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 二人の前に浮かんでいる陣に映し出している繊細な風景を見ながら暁は言った。
「………これは、今からすると遠い過去、と言う事になるだろう。」
暁はそう言って語り始めた。
「……それは、此処とは全く違う次元に存在する国、ライティー王国で起こった事が原因だった。ライティー王国は、とても豊かで満ち足りた国だった。こちらの世界にはない魔法や、錬金術など、全く異なった技術もたくさんあった。そして、その中に更に異なった力を持つ者がいた。その者達は、それぞれの能力に特徴を持ち、その能力によって髪の色が一筋だけ他の部分と違う色をしていた。その者達を国の人々は、畏怖と、敬意とを込めてアビリティーハーバーズ──能力(チカラ)を持ちし者と呼んだ。」
そこまで聞き終わった時、叶榎の眉が一瞬動いたが、すぐに元に戻った。
「……だが、その平穏も長く続かなかった。アビリティーハーバーズの中にも力の差異はある。その中でも、最も能力が大きいと謳われる七人が居た。その七人は、それぞれ、紅、藍、碧、朱、銀、闇、そして鳶の色のアビリティーを持っていた。だが、その七人の内、闇色のアビリティーハーバーズが国を裏切ったんだ。奴は、隣国と密かに通じ、ライティーを攻めさせた。お陰で、国は混乱し、密通者が何者かも解らなかった戦争初期は、多くの人間が……死んだ。」
映像が、平和そうだった街並みから、一転して焼け野原のそれへと変わる。
「だが、ある日、紅のアビリティーハーバーズが、その能力で密通者を見つけたんだ。残りの六人は、奴を封印する事にした。正確には、奴の魂を。六人にとっても苦渋の決断だった……。だが、封印は成功し隣国は情報源を失った為、混乱に陥り戦争は勝敗の付かぬまま……終わった。」
叶榎の前にある映像が切り替わり、今度は荒れた町並みが映し出された。
「二度とこんな事が起らないように、残った六人のアビリティーハーバーズは、ライティー王国に残っていた総てのアビリティーを異界に流した。そう、この世界に………。」
暁が、悲しそうな目で焼けた街並みを見ながら言った。この少年は、どこか妙な印象を受ける。もちろん、外見的なものではない。何故だかこの暁と言う名の少年は、数千年前の出来事をまるで自分が見てきたことのように話す……。
「もう、解っただろう。お前は、鳶色のアビリティーハーバーズだ。お前にはその力があるはずだ。思い当たる事があるだろう?………だから、いっしょに来い。」
叶榎は驚きを隠せないでいる。確かに叶榎には暁の言う事に思い当たるものがある。だが、そう簡単に信じられるわけもない。
「なんだよそれ!本当なのか?魔法とか、超能力とか。ましてや異世界があるなんて、漫画の中の話だろ??」
そんな事を言いながらも叶榎は、それらの存在を確信していた。現実になる夢……その中で見ていたからだ。先ほど見せられた城とそっくりな建造物を……。
「もし本当だったとしても、そのライティーってとこは平和になったんだろ?ならなんで、俺があんたと一緒に行かないといけないんだよ!」
「その闇の能力者が、復活しそうだからだ。」
暁が真剣な顔でそう言う。
「奴は……奴の魂は、ここでもライティーでもない場所にある。そのせいで監視は出来ても干渉は出来ん。もし、奴が甦ればここの世界と、ライティーのある世界の二つは消えてしまうだろう。」
「ちょっと、なんでだ!なんで、こっち側まで滅ぼされんだ!」
叶榎は、声をはり上げて暁に言い返す。だが、すぐに何かに気付いたようで、その顔は青ざめていった。
「………もしかして、残りのアビリティーなんとかってのを、此処ごと潰すって、そう言う事なのか?……なぁ、そうなんだろう!」
暁は黙って頷く。次の瞬間、叶榎の脳裏に、浮かんで来た人物がいた。兄と……夏紀だ。……もし、こちら側に闇が現れてしまったら……?あんなに平和に見えた街並みを瓦礫の山に変えてしまうような戦いがこちらでも起こったら?彼らはどうなる?
「……俺が、行けば、助かるんだな、ここの人たちは。」
自分が行けば、大事な人たちを苦しめずに済むかもしれない……ならば。
「残念だが、もう奴の復活は止められない。……だが、それまで、まだ時はある。復活の時までに残りのハーバーズを全て集めれば、被害が出る前にもう一度、封印することが出来る。」
……ならば、答えは一つしかない。
「解ったよ。あんたと……暁と一緒に行く。だけど、少しだけ待ってくれ……いくらなんでもいきなり俺がいなくなると騒ぎになる、必ず行くから。」
「いいだろう。今夜、十二時に灯台に来い。……………陣を、解くぞ。」
暁がそういった時、周囲の景色に色が戻り始めた。
「ちょっと、ちょっと!君、勝手に床に落書きしないでくれる?」
いきなり、現実に引き戻された二人に、玉置が何事も無かったかのように言う
「……………………………。」
一同は無言。
「きちんと掃除してってもらいますから!」
一同は無言……を通り越して脱力している。
血まみれの相手にここまで言えるのだから、案外、この女性……天然なのかもしれない。
「まあまあ、玉置さん。掃除なら俺がやるよ?……ところで、聞きそびれてたんだけど、暁、お前なんで血まみれなんだぁ?」
叶榎が、普通なら一番最初に問うはずの質問をする。
「ああ、これか。奴の動きを探る時に少しばかりしくじってな、たいした傷ではないので放っておいたんだが。流石にこっちでは目立つな……。元に戻すとするか。」
暁はそう言うと、装具のついた右手を血色に染まっている部分に滑らせる。
すると、暁の白い指先がたどった部分が何事も無かったかのように傷口を治癒してゆく。
横で見ていた叶榎が不思議そうにたずねた。
「……それも魔法か?」
「これは違う、魔法で傷は治せない、これは俺のアビリティーだ。総てを癒す能力を持つ。第一、魔法には陣が必要だ。」
暁の言葉の中に、アビリティーという単語を聞き取った叶榎が、嫌な予感がすると言わんばかりの表情で更に聞き返す。
「…………もしかして、暁もアビリティーハーバーズなのか?」
「お前………俺の話を聞いていたのか?言っただろう、アビリティーハーバーズは、一筋だけが色の違う髪をしていると。俺は、朱のアビリティーハーバーズだ。」
「はぁ~?それを先に言え!」
叶榎は、そう叫ぶ。
一方の暁は、またもや何事も無かったかのように店の品を眺め始めた。


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