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涙が止まらなかった。 目が覚めた時袂に於いてあった手紙は、 強く握り過ぎたせいでくしゃくしゃになっている。 溢れ出る涙は頬を伝い、手の甲へ滴り落ち、又は手紙へ染み込んでいた。 涙を拭い、視線を上げる。 しかし、“その”現実を目の当たりにし、すぐに視界が滲む。 いや、既に涙で前が見えない。 “それ”が示す結論は一つしかないのだ。 もう一度だけ涙を拭い、顔を上げる。 御願いだ。見間違いであってくれ。 認めたくねぇんだよ、俺は。 頼むからこんな光景を俺に見せないでくれ。 しかし、俺の必死の祈りは現実の前には無力で、 何度見直しても、目の前の光景は変わることがなかった。 …俺の目の前で、菩提樹が枯れ落ちていた。  * * * 湖での一件から、僕とポルナレフさんは、荒木や敵味方について色々と話し合った。 勿論筆談でだ。 『こりゃ、荒木の事は後回しにして、先に仲間集めをした方が良いかもな』 ポスナレフさんの書き込みに、僕は無言で肯く。そして、 『そう思います。このまま二人だけで考えていても埒が明かないかと。 他の仲間が、荒木について手がかりを掴んでいるかも知れませんし』 と書き足した。 『だな。 今俺達が荒木について分かっている事といえば 荒木がこのゲームの主催者である事、 荒木のスタンド能力を使って、 皆をこの街に集めた事、アブドゥルの炎を消滅させた事、 トゲ頭の子供を殺した事、ディバッグを渡した事、位か。 荒木を追うにゃ、情報が少な過ぎるよな』 ポルナレフさんが付け加える。 この書き込みを見て、僕はふと思い付いた。 もしかしたら、このディバッグを手掛かりに、荒木の居場所を探る事が可能なんじゃないか? 時間が経ち過ぎてしまったが、もしかしたら… 「ゴールド・エクスペリエンス!」 僕は、ラブラドールを発現させた。 「どうしたんだ?ジョルノ」 紙に書く必要が無いと考えたのだろう、ポルナレフさんは僕に尋ねてきた。 「良い事を思い付きました。これから仲間探しをしようと思います。 それでその時に、犬の嗅覚を頼りに探せば見付けるのも早いかと思いまして」 そう答えつつ、真意は紙に書く。 『もしかしたら、ディバッグに荒木の臭いが残っているかも知れません。 だとすれば、この犬から荒木の居場所を割り出せる可能性があります。 臭いが残ってなくても、口にした通り仲間探しをすれば良いかと』 ソレを見たポルナレフさんは、 「なぁ~るほど、そりゃ良い案だ。 じゃ、準備すっからちょっくら待ってくれ」 と言って、ディバッグを指差した。 「了解」 と言って、僕は犬に臭いを嗅がせる。 可能性は限りなくゼロに近い。 まず、時間が経ち過ぎている。 ゲーム開始直後ならまだしも、もうすぐ10時間過ぎようという時にこんな事しても臭いが残っているか疑わしい。 しかも、僕の臭いが上塗りしてしまっているのだ。 更に、犯行現場のように臭いの跡を辿るのではなく、 同じ臭いがする場所を探し出すなんて事が可能なのか。 非常に望み薄に思えた試みだったが… 「…!」 犬はとある方向へ向けて歩き出した。 「…!よっしゃ、待たせたな。行こうぜ」 それに気付いたポルナレフさんが立ち上がる。 「そうですね」 僕はそれに続き… トン。 「え?」 ポルナレフさんに当身を喰らわせた。 気を失ったポルナレフさんは崩れ落ちる。 それを支え、人目につかなそうな窪地に横たえた。 「“仲間捜し”は一人で十分なんですよ。 ポルナレフさんはここで休んでいて下さい」 そう、荒木の下へ行くのは一人で良い。 僕だって荒木に挑みに行く訳じゃない。居場所を探るだけだ。 しかし、相手は計り知れないスタンド能力の持ち主なのだ。 何が起こるか分からない以上、ポルナレフさんを危険に巻き込む訳には行かない。 僕は地図の裏にポルナレフさんへの置き手紙を書き… 「ゴールド・エクスペリエンス!」 ポルナレフさんの眠るすぐ近くに、一本の木を生やした。 これでポルナレフさんは僕の状態が分かるはずだ。 僕は、数m先で僕を待っている犬の下へ走った。 ラブラドールの後に付いて行けば教会の場所が分かる。 そうしたら荒木の気配を探り、ポルナレフさんの下へ戻る。 細心の注意を以って行動すれば危険は無い筈。 僕はそう考えていた。 しかし、僕は致命的なミスを犯していた。 荒木は説明を終えた後、ゲーム参加者を街へ点在させた。 ならば逆も可能性も十分考えられたのだ。 結論から言おう。 ラブラドールに付いて行って数10mしか歩かない内、 僕は“教会を見付ける前に教会の中に居た”。 扉を開ける事も、教会を遠目に見付ける事すらしていない。 ただの道を一歩踏みしめたら、その次の瞬間には教会の中に居たのだ。 「なっ」 唖然として辺りを見回す。 ステンドグラスから差し込む光、 僕の背丈の倍はありそうな扉からは赤い絨毯の敷かれた通路が教会内を縦断し、 十字架の台へとのびている。 その周囲には数時間前と同じく燭台に明かりが灯り、 殺された少年は、その姿から血に至るまで全ての痕跡が消えていた。 そしてその奥、扉とは間逆の壁に据え付けられているパイプオルガンは、 差し込む光を受けて金色の光を返していた。 ♪♪♪~ ♪♪♪♪♪~♪~ 「!」 突然、演奏者の居ないパイプオルガンが奏で始める。 何事だ、と戸惑うのは一瞬。直ぐに荒木の仕業だと思い当たる。 奴の術中に嵌まったか。 何とかしてこの場から離れなくては。 そう考えている所へ、数時間前に耳にした、あの忘れもしない声が響いた。 「日本人にとって“トッカータとフーガ”といえば、 パイプオルガンの代名詞ともいえる曲でね。 君の来訪を歓迎して一曲弾かせて頂いたのだけれど、如何かな?」 そう言いながら、十字架台の後ろから姿を現したのは、 このゲームが始まってからずっと打倒を考えていた男、 ………荒木 飛呂彦、その人だった。 「この場にふさわしい曲じゃない」 荒木の一挙一動見逃さず、僕は荒木に向かって言った。 その言葉を受け、当の荒木は 「あぁ、教会で弾く曲じゃ無かったね。 それとも、今のこの状況にふさわしく無いって事かな?ハッハッハ」 と高笑いで返す。 そして、荒木が笑い終えると同時にメロディが止んだ。 荒木はそのまま、通路の中心に居る僕の方へ歩み寄って来る。 一見無防備なのに、攻撃をするきっかけが無い。 僕が行動を起こした次の瞬間死んでいるイメージが付き纏う。 しかしそれでも、僕はひたすら機を窺っていた。 荒木を斃す、或いはこの場を脱出する方法を。 当の荒木は、最前列の長椅子に腰を掛けた。 そして僕を見据え、口を開く。 「君の事を尊敬するよ」 突然の言葉に、僕は唖然とした。何を言い出すんだ、コイツは。 「第一放送で言った通り、 不穏な動きをとった者には制裁が下る。 それを知らされた人間のとる行動は2つ。 僕への反逆を諦めるか、それを悟られない内に僕を殺すか、だ。 しかし、後者は非常に困難だ。 はっきり言って、そんじょそこらの人間、スタンド使いのなせるわざじゃない」 そこまで言って、荒木はニヤリと笑った。 「―――!!!」 ぞっとするその笑みに、僕は身震いをした。 何だ?あの、魂まで凍りつかされそうな笑みは。 本当に人間、いや、生命ある者が浮かべる事の出来るものなのか? 今の笑みを見て、僕は一つ分かった事がある。 “この男を、人間と思わない方が良い” でないと、確実に殺される。 「なのに君はここまで辿り着いた。実際大したものだよ。 犬が僕の方へ向かって来た時、僕は初めて君の叛意に気付いた。 それまで全く気付かなかったんだ」 「犬が原因で気付いたのか?」 「あぁ。あの時、君に最も近かったのは駅に居る者たちだった。 なのに犬は僕の方へ向かって来た。 つまり犬は、僕の臭いを探していたってワケだ」 そうか、首輪には盗聴器が仕掛けられていただけじゃない。 GPS機能もついていたのか。 …だが待て。一点おかしい事がある。 「僕がここまで来るのに歩いた距離は、駅まで歩く距離よりも遥かに短かった筈だ」 そう、犬を追って、それこそ50m位しか歩いていないというのに。 その問いに対し、奴は再びあのおぞましい笑みを浮かべた。 「…何がおかしい」 敵意と警戒心を押さえる事無く、荒木へ訊ねた。 対する荒木は、あくまで余裕の表情を崩す事無く答える。 「それは愚問だろう」 「愚問…だと?」 何を根拠にそんな事を言う。 今の質問を愚問と切り捨てる理由が何処にあるんだ。 しかし続く奴の発言に、僕は荒木の底知れぬ器を垣間見た。 「だって、君は既に答が解っているじゃないか」 「…」 返す言葉が無かった。 実の所、僕はここに辿り着いて、今までの話から荒木の能力について一つの仮説に行き着いたのだ。 奴の返事は、それが正しい事を意味している。 そしてそれ以上に、“奴は僕の思考を完全に読みきっている”事を意味しているのだ。 この状況はまずい。僕のあらゆる行動が荒木に先読みされる可能性がある。 これはスタンド能力の差よりも決定的な差になる。 奴と死闘を行う時の勝敗を決める、決定的な差に。 兎に角、僕がここに連れて来られたのは荒木のスタンド能力で、その能力とは… 「ほぼ全員が感付いている通り、僕はスタンド使いでね。 名は『バトル・ロワイアル』。 能力は空間を自由に操れるというものなんだ」 それを口にしたのは他ならぬ荒木。 「何故自分の能力をバラす?」 僕の質問に、荒木は薄ら笑いを浮かべたまま答えた。 「これから殺し合いをするんだ。 僕が一方的に君のスタンド能力を知っているのは不公平な気がしてね」  * * * 「………はっ」 俺が目を覚ました時、辺りにジョルノの姿は無かった。 俺は道路脇の、丁度周りからは死角になるような所に寝かせられていた。 「ジョルノ?」 もう一度辺りを見回す。やはりジョルノは居ない。 と、さっきまで俺が寝ていた所に一枚の紙が置いてあった。 まさかと思いその紙を手に取ると、 案の定それはジョルノの置き手紙だった。 『荒木の居場所を探るだけですので、 ポルナレフさんは待っていて下さい。 一応、ゴールド・エクスペリエンスで樹を発現させておきました。 僕に万が一が無い限り、樹も枯れません。 居場所だけ確かめたらすぐに戻りますので、ご心配なく』 *投下順で読む [[前へ>奪われたスタンド]] [[戻る>1日目 第2回放送まで]] [[次へ>神への挑戦(後編)~菩提樹~]] *時系列順で読む [[前へ>激戦(後編)~零れた笑い~]] [[戻る>1日目(時系列順)]] [[次へ>神への挑戦(後編)~菩提樹~]] *キャラを追って読む |53:[[ フライト・コードなし!去るD-2は向かえ ]]||J・P・ポルナレフ|72:[[神への挑戦(後編)~菩提樹~]]| |53:[[ フライト・コードなし!去るD-2は向かえ ]]||ジョルノ・ジョバァーナ|72:[[神への挑戦(後編)~菩提樹~]]| |50:[[魔人間アラキ~第1回放送~]]|荒木飛呂彦|72:[[神への挑戦(後編)~菩提樹~]]|
涙が止まらなかった。 目が覚めた時袂に於いてあった手紙は、 強く握り過ぎたせいでくしゃくしゃになっている。 溢れ出る涙は頬を伝い、手の甲へ滴り落ち、又は手紙へ染み込んでいた。 涙を拭い、視線を上げる。 しかし、“その”現実を目の当たりにし、すぐに視界が滲む。 いや、既に涙で前が見えない。 “それ”が示す結論は一つしかないのだ。 もう一度だけ涙を拭い、顔を上げる。 御願いだ。見間違いであってくれ。 認めたくねぇんだよ、俺は。 頼むからこんな光景を俺に見せないでくれ。 しかし、俺の必死の祈りは現実の前には無力で、 何度見直しても、目の前の光景は変わることがなかった。 …俺の目の前で、菩提樹が枯れ落ちていた。  * * * 湖での一件から、僕とポルナレフさんは、荒木や敵味方について色々と話し合った。 勿論筆談でだ。 『こりゃ、荒木の事は後回しにして、先に仲間集めをした方が良いかもな』 ポスナレフさんの書き込みに、僕は無言で肯く。そして、 『そう思います。このまま二人だけで考えていても埒が明かないかと。 他の仲間が、荒木について手がかりを掴んでいるかも知れませんし』 と書き足した。 『だな。 今俺達が荒木について分かっている事といえば 荒木がこのゲームの主催者である事、 荒木のスタンド能力を使って、 皆をこの街に集めた事、アブドゥルの炎を消滅させた事、 トゲ頭の子供を殺した事、ディバッグを渡した事、位か。 荒木を追うにゃ、情報が少な過ぎるよな』 ポルナレフさんが付け加える。 この書き込みを見て、僕はふと思い付いた。 もしかしたら、このディバッグを手掛かりに、荒木の居場所を探る事が可能なんじゃないか? 時間が経ち過ぎてしまったが、もしかしたら… 「ゴールド・エクスペリエンス!」 僕は、ラブラドールを発現させた。 「どうしたんだ?ジョルノ」 紙に書く必要が無いと考えたのだろう、ポルナレフさんは僕に尋ねてきた。 「良い事を思い付きました。これから仲間探しをしようと思います。 それでその時に、犬の嗅覚を頼りに探せば見付けるのも早いかと思いまして」 そう答えつつ、真意は紙に書く。 『もしかしたら、ディバッグに荒木の臭いが残っているかも知れません。 だとすれば、この犬から荒木の居場所を割り出せる可能性があります。 臭いが残ってなくても、口にした通り仲間探しをすれば良いかと』 ソレを見たポルナレフさんは、 「なぁ~るほど、そりゃ良い案だ。 じゃ、準備すっからちょっくら待ってくれ」 と言って、ディバッグを指差した。 「了解」 と言って、僕は犬に臭いを嗅がせる。 可能性は限りなくゼロに近い。 まず、時間が経ち過ぎている。 ゲーム開始直後ならまだしも、もうすぐ10時間過ぎようという時にこんな事しても臭いが残っているか疑わしい。 しかも、僕の臭いが上塗りしてしまっているのだ。 更に、犯行現場のように臭いの跡を辿るのではなく、 同じ臭いがする場所を探し出すなんて事が可能なのか。 非常に望み薄に思えた試みだったが… 「…!」 犬はとある方向へ向けて歩き出した。 「…!よっしゃ、待たせたな。行こうぜ」 それに気付いたポルナレフさんが立ち上がる。 「そうですね」 僕はそれに続き… トン。 「え?」 ポルナレフさんに当身を喰らわせた。 気を失ったポルナレフさんは崩れ落ちる。 それを支え、人目につかなそうな窪地に横たえた。 「“仲間捜し”は一人で十分なんですよ。 ポルナレフさんはここで休んでいて下さい」 そう、荒木の下へ行くのは一人で良い。 僕だって荒木に挑みに行く訳じゃない。居場所を探るだけだ。 しかし、相手は計り知れないスタンド能力の持ち主なのだ。 何が起こるか分からない以上、ポルナレフさんを危険に巻き込む訳には行かない。 僕は地図の裏にポルナレフさんへの置き手紙を書き… 「ゴールド・エクスペリエンス!」 ポルナレフさんの眠るすぐ近くに、一本の木を生やした。 これでポルナレフさんは僕の状態が分かるはずだ。 僕は、数m先で僕を待っている犬の下へ走った。 ラブラドールの後に付いて行けば教会の場所が分かる。 そうしたら荒木の気配を探り、ポルナレフさんの下へ戻る。 細心の注意を以って行動すれば危険は無い筈。 僕はそう考えていた。 しかし、僕は致命的なミスを犯していた。 荒木は説明を終えた後、ゲーム参加者を街へ点在させた。 ならば逆も可能性も十分考えられたのだ。 結論から言おう。 ラブラドールに付いて行って数10mしか歩かない内、 僕は“教会を見付ける前に教会の中に居た”。 扉を開ける事も、教会を遠目に見付ける事すらしていない。 ただの道を一歩踏みしめたら、その次の瞬間には教会の中に居たのだ。 「なっ」 唖然として辺りを見回す。 ステンドグラスから差し込む光、 僕の背丈の倍はありそうな扉からは赤い絨毯の敷かれた通路が教会内を縦断し、 十字架の台へとのびている。 その周囲には数時間前と同じく燭台に明かりが灯り、 殺された少年は、その姿から血に至るまで全ての痕跡が消えていた。 そしてその奥、扉とは間逆の壁に据え付けられているパイプオルガンは、 差し込む光を受けて金色の光を返していた。 ♪♪♪~ ♪♪♪♪♪~♪~ 「!」 突然、演奏者の居ないパイプオルガンが奏で始める。 何事だ、と戸惑うのは一瞬。直ぐに荒木の仕業だと思い当たる。 奴の術中に嵌まったか。 何とかしてこの場から離れなくては。 そう考えている所へ、数時間前に耳にした、あの忘れもしない声が響いた。 「日本人にとって“トッカータとフーガ”といえば、 パイプオルガンの代名詞ともいえる曲でね。 君の来訪を歓迎して一曲弾かせて頂いたのだけれど、如何かな?」 そう言いながら、十字架台の後ろから姿を現したのは、 このゲームが始まってからずっと打倒を考えていた男、 ………荒木 飛呂彦、その人だった。 「この場にふさわしい曲じゃない」 荒木の一挙一動見逃さず、僕は荒木に向かって言った。 その言葉を受け、当の荒木は 「あぁ、教会で弾く曲じゃ無かったね。 それとも、今のこの状況にふさわしく無いって事かな?ハッハッハ」 と高笑いで返す。 そして、荒木が笑い終えると同時にメロディが止んだ。 荒木はそのまま、通路の中心に居る僕の方へ歩み寄って来る。 一見無防備なのに、攻撃をするきっかけが無い。 僕が行動を起こした次の瞬間死んでいるイメージが付き纏う。 しかしそれでも、僕はひたすら機を窺っていた。 荒木を斃す、或いはこの場を脱出する方法を。 当の荒木は、最前列の長椅子に腰を掛けた。 そして僕を見据え、口を開く。 「君の事を尊敬するよ」 突然の言葉に、僕は唖然とした。何を言い出すんだ、コイツは。 「第一放送で言った通り、 不穏な動きをとった者には制裁が下る。 それを知らされた人間のとる行動は2つ。 僕への反逆を諦めるか、それを悟られない内に僕を殺すか、だ。 しかし、後者は非常に困難だ。 はっきり言って、そんじょそこらの人間、スタンド使いのなせるわざじゃない」 そこまで言って、荒木はニヤリと笑った。 「―――!!!」 ぞっとするその笑みに、僕は身震いをした。 何だ?あの、魂まで凍りつかされそうな笑みは。 本当に人間、いや、生命ある者が浮かべる事の出来るものなのか? 今の笑みを見て、僕は一つ分かった事がある。 “この男を、人間と思わない方が良い” でないと、確実に殺される。 「なのに君はここまで辿り着いた。実際大したものだよ。 犬が僕の方へ向かって来た時、僕は初めて君の叛意に気付いた。 それまで全く気付かなかったんだ」 「犬が原因で気付いたのか?」 「あぁ。あの時、君に最も近かったのは駅に居る者たちだった。 なのに犬は僕の方へ向かって来た。 つまり犬は、僕の臭いを探していたってワケだ」 そうか、首輪には盗聴器が仕掛けられていただけじゃない。 GPS機能もついていたのか。 …だが待て。一点おかしい事がある。 「僕がここまで来るのに歩いた距離は、駅まで歩く距離よりも遥かに短かった筈だ」 そう、犬を追って、それこそ50m位しか歩いていないというのに。 その問いに対し、奴は再びあのおぞましい笑みを浮かべた。 「…何がおかしい」 敵意と警戒心を押さえる事無く、荒木へ訊ねた。 対する荒木は、あくまで余裕の表情を崩す事無く答える。 「それは愚問だろう」 「愚問…だと?」 何を根拠にそんな事を言う。 今の質問を愚問と切り捨てる理由が何処にあるんだ。 しかし続く奴の発言に、僕は荒木の底知れぬ器を垣間見た。 「だって、君は既に答が解っているじゃないか」 「…」 返す言葉が無かった。 実の所、僕はここに辿り着いて、今までの話から荒木の能力について一つの仮説に行き着いたのだ。 奴の返事は、それが正しい事を意味している。 そしてそれ以上に、“奴は僕の思考を完全に読みきっている”事を意味しているのだ。 この状況はまずい。僕のあらゆる行動が荒木に先読みされる可能性がある。 これはスタンド能力の差よりも決定的な差になる。 奴と死闘を行う時の勝敗を決める、決定的な差に。 兎に角、僕がここに連れて来られたのは荒木のスタンド能力で、その能力とは… 「ほぼ全員が感付いている通り、僕はスタンド使いでね。 名は『バトル・ロワイアル』。 能力は空間を自由に操れるというものなんだ」 それを口にしたのは他ならぬ荒木。 「何故自分の能力をバラす?」 僕の質問に、荒木は薄ら笑いを浮かべたまま答えた。 「これから殺し合いをするんだ。 僕が一方的に君のスタンド能力を知っているのは不公平な気がしてね」  * * * 「………はっ」 俺が目を覚ました時、辺りにジョルノの姿は無かった。 俺は道路脇の、丁度周りからは死角になるような所に寝かせられていた。 「ジョルノ?」 もう一度辺りを見回す。やはりジョルノは居ない。 と、さっきまで俺が寝ていた所に一枚の紙が置いてあった。 まさかと思いその紙を手に取ると、 案の定それはジョルノの置き手紙だった。 『荒木の居場所を探るだけですので、 ポルナレフさんは待っていて下さい。 一応、ゴールド・エクスペリエンスで樹を発現させておきました。 僕に万が一が無い限り、樹も枯れません。 居場所だけ確かめたらすぐに戻りますので、ご心配なく』 *投下順で読む [[前へ>奪われたスタンド]] [[戻る>1日目 第2回放送まで]] [[次へ>神への挑戦(後編)~菩提樹~]] *時系列順で読む [[前へ>激戦(後編)~零れた笑い~]] [[戻る>1日目(時系列順)]] [[次へ>神への挑戦(後編)~菩提樹~]] *キャラを追って読む |53:[[ フライト・コードなし!去るD-2は向かえ ]]|J・P・ポルナレフ|72:[[神への挑戦(後編)~菩提樹~]]| |53:[[ フライト・コードなし!去るD-2は向かえ ]]|ジョルノ・ジョバァーナ|72:[[神への挑戦(後編)~菩提樹~]]| |50:[[魔人間アラキ~第1回放送~]]|荒木飛呂彦|72:[[神への挑戦(後編)~菩提樹~]]|

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