「その一撃は緋の色」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

その一撃は緋の色」(2007/10/16 (火) 01:28:43) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

何者かが、闇に居た。 それは厳然とした事実だった。 駅に侵入した時から既に、波紋戦士ダイアーとスタンド使いJ・P・ポルナレフの二人は、 暗黒の奥から投射される禍々しいまでの闘気を感受していた。 二人に、言葉を交わす必要は無かった。 隣からの僅かな気配だけで、互いの緊張は十分に伝わっていた。 確かに、居る。 闇を住処とする異形のものが、その牙を潜め襲撃の機会を伺っている。 ……。 ダイアーが一歩先を行き、ポルナレフが後を続く。 限界まで零に至近する足音。空気を微かに震わせる、両者の息遣い。 只の一刻さえも、気を緩ませる時間は無かった。 如何なる事象が、静寂の支配するその禁じられた領域を踏み込み、 深遠に潜む猛獣を呼び覚ますのか、残念な事に両者には分からなかったから。 二人の戦士に許された行動は、出来る限り己の気配を無とし、 闇に潜む敵の牙の煌きを、覗き知る事のみ。 そう。気を緩ませる時間など、一刻も、存在しなかった。 闇に染み込む静寂を急変させる事態が到来したのは、 ダイアーがもう一歩、足を踏み入れた直後だった。 ――何かが、恐るべき速度で二人に衝突せんと襲い掛かって来た。 ……。 言葉を交わす必要は、やはり無かった。 ダイアーは、積年の修行にて練磨された『反射速度』にて。 ポルナレフは、度重なる激戦で研ぎ澄まされた『剣士の勘』にて。 各々が各々の手段にて、豪速で迫り来るその物体を回避した。 巨大な質量の物体は、背後の壁に衝突し粉々に砕け散る。 重々しい破砕音が、駅の内部に反響した。 「……これは『柱』か」 物体の正体は、鉄とコンクリートの塊。 杜王駅を構成する『柱』自体が闇の奥に潜む者によってもぎ取られ、 武器として、彼ら目掛けて投擲されたのだ。 「巨大な柱をこそぎ取り、放り投げるこのパワー。  ……中々のものだな」 ダイアーは冷然と微笑を浮かべ、敵の襲撃を迎えた。 「危なかったぜ……化け物め」 『柱』の投擲を受け、その衝撃の為に全壊した壁の惨状を確認する。 その凶悪な威力に戦慄しつつ、ポルナレフは奥の闇を凝視した。敵は何処に居るのか。 ――緊張を伴う待機は、数秒の間だけだった。 「ほう……その攻撃を回避するとはな。  貴様等……我が怨敵『波紋使い』か」 鎧に身を包んだ巨体――屍生人タルカスが、闇の深淵よりその姿を現した。 発たれた強烈な覇気が、一帯の空気を急激に変質させて行く。 「……我が名はダイアー! 誇り高き波紋戦士ッ!  愚劣にして野蛮なる吸血鬼の眷属は、一匹残さず地獄へと還すッ!  それが我等に定められた宿命ッ!」 ダイアーが奇妙に身体を捻じ曲げ、宿敵に向けて戦闘体勢を構築する。 体内の波紋エネルギーを最大まで練り上げるポージングにて、 屍生人を粉砕する、必殺の一撃の機会を狙う。 「来やがったな、デカブツが……」 J・P・ポルナレフが現出させた『銀の戦車』の剣先は、暗中でも輝きを失わない。 彼は思考する――敵はたった一人ッ! 自分とダイアーが息を合わせ、全力で迎え撃てば、必ず勝利できるッ! 屍生人タルカスは大きく腕を広げ、進入者達に向けて悠々と宣告する。 「聞くが良い、人間共ッ!  この奥に居られる我が主、ワムウ様はッ!  人間、屍生人、吸血鬼! それら全ての頂点に君臨なされるお方ッ!  貴様等『波紋の一族』など、あの方の下に近付く事さえ許されぬッ!  このタルカスがッ! 貴様等の脆弱な肉体を難無く捻り潰し、骨ごと挽肉にして喰らってくれるわッ!」 「その偉ぶった態度も、直ぐに終わるッ!  行くぞ、屍生人タルカスッ!」 床を蹴り、怒涛の闘士ダイアーが魔人に逼迫する。 その指先に輝く光は、彼の特殊な呼吸により練り出された太陽のエネルギー『波紋』。 まず先手を打ち、この敵に対する優位性を掴み取る! 波紋を纏った両手を突き出し、その厚い筋肉の内側へ。 屍生人タルカスの心臓部目掛け、ダイアーが必殺の一撃を突き込み――。 「WRRRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」 ダイアーは甘く見ていた――この屍生人戦士タルカスに潜在する、凶悪なまでのパワーを。 足元の床に深々と減り込んだのは、魔人の長大な指先。 周囲の地盤一塊が紙切れの如くあっさりと持ち上げられ、ダイアー目掛けて放逐された。 「ヌウゥッ!」 豪速の勢いで眼前に迫り来る巨大な岩盤にダイアーは対応出来ない。 防御姿勢も作れぬままに激突し、破砕された岩の断片と共に崩れ落ちる。 「ダ、ダイアーッ!」 「落ち着けポルナレフ……敵の方を見ろッ!」 頭部の傷を押えながら、ダイアーは仲間に向けて叱責した。 ポルナレフは安心する――どうやら、それ程の痛手では無いらしい。 敵が見せた隙に対して特に動き始める事も無く、 ポルナレフに向け、悠々と語り掛けるタルカス。 その表情を彩るのは――邪悪極まりない、笑み。 「フンッ! さてと……次は貴様の番か?  来るが良い……『人形使い』」 「てめーに言われなくとも、俺の方から行ってやるぜッ!」 ポルナレフは駆け出す。 スタンドを背後に現出させ、ポルナレフは敵に肉薄し、瞬く間の内に――! 「『銀の戦車』ッ!」 斬、斬、斬、斬。斬り返し、再び斬ッ! 『銀の戦車』の驚速の剣先が、魔人の巨体を破壊して行く! 「ホラホラホラホラホラホラアァァァァッ!」 屍生人タルカスは反撃らしい反撃もせず、無言で剣に甚振られ続けている有様。 肉を裂く度に飛散し、剣士の皮膚に掛かる血と肉。呪われた肉体に刻印される幾多もの傷跡。 ポルナレフは確信する――どうやら、この木偶の坊は『戦車』の素早さに対応出来ないらしい。 何が屍生人だ、何が吸血鬼だ。大仰な言葉をのたまって、結局この程度かよ――! 剣士の唇の端が、自ずと緩む。 「食らえェッ!」 屍生人の口蓋に突き込まれた銀色の剣先は、 そのまま敵の喉を貫通し、頭部ごと奥の壁に身体を縫い付けた。 (勝ったッ――!) しかし、ポルナレフの胸中に湧き上がっていた予感は、 タルカスが放つ一言によって、瞬く間に掻き消される事となる。 「クククゥッ……! どうした、『人形使い』ィィッ!  この程度の攻撃で、もう終わりかッ!?」 喉を剣に貫かれながらも、眼前の屍生人は不気味な笑みを浮かべ、嘲ったのだ。 「クッ……!」 胴を幾度も串刺しにされ、壁に身体を縫い止められ、 しかし尚も勢いを止める事を知らない、この異常な生命力。 ポルナレフの心中に湧き上がる、僅かな後悔――やはりスタンド使いとは、全く勝手が違う。 たったの百回剣先をブチ込ませるだけで、絶命する程度の相手では無いのだ。 「WRRRRYYYYYYAAAAAAAAAAHH!」 狂戦士タルカスの拳が風を切り、ポルナレフの右腕に激突する。 強烈極まりない一撃は、ポルナレフの意識を僅かの間剥離させた。 その一瞬の気絶が、意志が作り出すヴィジョン――スタンドを消滅させてしまう。 「SHHHYYYYYYAAAAAAAAAHHH!」 間断無く、送り込まれる再撃。 胴に食い込む蹴りの激烈な威力に、ポルナレフの身体はいとも簡単に浮き上がった。 勢いは衰える事無く逆側の壁に衝突し、無様、床上に転倒する。 ポルナレフは漸く理解した――ツェペリとダイアーの二人がカフェで話していた言葉と、その真の意味を。 屍生人の、この止め処無きまでのタフネス……只の人間が敵う筈が無いッ! 「もう遊びは終わりかァ!? これで終わりだッ、『人形使い』ッ!」 タルカスが背後のデイパックより、一つの物体を取り出す。 それは、この狂戦士が『柱の男』ワムウより譲り受けた人間世界の兵器――手榴弾。 手の一振りで、その塊はポルナレフ目掛け一直線に投擲された。 放たれた手榴弾を眼前に、ポルナレフは思考する。 回避するか? それともスタンドで爆破を防御するか? ……いや、どちらも間に合わない。 手榴弾が、ポルナレフの身体を粉々に破壊する為に迫り――。 (何ッ――!?) それは、余りにも意外! 突如ポルナレフの視界に現れたのは、波紋戦士ダイアーの姿。 彼の逞しき肉体が、ポルナレフと手榴弾の間に割り込み、床の上に踏み留まる。 ……そして次の瞬間には、眩しい閃光を伴って、手榴弾は爆発していた。 解き放たれた衝撃と火炎が、ダイアーの肉体に食い込んで行く。 「ダ……ダイアーッ!」 ポルナレフの悲痛の叫びも虚しく、波紋戦士ダイアーは……崩れ落ちた。 「そ……そんなッ……!」 呆然と、足元に倒れ伏した男を見下ろす事しか出来ない。 ……この男は今、自らの命を犠牲に護ったと言うのか――この俺を? 慄然とするポルナレフとは対照的に、ダイアーの捨て身の行動を嗤う屍生人戦士タルカス。 「クククッ……自らの身を挺して仲間を救う……か。  その愚劣極まり無い思考と判断こそが、人間と言う脆き種の弱点よォォ……。  波紋戦士ィ……隙を突いて俺の背中に一撃を与えたのは褒めてやるが。  そんな弱々しい攻撃では、この『77輝輪の戦士』タルカスの身体には傷一つ付けられんぞォォォ――ッ!」 止めを刺すべく、二人に向けて接近する魔人。 『銀の戦車』による無数の裂傷をものともせず、確固とした足取りで。 屍生人には自己修復能力が存在しない―― 今は亡きウィル・A・ツェペリ男爵はポルナレフに向け、確かにそう説明していた。 吸血鬼の呪いに侵されたその肉体の、徹底的な破壊さえ可能ならば、 『スタンド使い』にも勝機が有り得ない訳では無い――と。 しかし、『戦車』が与えた多少の傷など、この怪物からすれば無きにも等しき存在らしい。 恐れる事も無く。焦る事も無く。揺らぐ事さえ無く。 全ての人間を凌駕する圧倒的“力”は超然とした歩調で、傷を負い、動けぬ戦士達に迫り来る。 「畜生……ダイアー……!」 悲痛に呻きながら、J・P・ポルナレフはスタンド『銀の戦車』を発現させる。 だが――右腕を負傷した状態で、自分は何処まで剣を振るう事が出来る? 奴の攻撃よりも素早く、奴の肉体を粉微塵に変えるイメージをポルナレフは掴めない。 ――俺達も、ここで終わりか。 そんな諦念が、ポルナレフの脳裏を過ぎる。 だが……結果のみを見れば。 彼の絶望的思考は、単なる無意味な幻想であった。 J・P・ポルナレフは、この場所ではまだ亡ぶ事の無い人間だった。 ――時に≪運命≫と呼称される概念が、彼に確固たる一本の道を指し示していた。 その道は、未来への希望の輝きに溢れ、そして――。 「いや……違うぞ、屍生人よ……。  私は“意図して”貴様の背中を攻撃したのだ……良く見るがいい……」 切れ切れの言葉を発したのは、手榴弾の爆破を正面から食らい、転倒していた筈のダイアー。 ポルナレフが眼を見開く――あの激甚なる衝撃から、意識を取り戻したのか。 「何ッ……!?」 敵に指摘され始めて、屍生人戦士タルカスは自らの背に燻っている違和感に気が付いた。 即座に首を捻り確認する……そして両の眼で認識した状況に、驚愕する魔人。 「こ、これ、は……ッ! ま、まさかッ貴様ッ!」 タルカスが背に身に着けていたもの。 それは荒木より渡された支給品、デイパックであり、 そのデイパックには、何時の間にやら『火』が点されていて――。 ダイアーが、掠れた声で呟く。 「『緋色の波紋疾走』」 閃光と同時に、爆炎が迸った。 波紋エネルギーにより発生した超高熱の火炎が、 デイパック内の手榴弾の発動を一斉に促したのだ。 同時に五つの爆弾が炸裂し発生した衝撃波が、屍生人タルカスの体組織を破壊する。 「GYYYYYAAAAAAAAAAAAAHHHHH!」 巻き上がる業火の渦は、屍生人の巨体の全てを包み込み、駅の内部を赤熱の光で照らした。 全身の肉を火炎に焼かれ、獰猛な悲鳴を叫び続けるタルカス。 手足を振り回し火消しを目論むも、自らの腐った肉体を更に燃焼する形となるのみ。 「ダイアーッ! 俺を助ける為に『盾』になり、屍生人に捨て身の一撃をッ……!」 ポルナレフが、足元に倒れている波紋戦士に向けて叫ぶ。 「フッ、どうと言う事は無いぞ、ポルナレフ……。  皮膚の表面を『波紋』にて硬質化させ……爆破の衝撃を最小に抑えた」 微笑みを返し、剣士の眼前で悠然と立ち上がるダイアー。 衣服から黒煙を漂わせるも、確かにその肉体にダメージは殆ど見られない。 自分と仲間の身をを同時に護り、 さらにその時には既に仕込まれていた攻撃の刃。 『波紋』能力の持つ無限の可能性に、ポルナレフは驚嘆する。 「ポルナレフ。お前はそこで見ていろ」 ダイアーの眼光は、目前で暴れ狂う、火炎の塊に突き刺さる。 「……後は、止めを刺すだけだ」  * * * 「ANGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHH!」 もう何も見えず、何も聞こえなかった。 その屍生人は、ただ目の前に存在する『敵』を殺し、 新鮮な血と肉を貪り喰う為だけに自我を保っていた。 全身の肉が炭化し、所々が剥がれ落ちていたが、生命活動に依然支障は無い。 しかし、数百年の時を経て肉人形として蘇った後も寸分だけ残されていた理性は、最早完全に途絶えた。 屍生人は本能で判断した――『敵』は未だに生き残っている。 確実に、殺さなくてはならない。自分の圧倒的パワーで押し潰し、死骸に変えなくてはならない。 「AAAAAAAHHHHH……」 壁を背に、静かな、そして何処か奇妙な足取りで迫り来る『敵』。 「我が戦友ツェペリに代わり……私が貴様を討つ」 『敵』が何か言葉を発しているが、 現在の屍生人からすれば、言葉等は最早どうでも良い、取るに足らないもの。 屍生人は、養分のみを欲していた。 燃やされ、破壊された肉体を修復する為の、新鮮な血肉の捕食のみを求めていた。 餌食以外の存在に、『意味』や『必要性』は有り得なかった。 自分の邪魔をする、眼前の『敵』の抹殺。 それだけが、唯一つの目的。 「SYYYYAAAAAAAAAAHHHHH!」 屍生人は『敵』に向け、全身の総力を掛けて飛び掛る。 『敵』の肉体を粉砕するだけが目的の、一直線な突撃。 「遅い……遅過ぎるぞッ! 屍生人ッ!」 振り下ろした拳の豪速が、『敵』の頭部に肉薄する。 だが、次の瞬間に屍生人の腕は、波紋を帯びた手刀に千切り飛ばされていた。 屍生人に生じたごく僅かな隙を、『敵』が見逃す筈も無く――。 「奥義! 『稲妻十字烈刃』ッ!」 十字の形に組み合わされた腕が、屍生人の頭部に激突する。 クロスから放出された太陽のエネルギー『波紋』は、瞬時に腐乱した体躯を駆け巡り――。 暗闇を裂き迸る雷光の中、屍生人の呪われし肉体は、完全に崩壊し、爆散した。 「終わったぞ……ツェペリ」 既に消滅し、無へと還った屍生人に、『敵』の声が聞こえる事は無かった。  * * * 「……ダイアー。これで、敵が全て片付いた訳じゃあないんだろう?  奥にもう一人、奴の仲間が居る」 床に散乱した大量の肉塊を横目に、J・P・ポルナレフが訊く。 肉片の中央付近に佇み、彼に頷く波紋戦士ダイアー。 「ああ。この屍生人――タルカスも言っていたな。  ……全ての頂点に君臨する存在『ワムウ』と」 「このまま、行くのか?」 ダイアーは、驚く程の速さで即答した。 「いや、一旦退こう」 「何故だ? あんた達波紋戦士は、吸血鬼共を倒すのが使命なんだろ?」 「……私は、奥に潜むタルカスの仲間は、タルカスと同じ屍生人、もしくは吸血鬼と予想していた。  だが、タルカスの言葉から察するに、事実はどうやら違っていたらしい。  『ワムウ』は、吸血鬼を束ねる究極の支配者――真の破滅の帝王。  今の闘いで負った我々の怪我と、この暗闇。そして実力の計り知れぬ敵。  現状では、勝ち目は薄いだろう。今は退く時だ」 「なるほどな……俺達は『ワムウ』について、何も知らないからな」 ダイアーの判断に、ポルナレフは素直に感心する。 戦友ツェペリ男爵をつい先程に失っているのにも関わらず、 この男は、決して冷静さを手放してはいない。 「さあ、戻るぞ」 駅の出口に向けて歩き始めるダイアー。 ポルナレフも、横を行く彼を眼で追い……。 暗闇の奥に存在していた『それ』に、意表を突かれた。 「……ダイアー。少しだけ、待ってくれ。何かある」 駅の床の上に佇む『それ』にポルナレフが近付き、正体を確認する。 「……この屍生人の支給品だったのか……? 『これ』は?」 デイパックの爆破の為に破れ、タルカスの肉片の傍らに飛散した『エニグマの紙』。 役割を終えたその包装より出現した『ランダム支給品』は、一台のモーターバイクだった。  * * * 「動かせるのか?」 「知らない型だが……運転は出来るな」 J・P・ポルナレフは再び、二輪駆動車を手に入れた。 移動力の増強は、この街の闘いにおいて大きなアドバンテージとなる。 もし、吸血鬼を超越する『ワムウ』が日没後に自分達に襲来したとしても、 これを使用すれば逃走は可能だろう。 今後の行動方針は明確だった。 新たに手に入れたこの道具にて【C-4】へ向かい、リサリサ達と合流する。 気掛かりなのは、現状で待ち人が居ない集合場所となってしまった『カフェ・ドゥ・マゴ』だが、 置き手紙がある上、近い内に空条承太郎が戻る。 承太郎に任せていれば問題は無いだろう。そうポルナレフは判断した。 「しっかり掴まってな。飛ばすぜ」 後部座席に乗り込み、やや緊張した面持ちを見せるダイアーの姿を確認し、 ポルナレフはバイクを発進させる。 けたたましい騒音を撒き散らしながら、改造バイクが屋外へと抜ける。 二人は、杜王駅を後にした。 【杜王駅(E-3)/1日目/夕方(5時半頃)】 【波紋の達人と幽波紋の達人】 【J・P・ポルナレフ】 [スタンド]:シルバー・チャリオッツ [時間軸]:ヴァニラ・アイスを倒した後。DIOに出会う前 [状態]:恐竜の攻撃による打撲傷(軽症)。疲労。右腕と腹部に負傷 [装備]:無し [道具]:支給品一式、コーヒーガム、杜王町詳細地図、     ジョルノ遺言メモ、『ココ・ジャンボ』。     リキエルのバイク(76巻参照)。 [思考・状況]: 1)C-4に向かい、リサリサと合流する。 2)荒木の打倒。ジョルノの敵を必ず討つ!!! その為に仲間を探す。 3)仲間の犠牲者は出さない。 4)DIOとディアボロに対する警戒感。(何があっても共闘など真っ平) 5)ワムウの情報を入手し、打倒する手段を検討する。 [補足]:首輪の盗聴、GPS機能に気付いています。 【ダイアー】 [能力]:波紋法 [時間軸]:ジョナサンと会い、ディオの所へ行く直前 [状態]:腕に恐竜の噛み痕及び打撲傷(軽症)。軽い疲労。服が焦げている [装備]:無し [道具]:無し [思考・状況]: 1)C-4に向かい、リサリサと合流する。 2)波紋戦士としての使命を果たす(吸血鬼の殲滅)。 3)自らの過ちにより2名の命を奪ってしまった事への贖罪。 4)1)~3)の為に、此の身を盾にする事に躊躇いが無い。 5)ワムウの情報を入手し、打倒する手段を検討する。 [補足]:首輪の盗聴、GPS機能に気付いています。 【サヴェジ・ガーデン(支給品)】 サヴェジ・ガーデンは専用の封筒の宛名欄に書かれた人物に手紙を届けます。 手紙を届けた後送り主の下に戻ってくるかどうかも封筒に書く事によって指定可能です。 “手紙を届ける事”のみに関しては、天候その他どんな不測の事態にも影響を受けません。 手紙を送る事が出来る人物は此のゲームの参加者のみであり、同時に複数の人物に手紙を送る事は出来ません。 郵送時間は場所に因りますが封筒には小物程度なら何でも入ります。 首輪を探知し相手の下へ向かう為、届け先の相手が死んでいても手紙を届けます。 首輪が爆発している場合は、手紙を届けません(届け主の下から飛び立とうとしません)。 [補足]: 1)サヴェジ・ガーデンは現在『ココ・ジャンボ』内にいます。 2)封筒使用状況:使用済7枚、残り3枚(サヴェジ・ガーデンに仕込み)。 ※リキエルのランダム支給品は『リキエルのバイク』でした。 ※デイパックが爆発した事で、  『エニグマの紙』内にあったリキエルのバイク以外のタルカスの支給品は消滅しました。 &color(red){【タルカス 死亡】} ※【現在ココ・ジャンボの中に入ってる物の一覧】 黒騎士ブラフォードの首輪、大型スレッジ・ハンマー、 ポルナレフの支給品一式×2(バッグは自分とジョルノ)、缶詰等の追加の食料品、 ツェペリの支給品一式×2(バッグは吉良とツェペリの)。薬草少々(リサリサと分けました)。岸辺露伴の手紙 ダイアーの支給品一式×2(但し、水は無し)(バッグは自分と億泰の) 露伴の支給品一式、露伴の書いた落書き 康一の支給品一式、シャボン液 サヴェジ・ガーデン *投下順で読む [[前へ>支給品VS支給品]] [[戻る>1日目 第3回放送まで]] [[次へ>ブチャラティがCOOL!]] *時系列順で読む [[前へ>支給品VS支給品]] [[戻る>1日目 第3回放送まで(時系列順)]] [[次へ>ブチャラティがCOOL!]] *キャラを追って読む |109:[[支給品VS支給品]]|ダイアー|:[[]]| |109:[[支給品VS支給品]]|J・P・ポルナレフ|:[[]]| |106:[[インタールード(間奏曲)]]|タルカス||
何者かが、闇に居た。 それは厳然とした事実だった。 駅に侵入した時から既に、波紋戦士ダイアーとスタンド使いJ・P・ポルナレフの二人は、 暗黒の奥から投射される禍々しいまでの闘気を感受していた。 二人に、言葉を交わす必要は無かった。 隣からの僅かな気配だけで、互いの緊張は十分に伝わっていた。 確かに、居る。 闇を住処とする異形のものが、その牙を潜め襲撃の機会を伺っている。 ……。 ダイアーが一歩先を行き、ポルナレフが後を続く。 限界まで零に至近する足音。空気を微かに震わせる、両者の息遣い。 只の一刻さえも、気を緩ませる時間は無かった。 如何なる事象が、静寂の支配するその禁じられた領域を踏み込み、 深遠に潜む猛獣を呼び覚ますのか、残念な事に両者には分からなかったから。 二人の戦士に許された行動は、出来る限り己の気配を無とし、 闇に潜む敵の牙の煌きを、覗き知る事のみ。 そう。気を緩ませる時間など、一刻も、存在しなかった。 闇に染み込む静寂を急変させる事態が到来したのは、 ダイアーがもう一歩、足を踏み入れた直後だった。 ――何かが、恐るべき速度で二人に衝突せんと襲い掛かって来た。 ……。 言葉を交わす必要は、やはり無かった。 ダイアーは、積年の修行にて練磨された『反射速度』にて。 ポルナレフは、度重なる激戦で研ぎ澄まされた『剣士の勘』にて。 各々が各々の手段にて、豪速で迫り来るその物体を回避した。 巨大な質量の物体は、背後の壁に衝突し粉々に砕け散る。 重々しい破砕音が、駅の内部に反響した。 「……これは『柱』か」 物体の正体は、鉄とコンクリートの塊。 杜王駅を構成する『柱』自体が闇の奥に潜む者によってもぎ取られ、 武器として、彼ら目掛けて投擲されたのだ。 「巨大な柱をこそぎ取り、放り投げるこのパワー。  ……中々のものだな」 ダイアーは冷然と微笑を浮かべ、敵の襲撃を迎えた。 「危なかったぜ……化け物め」 『柱』の投擲を受け、その衝撃の為に全壊した壁の惨状を確認する。 その凶悪な威力に戦慄しつつ、ポルナレフは奥の闇を凝視した。敵は何処に居るのか。 ――緊張を伴う待機は、数秒の間だけだった。 「ほう……その攻撃を回避するとはな。  貴様等……我が怨敵『波紋使い』か」 鎧に身を包んだ巨体――屍生人タルカスが、闇の深淵よりその姿を現した。 発たれた強烈な覇気が、一帯の空気を急激に変質させて行く。 「……我が名はダイアー! 誇り高き波紋戦士ッ!  愚劣にして野蛮なる吸血鬼の眷属は、一匹残さず地獄へと還すッ!  それが我等に定められた宿命ッ!」 ダイアーが奇妙に身体を捻じ曲げ、宿敵に向けて戦闘体勢を構築する。 体内の波紋エネルギーを最大まで練り上げるポージングにて、 屍生人を粉砕する、必殺の一撃の機会を狙う。 「来やがったな、デカブツが……」 J・P・ポルナレフが現出させた『銀の戦車』の剣先は、暗中でも輝きを失わない。 彼は思考する――敵はたった一人ッ! 自分とダイアーが息を合わせ、全力で迎え撃てば、必ず勝利できるッ! 屍生人タルカスは大きく腕を広げ、進入者達に向けて悠々と宣告する。 「聞くが良い、人間共ッ!  この奥に居られる我が主、ワムウ様はッ!  人間、屍生人、吸血鬼! それら全ての頂点に君臨なされるお方ッ!  貴様等『波紋の一族』など、あの方の下に近付く事さえ許されぬッ!  このタルカスがッ! 貴様等の脆弱な肉体を難無く捻り潰し、骨ごと挽肉にして喰らってくれるわッ!」 「その偉ぶった態度も、直ぐに終わるッ!  行くぞ、屍生人タルカスッ!」 床を蹴り、怒涛の闘士ダイアーが魔人に逼迫する。 その指先に輝く光は、彼の特殊な呼吸により練り出された太陽のエネルギー『波紋』。 まず先手を打ち、この敵に対する優位性を掴み取る! 波紋を纏った両手を突き出し、その厚い筋肉の内側へ。 屍生人タルカスの心臓部目掛け、ダイアーが必殺の一撃を突き込み――。 「WRRRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」 ダイアーは甘く見ていた――この屍生人戦士タルカスに潜在する、凶悪なまでのパワーを。 足元の床に深々と減り込んだのは、魔人の長大な指先。 周囲の地盤一塊が紙切れの如くあっさりと持ち上げられ、ダイアー目掛けて放逐された。 「ヌウゥッ!」 豪速の勢いで眼前に迫り来る巨大な岩盤にダイアーは対応出来ない。 防御姿勢も作れぬままに激突し、破砕された岩の断片と共に崩れ落ちる。 「ダ、ダイアーッ!」 「落ち着けポルナレフ……敵の方を見ろッ!」 頭部の傷を押えながら、ダイアーは仲間に向けて叱責した。 ポルナレフは安心する――どうやら、それ程の痛手では無いらしい。 敵が見せた隙に対して特に動き始める事も無く、 ポルナレフに向け、悠々と語り掛けるタルカス。 その表情を彩るのは――邪悪極まりない、笑み。 「フンッ! さてと……次は貴様の番か?  来るが良い……『人形使い』」 「てめーに言われなくとも、俺の方から行ってやるぜッ!」 ポルナレフは駆け出す。 スタンドを背後に現出させ、ポルナレフは敵に肉薄し、瞬く間の内に――! 「『銀の戦車』ッ!」 斬、斬、斬、斬。斬り返し、再び斬ッ! 『銀の戦車』の驚速の剣先が、魔人の巨体を破壊して行く! 「ホラホラホラホラホラホラアァァァァッ!」 屍生人タルカスは反撃らしい反撃もせず、無言で剣に甚振られ続けている有様。 肉を裂く度に飛散し、剣士の皮膚に掛かる血と肉。呪われた肉体に刻印される幾多もの傷跡。 ポルナレフは確信する――どうやら、この木偶の坊は『戦車』の素早さに対応出来ないらしい。 何が屍生人だ、何が吸血鬼だ。大仰な言葉をのたまって、結局この程度かよ――! 剣士の唇の端が、自ずと緩む。 「食らえェッ!」 屍生人の口蓋に突き込まれた銀色の剣先は、 そのまま敵の喉を貫通し、頭部ごと奥の壁に身体を縫い付けた。 (勝ったッ――!) しかし、ポルナレフの胸中に湧き上がっていた予感は、 タルカスが放つ一言によって、瞬く間に掻き消される事となる。 「クククゥッ……! どうした、『人形使い』ィィッ!  この程度の攻撃で、もう終わりかッ!?」 喉を剣に貫かれながらも、眼前の屍生人は不気味な笑みを浮かべ、嘲ったのだ。 「クッ……!」 胴を幾度も串刺しにされ、壁に身体を縫い止められ、 しかし尚も勢いを止める事を知らない、この異常な生命力。 ポルナレフの心中に湧き上がる、僅かな後悔――やはりスタンド使いとは、全く勝手が違う。 たったの百回剣先をブチ込ませるだけで、絶命する程度の相手では無いのだ。 「WRRRRYYYYYYAAAAAAAAAAHH!」 狂戦士タルカスの拳が風を切り、ポルナレフの右腕に激突する。 強烈極まりない一撃は、ポルナレフの意識を僅かの間剥離させた。 その一瞬の気絶が、意志が作り出すヴィジョン――スタンドを消滅させてしまう。 「SHHHYYYYYYAAAAAAAAAHHH!」 間断無く、送り込まれる再撃。 胴に食い込む蹴りの激烈な威力に、ポルナレフの身体はいとも簡単に浮き上がった。 勢いは衰える事無く逆側の壁に衝突し、無様、床上に転倒する。 ポルナレフは漸く理解した――ツェペリとダイアーの二人がカフェで話していた言葉と、その真の意味を。 屍生人の、この止め処無きまでのタフネス……只の人間が敵う筈が無いッ! 「もう遊びは終わりかァ!? これで終わりだッ、『人形使い』ッ!」 タルカスが背後のデイパックより、一つの物体を取り出す。 それは、この狂戦士が『柱の男』ワムウより譲り受けた人間世界の兵器――手榴弾。 手の一振りで、その塊はポルナレフ目掛け一直線に投擲された。 放たれた手榴弾を眼前に、ポルナレフは思考する。 回避するか? それともスタンドで爆破を防御するか? ……いや、どちらも間に合わない。 手榴弾が、ポルナレフの身体を粉々に破壊する為に迫り――。 (何ッ――!?) それは、余りにも意外! 突如ポルナレフの視界に現れたのは、波紋戦士ダイアーの姿。 彼の逞しき肉体が、ポルナレフと手榴弾の間に割り込み、床の上に踏み留まる。 ……そして次の瞬間には、眩しい閃光を伴って、手榴弾は爆発していた。 解き放たれた衝撃と火炎が、ダイアーの肉体に食い込んで行く。 「ダ……ダイアーッ!」 ポルナレフの悲痛の叫びも虚しく、波紋戦士ダイアーは……崩れ落ちた。 「そ……そんなッ……!」 呆然と、足元に倒れ伏した男を見下ろす事しか出来ない。 ……この男は今、自らの命を犠牲に護ったと言うのか――この俺を? 慄然とするポルナレフとは対照的に、ダイアーの捨て身の行動を嗤う屍生人戦士タルカス。 「クククッ……自らの身を挺して仲間を救う……か。  その愚劣極まり無い思考と判断こそが、人間と言う脆き種の弱点よォォ……。  波紋戦士ィ……隙を突いて俺の背中に一撃を与えたのは褒めてやるが。  そんな弱々しい攻撃では、この『77輝輪の戦士』タルカスの身体には傷一つ付けられんぞォォォ――ッ!」 止めを刺すべく、二人に向けて接近する魔人。 『銀の戦車』による無数の裂傷をものともせず、確固とした足取りで。 屍生人には自己修復能力が存在しない―― 今は亡きウィル・A・ツェペリ男爵はポルナレフに向け、確かにそう説明していた。 吸血鬼の呪いに侵されたその肉体の、徹底的な破壊さえ可能ならば、 『スタンド使い』にも勝機が有り得ない訳では無い――と。 しかし、『戦車』が与えた多少の傷など、この怪物からすれば無きにも等しき存在らしい。 恐れる事も無く。焦る事も無く。揺らぐ事さえ無く。 全ての人間を凌駕する圧倒的“力”は超然とした歩調で、傷を負い、動けぬ戦士達に迫り来る。 「畜生……ダイアー……!」 悲痛に呻きながら、J・P・ポルナレフはスタンド『銀の戦車』を発現させる。 だが――右腕を負傷した状態で、自分は何処まで剣を振るう事が出来る? 奴の攻撃よりも素早く、奴の肉体を粉微塵に変えるイメージをポルナレフは掴めない。 ――俺達も、ここで終わりか。 そんな諦念が、ポルナレフの脳裏を過ぎる。 だが……結果のみを見れば。 彼の絶望的思考は、単なる無意味な幻想であった。 J・P・ポルナレフは、この場所ではまだ亡ぶ事の無い人間だった。 ――時に≪運命≫と呼称される概念が、彼に確固たる一本の道を指し示していた。 その道は、未来への希望の輝きに溢れ、そして――。 「いや……違うぞ、屍生人よ……。  私は“意図して”貴様の背中を攻撃したのだ……良く見るがいい……」 切れ切れの言葉を発したのは、手榴弾の爆破を正面から食らい、転倒していた筈のダイアー。 ポルナレフが眼を見開く――あの激甚なる衝撃から、意識を取り戻したのか。 「何ッ……!?」 敵に指摘され始めて、屍生人戦士タルカスは自らの背に燻っている違和感に気が付いた。 即座に首を捻り確認する……そして両の眼で認識した状況に、驚愕する魔人。 「こ、これ、は……ッ! ま、まさかッ貴様ッ!」 タルカスが背に身に着けていたもの。 それは荒木より渡された支給品、デイパックであり、 そのデイパックには、何時の間にやら『火』が点されていて――。 ダイアーが、掠れた声で呟く。 「『緋色の波紋疾走』」 閃光と同時に、爆炎が迸った。 波紋エネルギーにより発生した超高熱の火炎が、 デイパック内の手榴弾の発動を一斉に促したのだ。 同時に五つの爆弾が炸裂し発生した衝撃波が、屍生人タルカスの体組織を破壊する。 「GYYYYYAAAAAAAAAAAAAHHHHH!」 巻き上がる業火の渦は、屍生人の巨体の全てを包み込み、駅の内部を赤熱の光で照らした。 全身の肉を火炎に焼かれ、獰猛な悲鳴を叫び続けるタルカス。 手足を振り回し火消しを目論むも、自らの腐った肉体を更に燃焼する形となるのみ。 「ダイアーッ! 俺を助ける為に『盾』になり、屍生人に捨て身の一撃をッ……!」 ポルナレフが、足元に倒れている波紋戦士に向けて叫ぶ。 「フッ、どうと言う事は無いぞ、ポルナレフ……。  皮膚の表面を『波紋』にて硬質化させ……爆破の衝撃を最小に抑えた」 微笑みを返し、剣士の眼前で悠然と立ち上がるダイアー。 衣服から黒煙を漂わせるも、確かにその肉体にダメージは殆ど見られない。 自分と仲間の身をを同時に護り、 さらにその時には既に仕込まれていた攻撃の刃。 『波紋』能力の持つ無限の可能性に、ポルナレフは驚嘆する。 「ポルナレフ。お前はそこで見ていろ」 ダイアーの眼光は、目前で暴れ狂う、火炎の塊に突き刺さる。 「……後は、止めを刺すだけだ」  * * * 「ANGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHH!」 もう何も見えず、何も聞こえなかった。 その屍生人は、ただ目の前に存在する『敵』を殺し、 新鮮な血と肉を貪り喰う為だけに自我を保っていた。 全身の肉が炭化し、所々が剥がれ落ちていたが、生命活動に依然支障は無い。 しかし、数百年の時を経て肉人形として蘇った後も寸分だけ残されていた理性は、最早完全に途絶えた。 屍生人は本能で判断した――『敵』は未だに生き残っている。 確実に、殺さなくてはならない。自分の圧倒的パワーで押し潰し、死骸に変えなくてはならない。 「AAAAAAAHHHHH……」 壁を背に、静かな、そして何処か奇妙な足取りで迫り来る『敵』。 「我が戦友ツェペリに代わり……私が貴様を討つ」 『敵』が何か言葉を発しているが、 現在の屍生人からすれば、言葉等は最早どうでも良い、取るに足らないもの。 屍生人は、養分のみを欲していた。 燃やされ、破壊された肉体を修復する為の、新鮮な血肉の捕食のみを求めていた。 餌食以外の存在に、『意味』や『必要性』は有り得なかった。 自分の邪魔をする、眼前の『敵』の抹殺。 それだけが、唯一つの目的。 「SYYYYAAAAAAAAAAHHHHH!」 屍生人は『敵』に向け、全身の総力を掛けて飛び掛る。 『敵』の肉体を粉砕するだけが目的の、一直線な突撃。 「遅い……遅過ぎるぞッ! 屍生人ッ!」 振り下ろした拳の豪速が、『敵』の頭部に肉薄する。 だが、次の瞬間に屍生人の腕は、波紋を帯びた手刀に千切り飛ばされていた。 屍生人に生じたごく僅かな隙を、『敵』が見逃す筈も無く――。 「奥義! 『稲妻十字烈刃』ッ!」 十字の形に組み合わされた腕が、屍生人の頭部に激突する。 クロスから放出された太陽のエネルギー『波紋』は、瞬時に腐乱した体躯を駆け巡り――。 暗闇を裂き迸る雷光の中、屍生人の呪われし肉体は、完全に崩壊し、爆散した。 「終わったぞ……ツェペリ」 既に消滅し、無へと還った屍生人に、『敵』の声が聞こえる事は無かった。  * * * 「……ダイアー。これで、敵が全て片付いた訳じゃあないんだろう?  奥にもう一人、奴の仲間が居る」 床に散乱した大量の肉塊を横目に、J・P・ポルナレフが訊く。 肉片の中央付近に佇み、彼に頷く波紋戦士ダイアー。 「ああ。この屍生人――タルカスも言っていたな。  ……全ての頂点に君臨する存在『ワムウ』と」 「このまま、行くのか?」 ダイアーは、驚く程の速さで即答した。 「いや、一旦退こう」 「何故だ? あんた達波紋戦士は、吸血鬼共を倒すのが使命なんだろ?」 「……私は、奥に潜むタルカスの仲間は、タルカスと同じ屍生人、もしくは吸血鬼と予想していた。  だが、タルカスの言葉から察するに、事実はどうやら違っていたらしい。  『ワムウ』は、吸血鬼を束ねる究極の支配者――真の破滅の帝王。  今の闘いで負った我々の怪我と、この暗闇。そして実力の計り知れぬ敵。  現状では、勝ち目は薄いだろう。今は退く時だ」 「なるほどな……俺達は『ワムウ』について、何も知らないからな」 ダイアーの判断に、ポルナレフは素直に感心する。 戦友ツェペリ男爵をつい先程に失っているのにも関わらず、 この男は、決して冷静さを手放してはいない。 「さあ、戻るぞ」 駅の出口に向けて歩き始めるダイアー。 ポルナレフも、横を行く彼を眼で追い……。 暗闇の奥に存在していた『それ』に、意表を突かれた。 「……ダイアー。少しだけ、待ってくれ。何かある」 駅の床の上に佇む『それ』にポルナレフが近付き、正体を確認する。 「……この屍生人の支給品だったのか……? 『これ』は?」 デイパックの爆破の為に破れ、タルカスの肉片の傍らに飛散した『エニグマの紙』。 役割を終えたその包装より出現した『ランダム支給品』は、一台のモーターバイクだった。  * * * 「動かせるのか?」 「知らない型だが……運転は出来るな」 J・P・ポルナレフは再び、二輪駆動車を手に入れた。 移動力の増強は、この街の闘いにおいて大きなアドバンテージとなる。 もし、吸血鬼を超越する『ワムウ』が日没後に自分達に襲来したとしても、 これを使用すれば逃走は可能だろう。 今後の行動方針は明確だった。 新たに手に入れたこの道具にて【C-4】へ向かい、リサリサ達と合流する。 気掛かりなのは、現状で待ち人が居ない集合場所となってしまった『カフェ・ドゥ・マゴ』だが、 置き手紙がある上、近い内に空条承太郎が戻る。 承太郎に任せていれば問題は無いだろう。そうポルナレフは判断した。 「しっかり掴まってな。飛ばすぜ」 後部座席に乗り込み、やや緊張した面持ちを見せるダイアーの姿を確認し、 ポルナレフはバイクを発進させる。 けたたましい騒音を撒き散らしながら、改造バイクが屋外へと抜ける。 二人は、杜王駅を後にした。 【杜王駅(E-3)/1日目/夕方(5時半頃)】 【波紋の達人と幽波紋の達人】 【J・P・ポルナレフ】 [スタンド]:シルバー・チャリオッツ [時間軸]:ヴァニラ・アイスを倒した後。DIOに出会う前 [状態]:恐竜の攻撃による打撲傷(軽症)。疲労。右腕と腹部に負傷 [装備]:無し [道具]:支給品一式、コーヒーガム、杜王町詳細地図、     ジョルノ遺言メモ、『ココ・ジャンボ』。     リキエルのバイク(76巻参照)。 [思考・状況]: 1)C-4に向かい、リサリサと合流する。 2)荒木の打倒。ジョルノの敵を必ず討つ!!! その為に仲間を探す。 3)仲間の犠牲者は出さない。 4)DIOとディアボロに対する警戒感。(何があっても共闘など真っ平) 5)ワムウの情報を入手し、打倒する手段を検討する。 [補足]:首輪の盗聴、GPS機能に気付いています。 【ダイアー】 [能力]:波紋法 [時間軸]:ジョナサンと会い、ディオの所へ行く直前 [状態]:腕に恐竜の噛み痕及び打撲傷(軽症)。軽い疲労。服が焦げている [装備]:無し [道具]:無し [思考・状況]: 1)C-4に向かい、リサリサと合流する。 2)波紋戦士としての使命を果たす(吸血鬼の殲滅)。 3)自らの過ちにより2名の命を奪ってしまった事への贖罪。 4)1)~3)の為に、此の身を盾にする事に躊躇いが無い。 5)ワムウの情報を入手し、打倒する手段を検討する。 [補足]:首輪の盗聴、GPS機能に気付いています。 【サヴェジ・ガーデン(支給品)】 サヴェジ・ガーデンは専用の封筒の宛名欄に書かれた人物に手紙を届けます。 手紙を届けた後送り主の下に戻ってくるかどうかも封筒に書く事によって指定可能です。 “手紙を届ける事”のみに関しては、天候その他どんな不測の事態にも影響を受けません。 手紙を送る事が出来る人物は此のゲームの参加者のみであり、同時に複数の人物に手紙を送る事は出来ません。 郵送時間は場所に因りますが封筒には小物程度なら何でも入ります。 首輪を探知し相手の下へ向かう為、届け先の相手が死んでいても手紙を届けます。 首輪が爆発している場合は、手紙を届けません(届け主の下から飛び立とうとしません)。 [補足]: 1)サヴェジ・ガーデンは現在『ココ・ジャンボ』内にいます。 2)封筒使用状況:使用済7枚、残り3枚(サヴェジ・ガーデンに仕込み)。 ※リキエルのランダム支給品は『リキエルのバイク』でした。 ※デイパックが爆発した事で、  『エニグマの紙』内にあったリキエルのバイク以外のタルカスの支給品は消滅しました。 &color(red){【タルカス 死亡】} ※【現在ココ・ジャンボの中に入ってる物の一覧】 黒騎士ブラフォードの首輪、大型スレッジ・ハンマー、 ポルナレフの支給品一式×2(バッグは自分とジョルノ)、缶詰等の追加の食料品、 ツェペリの支給品一式×2(バッグは吉良とツェペリの)。薬草少々(リサリサと分けました)。岸辺露伴の手紙 ダイアーの支給品一式×2(但し、水は無し)(バッグは自分と億泰の) 露伴の支給品一式、露伴の書いた落書き 康一の支給品一式、シャボン液 サヴェジ・ガーデン *投下順で読む [[前へ>支給品VS支給品]] [[戻る>1日目 第3回放送まで]] [[次へ>ブチャラティがCOOL!]] *時系列順で読む [[前へ>支給品VS支給品]] [[戻る>1日目 第3回放送まで(時系列順)]] [[次へ>ブチャラティがCOOL!]] *キャラを追って読む |109:[[支給品VS支給品]]|ダイアー|120:[[戦士たちの戦い]]| |109:[[支給品VS支給品]]|J・P・ポルナレフ|120:[[戦士たちの戦い]]| |106:[[インタールード(間奏曲)]]|タルカス||

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: