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「………え?」 シュトロハイムを騙し、東方仗助と相打たせる。 この作戦は上手く成功した。 そしてこれからの行動方針を決めようとした矢先の事だった。 「…トリッシュ?」 風に乗って、トリッシュの声が聴こえたような気がしたのだ。 「………………」 耳を澄ますが、もう何も聴こえない。 幻聴だったのだろうか。 何か現実離れした感触だった。 結局、何を言ったのかは聞き取れなかった。 ただ、その声について俺が分かっている事が二つ。 一つは俺に向けられているものだったという事。 そしてもう一つは、とても悲しそうな声だったという事。 俺は、トリッシュを悲しませているのか? 「いや、そんな事はない」 俺は敢えて口にする。 「俺はトリッシュを生き返らせる為に、トリッシュの為に悪魔に魂を売り渡そうとも…」 !!! 又聴こえた。トリッシュの声。 内容こそつかめないものの、とても悲しそうな声。 俺は、彼女を悲しませて、苦しめているのか? 俺は、自分のやろうとしている事に対する自信がぐらついてしまった。 ココは頭を冷やす必要がある。 良し、一度クールになって一から整理するか。 俺の目的は? ―――トリッシュの蘇生。 トリッシュ蘇生の方法は? ―――確実な方法は今の所無し。 ―――優勝すれば生き返らせられる可能性がある。 ならば優勝するか? ―――肯定。但し、優勝のみに固執するのは危険。 ―――ゲームを進めながら、トリッシュを蘇生出来る方法を常に模索する。 ―――そしてトリッシュ蘇生の役に立たず、優勝の邪魔になりそうな者は殺す。 今、思いつくトリッシュ蘇生の方法は? ―――誰かに相談。 誰に? ………結論は出た。 「良し。リサリサ先生に会おう」 俺は結論を口にする。 JOJOに相談できない以上、他に無条件に信頼出来る人間はリサリサ先生位しか居ない。 リサリサ先生も、JOJOを生き返らせたいだろうし。 俺の優勝プランについてもちゃんと相談に乗ってくれそうだし。 「それにしても、何で俺、さっきはあんな事考えちまったんだろう」 さっき、リサリサ先生を貶めようと考えていた自分に身震いがする。 リサリサ先生だぜ?リサリサ先生。 敬愛する人を絶望の淵に叩き込もうとして、何を喜んでんだよ、俺は。 やはりJOJOの死に動転して、頭が正常に回っていなかったとしか思えないぜ。 頭を冷やす機会を与えてくれたトリッシュに感謝、だな。 「トリッシュ、有難う」 空に向け、呟く。 だが、トリッシュからの返事は無い。 結局、あれはただの幻聴だったのだろうか。 ただ、トリッシュはまだ納得していない。 何となくだが、そんな気がした。  * * * 『リサリサ先生 御久し振りです。 シーザーです。 今、自分はG-2に居ます。 シュトロハイムとも会って、第四放送時にC-4で合流する話も聴いています。 実は、とても大事な話があります。 JOJOの事です。 JOJOは死にました。 死体はシュトロハイムが丁重に扱っています。 実は俺は、死体を見るまでJOJOは死んではいないんじゃないかと思っていました。 もしかしたら先生も同じ事を思っているんじゃないでしょうか。 酷な話ですが、そして先生には無礼極まりない話ですが、JOJOの死を受け容れて頂きたいと思います。 傷口をえぐるような真似をして、本当に申し訳ありません。 ただ、これから話す相談内容は、JOJOの死に直結する話なのです。 相談とは、他でもないJOJOを生き返らせる方法を一緒に考えて頂きたいのです。 (JOJOの他に、もう一人生き返らせたい人間が居るのですが、詳しくは会った時に話しましょう) 俺は今からC-4に向かいます。 先生も、早い内にC-4に来て下さい。 そして、JOJO達の事について相談しましょう。 後、この鳩は指定された相手に飛ばす事が出来ます。 先生は、この手紙を読んだ後、シュトロハイムや他の仲間に手紙を届けて下さい。 仲間を集め、そこで話し合いたいと思います                              シーザー・アントニオ・ツェペリ』  * * * 「………………あれ?」 鳩を飛ばした後、C-4に向かおうと北東の方向へ歩いていた。 そして暫くしてからの事である。 その時、俺は自分の状態に驚いた。 いつの間にか俺は、道路脇の電柱にぶつかって倒れていたらしい。 じくじくと額が痛む。 にしても。 いつ、俺はぶつかった? どれだけボーっとしていても、深い思考に捕らわれていたとしても、ぶつかった瞬間くらいは解る筈だろう。 そして何より、 こ の 現 象 、 身 に 覚 え が 無 い か ? そう、これは…。 「居る!!!奴はこの近くに!」 トリッシュが突然おびえ始めた、あの現象!!! シーザー・アントニオ・ツェペリ。改めて問おう。 お前の目的は何だ? トリッシュの蘇生のみか? 否!!! 他にもう一つ、“トリッシュの仇討ち”があるだろう!!! どこだ!奴はどこに居る! 俺は辺りを窺い… 『喰らえ!アナスイの仇!!!』 「!!!」 付近の家から声が聴こえた瞬間、迷わずその場へ向かった。  * * * ドッピオは詰めの甘い男じゃなかった。 アタシがアナスイの死を悼んでいる間にも、アタシ達の足取りを追っていたのだ。 「!」 それは運が良かったのか、悪かったのか。 何か違和感を感じた瞬間、アタシは咄嗟に身を屈めた。 グオンッ! 一瞬後、悪鬼までアタシ首のあった場所を手刀が薙いでいた。 「くっ!」 アタシは顔を上げ、攻撃してきた相手を確認する。 「!!!」 そして、その姿を見て驚いた。 攻撃してきたのはドッピオ。 但しその姿形は、出会った時の面影も無かった。  * * * 俺はドッピオと入れ替わっていた。 今、ドッピオを表に出したら、俺とドッピオの関係に勘付かれる可能性が強い。 だから、上手く言いくるめる方法を思い付くまで俺が表に出る事にし、ドッピオの思考を眠らせていた。 それにこれから斃す相手は、どの道俺が相手しなければ勝てない相手だからな。 俺の攻撃をかわした徐倫は、顔を上げて俺の姿を確認するなり声を上げる。 「貴様………ドッピオ!!!」 徐倫は、俺(ディアボロ)の事を一目で見抜いていた。 にしても、あれだけの重症だと思ったのに、随分と元気だな。 俺は徐倫に向かって言い放つ。 「ほう。車に潰されて瀕死状態だと思ったのに、もう回復したのか」  * * * もしもコイツがドッピオと別の服を着ていたら、恐らくアタシは同一人物と気付かなかっただろう。 まるで変身したかのような…これがこいつの能力か? 「アナスイのおかげだ」 ともあれ、ドッピオの言葉に言い返す。 「アナスイ?あぁ、そこに転がっている死体か」 その言葉を聴いた瞬間、アタシはキレた。 「てめえええぇぇぇ!!!」 アナスイを侮辱するなぁ!!! 「オラオラオラオラ!!!」 怒りに任せ、ドッピオを殴り続ける。 そして、ラッシュを終え… ………アタシは、あたしが殴っていた物がただの壁である事に気付いた。 「なっ!」 何だ!?これは! さっきドッピオに襲われたときといい、“何かがおかしい”。 これも奴のスタンド能力か? いや、スタンド能力は一体につき一つ。 どちらかはスタンド能力ではない筈だ。 くそっ、こいつの能力が何なのか、見当がつかねぇ。 「まあ、そう熱くなるな」 ドッピオはいつの間にかアタシの背後に居た。 「俺はただ、どうやってお前の怪我を治したのか知りたいだけだ」 その言葉に対し、目じりに涙が浮かんだ。 ドッピオの質問は、あたしの体を治した代償、アナスイの死を思い出させたから。 その怒りに、悔しさに、悲しみに。 だが、アタシはドッピオに返事をした。 このゲスに教えてやる。 アナスイがどれほどの矜持を抱いていたか。そしてどれだけ誇り高き死を選んだのか。 「アナスイはな。アタシの傷ついた臓器と、自分の無事な臓器を取り替えたんだ」 「…」 無表情に見下ろすドッピオに、アタシは続ける。 「自分の死を覚悟し、それで尚、あたしを生かす為にアナスイは決断をしたんだ! お前にそれが出来るか!!!」 「…」 アタシが叫び終えた後、ドッピオは暫く沈黙したままだった。 「どうした?何も言い返せないのか?」 あたしはそう問い掛け、 「よく解った」 ドッピオはそう返し、 「お前らに用は無いという事が」 と続けた。 「用がない…だと?」 アタシの質問にドッピオは平然と返す。 「あぁ。もし万が一、お前の怪我が治ったように俺の怪我も治せるというのなら、暫くは生かしておいても良かった。 これから先、万が一俺が怪我した時の為の治療係としてな。 だが、今の話では、お前は俺の怪我を治せない。 つまり、利用価値も生かしておく価値も無いという事だ」 「貴様…!」 「死ね」 そして飛び掛るドッピオ。 アタシは迎え撃とうとして… ザンッ!!! 勝負は一瞬の内についていた。 「………え?」 ドッピオは、いつの間にかアタシの腹を貫いていた。 「なあああぁぁぁ!!!」 腹を押さえて崩れ落ちる。 ヤベェ。致命傷だ。しかし… 本来ならもう立てないほどの傷を負いながら、アタシは怒りに奮い立つ。 こいつ、よりによって、一番やっちゃいけないことを…!!! 「終わりだな」 そう言って背を向けるドッピオ。 アタシの死を確信したとばかりに、部屋を出て行こうとする。 「!」 これは、最初で最後のチャンスだ! 刺し違えてでも、テメェはアタシが必ず斃す!!! 「うおおおぉぉぉ!!! 喰らえ!アナスイの仇!!!」 本来なら拳は届かない距離。 だがアタシは、肘の部分を紐状にしてロケットパンチのように拳を放った。 そしてそれは… ドガッ!!! ドッピオの後頭部に叩き込まれた。  * * * 徐倫は、不意を付いて“俺”の後頭部に拳を叩き込み、倒れ込む“俺”の首根っこを掴み引き寄せる。 信じ難いほどの闘争心だ。 何がスイッチとなったのかはよく解らないが、 サンジョルジョの教会でのブチャラティのように、動けないはずの体で“俺”に攻撃を仕掛けている。 しかし… 「よくも…!」 オラオラオラオラオラオラオラオラ! 「よくもアタシの…!」 オラオラオラオラオラオラオラオラ! 「アタシの中のアナスイを…!」 オラオラオラオラオラオラオラオラ! 「傷つけたなあああぁぁぁ!!!」 オラアアアアアアァァァァァァッ!!!!!! ドグシャアッ! 徐倫は怒涛のラッシュをかまし、最後に渾身の一撃を放つ。 全身粉々に打ち砕かれた“俺”は、ぼろきれのようになって吹き飛び、壁に叩きつけられた。  * * * ドゴオ~ン!!! アタシに吹き飛ばされ壁に激突する音と同時に、力を使い果たしたアタシも倒れこんだ。 何とか顔を上げ、奴の確認をする。 「!!!」 吹き飛んだままピクリとも動く様子を見せない。 全身が、生きている者では有り得ない方向に曲がっている。 最早息絶えているのは一目瞭然だった。 「ねぇ、アナスイ」 斃した。 「何で…」 あのラッシュで生きているものは居ない。 「何でアタシさ…」 そう、アタシは奴を粉みじんにしてやったのに… 「…アンタを殴り飛ばしてんだろ」 涙が止まらなかった。 そう、アタシが攻撃していたのはアナスイだったのだ。 確かにドッピオに攻撃していた筈なのに… さっきと一緒だ。殴っているものがいつの間にか変わっていたのだ。 なんでよぉ。 何で、よりによってアナスイを殴ってるのよ、アタシは。 「成程。お前は自分自身が殺されるより、自分の中の仲間の臓器を傷つけられた事に怒るタイプか」 背後からドッピオの声が聴こえる。 「怒りが貴様の原動力か。しかし諸刃の剣だったな。 動かないはずの体を動かすほどの怒りは、同時に目の前が見えなくなるほどの怒りでもあったようだ」 「…」 「ミドラーの時もそうだった。怒りに我を見失う奴にはこの手が通用しやすい。 “お前の攻撃をエピタフで予測し、俺とアナスイが入れ替わる”と云う手段が」 私の頬を涙が流れ続ける。 ドッピオの卑劣な手への怒りに、アナスイの仇を打てなかった悔しさに。 そして… 「では、今度こそ………死ね」 ドガッ!!! 力を使い果たしたアタシは、ドッピオのなすがまま蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。  * * * 「なっ!」 俺が辿り着いた時、その部屋は貧民街でも滅多に無い惨状をかもし出していた。 部屋の中にいるのは三人。 内、二人は既に息絶えているのが一目瞭然だ。 その内の一人、女性の殺され方は、俺の知る人間の殺され方と酷似していた。 そしてもう一人。 特に右半身を返り血に染め、淡々と死体を見下ろす男。 状況から見て、この男が恐らく二人を殺したであろう事は想像に難くない。 男は俺が部屋に入ると同時に振り返り、俺の姿を確認するなり驚いたような表情を見せた。 「お前は…あの時、逃がした男か」 「!!!」 その瞬間、俺は全てを理解した。 この男が… トリッシュを殺し、目の前の男女を殺した… 仇敵か!!! 「お前がトリッシュを殺したんだな?」 返ってくる返事は解っていると云うのに、敢えてその質問を口にする。 最後の確認をする為に。 コイツを、トリッシュの仇として迷い無く殺す為に。 そして男は返事をした。 「トリッシュは俺の正体を知る唯一の人間だったからな」 それはトリッシュを殺したという肯定。 その返事を聞いた直後、俺は… 「貴様アアアァァァ!!!!!!」 咆哮した。 *投下順で読む [[前へ>]] [[戻る>1日目 第3回放送まで]] [[次へ>]] *時系列順で読む [[前へ>]] [[戻る>1日目 第3回放送まで(時系列順)]] [[次へ>]] *キャラを追って読む |:[[]]||:[[]]| |:[[]]||:[[]]|
「………え?」 シュトロハイムを騙し、東方仗助と相打たせる。 この作戦は上手く成功した。 そしてこれからの行動方針を決めようとした矢先の事だった。 「…トリッシュ?」 風に乗って、トリッシュの声が聴こえたような気がしたのだ。 「………………」 耳を澄ますが、もう何も聴こえない。 幻聴だったのだろうか。 何か現実離れした感触だった。 結局、何を言ったのかは聞き取れなかった。 ただ、その声について俺が分かっている事が二つ。 一つは俺に向けられているものだったという事。 そしてもう一つは、とても悲しそうな声だったという事。 俺は、トリッシュを悲しませているのか? 「いや、そんな事はない」 俺は敢えて口にする。 「俺はトリッシュを生き返らせる為に、トリッシュの為に悪魔に魂を売り渡そうとも…」 !!! 又聴こえた。トリッシュの声。 内容こそつかめないものの、とても悲しそうな声。 俺は、彼女を悲しませて、苦しめているのか? 俺は、自分のやろうとしている事に対する自信がぐらついてしまった。 ココは頭を冷やす必要がある。 良し、一度クールになって一から整理するか。 俺の目的は? ―――トリッシュの蘇生。 トリッシュ蘇生の方法は? ―――確実な方法は今の所無し。 ―――優勝すれば生き返らせられる可能性がある。 ならば優勝するか? ―――肯定。但し、優勝のみに固執するのは危険。 ―――ゲームを進めながら、トリッシュを蘇生出来る方法を常に模索する。 ―――そしてトリッシュ蘇生の役に立たず、優勝の邪魔になりそうな者は殺す。 今、思いつくトリッシュ蘇生の方法は? ―――誰かに相談。 誰に? ………結論は出た。 「良し。リサリサ先生に会おう」 俺は結論を口にする。 JOJOに相談できない以上、他に無条件に信頼出来る人間はリサリサ先生位しか居ない。 リサリサ先生も、JOJOを生き返らせたいだろうし。 俺の優勝プランについてもちゃんと相談に乗ってくれそうだし。 「それにしても、何で俺、さっきはあんな事考えちまったんだろう」 さっき、リサリサ先生を貶めようと考えていた自分に身震いがする。 リサリサ先生だぜ?リサリサ先生。 敬愛する人を絶望の淵に叩き込もうとして、何を喜んでんだよ、俺は。 やはりJOJOの死に動転して、頭が正常に回っていなかったとしか思えないぜ。 頭を冷やす機会を与えてくれたトリッシュに感謝、だな。 「トリッシュ、有難う」 空に向け、呟く。 だが、トリッシュからの返事は無い。 結局、あれはただの幻聴だったのだろうか。 ただ、トリッシュはまだ納得していない。 何となくだが、そんな気がした。  * * * 『リサリサ先生 御久し振りです。 シーザーです。 今、自分はG-2に居ます。 シュトロハイムとも会って、第四放送時にC-4で合流する話も聴いています。 実は、とても大事な話があります。 JOJOの事です。 JOJOは死にました。 死体はシュトロハイムが丁重に扱っています。 実は俺は、死体を見るまでJOJOは死んではいないんじゃないかと思っていました。 もしかしたら先生も同じ事を思っているんじゃないでしょうか。 酷な話ですが、そして先生には無礼極まりない話ですが、JOJOの死を受け容れて頂きたいと思います。 傷口をえぐるような真似をして、本当に申し訳ありません。 ただ、これから話す相談内容は、JOJOの死に直結する話なのです。 相談とは、他でもないJOJOを生き返らせる方法を一緒に考えて頂きたいのです。 (JOJOの他に、もう一人生き返らせたい人間が居るのですが、詳しくは会った時に話しましょう) 俺は今からC-4に向かいます。 先生も、早い内にC-4に来て下さい。 そして、JOJO達の事について相談しましょう。 後、この鳩は指定された相手に飛ばす事が出来ます。 先生は、この手紙を読んだ後、シュトロハイムや他の仲間に手紙を届けて下さい。 仲間を集め、そこで話し合いたいと思います                              シーザー・アントニオ・ツェペリ』  * * * 「………………あれ?」 鳩を飛ばした後、C-4に向かおうと北東の方向へ歩いていた。 そして暫くしてからの事である。 その時、俺は自分の状態に驚いた。 いつの間にか俺は、道路脇の電柱にぶつかって倒れていたらしい。 じくじくと額が痛む。 にしても。 いつ、俺はぶつかった? どれだけボーっとしていても、深い思考に捕らわれていたとしても、ぶつかった瞬間くらいは解る筈だろう。 そして何より、 こ の 現 象 、 身 に 覚 え が 無 い か ? そう、これは…。 「居る!!!奴はこの近くに!」 トリッシュが突然おびえ始めた、あの現象!!! シーザー・アントニオ・ツェペリ。改めて問おう。 お前の目的は何だ? トリッシュの蘇生のみか? 否!!! 他にもう一つ、“トリッシュの仇討ち”があるだろう!!! どこだ!奴はどこに居る! 俺は辺りを窺い… 『喰らえ!アナスイの仇!!!』 「!!!」 付近の家から声が聴こえた瞬間、迷わずその場へ向かった。  * * * ドッピオは詰めの甘い男じゃなかった。 アタシがアナスイの死を悼んでいる間にも、アタシ達の足取りを追っていたのだ。 「!」 それは運が良かったのか、悪かったのか。 何か違和感を感じた瞬間、アタシは咄嗟に身を屈めた。 グオンッ! 一瞬後、悪鬼までアタシ首のあった場所を手刀が薙いでいた。 「くっ!」 アタシは顔を上げ、攻撃してきた相手を確認する。 「!!!」 そして、その姿を見て驚いた。 攻撃してきたのはドッピオ。 但しその姿形は、出会った時の面影も無かった。  * * * 俺はドッピオと入れ替わっていた。 今、ドッピオを表に出したら、俺とドッピオの関係に勘付かれる可能性が強い。 だから、上手く言いくるめる方法を思い付くまで俺が表に出る事にし、ドッピオの思考を眠らせていた。 それにこれから斃す相手は、どの道俺が相手しなければ勝てない相手だからな。 俺の攻撃をかわした徐倫は、顔を上げて俺の姿を確認するなり声を上げる。 「貴様………ドッピオ!!!」 徐倫は、俺(ディアボロ)の事を一目で見抜いていた。 にしても、あれだけの重症だと思ったのに、随分と元気だな。 俺は徐倫に向かって言い放つ。 「ほう。車に潰されて瀕死状態だと思ったのに、もう回復したのか」  * * * もしもコイツがドッピオと別の服を着ていたら、恐らくアタシは同一人物と気付かなかっただろう。 まるで変身したかのような…これがこいつの能力か? 「アナスイのおかげだ」 ともあれ、ドッピオの言葉に言い返す。 「アナスイ?あぁ、そこに転がっている死体か」 その言葉を聴いた瞬間、アタシはキレた。 「てめえええぇぇぇ!!!」 アナスイを侮辱するなぁ!!! 「オラオラオラオラ!!!」 怒りに任せ、ドッピオを殴り続ける。 そして、ラッシュを終え… ………アタシは、あたしが殴っていた物がただの壁である事に気付いた。 「なっ!」 何だ!?これは! さっきドッピオに襲われたときといい、“何かがおかしい”。 これも奴のスタンド能力か? いや、スタンド能力は一体につき一つ。 どちらかはスタンド能力ではない筈だ。 くそっ、こいつの能力が何なのか、見当がつかねぇ。 「まあ、そう熱くなるな」 ドッピオはいつの間にかアタシの背後に居た。 「俺はただ、どうやってお前の怪我を治したのか知りたいだけだ」 その言葉に対し、目じりに涙が浮かんだ。 ドッピオの質問は、あたしの体を治した代償、アナスイの死を思い出させたから。 その怒りに、悔しさに、悲しみに。 だが、アタシはドッピオに返事をした。 このゲスに教えてやる。 アナスイがどれほどの矜持を抱いていたか。そしてどれだけ誇り高き死を選んだのか。 「アナスイはな。アタシの傷ついた臓器と、自分の無事な臓器を取り替えたんだ」 「…」 無表情に見下ろすドッピオに、アタシは続ける。 「自分の死を覚悟し、それで尚、あたしを生かす為にアナスイは決断をしたんだ! お前にそれが出来るか!!!」 「…」 アタシが叫び終えた後、ドッピオは暫く沈黙したままだった。 「どうした?何も言い返せないのか?」 あたしはそう問い掛け、 「よく解った」 ドッピオはそう返し、 「お前らに用は無いという事が」 と続けた。 「用がない…だと?」 アタシの質問にドッピオは平然と返す。 「あぁ。もし万が一、お前の怪我が治ったように俺の怪我も治せるというのなら、暫くは生かしておいても良かった。 これから先、万が一俺が怪我した時の為の治療係としてな。 だが、今の話では、お前は俺の怪我を治せない。 つまり、利用価値も生かしておく価値も無いという事だ」 「貴様…!」 「死ね」 そして飛び掛るドッピオ。 アタシは迎え撃とうとして… ザンッ!!! 勝負は一瞬の内についていた。 「………え?」 ドッピオは、いつの間にかアタシの腹を貫いていた。 「なあああぁぁぁ!!!」 腹を押さえて崩れ落ちる。 ヤベェ。致命傷だ。しかし… 本来ならもう立てないほどの傷を負いながら、アタシは怒りに奮い立つ。 こいつ、よりによって、一番やっちゃいけないことを…!!! 「終わりだな」 そう言って背を向けるドッピオ。 アタシの死を確信したとばかりに、部屋を出て行こうとする。 「!」 これは、最初で最後のチャンスだ! 刺し違えてでも、テメェはアタシが必ず斃す!!! 「うおおおぉぉぉ!!! 喰らえ!アナスイの仇!!!」 本来なら拳は届かない距離。 だがアタシは、肘の部分を紐状にしてロケットパンチのように拳を放った。 そしてそれは… ドガッ!!! ドッピオの後頭部に叩き込まれた。  * * * 徐倫は、不意を付いて“俺”の後頭部に拳を叩き込み、倒れ込む“俺”の首根っこを掴み引き寄せる。 信じ難いほどの闘争心だ。 何がスイッチとなったのかはよく解らないが、 サンジョルジョの教会でのブチャラティのように、動けないはずの体で“俺”に攻撃を仕掛けている。 しかし… 「よくも…!」 オラオラオラオラオラオラオラオラ! 「よくもアタシの…!」 オラオラオラオラオラオラオラオラ! 「アタシの中のアナスイを…!」 オラオラオラオラオラオラオラオラ! 「傷つけたなあああぁぁぁ!!!」 オラアアアアアアァァァァァァッ!!!!!! ドグシャアッ! 徐倫は怒涛のラッシュをかまし、最後に渾身の一撃を放つ。 全身粉々に打ち砕かれた“俺”は、ぼろきれのようになって吹き飛び、壁に叩きつけられた。  * * * ドゴオ~ン!!! アタシに吹き飛ばされ壁に激突する音と同時に、力を使い果たしたアタシも倒れこんだ。 何とか顔を上げ、奴の確認をする。 「!!!」 吹き飛んだままピクリとも動く様子を見せない。 全身が、生きている者では有り得ない方向に曲がっている。 最早息絶えているのは一目瞭然だった。 「ねぇ、アナスイ」 斃した。 「何で…」 あのラッシュで生きているものは居ない。 「何でアタシさ…」 そう、アタシは奴を粉みじんにしてやったのに… 「…アンタを殴り飛ばしてんだろ」 涙が止まらなかった。 そう、アタシが攻撃していたのはアナスイだったのだ。 確かにドッピオに攻撃していた筈なのに… さっきと一緒だ。殴っているものがいつの間にか変わっていたのだ。 なんでよぉ。 何で、よりによってアナスイを殴ってるのよ、アタシは。 「成程。お前は自分自身が殺されるより、自分の中の仲間の臓器を傷つけられた事に怒るタイプか」 背後からドッピオの声が聴こえる。 「怒りが貴様の原動力か。しかし諸刃の剣だったな。 動かないはずの体を動かすほどの怒りは、同時に目の前が見えなくなるほどの怒りでもあったようだ」 「…」 「ミドラーの時もそうだった。怒りに我を見失う奴にはこの手が通用しやすい。 “お前の攻撃をエピタフで予測し、俺とアナスイが入れ替わる”と云う手段が」 私の頬を涙が流れ続ける。 ドッピオの卑劣な手への怒りに、アナスイの仇を打てなかった悔しさに。 そして… 「では、今度こそ………死ね」 ドガッ!!! 力を使い果たしたアタシは、ドッピオのなすがまま蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。  * * * 「なっ!」 俺が辿り着いた時、その部屋は貧民街でも滅多に無い惨状をかもし出していた。 部屋の中にいるのは三人。 内、二人は既に息絶えているのが一目瞭然だ。 その内の一人、女性の殺され方は、俺の知る人間の殺され方と酷似していた。 そしてもう一人。 特に右半身を返り血に染め、淡々と死体を見下ろす男。 状況から見て、この男が恐らく二人を殺したであろう事は想像に難くない。 男は俺が部屋に入ると同時に振り返り、俺の姿を確認するなり驚いたような表情を見せた。 「お前は…あの時、逃がした男か」 「!!!」 その瞬間、俺は全てを理解した。 この男が… トリッシュを殺し、目の前の男女を殺した… 仇敵か!!! 「お前がトリッシュを殺したんだな?」 返ってくる返事は解っていると云うのに、敢えてその質問を口にする。 最後の確認をする為に。 コイツを、トリッシュの仇として迷い無く殺す為に。 そして男は返事をした。 「トリッシュは俺の正体を知る唯一の人間だったからな」 それはトリッシュを殺したという肯定。 その返事を聞いた直後、俺は… 「貴様アアアァァァ!!!!!!」 咆哮した。 *投下順で読む [[前へ>インタールード(間奏曲)]] [[戻る>1日目 第3回放送まで]] [[次へ>仇敵(後編)~輪廻転生~]] *時系列順で読む [[前へ>捜索隊、結成]] [[戻る>1日目 第3回放送まで(時系列順)]] [[次へ>仇敵(後編)~輪廻転生~]] *キャラを追って読む |105:[[『シーザー孤独の青春』]]|シーザー|107:[[仇敵(後編)~輪廻転生~]]| |101:[[擬似娚愛は嫐乱す(前編)]]|空条徐倫|107:[[仇敵(後編)~輪廻転生~]]| |101:[[擬似娚愛は嫐乱す(前編)]]|ディアボロ|107:[[仇敵(後編)~輪廻転生~]]|

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