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扉の中に、異様な光景が広がっていた。
同じ作りの扉が色々な所に何百、いや、何千と続いている。
そしてその扉の一つ一つに、文字らしき物が書かれていた。
「あちらに続く扉まで少し歩く事になる。そこに行くまで、絶対にその他の扉には触れるな。」
暁がそう言いながら歩み始める。
そして、一同は暁を先頭に奇妙な空間の中を進み始めた。
しばらく無言で歩いていると、叶榎は、扉の開いている門があることに気付いた。
扉に触れてしまわない様、注意して歩きながら、その扉を横目で見ると、その中に人影が見えた。
(叶榎――)
人影は叶榎に気付いて声をかけた。
「えっ?母さん!?」
扉の中には、彼女の母がいた。
(叶榎、辛ケレバ、イツデモココニ来テイイノヨ?)
そういわれ、思わず叶榎は、足を止めそうになる。
扉の中に、幼い頃亡くした最愛の家族が居るのだ。兄が居て、今まで涙した事は無かったが、それでも、寂しくなかったといえばウソになる。物心ついたばかりで、まだまだ両親に甘えていたい年頃に死に別れたが、母の温もりは忘れられなかった。
その時、叶榎の左肩に、誰かが背後から左腕を伸ばしながら言う。
「叶ちゃん。立ち止まったらあかん。」
そう声をかけたのは、和斗だ。
「こんなとこで立ち止まっとったらえらい事になってまう。」
「でも、あそこに母さんが!父さんと一緒に事故で死んだ筈なのに……。」
「えっ、誰もおらんよ?」
「うそ!だって、あのドアの中に!」
叶榎が動揺していることに気付いた和斗は諭すように言った。
「落ち着け、叶榎!扉は全部閉まっとる。それに、亡くなったお袋さんは、親父さんほっといて一人で叶ちゃんに会いに来るような人なん?」
「違う……。」
「せやったら、行こうや。」
叶榎は、和斗に引かれるままに歩みだした。
「もうすぐ出口だ。」
暁が、後ろの二人のやり取りには全く気付いていない様子で言う。
叶榎達の目の前には、一際大きな扉がそびえていた。

── 来ル、奴ラガ、現レル。
暗闇に満たされた空間の中に声ならざる声が響き渡る。
「我が主?それは、真ですか。」
デメテルの冷静そうな声が響いてくる。
──滅セヨ、滅ボセ……。
「俺が行く!行かせろ、アルテ!」
アレスが勢いよく声を発する。
「おぬしはまだ肉体を得ていないだろう、私が行こう。いいな?ウェル、アルテ?」
デメテルが、アレスがいるであろう場所とは反対の空間に向けて言う。だが、暗闇に包まれていてその姿は見ることが出来ない。
「……ったくぅ、しょうがないわねぇ。いいわぁ。今、肉体を得ているのはあなただけよぉ。奴らを殺しておいで。」
アルテミスが答える。
「アルテミスさんがそうおっしゃるなら……いいです。デメテルさん……行って下さい。」
ウェルカヌスもデメテルの意思に同意を示す。
「おゆきなさい。サードブレイカー・デメテル」
アルテミスの声と共にデメテルの気配は消えた。

扉を抜けると、その向こうには、色彩にあふれた空間が広がっていた。
まず、そこで目に付くのは、桜色のガラスで作られた壁だ。教会のような作りの建物。
その天井を見ると色とりどりのガラスで作られたステンドグラスがはめられている。調度、太陽が真上にあるのか、そのステンドグラスの模様が床に映し出されている。おそらく、このステンドグラスの模様は魔法陣であろう。こちらに来るとき、暁が使っていたものと酷似している。
「しっかし、すんごいボロいなここ。何なんだいったい?」
叶榎が、不思議そうに言う。
すると暁が、ステンドグラスを眺めながら言った。
「旧神殿の後だ。こちらでアビリティーハーバーズが、代々儀式の時に使用していた物で、今から、5018年前に都をエスティアに移転したときに、一緒に移転されてから、ほぼ使用されていない。ただし、あちらの世界からこちらに来る場合は、必ずここに出る。何故ならば、空間座標を計算する過程で………………」
「………おい、どうするよ、あれ。」
叶榎が、和斗に話し掛ける。
「せやなぁ……ひとまず、ほうっといて飯にせえへん?」
「……そうしよう。ほっとけばやめるだろ。」

食事の後。
一行の雰囲気は、格段に良くなっていた。……ある一名を除いて。
「へぇ~。叶ちゃんは風宮に通っとんのか。あそこメチャ、ランク高いやん」
「ああ、でも、弓道で行ってたから。そぉいう和斗はどこに通ってんだ?」
「おれは、雨ヶ咲。」
「そっちこそ、超名門校じゃん!!」
「なぁ、暁はどこなん?」
「……こちらには、高校は無い。」
暁が、つんとした口調で言う。
「…叶榎ちゃん、ちょっとこっち来てぇな。」
それを聞いた和斗が、叶榎を教会の隅に呼ぶ。
「なぁ、俺の作った飯まずかった?あっ!!もしかして、砂糖と塩、間違えてた?」
叶榎が小声で和斗にたずねる。
「いんや、多分、話し無視ったん根にもっとんとちゃう?」
「やっぱりそうかぁ」
「しゃぁない。素直にあやまろう。」
二人は、暁のそばに戻った。
「暁?」
叶榎が呼びかけると、暁かちらりとこちらを見た。
「ごめん、悪かったって。頼むから、機嫌直してくれよ。」
「仕方ない、ここでこうしているわけにもいかないからな。それより……来たぞ。」
「一体、何言い出すんだ!? ……そしてさり気にむしってんじゃねぇよ。」
「はぁ~!?叶ちゃん、わからへんの?人や、気配が近づいてきとる。数は……。」
「一人だ。」
瞬時に探査系の魔法で数を確認した暁がそう呟いた。
(しかし、おかしい。こんな郊外に何故人が……。)
暁は、ライティー側の地形に詳しいため、少しいぶかしんでいる様子だった。
だが、特に言葉にする事も無く、脳裏に浮かんだこの辺りの地図を見て、その人物がどう動くかを見ている。
ギィィィィィィィィ-―――――――。
神殿の大扉が音を立てて開く。その扉の向こうには……。
「きゃ---!コソドロ!」
……その扉の向こうに立っていたのは、少女だった。
年齢は、叶榎よりも、5・6歳ぐらい下だろう。長い星空色の髪を結い上げていて、紅色の目をしている。見るからに小柄で、それこそ、叶榎が軽く突いただけで転んでしまうのではないかというぐらい華奢だ。しかし、不思議とその姿に病的なものは無い。
そんな少女が、叶榎たちを見て大声を上げたので、3人は、思わず後ろに引いてしまった。
「この国の歴代のハーバーズの方々を奉ってある神殿によくもコソドロなどど言う真似……」
放っておけば延々と話しつづけそうな少女を暁が制した。
「だまれ。お前はいったい何者だ?」
少女は、暁の言葉に気を害したらしく、ムッとした表情で言い返した。
「そちらこそ、どなたですか?コソドロさん。」
「コソドロちゃうわい!俺らはあんたの言うれっきとしたハー…んぐっ」
泥棒と何度も言われて頭に来た和斗が言おうとした言葉を叶榎が後ろから口をふさいでやめさせる。
「えーっと、俺たちはだなぁ、宮殿の使いだ。ほれ、王族から預かった身分証。んで、そちらさんは?」
「えっ!すいません。王宮の使いの方にご失礼を……わたしは、ティファナと申します。ここの神殿から煙があがっているのが見えたので……」         
叶榎たちが王宮の関係者だと知ったからか、ティファナと名乗った少女は言葉遣いを改めた。
「わたしも、王族にはお世話になってるんです……実は今も王都のエスティアに向かうところで……」
「そうなのか?なら、調度いいや。俺らもこれから行くとこなんだ。途中まで一緒にいこうぜ。」
叶榎が、旅の一行に女性が入ることを期待して他の二人に視線を向ける。
そうすると和斗はにっこりと微笑んで頷いた。
「ええんやない?女の子おったら華やかになるんやし。どこぞの男女一人よりは………ぐおぅ。」
和斗が言葉をいい終えてすぐ、和斗の右斜め前に立っていた叶榎が、振り向きざまに鉄拳ををはなつ。
「何か言ったかな和斗君……?」
にっこりと笑っている叶榎の額には血管が浮かんでいるのだが、ものすごい突きを腹部に叩き込まれた和斗は、痛みでそれに気付いていない。
「…………い、いえ…何でもありまへん……」
顔が青くなった和斗はそれだけ答えるのが精一杯だった様で、わき腹を抑えて立っている。
「暁も、な、いいだろう?こんなかわいい子ほっとけないよー。」
叶榎は、旅の一行の中で一番頭の固そうな暁に同意を求めようとする。
「いいや……だめだ。貴様、ティファナではないな。いったいなんのいたずらかな?」
暁は、まるで子供のいたずらを見つけたときのように、呆れた声で言った。
「なんでですか?わたしはティファナですよ、暁様。」
この冷静な男は、更にため息をついた。
「彼女ではないという理由教えてやろう。彼女は、俺と面識がない。ましてや、彼女が俺の顔を知っていたとしても、コソドロと間違えた後に何故、名を呼ぶ事が出来る、俺はまだ、名乗っていないはずだが?」
「い、言い間違いです。それに、声をかけたときは、あなたの姿だけ見えなかったんです。」
「ほう、そうか、やはり、貴様はティファナではないようだ。」
暁が、今度は抑揚の無い、心から冷え切った声で言った。
「今言った事は、ウソだ。」
「……!!」
ティファナが驚いたような表情を浮かべる。
「さあ答えろ、お前は何者だ?」
暁は先程より更に冷たい視線をティファナを名乗るものに向けていった。
「くくくくく……はははははっ!ばれてしまったならば仕方が無い。我が名はデメテル・ザ・サード。三番目の死滅者。」
デメテルと名乗った少女は、ひらりと右手を振った。するとその姿は、闇を発し、まるでパズルの様に分解され、組みかえられていく……。その闇が消えた後に出てきたのは、二十代前半の女性であった。
特徴的には、先ほどとあまり変わりは無い。しかし、その姿からは、少しも華奢さが感じられなくなっていた。
風にゆれる長い黒髪、雪の様に色素を感じさせない白い肌。デメテルの姿からは生きている者にあるはずの色合いが、感じられない。
「貴様ら能力者たちは、我らが皆殺しにしてやる!我が主、ギン様の名のもとに!!死の間際になって叫ぶが良い……恨みを、後悔を、憎しみを!!その叫びがまた新たな闇を生み出し、主の力となるのだ!」
そうデメテルが言い終わるか否か、その白い腕の下からものすごい勢いで何かが飛び出してくる。
その何かは、鋼色の残像を残しながら叶榎に襲い掛かった。
「叶榎!」
そう叫んで、暁と和斗が叶榎を突き飛ばした
ザシュッ。
叶榎が先程まで立っていた場所にその何かは、あっけなく刺さる、
「この武器、こいつは……鎖使いか、ならば……和斗、刀を出せ。」
「ああ。」
和斗が答えると暁が、呪文を唱え始める。
「刃を持ちし者・極めし者・その眷属・今・彼の者に従え・藍き能力を持ちし者・名を和斗・彼の者の刃にまといて・その力を示せ・〈風斬り―KAZAGIRI〉」
刹那、刀が青みを帯びる。だが、次の瞬間、それは無くなり、刀はいつもの状態に戻った。
「は、ははははははは!!!魔法の不発か!どうやら、そこの魔術師は、よほどの未熟者と見える!我が、毒牙をくらうがいい!」
デメテルが軽く腕を振るとその右手に持った鎖が、暁の左腕に絡みつく。
「暁!」
叶榎が、仲間を心配して声を上げる。
その直後。
ぐちゃ、と骨の砕けるいびつな音が響く。
「うわああああああ――」
暁が悲鳴を上げる、が、すぐに不敵な笑みを浮かべて言った。
「掛かったな……未熟な、のは、お前だ……デメテル、今、お前には、攻撃の手段が……ない。」
「何!?」
デメテルが、周囲を見ると和斗と呼ばれる少年の姿が、消えている。
「しまった!!」
「ご苦労さん、暁。」
デメテルが少年に気付いた時、少年は彼女の2m後ろにいた。
ヒュン――ザシュッ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ボト・・・・・・。
デメテルの叫びと共に、彼女の右腕が、地に落ちる。
「腕が、うでがぁぁぁ」
「お姉さん、弱いなぁ。次はどこ、落としましょか、左腕?足?それとも……」
和斗が、デメテルを斬ろうと歩み寄る。
「い、いやだ、私は、私の力はこんなものでは……」
恐ろしいほど冷たい和斗の表情を見てデメテルは、混乱している。
「和斗!落ち着け!」
「!?」
和斗の顔にいつもの表情が戻った。
暁が、和斗の言動を止めようと発した。声が聞こえたのだろう。
和斗は、先程、デメテルの腕を切り落とした。しかし、2m後ろから、いったいどうやって。
「風斬り……通称、カマイタチ。藍のハーバーズが、朱の能力を持つ魔術師によってかけられる魔法によって発動させるチカラ……ですよね?」
唐突に声が聞こえてくる。
「誰だ!」
叶榎が声を上げる。
「こんにちは……僕の名は、ウェルカヌス・ザ・セカンド……二番目の死滅者です……」
姿の見えない声の主は、続けて言った。
「ご心配なく……今日は、デメテルさんを迎えに来ただけなので………あなた方と戦うつもりはありません。」
「何を言う!ウェルカヌス、私はまだ!……」
「黙りなさい。」
デメテルの言葉に覆いかぶせるようにウェルカヌスが言った。
「今のあなたでは……この人たちに……勝てはしません……引きましょう……」
「しかし!」
なおもデメテルが食い下がる。
「五月蝿い。」
ザシュッ
「うがっ。」
デメテルが腹部に穴を開けて倒れる。
そのとき、ほんのわずか、デメテルと同じ紅色の瞳をしたウェルカヌスの姿が見えた。
「この人は……連れて帰ります……皆さん……また会いましょう……次は…」
ウェルカヌスの言葉と共にデメテルの姿が薄れていく。
「……殺しますから。」
ウェルカヌスの声が消えると同時に二人の紅き瞳を持つものも消えていた。
「おい、和斗、どうしたんだよ、いきなりおかしくなっちまって……」
叶榎が和斗に尋ねる。
「あれは……この能力を使って戦っとった頃に受けた黒瀬の……銀の呪いや……。」
和斗は、そう言ってしばらくの間、立ち尽くしていた。


そして、後には、彼女の血痕だけが残っていた―――。




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