」はできなくなる。 オレはひとつ深呼吸をすると、女が潜んでいる方向にはっきりと顔を向ける。 覚悟を決めると、隠れているつもりの相手に聞こえるよう、オレは大きな声を挙げた。 「……そこに隠れているのは、分かっている……!  囚人番号FE39423、エートロだな!?  話がしたい。その『銃』を構えたままでも構わない。出てきてくれないか?」 これは賭けだ。一歩間違えれば死に繋がりかねない、そんな交渉だ。 しかし危険を冒してでも、オレは『銃』を手に入れなければならないのだ――DIO様のために。  *  *  * 「そこに隠れているのは、分かっている……! 囚人番号FE39423、エートロだな!?  話がしたい。その『銃』を構えたままでも構わない。出てきてくれないか?」 「な――!?」 あたしは思わず息を呑んだ。 放送の直前に見つけて、あたしがずっと監視していたその男。全く気付いていなかったはずなのに! いつから気付いていた?! それに、こんな距離で! 『銃』というのは、このFF弾の準備をしている手のとじゃないか? つまりそこまで把握されている! 何よりコイツは、『エートロ』を知っている! やっぱり看守の1人だったのか!? でも、いくら『エートロ』の記憶を探っても、あんな男は知らない。少なくとも、身近に接していた看守じゃない。 何故だか知らないが、一方的に知られている……居心地悪ィ~~ッ! やっぱ殺るしかないかぁッ!? 「先に言っておくと……オレの方には、お前を攻撃する手段がない。  オレのスタンドには直接攻撃能力が無いし、オレが持っている武器はこの包丁だけだ。  そしてこの包丁は……今、捨てる。もう1度言う、話がしたい。出てきてくれないか?」 カラン。 その言葉通り、看守の男は手にしていた包丁とデイパックを捨てた。そしてゆっくりと近づいてくる。 でもあたしはまだ信用したわけじゃない。 直接の攻撃力を持たないスタンド――でもそれは、下手すると並みの近距離パワー型よりも厄介だ。 奴のスタンドが『特定の状況にハメる』タイプだとしたら? そのためにあたしを近づけたいとしたら? ……とはいえ、いつまでも黙り込んでいるわけにも行かないみたいだ。 あたしは姿を隠したまま、声を張り上げる。 「まずはあんたのスタンドを見せろ! それが条件だ!」 「オレのスタンドか……既に出しているんだがな。  お前の右後方42度、上斜め61度の方向を見てみるといい」 はッ!? あたしは素早く振り返る。 ……なんだ、これは? いつからそこにあった!? いつの間に背後をッ!? 気配もなくッ! キーホルダーのような、クラゲのような……奇妙な物体が、音も無くフワフワと浮いている。 あたしは思わず反射的に、FF弾を連射する! が……その『クラゲ』は、ふわりふわりと、風に舞うように避けやがった! 必殺の弾丸を! 「な……なんなんだよッ! こいつはッ!」 「オレのスタンド、『マンハッタン・トランスファー』は『情報収集』専門だ。  気流の流れを読んで、物の形や動きを読み取る能力。それ単体では何の意味もない。  その分、生半可なことでは捕らえられたりはしないがな。  それにしても、今撃ったのは『液体』か? 当たれば相当な威力がありそうだな」 男がさらに近づく。無防備であることを示してるつもりなのか? 両手を挙げて、ゆっくりと。 でもな、スタンドに当てられないなら、本体を……! 「てめぇ~~ッ! それ以上近づくんじゃねぇ~~ッ!  もうその距離は、FF弾の射程圏内だッ! それ以上近づいたら、撃ち殺すッ!」 額に汗を滲ませるあたしの叫びに、やっと男の歩みが止まる。こちらの方を向く。 あたしはそして、今までずっと感じていた違和感の正体を、ようやく理解した。 この距離なら分かる。こちらを向いた男の瞳が、白く濁っている。盲人独特の、視線の動きのない表情。 なるほど、視力の欠如をスタンド能力で補ってるってわけか……でも今問題なのは、そんなことじゃなくて。 感情が読めない。感情の現れ方が違う。何を考えているのか分からない―― 「『エフエフ弾』、それがお前の能力の名前か。  F・F……ひょっとして、お前のスタンド名は『フー・ファイターズ』とか言わないか?」 「!!」 「下調べの段階では、エートロはスタンド使いではなかったはずだが……  『ホワイトスネイク』からDISCでも貰ったか?」 「て……てめぇ! 何でそれをッ!? お前、何モンだッ!」 「全て話そう。だが結構入り組んだ話なんでな。お前の話も聞きたいし……降りてきてくれないか?」  *  *  * ……やはり、そうか。 オレはエートロの反応に笑みが浮かびそうになるのを抑えて、落ち着いた表情を維持する。 オレがエートロの名前を知ったのは、空条徐倫を罠にハメる策略を練っていた時のことだった。 徐倫をグリーン・ドルフィン刑務所に送り込むまでに、オレは様々な計画を考え、情報を集めていた。 女子監のこと。女囚たちの生活サイクルのこと。徐倫と接することになるかもしれない女囚のこと。 バカバカしく聞こえるかもしれないが、「女装して女子監に入り込む計画」も真面目に検討したことがある。 その際、買収した看守に作らせた「オレが変装できるかもしれない女囚」のリストの中に、奴の名があった。 ……ま、リスト上の女を実際に「マンハッタン・トランスファー」で調べたら、どれも使えなかったのだが。 どうやらその看守、オレが盲目なのをいいことに「あまり目立たず、中性的な女」を挙げただけだったらしい。 (ちなみに、その金目当てのバカな看守は、その後他の看守を使ってボコボコに粛清してやった) ただ――奴が「生来のスタンド使い」だったなら、その調査の過程で何か引っ掛かりがあったはずだ。 それが無かったということは……エートロは刑務所に来てからスタンドを得たということになる。 刑務所で始めてスタンド能力に覚醒したとしたら、十中八九、『ホワイトスネイク』絡みだと見て間違いない。 『フー・ファイターズ』の名は、『ホワイトスネイク』との話の中でチラリと聞いたことがあった。 他人の記憶とスタンドをDISCの形で抜き出すことのできる『ホワイトスネイク』。徐倫を襲ったときの相棒。 雑談の際、何気なしに「持ちきれないDISCはどうしているんだ?」と尋ねたときに出てきたのが、その名前。 「フー・ファイターズに守らせている」との答えだった。 それがどんなスタンドで、誰がスタンド使いなのかは教えてもらえなかったが…… よもや、と思って当てずっぽうに言ってみただけなのだが。ビンゴだったらしい。 あとはハッタリだ。『マンハッタン・トランスファー』で気流を読み、表情の変化を読みながらのハッタリだ。 オレのスタンドの名を聞いても、ピンと来てないらしい。奴はオレのことを知らない、と見ていいだろう。 ここまではどうやら上手く行った。オレに興味を持たせることにも成功した。 このエートロという奴が、結構乗せられやすい性格であることも把握できた。 だがここからが本番。ここからが勝負所。 オレは言葉を選ぶ。様々な可能性を頭に置いておこう。ここから先は、思い込みは禁物だ。 一手間違えれば、せっかく喰い付いて来たエートロが敵に回る危険もある。 乙女のように慎重に。乙女を相手する時ように丁寧に。 詰め将棋のような深慮を心がけながら、オレは屋根から下りてきた奴に向けて口を開く……  *  *  * 「まずは、自己紹介からだ……オレの名は、ジョンガリ・Aという。  お前はエートロで間違いないんだよな?」 「勝手に喋ってんじゃねぇッ! 聞かれたことにだけ答えてろッ!」 あたしは油断なく銃口を向けたまま、怒鳴りつける。 こいつはさっきから自分の立場を分かっていない。あたしはいつでも奴を殺せるというのに…… なんでだ?! なんであたしが焦らなきゃならない!? 「お前も知っての通り、この制服はグリーンドルフィン刑務所の看守の制服だが……  実はオレは、看守じゃない。あそこに収監されていた囚人の1人だ。  この格好をしてる理由は、説明するのも面倒なほど複雑なんだがな」 「そんなことは聞いてねぇ~~っ! って、看守じゃなかったのか?!  い、いやそれよりも、てめぇ~ッ、『神父』の手先なのかッ!?」 「『神父』? 『手先』?」 あたしの叫びに、そいつは首を傾げる。本当に何のことか分からない、といった雰囲気。 すっとぼけやがって! ふざけるな! あたしは銃口が震えそうになるのを抑えて、詰問する。 「プッチ神父だッ! お前も『ホワイトスネイク』にDISCを貰ったクチなら、そういうことだろッ!  それとも、徐倫やエルメェスみたいに、ペンダントにでも触れたかッ!?」 「……ああ、なるほど。『ホワイトスネイク』の本体は、プッチ神父? 教戒師の? 初めて知ったよ」 「質問に答えろォ~~ッ!」 「どうやら、根本的なところで誤解があるようだな。  オレは確かに『ホワイトスネイク』を知っているが、このスタンドは、奴に貰ったものではない。  生まれつきでもないが、奴とは無関係に、刑務所に入る前に覚醒した能力だ」 『ホワイトスネイク』とは、無関係? ……言われてみれば。 情報収集専門の非力なスタンド……『ホワイトスネイク』なら、『役に立たない』と判断しそうな能力だ。 以前あたしが守っていた農場のトレーラーに収めてしまうような、ハズレ能力。 けれど、『マンハッタン・トランスファー』なんて知らない。そんなDISCは見た覚えがない。 もちろん全てのDISCの内容を知ってたわけじゃないから、見落としただけかもしれねーけど…… 「それから、奴の『手先』かどうかという話だが……こちらからも確認したい。  お前は今は、『ホワイトスネイク』と組んでいるわけじゃないんだな? 敵対する立場なんだな?  空条徐倫とつるんでいるのか? エルメェスというのは知らないが……」 「そ、それがどうしたッ!」 「もしもそうなら、オレたちは似た者同士だ。  オレも以前、『ホワイトスネイク』と組んでいたことがある。だが今は違う。  明確に敵対を宣言したわけではないが、オレはもう奴を信じてはいない」 組んでいた?! 似た者同士!? 信じていない? ……確かに『フー・ファイターズ』も『ホワイトスネイク』に協力していた。 逆らえなかったわけじゃない、恩を感じて自発的に手助けをしていたんだ。 だからあたしも、以前は神父と組んでいて、今は信じていない……という言い方をしてもいいかもしれない。 「冷静に、落ち着いて聞いて欲しい……  オレは、『ホワイトスネイク』と組んで、空条徐倫の命を狙ったことがある」 「!!」 「『ホワイトスネイク』から、オレの大事な人が、空条徐倫の父、空条丞太郎に殺された、と聞かされた。  仇討ちのつもりで襲った。そして返り討ちに合った。  それからこの『ゲーム』に参加を強いられて……オレは、その話が嘘だったことを知った」 「やっぱり敵かおめぇ~~ッ! ……って、嘘だった、だと?」 「この『ゲーム』の始まりの『教会』で、殺されたと聞かされていたその人が、ちゃんと生きていた。  オレは騙されてたんだ。騙されて『ホワイトスネイク』に利用されていたんだ」 ジョンガリ・Aと名乗ったソイツは、淡々と語る。 相変わらず見開かれたままの目は感情を映さない。あたしは混乱する。 どこまでが『演技』だ? どこまでが『本音』だ? それとも最初っから……『全部本当』なのか? 頭がグチャグチャになりそうなあたしをよそに、そいつは絞り出すような声で呟く。 「オレは……謝りたいんだ。徐倫に、謝罪したいんだ。徐倫を探して、謝罪したいんだ。  そのためにも、今ここで死ぬわけにはいかない。殺されるわけにはいかない。  銃さえあれば、身を守りぬく自信がある。銃の扱いには自信がある。  けれど手元に銃が無い今、オレ1人では……!」 「……分かったよ」 あたしは溜息をついた。 ああもう畜生! そんな話を聞かされたら撃てないじゃねーか! いまいち釈然としないところもあるし、何よりコイツの態度は気に喰わねーけど…… 悔しいけどあたしの頭では、今の話に矛盾を見つけられない。嘘をついている、と断言できない。 『ホワイトスネイク』に利用されていたのは、あたしも一緒なんだ。 ただ…… 「分かったよ。あたしも徐倫を探していたところだ。一緒に行こうぜ」 ただ……それでもコイツは。コイツのことは。 あたしはそして、担いでいたデイパックを開ける。2つのデイパックの、中身を漁り始める……。  *  *  * 「分かったよ。あたしも徐倫を探していたところだ。一緒に行こうぜ」 ――勝った! それも最高の勝ち方。こちらから同行を申し出るのではなく、向こうから先に言わせる。理想の結末。 オレは思わず躍り上がりそうになる自分を押し留める。 いや、多少表情に嬉しさは滲ませた方が「それっぽい」か? オレは嬉しそうな笑みを浮かべる。 抑えろと言われても抑えきれるものではない。自然と笑みが零れてしまう。 いやはや、実に冷や汗ものだった。 エートロが漏らした言葉を拾い、素早くその意味を吟味して、相手に合わせた話を素早く組み立てる。 一言一言が、まさに命がけだった。 余裕ある態度を維持し、奴の動揺を誘って聞き出した最初のキーワードは『神父』。 まさかあの教戒師のプッチ神父が『ホワイトスネイク』の本体だったとは。これは素直に驚きだ。 このエートロがどうやってその正体を知るに至ったか、それも気になったが、ここは好奇心を抑え込んで…… 次に引っ掛かったのは、『手先』という言葉。それも明らかに怒りと憎しみの篭った語調。 ここで予め、「あらゆる可能性を考えておこう」と考えておいたのが生きた。 忠実な部下、DISCの管理人フー・ファイターズが、今は『ホワイトスネイク』と敵対している…… これもにわかには信じられない話ではあったが、しかしその仮定に乗って話を進めることに決めて。 そして決定的だったのが、『徐倫』という名前。 ペンダント、というのも気にはなった(エンヤ婆の持っていた『矢』のようなものか?)が、それはそれとして。 その言葉に込められた親近感から、状況はすぐに把握できた。 空条徐倫、いったいいつそんなヒマがあったのかは分からぬが、ともかく奴がエートロを懐柔したのだ。 懐柔されて、『ホワイトスネイク』と敵対する側に立ったのだ。 あとは簡単だった。 嘘をつく時の黄金律――「真実を多く語って、そこに嘘を少し混ぜる」。 オレがDIO様の仇として徐倫を狙っていたのは真実だ。ホワイトスネイクと組んでいたのも真実だ。 オレが銃を得意としていることも真実だし、DIO様が生きていらっしゃったことも真実だ。 ただ、DIO様と丞太郎のことは『ホワイトスネイク』に聞いたわけではないし、騙されていたわけでもない。 何よりオレは、今でも謝る気なんてサラサラない。 ただこうして、オレの言葉によって、エートロはオレのことを『信頼』し始めている……! 「……『銃』を得意としている、って言ったよな?  足手まといになられるのも厄介だし、あたしには必要ないし……コレ、アンタにあげる」 「!? これはッ……!」 デイパックを漁っていたエートロが、何かを差し出す。 鞄の中は気流が乱れていて、『マンハッタン・トランスファー』でも様子が窺えなかったが…… こうして差し出されてみれば、その形がはっきりと分かる。 レミントン・ダブル・デリンジャー。 上下2連の銃身を持つ、西部劇の時代から人気の高い小型拳銃だ。 ハンマー部分に独特の機構を持ち、1つの引き金で上下のカートリッジを順番に撃ち出す。 シンプルな構造ゆえに故障も少なく、41口径の銃弾は威力も十分。 サイズが小さいため、隠し持つことも容易。護身用や暗殺用として、広く愛用されてきた銃だ。 ただ、メインの武器として使うには、欠点が2つ。 1つは、あまりに銃身が短いこと……小型化の代償として、仕方ないこととはいえ。 この射程の短さ、命中精度の低下は、実に困った問題だ。 実戦の場では相手に押し付けるようにして発砲することが多かった、というのも頷ける。 もう1つの問題は、その装弾数。上下の銃身の奥にそれぞれ1つずつ。僅かに2発のみ。 たった2発撃っただけで、もう弾切れだ。6連装リボルバーの僅かに3分の1。 中折れ式で再装填は簡単なのだが、この短い射程距離では。 最初の2発で敵を仕留めなければ、事実上装填する余裕は与えられないだろう。 「なるほど――確かにエートロには必要ない、か。  『フー・ファイターズ』のスタンド能力の方が、使い勝手がいいものな」 オレは有り難く受け取りながら、納得した様子で呟く。 さっきチラリと見たFF弾。『マンハッタン・トランスファー』は素早く避けたが、しかし照準は悪くなかった。 あの連射性、あの射程があれば、このデリンジャーは必要ないだろう。 そして望んでいたライフルほどではないが、この武器はまさにオレにとって嬉しい贈り物だ。 だが、この銃そのものよりも、嬉しい贈り物は。 エートロがオレに寄せる、この『信頼』だ。支給品の銃を渡すほどの、高い『信頼』だ。 今、オレにとって本当に重要な『銃』は、デリンジャーではない。『フー・ファイターズ』だ。 『マンハッタン・トランスファー』で捉えた遠くの敵を、オレの指示で『フー・ファイターズ』で撃たせる。 上手くやれば多くの敵をこれで倒せる。エートロは適当に言いくるめてやればいい。 オレは『フー・ファイターズ』という『銃』を手に入れ、DIO様のために働けるのだ―― 想像しただけで、笑みが溢れる。 「ああ、それともう1つ。アンタに渡しておくものがある」 「? まだ何かあるのか?」 不機嫌そうなエートロの声。見ればなおもデイパックの中を漁っている。 ああ、予備の弾丸か。あるなら貰えるに越したことはない。 「手ェ出して」 「こうか?」 ガッシャァ! 何かが――唐突に何かが、オレの右手首に巻き付く。 迂闊にも何の疑いもなく、手の平を上に向けて差し出されたオレの腕。 その手首に、手錠を掛けるように! 鍵のかかるような音と共に、オレの手首に何かがかかる! 何だこれは!? 時計?! いや、コレは……! 「『ライク・ア・ヴァージン』。グリーンドルフィン刑務所に居たなら、説明は要らないよな?  アンタにかけたのは『子機』の1つ。あたしが今つけるのが、『親機』の方。  誰かが親機を身に着けることで、子機は機能を開始する」 ガッシャァ! 同じく金属音を立てて、エートロは腕輪を自分の手につける。 デザインはほぼ同じ、GとDを組み合わせたレリーフ。けれども持っている機能は全く異なる―― 「拾ってきた鞄に入ってた奴だ。あたしじゃない誰かさんの支給品。  ここにはグリーンドルフィン刑務所本館のメイン・コンピューターは無いけど……  説明書によると、『優勝』した時にまだついてたら、『荒木』が開錠してくれるんだってさ。  ま――あんたがあたしを裏切ろうとしなければ、何の問題もない」 目の前が真っ暗になった――いや、元よりオレの視覚は闇に閉ざされているのだが。 エートロから50m以上離れたら手首が爆破されるから、ではない。 事実上『優勝』しなければ解除できないから、でもない。 いざとなればエートロの後頭部にデリンジャーの弾丸をブチ込んで、奴の手首を包丁で斬り落とせばいい。 親機ごと持ち運べばそれで済むからだ。オレがショックを受けたのは、そんな些細なことではなく。  エートロが、微塵もオレを『信頼』してないということだ。 オレは眩暈を感じながらも、素早く頭を巡らせる。 軌道修正が必要だ。完全な『信頼』を得られずともいい。これ以上疑いを深くされるべきではない。 せっかく手に入れた『フー・ファイターズ』という『銃』を、手放したくはない――  *  *  * 「ああ……まあ、仕方ないな。オレがおまえの立場でも、そうしたかもしれない」 奴が――ジョンガリ・Aが呆然としていたのは、ほんの数秒ほどの間だった。 あたしが奴につけた『ライク・ア・ヴァージン』。通称『見えない鉄格子』。 正直、怒り出されることも覚悟していた。渡したばかりのデリンジャーで撃たれるかもしれない、と思った。 ま、あたしの場合、そんなちっぽけな銃で撃たれた程度じゃ、致命傷にはならないんだけど。 でも奴は。 すぐに落ち着いた様子で立ち直ると、妙に物分りよく状況を受け入れやがった。 やっぱりなんかおかしくねーか? なんか、企んでんじゃねーのかよ!? 「さっき貰ったデリンジャーだが、予備の弾丸はあるか? あるなら欲しい」 「あ、ああ……」 「ありがとう。あと、放り捨てた包丁と鞄を拾ってくる。動かないで待っててくれ」 奴は銃弾を受け取り、ポケットに収めると、あたしに背を向けて鞄と包丁を拾いに行く。 ますますあたしはワケが分からない。 もしも今、あたしが反対方向にダッシュしたら……ほんの数秒で、手首が吹き飛ぶんだぞ!? 本当にあたしを『信じて』いるってのか? それとも、その態度も『演技』?! ジョンガリ・A、こいつは本当に何を考えてんだ!? 「……待たせたな。じゃあ、行こうか。エートロはこの6時間、どこを調べていた?」 あたしの悩みも混乱も全て無視して、鞄を片手に戻ってきた奴は淡々と言葉を続ける。 ――その目だよ。感情のないその目が、あたしを混乱させるんだ。 コイツは信用できない。でも、今はまだ殺さない。 まるで従順な乙女のように。まるで恋する乙女のように。って自分で言っててイマイチ意味わかんねーけど。 しばらく行動を共にして、観察する。こいつの思惑を見極める。そう決めたんだ。 「あ、いや、このあたりの商店街をざっと調べて回ってたんだけどさァ……あと、水探したりだとか」 「しかし徐倫は居なかったか。オレは夜明け前、線路の向こう側を歩いていたが、やっぱり居なかった。  もっと海寄りの方に居るのかもな。海に近い方に行ってみよう。それでいいな?」 ジョンガリ・Aはそして歩き出す。あたしも慌てて追いかける。 頭上にはユラユラと『マンハッタン・トランスファー』。風に吹かれて飛んでいる―― 【F-3とF-4の境界付近の路地(F-4) 1日目 早朝~朝】 【魔銃と狙撃手】 【F・F】 [スタンド]:フー・ファイターズ [時間軸]:さよならを言う『アタシ』になる寸前 [状態]: [装備]:F・F弾 [道具]:『ライク・ア・ヴァージン』親機(装備済み)、子機×4(デイパックの中)      支給品一式×2、ただし水を1人分消費済み [思考・状況] : 1)ジョンガリ・Aに対する不信感。   ただし彼を殺したり協力を拒んだりする理由を見つけられずにいる。 2)ジョンガリ・Aの監視。まだ完全には信用できないが、当面彼と行動を共にし、彼の真意を見極める。 3)徐倫達を探す。 4)水を確保できる場所を見つける。 5)ジョンガリ・Aの提案に従って、海の方(東の方)に向かう 【ジョンガリ・A】 [時間軸]:徐倫にオラオラされた直後 [状態]:問題なし [装備]:レミントン2連装デリンジャー、予備の弾丸、トニオさんの包丁 [道具]:支給品一式、角砂糖×5、「ライク・ア・ヴァージン」子機(右手首に装着) [思考・状況] : 1)ディオとの合流を図る 2)自分とディオ以外の人物の抹殺 3)その手段として、F・Fを『銃』として「利用」する(コンビを組む)。   F・Fを上手く騙しきり、他の参加者の抹殺を進めよるつもり。   そのために、F・Fの信頼を勝ち取る努力をする。 4)『ライク・ア・ヴァージン』は爆発させたくない。   いざとなればF・Fを殺してその手首を切り取り、親機を奪おうと考えている 5)徐倫の名前が放送で呼ばれたら、その12時間後に『トラサルディー』へと舞い戻る。 6)とりあえずF・Fを連れて、実際には徐倫から遠ざかる方向(東の方向・海の方向)に進む [備考]:F・Fに対して示している偽りの行動方針:徐倫を探し、徐倫に会って謝罪する。 [備考]:ジョンガリ・Aは、F・Fが「普通の人間ではないこと」に気付いていません。     プランクトンが本体であることも知らず、頭でも撃てば普通に殺せる人間、だと思っています。     F・Fの能力も、「体液を銃弾のように発射する能力」だけだと思っています。 [備考]:F・Fは、マンハッタン・トランスファーの『情報収集』の能力しか知りません。      銃弾の進路を曲げ、中継する能力をまだ知りません。 [備考]:F・Fは、「ジョンガリA」「マンハッタン・トランスファー」の名前を聞いてもピンと来ませんでした。     徐倫から名前までは聞いていなかったのか、聞いたけど忘れてしまったのか……。     後から思い出したとしても、ジョンガリAの語った「嘘のシナリオ」は破綻しないのですが。 [備考]:F・Fの支給品は小型拳銃のレミントン・ダブル・デリンジャー。及び予備の弾丸。     F・Fがイギーから奪った支給品は、『ライク・ア・ヴァージン』親機×1、子機×5のセットでした。     『ライク・ア・ヴァージン』は、優勝者が身につけていた場合、『荒木』が解除してくれます。     それ以外の方法では事実上解除は不可能に近く、親機から50m以上離れた子機は爆発します。     威力は手首を吹き飛ばすに十分なもの、下手すれば死ぬこともありえます。     また、爆発の前には警報音が鳴り響きます。 *投下順で読む [[前へ>魔人間アラキ~第1回放送~]] [[戻る>1日目 第2回放送まで]] [[次へ>DIO軍団再結成に向けて]] *時系列順で読む [[前へ>魔人間アラキ~第1回放送~]] [[戻る>1日目 第2回放送まで]] [[次へ>思い知らせてあげる]] *キャラを追って読む |26:[[『誰が為に砂は舞う』]]|F・F|66:[[激戦(前編)~背信~]]| |40:[[信奉者達の盟約]]|ジョンガリ・A|66:[[激戦(前編)~背信~]]|
『……初の放送とはいえ実はそんなに話すことなんて……  そうだな、まず死んだ参加者から……君たちだっていの一番に知りたい……誰の『運命』が……』 ほぼ無風に近い微風。太陽が昇ったか、僅かに肌に温度を感じる。 周囲の家々から漏れ聞こえる音声、これが『放送』という奴か? 何から流している? いったい何から流れているのかよく分からないが、しかし放送よりも気になっていることがある。 『……亡者を発表するよ。死亡したのは……ナサン・ジョースター、……O・スピードワ……ラフォード  ジョセフ・ジョースター、ストレイツ……ーズ、ペット・ショッ……ニラ・アイス、山岸由花……良吉影、  プロ……アッチョ……ツ・マックス……13人。およそ四分の……頑張るねぇ。この分だと今日中に……』 ピクリ。自分の口元が思わず動くのを感じる。 『ジョースター』。それが2人も。徐倫を除けば残されたターゲットはあと3人しか居ない。 それはオレにとっては重大事なのだが、まずは今はこの場を乗り切るのが先だ。 さりげなく、放送に気を取られているフリをしながら、ゆっくりと『マンハッタン・トランスファー』を移動させる。 『……重要事項、禁止エリアについて……1度しか言わないから……該当するエリアは……  まず7時からI……に9時にD-2……時にD-6 とりあえずこの3箇所に……』 オレが進もうとしていた道の先。平屋建ての建物の屋根の上。 身を伏せてこちらを伺う人物が1人――。 その位置は、確かに普通なら見えない場所だろう。隠れる側の腕や狙いは悪くない。 だがオレは元より目が見えず、オレのスタンド『マンハッタン・トランスファー』は気流を読む。 本来なら死角になるその場所を、オレの感覚は正確に捉えていた。 オレがコイツの存在に気づき、ほぼ同時にコイツもオレに気づいたのが、放送開始の直前。 奴は素早く屋根の上に登って身を隠し、オレは素知らぬフリをしながら相手の様子を伺っている。 まだ相手はオレのスタンドの存在に気づいていないらしい。これを幸いと、さらに観測衛星を近づける。 相手の意図もさることながら、さっきから気になっているモノがあった。 『……れからもゲームを余すことなく楽しんで欲し……妙な考えはあまり関心しな……  ……言い忘れていたけど、このゲームを頑張った人には……』 屋根に伏せ、身構えた姿勢。それはまるで『狙撃手』のソレだ。 そして彼女――そう、よくよく体型を確認すれば、それは一応女のようだ――が、手に構えているもの。 それは『銃』。小さな拳銃でしかないが、紛れも無い『銃』。 いや、これは手に持っているのではないのか? 手と一体化している? これは――子供の遊びのように『銃の形にした手』から、直に『拳銃のパーツ』が生えている! 『……ゼントをさし上げようと思う……ても『素晴らしいもの』であることは約束し……。  巨万の富? ……になれる処世術? あるいは……あいいさ。どう解釈するかは君たち次第……』 放送に聞き入るフリをしながら、オレは冷静に相手の状態を見極める。 遠目に『視た』時には、拳銃を持っている、ように『視えた』。だからオレは隠れもせずに道の真ん中に居た。 はっきり言ってこの距離、通常の拳銃を常人が扱うなら、狙われたところで当たりはしない。 オレの『マンハッタン・トランスファー』のサポートでもない限り、拳銃での狙撃は事実上不可能。 しかしこれが実物の拳銃ではない、となると話が違ってくる。 拳銃の形をした、おそらくはスタンド能力。だとしたら、その射程や弾丸の性質は常識では推し量れない。 咄嗟に物陰に飛び込みたくなる衝動を必死に抑え、オレは観察を続ける。 女の口元が何やら動いている。女の表情を気流から読み取る。 『……っている38人の参加者のみんな、おめで……が明けた……  ……になるかもしれない『朝日のあたたかさ』を……次の放送は……正午……』 その短髪の女は、何やら呟いている。迷いのある表情で、ブツブツと。 読唇術の要領で、オレはいくつかの単語を拾い上げる。 『どうする』『なんで看守が』『もっと近づいてくれれば』『話し合いを』『いやしかし』 なるほど……向こうも迷っている、というわけか。しかもどうやら、まだ『銃の指』の間合いではないらしい。 そして何より、『看守』の一言。 確かにオレは今、グリーンドルフィン刑務所の看守の制服を着ている。 このゲームに引きずり込まれる前、徐倫たちを襲うために奪ったものだ。 だが、この制服を見て『警備員』と考える人間は多いだろうが、瞬時に『看守』と分かる人間は限られてくる。 そしてその事実が、オレの微かな記憶を呼び起こした。 綿密な下調べの途中で確かに確認していた、しかし完全にどうでもいい情報として忘れ去っていた記憶。 『じゃあ、おおむねそうゆうことでよろしくね―――』 放送が終る。これでもう、「放送に聞き入っているフリ」はできなくなる。 オレはひとつ深呼吸をすると、女が潜んでいる方向にはっきりと顔を向ける。 覚悟を決めると、隠れているつもりの相手に聞こえるよう、オレは大きな声を挙げた。 「……そこに隠れているのは、分かっている……!  囚人番号FE39423、エートロだな!?  話がしたい。その『銃』を構えたままでも構わない。出てきてくれないか?」 これは賭けだ。一歩間違えれば死に繋がりかねない、そんな交渉だ。 しかし危険を冒してでも、オレは『銃』を手に入れなければならないのだ――DIO様のために。  *  *  * 「そこに隠れているのは、分かっている……! 囚人番号FE39423、エートロだな!?  話がしたい。その『銃』を構えたままでも構わない。出てきてくれないか?」 「な――!?」 あたしは思わず息を呑んだ。 放送の直前に見つけて、あたしがずっと監視していたその男。全く気付いていなかったはずなのに! いつから気付いていた?! それに、こんな距離で! 『銃』というのは、このFF弾の準備をしている手のとじゃないか? つまりそこまで把握されている! 何よりコイツは、『エートロ』を知っている! やっぱり看守の1人だったのか!? でも、いくら『エートロ』の記憶を探っても、あんな男は知らない。少なくとも、身近に接していた看守じゃない。 何故だか知らないが、一方的に知られている……居心地悪ィ~~ッ! やっぱ殺るしかないかぁッ!? 「先に言っておくと……オレの方には、お前を攻撃する手段がない。  オレのスタンドには直接攻撃能力が無いし、オレが持っている武器はこの包丁だけだ。  そしてこの包丁は……今、捨てる。もう1度言う、話がしたい。出てきてくれないか?」 カラン。 その言葉通り、看守の男は手にしていた包丁とデイパックを捨てた。そしてゆっくりと近づいてくる。 でもあたしはまだ信用したわけじゃない。 直接の攻撃力を持たないスタンド――でもそれは、下手すると並みの近距離パワー型よりも厄介だ。 奴のスタンドが『特定の状況にハメる』タイプだとしたら? そのためにあたしを近づけたいとしたら? ……とはいえ、いつまでも黙り込んでいるわけにも行かないみたいだ。 あたしは姿を隠したまま、声を張り上げる。 「まずはあんたのスタンドを見せろ! それが条件だ!」 「オレのスタンドか……既に出しているんだがな。  お前の右後方42度、上斜め61度の方向を見てみるといい」 はッ!? あたしは素早く振り返る。 ……なんだ、これは? いつからそこにあった!? いつの間に背後をッ!? 気配もなくッ! キーホルダーのような、クラゲのような……奇妙な物体が、音も無くフワフワと浮いている。 あたしは思わず反射的に、FF弾を連射する! が……その『クラゲ』は、ふわりふわりと、風に舞うように避けやがった! 必殺の弾丸を! 「な……なんなんだよッ! こいつはッ!」 「オレのスタンド、『マンハッタン・トランスファー』は『情報収集』専門だ。  気流の流れを読んで、物の形や動きを読み取る能力。それ単体では何の意味もない。  その分、生半可なことでは捕らえられたりはしないがな。  それにしても、今撃ったのは『液体』か? 当たれば相当な威力がありそうだな」 男がさらに近づく。無防備であることを示してるつもりなのか? 両手を挙げて、ゆっくりと。 でもな、スタンドに当てられないなら、本体を……! 「てめぇ~~ッ! それ以上近づくんじゃねぇ~~ッ!  もうその距離は、FF弾の射程圏内だッ! それ以上近づいたら、撃ち殺すッ!」 額に汗を滲ませるあたしの叫びに、やっと男の歩みが止まる。こちらの方を向く。 あたしはそして、今までずっと感じていた違和感の正体を、ようやく理解した。 この距離なら分かる。こちらを向いた男の瞳が、白く濁っている。盲人独特の、視線の動きのない表情。 なるほど、視力の欠如をスタンド能力で補ってるってわけか……でも今問題なのは、そんなことじゃなくて。 感情が読めない。感情の現れ方が違う。何を考えているのか分からない―― 「『エフエフ弾』、それがお前の能力の名前か。  F・F……ひょっとして、お前のスタンド名は『フー・ファイターズ』とか言わないか?」 「!!」 「下調べの段階では、エートロはスタンド使いではなかったはずだが……  『ホワイトスネイク』からDISCでも貰ったか?」 「て……てめぇ! 何でそれをッ!? お前、何モンだッ!」 「全て話そう。だが結構入り組んだ話なんでな。お前の話も聞きたいし……降りてきてくれないか?」  *  *  * ……やはり、そうか。 オレはエートロの反応に笑みが浮かびそうになるのを抑えて、落ち着いた表情を維持する。 オレがエートロの名前を知ったのは、空条徐倫を罠にハメる策略を練っていた時のことだった。 徐倫をグリーン・ドルフィン刑務所に送り込むまでに、オレは様々な計画を考え、情報を集めていた。 女子監のこと。女囚たちの生活サイクルのこと。徐倫と接することになるかもしれない女囚のこと。 バカバカしく聞こえるかもしれないが、「女装して女子監に入り込む計画」も真面目に検討したことがある。 その際、買収した看守に作らせた「オレが変装できるかもしれない女囚」のリストの中に、奴の名があった。 ……ま、リスト上の女を実際に「マンハッタン・トランスファー」で調べたら、どれも使えなかったのだが。 どうやらその看守、オレが盲目なのをいいことに「あまり目立たず、中性的な女」を挙げただけだったらしい。 (ちなみに、その金目当てのバカな看守は、その後他の看守を使ってボコボコに粛清してやった) ただ――奴が「生来のスタンド使い」だったなら、その調査の過程で何か引っ掛かりがあったはずだ。 それが無かったということは……エートロは刑務所に来てからスタンドを得たということになる。 刑務所で始めてスタンド能力に覚醒したとしたら、十中八九、『ホワイトスネイク』絡みだと見て間違いない。 『フー・ファイターズ』の名は、『ホワイトスネイク』との話の中でチラリと聞いたことがあった。 他人の記憶とスタンドをDISCの形で抜き出すことのできる『ホワイトスネイク』。徐倫を襲ったときの相棒。 雑談の際、何気なしに「持ちきれないDISCはどうしているんだ?」と尋ねたときに出てきたのが、その名前。 「フー・ファイターズに守らせている」との答えだった。 それがどんなスタンドで、誰がスタンド使いなのかは教えてもらえなかったが…… よもや、と思って当てずっぽうに言ってみただけなのだが。ビンゴだったらしい。 あとはハッタリだ。『マンハッタン・トランスファー』で気流を読み、表情の変化を読みながらのハッタリだ。 オレのスタンドの名を聞いても、ピンと来てないらしい。奴はオレのことを知らない、と見ていいだろう。 ここまではどうやら上手く行った。オレに興味を持たせることにも成功した。 このエートロという奴が、結構乗せられやすい性格であることも把握できた。 だがここからが本番。ここからが勝負所。 オレは言葉を選ぶ。様々な可能性を頭に置いておこう。ここから先は、思い込みは禁物だ。 一手間違えれば、せっかく喰い付いて来たエートロが敵に回る危険もある。 乙女のように慎重に。乙女を相手する時ように丁寧に。 詰め将棋のような深慮を心がけながら、オレは屋根から下りてきた奴に向けて口を開く……  *  *  * 「まずは、自己紹介からだ……オレの名は、ジョンガリ・Aという。  お前はエートロで間違いないんだよな?」 「勝手に喋ってんじゃねぇッ! 聞かれたことにだけ答えてろッ!」 あたしは油断なく銃口を向けたまま、怒鳴りつける。 こいつはさっきから自分の立場を分かっていない。あたしはいつでも奴を殺せるというのに…… なんでだ?! なんであたしが焦らなきゃならない!? 「お前も知っての通り、この制服はグリーンドルフィン刑務所の看守の制服だが……  実はオレは、看守じゃない。あそこに収監されていた囚人の1人だ。  この格好をしてる理由は、説明するのも面倒なほど複雑なんだがな」 「そんなことは聞いてねぇ~~っ! って、看守じゃなかったのか?!  い、いやそれよりも、てめぇ~ッ、『神父』の手先なのかッ!?」 「『神父』? 『手先』?」 あたしの叫びに、そいつは首を傾げる。本当に何のことか分からない、といった雰囲気。 すっとぼけやがって! ふざけるな! あたしは銃口が震えそうになるのを抑えて、詰問する。 「プッチ神父だッ! お前も『ホワイトスネイク』にDISCを貰ったクチなら、そういうことだろッ!  それとも、徐倫やエルメェスみたいに、ペンダントにでも触れたかッ!?」 「……ああ、なるほど。『ホワイトスネイク』の本体は、プッチ神父? 教戒師の? 初めて知ったよ」 「質問に答えろォ~~ッ!」 「どうやら、根本的なところで誤解があるようだな。  オレは確かに『ホワイトスネイク』を知っているが、このスタンドは、奴に貰ったものではない。  生まれつきでもないが、奴とは無関係に、刑務所に入る前に覚醒した能力だ」 『ホワイトスネイク』とは、無関係? ……言われてみれば。 情報収集専門の非力なスタンド……『ホワイトスネイク』なら、『役に立たない』と判断しそうな能力だ。 以前あたしが守っていた農場のトレーラーに収めてしまうような、ハズレ能力。 けれど、『マンハッタン・トランスファー』なんて知らない。そんなDISCは見た覚えがない。 もちろん全てのDISCの内容を知ってたわけじゃないから、見落としただけかもしれねーけど…… 「それから、奴の『手先』かどうかという話だが……こちらからも確認したい。  お前は今は、『ホワイトスネイク』と組んでいるわけじゃないんだな? 敵対する立場なんだな?  空条徐倫とつるんでいるのか? エルメェスというのは知らないが……」 「そ、それがどうしたッ!」 「もしもそうなら、オレたちは似た者同士だ。  オレも以前、『ホワイトスネイク』と組んでいたことがある。だが今は違う。  明確に敵対を宣言したわけではないが、オレはもう奴を信じてはいない」 組んでいた?! 似た者同士!? 信じていない? ……確かに『フー・ファイターズ』も『ホワイトスネイク』に協力していた。 逆らえなかったわけじゃない、恩を感じて自発的に手助けをしていたんだ。 だからあたしも、以前は神父と組んでいて、今は信じていない……という言い方をしてもいいかもしれない。 「冷静に、落ち着いて聞いて欲しい……  オレは、『ホワイトスネイク』と組んで、空条徐倫の命を狙ったことがある」 「!!」 「『ホワイトスネイク』から、オレの大事な人が、空条徐倫の父、空条丞太郎に殺された、と聞かされた。  仇討ちのつもりで襲った。そして返り討ちに合った。  それからこの『ゲーム』に参加を強いられて……オレは、その話が嘘だったことを知った」 「やっぱり敵かおめぇ~~ッ! ……って、嘘だった、だと?」 「この『ゲーム』の始まりの『教会』で、殺されたと聞かされていたその人が、ちゃんと生きていた。  オレは騙されてたんだ。騙されて『ホワイトスネイク』に利用されていたんだ」 ジョンガリ・Aと名乗ったソイツは、淡々と語る。 相変わらず見開かれたままの目は感情を映さない。あたしは混乱する。 どこまでが『演技』だ? どこまでが『本音』だ? それとも最初っから……『全部本当』なのか? 頭がグチャグチャになりそうなあたしをよそに、そいつは絞り出すような声で呟く。 「オレは……謝りたいんだ。徐倫に、謝罪したいんだ。徐倫を探して、謝罪したいんだ。  そのためにも、今ここで死ぬわけにはいかない。殺されるわけにはいかない。  銃さえあれば、身を守りぬく自信がある。銃の扱いには自信がある。  けれど手元に銃が無い今、オレ1人では……!」 「……分かったよ」 あたしは溜息をついた。 ああもう畜生! そんな話を聞かされたら撃てないじゃねーか! いまいち釈然としないところもあるし、何よりコイツの態度は気に喰わねーけど…… 悔しいけどあたしの頭では、今の話に矛盾を見つけられない。嘘をついている、と断言できない。 『ホワイトスネイク』に利用されていたのは、あたしも一緒なんだ。 ただ…… 「分かったよ。あたしも徐倫を探していたところだ。一緒に行こうぜ」 ただ……それでもコイツは。コイツのことは。 あたしはそして、担いでいたデイパックを開ける。2つのデイパックの、中身を漁り始める……。  *  *  * 「分かったよ。あたしも徐倫を探していたところだ。一緒に行こうぜ」 ――勝った! それも最高の勝ち方。こちらから同行を申し出るのではなく、向こうから先に言わせる。理想の結末。 オレは思わず躍り上がりそうになる自分を押し留める。 いや、多少表情に嬉しさは滲ませた方が「それっぽい」か? オレは嬉しそうな笑みを浮かべる。 抑えろと言われても抑えきれるものではない。自然と笑みが零れてしまう。 いやはや、実に冷や汗ものだった。 エートロが漏らした言葉を拾い、素早くその意味を吟味して、相手に合わせた話を素早く組み立てる。 一言一言が、まさに命がけだった。 余裕ある態度を維持し、奴の動揺を誘って聞き出した最初のキーワードは『神父』。 まさかあの教戒師のプッチ神父が『ホワイトスネイク』の本体だったとは。これは素直に驚きだ。 このエートロがどうやってその正体を知るに至ったか、それも気になったが、ここは好奇心を抑え込んで…… 次に引っ掛かったのは、『手先』という言葉。それも明らかに怒りと憎しみの篭った語調。 ここで予め、「あらゆる可能性を考えておこう」と考えておいたのが生きた。 忠実な部下、DISCの管理人フー・ファイターズが、今は『ホワイトスネイク』と敵対している…… これもにわかには信じられない話ではあったが、しかしその仮定に乗って話を進めることに決めて。 そして決定的だったのが、『徐倫』という名前。 ペンダント、というのも気にはなった(エンヤ婆の持っていた『矢』のようなものか?)が、それはそれとして。 その言葉に込められた親近感から、状況はすぐに把握できた。 空条徐倫、いったいいつそんなヒマがあったのかは分からぬが、ともかく奴がエートロを懐柔したのだ。 懐柔されて、『ホワイトスネイク』と敵対する側に立ったのだ。 あとは簡単だった。 嘘をつく時の黄金律――「真実を多く語って、そこに嘘を少し混ぜる」。 オレがDIO様の仇として徐倫を狙っていたのは真実だ。ホワイトスネイクと組んでいたのも真実だ。 オレが銃を得意としていることも真実だし、DIO様が生きていらっしゃったことも真実だ。 ただ、DIO様と丞太郎のことは『ホワイトスネイク』に聞いたわけではないし、騙されていたわけでもない。 何よりオレは、今でも謝る気なんてサラサラない。 ただこうして、オレの言葉によって、エートロはオレのことを『信頼』し始めている……! 「……『銃』を得意としている、って言ったよな?  足手まといになられるのも厄介だし、あたしには必要ないし……コレ、アンタにあげる」 「!? これはッ……!」 デイパックを漁っていたエートロが、何かを差し出す。 鞄の中は気流が乱れていて、『マンハッタン・トランスファー』でも様子が窺えなかったが…… こうして差し出されてみれば、その形がはっきりと分かる。 レミントン・ダブル・デリンジャー。 上下2連の銃身を持つ、西部劇の時代から人気の高い小型拳銃だ。 ハンマー部分に独特の機構を持ち、1つの引き金で上下のカートリッジを順番に撃ち出す。 シンプルな構造ゆえに故障も少なく、41口径の銃弾は威力も十分。 サイズが小さいため、隠し持つことも容易。護身用や暗殺用として、広く愛用されてきた銃だ。 ただ、メインの武器として使うには、欠点が2つ。 1つは、あまりに銃身が短いこと……小型化の代償として、仕方ないこととはいえ。 この射程の短さ、命中精度の低下は、実に困った問題だ。 実戦の場では相手に押し付けるようにして発砲することが多かった、というのも頷ける。 もう1つの問題は、その装弾数。上下の銃身の奥にそれぞれ1つずつ。僅かに2発のみ。 たった2発撃っただけで、もう弾切れだ。6連装リボルバーの僅かに3分の1。 中折れ式で再装填は簡単なのだが、この短い射程距離では。 最初の2発で敵を仕留めなければ、事実上装填する余裕は与えられないだろう。 「なるほど――確かにエートロには必要ない、か。  『フー・ファイターズ』のスタンド能力の方が、使い勝手がいいものな」 オレは有り難く受け取りながら、納得した様子で呟く。 さっきチラリと見たFF弾。『マンハッタン・トランスファー』は素早く避けたが、しかし照準は悪くなかった。 あの連射性、あの射程があれば、このデリンジャーは必要ないだろう。 そして望んでいたライフルほどではないが、この武器はまさにオレにとって嬉しい贈り物だ。 だが、この銃そのものよりも、嬉しい贈り物は。 エートロがオレに寄せる、この『信頼』だ。支給品の銃を渡すほどの、高い『信頼』だ。 今、オレにとって本当に重要な『銃』は、デリンジャーではない。『フー・ファイターズ』だ。 『マンハッタン・トランスファー』で捉えた遠くの敵を、オレの指示で『フー・ファイターズ』で撃たせる。 上手くやれば多くの敵をこれで倒せる。エートロは適当に言いくるめてやればいい。 オレは『フー・ファイターズ』という『銃』を手に入れ、DIO様のために働けるのだ―― 想像しただけで、笑みが溢れる。 「ああ、それともう1つ。アンタに渡しておくものがある」 「? まだ何かあるのか?」 不機嫌そうなエートロの声。見ればなおもデイパックの中を漁っている。 ああ、予備の弾丸か。あるなら貰えるに越したことはない。 「手ェ出して」 「こうか?」 ガッシャァ! 何かが――唐突に何かが、オレの右手首に巻き付く。 迂闊にも何の疑いもなく、手の平を上に向けて差し出されたオレの腕。 その手首に、手錠を掛けるように! 鍵のかかるような音と共に、オレの手首に何かがかかる! 何だこれは!? 時計?! いや、コレは……! 「『ライク・ア・ヴァージン』。グリーンドルフィン刑務所に居たなら、説明は要らないよな?  アンタにかけたのは『子機』の1つ。あたしが今つけるのが、『親機』の方。  誰かが親機を身に着けることで、子機は機能を開始する」 ガッシャァ! 同じく金属音を立てて、エートロは腕輪を自分の手につける。 デザインはほぼ同じ、GとDを組み合わせたレリーフ。けれども持っている機能は全く異なる―― 「拾ってきた鞄に入ってた奴だ。あたしじゃない誰かさんの支給品。  ここにはグリーンドルフィン刑務所本館のメイン・コンピューターは無いけど……  説明書によると、『優勝』した時にまだついてたら、『荒木』が開錠してくれるんだってさ。  ま――あんたがあたしを裏切ろうとしなければ、何の問題もない」 目の前が真っ暗になった――いや、元よりオレの視覚は闇に閉ざされているのだが。 エートロから50m以上離れたら手首が爆破されるから、ではない。 事実上『優勝』しなければ解除できないから、でもない。 いざとなればエートロの後頭部にデリンジャーの弾丸をブチ込んで、奴の手首を包丁で斬り落とせばいい。 親機ごと持ち運べばそれで済むからだ。オレがショックを受けたのは、そんな些細なことではなく。  エートロが、微塵もオレを『信頼』してないということだ。 オレは眩暈を感じながらも、素早く頭を巡らせる。 軌道修正が必要だ。完全な『信頼』を得られずともいい。これ以上疑いを深くされるべきではない。 せっかく手に入れた『フー・ファイターズ』という『銃』を、手放したくはない――  *  *  * 「ああ……まあ、仕方ないな。オレがおまえの立場でも、そうしたかもしれない」 奴が――ジョンガリ・Aが呆然としていたのは、ほんの数秒ほどの間だった。 あたしが奴につけた『ライク・ア・ヴァージン』。通称『見えない鉄格子』。 正直、怒り出されることも覚悟していた。渡したばかりのデリンジャーで撃たれるかもしれない、と思った。 ま、あたしの場合、そんなちっぽけな銃で撃たれた程度じゃ、致命傷にはならないんだけど。 でも奴は。 すぐに落ち着いた様子で立ち直ると、妙に物分りよく状況を受け入れやがった。 やっぱりなんかおかしくねーか? なんか、企んでんじゃねーのかよ!? 「さっき貰ったデリンジャーだが、予備の弾丸はあるか? あるなら欲しい」 「あ、ああ……」 「ありがとう。あと、放り捨てた包丁と鞄を拾ってくる。動かないで待っててくれ」 奴は銃弾を受け取り、ポケットに収めると、あたしに背を向けて鞄と包丁を拾いに行く。 ますますあたしはワケが分からない。 もしも今、あたしが反対方向にダッシュしたら……ほんの数秒で、手首が吹き飛ぶんだぞ!? 本当にあたしを『信じて』いるってのか? それとも、その態度も『演技』?! ジョンガリ・A、こいつは本当に何を考えてんだ!? 「……待たせたな。じゃあ、行こうか。エートロはこの6時間、どこを調べていた?」 あたしの悩みも混乱も全て無視して、鞄を片手に戻ってきた奴は淡々と言葉を続ける。 ――その目だよ。感情のないその目が、あたしを混乱させるんだ。 コイツは信用できない。でも、今はまだ殺さない。 まるで従順な乙女のように。まるで恋する乙女のように。って自分で言っててイマイチ意味わかんねーけど。 しばらく行動を共にして、観察する。こいつの思惑を見極める。そう決めたんだ。 「あ、いや、このあたりの商店街をざっと調べて回ってたんだけどさァ……あと、水探したりだとか」 「しかし徐倫は居なかったか。オレは夜明け前、線路の向こう側を歩いていたが、やっぱり居なかった。  もっと海寄りの方に居るのかもな。海に近い方に行ってみよう。それでいいな?」 ジョンガリ・Aはそして歩き出す。あたしも慌てて追いかける。 頭上にはユラユラと『マンハッタン・トランスファー』。風に吹かれて飛んでいる―― 【F-3とF-4の境界付近の路地(F-4) 1日目 早朝~朝】 【魔銃と狙撃手】 【F・F】 [スタンド]:フー・ファイターズ [時間軸]:さよならを言う『アタシ』になる寸前 [状態]: [装備]:F・F弾 [道具]:『ライク・ア・ヴァージン』親機(装備済み)、子機×4(デイパックの中)      支給品一式×2、ただし水を1人分消費済み [思考・状況] : 1)ジョンガリ・Aに対する不信感。   ただし彼を殺したり協力を拒んだりする理由を見つけられずにいる。 2)ジョンガリ・Aの監視。まだ完全には信用できないが、当面彼と行動を共にし、彼の真意を見極める。 3)徐倫達を探す。 4)水を確保できる場所を見つける。 5)ジョンガリ・Aの提案に従って、海の方(東の方)に向かう 【ジョンガリ・A】 [時間軸]:徐倫にオラオラされた直後 [状態]:問題なし [装備]:レミントン2連装デリンジャー、予備の弾丸、トニオさんの包丁 [道具]:支給品一式、角砂糖×5、「ライク・ア・ヴァージン」子機(右手首に装着) [思考・状況] : 1)ディオとの合流を図る 2)自分とディオ以外の人物の抹殺 3)その手段として、F・Fを『銃』として「利用」する(コンビを組む)。   F・Fを上手く騙しきり、他の参加者の抹殺を進めよるつもり。   そのために、F・Fの信頼を勝ち取る努力をする。 4)『ライク・ア・ヴァージン』は爆発させたくない。   いざとなればF・Fを殺してその手首を切り取り、親機を奪おうと考えている 5)徐倫の名前が放送で呼ばれたら、その12時間後に『トラサルディー』へと舞い戻る。 6)とりあえずF・Fを連れて、実際には徐倫から遠ざかる方向(東の方向・海の方向)に進む [備考]:F・Fに対して示している偽りの行動方針:徐倫を探し、徐倫に会って謝罪する。 [備考]:ジョンガリ・Aは、F・Fが「普通の人間ではないこと」に気付いていません。     プランクトンが本体であることも知らず、頭でも撃てば普通に殺せる人間、だと思っています。     F・Fの能力も、「体液を銃弾のように発射する能力」だけだと思っています。 [備考]:F・Fは、マンハッタン・トランスファーの『情報収集』の能力しか知りません。      銃弾の進路を曲げ、中継する能力をまだ知りません。 [備考]:F・Fは、「ジョンガリA」「マンハッタン・トランスファー」の名前を聞いてもピンと来ませんでした。     徐倫から名前までは聞いていなかったのか、聞いたけど忘れてしまったのか……。     後から思い出したとしても、ジョンガリAの語った「嘘のシナリオ」は破綻しないのですが。 [備考]:F・Fの支給品は小型拳銃のレミントン・ダブル・デリンジャー。及び予備の弾丸。     F・Fがイギーから奪った支給品は、『ライク・ア・ヴァージン』親機×1、子機×5のセットでした。     『ライク・ア・ヴァージン』は、優勝者が身につけていた場合、『荒木』が解除してくれます。     それ以外の方法では事実上解除は不可能に近く、親機から50m以上離れた子機は爆発します。     威力は手首を吹き飛ばすに十分なもの、下手すれば死ぬこともありえます。     また、爆発の前には警報音が鳴り響きます。 *投下順で読む [[前へ>魔人間アラキ~第1回放送~]] [[戻る>1日目 第2回放送まで]] [[次へ>DIO軍団再結成に向けて]] *時系列順で読む [[前へ>魔人間アラキ~第1回放送~]] [[戻る>1日目(時系列順)]] [[次へ>思い知らせてあげる]] *キャラを追って読む |26:[[『誰が為に砂は舞う』]]|F・F|66:[[激戦(前編)~背信~]]| |40:[[信奉者達の盟約]]|ジョンガリ・A|66:[[激戦(前編)~背信~]]|

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