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『老い』の超越者」(2009/09/20 (日) 10:32:00) の最新版変更点

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 こいつは一体どういう事態だ? オレは夢でも見ているのか? そうでもなけりゃあ……説明がつかねえ。  フィレンツェ行きの列車から投げ出された筈のオレが、得体の知れねえ真っ暗闇に放り込まれ、何処の誰かも知らねえ野郎の指図を受け、  意味の分からねえ殺し合いをする羽目になっている、この現状の。 「……天国だの地獄だのにしちゃあ、生活感があり過ぎるしな」  ありふれた日本家屋(だろう、多分。イタリア人のオレが一般的な日本の家造りなんざ知るか)が立ち並ぶ住宅街を前に、オレはそう呟いた。  『モリオーチョー』とかいうらしいが、命の遣り取りをする場にしては、どうにも能天気な場所だなと思う。  尤も、異様な空間であるって事は確かだ。深夜0時だからとはいえ、人の気配がまるで感じられない。明かりの点いた家も皆無。  作られた世界――とでも呼ぶのが、妥当なんだろう。それも恐らくは、あの『荒木』とかいう野郎一人の力によるものの。  幻覚だの張りぼてだの、そんなチャチなもんとは全然違う、この風景の立体的な存在感ときたら……ったく、尋常じゃないスタンドパワーだぜ。  最初の真っ暗闇で、あのブ男スタンド使いの放った炎を事も無げに掻き消してみせた事実から言っても、  奴の能力はオレ達の数段上、下手すればあの『ボス』にも匹敵するだろう。  ……が、その程度の事実を目の当たりにしたところでブルっちゃいられねえのが、オレ達『暗殺チーム』の人間ってもんだ。  『荒木飛呂彦』……オメーが仮に、オレ達にとっての神様か何かだとしても、オメーの掌の上で踊らされるつもりなんざ、毛頭ねえんだよ。 『兄貴ィッ! プロシュート兄貴ィッ! やっぱり兄貴ィはスゲェーやッ!』  ……しかし、ペッシの野郎は心配だな。アイツはこんな所に呼ばれてなけりゃあいいんだが……。 「ひとまず……適当な民家にでも隠れて、今後の方針を立てるとするか」  支給されたデイパックを背負いなおし、目に付いた一軒へとオレが足を向けた……その直後、  ドギャーンッ! 「うッ……うおおおおーッ!?」  オレの足は即座に止まった。それは一体何故か。  ……丁度オレが目指していた家のドアに二つの穴が穿たれて、そこからトンでもない速度の光線……なのか!? とにかく光線か何かだッ!  それが発射されたからだッ! 一直線にオレを狙っているッ! 「ガードしろッ! 『ザ・グレイトフル・デッドォォォ――ッ!!』」  オレの眼前に盾となるような格好で、腕を交差した『グレイトフル・デッド』を出現させる。同時に『能力』を発動させるのも忘れない。  『グレイトフル・デッド』のボディに幾多も描かれている眼(まなこ)から、飲み込んだ者を例外なく、『偉大なる死』へと誘う霧が噴き出す。  対の光線は、『グレイトフル・デッド』の腕にあっさりと弾かれ拡散した。衝撃も何も感じなかった。その事が逆に、オレを疑念へと駆り立てる。  ……どうなっている? 今の光線は『スタンド攻撃』じゃあないってことか? バカな……今のが『スタンド攻撃』じゃないなら何だっていうんだ、  敵は未来人か? レーザー銃でも構えた奇天烈な服装の野郎が、あの家の中から出てくるとでもいうのか? 「ワケがわからねーが……今の攻撃は『防いだ』! 家の中のテメー、奇襲はもう通じねーぜッ! 出てこいッ!」  ……尤も、既にあの家は『グレイトフル・デッド』の射程距離に入っている。ヨボヨボのジジイになってりゃあ、  ドアを開けるのも一苦労だろうさ。いずれにせよこの野郎は『始末』する。『荒木』の野郎がどう捉えるかは知らねーが、  不意打ちでこっちの命を狙ってきた野郎に対して情けを掛けるような心は、ハナから持ち合わせちゃあいないんでな……。  『グレイトフル・デッド』を盾にしたまま、目標の民家へとにじり寄る。出てくる気が無いならこちらから打って出るまで――ん?  ……ゴゴゴゴゴ……。  ……民家までおよそ10mといった所か。実に当たり前のような動作で、霧に覆われたドアは開かれた。  『皺一つ刻まれていない手でノブを握っている、整った顔付きの若い男が、そこから出てきた』。  ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……! 「な……何だとォーッ!?」  バカな……どれもこれも有り得ない事態だ! 目の前の男は完璧に『グレイトフル・デッド』の射程に入っているッ! 『老いないはずがない』ッ!  『氷』に気が付いたとでもいうのか? そんな筈はない! 今までの攻防で『氷』に気が付く要素が何処にあるッ! こいつは一体何なんだッ!? 「何者だぁテメェェェェェ――ッ!! 何故歳を取らねえんだッ!? それがテメーの『スタンド能力』なのかァァ――ッ!!」  自分自身でそう叫びながらも、『違う』と直感では気付いていた。こいつは『違う』……オレの『勘』だが、こいつが持ってる独特の『空気』は、  『スタンド使い』のそれとはまったく異質な別のモンだ! こいつ自身が『奇妙』なんだッ! 『まるで人間じゃあないような』……『奇妙』だッ!  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!! 「……言っていることの意味が……よく分からないが……」  男がノブから手を離した。それだけの動作に、総毛立つ。  暗殺者として、『スタンド使い』としての警戒心が、最大級の警笛を鳴らしていた。離脱するべきだ、と。原理は不明であるとはいえ、  男に『グレイトフル・デッド』は通用しないということが明らかである以上、真っ向からやりあった所で、オレに勝ち目はないも同然なのだから。  だが……冗談じゃねえ。このオレが能力で敵わねえからといって、ほんの一手やり合っただけの相手を前に尻尾を巻いて逃げ出すだと?  『能力が効かない』っていうんなら、この野郎もオレと条件は同じだ。野郎の『光線』は『スタンド』を貫く事が出来なかった。付入る隙は、  オレにも充分――『ある』。負け犬ムードに浸るのはまだ……早えッ! 「その『人影』が……本来ならば『そうさせる』のか? わたしの肉体を『老いさせる』とでもいうのか? 実に『奇妙』な話だが……」 「続きは地獄で喋るんだなァ――ッ! 『ザ・グレイトフル・デッドッ!!』」  暢気に言葉を紡がせはしねえ。『グレイトフル・デッド』を前面に押し出して、突っ込む。『老化』の霧は既に掻き消した。  安全圏からのチマチマした『老化』が通じないってんなら……オレに残された手は一つしかねえ!  木偶のように突っ立って、構えの一つすら取らねえ野郎の頭を、『グレイトフル・デッド』の両腕が鷲掴みにする。パワー全開だ、クソ野郎ッ!! 「『直』は素早いんだぜェ――ッ! 今度こそ『老い』をくらえェェ――ッ!!」  ズギュウウウウウウウウウウン!! 「フ……フフフフフ……」 「……!?」  野郎は笑っていた。滑稽なものを見るような目で笑っていた。『グレイトフル・デッド』の『直』ざわりを受けているのに……い……いや!  『実感』がないッ! 『グレイトフル・デッド』の掌から、『老化エネルギー』は確実に野郎の頭部へと流れていっている筈なのにッ!  『それが野郎の全身に浸透しているという実感がない』ッ!! まるでこいつの肉体が、『老い』そのものを拒絶しているようなッ!  野郎の『肌』も! 『声』も! 『何もかも』がッ! 『若さ』を保ち続けているッ!! 「じ……『直』ざわりでさえも……通用しねーのかッ!」 「フハハハハハハハハハハハハ……!」  高笑いを上げた野郎の両手が、自分の頭を押さえ付けた『グレイトフル・デッド』の手を掴もうとしているのか、耳の横へと持ち上げられる。  しかし無駄だ。どういうワケか、この野郎には『スタンド』が見えているらしいが、生身の人間が『スタンド』に触れる事は出来ねえ。  その基本原則は変わらねえ筈だ。つまり野郎に、『グレイトフル・デッド』の腕を引き剥がす方法はねえッ! このまま頭を握り潰してやるッ!!  『グレイトフル・デッド』の両腕に力を込めさせる。その命令の数秒後には、野郎の頭は風船のように破裂している筈だった。しかし―― 「MMMMMMOOOHHHH!!」 「お……おおおおおおッ!?」  目の前で繰り広げられた――というか、オレ自身が体験する羽目になってしまったこの馬鹿げた状況の説明をすると、こうなる。  野郎はその場で竜巻のように身を回転させて、ジャイアントスイングの要領で強引に『グレイトフル・デッド』の両手を引っぺがしたのだ。  確かに、人間の側から『スタンド』に触れる事は出来ない。しかし、しがみ付いている側のこちらが手を離してしまえば、  吹っ飛ばされるのは勝手に手を離したこっちの方になるというワケだ。そして、『スタンド』が放り投げられたという事は、  本体のオレもまた然り――「ゴバッ!!」  想像以上の遠心力に身体の自由が利かず、受身もまともに取れないまま、肩口から地面へと叩きつけられる。  あちこちで骨の軋む音が聞こえた。痛え。滅茶苦茶に痛え。『グレイトフル・デッド』の手を借りて、どうにか立ち上がってみせる。  たとえ腕を飛ばされようが、脚をもがれようが、『スタンド』だけは決して解除しない。  自信満々にペッシに言ってのけたことだ、オレが実践出来ねーでどーする! 「グ……とはいえ……クソッタレが……何故『老化』の影響を受けねえ? テメーは一体、何なんだ……?」 「……ハハハハハハハ。『老い』か……原理はまったく分からんが、それが貴様の『能力』というワケか。  『波紋』とも、『石仮面』とも、まるで異なる力……興味深いものを見せてくれた礼として、殺す前に教えてやるッ!」  漆黒の長髪を仰々しく振って、野郎は不敵な笑みの浮かんだ口を開いた。 「わたしの名はストレイツォ……ほんの一昨日に『石仮面』を被り、『吸血鬼』となった者だ」 「……『吸血鬼』だと?」 「『吸血鬼』は、貴様の言う『老い』に苛まれる事もなければ、死の恐怖に怯える事もない……即ち『不老不死』! 人間を超越した存在なのだ!  わたしが石仮面を被った時は、既に齢70を過ぎた老人だった……しかし見よ、この瑞々しさを取り戻した張りのある肉体を! この肌を!  『永遠の若さ』とは『至上の幸福』! これ以上にない充実感をわたしは味わっている……というワケだ。理解出来たか? 小僧ッ!」  ……ハン。外見上は殆どオレと歳が離れてなさそうだってのに、小僧呼ばわりまでされりゃあよ――信じるしかねーわな。  しかし、その『石仮面』っつーのは……『ポルポ』の奴が持ってたっていう『矢』みてーなモンか?  『石仮面』ってのもアレと同様、随分常軌を逸した代物だが、身に付けただけでお手軽吸血鬼たぁ、化け物になるのも案外楽なモンだなオイ。  ――なんて、軽口叩いてる場合じゃあねーぞ……要するに、目の前にいやがるのは正真正銘の化け物で、  この野郎にはもう100%、『グレイトフル・デッド』の『老化』は効かないってことで…… 「貴様の能力……『偉大なる死(ザ・グレイトフル・デッド)』とか言ったか。  『若さ』を保ちたいという、万人共通の願いを突き崩さんとする貴様の力は気に入らんッ!  このストレイツォが直々にッ! 貴様の命ごと、その忌まわしき力を葬り去ってくれるッ!!」  背筋に悪寒が走ったのは、おそらく再び噴き出してきた霧のせいだけではなかった。  ……ヤベーぞ、この状況。『ツイてない』のは、どう考えてもオレの方じゃあねーかッ! 「『覚悟』はいいかッ! 小僧ッ!!」 「『グレイトフル・デッ』……うおおおおおッ!?」  猛獣のような牙を剥き出しに襲ってくるストレイツォの身体を、『グレイトフル・デッド』が両の手を突き出し受け止める。  だっ、だが……この『馬力』はッ! これが『吸血鬼』の脚力なのかッ!? 10tトラックでも相手にしてるような圧力だッ!  『グレイトフル・デッド』は上半身だけのスタンド……踏ん張りが利かねえッ! 押し戻されるッ!! 「マッ……マズいッ! こうなったら……」  この空間に飛ばされた時から右ポケットに挿してあった、リボルバー式の拳銃を抜き取る。  何の因果か知らねえが、そう、『ミスタの拳銃』だ。流石におまけの『ピストルズ』までは付いてこなかったが、  『当たり』の方に位置する武器であろう事は間違いない。既に弾丸は装填されている。化け物野郎め、テメーの不死身がどれ程のモンか…… 「コイツでためしてやるッ! 脳漿ブチ撒けやがれ、ストレイツォォ――ッ!!」  ダンッ! ダンッ!  連続で二発、ストレイツォの頭部目掛けてブッ放した。距離はおおよそ3m、外しっこねえ距離でもあれば、避けられっこねえ距離でもある。  充満する霧と硝煙が混ざって霞みきっている視界の向こう、まず一発目が野郎の左目を潰…… 「RRRRRRRR……愚かな……!」  ゴオアッ! パキィィンッ!!  ……すその寸前、ストレイツォの瞳孔が不気味に開いて、その中心から放たれたのは……さっきの光線だッ! あの光線が、  眼球へと一直線に飛んでいった二発の弾丸を、正確に撃ち抜いて蒸発させやがったッ!  ストレイツォが撃ってきた光線の正体はッ! 『吸血鬼』と化した野郎のえげつない『体液』だったのかッ!! 「高圧で体液を目から発射する、名づけて空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)!」  ……目からビームたぁ、いよいよ本格的に人間離れしてきやがった。クソッタレ……弾丸は残り四発だが、  頭への銃撃は何度やったところであの『体液』に止められるだろう。かといって頭以外の部位を狙ったって致命傷になるとは到底思えねえッ!  脚を撃ち抜いてその間に逃げ……そいつは御免だッ! だがチクショウッ! どうする!? 八方ふさが…… 「おうッ!」 「何ッ!?」  考えあぐねていたその時、ストレイツォが予想外の行動に出やがった。『グレイトフル・デッド』の制止を押し切って、  突っ込んでくるつもりだとばかり思っていたら……野郎は突然飛び上がった。その跳躍力もやはり異常、だが……それよりも問題なのはッ!  野郎を受け止めるのに、渾身の力で前面へと突っ張っていた『グレイトフル・デッド』がッ! 突如目の前の壁が無くなった事で、  『バランスを崩しているッ! オレを守るのが間に合わない』ッ!! 「小僧ッ! 貴様には『老い』よりも非情なッ! 凄惨なる『死』を与えてやるッ!!」  一層濃くなってきた霧の中、月夜を背にしてストレイツォが襲い掛かってくる。身を躱す余裕はオレにはもう、『ない』……!?  その時になって、オレはようやく一つの違和感に気が付いた。  オレは『グレイトフル・デッド』の『老化』の力をとっくに解除していたにも関わらず、何故未だにオレ達の周囲には『霧』が漂っているのか……?  『霧』は、大気中の水蒸気が『凝結』する事によって発生する現象だ。『凝結』――『冷やす』――『凍らせる』――『静止』――  ――『超低温』。 「ま……まさかッ! この『能力』はッ……」  身を守る術を失った事で錯乱したのか、眼下の小僧はワケの分からない事をぶつぶつとぼやいている。  『死』の恐怖に負けたか……哀れな。だが同情はしない。ここが殺し合いの場であるという以上は。  この『若さ』と『強さ』を兼ね備えた肉体を持ち、小僧の持つ不可思議な能力をも『超越』したわたしは無敵。だが、  その力に溺れる愚などわたしは決して犯さない(ディオとはちがう)。このわたしが掲げる『覚悟』が如何ほどのものか……  身を持って味わうがいいッ! 小僧ッ!! 「このストレイツォォォォォォ――ッ!!」  吸血鬼となり存分に強化された筋肉での、全体重を乗せた踵落としが、小僧の頭部を粉々に踏み砕いた。  霧のせいではっきりとは見えないが、小僧の脳髄か『なにか』が確かに空中に飛び散っている。即死である事は間違いなかった。  けれど、これで終わりではない。わたしが最も忌み嫌う『老い』を、鬱陶しい『能力』によって突きつけてきたこの小僧はッ!  許されざる『罪』を犯した者としてッ! 惨たらしい死に様という名の『罰』を与えなければならないッ!! 「容赦せんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせん  せんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせん!」  バキバキバキバキバキバキバキィッ!!  機関銃よりも重く激しい蹴りの嵐が、小僧の肉体を一撃ごとにボロクズへと近づけていく。無抵抗の亡骸は吊られた人形か何かの如く、  肉片が弾き飛ばされる度に小気味よく宙で舞い踊った。  足裏から感じる手応え(……この場合は足応えが正しいのか?)がやけに硬いのが気掛かりだが、  視覚に映っている粉々の小僧という現実に比べてみれば、その程度の違和感は些細なものだ。  既に、小僧『だったもの』は、その原型すら留めていない。頭は砕け、腕はもげ、脚は千切れ。最後に残った胴体部も、締めの一撃が―― 「……容赦せんッ!!」  ドグシャアァァッ!!  ――蹴り砕いた。  霧の中へと自由落下していった小僧の破片を、見向きもせずに背を向けた。凄惨なる死を与えるとは言ったが、  わたし自身ですら目の当たりにしたくないから『凄惨』と表すのだ。いちいちその様を確認して、精神に悪影響を及ぼさせる必要はない。  裁きは下した。闘いと呼ぶのもおこがましい一方的な虐殺だったが、若干乱れてしまっている髪を掻き揚げ直す。 「フン! たあいのないものよ。残りの参加者はまだ数多いだろうが、わたしの手に掛かれば全員、赤子を殺すより……」 「……殺すより……何だってんだ? ああ?」 「楽な作業……よ……ッ!?」  ――パキィッ。  最初は、それが何の音なのか認識する事が出来なかった。何故なら、わたしは吸血鬼であったし、それはわたしが幼少の頃から、  ずっと手入れを怠らなかったものであったからだ。それが、まさか――  『ガチガチに凍りついたわたしの髪が、掻き揚げた拍子に根元からヘシ折れて、同様に冷え切ってしまった指先へと張り付いている』。  ――こんな事実を、どうして認めることが出来ようか? 「お……おおおおおッ!! バカな……こんなバカなッ! わたしの髪がッ! 七十余年もの間ずっと、大切にしてきたこの髪がァァァ――ッ!!」 「おいおい、正気かよオメー? 髪なんざより、オメーの命を心配した方が……『いいんじゃあねーのかァ……?』」  声は背後から聞こえていた。だがわたしが戦っていた小僧のものではない、当然だ。小僧はわたしが確実に蹴り殺したのだから。  よくよく辺り一面を見回してみると、わたしを中心に地面までもが氷付けになってしまっている。振り向かなければ――そう考えて、  身体を捻ろうとしたところで、気付いた。  ビシビシビシッ……! 「す……既に足元から腰の付け根まで凍らされているッ! 身動きが取れんッ! 一体こいつは何なのだッ!?」 「超低温は『静止の世界』だ……『吸血鬼』だろうが何だろうが、低温世界で動ける物質はなにもなくなる。全てを止められる!  冥土の土産に教えてやるぜッ! オメーが楽しそうに蹴り飛ばしてたのはプロシュートじゃあねえ、  『ホワイト・アルバム』で生み出した氷像なんだよッ! 靄がかかってたせいでよく見えなかったかァ――ッ!? ボケがッ!!」  ぎりぎりで動く首だけを回して、どうにかわたしは背後を確認した。  ――『背筋が凍った』。  雪色の珍妙なスーツに身を包んだ眼鏡の男が、ナイフのように鋭い眼光でこちらを睨み付けてきている。男の風貌はともかく、  その辺りはある程度想定の範囲内の出来事だ。だ……だがしかし、そいつに肩を借りているのはッ! 『始末した筈の小僧』ッ!!  ふ……二人の足元に何か散らばっているぞ……眼鏡の男は何と言った? わたしが砕いたのは『小僧』ではないと? 創られた『氷像』だと?  そうだったのかッ!? わたしが霧の中で小僧の肉片だと思っていたものはッ! 単なる氷の破片に過ぎなかったということかッ!? 「し……しかしこの程度ッ! 『吸血鬼』は肉体を自由自在に操ることが出来るのだッ!  あのディオのやっていた『気化冷凍法』の逆をすれッ……!?」  そこまで言って、気が付いた。『凍らせる』ことの反対。『気化冷凍法』の真逆に位置するものとは? 『熱』……『太陽』……『波紋の呼吸』。  で……出来ないッ! この氷を溶かすために『波紋』で熱を与えようとすればッ! わたしは『波紋』の反作用によって消滅してしまうッ!! 「バ……バカなッ! 『波紋』を知り『吸血鬼』となったこのストレイツォがッ! こんな……ッ!!」 「ブチ……われな……!」 「NUGAAABAHHHH!!」  ……ーん、スト様が死んだ! ストさまよいしょ……  最期の瞬間、聞こえたその言葉は一体何だったのか――まったく検討も付けられないまま、わたしの全身は氷に覆われて……  ドバァァァァァァンッ!!  ……断末魔と共に、砕け散った。 「ギアッチョ……テメーもここに来てたとはな。助かったぜ」  いや、マジにヤバかった。本当にオシマイかと思ったぜ。あの踵落としを食らう間際、  『ホワイト・アルバム』のスケートで滑ってきたギアッチョがオレを掻っ攫い、代わりの氷像を設置していなかったらと思うと、心底肝が冷える。  しかし……いつ見ても恐ろしいスタンドだ。『超低温』の手に掛かっちまえば、あの吸血鬼野郎なんぞは当然の事、  オレの『グレイトフル・デッド』までもが完全に無力化されちまう。『老い』だの『若さ』だの、  そんな下らねえモンを遥かに『超越』しちまってるギアッチョのスタンド『ホワイト・アルバム』。任務の最中、何度コイツに救われた事か。 「プロシュートよォ。オメー、バッグの『中身』見てねーのかよ? 『リスト』が入ってたぜ。オレだけじゃねーぞ、リゾットの奴にゲス野郎のセッコ、  おまけにブチャラティ達や、『ボスの娘』まで来ていやがる」 「何だと? 『トリッシュ』がッ!?」 「よォ、コイツは『幸運』だと思わねーか? オレ達はこの『モリオーチョー』とかいう街に、一人一人バラバラで放逐されている……。  要するに今、『娘』はブチャラティ達の護衛を受けていないってワケだ。『ボス』の正体を掴む絶好の機会だぜェ~ッ」 「なるほど。確かに『ツイてる』な……」  オレとギアッチョは同時に笑った。まったく最高だ、ワケの分からねえ殺し合いに巻き込まれたかと思ったら、  オレ達が必死になって狙ってきた標的を捕まえるまたとないチャンスが巡ってきたんだからな。  『参加者』? 『荒木』? そんなモン、オレ達『チーム』の前じゃあてんで問題にならねえ。  このクソ益体もねえ『ゲーム』を潰し、『ボスの娘』を手に入れて、元の世界で『ボス』を始末する。完璧だ。『栄光』は、オレ達の目の前にある。 「そうと決まったら……別れるとするか、プロシュート」 「ああ、別行動だな。オレの『グレイトフル・デッド』とテメーの『ホワイト・アルバム』は相性最悪、  テメーが空気を『凍らせてる』間は、『グレイトフル・デッド』はまるで役立たずになっちまう。互いに動き回って『娘』を探した方が、効率がいい」 「リゾットの奴も気付いてると思うかァーッ? 『娘』の事によォーッ」 「ヤツはオレ達の『リーダー』だぜ? 気付かないワケがねえ」 「だな。んじゃまー、あばよプロシュート。先に『娘』を見つけんのは……オレだぜェ~ッ」 「ハン……言ってろ、ギアッチョ」  踵を返してオレは東へ、ギアッチョの奴は西へ。名残惜しんで振り返ったりはしねえ、『栄光』は『前』にしかねーんだからな。  『覚悟』しやがれ、『荒木飛呂彦』。オレ達『チーム』が『ブッ殺す』と心の中で思ったなら――  ――『その時スデに、行動は終わっているんだぜ』? 【杜王町 岸辺露伴の家付近(住宅街)/一日目/深夜】 【プロシュート】 [スタンド]:『ザ・グレイトフル・デッド』 [時間軸]:ブチャラティとの戦闘中、『ビーチ・ボーイ』を利用されて列車から転落した瞬間 [状態]:全身に軽い打撲、精神的には極めて良好 [装備]:ミスタの拳銃(残弾数4、予備の弾丸は左ポケットに詰めてある) [道具]:支給品一式×2(ストレイツォの支給品を回収。武器未確認) [思考・状況]1:『トリッシュ』を捕らえて『ボス』の正体を突き止める         2:ゲームを潰す 【ギアッチョ】 [スタンド]:『ホワイト・アルバム』 [時間軸]:ミスタ・ジョルノとの戦闘中、『ジェントリー・ウィープス』は習得済み [状態]:肉体・精神共に良好 [装備]:『ホワイト・アルバムのスーツ』 [道具]:支給品一式(武器はまだ未確認) [思考・状況]1:『トリッシュ』を捕らえて『ボス』の正体を突き止める         2:ゲームを潰す &color(red){【ストレイツォ 死亡】} *投下順で読む [[前へ>盲目の狙撃手]] [[戻る>1日目 第1回放送まで]] [[次へ>ドッピオ、兄貴に出会う]] *時系列順で読む [[前へ>盲目の狙撃手]] [[戻る>1日目 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>ドッピオ、兄貴に出会う]] *キャラを追って読む |プロシュート|40:[[ドッピオ、兄貴と戦う ]]| |ギアッチョ|40:[[死に触れた者達 ]]| |ストレイツォ||
 こいつは一体どういう事態だ? オレは夢でも見ているのか? そうでもなけりゃあ……説明がつかねえ。  フィレンツェ行きの列車から投げ出された筈のオレが、得体の知れねえ真っ暗闇に放り込まれ、何処の誰かも知らねえ野郎の指図を受け、  意味の分からねえ殺し合いをする羽目になっている、この現状の。 「……天国だの地獄だのにしちゃあ、生活感があり過ぎるしな」  ありふれた日本家屋(だろう、多分。イタリア人のオレが一般的な日本の家造りなんざ知るか)が立ち並ぶ住宅街を前に、オレはそう呟いた。  『モリオーチョー』とかいうらしいが、命の遣り取りをする場にしては、どうにも能天気な場所だなと思う。  尤も、異様な空間であるって事は確かだ。深夜0時だからとはいえ、人の気配がまるで感じられない。明かりの点いた家も皆無。  作られた世界――とでも呼ぶのが、妥当なんだろう。それも恐らくは、あの『荒木』とかいう野郎一人の力によるものの。  幻覚だの張りぼてだの、そんなチャチなもんとは全然違う、この風景の立体的な存在感ときたら……ったく、尋常じゃないスタンドパワーだぜ。  最初の真っ暗闇で、あのブ男スタンド使いの放った炎を事も無げに掻き消してみせた事実から言っても、  奴の能力はオレ達の数段上、下手すればあの『ボス』にも匹敵するだろう。  ……が、その程度の事実を目の当たりにしたところでブルっちゃいられねえのが、オレ達『暗殺チーム』の人間ってもんだ。  『荒木飛呂彦』……オメーが仮に、オレ達にとっての神様か何かだとしても、オメーの掌の上で踊らされるつもりなんざ、毛頭ねえんだよ。 『兄貴ィッ! プロシュート兄貴ィッ! やっぱり兄貴ィはスゲェーやッ!』  ……しかし、ペッシの野郎は心配だな。アイツはこんな所に呼ばれてなけりゃあいいんだが……。 「ひとまず……適当な民家にでも隠れて、今後の方針を立てるとするか」  支給されたデイパックを背負いなおし、目に付いた一軒へとオレが足を向けた……その直後、  ドギャーンッ! 「うッ……うおおおおーッ!?」  オレの足は即座に止まった。それは一体何故か。  ……丁度オレが目指していた家のドアに二つの穴が穿たれて、そこからトンでもない速度の光線……なのか!? とにかく光線か何かだッ!  それが発射されたからだッ! 一直線にオレを狙っているッ! 「ガードしろッ! 『ザ・グレイトフル・デッドォォォ――ッ!!』」  オレの眼前に盾となるような格好で、腕を交差した『グレイトフル・デッド』を出現させる。同時に『能力』を発動させるのも忘れない。  『グレイトフル・デッド』のボディに幾多も描かれている眼(まなこ)から、飲み込んだ者を例外なく、『偉大なる死』へと誘う霧が噴き出す。  対の光線は、『グレイトフル・デッド』の腕にあっさりと弾かれ拡散した。衝撃も何も感じなかった。その事が逆に、オレを疑念へと駆り立てる。  ……どうなっている? 今の光線は『スタンド攻撃』じゃあないってことか? バカな……今のが『スタンド攻撃』じゃないなら何だっていうんだ、  敵は未来人か? レーザー銃でも構えた奇天烈な服装の野郎が、あの家の中から出てくるとでもいうのか? 「ワケがわからねーが……今の攻撃は『防いだ』! 家の中のテメー、奇襲はもう通じねーぜッ! 出てこいッ!」  ……尤も、既にあの家は『グレイトフル・デッド』の射程距離に入っている。ヨボヨボのジジイになってりゃあ、  ドアを開けるのも一苦労だろうさ。いずれにせよこの野郎は『始末』する。『荒木』の野郎がどう捉えるかは知らねーが、  不意打ちでこっちの命を狙ってきた野郎に対して情けを掛けるような心は、ハナから持ち合わせちゃあいないんでな……。  『グレイトフル・デッド』を盾にしたまま、目標の民家へとにじり寄る。出てくる気が無いならこちらから打って出るまで――ん?  ……ゴゴゴゴゴ……。  ……民家までおよそ10mといった所か。実に当たり前のような動作で、霧に覆われたドアは開かれた。  『皺一つ刻まれていない手でノブを握っている、整った顔付きの若い男が、そこから出てきた』。  ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……! 「な……何だとォーッ!?」  バカな……どれもこれも有り得ない事態だ! 目の前の男は完璧に『グレイトフル・デッド』の射程に入っているッ! 『老いないはずがない』ッ!  『氷』に気が付いたとでもいうのか? そんな筈はない! 今までの攻防で『氷』に気が付く要素が何処にあるッ! こいつは一体何なんだッ!? 「何者だぁテメェェェェェ――ッ!! 何故歳を取らねえんだッ!? それがテメーの『スタンド能力』なのかァァ――ッ!!」  自分自身でそう叫びながらも、『違う』と直感では気付いていた。こいつは『違う』……オレの『勘』だが、こいつが持ってる独特の『空気』は、  『スタンド使い』のそれとはまったく異質な別のモンだ! こいつ自身が『奇妙』なんだッ! 『まるで人間じゃあないような』……『奇妙』だッ!  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!! 「……言っていることの意味が……よく分からないが……」  男がノブから手を離した。それだけの動作に、総毛立つ。  暗殺者として、『スタンド使い』としての警戒心が、最大級の警笛を鳴らしていた。離脱するべきだ、と。原理は不明であるとはいえ、  男に『グレイトフル・デッド』は通用しないということが明らかである以上、真っ向からやりあった所で、オレに勝ち目はないも同然なのだから。  だが……冗談じゃねえ。このオレが能力で敵わねえからといって、ほんの一手やり合っただけの相手を前に尻尾を巻いて逃げ出すだと?  『能力が効かない』っていうんなら、この野郎もオレと条件は同じだ。野郎の『光線』は『スタンド』を貫く事が出来なかった。付入る隙は、  オレにも充分――『ある』。負け犬ムードに浸るのはまだ……早えッ! 「その『人影』が……本来ならば『そうさせる』のか? わたしの肉体を『老いさせる』とでもいうのか? 実に『奇妙』な話だが……」 「続きは地獄で喋るんだなァ――ッ! 『ザ・グレイトフル・デッドッ!!』」  暢気に言葉を紡がせはしねえ。『グレイトフル・デッド』を前面に押し出して、突っ込む。『老化』の霧は既に掻き消した。  安全圏からのチマチマした『老化』が通じないってんなら……オレに残された手は一つしかねえ!  木偶のように突っ立って、構えの一つすら取らねえ野郎の頭を、『グレイトフル・デッド』の両腕が鷲掴みにする。パワー全開だ、クソ野郎ッ!! 「『直』は素早いんだぜェ――ッ! 今度こそ『老い』をくらえェェ――ッ!!」  ズギュウウウウウウウウウウン!! 「フ……フフフフフ……」 「……!?」  野郎は笑っていた。滑稽なものを見るような目で笑っていた。『グレイトフル・デッド』の『直』ざわりを受けているのに……い……いや!  『実感』がないッ! 『グレイトフル・デッド』の掌から、『老化エネルギー』は確実に野郎の頭部へと流れていっている筈なのにッ!  『それが野郎の全身に浸透しているという実感がない』ッ!! まるでこいつの肉体が、『老い』そのものを拒絶しているようなッ!  野郎の『肌』も! 『声』も! 『何もかも』がッ! 『若さ』を保ち続けているッ!! 「じ……『直』ざわりでさえも……通用しねーのかッ!」 「フハハハハハハハハハハハハ……!」  高笑いを上げた野郎の両手が、自分の頭を押さえ付けた『グレイトフル・デッド』の手を掴もうとしているのか、耳の横へと持ち上げられる。  しかし無駄だ。どういうワケか、この野郎には『スタンド』が見えているらしいが、生身の人間が『スタンド』に触れる事は出来ねえ。  その基本原則は変わらねえ筈だ。つまり野郎に、『グレイトフル・デッド』の腕を引き剥がす方法はねえッ! このまま頭を握り潰してやるッ!!  『グレイトフル・デッド』の両腕に力を込めさせる。その命令の数秒後には、野郎の頭は風船のように破裂している筈だった。しかし―― 「MMMMMMOOOHHHH!!」 「お……おおおおおおッ!?」  目の前で繰り広げられた――というか、オレ自身が体験する羽目になってしまったこの馬鹿げた状況の説明をすると、こうなる。  野郎はその場で竜巻のように身を回転させて、ジャイアントスイングの要領で強引に『グレイトフル・デッド』の両手を引っぺがしたのだ。  確かに、人間の側から『スタンド』に触れる事は出来ない。しかし、しがみ付いている側のこちらが手を離してしまえば、  吹っ飛ばされるのは勝手に手を離したこっちの方になるというワケだ。そして、『スタンド』が放り投げられたという事は、  本体のオレもまた然り――「ゴバッ!!」  想像以上の遠心力に身体の自由が利かず、受身もまともに取れないまま、肩口から地面へと叩きつけられる。  あちこちで骨の軋む音が聞こえた。痛え。滅茶苦茶に痛え。『グレイトフル・デッド』の手を借りて、どうにか立ち上がってみせる。  たとえ腕を飛ばされようが、脚をもがれようが、『スタンド』だけは決して解除しない。  自信満々にペッシに言ってのけたことだ、オレが実践出来ねーでどーする! 「グ……とはいえ……クソッタレが……何故『老化』の影響を受けねえ? テメーは一体、何なんだ……?」 「……ハハハハハハハ。『老い』か……原理はまったく分からんが、それが貴様の『能力』というワケか。  『波紋』とも、『石仮面』とも、まるで異なる力……興味深いものを見せてくれた礼として、殺す前に教えてやるッ!」  漆黒の長髪を仰々しく振って、野郎は不敵な笑みの浮かんだ口を開いた。 「わたしの名はストレイツォ……ほんの一昨日に『石仮面』を被り、『吸血鬼』となった者だ」 「……『吸血鬼』だと?」 「『吸血鬼』は、貴様の言う『老い』に苛まれる事もなければ、死の恐怖に怯える事もない……即ち『不老不死』! 人間を超越した存在なのだ!  わたしが石仮面を被った時は、既に齢70を過ぎた老人だった……しかし見よ、この瑞々しさを取り戻した張りのある肉体を! この肌を!  『永遠の若さ』とは『至上の幸福』! これ以上にない充実感をわたしは味わっている……というワケだ。理解出来たか? 小僧ッ!」  ……ハン。外見上は殆どオレと歳が離れてなさそうだってのに、小僧呼ばわりまでされりゃあよ――信じるしかねーわな。  しかし、その『石仮面』っつーのは……『ポルポ』の奴が持ってたっていう『矢』みてーなモンか?  『石仮面』ってのもアレと同様、随分常軌を逸した代物だが、身に付けただけでお手軽吸血鬼たぁ、化け物になるのも案外楽なモンだなオイ。  ――なんて、軽口叩いてる場合じゃあねーぞ……要するに、目の前にいやがるのは正真正銘の化け物で、  この野郎にはもう100%、『グレイトフル・デッド』の『老化』は効かないってことで…… 「貴様の能力……『偉大なる死(ザ・グレイトフル・デッド)』とか言ったか。  『若さ』を保ちたいという、万人共通の願いを突き崩さんとする貴様の力は気に入らんッ!  このストレイツォが直々にッ! 貴様の命ごと、その忌まわしき力を葬り去ってくれるッ!!」  背筋に悪寒が走ったのは、おそらく再び噴き出してきた霧のせいだけではなかった。  ……ヤベーぞ、この状況。『ツイてない』のは、どう考えてもオレの方じゃあねーかッ! 「『覚悟』はいいかッ! 小僧ッ!!」 「『グレイトフル・デッ』……うおおおおおッ!?」  猛獣のような牙を剥き出しに襲ってくるストレイツォの身体を、『グレイトフル・デッド』が両の手を突き出し受け止める。  だっ、だが……この『馬力』はッ! これが『吸血鬼』の脚力なのかッ!? 10tトラックでも相手にしてるような圧力だッ!  『グレイトフル・デッド』は上半身だけのスタンド……踏ん張りが利かねえッ! 押し戻されるッ!! 「マッ……マズいッ! こうなったら……」  この空間に飛ばされた時から右ポケットに挿してあった、リボルバー式の拳銃を抜き取る。  何の因果か知らねえが、そう、『ミスタの拳銃』だ。流石におまけの『ピストルズ』までは付いてこなかったが、  『当たり』の方に位置する武器であろう事は間違いない。既に弾丸は装填されている。化け物野郎め、テメーの不死身がどれ程のモンか…… 「コイツでためしてやるッ! 脳漿ブチ撒けやがれ、ストレイツォォ――ッ!!」  ダンッ! ダンッ!  連続で二発、ストレイツォの頭部目掛けてブッ放した。距離はおおよそ3m、外しっこねえ距離でもあれば、避けられっこねえ距離でもある。  充満する霧と硝煙が混ざって霞みきっている視界の向こう、まず一発目が野郎の左目を潰…… 「RRRRRRRR……愚かな……!」  ゴオアッ! パキィィンッ!!  ……すその寸前、ストレイツォの瞳孔が不気味に開いて、その中心から放たれたのは……さっきの光線だッ! あの光線が、  眼球へと一直線に飛んでいった二発の弾丸を、正確に撃ち抜いて蒸発させやがったッ!  ストレイツォが撃ってきた光線の正体はッ! 『吸血鬼』と化した野郎のえげつない『体液』だったのかッ!! 「高圧で体液を目から発射する、名づけて空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)!」  ……目からビームたぁ、いよいよ本格的に人間離れしてきやがった。クソッタレ……弾丸は残り四発だが、  頭への銃撃は何度やったところであの『体液』に止められるだろう。かといって頭以外の部位を狙ったって致命傷になるとは到底思えねえッ!  脚を撃ち抜いてその間に逃げ……そいつは御免だッ! だがチクショウッ! どうする!? 八方ふさが…… 「おうッ!」 「何ッ!?」  考えあぐねていたその時、ストレイツォが予想外の行動に出やがった。『グレイトフル・デッド』の制止を押し切って、  突っ込んでくるつもりだとばかり思っていたら……野郎は突然飛び上がった。その跳躍力もやはり異常、だが……それよりも問題なのはッ!  野郎を受け止めるのに、渾身の力で前面へと突っ張っていた『グレイトフル・デッド』がッ! 突如目の前の壁が無くなった事で、  『バランスを崩しているッ! オレを守るのが間に合わない』ッ!! 「小僧ッ! 貴様には『老い』よりも非情なッ! 凄惨なる『死』を与えてやるッ!!」  一層濃くなってきた霧の中、月夜を背にしてストレイツォが襲い掛かってくる。身を躱す余裕はオレにはもう、『ない』……!?  その時になって、オレはようやく一つの違和感に気が付いた。  オレは『グレイトフル・デッド』の『老化』の力をとっくに解除していたにも関わらず、何故未だにオレ達の周囲には『霧』が漂っているのか……?  『霧』は、大気中の水蒸気が『凝結』する事によって発生する現象だ。『凝結』――『冷やす』――『凍らせる』――『静止』――  ――『超低温』。 「ま……まさかッ! この『能力』はッ……」  身を守る術を失った事で錯乱したのか、眼下の小僧はワケの分からない事をぶつぶつとぼやいている。  『死』の恐怖に負けたか……哀れな。だが同情はしない。ここが殺し合いの場であるという以上は。  この『若さ』と『強さ』を兼ね備えた肉体を持ち、小僧の持つ不可思議な能力をも『超越』したわたしは無敵。だが、  その力に溺れる愚などわたしは決して犯さない(ディオとはちがう)。このわたしが掲げる『覚悟』が如何ほどのものか……  身を持って味わうがいいッ! 小僧ッ!! 「このストレイツォォォォォォ――ッ!!」  吸血鬼となり存分に強化された筋肉での、全体重を乗せた踵落としが、小僧の頭部を粉々に踏み砕いた。  霧のせいではっきりとは見えないが、小僧の脳髄か『なにか』が確かに空中に飛び散っている。即死である事は間違いなかった。  けれど、これで終わりではない。わたしが最も忌み嫌う『老い』を、鬱陶しい『能力』によって突きつけてきたこの小僧はッ!  許されざる『罪』を犯した者としてッ! 惨たらしい死に様という名の『罰』を与えなければならないッ!! 「容赦せんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせん  せんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせん!」  バキバキバキバキバキバキバキィッ!!  機関銃よりも重く激しい蹴りの嵐が、小僧の肉体を一撃ごとにボロクズへと近づけていく。無抵抗の亡骸は吊られた人形か何かの如く、  肉片が弾き飛ばされる度に小気味よく宙で舞い踊った。  足裏から感じる手応え(……この場合は足応えが正しいのか?)がやけに硬いのが気掛かりだが、  視覚に映っている粉々の小僧という現実に比べてみれば、その程度の違和感は些細なものだ。  既に、小僧『だったもの』は、その原型すら留めていない。頭は砕け、腕はもげ、脚は千切れ。最後に残った胴体部も、締めの一撃が―― 「……容赦せんッ!!」  ドグシャアァァッ!!  ――蹴り砕いた。  霧の中へと自由落下していった小僧の破片を、見向きもせずに背を向けた。凄惨なる死を与えるとは言ったが、  わたし自身ですら目の当たりにしたくないから『凄惨』と表すのだ。いちいちその様を確認して、精神に悪影響を及ぼさせる必要はない。  裁きは下した。闘いと呼ぶのもおこがましい一方的な虐殺だったが、若干乱れてしまっている髪を掻き揚げ直す。 「フン! たあいのないものよ。残りの参加者はまだ数多いだろうが、わたしの手に掛かれば全員、赤子を殺すより……」 「……殺すより……何だってんだ? ああ?」 「楽な作業……よ……ッ!?」  ――パキィッ。  最初は、それが何の音なのか認識する事が出来なかった。何故なら、わたしは吸血鬼であったし、それはわたしが幼少の頃から、  ずっと手入れを怠らなかったものであったからだ。それが、まさか――  『ガチガチに凍りついたわたしの髪が、掻き揚げた拍子に根元からヘシ折れて、同様に冷え切ってしまった指先へと張り付いている』。  ――こんな事実を、どうして認めることが出来ようか? 「お……おおおおおッ!! バカな……こんなバカなッ! わたしの髪がッ! 七十余年もの間ずっと、大切にしてきたこの髪がァァァ――ッ!!」 「おいおい、正気かよオメー? 髪なんざより、オメーの命を心配した方が……『いいんじゃあねーのかァ……?』」  声は背後から聞こえていた。だがわたしが戦っていた小僧のものではない、当然だ。小僧はわたしが確実に蹴り殺したのだから。  よくよく辺り一面を見回してみると、わたしを中心に地面までもが氷付けになってしまっている。振り向かなければ――そう考えて、  身体を捻ろうとしたところで、気付いた。  ビシビシビシッ……! 「す……既に足元から腰の付け根まで凍らされているッ! 身動きが取れんッ! 一体こいつは何なのだッ!?」 「超低温は『静止の世界』だ……『吸血鬼』だろうが何だろうが、低温世界で動ける物質はなにもなくなる。全てを止められる!  冥土の土産に教えてやるぜッ! オメーが楽しそうに蹴り飛ばしてたのはプロシュートじゃあねえ、  『ホワイト・アルバム』で生み出した氷像なんだよッ! 靄がかかってたせいでよく見えなかったかァ――ッ!? ボケがッ!!」  ぎりぎりで動く首だけを回して、どうにかわたしは背後を確認した。  ――『背筋が凍った』。  雪色の珍妙なスーツに身を包んだ眼鏡の男が、ナイフのように鋭い眼光でこちらを睨み付けてきている。男の風貌はともかく、  その辺りはある程度想定の範囲内の出来事だ。だ……だがしかし、そいつに肩を借りているのはッ! 『始末した筈の小僧』ッ!!  ふ……二人の足元に何か散らばっているぞ……眼鏡の男は何と言った? わたしが砕いたのは『小僧』ではないと? 創られた『氷像』だと?  そうだったのかッ!? わたしが霧の中で小僧の肉片だと思っていたものはッ! 単なる氷の破片に過ぎなかったということかッ!? 「し……しかしこの程度ッ! 『吸血鬼』は肉体を自由自在に操ることが出来るのだッ!  あのディオのやっていた『気化冷凍法』の逆をすれッ……!?」  そこまで言って、気が付いた。『凍らせる』ことの反対。『気化冷凍法』の真逆に位置するものとは? 『熱』……『太陽』……『波紋の呼吸』。  で……出来ないッ! この氷を溶かすために『波紋』で熱を与えようとすればッ! わたしは『波紋』の反作用によって消滅してしまうッ!! 「バ……バカなッ! 『波紋』を知り『吸血鬼』となったこのストレイツォがッ! こんな……ッ!!」 「ブチ……われな……!」 「NUGAAABAHHHH!!」  ……ーん、スト様が死んだ! ストさまよいしょ……  最期の瞬間、聞こえたその言葉は一体何だったのか――まったく検討も付けられないまま、わたしの全身は氷に覆われて……  ドバァァァァァァンッ!!  ……断末魔と共に、砕け散った。 「ギアッチョ……テメーもここに来てたとはな。助かったぜ」  いや、マジにヤバかった。本当にオシマイかと思ったぜ。あの踵落としを食らう間際、  『ホワイト・アルバム』のスケートで滑ってきたギアッチョがオレを掻っ攫い、代わりの氷像を設置していなかったらと思うと、心底肝が冷える。  しかし……いつ見ても恐ろしいスタンドだ。『超低温』の手に掛かっちまえば、あの吸血鬼野郎なんぞは当然の事、  オレの『グレイトフル・デッド』までもが完全に無力化されちまう。『老い』だの『若さ』だの、  そんな下らねえモンを遥かに『超越』しちまってるギアッチョのスタンド『ホワイト・アルバム』。任務の最中、何度コイツに救われた事か。 「プロシュートよォ。オメー、バッグの『中身』見てねーのかよ? 『リスト』が入ってたぜ。オレだけじゃねーぞ、リゾットの奴にゲス野郎のセッコ、  おまけにブチャラティ達や、『ボスの娘』まで来ていやがる」 「何だと? 『トリッシュ』がッ!?」 「よォ、コイツは『幸運』だと思わねーか? オレ達はこの『モリオーチョー』とかいう街に、一人一人バラバラで放逐されている……。  要するに今、『娘』はブチャラティ達の護衛を受けていないってワケだ。『ボス』の正体を掴む絶好の機会だぜェ~ッ」 「なるほど。確かに『ツイてる』な……」  オレとギアッチョは同時に笑った。まったく最高だ、ワケの分からねえ殺し合いに巻き込まれたかと思ったら、  オレ達が必死になって狙ってきた標的を捕まえるまたとないチャンスが巡ってきたんだからな。  『参加者』? 『荒木』? そんなモン、オレ達『チーム』の前じゃあてんで問題にならねえ。  このクソ益体もねえ『ゲーム』を潰し、『ボスの娘』を手に入れて、元の世界で『ボス』を始末する。完璧だ。『栄光』は、オレ達の目の前にある。 「そうと決まったら……別れるとするか、プロシュート」 「ああ、別行動だな。オレの『グレイトフル・デッド』とテメーの『ホワイト・アルバム』は相性最悪、  テメーが空気を『凍らせてる』間は、『グレイトフル・デッド』はまるで役立たずになっちまう。互いに動き回って『娘』を探した方が、効率がいい」 「リゾットの奴も気付いてると思うかァーッ? 『娘』の事によォーッ」 「ヤツはオレ達の『リーダー』だぜ? 気付かないワケがねえ」 「だな。んじゃまー、あばよプロシュート。先に『娘』を見つけんのは……オレだぜェ~ッ」 「ハン……言ってろ、ギアッチョ」  踵を返してオレは東へ、ギアッチョの奴は西へ。名残惜しんで振り返ったりはしねえ、『栄光』は『前』にしかねーんだからな。  『覚悟』しやがれ、『荒木飛呂彦』。オレ達『チーム』が『ブッ殺す』と心の中で思ったなら――  ――『その時スデに、行動は終わっているんだぜ』? 【杜王町 岸辺露伴の家付近(住宅街)/一日目/深夜】 【プロシュート】 [スタンド]:『ザ・グレイトフル・デッド』 [時間軸]:ブチャラティとの戦闘中、『ビーチ・ボーイ』を利用されて列車から転落した瞬間 [状態]:全身に軽い打撲、精神的には極めて良好 [装備]:ミスタの拳銃(残弾数4、予備の弾丸は左ポケットに詰めてある) [道具]:支給品一式×2(ストレイツォの支給品を回収。武器未確認) [思考・状況]1:『トリッシュ』を捕らえて『ボス』の正体を突き止める         2:ゲームを潰す 【ギアッチョ】 [スタンド]:『ホワイト・アルバム』 [時間軸]:ミスタ・ジョルノとの戦闘中、『ジェントリー・ウィープス』は習得済み [状態]:肉体・精神共に良好 [装備]:『ホワイト・アルバムのスーツ』 [道具]:支給品一式(武器はまだ未確認) [思考・状況]1:『トリッシュ』を捕らえて『ボス』の正体を突き止める         2:ゲームを潰す &color(red){【ストレイツォ 死亡】} *投下順で読む [[前へ>盲目の狙撃手]] [[戻る>1日目 第1回放送まで]] [[次へ>ドッピオ、兄貴に出会う]] *時系列順で読む [[前へ>盲目の狙撃手]] [[戻る>1日目 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>ドッピオ、兄貴に出会う]] *キャラを追って読む |プロシュート|29:[[ドッピオ、兄貴と戦う ]]| |ギアッチョ|38:[[死に触れた者達 ]]| |ストレイツォ||

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