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紅き灯火 白き心」(2007/02/03 (土) 18:15:32) の最新版変更点

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**アビハ番外編1 神宮葵の物語です。             見渡す限り、しろ、シロ、白。           私は、そんなこの場所が大嫌いだった。                ……彼と出会うまで。 生まれつき髪が焔のように紅く、瞳が淡い紫色だった。両親は共に、古くからの神社に勤める家の出で、生粋の日本人なので、こんな色の子供が生まれるはずは無かった。初めのうちは両親も仕事柄か、神からの贈り物だと大喜びしたそうだ。 ……だが、わたしが13のとき、さらに奇妙なことが起こった。セミロングに伸ばしていた髪の、左前髪の一房だけが、速く伸びるようになりその部分の色が他より濃くなったのだ。 ――――5年後。 週に一度ここに通うことになってから、5年が経つ。今ではこの大学病院へ一人で通っている。 ……私はここが大嫌いだ。 壁、天井、床……どこを見てもただただ白一色。そんな何も無い空間に患者たちの不安や死への怖れが漂っている。 ……私は、人の考えていることが何となく分かる。もちろん、予想などと言う空虚で曖昧なものではない。麦僊としたイメージが直接私の思考の中に流れて来るのだ。それは、私の意志に関係なく流れ込んできて周りの人間の思考を私に伝える。そう、たとえ知りたくないことでも……。 受付で受診券を見せる。 「お願いします」 「はい、お預かりしま……きゃっ」 私の指先と受付の女性の指先が、ほんのわずかだが触れた、そのとたん彼女の目が私を見て奇異の視線を向ける。私は、気にせずに彼女が取り落とした受診券をカウンターに戻し受付を去った。背後から女性たちの声が聞こえてくる。 「事務長、何なんですか、あの女の子……」 「ああ、あなたは最近ここに来たから知らないのね、5年くらい前からずっとここに通っているのよ、あの子。」 「どこか悪いんですか?」 「それがね、あの髪と目の色見たでしょ、あれ、生まれつきらしいの。おかしく思ったご両親がここに診察を受けに連れてきたんだけど、何しろ原因が分からなくて。何かあってからでは遅いからといって定期的に検査を受けに来るの。」 「私、なんだか気味が悪いです……」 「皆同じよ。少なくともここの事務員はそう思ってるわ。」 ………奇異の視線を向けられることには慣れた。こんな頭をしているといやでも人目を引く。高校生の間は、髪を濃い茶色に染め、瞳の色は、曽祖母が外人だからと嘘をついていたが、それでも色の濃い一房は染まらなかったので、いろいろと噂され絡まれることも多かった。そんな連中は、ことごとく絡んできたことを後悔するぐらいの目にあわせてやった。高校を卒業して専門学校に通うようになってからは、髪の色を元に戻し、遠くに行く時でさえ髪を隠すことはなくなった。その分周りからは、きつい思考が伝わってくる。 「はぁ……」 診察と検査が終わり、結果が出るのを待つため広い中庭で時間をつぶす。この中庭は、病院の中で唯一気が休まる。室内とは違ってここには色と患者の安らいだ気持ちが満ちているから……。 いつものベンチに座ってぼんやりと空をながめる。 30分ほど経ったとき、横から声がかけられた。 「ここ、座ってもいい?」 見ると、同じ年くらいの少年が立っている。 「どうぞ」 そう言うと枯葉色の髪の少年はにっこりと微笑んで私の右側に座った。 「オレ、北都 類(ほくと るい)。君いつも、ここに座って空を見てるよな、名前なんて言うの?」 「神宮 葵(じんぐう あおい)」 どうせこいつも私のことが珍しいだけだ。……そう思った。 「へぇ、葵って言うんだ。きれいな名前」 「普通でしょ、」 「そんなこと無いよ、それに、いいな、その色」 類が、髪と目の色を言っているのだと気付いて、私は少し、困ってしまった。今まで、こんな風に素直に言われたことは無かったから……。 それから、彼といろいろな話をした。好きな音楽の話、食べ物の話、趣味の話……不思議と彼からは、私に対する奇異の感情は伝わってこない。 「ねえ、葵はどうしてここに通ってるんだ?」 「北都くんには関係ないわ!!」 一番聞かれたくないことを聞かれて思わず、声を荒げる。 「………ごめん、聞かれたくなかったならあやまる」 「私こそ、ごめん。いいわ、北都くんになら話しても、私の髪と目、染めてるわけじゃあないの。だから、そのことでいろいろと。」 わたしが、苦笑しながら言った。どうせこれで、彼も態度をがらりと変える。そうなれば、もうこの中庭は立ち去ろう。 「そうなんだ、」 だが、彼の思考は変わらなかった。 「気味悪くないの?」 「なんで?いいじゃんか、俺は好きだけど?」 「変な奴ね」 そう言った私の顔は、言葉とは裏腹に笑っていた。 それからというもの診察のたびに類と会った。類とは、いろいろな話をした。18歳で、同じ年の類は、心臓が弱く、あまり学校に行けずに入退院を繰り返しているらしい。そう語る類本人はかなり元気そうで、病弱な印象などどこにも無かったけれど。 そんな日々が半年ほど続き、私は、診察が無くても類の病室に遊びに行くようになった。 「なぁ、葵。俺のとこに来てくれるのはうれしいんだけど、友達のとことか、行かないでいいのか?」 「いいのよ、友達なんていないから。みんなこの髪と眼を見て気味悪がるのよ、そうじゃなかった変わり者は北都だけよ」 そう言って苦笑していると椅子に座っていた類が、戸惑ったように笑う。 「誰が変わり者だ」 「北都類」 「あ~お~い~!!」 「あはは、北都、顔へん!」 私たちは、お互いに友人もいなくて、自然とお互いが引かれていった。そして、どちらからということも無く、恋人として接するようになった。 類と始めてあって2年の月日が過ぎた頃。 私は、いつものように類の病室に来ていた。 類は自分のベッドに座り、私は彼の右側に寄り添って座っている。 「あおい、」 「何、北都?」 私は、彼の方を向いた。 「俺のこと、類って呼んで」 「類…」 「よかった、初めて名前で呼んでくれた」 「そうだったかしら?」 思えば、今までずっと北都と呼んでいたような気がする。 「すきだよ、葵。初めて葵を見たとき、すごくきれいだと思った。葵の髪って、バラみたいだよな」 「バラ?」 「そう、俺好きなんだよ、紅色のバラ。とげを隠し持ってて、うかつに触ると怪我する。でも、そこに凛と存在していて、実は誰かに摘んでもらえるのを待ってるんじゃあないかって思えてくる。」 「よくわからないわ。」 「はは。それからしばらくして、葵と始めて話をした時、今度は、葵の心は、紅い灯火のようだと思った、俺は心の奥底で引かれていたんだ。俺には無いものを持っていたから……」 「私も類が好きよ、真っ白な心の類が。今まで、散々人にからかわれて、気味悪がられた私を認めてくれたのは、あなただけだったわ」 「ありがとう、葵」 「どうしたの?今日の類、変よ?」 「……そんなことないよ」 そう言った類の顔は、怖ろしいほど穏やかだった。 「葵、生きてくれよ」 「何言ってるの、それじゃあ、まるで遺言じゃない、類だって病気が治ればもっと一緒に居られるじゃない。そうしたら、一緒に暮らしましょう、ね?約束よ、」 「わかったよ、ありがとう。」 類が、同じ言葉をもう一度繰り返した。 「今日の類、やっぱりおかしいわ……」 そういう私の唇に、類はそっとキスをした。 白い白い廊下を駆ける。 昨日の夜から、ひどく胸騒ぎがする。 私の勘はよくあたるから、もしかしたら、類に何かあったのではないかとそんな不安で、胸がいっぱいになる………。そんな思いに駆られて始発の電車に乗って病院に来た。 類の病室の前で立ち止まった。部屋から、明かりが漏れていることに気付いて安心する。 そして、ノックをした後、類の部屋に入った。 「おはよう、類。始発で来ちゃった。」 しかし、類からの返事は無い。眠っているのかと思い、私は類に近づいた。 「る、い?」 体を揺さぶりながら類の名を呼ぶ、ひどく呼吸が浅い。類からの返事は無い。 「ねぇ、るい、返事してよ、からかってるんでしょう?」 私は、目に涙を浮かべ、気がついたら、ナースコールのボタンを必死で押していた。 「あ、おい……?なん……で、ここ…に……」 「類!!いいから、しゃべらないで、看護婦さんが、もうすぐ、来てくれるわ!」 そう言いつつ、私にある力が、類の中の命の灯火が消えようとしていることを伝える。 「あ、りが……な、今…で、ずっと……あ、おいを………」 そう言って彼は、力なく目を閉じた。 「ねぇ、類。何なのよ、続きを聞かせて、よ、私が、何なの?ねえ、おきて、類。」 しかし、類は、目を開かない。私の目から大粒の涙が次々と零れ落ちる。 「約束したでしょう、類、一緒に暮らそうって、あなたが、いつか話してた、紅色のバラがたくさんある家にしましょう、そうすれば、いつでもバラが見れるわ、だから、お願い、目を開けてよぉ、るいぃ……」 ――――こうして20歳で彼はこの世を去った。 彼は、私に、たくさんの思い出と、この世を去る1週間前にくれた指輪を遺して私の前から消えた。 「ねえ、類、あれからもう、2年も過ぎたのよ、私ね、強くなったわよ。あなたと会った頃の私は、人から逃げてたわ。でも、もう逃げるのは、やめにしたの、私にも、仲間がいることが分かったから。今ある能力があの時あれば、あなたを救えたかもと思うこともあったわ。でも、あなたは、もういないから、私は、彼女たちと一緒に貴方が生きていた世界を守るわ、だから、そこで見ててよね」 「葵さぁーん!!」 遠くから少女が走ってくる。 「なぁに、叶ちゃん?」 「こんなとこで何してんの?」 「ちょっと空をね、それよりどうしたの、」 「暁が呼んでる。」 「分かったわ、すぐに行くからって伝えといてもらえるかしら?」 「おっけい」 そう言って少女はもと来た方向へ走っていった。 ―――私の左肩には、類の好きだったバラの花の刺青がある。 彼が、どこからでもバラを見ることが出来るように。                                                     

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