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関西の実家を出るとき、決して愉快な道のりを創造していた訳ではなかった。こうなる事も十分予想できていた。かつて、自分が手に掛けた彼を…彼の魂をもう一度この手で葬らねばならないと言う事も承知の上で、前世の戦友の魂を持った少女の命を助けたのだ。
(そうや・・・俺はやる…今度こそ、ギンの魂を・・・)

「おい、和斗……大丈夫か。」
叶榎が心配そうにこちらを見ている。
「ああ。俺は、平気や。それより、暁は無事なんか」
その問いかけに気付いた和斗が半ば反射的に答えた。
「いま、眠ってる。自分の治療に能力使うのって意外としんどいみたい。」
「そうやろうな…あいつ、それ知っとって前もあの技使う言うてきかへんかったんやで、こっちがどれだけ心配してもお構いなし……あん時やって・・・」
「あの時?」
叶榎に聞き返されて、和斗は真剣な表情を浮かべた。
「なぁ、叶榎……全てを知ってそれでも、この世界を守るために戦っていく勇気は、有るか」
「なんだよ、改まって。俺は、その為にここにいるんだ」
「そうか……ほんなら、今から叶榎に過去をみせたる。」
唐突に言い出した和斗に、叶榎は言った。
「どうやって」
「叶榎のアビリティーは鳶や、そのチカラで叶榎自身の記憶が読める方法があんねん。」
「あんな、俺、チカラ使いこなせないって言っただろう」
「方法はある」
「どんな!?」
勢いよく詰め寄ってくる叶榎に和斗が言う。
「ちょっと、荒っぽいねんけど、怒らんでな?」
「怒んないよ、今更、手段を選んでられっか」
「わかった。ほんなら説明すんで、まず…」
そういいながら、和斗は上着の中から何かを取り出す。
「この丸薬を叶榎が飲む、効果があるからすぐに夢に入れるやろ。その後に……」
「その後に、なんだよ?」
よく見ると和斗の顔が少し引きつり、赤らんでいる。
「いや……まぁ、とにかく飲んでぇな」
「あ、ああ。」
いまいちよく分からないが、とりあえず言うことを聞いておこうと叶榎が丸薬を飲み込む。
「!?」
叶榎は、丸薬の効果によって眠りの海に沈んでいった。和斗は、呟いた。
「叶榎、お前ならキャシアを納得させることができる。必ず……」
そうしてすぐに和斗は、叶榎の為に毛布を取りに行った。

目の前にひたすら青い景色が広がっていた。ただ青いだけの景色、今まで見て来たものの何とも重なることは無い風景。見上げると一面の青い空がどこまでも広がっている。いや、正確には空ですらない。そこには、地上に光を与えるはずの太陽がない。しかし、足元にある果てしなく広がる水面のようなものは、見えている。光自体は存在しているのだろう。
(どこだよ、ここは)
そう思いながら、叶榎は一歩踏み出してみる。
シャラン―――
叶榎が足を降ろした水面が幻想的な音を立てて波紋を描く。その波紋は同心を描いて広がっていきやがて、叶榎を中心とした大きな円になった。
シャラン―――
また、あの音が響いた。
『ここに来られたのは、どなたですか……』
「誰だ!?」
突如響いて来た声に驚いた叶榎は、思わず叫ぶ。
『わたくしは、ここの守護を担う者。また、訪れた者を試す者。』
「試す…」
『貴方、名は』
「叶榎。矢上叶榎」
叶榎は、暁との身分を隠すと言う約束を気にしつつも本名を名乗った。ここでは、うそをついてはいけない、そんな気がしたのだ。
『では、キョウカ。あなたは何故、そこに居り、何を望んでいますの?』
「何って…」
『答えられないのなら、現の世に戻ってそこで、今まで通りの日々に戻りなさい。今の自分の意思を表せないものが、前世の自分の記憶を知っても重荷となり、これからの闘いの中で立ち続けることなど不可能です。そうなれば、いずれ貴方の未熟さゆえに仲間の命を失います』
見知らぬ声の出した問いかけに叶榎は、躊躇しつつも答えた。
「俺は……護りたいから、ここにいる。正直、俺には暁の言ってることなんてわかんない。だから、初めは、なんで俺がって思ったよ。」
『では何故あなたは、この道を歩んでいますの?』
「俺じゃなきゃだめなんだって分かったから。大切な人たちを守るには、俺が戦わないと。もし、俺が逃げたりしたら、大切なモノが全部無くなるんだ。そんな世界で俺一人生きててもそんなの死んでるのと一緒だ。だから、俺の望みは、皆が生きている世界を守ることだよ。」
『恐ろしくは無いのですか』
「そりゃあ、怖いさ、すごく怖い……でも仲間がいるから。支えてくれる奴らがいるから立ち続けられる」
そう語った叶榎の目には旅立ちの日の迷いの色は残っていなかった。あるのは、たった1つの信念とほんの一握りの勇気の色だった。
『分かりました、貴方を認めましょう、鳶の力を受け継ぐ者として。やはり、変わっていませんね、昔の自分を見ているようです』
「昔の自分?」
『意思を示した貴方への対価として、わたくしもまた真実をお見せします』
声の主は、言い終えたとたん、姿を現した。透き通るような長い金髪、どこまでも青い瞳、その色素の薄い華麗な容姿に違和感なく鳶色の一筋の前髪がほかより長く伸びている。
「わたくしの名は、キャシア・シルフィー、貴方よりはるか昔に鳶の能力を操ったもの」
「と言うことは……おれ!?」
「そうであり、そうではないのです。言うなれば、今のわたくしは影。存在してはいるけれど、実体は無く、本体ではないけれど、本体と同じ存在。わたくしは、あなたがここにくる時のためにここにいることを望んだのです……さあ、貴方に全てをお見せしましょう。左手を出して」
叶榎が出した左手を握りキャシアは言葉をつむいだ。
「この者、名をキョウカ、鳶の能力を受け継ぐことを、我、キャシアは認める、今、この者に、聖句と残りのチカラを贈る、どうか、新たなチカラを持つ者に幸多からんことを……」
キャシアが言葉を言い終えたとき、叶榎は自分の中に新たなモノが芽生えたことに気付いた。叶榎はその言葉を口にする。
「大地より猛き落葉の鳶」
「それが、貴方の聖句です。その言葉は、貴方を守るでしょう。大切になさって下さい」
キャシアは、微笑んだ。
「これで、あなたは、全てのアビリティーを受け継ぎました。今まで発現している能力はどうやら二つのようですね、その二つは不安定だった今までとは違い操ることが可能ですよ。残りは、貴方が見つけねばなりませんから、頑張ってください。さあ、今度こそわたくしの預かってきた先代の能力者の記憶を読んで。貴方の内側であるここなら自由に貴方の力を使えます」
叶榎が、瞳を閉じたとたんいくつもの映像が見えてきた。

三人の女性と四人の男性が楽しそうに会話している。その中にキャシアの姿もあった。
「……それでね、ノアンってば怒っちゃってかわいいのよー、キャシアってば幸せねぇ、こんな素敵な人がいて」
キャシアの横に座っている女性……ジュリアが話している。
「やめてくれよ、ジュリアさん。恥ずかしいから、なぁキャシア」
「わたくしは楽しいわ、ノアン。そういうジュリアさんはスカイとはどうなってるの」
キャシアが視線を向けたことに気付いた青年……スカイが答えた。
「それが聞いてよ、キャシアちゃん、この人、俺になんて言ったと思う……」
「スカイ、その事ばらしたら、あんたをバラすわよ」
話そうとしたスカイをジュリアが静かに一瞥し、言葉を発した。
「ジュリア、それはやめたほうがいい。」
そのジュリアをもう一人の少女……フェイトが制した。
「なんでなの、フェイト」
「俺の味方してくれんの!?」
喜々とした表情で聞き返したスカイにフェイトは、はっきりと言った。
「いいえ。ただ…」
「ただ、何なんですか、フェイト。俺には、大体わかりますが」
そばで眼鏡をかけて読書をしていた青年……ギンがいった。
「きっと、ギンが考えてるとおりだ。」
「だから、何」
更に問い返すジュリアにフェイトが冷たく言った。
「バラすだけだと証拠が残るだろう、ジュリア。それに、仕事も増える。」
フェイトの言葉を聞いたギン以外の誰もが唖然としている。
「ほんとだわ…」
「やっぱり、それでしたか……」
「ほら、いい加減にしておこう、スカイがキレるぞ」
皆から言いたいように言われているスカイが哀れになったのか、横で見ていた青年……レイスが口をはさむ。
「大丈夫だ、レイス」
そのレイスにノアンは、はっきりという。
「どうして、そう言い切れるんだノアン?」
「餌がある、フェイトあれを出せ」
「おっけぃ、はい。ジュリアさんこれ」
フェイトは、太ももの辺りに下げている鞄から小さな瓶を取り出してジュリアに差し出した。
「……何なの、これ?」
ジュリアに聞かれたフェイトが小悪魔のような笑みを浮かべて言った。
「媚薬です、口移しでどうぞ」
「なるほど、そういうことか」
レイスが感心したように言う。
「んな、何を―」
「のった!面白そうじゃない」
ジュリアは満面の笑みを浮かべている。
「おい!俺で遊ぶな」
スカイが叫ぶ。
「皆、スカイを捕まえな」
「うわっ、早まるな!はーなーせー!」
「じゃあ、いくわよーん」
「うわぁぁぁぁぁぁー」
………3日後。
「じゃあ、あれただのお酒だったんですか、ジュリアさん」
キャシアは微笑を浮かべて言った。
「ええそうよ。でも、あの後久々に二人で楽しめたわ」(いろいろと)
「それは、良かったですね。」(でもいったい何をしたのでしょう)
「さて、仕事初めましょうか」
「はい、そうですね」

一つ目の記憶を見終わった叶榎はあきれていた。
(……なんなんだ、こいつ等、ほんとに数千年前の英雄か)
そしてすぐに次の記憶が脳裏に流れ始めた。

灰がかった蒼色の髪と紺碧の瞳をした青年が廊下を歩いていた。黒い、丈の短い衣装に身を包んでいる青年の顔はとても端整で、その顔にかかった一筋だけ長い左の前髪は藍色に染まっている。
青年が歩いているのは、特に調度品もなく、だだ白いだけの廊下だ。しかし、一定間隔ごとに設置されている窓から入る光のためか、陰気な印象は感じることは無い。
しばらく歩いた後、青年は目的の部屋に達したのか、突き当りの扉の前で立ち止まった。
「俺だ、入るぞ。」
青年は数回ノックをした後、そういって頑丈そうな作りの扉を開けた。
扉のすぐ目の前の出窓に銀灰色の髪と、血液の様に赤い瞳をした青年が腰を下ろしていた。この青年の前髪も一筋だけ色が異なっており、どこまでも深く、吸い込まれてしまいそうな闇色をしていた。
「どうしたんですか、ノアン。そんなに怖い顔をして」
赤い瞳の青年は蒼い瞳の青年・・・ノアン・ズィークに、にっこりと微笑みかける。
一方のノアンは、眉間に、「これでも怒ってるんです、ついでに困ってます・・・」というようなしわを浮かべたまま話し始めた。
「どうしました、じゃあないだろう、ギン。アビリティーハーバーズの継承式は明日って言われただろう……なのに、レイスとフェイトは、傷だらけになるまで修行してるし、キャシアは教会で子供たちと遊んでるし、ジュリアさんは仕事中だけど……スカイなんてうまく隠れていろんな場所から、探し回ってる俺をからかって遊んでるんだ……」
今もどこかから見られていると言わんばかりに、ノアンは室内のあちこちに視線を運ぶ。ギンは、立ち上がってノアンの傍に歩み寄る。
「あはは。彼等らしいじゃないですか。あ、紅茶いります?」
そう言ってギンは、ノアンの右肩に手を置く。
「あははじゃあない。ほら、茶は後だ。お前だけでも連れて行かないと、俺がジュリアさんに投げられる、衣装合わせだとよ。」
「わかりました。行きましょう。」
ギンはそう言ってはにかんだ笑みを浮かべた。
二人は、並んで部屋を出て行った。

この後も、叶榎はいくつもの記憶が意識の中に流れこんで来るのを感じていた。その記憶の中のキャシア達はとても幸せそうで、暖かそうで……少し前まで自分の傍にいた、同じ年頃の少女たちとは比べることの出来ないくらい、お互いを信頼しているということが、叶榎には痛いくらい分かった……この後の彼らの運命が、暁に聞かされた事実が現実ではないのでないかと思ってしまうくらいに……。
そして、叶榎は少しずつ自分がキャシアだった頃の記憶を思い出し始めた。

街のいたるところで上がる火柱、逃げ回る人々、雨のように舞い散る熱せられた桜の花びら………。そんな街を見下ろすように建った城の中を六人の男女が走り、城の奥に進んでいく。六人の誰もが皆、信じられない、ありえない、と言った表情を浮かべている。そして、勢いよく、大広間の一つに駆け込んだ。そこには、ギンがいた。
「どうしたんですか、ハーバーズが全員揃って。」
ギンは、冷たい表情と感情を感じさせない声音で言った。
「ギン、ここで何してんの……?」
スカイが暗い表情で声を無理やり押し出すように言った。
「仕事ですが」
「ここは魔術・召喚の間、仕事をするのなら、それはフェイトの役目だろ。」
そう言ったレイスの表情も事態が尋常でないことを語っている。
「ギン・シルフ。あなたを第一級国家大逆犯として処理します……。」
ジュリアが、ギンの目を見据えながら、言った。ギンの血のような色の瞳には、すでに以前の優しさは残っていなかった。
「…………。」
ギンは、無言でこちらを見ている。
「なぁ、ギン!うそだろう、そう言ってくれよ!」
「ノアン、信じがたいけれど、事実だ。ジュリアが全て視たことなんだから。」
声を荒げ、無き叫び、今にも跳びだしそうなノアンをフェイトが羽交い絞めにしてなだめる。
「ギン、黙っていないで答えなさい。他国と内通し、この国の人々を苦しめたのは、貴方ですね?」
キャシアが厳しい声で問う。
「っっはは、っははは、」
唐突に、ギンの唇から笑い声が漏れた。
「何がおかしいのですかっ!!」
「これだから、貴様らはいつまで経っても馬鹿だ、阿呆だと言われるのだ。」
「あなた、ギンではありませんね?」
「は?俺はオレだ。貴様らの知っているギン・シルフ以外の何者でもない……。貴様たちは認めたくないだけだろう?今まで、散々死線を共に乗り越え、傷をなめあいながらすがり付いて生きてきたオレを、殺さなければならない事実を。」
「……おまえ、ほんとにやったのか?」
スカイが淡々とした声音で言う。
「ああ、俺がやった!!」
「……何故だ、なぜ、こんなことをした!」
ノアンは、最愛の友に、いや友だからこそ声を荒げ問う。
「憎かったから……この国の連中は、いつも、いつも、いつも、己の無事を何より守ろうとする!俺たちがいくら身を挺してもそれが当然だと思い込んでいる!!」
「お黙りなさい!!」
キャシアがどなる。
「だからといって、貴方がしたことは間違っています。人の命を奪ってよい者など居ないのですっ!!この国を守る者の要として・・・・・・あなたを封印します。」
キャシアがそういうと同時に、六人のハーバーズがギンを囲む。
「うるさい!黙れぇ!!」
そう言ってギンは、腰に挿していた短剣を抜き放ち、キャシアに向かって切りかかった。もう間に合わない、誰もがそう思った。
しかし、ノアンが能力で高速移動を行い、一瞬のうちにキャシアをその腕の中に包み込む。ギンの持つ短剣が深々とノアンの肩に刺さり、刀身が体の前側へとその姿を現す。彼よりも背の低いキャシアは無事だが、その表情を強張らせている。
「キャシア、速く聖句を……」
ノアンがうめくように言う。
「……わかりました。みんな、お願いします。大地より猛き落葉の鳶」
意を察したかのようにハーバーズ全員が順に言葉を謳う。
「焔より清き紅蓮の紅」
「灼熱より赤き日輪の朱」
「大樹より儚き深海の碧」
「氷より眩しき雪原の銀」
「海より青き蒼穹の藍」
7人の詠唱する聖句が広間一面に響き渡る。
その声はどれも皆、どこか悲しげで、寂しげで・・・・・・しかし、そんな心を断ち切ろうとするかのような意思が現れていた。
『今、此処に集いしチカラを示し、道を誤りしものを異界に封ずる。』
六人が聖句を発すると同時にギンは水晶に包まれ始めた。
「キサマラァァ、何をするつもりだぁ!!いつか必ず!必ず、貴様らを殺してやる、たとえ生まれ変わろうと、姿形が変わろうと、必ずこの世界と共に八つ裂きにしてやる!!!!!」
こうして彼は半永久的な眠りについた。
「------ギン。そうなる前に、オレがお前を殺すよ、お前にこれ以上罪を重ねさせないために……」
ノアンはそう言って、水晶を優しく撫でた。彼の頬から一筋の涙が零れ落ちたように見えたのは、キャシアの気のせいだろうか・・・・・・。ノアンは肩から、短剣を抜いた。その傷口からはギンの瞳と同じ色の液体が少しずつ流れ落ちている……。

―---数ヵ月後。
高台の上にキャシアが立っている。
彼女が振り返ると、そこにはノアンの姿があった。
「ノアン、傷はどうですか?」
あの日以来ノアンは肩の傷が治るまで静養しろ、と他のアビリティーハーバーズにことごとく言われてきたにもかかわらず、傷を押して職務をこなしていた。
「ああ、だいぶいい。どちらにしろ、この呪いは消えないだろうから」
呪い・・・・・・ギンから受けた肩の傷、それは呪いの糧となってしまっていた・・・・・・・。
「……お前こそいつもここに居てばかりでは風邪をひくぞ」
キャシアがいたのは、ギンの墓石の前だった。
「ええ、大丈夫です。ギンもあんな人でしたから、わたくしたち以外に彼のお墓参りなどする者もいません、みなは職務に追われていますし……。本当に、どうしようもない人ですわ、民を守るべき者が自ら傷つけていてなんになるというのです……」
そう言ったキャシアの頬を一筋の雫が伝う。
「そんなこと言ってやるな……。仮にもお前のあ―」
何かを言おうとしたノアンの唇にキャシアが人差し指を当てて言葉をさえぎる。
「それは、言わない約束です」
「そうだったな」
ノアンは、どこかぎこちない苦笑を浮かべた。
「それより、お前俺を探していたんだろう?どうしたんだ」
「お願いがあるのです。わたくし達のアビリティーをあちらの世界に流す際、わたくしは、鳶のチカラのいくつかを、この精神とともに封じようと思うのです……。」
「え?」
ノアンは、キャシアの両肩を力強くつかんだ。
「馬鹿!!そんなことをすれば、お前の精神はアビリティーとともに眠りについてしまう、俺が変わりに……」
ノアンの言葉を聞いたキャシアは首を横に振る。
「いけません、あなたのチカラは後の世で仲間たちを救います。それに、鳶のアビリティーは、あまりに強大、志無き者が持てば、ギンの様に世界を狂わせる……。」
「キャシア……」
キャシアは己の肩をつかんでいるノアンの腕にそっと手を置いた。
「ですが、みなが考えているほどギンの封印は絶対のものではない気がするのです……。もし、楔が切れれば、ギンはまた過ちを繰り返す、そうなった時、後世の能力者たちに鳶のアビリティーの開放手段を残しておかねば……引き受けてくれますね?」
ノアンは、前髪をかき上げながら言う。その表情からはどこか、困っているような、悲しんでいるような印象を与えられる。
「たく、どうしていつもお前は一人で物事を決めてしまうんだ?どうせもう考えは変わらないのだろう?」
「すみません、わたしは…あなたを独りにしてしまう……」
キャシアは泣き崩れた、その目には、大粒の涙が浮かんでいる。そんな彼女を抱き寄せながらノアンは優しく言った。
「わかったから、泣くな。何千年先でも、何万年先でもお前の隣に行くから……、必ず見つけてみせるから」
そういったノアンの瞳にも涙があふれていた。

「これが真実です。叶榎、鳶の能力は、アビリティーの中でもあまりに強大です。大きすぎる力はいつか、自分を滅ぼします……どうか、自分を忘れないで下さい。」
キャシアが強い意志を映した瞳を向けて叶榎に言った。
「そして仲間の存在を忘れないで……」
「――-何なんだよ、これ。」
叶榎が愕然とした表情を浮かべている。
「私たちが犯した過ちです。貴方達には、同じ目にあってほしくない。ですから……」

重く感じるまぶたをあけると、和斗の顔が見えた。
「どうやった、みれたか?」
「……ごめんね」
叶榎はそう言って、和斗にすがりついた。
「やっと思い出してくれたんやな……」

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