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暴走する男達」(2008/02/05 (火) 17:14:42) の最新版変更点

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『えー皆聞こえてるかな?それじゃあただいまから一回目の放送を行いま~す』 「何ィッ!おのれッどこにいる!」  突然聞こえてきた荒木の声に私は警戒態勢を整え、周りを見渡す。 「おい!お前達ッ!気をつけろッそこら辺にあの荒木とかいうやつがいるぞッ!」 「気をつけるのは、ダイアー。おまえの方だ。無闇に大声を出すんじゃない」  アヴドゥルが私の忠告を無視する。あのあほが……。 「バカか!おまえは!やつの声がすぐ近くから聞こえて来るんだぞッ。周りには放送設備なんぞ無いし民家しか」  この瞬間、私は背中に衝撃を感じた。億泰に背中を殴られたのだ。(軽くだが) 「ちょっと黙ってろよてめえ。あれ見てみろよ」  億泰は私に対してかなり苛ついているようだ。鋭い目で私を睨みドスのきいた声で威嚇してくる。なぜだ?全くわからない。  とりあえずそんな疑問は脇に置き億泰が指差した方向を見る。 「なっなんだあれはッ」  民家の窓ガラスに不鮮明ながらも荒木の姿が映っている。奴の声もどうやらその窓から聞こえているようだ。    これはいったいどういう冗談だ?こんなことがありえるのか?いくら吸血鬼でもこんなことはできないし、波紋でも当然できない。  そこまで考えると、私は一つの可能性に気がついた。スタンドだ。  おそらくスタンドなら可能なのだろう。しかし本当に何でもありだな……。   「アヴドゥルさん。荒木のスタンドがあんたの言っていた『記憶を操る』スタンドならこんなことはできないんじゃねえの?」 「チッチッチッ。荒木にだって協力者の一人や二人いてもおかしくは無い」 「あっなるほど。それもそうだな」 「やっぱりこれもスタンドとかいう奴な……」 「待て。荒木が今から死者の名を言っていくみたいだぞ。話は放送が終わった後だ」  アヴドゥルと億泰は素早くメモを構える。私も渋々デイパックからメモを取り出し書く準備を整えた。  ……おのれ。こいつら、私の言葉を知能が低く話もできない赤ん坊の発言のように捉えおって。なんという屈辱だ。    *  *  * 『じゃあ、おおむねそうゆうことでよろしくね―――』  放送が終わった。私の知り合いで死んでしまったのはジョナサンとかいう奴とストレイツォ。  これで知り合いはツェペリさん一人だけになってしまった。  ストレイツォがたった六時間で死んでしまうとはな……。老師トンペティの下で共に修行してきた奴の死、さすがにこたえるな。  しかし……悲しんでいる暇はないのだ。許せストレイツォ。私は何とかして荒木を倒さなければならないのだ。  ジョナサンの死は……正直、それほど悲しくは無い。ジョナサンと私との関係はお互いに顔と名前を認知しているだけ。  奴が死んで少しは悲しかったが、何てことは無い。私は吸血鬼と戦う身であるため人の死には慣れていた。 「ジョナサン・ジョースター。ツェペリさんは気に入っていたようだがやはり大した事無かったんだな」  私は何とはなしにそっと呟いた。何の感情もこめずに静かに軽く言った。しかし、この発言がそもそもの始まりだったのだ。 「おまえ、もういっぺん言ってみろ。誰が大した事ないだってぇ」  億泰が再び私を威嚇する。なぜだ。今度ばかりは本当にわからないぞ。もしかすると、私がさっき言った言葉に関係があるのか。 「いや、だからジョナサン・ジョースターはやはり大した事なかったと言ったんだが……。すまない。死者を冒涜するのは最低の行為だな」 「そうじゃねえーッ!微妙にセリフ変えてんじゃねえよッ!おまえが『大した事無い』って言ったのは『ジョセフ』・ジョースターだろうがッ!  ジョナサンとか言う野朗なんかどうだっていいんだよぉー!てめえ言い逃れしようって腹かーーー?」 「……え?」  この瞬間わたしの思考はショートした。わたしが『大した事無い』と、言ったのは『ジョナサン』だ。『ジョセフ』でも『ジョニー』でも無い。  つまり、この不良を気取っている若造は聞き間違いをしたと言う事なのか? 「え?じゃねえよ、なんか言いやがれッどうせてめえは由花子も大した事無いって思ってるんだろうがッ!」  ……こ、この少年、聞き間違えたというより、少し混乱してきているのではないか?  由花子とか言う奴、わたしは全然知らんぞ。なんだかヤバイ雰囲気になってきた。   「か、勘違いだ。君の聞き間違いだよ。それに由花子って誰だ」 「しらばっくれんじゃねえッ!この野朗ッ!ぶん殴ってやるッ」  億泰が拳を振りかぶる。まずいぞ、これは……。それにしてもこの億泰という男、頭悪すぎだろ。  どうする?このまま争いになるのはまずい。こいつにはスタンドがあるしなあ。とりあえずッ  億泰の硬く握られた鉄拳が私に襲い掛かる。私は素早くそのパンチを見切り、全く危なげない動作で拳を受け止めた。  老師トンペティによる荒行の賜物だ。 「誤解だッ!話を聞いてくれ」 「聞く話なんて、何もねえぜッ」  億泰が例のスタンドを発現させる。どうする。今度こそどうすればいいんだ?戦うしかないのか?  私は勝てるのか?この得体の知れないスタンドにッ。 「二人ともやめろッ!!!」    天をも割く大声が響いた。声の主はアヴドゥルである。  億泰はアヴドゥルの事を私よりかは尊敬しているのであろう。素直に私から離れスタンドを消した。  しかし、彼の目は依然私を睨んだままである。 「アヴドゥルよお。あんた聞いてなかったのかよ。こいつ確かに言ったんだぜ。『ジョセフ・ジョースターはやはり大した事無い』ってな」 「しかしダイアーは否定しているみたいだぞ。そうだな?」 「当たり前だ!億泰の聞き間違いだよ。わたしは『ジョセフ』ではなく『ジョナサン』と言ったんだ。  まあどちらにしてもわたしは死者を冒涜してしまったのだがね。それに私はジョセフ・ジョースターなんて知らん。出会った時に言ったはずだ」  必死の思いを言葉に込めて言う。アブドゥルは私を信じてくれるか? 「違う。アヴドゥル信じるな。俺は確かにこの耳で聞いたんだぜ」  アヴドゥルは真剣な眼差しで私を見つめる。おまえはうそをついてるのか、本当のことを言っているのかと、目で問いかけてくる。  私の目を見つめたままアヴドゥルがゆっくりと口を開く。 「私はダイアーが何を言っているのか。聞き取れなかった。私もジョースターさんが死んでしまって悲しかったからな……。  しかし、ダイアーが何かぶつぶつ言っているのは見た」  すかさず億泰が口を挟む。 「それだよッ!こいつはその時言っていたんだ。今はただ言い訳しているだけだぜぇ。こいつは俺達を敵に回すわけにはいかないからな」  『敵に回すわけにはいかない』どういう意味だ? 「なぜそう思う。私も場合によっては君たちに反抗するかもしれないぞ?」 「へっ、出来るわけないだろ。てめえの波紋で俺達のスタンドに勝てるとでも思ってんのかよ」 「何イッ!!私の波紋が、老師トンペティの下で長年磨き上げてきた私の波紋が君たちのスタンドに敵わないとでもッ!波紋を嘗めるなッ」  声を張り上げ叫ぶ。私はこいつらにいくら嘗められても構わない。しかし、『波紋』だけは別だ。  吸血鬼に対抗するため先人達が必死の努力で練り上げてきた波紋だ。  こんな若造に嘗められるわけにはいかない。『波紋でスタンドに勝てるかな』と、私自身が思ってしまったことがあるが、それは別にいい。  とにかく、吸血鬼や波紋のことを何も知らない軟弱者にバカにされるわけにはいかないのだ。 「俺は波紋だけを嘗めてるわけじゃないぜ。『てめえ』を俺は嘗めてるんだよ。おまえなんて大した事無い奴だ。  俺達に出会わなかったら速攻で死んでるに決まってるッ!」 「よくも、よくも言ってくれたな億泰……。」  億泰に向けて歩を進める。私の必殺技の間合いまであと少し。 「やめろダイアー」  アヴドゥルが私の前に立ちはだかる。億泰も憎いがこいつもまた憎い。こいつも億泰と同じように私と波紋を馬鹿にしているのだろう。  私への接し方でわかる。 「億泰と少し話がしたい。おまえがいると億泰が冷静でいられないからな」  ……話だと。何を相談するというのだ。私を追い払う算段か?二人でぶん殴るための話し合いか?  悲観的な考えが浮かぶが、事実、私が億泰と絡むと何の話も進まない。私は素直に、彼らに背を向け地面に腰を下ろした。   「……私は言っていないぞ。アヴドゥル」 「そうであることを願っている」    *  *  * 「あいつは絶対に言ったぜ。ぶん殴ってやろうぜ。アヴドゥル」 「おまえはすぐに『ぶん殴る』だな」  ダイアーから少し離れた場所で私と億泰の話し合いが始まった。  私としては、できるだけ争い事は避けたい。  億泰が言うように、ダイアーがジョースターさんのことを馬鹿にしたのであれば、やはりそれは、私にとっても、億泰にとっても、許しがたい行いだ。  しかし、だからといってダイアーと殺し合いを始めるわけにはいかない。スタンドは持っていなくともダイアーは一応仲間だ。  こんな状況だ。仲間は一人でも多い方がいい。それに殺し合いをするという事はゲームに乗るという事だからな。  あの巨悪、荒木の思惑通りだ。ゲームに乗るくらいなら死んだほうがましだと私は考えている。  私の考え方を、この少年は理解してくれるだろうか……。 「億泰、少し考えてくれ。ここで彼と争ってどうする。血が流れるだけだ。荒木の思う壷だぞ」  億泰は不機嫌そうに私の言葉に反応する。 「あんたは悲しくねえのかよ。ジョースターさんが死んじまったんだぜ。  俺の友達……ほとんど話しかけられたことなかったけど由花子って女もだ。俺は二人のこと考えると……なんつーかイラついて来るんだよ  絶対にあの野朗を許せねー程になァァァァ!」  億泰の叫びが杜王町にこだまする。ダイアーにも届いたはずだ。  この少年の気持ちは痛い程よくわかる。私だって悲しい、悔しい。しかし、その気持ちをダイアーにぶつけるのは駄目だ。  それはただの八つ当たり以外の何物でもない。 「おまえの気持ちはよくわかる。私だって悲しい。ダイアーが本当にジョースターさんを馬鹿にしたのであれば、私だって許せない。  しかし今は状況が違う。真に憎むべき相手は荒木だろう?私達はダイアーに対する怒りを抑えなければならない」  億泰が沈黙する。億泰はかなりイラついている。表情、目などから彼のイラつきを充分に察する事ができる。  私はこの時ある疑問を感じた。それは、ジョースターさんはこの億泰という少年といったいいつ、どこで出会い、親交を深めたのだろうということだ。  ジョースターさんはなぜ日本の不良にこれほどまでに思われているのだろうか。  いや待てよ。億泰は承太郎を知っていると言った。億泰は承太郎と同級生?たしか億泰は『承太郎さん』と言っていたな。  ということは承太郎の舎弟といった所か?それとも後輩?  承太郎が海外からはるばるやって来た自分の祖父に、自分の舎弟である億泰を紹介。そんなことをあの承太郎がするだろうか……。  私が疑問について考えを巡らしていると、億泰が沈黙に耐えられなくなったのか、ゆっくりと話し始めた。疑問はとりあえず置いておこう。 「俺は頭悪いけどよ、あんたの言う『理屈』はわかるぜ。でももう無理だ。どうやっても、ダイアーを疑ってしまう。  アヴドゥル、悪いけどよ。俺は感情で動いてしまうタイプなんだ。  例えばよお、誰がどう考えても正しい道ってのがあるよなあ。俺もなるべくその道を行きたいんだ。だけど俺はよ、たまに道を間違えるんだ。  その場の気持ちとかに惑わされてな……だけど俺はそれでいいと思ってる。理屈よりも『感情』で動く。  それが俺だ……馬鹿にしても、構わないぜ」  言い終わると、億泰は私に背を向け歩き出した。 「どこへ行くッ!」 「もう話し合うことなんか何も無いぜ。  俺がいると駄目だ。もうダイアーといっしょに行動できない。あんたはダイアーと行動してくれ。俺は一人で行動する……。  お互い生きてたらまたどこかで会おうぜ」  ……これほどまでか。億泰、おまえにはこれ程の思いがあったのか。ジョースターさんとどんな関係だったのだろうか。  ダイアーは言い間違えただけかもしれないのに、憎むべき相手は荒木なのに。  それほどまでに、死んでしまったジョースターさんと由花子という女を大切に思っていたのか……。  私もどちらかといえば直情型の人間だ。  億泰から、ダイアーがジョースターさんを馬鹿にしたと聞いた時、私も一瞬、殴ってやりたいという衝動に囚われた。  私はあの時、億泰と同じように殴りかかろうとしたのだ。  しかし、私より先に億泰がダイアーに殴りかかったことによって、私にこのチームをまとめなければという責任感が生まれ、  その責任感が私の衝動を急激に萎えさせたのだ。  できれば億泰を引き止めたい。私の『心』がそう言っている。  しかし一方で、私の『頭』は、「場を乱すような奴とはいられない。このまま行かせてやれ」と言っている。  どちらが正しいのだ。私は億泰を引き止めたいのだ。しかし、彼とダイアーが協力できるはずがない。  三人のうち二人が常に小競り合いをしている。そんな状況でどうやって打倒荒木の仲間を集めることができる。  『心』と『頭』、どちらに従えばいいんだ。  脳裏にジョースターさんの姿が浮かぶ。ほんの少しの間であったが、共に行動した仲間……。  彼の仇を討ちたい。そう、何が何でも荒木を倒さなければならないのだ。  私は……億泰を引き止めなかった。『頭』の声に従ったのだ。億泰自身が言ったようにまたどこかで会えればいいのだが……。 「待てッ!億泰!どこへ行くッ!!」  私の背後でダイアーが叫んだ。しかし、億泰は何も言わずに、私とダイアーに背を向け歩き続ける。 「待てッ億泰ッ!止まれッ」 「無駄だ!ダイアーッ!億泰はおまえと行動したくないんだ。ほっといてやれッ!」  私は叫んだ。貴様のせいで億泰は行くというのに……。ダイアーに対して怒りすら湧く。私は『感情』を抑えなければならないのだが……。 「黙れアヴドゥルッ!私は億泰に謝りたいんだッ!  私はジョセフという男を知らないにも関わらず、私の知っているジョナサンと姓が同じという理由で『大した事は無い』と馬鹿にしてしまったッ!  それを謝りたいんだッ!許してくれ億泰ッ、君が指摘したように私は確かに馬鹿にしたッ!本当にすまない!  戻ってきてくれッ!億泰ッ!そして私を罰するためにこの顔を殴ってくれッ!」  私は目の前の光景を疑う。スタンドを持たず、私達よりもはるかに弱いくせに、妙に偉そうなあのダイアーが謝った。自分の罪を認めて謝ったのだ。  億泰は歩みを止めた。振り返りツカツカとダイアーのもとへ歩いていく。その顔は怒りで震えていた。 「手加減はしねえ、絶対にッ!」  パァンという小気味良い音、ダイアーは地面に倒れた。痛そうに顔面を押さえている。  億泰は怒りと苛つきによって息を荒げている。私は恐る恐る億泰に尋ねてみた。 「ダイアーを許してやってくれないか?そして、また……私達と共に行動してくれ」  億泰はいまだ怒りに燃える目で私を見つめる。 「……正直、まだ苛ついてんだがよぉ。俺はダイアーを殴った。だから、この件は水に流しておくぜェ……。  まだ、奴は大嫌いだがな……大人に、なるぜ」  私は微笑み、億泰の肩を軽く叩いた。大丈夫だ。きっと何とかなる。   我々はきっと荒木を倒すことができる。私には妙な確信があった。 「大丈夫だ億泰。我々はきっと……ジョースターさん達の仇を討てる」  ダイアーがふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。億泰が殴った痕はあざとなって残っている。 「アヴドゥル、君の番だ。君もジョセフと親しかったのだろう?」  私は拳を硬く硬く握り締め、ジョースターさんへの思いを拳に込め、ダイアーの頬を思い切り殴った。    *  *  * さっきの一連の出来事が終わった後、私達は再び打倒荒木の意志を持つ参加者を探すため、移動を開始した。 億泰とアヴドゥルに殴られた頬が痛む。いや、奴らに『取り入るため』にわざと『殴らせてやった』というべきか……。 全く、本当に思い切り殴りおって、痛いではないか。億泰はいまだに、『自分がただ聞き間違えただけ』という事に気づいていない。 きっと私が悪いと頭から決め付けているのだろう。アヴドゥルも同じ事、奴は常に私に向けて猜疑の眼差しを送っていた。 これは人権侵害だ。小学生でもわかるぞ。 私は億泰とアヴドゥルが話し合っている間、自分のデイパックの中身を確認していた。私の支給品はただの紙切れ。 アブドゥル達に出会わなければ、スタンドの存在を知らなければ、私はこの紙を『ただ』の紙と見なし捨ててしまっただろう。 しかし、私はスタンドの存在を知っていた。この紙にも何かあるんじゃないかと思ったのだ。 案の定、そうだった。紙を開くと中から出たのはビンに入った青酸カリ。私は少し迷った。アヴドゥル達を殺すか否か……。 結論を出すのにそれほど時間はかからなかった。奴らを殺す。 私には、知り合いはもうツェペリさんしかいない(ディオとか言う奴も知り合いと言えば知り合いなのだがな)。 それ以外は赤の他人。自分の命のためだ。ゲームに乗ろう。これが一つ目の理由。 二つ目の理由、奴らは、スタンド使いは自分のスタンドに絶対的自信を持っており、我らの波紋をまるでお遊戯かのように、嘗めている。 我らの波紋には歴史がある。スタンドごときに嘗められてたまるか。 ここまで馬鹿にされてきたんだ。ここまで嘗められてきたのだ。億康とアブドゥルが憎い。 奴らに、スタンド使い共に、波紋の恐ろしさを、このダイアーの恐ろしさを思い知らせてやる。 私の殺人計画はこうだ。まず、彼らに謝り、信用してもらう。続いて、何とか騙して青酸カリを飲ませる。苦しんでいるところを私の波紋パンチで止めを刺す。 私の必死の演技のかいあって億泰と仲直りすることができた。億泰はどうかしらないがアヴドゥルは私のことをけっこう信頼しているような気がする。 波紋よりスタンドの方が上だと、君たちは思っているのだろう? この私、ダイアーは大した事無い奴だ、ただのヘタレだと君たちは思っているのだろう? そうでないことを証明してやる。この私自身がッ!    *  *  * なぜ億泰はこれほどジョースターさんの事を思っているのか。日本の不良と外国人の老人が、これほど親しくなるものだろうか。 億泰に聞けば一番早いのだが、残念ながら今はジョースターさんに関係する質問をできるような空気ではない。 そもそもジョースターさんが億泰と親しかったのであれば、彼をエジプトへの旅に同行させたはずだ。 億泰はスタンドを持っている。充分、戦力になるはずだ。 もし親しかったのであれば、イギーのような扱いにくい犬を助っ人として呼ぶのでなく億泰を助っ人として呼んだはずだ。 しかし、呼ばなかった。同行させなかった。(億泰が断っただけかもしれないが)私はジョースターさんから一度も億泰のことを聞いていない。 つまりどういうことか……。私はずっと考えやっと答えを見つけた。簡単な事だ。荒木の『記憶を操るスタンド』こいつがあれば簡単だ。 荒木は億泰にジョースターさんとの友情という記憶を植え付けたのだ。たったそれだけのことだ。 しかし、ここにある問題が発生する。さきほどの揉め事は億泰のジョースターさんへの思いがなければ絶対に起こりえない。 億泰のジョースターさんへの思いは荒木が植えつけた。つまりこう言えるのではないか? 『さっきの一連の揉め事は荒木が仕組んだもの』もしかすると、記憶を植えつけられたのは、億泰だけではないかもしれない。 ダイアーにも何かの記憶を植えつけたのかもしれない。もしかすると参加者全員に何かしらの記憶を植え付けたのかも……。 もし荒木が参加者全員に何かしらの記憶を植え付けたのであれば、こう言える。 『我々の全ての行動は荒木によって管理されている』 もしこれが本当なら想像以上に恐ろしい能力だ。しかし、穴はある。荒木の性格を理解していれば、次の展開がある程度読めてくるはずだ。 荒木は自分の好み通りにゲームを動かしたいはず。おそらく……もっと凄惨に、もっと残酷にしたいはず。自分に反抗する者など決して許しはしないはず。 『シナリオはゲームが始まる前から荒木に決められている』 しかし、これらがもし本当なら私がこの事に『気づけた』のはなぜだろうか?荒木が私に気づく『きっかけ』である記憶を仕込んだのだろうか。 何のために? ……なんだか頭が痛くなってきた。とにかく、私の推測が正しければ、荒木の好み通りに、ゲームはどうあっても凄惨に、残酷になってしまうだろう。 どんな些細な事にも注意しなければ……。 億泰とダイアーに記憶を操るスタンドのことを説明した時、二人が余りピンとしていなかったのは、 『きっかけ』の記憶が植えつけられていなかったためだろう。 推測が正しければ私しかゲームを止められる者はいないはずだ。 おそらく、『きっかけ』の記憶を仕込まれたのはこの私だけだろうからな。 荒木によって全参加者の希望である『記憶』を植えつけられたこの私しか荒木を止められない。 つまり、私こそが希望の光……と言う事なのか? 【F-6/一日目/朝】 【ジョジョ屈指の噛ませ犬夢のコラボ+1】 【モハメド・アヴドゥル】 [スタンド]:『魔術師の赤』 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:支給品一式(ランダム支給品はもう確認したかも) [思考・状況] 1)チームをまとめつつ打倒主催の仲間を集める(とりあえず仗助) 2) 3)に気づいたのはおそらく自分だけなので自分しかゲームを止められないと考える 3)このゲームのシナリオは実はもう荒木によって決められているのでは? 4)荒木のスタンドによってこのゲームはどうしようと残酷なことになると予想。些細な事にも充分注意して行動する。 【備考】アヴドゥルは荒木の能力を記憶操作と勘違いしています。 【ダイアー】 [能力名]:波紋 [状態]:鉢植えが当たって頭にコブ、殴られたため頬が痛む(アザになっている) [装備]:青酸カリ [道具]:支給品一式 [思考・状況] 1)億泰とアヴドゥルとの信頼を築き、どうにかして青酸カリを飲ませ殺す(波紋でとどめをさしたい) 2)スタンドよりも波紋が上という事を証明するためゲームに乗る(殺すのはスタンド使い優先) 3)ツェペリに会った時はどうしよう 4)自分を嘗める者は許さん 【虹村億泰】 [スタンド]:『ザ・ハンド』 [状態]:左手欠損、ジョセフと由花子を失った悲しみ [装備]:閃光弾 [道具]:支給品一式 [思考・状況] 1)ダイアーに対しての怒りをできるだけ抑える 2)打倒主催の仲間を集める(とりあえず仗助) 3)波紋は大した事無いと思っている 4)聞き間違えたかも、という考えは全くない *投下順で読む [[前へ>テリトリー×テリトリー(前編)]] [[戻る>1日目 第2回放送まで]] [[次へ>SZR~surround zone readers~]] *時系列順で読む [[前へ>Dancing In The Street]] [[戻る>1日目(時系列順)]] [[次へ>SZR~surround zone readers~]] *キャラを追って読む |36:[[共演]]||ダイアー|72:[[その者共、同様につき その①]]| |36:[[共演]]||モハメド・アヴドゥル|72:[[その者共、同様につき その①]]| |36:[[共演]]||虹村億泰|72:[[その者共、同様につき その①]]|
『えー皆聞こえてるかな?それじゃあただいまから一回目の放送を行いま~す』 「何ィッ!おのれッどこにいる!」  突然聞こえてきた荒木の声に私は警戒態勢を整え、周りを見渡す。 「おい!お前達ッ!気をつけろッそこら辺にあの荒木とかいうやつがいるぞッ!」 「気をつけるのは、ダイアー。おまえの方だ。無闇に大声を出すんじゃない」  アヴドゥルが私の忠告を無視する。あのあほが……。 「バカか!おまえは!やつの声がすぐ近くから聞こえて来るんだぞッ。周りには放送設備なんぞ無いし民家しか」  この瞬間、私は背中に衝撃を感じた。億泰に背中を殴られたのだ。(軽くだが) 「ちょっと黙ってろよてめえ。あれ見てみろよ」  億泰は私に対してかなり苛ついているようだ。鋭い目で私を睨みドスのきいた声で威嚇してくる。なぜだ?全くわからない。  とりあえずそんな疑問は脇に置き億泰が指差した方向を見る。 「なっなんだあれはッ」  民家の窓ガラスに不鮮明ながらも荒木の姿が映っている。奴の声もどうやらその窓から聞こえているようだ。    これはいったいどういう冗談だ?こんなことがありえるのか?いくら吸血鬼でもこんなことはできないし、波紋でも当然できない。  そこまで考えると、私は一つの可能性に気がついた。スタンドだ。  おそらくスタンドなら可能なのだろう。しかし本当に何でもありだな……。   「アヴドゥルさん。荒木のスタンドがあんたの言っていた『記憶を操る』スタンドならこんなことはできないんじゃねえの?」 「チッチッチッ。荒木にだって協力者の一人や二人いてもおかしくは無い」 「あっなるほど。それもそうだな」 「やっぱりこれもスタンドとかいう奴な……」 「待て。荒木が今から死者の名を言っていくみたいだぞ。話は放送が終わった後だ」  アヴドゥルと億泰は素早くメモを構える。私も渋々デイパックからメモを取り出し書く準備を整えた。  ……おのれ。こいつら、私の言葉を知能が低く話もできない赤ん坊の発言のように捉えおって。なんという屈辱だ。    *  *  * 『じゃあ、おおむねそうゆうことでよろしくね―――』  放送が終わった。私の知り合いで死んでしまったのはジョナサンとかいう奴とストレイツォ。  これで知り合いはツェペリさん一人だけになってしまった。  ストレイツォがたった六時間で死んでしまうとはな……。老師トンペティの下で共に修行してきた奴の死、さすがにこたえるな。  しかし……悲しんでいる暇はないのだ。許せストレイツォ。私は何とかして荒木を倒さなければならないのだ。  ジョナサンの死は……正直、それほど悲しくは無い。ジョナサンと私との関係はお互いに顔と名前を認知しているだけ。  奴が死んで少しは悲しかったが、何てことは無い。私は吸血鬼と戦う身であるため人の死には慣れていた。 「ジョナサン・ジョースター。ツェペリさんは気に入っていたようだがやはり大した事無かったんだな」  私は何とはなしにそっと呟いた。何の感情もこめずに静かに軽く言った。しかし、この発言がそもそもの始まりだったのだ。 「おまえ、もういっぺん言ってみろ。誰が大した事ないだってぇ」  億泰が再び私を威嚇する。なぜだ。今度ばかりは本当にわからないぞ。もしかすると、私がさっき言った言葉に関係があるのか。 「いや、だからジョナサン・ジョースターはやはり大した事なかったと言ったんだが……。すまない。死者を冒涜するのは最低の行為だな」 「そうじゃねえーッ!微妙にセリフ変えてんじゃねえよッ!おまえが『大した事無い』って言ったのは『ジョセフ』・ジョースターだろうがッ!  ジョナサンとか言う野郎なんかどうだっていいんだよぉー!てめえ言い逃れしようって腹かーーー?」 「……え?」  この瞬間わたしの思考はショートした。わたしが『大した事無い』と、言ったのは『ジョナサン』だ。『ジョセフ』でも『ジョニー』でも無い。  つまり、この不良を気取っている若造は聞き間違いをしたと言う事なのか? 「え?じゃねえよ、なんか言いやがれッどうせてめえは由花子も大した事無いって思ってるんだろうがッ!」  ……こ、この少年、聞き間違えたというより、少し混乱してきているのではないか?  由花子とか言う奴、わたしは全然知らんぞ。なんだかヤバイ雰囲気になってきた。   「か、勘違いだ。君の聞き間違いだよ。それに由花子って誰だ」 「しらばっくれんじゃねえッ!この野郎ッ!ぶん殴ってやるッ」  億泰が拳を振りかぶる。まずいぞ、これは……。それにしてもこの億泰という男、頭悪すぎだろ。  どうする?このまま争いになるのはまずい。こいつにはスタンドがあるしなあ。とりあえずッ  億泰の硬く握られた鉄拳が私に襲い掛かる。私は素早くそのパンチを見切り、全く危なげない動作で拳を受け止めた。  老師トンペティによる荒行の賜物だ。 「誤解だッ!話を聞いてくれ」 「聞く話なんて、何もねえぜッ」  億泰が例のスタンドを発現させる。どうする。今度こそどうすればいいんだ?戦うしかないのか?  私は勝てるのか?この得体の知れないスタンドにッ。 「二人ともやめろッ!!!」    天をも割く大声が響いた。声の主はアヴドゥルである。  億泰はアヴドゥルの事を私よりかは尊敬しているのであろう。素直に私から離れスタンドを消した。  しかし、彼の目は依然私を睨んだままである。 「アヴドゥルよお。あんた聞いてなかったのかよ。こいつ確かに言ったんだぜ。『ジョセフ・ジョースターはやはり大した事無い』ってな」 「しかしダイアーは否定しているみたいだぞ。そうだな?」 「当たり前だ!億泰の聞き間違いだよ。わたしは『ジョセフ』ではなく『ジョナサン』と言ったんだ。  まあどちらにしてもわたしは死者を冒涜してしまったのだがね。それに私はジョセフ・ジョースターなんて知らん。出会った時に言ったはずだ」  必死の思いを言葉に込めて言う。アブドゥルは私を信じてくれるか? 「違う。アヴドゥル信じるな。俺は確かにこの耳で聞いたんだぜ」  アヴドゥルは真剣な眼差しで私を見つめる。おまえはうそをついてるのか、本当のことを言っているのかと、目で問いかけてくる。  私の目を見つめたままアヴドゥルがゆっくりと口を開く。 「私はダイアーが何を言っているのか。聞き取れなかった。私もジョースターさんが死んでしまって悲しかったからな……。  しかし、ダイアーが何かぶつぶつ言っているのは見た」  すかさず億泰が口を挟む。 「それだよッ!こいつはその時言っていたんだ。今はただ言い訳しているだけだぜぇ。こいつは俺達を敵に回すわけにはいかないからな」  『敵に回すわけにはいかない』どういう意味だ? 「なぜそう思う。私も場合によっては君たちに反抗するかもしれないぞ?」 「へっ、出来るわけないだろ。てめえの波紋で俺達のスタンドに勝てるとでも思ってんのかよ」 「何イッ!!私の波紋が、老師トンペティの下で長年磨き上げてきた私の波紋が君たちのスタンドに敵わないとでもッ!波紋を嘗めるなッ」  声を張り上げ叫ぶ。私はこいつらにいくら嘗められても構わない。しかし、『波紋』だけは別だ。  吸血鬼に対抗するため先人達が必死の努力で練り上げてきた波紋だ。  こんな若造に嘗められるわけにはいかない。『波紋でスタンドに勝てるかな』と、私自身が思ってしまったことがあるが、それは別にいい。  とにかく、吸血鬼や波紋のことを何も知らない軟弱者にバカにされるわけにはいかないのだ。 「俺は波紋だけを嘗めてるわけじゃないぜ。『てめえ』を俺は嘗めてるんだよ。おまえなんて大した事無い奴だ。  俺達に出会わなかったら速攻で死んでるに決まってるッ!」 「よくも、よくも言ってくれたな億泰……。」  億泰に向けて歩を進める。私の必殺技の間合いまであと少し。 「やめろダイアー」  アヴドゥルが私の前に立ちはだかる。億泰も憎いがこいつもまた憎い。こいつも億泰と同じように私と波紋を馬鹿にしているのだろう。  私への接し方でわかる。 「億泰と少し話がしたい。おまえがいると億泰が冷静でいられないからな」  ……話だと。何を相談するというのだ。私を追い払う算段か?二人でぶん殴るための話し合いか?  悲観的な考えが浮かぶが、事実、私が億泰と絡むと何の話も進まない。私は素直に、彼らに背を向け地面に腰を下ろした。   「……私は言っていないぞ。アヴドゥル」 「そうであることを願っている」    *  *  * 「あいつは絶対に言ったぜ。ぶん殴ってやろうぜ。アヴドゥル」 「おまえはすぐに『ぶん殴る』だな」  ダイアーから少し離れた場所で私と億泰の話し合いが始まった。  私としては、できるだけ争い事は避けたい。  億泰が言うように、ダイアーがジョースターさんのことを馬鹿にしたのであれば、やはりそれは、私にとっても、億泰にとっても、許しがたい行いだ。  しかし、だからといってダイアーと殺し合いを始めるわけにはいかない。スタンドは持っていなくともダイアーは一応仲間だ。  こんな状況だ。仲間は一人でも多い方がいい。それに殺し合いをするという事はゲームに乗るという事だからな。  あの巨悪、荒木の思惑通りだ。ゲームに乗るくらいなら死んだほうがましだと私は考えている。  私の考え方を、この少年は理解してくれるだろうか……。 「億泰、少し考えてくれ。ここで彼と争ってどうする。血が流れるだけだ。荒木の思う壷だぞ」  億泰は不機嫌そうに私の言葉に反応する。 「あんたは悲しくねえのかよ。ジョースターさんが死んじまったんだぜ。  俺の友達……ほとんど話しかけられたことなかったけど由花子って女もだ。俺は二人のこと考えると……なんつーかイラついて来るんだよ  絶対にあの野郎を許せねー程になァァァァ!」  億泰の叫びが杜王町にこだまする。ダイアーにも届いたはずだ。  この少年の気持ちは痛い程よくわかる。私だって悲しい、悔しい。しかし、その気持ちをダイアーにぶつけるのは駄目だ。  それはただの八つ当たり以外の何物でもない。 「おまえの気持ちはよくわかる。私だって悲しい。ダイアーが本当にジョースターさんを馬鹿にしたのであれば、私だって許せない。  しかし今は状況が違う。真に憎むべき相手は荒木だろう?私達はダイアーに対する怒りを抑えなければならない」  億泰が沈黙する。億泰はかなりイラついている。表情、目などから彼のイラつきを充分に察する事ができる。  私はこの時ある疑問を感じた。それは、ジョースターさんはこの億泰という少年といったいいつ、どこで出会い、親交を深めたのだろうということだ。  ジョースターさんはなぜ日本の不良にこれほどまでに思われているのだろうか。  いや待てよ。億泰は承太郎を知っていると言った。億泰は承太郎と同級生?たしか億泰は『承太郎さん』と言っていたな。  ということは承太郎の舎弟といった所か?それとも後輩?  承太郎が海外からはるばるやって来た自分の祖父に、自分の舎弟である億泰を紹介。そんなことをあの承太郎がするだろうか……。  私が疑問について考えを巡らしていると、億泰が沈黙に耐えられなくなったのか、ゆっくりと話し始めた。疑問はとりあえず置いておこう。 「俺は頭悪いけどよ、あんたの言う『理屈』はわかるぜ。でももう無理だ。どうやっても、ダイアーを疑ってしまう。  アヴドゥル、悪いけどよ。俺は感情で動いてしまうタイプなんだ。  例えばよお、誰がどう考えても正しい道ってのがあるよなあ。俺もなるべくその道を行きたいんだ。だけど俺はよ、たまに道を間違えるんだ。  その場の気持ちとかに惑わされてな……だけど俺はそれでいいと思ってる。理屈よりも『感情』で動く。  それが俺だ……馬鹿にしても、構わないぜ」  言い終わると、億泰は私に背を向け歩き出した。 「どこへ行くッ!」 「もう話し合うことなんか何も無いぜ。  俺がいると駄目だ。もうダイアーといっしょに行動できない。あんたはダイアーと行動してくれ。俺は一人で行動する……。  お互い生きてたらまたどこかで会おうぜ」  ……これほどまでか。億泰、おまえにはこれ程の思いがあったのか。ジョースターさんとどんな関係だったのだろうか。  ダイアーは言い間違えただけかもしれないのに、憎むべき相手は荒木なのに。  それほどまでに、死んでしまったジョースターさんと由花子という女を大切に思っていたのか……。  私もどちらかといえば直情型の人間だ。  億泰から、ダイアーがジョースターさんを馬鹿にしたと聞いた時、私も一瞬、殴ってやりたいという衝動に囚われた。  私はあの時、億泰と同じように殴りかかろうとしたのだ。  しかし、私より先に億泰がダイアーに殴りかかったことによって、私にこのチームをまとめなければという責任感が生まれ、  その責任感が私の衝動を急激に萎えさせたのだ。  できれば億泰を引き止めたい。私の『心』がそう言っている。  しかし一方で、私の『頭』は、「場を乱すような奴とはいられない。このまま行かせてやれ」と言っている。  どちらが正しいのだ。私は億泰を引き止めたいのだ。しかし、彼とダイアーが協力できるはずがない。  三人のうち二人が常に小競り合いをしている。そんな状況でどうやって打倒荒木の仲間を集めることができる。  『心』と『頭』、どちらに従えばいいんだ。  脳裏にジョースターさんの姿が浮かぶ。ほんの少しの間であったが、共に行動した仲間……。  彼の仇を討ちたい。そう、何が何でも荒木を倒さなければならないのだ。  私は……億泰を引き止めなかった。『頭』の声に従ったのだ。億泰自身が言ったようにまたどこかで会えればいいのだが……。 「待てッ!億泰!どこへ行くッ!!」  私の背後でダイアーが叫んだ。しかし、億泰は何も言わずに、私とダイアーに背を向け歩き続ける。 「待てッ億泰ッ!止まれッ」 「無駄だ!ダイアーッ!億泰はおまえと行動したくないんだ。ほっといてやれッ!」  私は叫んだ。貴様のせいで億泰は行くというのに……。ダイアーに対して怒りすら湧く。私は『感情』を抑えなければならないのだが……。 「黙れアヴドゥルッ!私は億泰に謝りたいんだッ!  私はジョセフという男を知らないにも関わらず、私の知っているジョナサンと姓が同じという理由で『大した事は無い』と馬鹿にしてしまったッ!  それを謝りたいんだッ!許してくれ億泰ッ、君が指摘したように私は確かに馬鹿にしたッ!本当にすまない!  戻ってきてくれッ!億泰ッ!そして私を罰するためにこの顔を殴ってくれッ!」  私は目の前の光景を疑う。スタンドを持たず、私達よりもはるかに弱いくせに、妙に偉そうなあのダイアーが謝った。自分の罪を認めて謝ったのだ。  億泰は歩みを止めた。振り返りツカツカとダイアーのもとへ歩いていく。その顔は怒りで震えていた。 「手加減はしねえ、絶対にッ!」  パァンという小気味良い音、ダイアーは地面に倒れた。痛そうに顔面を押さえている。  億泰は怒りと苛つきによって息を荒げている。私は恐る恐る億泰に尋ねてみた。 「ダイアーを許してやってくれないか?そして、また……私達と共に行動してくれ」  億泰はいまだ怒りに燃える目で私を見つめる。 「……正直、まだ苛ついてんだがよぉ。俺はダイアーを殴った。だから、この件は水に流しておくぜェ……。  まだ、奴は大嫌いだがな……大人に、なるぜ」  私は微笑み、億泰の肩を軽く叩いた。大丈夫だ。きっと何とかなる。   我々はきっと荒木を倒すことができる。私には妙な確信があった。 「大丈夫だ億泰。我々はきっと……ジョースターさん達の仇を討てる」  ダイアーがふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。億泰が殴った痕はあざとなって残っている。 「アヴドゥル、君の番だ。君もジョセフと親しかったのだろう?」  私は拳を硬く硬く握り締め、ジョースターさんへの思いを拳に込め、ダイアーの頬を思い切り殴った。    *  *  * さっきの一連の出来事が終わった後、私達は再び打倒荒木の意志を持つ参加者を探すため、移動を開始した。 億泰とアヴドゥルに殴られた頬が痛む。いや、奴らに『取り入るため』にわざと『殴らせてやった』というべきか……。 全く、本当に思い切り殴りおって、痛いではないか。億泰はいまだに、『自分がただ聞き間違えただけ』という事に気づいていない。 きっと私が悪いと頭から決め付けているのだろう。アヴドゥルも同じ事、奴は常に私に向けて猜疑の眼差しを送っていた。 これは人権侵害だ。小学生でもわかるぞ。 私は億泰とアヴドゥルが話し合っている間、自分のデイパックの中身を確認していた。私の支給品はただの紙切れ。 アブドゥル達に出会わなければ、スタンドの存在を知らなければ、私はこの紙を『ただ』の紙と見なし捨ててしまっただろう。 しかし、私はスタンドの存在を知っていた。この紙にも何かあるんじゃないかと思ったのだ。 案の定、そうだった。紙を開くと中から出たのはビンに入った青酸カリ。私は少し迷った。アヴドゥル達を殺すか否か……。 結論を出すのにそれほど時間はかからなかった。奴らを殺す。 私には、知り合いはもうツェペリさんしかいない(ディオとか言う奴も知り合いと言えば知り合いなのだがな)。 それ以外は赤の他人。自分の命のためだ。ゲームに乗ろう。これが一つ目の理由。 二つ目の理由、奴らは、スタンド使いは自分のスタンドに絶対的自信を持っており、我らの波紋をまるでお遊戯かのように、嘗めている。 我らの波紋には歴史がある。スタンドごときに嘗められてたまるか。 ここまで馬鹿にされてきたんだ。ここまで嘗められてきたのだ。億康とアブドゥルが憎い。 奴らに、スタンド使い共に、波紋の恐ろしさを、このダイアーの恐ろしさを思い知らせてやる。 私の殺人計画はこうだ。まず、彼らに謝り、信用してもらう。続いて、何とか騙して青酸カリを飲ませる。苦しんでいるところを私の波紋パンチで止めを刺す。 私の必死の演技のかいあって億泰と仲直りすることができた。億泰はどうかしらないがアヴドゥルは私のことをけっこう信頼しているような気がする。 波紋よりスタンドの方が上だと、君たちは思っているのだろう? この私、ダイアーは大した事無い奴だ、ただのヘタレだと君たちは思っているのだろう? そうでないことを証明してやる。この私自身がッ!    *  *  * なぜ億泰はこれほどジョースターさんの事を思っているのか。日本の不良と外国人の老人が、これほど親しくなるものだろうか。 億泰に聞けば一番早いのだが、残念ながら今はジョースターさんに関係する質問をできるような空気ではない。 そもそもジョースターさんが億泰と親しかったのであれば、彼をエジプトへの旅に同行させたはずだ。 億泰はスタンドを持っている。充分、戦力になるはずだ。 もし親しかったのであれば、イギーのような扱いにくい犬を助っ人として呼ぶのでなく億泰を助っ人として呼んだはずだ。 しかし、呼ばなかった。同行させなかった。(億泰が断っただけかもしれないが)私はジョースターさんから一度も億泰のことを聞いていない。 つまりどういうことか……。私はずっと考えやっと答えを見つけた。簡単な事だ。荒木の『記憶を操るスタンド』こいつがあれば簡単だ。 荒木は億泰にジョースターさんとの友情という記憶を植え付けたのだ。たったそれだけのことだ。 しかし、ここにある問題が発生する。さきほどの揉め事は億泰のジョースターさんへの思いがなければ絶対に起こりえない。 億泰のジョースターさんへの思いは荒木が植えつけた。つまりこう言えるのではないか? 『さっきの一連の揉め事は荒木が仕組んだもの』もしかすると、記憶を植えつけられたのは、億泰だけではないかもしれない。 ダイアーにも何かの記憶を植えつけたのかもしれない。もしかすると参加者全員に何かしらの記憶を植え付けたのかも……。 もし荒木が参加者全員に何かしらの記憶を植え付けたのであれば、こう言える。 『我々の全ての行動は荒木によって管理されている』 もしこれが本当なら想像以上に恐ろしい能力だ。しかし、穴はある。荒木の性格を理解していれば、次の展開がある程度読めてくるはずだ。 荒木は自分の好み通りにゲームを動かしたいはず。おそらく……もっと凄惨に、もっと残酷にしたいはず。自分に反抗する者など決して許しはしないはず。 『シナリオはゲームが始まる前から荒木に決められている』 しかし、これらがもし本当なら私がこの事に『気づけた』のはなぜだろうか?荒木が私に気づく『きっかけ』である記憶を仕込んだのだろうか。 何のために? ……なんだか頭が痛くなってきた。とにかく、私の推測が正しければ、荒木の好み通りに、ゲームはどうあっても凄惨に、残酷になってしまうだろう。 どんな些細な事にも注意しなければ……。 億泰とダイアーに記憶を操るスタンドのことを説明した時、二人が余りピンとしていなかったのは、 『きっかけ』の記憶が植えつけられていなかったためだろう。 推測が正しければ私しかゲームを止められる者はいないはずだ。 おそらく、『きっかけ』の記憶を仕込まれたのはこの私だけだろうからな。 荒木によって全参加者の希望である『記憶』を植えつけられたこの私しか荒木を止められない。 つまり、私こそが希望の光……と言う事なのか? 【F-6/一日目/朝】 【ジョジョ屈指の噛ませ犬夢のコラボ+1】 【モハメド・アヴドゥル】 [スタンド]:『魔術師の赤』 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:支給品一式(ランダム支給品はもう確認したかも) [思考・状況] 1)チームをまとめつつ打倒主催の仲間を集める(とりあえず仗助) 2) 3)に気づいたのはおそらく自分だけなので自分しかゲームを止められないと考える 3)このゲームのシナリオは実はもう荒木によって決められているのでは? 4)荒木のスタンドによってこのゲームはどうしようと残酷なことになると予想。些細な事にも充分注意して行動する。 【備考】アヴドゥルは荒木の能力を記憶操作と勘違いしています。 【ダイアー】 [能力名]:波紋 [状態]:鉢植えが当たって頭にコブ、殴られたため頬が痛む(アザになっている) [装備]:青酸カリ [道具]:支給品一式 [思考・状況] 1)億泰とアヴドゥルとの信頼を築き、どうにかして青酸カリを飲ませ殺す(波紋でとどめをさしたい) 2)スタンドよりも波紋が上という事を証明するためゲームに乗る(殺すのはスタンド使い優先) 3)ツェペリさんに会った時はどうしよう 4)自分を嘗める者は許さん 【虹村億泰】 [スタンド]:『ザ・ハンド』 [状態]:左手欠損、ジョセフと由花子を失った悲しみ [装備]:閃光弾 [道具]:支給品一式 [思考・状況] 1)ダイアーに対しての怒りをできるだけ抑える 2)打倒主催の仲間を集める(とりあえず仗助) 3)波紋は大した事無いと思っている 4)聞き間違えたかも、という考えは全くない *投下順で読む [[前へ>テリトリー×テリトリー(前編)]] [[戻る>1日目 第2回放送まで]] [[次へ>SZR~surround zone readers~]] *時系列順で読む [[前へ>Dancing In The Street]] [[戻る>1日目(時系列順)]] [[次へ>SZR~surround zone readers~]] *キャラを追って読む |36:[[共演]]||ダイアー|72:[[その者共、同様につき その①]]| |36:[[共演]]||モハメド・アヴドゥル|72:[[その者共、同様につき その①]]| |36:[[共演]]||虹村億泰|72:[[その者共、同様につき その①]]|

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