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真の《殺戮のエリート》」(2007/06/10 (日) 22:23:34) の最新版変更点

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杜王町を南北に分断し、杜王港を目指し流れる大きな川。夜の闇の中でもその流れは止まらない。 その北岸に沿って走る道を、オレの車――オレのだよな?――は走っていた。 窓はリアもフロントも割れ、道路標識が突っ込み、酷い有様で―― おまけに、『ブチャラティ』と『ミキタカ』とかいう、見知らぬ2人組が勝手に乗り込んでいたりする。 そして車の後から執拗に追いかけてきているのは、こちらも常識外れな奴。 巨大な馬に牽かせた、古代の二輪戦車。上に乗っているのは、とてつもない体躯をした巨漢、タルカス。 2台はある程度の距離を維持したままで、そしてその間に飛び交うものは……! 「WRUOOOO!」 「また投げてきましたッ! またお願いします、形兆さんッ!」 「気安く呼ぶなぁ~~ッ! だが任せろ、角度よし、タイミングよし……『戦車隊』、てーーッ!」 一方的に名前や素性を知られているというのは気分の良いものではないが……文句を言っているヒマはない。 二輪戦車の上の巨漢タルカスが、先を行く俺たちに向け、馬の足を投げる。ブーメランのように投げる。 それに応える形で――乗用車の屋根に並ぶミニチュア戦車(こっちは近代兵器の戦車だ!)が7台、連続して火を噴く。 俺のスタンド『バッド・カンパニー』、その砲撃に、しかし残念ながら直接この大質量を撃ち落すパワーはない。 だが、道に並ぶ街灯を倒す力はある。信号機を倒す力もある。その狙いは正確無比。 投擲された馬の足は、絶妙のタイミングで倒れ込んできた街灯にぶつかり、僅かに進路を変えて。 乗用車を狙っていたそれは、ギリギリの所で車を掠めて飛んでいく! よぅ~し、計算通りッ! 計算通り行くのは気分がいいッ! ……しかしこれでほぼ同じことを3回目か。本当に飽きない奴、いや執念深い奴。 「ゾンビ、か……信じがたいが、あの怪力は常人とも思えないな。スタンドを出す素振りも見られないことだし」 「地球人とはすごいものですね。死んでもなお動ける。あの大きな人や、形兆さんのように」 「おい待て、誰が死んでると言うのだ、この宇宙人ッ!?  ……しかしブチャラティとか言ったな、どうしてもっと速度を出さない? 商店街は抜けたというのに……!」 「あの怪物馬とチャリオットは、危険だ。少なくともアレだけは排除しておかねばなるまい!」 オレの問いに、ブチャラティはハンドルを握ったまま応える。運転しながら、奴はチラリと支給品の地図に目をやる。 地図上のエリア分けで言えば、F-03から南下してG-03、H-03と来て川沿いに到達。 I-03に向かう橋を渡るんだった! と何やら後悔する様子を見せつつも、勢いのままにH-04の左下の角を掠めてI-04。 そして今はI-05の川沿いの道を、東に向けて爆走中。 几帳面なオレとしては、意図も見えない今の状況は、非常~ッに不愉快であるわけだが。 「地図によれば、この先のI-06に大きな橋がある! 向こうも俺たちも、勢いをつけたまま突入できるような橋が!  そこで、決着をつける! そこまでは、奴についてきて貰わねばならない!」 「ど、どうする気なんだ?!」 「オレたちが渡った直後……奴の目の前で、橋を落とすッ! そしてあの巨大馬と戦車を、川の中に落下させるッ!」  オレのスタンド、『スティッキー・フィンガーズ』なら、それくらいのことは可能だ」 「な――!」 なんとも大胆なブチャラティの作戦に、オレは思わず息を飲んだ。 その程度のことで頑丈そうな巨漢が殺せるとも思わないが、しかし二輪戦車や馬の方は無傷では済むまい。 堤防を越える形で、高い位置に架かる橋。そこから落下すれば戦車の大破は必至、馬も足を折るか川に流されるか。 そうなれば、オレたち3人は悠々と逃げ去ることができる! ……しかし、橋を落とせるって一体どういうスタンドだ!? そんなにパワーのあるスタンドを持っているのか? オレの疑問をよそに、ブチャラティは厳しい表情で呟く。 「問題は、橋の手前にあるカーブだ……こちらも勢いを落とさず、向こうにも落とさせず、橋に突入せねばならない!  いや、向こうが転倒するなら、それはそれでもいいんだが……!」 「私にできることは何かありませんか?」 「特にない。せいぜい2人とも、車の外に投げ出されないよう、気をつけてくれッ!」 I-06に突入する。T字路が迫る。直角な交差点ではなく、僅かに角度をつけて交わる道。 その角度の厳しい方、鋭角をなす南への道を目指し、ブチャラティは鋭くハンドルを切る! 高い音を立て、車は大きくドリフトする! って運転荒すぎるぞッ、おいッ! 「おわッ!?」 「危ないですよ、形兆さん」 急カーブの勢いに、車内に突き刺さっていた道路標識が飛び出す。ついでにオレの身体も飛び出す! ヤベェッ! と思う間もなく、オレの腰に絡みついたのは――1本の鎖。 こんなもの車内にあったか!? 鎖の反対の端には巨大なフックがついていて、後部座席に突き刺さっている。 鎖のお陰で、半分身体が飛び出したまま、それでもなんとか持ち直したオレは……そして車内に引き込まれる。 その鎖が、ウネウネと形を変える。俺の腰に絡み付いていた部分は人の腕に、巨大なフックは人の足に。 それは、ミキタカだった。ミキタカと名乗った自称宇宙人、そいつが鎖に姿を変えていたのだ! 「……いやはや、危ないところでした」 「お……おまえッ、何者だぁッ!?」 「先ほども申し上げました通り、宇宙人です。これで信じて頂けますか?」 「それよりお前たちッ! あの男はついてきているかッ!?」 そんなオレたちの掛け合いをバックミラー越しに見ながら、ブチャラティは叫ぶ。 そうだった、オレたちの車はもう橋の上に差し掛かっている、あの巨漢が追ってきてくれないことには…… しかし、ブチャラティの心配は、杞憂というものだった。 次の瞬間、そのT字路の角にあった建物が、内側から弾け飛ぶ! 粉塵と瓦礫の中から飛び出してきたのは、例の巨大馬と、巨漢の乗った二輪戦車! 「WRRRYYYYYY!」 「しょ……ショートカット、だとッ!? どこまで化け物なんだ、こいつらはッ!!」 角を曲がらず、建物の壁を破って突入し、建物の壁を破って飛び出すという、常識外れのルート短縮! なるほどこれなら、転倒の危険も高い鋭角のカーブを無理して曲がる必要もない……そんなことが、できるのならだが! ドリフト走法を使ったとはいえ、カーブによって速度の落ちていた車。 建物を突っ切ったことで速度が落ちたとはいえ、ショートカットできた二輪戦車。 両者の距離は、橋に差し掛かりながら、前よりも詰まってきていて。 しかしここまではブチャラティの計算通り! 彼はそして、運転席から後部座席の方に身を乗り出す。 「ハンドルを頼むぞ、ミキタカッ! 『スティッキー・フィンガ』……!」 「あっ、危ないッ!」 ハンドルを託されたミキタカが、悲鳴を上げる。後方から追って来る戦車ばかりを気にしていたオレたち。 しかし車の前方、ライトに照らされた道の真ん中に……大きな人影が! ブレーキ?! 間に合わない! ハンドルを切る? 間に合わないッ! そして車はそのまま、道の真ん中の歩行者を撥ねる勢いで―― ドンッ! 大きな音と共に、そして、大きく吹っ飛んだのは―― あ――ありのままに、起こったことを記す。 『車が人を撥ねたと思ったら、人に車が撥ねられていた』 ……何を伝えたいのか分からないかもしれないが、自分も何を言いたいのか分からない。 頭がどうにかなってしまいそうな光景だった。 言葉遊びだとか言葉のあやだとか、そんなチャチなものでは断じてない。 もっと恐ろしい、この『ゲーム』とやらの無茶苦茶さを味合わされた感じで――!  *  *  * 「な――!?」 もちろんこの状況、この俺、ブローノ・ブチャラティにも、何が起こったのかさっぱり分からなかった。 オレたちに認識できたのは、急な衝撃。そして、スローモーションのように宙を舞う、自分たちの車―― いや、ただ吹き飛ばされているだけではない! メキメキと、見えない力でひしゃげていく! 「あのゾンビが、また何かしたのか?! それとも――ともかく、このまま車の中に居るのは、まずい!」 このまま車ごと潰されるわけにはいかない! 川に落ちたら3人揃って転落の危険もある、溺死の危険もある! 橋を落とすべく出していたスタンドが、咄嗟の判断で車の屋根を殴る! 「『スティッキー・フィンガーズ』! だが、このままでは――!」 乗用車の屋根でジッパーが大きな口を開ける、ドアを開けるよりも素早く3人の身体が飛び出す、 しかし事態は好転していない、渦巻く風と車の破片がオレたちを追ってくる、それにこのままでは川に落ち――! 「いえブチャラティ、それでいいんです。荷物をお願いします。私の身体に捕まって下さい――!」 空中でミキタカは一瞬で姿を変える、太い鎖、2人分の体重くらい楽に支えられるような強靭な鎖! オレはミキタカの分の鞄も掴みながら、なんとかその鎖に手を伸ばす。 そしてその鎖は、端についた大きなフックを橋のガードレールに向けて伸ばし―― 「と……届かないッ!? 届きませんッ!」 「いや、それでOKだ。『バッド・カンパニー』!」 長さは十分、しかし弛んで届かなかったフック。それをミニチュアのヘリコプター2機が素早く挟み、運搬する! フックがガードレールに引っ掛かる、ミキタカの化けた鎖が大きく張る、 落下しつつあったオレと形兆は、ターザンのような、振り子のような円運動に入る! 渦巻く風がオレたちの体を掠めて逸れていく。ただ掠められただけで、オレの服の裾がズタズタになる衝撃! オレはぞっとする。真空の刃を無数に孕んだ小竜巻……あんなものをまともに喰らっていたら……! 「た、助かったか? ……って、このままじゃ橋桁にぶつかるぞぉぉっ!」 「す、『スティッキー』……!」 ――車が宙に舞ってから、僅か数秒の間に。 乗用車は川面に落下し……俺たち2人の捕まった鎖は、橋を支える橋桁に、大きな音を立てて衝突した。  *  *  * 「な――!」 橋の上では、わしもまた、その光景に思わず息を呑んでいた。 奴らの後ろから、わしは全てを見ていた。 爆走する車が、橋の真ん中で人を轢きかけたところも。 その人物が、車を避けようともせず、むしろ素早く身構え、両腕を勢いよく突き出したところも。 その両腕の間に風が渦巻き、奴らの車が「触れられずして」大きく吹き飛んだところも―― 二輪戦車が減速する。吸血馬が走るのをやめ、速度を落とす。 あれほど扱いにくかった暴れ馬もまた、「その人物」の異常さを直感し、そして……呑まれている。怯えている。 口の中が、カラカラに乾いていくのを感じる。 視界の隅で、連中の車が川面に落ちるのを認識したが、それどころではない 「い、いまのは、いったいッ……!?」 「『神砂嵐』! 『風』の流法(モード)を持つおれの、最強の闘技!」 「かみ……ずなあらし……」 わしは呆然と呟く。気がつけば――わしはよたよたと戦車から降り、その男の前に片膝をついて頭を下げていた。 直感だった。 戦わずとも分かる。今の技ひとつ・立ち姿ひとつ見ただけで、理解できてしまう。 『自分は、何があってもこの男に勝つことはできない』 騎士としての経験と才能が、目の前の男の『戦闘の天才』ぶりを教え。 屍生人としての『血』が、目の前の男の『圧倒的な種族的格差』を教えていた。 まさに、次元が違う。レベルが違う。同じ方向を目指しつつ、しかし遥かにスケールが違う! わしを蘇らせてくれたディオの前でも、ここまで緊張はしなかった。 脂汗をダラダラ流し、礼を尽くし平伏するわしを見下ろしながら、そのお方は静かに呟かれる。 「ふむ――吸血鬼どもの、『喰い残し』か? それにしては良い闘気をしている」 「お、おぬし……いや、あなた様はッ……!?」 「我が名はワムウ。人間どもが『柱の男』と呼ぶ、吸血鬼を生み出した一族が1人」 「吸血鬼を……ディオ様を!?」 「彼我の強さの差を咄嗟に見抜いたあたり、お前もただのゴミではないようだな。名を聞こう」 「た、タルカス。77の輝輪の試練を乗り越えし騎士、タルカスと申す」 「名以外のことはどうでもいい。我に従え、タルカス」 「はッ……!」 異論など、あろうはずがない。 そうか、ディオを作りし一族か……道理で、わしの身体が怯えるわけだ。 人間であった頃でも恐れ知らず、屍生人となってからはなおさらだったわしが、震えるわけだ。 いったいどれほどの経験を積んだ戦士なのか。わしの300年の歴史など軽く凌駕するのは確かだろう。 絶望的な敗北感と共に、喜びに近い感情も湧きあがってくる。 この場で殺されずに済んだことへの感謝が半分、そして僅かなりともワムウ様に認めて頂けたという喜びが半分。 「ところで、あと1時間ほどで日が昇る。そろそろ日差しを避ける建物を探さねばならん」 「あ……も、もうそんな時間でしたか」 「戦いに酔っていたか? 若いな。今後は気をつけるがいい。すぐに移動するぞ、馬を出せ!」 「か、川に落ちた奴らにトドメを刺さずとも良いので?!」 「あんな雑魚など、どうでも良かろう。深追いこそ禁物だ」 ワムウ様は最初っから形兆たちなど居なかったかのように、悠々と、わしが乗っていた二輪戦車の方に向かう。 わしは慌ててワムウの後を追おうとして……ふと、疑問が口をついて出た。 「ワムウ様……1つだけ、お聞かせ下さい」 「何だ?」 「ワムウ様はこの『ゲーム』、どうなさるおつもりですか?」 自分は――優勝するつもりだった。 これが殺し合いのゲームだというのなら、戦って戦って戦い抜いて、勝ち残るつもりだった。 だがワムウ様を目の当たりにし、その強さを思い知り。その望みは儚くも消え去ったわけであるが。 ではワムウ様は? 我が新たなる主は、何を望まれるのか? ワムウ様は悠然と振り返ると、心配そうに窺うわしの顔を見上げ、ニヤリと笑われた。 「知れたこと。戦士は戦いを愉しむ。ただそれだけよ」 「……!」 わしは一瞬驚いて――そして、歓喜に包まれた。 人間であった頃からわしが目指してきた、『殺戮のエリート』。その『完成形』が、今こうして目の前にいる! 勝ち目がないからではない。恐怖からでもない。 このお方こそ、300年追い求めた真の主人。メアリー、ディオを越える我が永遠の主! このタルカス、このお方に巡り合うためにこそ蘇ってきたのだ! 歓喜と共に、改めてワムウ様に忠誠を誓う――!  *  *  * 「吸血鬼? 柱の男? 何を言っているんだ、あいつらは……?!」 このオレ、虹村形兆のすぐ傍でブチャラティが呟く。だがオレには返事をする余裕すらない。 2人して盗み聞きした巨漢2人の会話は、オレにとって実に興味深いものだったからだ。 オレたちが今いるのは、橋の真ん中、その下。『橋桁の中』。 激突する! と思ったその時、ブチャラティのスタンド『スティッキー・フィンガーズ』が橋桁にラッシュを食らわせて。 太く頑丈な鉄筋コンクリート製の橋桁がコの字型に大きく抉られ、衝突を免れるスペースを作って。 そしてオレたちはそのままその空間に身を潜め、上にいる2人の動向を窺っていたというわけだ。 自在にジッパーを作り出し、立体的にも平面的にもモノを自在に切ってみせるスタンド…… なるほど、これなら橋を落とすことも可能だったかもしれない。応用範囲の広そうな能力だ。 「しかし、日差しを避けると言っていたな。奴らは『日光』が弱点なのか? ならば戦いようもありそうだが……。  いずれにせよ、今出て行くのはマズい……しかし、やつらを放置するわけにもいかない。あまりに危険過ぎる。  形兆、お前はどう思う? 追うべきだと思うか? それとも逃げるべきだと思うか?」 「…………」 「形兆!」 「ッ!? す、すまんブチャラティ、少し考え事をしていた。そうだな、あいつらを放置はできないな……」 鋭い声で呼びかけられ、オレは我に返った。 どうやらブチャラティは、この場は隠れるしかないと認めた上で、なお追いかけていって戦うつもりらしい。 なるほど、奴のスタンド能力なら、壁に穴を開けることも容易だろう。日が昇れば、建物に逃げ込まれても勝ち目がある。 だが、オレが考えていたことは……。 ワムウとかいう、謎の技で車を吹き飛ばした男は、『吸血鬼を作った一族』だと名乗っていた。 不死身の吸血鬼『DIO』、それはオレの親父に『肉の芽』を埋め込み、「あんな身体」にした張本人! その吸血鬼を「作り出した」連中なら、ひょっとしたらオレの親父を「殺せる」可能性がある! オレは平静を装いつつも、興奮に震えが止まらない。ブチャラティがワムウを追うというなら、これは都合がいい。 共にワムウを追い、なんとかしてワムウと接触し、なんとかして「親父を殺す方法」を探らねば。 あるいはあれだけのパワーを持つワムウ本人なら、「親父を殺す」ことができるのかもしれない……! オレのそんな思考に気付いた様子もなく、ブチャラティは橋桁に耳を当て、振動を聞き取る。 「んッ……動き出したな。北の方に引き返していくらしい……。よし、追うぞ。徒歩になるが、それでもいいな?」 「ああ、仕方ないな。車が川に落ちては仕方ない」 「ミキタカもそれでいいな? ……おい、ミキタカ? 形兆、ミキタカがどこに行ったか知らないか?」 ブチャラティが不審そうな声を上げる。オレもふと気付いて、視線を横に向ける。 ……ついさっきまで、ブラブラと橋のガードレールからぶら下がっていた太い鎖。ミキタカの化けた鎖。 それがいつの間にか、無くなっていた。オレたち2人がそれぞれの考えに耽っていた間に、消えうせていた……。  *  *  * 「……ところでタルカス。その鎖、いったいどうするつもりか?」 「はっ、『鎖』はわしの得意とする『武器』の1つでありますので。  奴らの持ち物でありましょう? あの橋にぶら下がっていましたので、有り難く使わせてもらおうかと。  自慢話になりますが、『天地来蛇殺(ヘルヘブンスネークキル)』のような秘殺技も持っており……」 「お前程度では得物無しには戦いにならぬか。まあ、好きにしろ」 疾走する二輪戦車の上。手綱を握るタルカスの肩の上にバランスを取って立ちながら、オレは鼻を鳴らす。 もとよりオレは、こやつの戦闘力など期待してはいない。 だが、オレが手を下す価値もない雑魚を排除させるくらいはできるだろう。身の回りの世話をする従者も欲しいしな。 「もっと建物の密集した地域を探すのだ。その中で、馬やお前も入れるような大きな建物を探すのだ」 「しかしワムウ様、ここに来る間に見た限りでも、大きな建物は比較的街の外の方にあるようですが……」 「だが探せ。いざという時、『隣の建物までの距離』が短い方が好ましい」 オレの指示にタルカスは軽く首を傾げていたが、素直に街の中心に馬を向ける。 まあ、こやつには分かるまい。住宅街の方が都合が良いのは、このオレだからこそだ。 このオレなら、『風のプロテクター』をまとえば、短時間であれば日光の中を突っ切ることができる。 万が一、選んだ建物が外から壊されたとしても、隣の建物まで走る程度なら持たせることができる。 まあ、そんなことになれば、せっかくの戦車馬も従者も、失ってしまうことになるわけだが……。 まだ時間には僅かに余裕がある。この戦車の速度があれば、間に合うだろう。 残念ながら、港近くにはカーズ様はおられなかった。 もうカーズ様も隠れ家を見つけ引っ込んでおられるだろうし、本格的に探すのは再び夜の帳が下りてからになるか。 もしもそれまでに、カーズ様が倒されるようなことがあれば…… いや、カーズ様が簡単に倒されるはずがない。それこそ、偽者がカーズ様を騙っていたのだと断言してもよかろう。 戦車が走る。街を走る。 手綱を握るタルカスの右肩には、オレが腕を組み、つま先で立ち。 タルカスの左肩には、フックのついた太い鎖が無造作に掛けられ、揺れている……。  *  *  * 私の「指先」から、血が滴ります。 鎖の表面の一部、ほんの僅かな部分を生身の皮膚に戻して、フックの先で引っ掛けて。 タルカスとかいう人の肩の上でたなびきながら、ポタリ、ポタリと道路に血を落としていきます。 こうすれば、ブチャラティさんたちも気付くはず。ブチャラティさんたちが後を追うこともできるはず。 あの人たちに見捨てられたら、それまでなのですが……。 さて、それにしてもどうしたものでしょう。困りました。 車を飛び出した時、私が姿を変えた瞬間を見られなかったのは運が良かったのか悪かったのか。 この2人にも姿を見せ自己紹介したいところですが、下手をすればその場で殺されてしまうかもしれません。 残念ながら光線銃も反物質爆弾も宇宙船の中。武器もなく、私1人でこの大きな人たちと戦っても勝てる気はしませんし。 しばらくは鎖の姿のまま、逃げ出す隙ができるのを待つしかないですかね……? 【闇の重戦士チーム 宇宙人添え】 【橋から街中心部方向に向かう道 (H-06) 1日目 早朝】 【ワムウ】  [モード]:『風』  [時間軸]:首だけになり、ジョセフが腕を振り下ろした瞬間  [状態]:服が少し焦げている  [装備]:手榴弾×9  [道具]:支給品一式  [思考・状況]   1) ベースとなる建物を探す。できれば住宅街が良い   2) カーズを探し、本人か確認する。本人なら従う。偽者と判断した場合は殺す。死んだなら無視。   3) できればジョセフとは再戦したい。   4) 戦いを楽しみつつ、優勝を目指す。ただ深追いはしない。   4) 従者として、しばらくはタルカスを従えておく。 【タルカス】  [種族]:屍生人(ゾンビ)  [時間軸]:ジョナサンたちとの戦いの直前。ディオに呼ばれジョナサンたちと初めて対面する前。  [状態]:無傷。  [装備]:吸血馬1頭+チャリオット、【ミキタカが化けたフック付きの長い鎖】。  [道具]:支給品一式  [思考・状況]:   1) ワムウへの絶対的な忠誠。   2) ワムウと共に戦う。戦いの愉悦を彼の下で楽しむ。   3) 日中を凌ぐ隠れ家を探す。   4) 取り逃した虹村形兆、ブチャラティ、ミキタカへの僅かな執着心(ワムウの命に背いてまで追う気はないが) 【ヌ・ミキタカゾ・ンシ】  [スタンド?]:『アース・ウィンド・アンド・ファイアー』  [時間軸]: 鋼田一戦後  [状態]:【フック付きの長い鎖】に化けた状態。タルカスに片手で握られ、肩に掛けられている。指先から出血。  [装備]:なし  [道具]:ポケットティッシュ (支給品一式はブチャラティが持っています)  [思考]:   1) タルカスたちには絶対に気付かれたくない。そのため、当面はただの鎖のフリを続ける。   2) タルカスたちに気付かれないうちにこっそり逃げ出したい。   3) 脱出後、ブチャラティたちとの合流を図る   4) 味方を集めて多くの人を救いたい。  [備考]:ミキタカは形兆のことを「ゾンビのようなもの」だと思っています。  [備考]:タルカスもワムウも、タルカスが手にしている鎖がミキタカであることにまだ気付いていません。  [備考]:ミキタカは自ら道路に血を垂らし、ブチャラティたちが追う手がかりを残しています。      彼らが通った道には、点々と血の跡が続いています。タルカスたちはまだ気付いていません。 【ギャングと軍人と宇宙人 (ただし現在、宇宙人行方不明)】 【川にかかる橋 (I-06) 1日目 早朝】 【ブローノ・ブチャラティ】  [スタンド]:スティッキィ・フィンガーズ  [時間軸]:サンジョルジョの教会のエレベーターに乗り込んだ直後  [状態]:健康。右腕の袖がズタズタに切り裂かれているが、本人はかすり傷程度。  [装備]:なし  [道具]:支給品一式×2 、フォーク  [思考]:   1) ワムウたちを放置はできない。彼らが仲間を襲う前に、日光も利用して彼らを倒す   2) 機会があれば仲間と合流する(トリッシュがスタンドを使える事に気付いていない)   3) なるべく多くの人を救う   4) アラキの打倒   5) ところでミキタカはどこに行ったんだ? 【虹村形兆】  [スタンド]:バッド・カンパニー  [時間軸]: 仗助と康一が初めて虹村兄弟と遭遇する直前。そのため父親を殺すことしか考えていない。  [状態]:全身打撲。  [装備]:特になし  [道具]:支給品一式  [思考・状況]:   1) 「吸血鬼を創った」ワムウの一族ならば、「肉の芽」が暴走した「虹村兄弟の親父」を殺せるかも? と期待。      ワムウに接触を図る。彼らに父親を殺害させる方法を考える。   2) 虹村兄弟の家の場所に戻り、父親がいるかどうか確認。   3) 億康を探す(探してどうするかはまだ決めていない。探すためにも一旦「自分の家」へ)   4) 参加者の中にチラリと見た東方仗助に警戒感。   5) ところで勢いで共闘してしまったが、ブチャラティやミキタカのこと、何も知らないぞ? 話を聞きださねば  [備考]:ブチャラティたちは、ワムウ・タルカスの弱点が『日光』であることを知りました。  [備考]:形兆への支給品であった乗用車は、完全にスクラップと化し、I-06の橋の下の川の中に落ちています。  [備考]:ブチャラティたちは、ミキタカがタルカスに「持っていかれてしまった」ことにまだ気付いていません。      ミキタカが点々と残していった、血の跡にもまだ気付いていません。 *投下順で読む [[前へ>ブラックホールによろしく]] [[戻る>1日目 第1回放送まで]] [[次へ>仮説・それが真実]] *時系列順で読む [[前へ>帝王の『引力』]] [[戻る>1日目(時系列順)]] [[次へ>仮説・それが真実]] *キャラを追って読む |10:[[風は 吹き 始める]]|ワムウ|49:[[承太郎と哀れな下僕]]| |32:[[『Oh! That's A Car Chase!!』]]||タルカス|49:[[承太郎と哀れな下僕]]| |32:[[『Oh! That's A Car Chase!!』]]||ヌ・ミキタカゾ・ンシ|49:[[承太郎と哀れな下僕]]| |32:[[『Oh! That's A Car Chase!!』]]|ブローノ・ブチャラティ|57:[[オレが生まれるためだけに]]| |32:[[『Oh! That's A Car Chase!!』]]|虹村形兆|57:[[オレが生まれるためだけに]]|
杜王町を南北に分断し、杜王港を目指し流れる大きな川。夜の闇の中でもその流れは止まらない。 その北岸に沿って走る道を、オレの車――オレのだよな?――は走っていた。 窓はリアもフロントも割れ、道路標識が突っ込み、酷い有様で―― おまけに、『ブチャラティ』と『ミキタカ』とかいう、見知らぬ2人組が勝手に乗り込んでいたりする。 そして車の後から執拗に追いかけてきているのは、こちらも常識外れな奴。 巨大な馬に牽かせた、古代の二輪戦車。上に乗っているのは、とてつもない体躯をした巨漢、タルカス。 2台はある程度の距離を維持したままで、そしてその間に飛び交うものは……! 「WRUOOOO!」 「また投げてきましたッ! またお願いします、形兆さんッ!」 「気安く呼ぶなぁ~~ッ! だが任せろ、角度よし、タイミングよし……『戦車隊』、てーーッ!」 一方的に名前や素性を知られているというのは気分の良いものではないが……文句を言っているヒマはない。 二輪戦車の上の巨漢タルカスが、先を行く俺たちに向け、馬の足を投げる。ブーメランのように投げる。 それに応える形で――乗用車の屋根に並ぶミニチュア戦車(こっちは近代兵器の戦車だ!)が7台、連続して火を噴く。 俺のスタンド『バッド・カンパニー』、その砲撃に、しかし残念ながら直接この大質量を撃ち落すパワーはない。 だが、道に並ぶ街灯を倒す力はある。信号機を倒す力もある。その狙いは正確無比。 投擲された馬の足は、絶妙のタイミングで倒れ込んできた街灯にぶつかり、僅かに進路を変えて。 乗用車を狙っていたそれは、ギリギリの所で車を掠めて飛んでいく! よぅ~し、計算通りッ! 計算通り行くのは気分がいいッ! ……しかしこれでほぼ同じことを3回目か。本当に飽きない奴、いや執念深い奴。 「ゾンビ、か……信じがたいが、あの怪力は常人とも思えないな。スタンドを出す素振りも見られないことだし」 「地球人とはすごいものですね。死んでもなお動ける。あの大きな人や、形兆さんのように」 「おい待て、誰が死んでると言うのだ、この宇宙人ッ!?  ……しかしブチャラティとか言ったな、どうしてもっと速度を出さない? 商店街は抜けたというのに……!」 「あの怪物馬とチャリオットは、危険だ。少なくともアレだけは排除しておかねばなるまい!」 オレの問いに、ブチャラティはハンドルを握ったまま応える。運転しながら、奴はチラリと支給品の地図に目をやる。 地図上のエリア分けで言えば、F-03から南下してG-03、H-03と来て川沿いに到達。 I-03に向かう橋を渡るんだった! と何やら後悔する様子を見せつつも、勢いのままにH-04の左下の角を掠めてI-04。 そして今はI-05の川沿いの道を、東に向けて爆走中。 几帳面なオレとしては、意図も見えない今の状況は、非常~ッに不愉快であるわけだが。 「地図によれば、この先のI-06に大きな橋がある! 向こうも俺たちも、勢いをつけたまま突入できるような橋が!  そこで、決着をつける! そこまでは、奴についてきて貰わねばならない!」 「ど、どうする気なんだ?!」 「オレたちが渡った直後……奴の目の前で、橋を落とすッ! そしてあの巨大馬と戦車を、川の中に落下させるッ!」  オレのスタンド、『スティッキー・フィンガーズ』なら、それくらいのことは可能だ」 「な――!」 なんとも大胆なブチャラティの作戦に、オレは思わず息を飲んだ。 その程度のことで頑丈そうな巨漢が殺せるとも思わないが、しかし二輪戦車や馬の方は無傷では済むまい。 堤防を越える形で、高い位置に架かる橋。そこから落下すれば戦車の大破は必至、馬も足を折るか川に流されるか。 そうなれば、オレたち3人は悠々と逃げ去ることができる! ……しかし、橋を落とせるって一体どういうスタンドだ!? そんなにパワーのあるスタンドを持っているのか? オレの疑問をよそに、ブチャラティは厳しい表情で呟く。 「問題は、橋の手前にあるカーブだ……こちらも勢いを落とさず、向こうにも落とさせず、橋に突入せねばならない!  いや、向こうが転倒するなら、それはそれでもいいんだが……!」 「私にできることは何かありませんか?」 「特にない。せいぜい2人とも、車の外に投げ出されないよう、気をつけてくれッ!」 I-06に突入する。T字路が迫る。直角な交差点ではなく、僅かに角度をつけて交わる道。 その角度の厳しい方、鋭角をなす南への道を目指し、ブチャラティは鋭くハンドルを切る! 高い音を立て、車は大きくドリフトする! って運転荒すぎるぞッ、おいッ! 「おわッ!?」 「危ないですよ、形兆さん」 急カーブの勢いに、車内に突き刺さっていた道路標識が飛び出す。ついでにオレの身体も飛び出す! ヤベェッ! と思う間もなく、オレの腰に絡みついたのは――1本の鎖。 こんなもの車内にあったか!? 鎖の反対の端には巨大なフックがついていて、後部座席に突き刺さっている。 鎖のお陰で、半分身体が飛び出したまま、それでもなんとか持ち直したオレは……そして車内に引き込まれる。 その鎖が、ウネウネと形を変える。俺の腰に絡み付いていた部分は人の腕に、巨大なフックは人の足に。 それは、ミキタカだった。ミキタカと名乗った自称宇宙人、そいつが鎖に姿を変えていたのだ! 「……いやはや、危ないところでした」 「お……おまえッ、何者だぁッ!?」 「先ほども申し上げました通り、宇宙人です。これで信じて頂けますか?」 「それよりお前たちッ! あの男はついてきているかッ!?」 そんなオレたちの掛け合いをバックミラー越しに見ながら、ブチャラティは叫ぶ。 そうだった、オレたちの車はもう橋の上に差し掛かっている、あの巨漢が追ってきてくれないことには…… しかし、ブチャラティの心配は、杞憂というものだった。 次の瞬間、そのT字路の角にあった建物が、内側から弾け飛ぶ! 粉塵と瓦礫の中から飛び出してきたのは、例の巨大馬と、巨漢の乗った二輪戦車! 「WRRRYYYYYY!」 「しょ……ショートカット、だとッ!? どこまで化け物なんだ、こいつらはッ!!」 角を曲がらず、建物の壁を破って突入し、建物の壁を破って飛び出すという、常識外れのルート短縮! なるほどこれなら、転倒の危険も高い鋭角のカーブを無理して曲がる必要もない……そんなことが、できるのならだが! ドリフト走法を使ったとはいえ、カーブによって速度の落ちていた車。 建物を突っ切ったことで速度が落ちたとはいえ、ショートカットできた二輪戦車。 両者の距離は、橋に差し掛かりながら、前よりも詰まってきていて。 しかしここまではブチャラティの計算通り! 彼はそして、運転席から後部座席の方に身を乗り出す。 「ハンドルを頼むぞ、ミキタカッ! 『スティッキー・フィンガ』……!」 「あっ、危ないッ!」 ハンドルを託されたミキタカが、悲鳴を上げる。後方から追って来る戦車ばかりを気にしていたオレたち。 しかし車の前方、ライトに照らされた道の真ん中に……大きな人影が! ブレーキ?! 間に合わない! ハンドルを切る? 間に合わないッ! そして車はそのまま、道の真ん中の歩行者を撥ねる勢いで―― ドンッ! 大きな音と共に、そして、大きく吹っ飛んだのは―― あ――ありのままに、起こったことを記す。 『車が人を撥ねたと思ったら、人に車が撥ねられていた』 ……何を伝えたいのか分からないかもしれないが、自分も何を言いたいのか分からない。 頭がどうにかなってしまいそうな光景だった。 言葉遊びだとか言葉のあやだとか、そんなチャチなものでは断じてない。 もっと恐ろしい、この『ゲーム』とやらの無茶苦茶さを味合わされた感じで――!  *  *  * 「な――!?」 もちろんこの状況、この俺、ブローノ・ブチャラティにも、何が起こったのかさっぱり分からなかった。 オレたちに認識できたのは、急な衝撃。そして、スローモーションのように宙を舞う、自分たちの車―― いや、ただ吹き飛ばされているだけではない! メキメキと、見えない力でひしゃげていく! 「あのゾンビが、また何かしたのか?! それとも――ともかく、このまま車の中に居るのは、まずい!」 このまま車ごと潰されるわけにはいかない! 川に落ちたら3人揃って転落の危険もある、溺死の危険もある! 橋を落とすべく出していたスタンドが、咄嗟の判断で車の屋根を殴る! 「『スティッキー・フィンガーズ』! だが、このままでは――!」 乗用車の屋根でジッパーが大きな口を開ける、ドアを開けるよりも素早く3人の身体が飛び出す、 しかし事態は好転していない、渦巻く風と車の破片がオレたちを追ってくる、それにこのままでは川に落ち――! 「いえブチャラティ、それでいいんです。荷物をお願いします。私の身体に捕まって下さい――!」 空中でミキタカは一瞬で姿を変える、太い鎖、2人分の体重くらい楽に支えられるような強靭な鎖! オレはミキタカの分の鞄も掴みながら、なんとかその鎖に手を伸ばす。 そしてその鎖は、端についた大きなフックを橋のガードレールに向けて伸ばし―― 「と……届かないッ!? 届きませんッ!」 「いや、それでOKだ。『バッド・カンパニー』!」 長さは十分、しかし弛んで届かなかったフック。それをミニチュアのヘリコプター2機が素早く挟み、運搬する! フックがガードレールに引っ掛かる、ミキタカの化けた鎖が大きく張る、 落下しつつあったオレと形兆は、ターザンのような、振り子のような円運動に入る! 渦巻く風がオレたちの体を掠めて逸れていく。ただ掠められただけで、オレの服の裾がズタズタになる衝撃! オレはぞっとする。真空の刃を無数に孕んだ小竜巻……あんなものをまともに喰らっていたら……! 「た、助かったか? ……って、このままじゃ橋桁にぶつかるぞぉぉっ!」 「す、『スティッキー』……!」 ――車が宙に舞ってから、僅か数秒の間に。 乗用車は川面に落下し……俺たち2人の捕まった鎖は、橋を支える橋桁に、大きな音を立てて衝突した。  *  *  * 「な――!」 橋の上では、わしもまた、その光景に思わず息を呑んでいた。 奴らの後ろから、わしは全てを見ていた。 爆走する車が、橋の真ん中で人を轢きかけたところも。 その人物が、車を避けようともせず、むしろ素早く身構え、両腕を勢いよく突き出したところも。 その両腕の間に風が渦巻き、奴らの車が「触れられずして」大きく吹き飛んだところも―― 二輪戦車が減速する。吸血馬が走るのをやめ、速度を落とす。 あれほど扱いにくかった暴れ馬もまた、「その人物」の異常さを直感し、そして……呑まれている。怯えている。 口の中が、カラカラに乾いていくのを感じる。 視界の隅で、連中の車が川面に落ちるのを認識したが、それどころではない 「い、いまのは、いったいッ……!?」 「『神砂嵐』! 『風』の流法(モード)を持つおれの、最強の闘技!」 「かみ……ずなあらし……」 わしは呆然と呟く。気がつけば――わしはよたよたと戦車から降り、その男の前に片膝をついて頭を下げていた。 直感だった。 戦わずとも分かる。今の技ひとつ・立ち姿ひとつ見ただけで、理解できてしまう。 『自分は、何があってもこの男に勝つことはできない』 騎士としての経験と才能が、目の前の男の『戦闘の天才』ぶりを教え。 屍生人としての『血』が、目の前の男の『圧倒的な種族的格差』を教えていた。 まさに、次元が違う。レベルが違う。同じ方向を目指しつつ、しかし遥かにスケールが違う! わしを蘇らせてくれたディオの前でも、ここまで緊張はしなかった。 脂汗をダラダラ流し、礼を尽くし平伏するわしを見下ろしながら、そのお方は静かに呟かれる。 「ふむ――吸血鬼どもの、『喰い残し』か? それにしては良い闘気をしている」 「お、おぬし……いや、あなた様はッ……!?」 「我が名はワムウ。人間どもが『柱の男』と呼ぶ、吸血鬼を生み出した一族が1人」 「吸血鬼を……ディオ様を!?」 「彼我の強さの差を咄嗟に見抜いたあたり、お前もただのゴミではないようだな。名を聞こう」 「た、タルカス。77の輝輪の試練を乗り越えし騎士、タルカスと申す」 「名以外のことはどうでもいい。我に従え、タルカス」 「はッ……!」 異論など、あろうはずがない。 そうか、ディオを作りし一族か……道理で、わしの身体が怯えるわけだ。 人間であった頃でも恐れ知らず、屍生人となってからはなおさらだったわしが、震えるわけだ。 いったいどれほどの経験を積んだ戦士なのか。わしの300年の歴史など軽く凌駕するのは確かだろう。 絶望的な敗北感と共に、喜びに近い感情も湧きあがってくる。 この場で殺されずに済んだことへの感謝が半分、そして僅かなりともワムウ様に認めて頂けたという喜びが半分。 「ところで、あと1時間ほどで日が昇る。そろそろ日差しを避ける建物を探さねばならん」 「あ……も、もうそんな時間でしたか」 「戦いに酔っていたか? 若いな。今後は気をつけるがいい。すぐに移動するぞ、馬を出せ!」 「か、川に落ちた奴らにトドメを刺さずとも良いので?!」 「あんな雑魚など、どうでも良かろう。深追いこそ禁物だ」 ワムウ様は最初っから形兆たちなど居なかったかのように、悠々と、わしが乗っていた二輪戦車の方に向かう。 わしは慌ててワムウの後を追おうとして……ふと、疑問が口をついて出た。 「ワムウ様……1つだけ、お聞かせ下さい」 「何だ?」 「ワムウ様はこの『ゲーム』、どうなさるおつもりですか?」 自分は――優勝するつもりだった。 これが殺し合いのゲームだというのなら、戦って戦って戦い抜いて、勝ち残るつもりだった。 だがワムウ様を目の当たりにし、その強さを思い知り。その望みは儚くも消え去ったわけであるが。 ではワムウ様は? 我が新たなる主は、何を望まれるのか? ワムウ様は悠然と振り返ると、心配そうに窺うわしの顔を見上げ、ニヤリと笑われた。 「知れたこと。戦士は戦いを愉しむ。ただそれだけよ」 「……!」 わしは一瞬驚いて――そして、歓喜に包まれた。 人間であった頃からわしが目指してきた、『殺戮のエリート』。その『完成形』が、今こうして目の前にいる! 勝ち目がないからではない。恐怖からでもない。 このお方こそ、300年追い求めた真の主人。メアリー、ディオを越える我が永遠の主! このタルカス、このお方に巡り合うためにこそ蘇ってきたのだ! 歓喜と共に、改めてワムウ様に忠誠を誓う――!  *  *  * 「吸血鬼? 柱の男? 何を言っているんだ、あいつらは……?!」 このオレ、虹村形兆のすぐ傍でブチャラティが呟く。だがオレには返事をする余裕すらない。 2人して盗み聞きした巨漢2人の会話は、オレにとって実に興味深いものだったからだ。 オレたちが今いるのは、橋の真ん中、その下。『橋桁の中』。 激突する! と思ったその時、ブチャラティのスタンド『スティッキー・フィンガーズ』が橋桁にラッシュを食らわせて。 太く頑丈な鉄筋コンクリート製の橋桁がコの字型に大きく抉られ、衝突を免れるスペースを作って。 そしてオレたちはそのままその空間に身を潜め、上にいる2人の動向を窺っていたというわけだ。 自在にジッパーを作り出し、立体的にも平面的にもモノを自在に切ってみせるスタンド…… なるほど、これなら橋を落とすことも可能だったかもしれない。応用範囲の広そうな能力だ。 「しかし、日差しを避けると言っていたな。奴らは『日光』が弱点なのか? ならば戦いようもありそうだが……。  いずれにせよ、今出て行くのはマズい……しかし、やつらを放置するわけにもいかない。あまりに危険過ぎる。  形兆、お前はどう思う? 追うべきだと思うか? それとも逃げるべきだと思うか?」 「…………」 「形兆!」 「ッ!? す、すまんブチャラティ、少し考え事をしていた。そうだな、あいつらを放置はできないな……」 鋭い声で呼びかけられ、オレは我に返った。 どうやらブチャラティは、この場は隠れるしかないと認めた上で、なお追いかけていって戦うつもりらしい。 なるほど、奴のスタンド能力なら、壁に穴を開けることも容易だろう。日が昇れば、建物に逃げ込まれても勝ち目がある。 だが、オレが考えていたことは……。 ワムウとかいう、謎の技で車を吹き飛ばした男は、『吸血鬼を作った一族』だと名乗っていた。 不死身の吸血鬼『DIO』、それはオレの親父に『肉の芽』を埋め込み、「あんな身体」にした張本人! その吸血鬼を「作り出した」連中なら、ひょっとしたらオレの親父を「殺せる」可能性がある! オレは平静を装いつつも、興奮に震えが止まらない。ブチャラティがワムウを追うというなら、これは都合がいい。 共にワムウを追い、なんとかしてワムウと接触し、なんとかして「親父を殺す方法」を探らねば。 あるいはあれだけのパワーを持つワムウ本人なら、「親父を殺す」ことができるのかもしれない……! オレのそんな思考に気付いた様子もなく、ブチャラティは橋桁に耳を当て、振動を聞き取る。 「んッ……動き出したな。北の方に引き返していくらしい……。よし、追うぞ。徒歩になるが、それでもいいな?」 「ああ、仕方ないな。車が川に落ちては仕方ない」 「ミキタカもそれでいいな? ……おい、ミキタカ? 形兆、ミキタカがどこに行ったか知らないか?」 ブチャラティが不審そうな声を上げる。オレもふと気付いて、視線を横に向ける。 ……ついさっきまで、ブラブラと橋のガードレールからぶら下がっていた太い鎖。ミキタカの化けた鎖。 それがいつの間にか、無くなっていた。オレたち2人がそれぞれの考えに耽っていた間に、消えうせていた……。  *  *  * 「……ところでタルカス。その鎖、いったいどうするつもりか?」 「はっ、『鎖』はわしの得意とする『武器』の1つでありますので。  奴らの持ち物でありましょう? あの橋にぶら下がっていましたので、有り難く使わせてもらおうかと。  自慢話になりますが、『天地来蛇殺(ヘルヘブンスネークキル)』のような秘殺技も持っており……」 「お前程度では得物無しには戦いにならぬか。まあ、好きにしろ」 疾走する二輪戦車の上。手綱を握るタルカスの肩の上にバランスを取って立ちながら、オレは鼻を鳴らす。 もとよりオレは、こやつの戦闘力など期待してはいない。 だが、オレが手を下す価値もない雑魚を排除させるくらいはできるだろう。身の回りの世話をする従者も欲しいしな。 「もっと建物の密集した地域を探すのだ。その中で、馬やお前も入れるような大きな建物を探すのだ」 「しかしワムウ様、ここに来る間に見た限りでも、大きな建物は比較的街の外の方にあるようですが……」 「だが探せ。いざという時、『隣の建物までの距離』が短い方が好ましい」 オレの指示にタルカスは軽く首を傾げていたが、素直に街の中心に馬を向ける。 まあ、こやつには分かるまい。住宅街の方が都合が良いのは、このオレだからこそだ。 このオレなら、『風のプロテクター』をまとえば、短時間であれば日光の中を突っ切ることができる。 万が一、選んだ建物が外から壊されたとしても、隣の建物まで走る程度なら持たせることができる。 まあ、そんなことになれば、せっかくの戦車馬も従者も、失ってしまうことになるわけだが……。 まだ時間には僅かに余裕がある。この戦車の速度があれば、間に合うだろう。 残念ながら、港近くにはカーズ様はおられなかった。 もうカーズ様も隠れ家を見つけ引っ込んでおられるだろうし、本格的に探すのは再び夜の帳が下りてからになるか。 もしもそれまでに、カーズ様が倒されるようなことがあれば…… いや、カーズ様が簡単に倒されるはずがない。それこそ、偽者がカーズ様を騙っていたのだと断言してもよかろう。 戦車が走る。街を走る。 手綱を握るタルカスの右肩には、オレが腕を組み、つま先で立ち。 タルカスの左肩には、フックのついた太い鎖が無造作に掛けられ、揺れている……。  *  *  * 私の「指先」から、血が滴ります。 鎖の表面の一部、ほんの僅かな部分を生身の皮膚に戻して、フックの先で引っ掛けて。 タルカスとかいう人の肩の上でたなびきながら、ポタリ、ポタリと道路に血を落としていきます。 こうすれば、ブチャラティさんたちも気付くはず。ブチャラティさんたちが後を追うこともできるはず。 あの人たちに見捨てられたら、それまでなのですが……。 さて、それにしてもどうしたものでしょう。困りました。 車を飛び出した時、私が姿を変えた瞬間を見られなかったのは運が良かったのか悪かったのか。 この2人にも姿を見せ自己紹介したいところですが、下手をすればその場で殺されてしまうかもしれません。 残念ながら光線銃も反物質爆弾も宇宙船の中。武器もなく、私1人でこの大きな人たちと戦っても勝てる気はしませんし。 しばらくは鎖の姿のまま、逃げ出す隙ができるのを待つしかないですかね……? 【闇の重戦士チーム 宇宙人添え】 【橋から街中心部方向に向かう道 (H-06) 1日目 早朝】 【ワムウ】  [モード]:『風』  [時間軸]:首だけになり、ジョセフが腕を振り下ろした瞬間  [状態]:服が少し焦げている  [装備]:手榴弾×9  [道具]:支給品一式  [思考・状況]   1) ベースとなる建物を探す。できれば住宅街が良い   2) カーズを探し、本人か確認する。本人なら従う。偽者と判断した場合は殺す。死んだなら無視。   3) できればジョセフとは再戦したい。   4) 戦いを楽しみつつ、優勝を目指す。ただ深追いはしない。   4) 従者として、しばらくはタルカスを従えておく。 【タルカス】  [種族]:屍生人(ゾンビ)  [時間軸]:ジョナサンたちとの戦いの直前。ディオに呼ばれジョナサンたちと初めて対面する前。  [状態]:無傷。  [装備]:吸血馬1頭+チャリオット、【ミキタカが化けたフック付きの長い鎖】。  [道具]:支給品一式  [思考・状況]:   1) ワムウへの絶対的な忠誠。   2) ワムウと共に戦う。戦いの愉悦を彼の下で楽しむ。   3) 日中を凌ぐ隠れ家を探す。   4) 取り逃した虹村形兆、ブチャラティ、ミキタカへの僅かな執着心(ワムウの命に背いてまで追う気はないが) 【ヌ・ミキタカゾ・ンシ】  [スタンド?]:『アース・ウィンド・アンド・ファイアー』  [時間軸]: 鋼田一戦後  [状態]:【フック付きの長い鎖】に化けた状態。タルカスに片手で握られ、肩に掛けられている。指先から出血。  [装備]:なし  [道具]:ポケットティッシュ (支給品一式はブチャラティが持っています)  [思考]:   1) タルカスたちには絶対に気付かれたくない。そのため、当面はただの鎖のフリを続ける。   2) タルカスたちに気付かれないうちにこっそり逃げ出したい。   3) 脱出後、ブチャラティたちとの合流を図る   4) 味方を集めて多くの人を救いたい。  [備考]:ミキタカは形兆のことを「ゾンビのようなもの」だと思っています。  [備考]:タルカスもワムウも、タルカスが手にしている鎖がミキタカであることにまだ気付いていません。  [備考]:ミキタカは自ら道路に血を垂らし、ブチャラティたちが追う手がかりを残しています。      彼らが通った道には、点々と血の跡が続いています。タルカスたちはまだ気付いていません。 【ギャングと軍人と宇宙人 (ただし現在、宇宙人行方不明)】 【川にかかる橋 (I-06) 1日目 早朝】 【ブローノ・ブチャラティ】  [スタンド]:スティッキィ・フィンガーズ  [時間軸]:サンジョルジョの教会のエレベーターに乗り込んだ直後  [状態]:健康。右腕の袖がズタズタに切り裂かれているが、本人はかすり傷程度。  [装備]:なし  [道具]:支給品一式×2 、フォーク  [思考]:   1) ワムウたちを放置はできない。彼らが仲間を襲う前に、日光も利用して彼らを倒す   2) 機会があれば仲間と合流する(トリッシュがスタンドを使える事に気付いていない)   3) なるべく多くの人を救う   4) アラキの打倒   5) ところでミキタカはどこに行ったんだ? 【虹村形兆】  [スタンド]:バッド・カンパニー  [時間軸]: 仗助と康一が初めて虹村兄弟と遭遇する直前。そのため父親を殺すことしか考えていない。  [状態]:全身打撲。  [装備]:特になし  [道具]:支給品一式  [思考・状況]:   1) 「吸血鬼を創った」ワムウの一族ならば、「肉の芽」が暴走した「虹村兄弟の親父」を殺せるかも? と期待。      ワムウに接触を図る。彼らに父親を殺害させる方法を考える。   2) 虹村兄弟の家の場所に戻り、父親がいるかどうか確認。   3) 億康を探す(探してどうするかはまだ決めていない。探すためにも一旦「自分の家」へ)   4) 参加者の中にチラリと見た東方仗助に警戒感。   5) ところで勢いで共闘してしまったが、ブチャラティやミキタカのこと、何も知らないぞ? 話を聞きださねば  [備考]:ブチャラティたちは、ワムウ・タルカスの弱点が『日光』であることを知りました。  [備考]:形兆への支給品であった乗用車は、完全にスクラップと化し、I-06の橋の下の川の中に落ちています。  [備考]:ブチャラティたちは、ミキタカがタルカスに「持っていかれてしまった」ことにまだ気付いていません。      ミキタカが点々と残していった、血の跡にもまだ気付いていません。 *投下順で読む [[前へ>ブラックホールによろしく]] [[戻る>1日目 第1回放送まで]] [[次へ>仮説・それが真実]] *時系列順で読む [[前へ>帝王の『引力』]] [[戻る>1日目 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>仮説・それが真実]] *キャラを追って読む |10:[[風は 吹き 始める]]|ワムウ|49:[[承太郎と哀れな下僕]]| |32:[[『Oh! That's A Car Chase!!』]]|タルカス|49:[[承太郎と哀れな下僕]]| |32:[[『Oh! That's A Car Chase!!』]]|ヌ・ミキタカゾ・ンシ|49:[[承太郎と哀れな下僕]]| |32:[[『Oh! That's A Car Chase!!』]]|ブローノ・ブチャラティ|57:[[オレが生まれるためだけに]]| |32:[[『Oh! That's A Car Chase!!』]]|虹村形兆|57:[[オレが生まれるためだけに]]|

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