ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1328 しょうりしゃなのじぇ
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バレーボールサイズのれいむとまりさの両親。
子ゆっくりになりかけの、ごく標準の鶏卵と同じぐらいのサイズの赤まりさと赤れいむ
が一匹ずつ。
計四匹のゆっくり一家が透明の箱に閉じ込められている。
箱は、とある民家の部屋の机上に置いてある。
「……」
そこへ一人の男が現れた。
「ゆひっ!」
と、ゆっくりたちは一斉に恐怖にまみれた声をもらしたが、親まりさとれいむが意を決
して呼びかけた。
「にんげんさん、ごべんなさい、もう二度と来ません。おうぢにかえらぜでぐださい」
必死に、体を前屈させて、いわば土下座のような姿勢で、許しを乞い続ける。
「だから、お前らが勝ったら逃がしてやる。あまあまもやるよ」
男は、そう言うと箱の蓋を開け、生ゴミを放り込み、ちらりと一家を一瞥すると、その
まま何も言わずに出て行ってしまった。
一家は、先日、お引越しをした。
子供が二匹産まれてそれが成長し、それまでのおうちが手狭になったためだ。広くてゆ
っくりできるおうちを探そうと森から出てきてすぐに見つけたのが人間の家だ。
周囲を巡って調べると、入り口があった。そこから入り込んで、
「ここをまりさたちのおうちにするよ!」
「れいむたちのおうちだよ!」
と、おうち宣言した。返事が無いことで、このおうちが自分たちのものになったことを
確信した一家は、早速ゆっくりし始めた。
「あ? ゆっくりか……」
そこへ、男が帰ってきた。男は、ゴミを捨てに行っていたのである。
「そういえば、ドアちゃんと閉めなかったかな」
忌々しげに呟いた。それは自分の迂闊さを恥じてのことだったが、それはそれとしてゆ
っくりどもである。幸い、まだそれほどに部屋が荒らされていないのにほっとした男は、
さっさと出て行けと一家に言った。
「なにいってるの! ここはまりさたちのおうちだよ!」
「そうだよ! おうちをとろうとするのはゲスだよ!」
「ゆぴぃぃぃ、げしゅはこわいのじぇぇぇ」
「ゆわあああん」
「だいじょーぶだよ! おとうさんとおかあさんがついちぇるのじぇ! それにまりしゃ
だっちぇ!」
と、怖がる妹たちに言ったのは、一家の長女である子まりさだった。野球のボールぐら
いの大きさである。この子は同時に生まれた姉妹を全て失っており、二匹の妹たちにこと
のほか愛情を持っていた。
「はいはい、だろーね」
男は、部屋から出て行った。それを見て、おうちを諦めたのであろうと思った一家は中
断されたゆっくりを再開するが、男はすぐに戻ってきた。その手に透明の箱を持って。
ひょいひょいと手近にいた子供たちを箱に入れる。
「れいむのおちびちゃんになにするのぉぉぉぉ!」
「おうちをあきらめないなら、まりさがせいっさいするよ!」
男は、はいはい、と馬鹿にしたように頷くと、いきなり前に出て、ぷくぅと膨らんでい
た親まりさを蹴り飛ばした。
「い、いだぁぁぁい!」
「な、なにずるのぉ! まりさがいたがってるよ!」
「制裁するとか言っといて蹴られたらそれかよ。相変わらず暢気な生き物だよな」
男はそう言うと、今度は親れいむを蹴飛ばした。
「ゆぎっ! ど、どぼじでごんなごとするのぉぉぉ!」
どうしてさっさと箱に入れずに蹴飛ばしたかといえば、それはこの一家に自分たちと人
間との力の差を教えるためだ。そのために、男は一発で済まさず、致命傷を与えぬように
注意しながら両親を何度も蹴り付けた。
「ゆ……ゆ゛、せいっ、さいするよぉ」
「ゆっぐりでぎないにんげんは……じねえ」
もうこれ以上やったらオレンジジュース等での治療が必要だというぐらいに痛めつけた
が、親まりさも親れいむも、敵意に満ちた目でにらみつけるのを止めなかった。
「ほう、けっこう根性あるじゃねえか。……いや、物分りが壮絶に悪いだけか」
男がにやりと笑う。
透明の箱を所持していることから察しがつこうが、この男、ゆっくり虐待を趣味にする
者であるが、最近は仕事が忙しいのと、虐待自体に飽き気味だったこともあって御無沙汰
であった。
しかし、こうして住居に侵入し、痛めつけても屈しないゆっくりを前に、持ち前の虐待
心が燃え上がっていた。
「ここからだしぇぇぇ! おとうしゃんとおかあしゃんをいじめるゲスはまりしゃがせい
っさいしゅるのじぇぇぇ!」
箱の中から子まりさの叫び声が聞こえてきた。
「ようし、出してやる。制裁してもらおうじゃねえか」
男は、子まりさを摘み上げて床に置いた。
子まりさは選ばれてしまったのだ。
「ゆゆっ! まりしゃの体当たりをくらうんだじぇ!」
勇敢に男の足へ向かって飛ぶ子まりさは、一家に人間との力の差を思い知らせるための
「教材」として選ばれてしまったのだ。
ぽいん、と子まりさがぶつかった反動で後ろに飛んだ。
「ゆっ、もういっぱつなのじぇ!」
すぐさま体勢を立て直して体当たりを食らわせる。
「ゆふん!」
五回ほど立て続けに体当たりをした後に、子まりさは勝ち誇った顔で上を見た。そこに
は激痛に歪んだゲス人間の顔があるはずであった。
「ほい」
しかし、子まりさの視界にあったのはにやけた男の顔であり、次の瞬間に視界を覆った
のは男の足の裏であった。
「ゆぎゅ! ちゅぶれるぅ!」
思い切り踏まれて子まりさは潰れかかる。
「おし」
男は足の裏の感触で、子まりさが潰れる寸前に足を上げた。
「ゆ゛……ぎゅ……」
子まりさは少し餡子を吐いていた。目からこぼれる涙にうっすらと色がついている。血
涙ならぬ餡涙だ。
「おちびぢゃあああん!」
「やべでえ、ゆっぐりでぎないぃぃぃ!」
「おねえじゃんが、ちんじゃうよぉぉぉ!」
「ぎょわいよおおお、もうおうぢがえろうよぉぉぉ!」
ゆっくり一家は泣き叫ぶ。
「おうち? ここがお前らのおうちじゃなかったのか?」
男は言いつつ、赤ゆっくりの入った透明の箱に、両親も入れた。これで、子まりさ以外
は全て箱の中だ。
「さてと、時間がねえな」
男は時計を見つつ言った。仕事に行く時間が近付いている。
透明の箱を机の上に置き、その前に子まりさを置く。
机の引き出しを開けると、そこから剣山を取り出した。そこは、虐待に使う道具を入れ
てある場所だった。
「これがいいな、動きも止められるし」
子まりさの底部を、剣山に押し付ける。
「ゆぎっ!」
子まりさが突如広範囲に生じた痛みに声を上げる。
「よっ!」
男が、ぐっ、と子まりさを掴んだ右手と、剣山を持った左手を胸の前で合わせて力を込
めた。
「ゆ゛っびぃぃぃ!」
底部にずぶりと剣山の針が刺さった。
「よし」
家族からよく見える位置にそれを置いて男は満足そうに頷いた。
子まりさのあんよに刺さった針は一本一本はそんなに太くないために、傷は小さく、さ
らに刺さりっぱなしなので餡もほとんど流出しない。
これならば、激痛に苛まれながらも、夜までほうっておいても死にはしない。
「いぢゃいんだじぇぇぇぇ!」
子まりさは痛みに泣き叫ぶ、男はそれを尻目に着替えを済ませ朝食をとった。まだ今日
は食事をしていないらしく、それを見たゆっくり一家は涎を垂らしていた。
「まりさたちにも、ごはんちょうだいね!」
「そうだよ、一人だけむーしゃむーしゃしてずるいよ!」
「まりしゃもむーちゃむーちゃちたいのじぇ!」
「れいみゅだっちぇ!」
「あと、おちびちゃんをたすけてあげてね! 痛がってるよ!」
なんの効果も無い要求を大声で叫ぶ。力の差と、人間に逆らってはいけないことをまっ
たく理解していないことを男に教えるだけの無駄な行為だ。
「おい、おねえさんとやら」
「ゆ゛ひぃぃぃ、ゆ?」
家を出る直前、男は子まりさに声をかけた。
「最初に言っておくけど、おれはお前を絶対に助けない。それどころか、仕事……まあ、
お前らにもわかりやすくいうとごはんを得るための狩りに行って帰ってきたら、いじめる
だけいじめて殺してやろうと思っている」
「ゆ゛っっっ!」
「やめでね! そんなひどいごとじないでね!」
「そうだよ! おちびぢゃんがわいいでしょお! どぼじでそういうことするのぉ!」
「夜になるまでおれは仕事だ。ほれ、窓から外が見えるだろ。表が暗くなったらおれは帰
ってくる。そうしたら、お前は死ぬまで苦しい思いをして死ぬ。もうお前はゆっくりでき
ない」
「ゆ゛びゃあああああ! やじゃああああ、まりじゃ、もっどゆっぐりしぢゃいのじぇえ
えええ!」
ゆっくりにとっては、もう二度とゆっくりできない、という言葉は単純に殺すと言われ
るよりも精神的にはダメージが大きい。
「たでゅけでえええ! おとうじゃん、おかあじゃん、たじゅげでええええ!」
「それだ!」
男が突然、子まりさを指差して大きな声を出した。
「おれは暗くなるまで仕事に行っていない。その間に、おとうさんとおかあさんに助けて
もらえ」
「ゆ゛ゆ゛っ?」
「あいつらが、今お前を助けられないのは、そんなことしたらおれに蹴られるからだ。で
も、おれがいなかったら、大丈夫だろ? な?」
と、男は両親に話を振った。
「ゆ、ゆゆゆっ! そ、そうだよ、ひどいことする人間さんがいないなら、大丈夫だよ!」
「ゆん! そうだね!」
「ゆっ、だいじょーぶらね!」
「おねえしゃん、だいじょーぶなんらね!」
男は、にやりと蔑みの笑みを漏らした。そこで、変に賢くて透明の箱に閉じ込められて
いるのだから子まりさの救出は不可能だとか理解している連中ならばこの手は上手く行か
なかったが、期待通りの馬鹿一家である。
「それじゃ、おれは行ってくるからな。おれが帰ってくるまでに助けてもらわないと、痛
くて苦しくてゆっくりできない思いをして死ぬことになるからな。でも、お前はおとうさ
んとおかあさんに好かれてるし、大丈夫だよな! それじゃ、ゆっくり足掻いてね!」
「ゆ……いったね?」
「ゆゆっ……いったよ!」
男がドアを閉めてしばらく、ゆっくりたちは固唾を飲んでそのドアを見つめていたが、
男が戻って来ずに、本当に出かけてしまったようだと理解すると、ほっとしてゆっくりし
た表情をした。
「ゆひぃ、はやぐ、だじゅげ、で……」
しかし、あんよの痛みで子まりさだけはゆっくりするというわけにはいかない。早速こ
の痛みから救ってもらおうと両親に声をかける。
「ゆゆっ! それじゃゆっくりしないでおちびちゃんを助けるよ!」
「ゆん! まっててね、おちびちゃん!」
頼もしい両親の言葉に、子まりさは痛みに涙を流しながらも、安心した顔をした。
「ゆっ! ゆゆゆ!?」
「ゆっ! か、かべさんがあるよ! ゆっくりできないよ!」
「ゆゆゆ! ゆっ! いちゃいよぉ! まりしゃのたいあたりでもびくともしにゃいよ!」
「ゆん! ゆん! れ、れいみゅもらよ……」
「ゆーん、ゆーん、ゆーん……ゆぎぎぎぎ!」
「かべさんゆっくりこわれてね、邪魔しないでね!」
「ゆべっ! だ、だめだよ……かべさんどいてくれないよ……」
「まりさに、まかせてね! ゆべっ!」
そこで、ようやくこの透明の壁が自分たちではどうにもできぬと理解したゆっくりたち。
それでも一家の大黒柱の親まりさが何度も何度も体当たりをするが壁は微動だにしない。
このゆっくりを捕獲するために作られた透明の箱の強度は、ふらん種でも壊せないよう
に設計されていて、いくらまりさ種の中で優れている個体でもとても歯が立つものではな
い。さらに、初期の頃には中で何度も跳ねる度に少しずつ箱が移動して高いところに置い
ておいた場合に落下してしまうという事例があったため、底の部分の重量を増してゆっく
り程度の力では動かないようになっている。
「はやぐだじゅげでえええ! いぢゃいのじぇえええ!」
子まりさは、すぐにも助けてもらえると思っていたので、いつまでも家族が近付いても
こないのに不安を覚えて泣き叫んだ。
「ご、ごべんね、おちびちゃん……かべさんがあって、そっちにいけないよ……」
「ゆぅぅぅ、まっててね! まりさが、このかべさんを!」
「ただいまー」
夜遅くになって男は帰ってきた。
「あれえ? まだ助けてないの?」
わざとらしく、透明の箱の中で疲労困憊している連中と、剣山の上でゆぐゆぐ泣いてい
る子まりさに声をかける。
「おれが帰ってくるまでに助けないと、そいつ殺しちゃうよ、っておれ言ったよね? ね
え、なんで助けなかったの?」
「ゆひぃ、ゆひぃ、だ、だって……」
「かべさんが邪魔して、おちびちゃんを助けにいげないよぉぉぉ!」
「ふぅーん、壁ねえ」
男は、持っていたビニール袋からペットボトルのオレンジジュースを取り出した。
「んぐんぐ、ふーっ、疲れてる時はこれだよな」
半分ぐらい飲んでから、子まりさに少しかけてやる。
「ゆ……ゆわわわわ、ゆっく、ち」
「おい、ちびまりさ。お前、助けてもらえなかったのか?」
「ゆ、ゆ、ゆ、か、かべさんのせいで、たじゅげでもらえな」
「ああ、そうなの。まあ、あんな壁を壊せない程度の愛情だったってことだな。お前……
実はあいつらに嫌われてんじゃねえの?」
「そんなことないよ! へんなこといわないでね!」
「このかべをどかしてね! そうしたらすぐにおちびちゃんを助けられるよ!」
「んー、じゃ、もう一度チャンスをやろう」
男は、一度表に出ると、小さめの30センチ四方ぐらいの板と釘と金槌を持ってきた。
日中子まりさをどういじめてやろうかと考えていて、そういうものが物置にあったことを
思い出していたのだ。
板の上に、子まりさが刺さった剣山を乗せて、おもむろに帽子を取り上げた。
「ゆぴゃあああん! まりしゃのおぼうちかえすんだじぇえええ!」
「ほい」
子まりさの前に帽子が置かれる。
「ゆ゛っ……まり、じゃの、おぼ、うち……」
子まりさは舌を精一杯伸ばす。その舌先が帽子に触れたのを見て、男は帽子を子まりさ
から遠ざかるようにずらした。
「ゆ゛うぅ!」
逃すまいと懸命に子まりさは舌を伸ばす。もう、限界まで伸びたであろうというところ
で、男は帽子からは手を離し、その手に一本の釘を握った。
それを迷うことなく、子まりさの舌の先端に刺す。
「ゆ゛っ!」
舌の刺さった釘を板に突き立てて、もう片方の手で持っていた金槌で打ち込む。あっと
いう間に、子まりさは舌をいっぱいに伸ばした状態で打ち付けられてしまった。
さらに、男は剣山を動かした。
「のーびのーび、さすがに限界かな」
ただでさえ伸びていた子まりさの舌は、これ以上無理に伸ばせば裂けてしまうという状
態になってしまった。
「いはぃぃぃぃ」
もう、まともに痛いと言うこともできなくなっている。
「さーてと、そんじゃ飯だ飯」
男はビニール袋から弁当を取り出す。ゆっくりたちに見せ付けるようにそれを食べる。
自分たちにも食べ物をよこせという要求はもちろん無視だ。
「んー、そんならこのちびには特別に少しやろうかな」
食事を終えた男は、子まりさの頭をぽむぽむと指でつつきながら言った。
「まりさだぢにもちょうだいね!」
「もうずっとむーしゃむーしゃじでないよ!」
「おねえしゃんばっかちずりゅい! まりしゃも!」
「れいみゅにもちょうだいね!」
男は醤油さしを手に取った。
伸びた子まりさの舌にそれを数滴垂らす。
「ゆ゛ぴ……ゆ゛っ!」
ゆっくりとっては毒にも等しい辛味に、子まりさは目をいっぱいに見開いて涙を流した。
吐き出そうにも舌を伸ばされた状態で舌も体も固定されているので不可能だ。少しでも痛
みを紛らわすために暴れようとしても、やはり体が剣山で固定されているので無理だ。
「ぎゃひゃい、ぎゃひゃぃぃぃぃぃ!」
どうやら辛い辛いと言っているらしい。
とめどなく涙が溢れ出す。釘が刺さった部分よりさらに先の、ほんの5ミリ程度の舌先
がうにうにと蠢いていた。そこぐらいしか動かせる場所がないのだ。
それを見て恐怖と悲しみに震える両親と妹は、二度と自分たちにもよこせとは言わなか
った。
翌朝、男は子まりさの衰弱ぶりを見てオレンジジュースをかけた。
「じゃ、またおれは夜まで狩りに行って来るから、それまでにそいつ助けておくように…
…今度こそ、本当に殺しちゃうよ」
「か、かべさんが邪魔でだずげられないよぉぉぉぉ!」
「このかべさんどかじでね! いじわるじないでね!」
「ゆぴゃあああん、おにゃかすいちゃよぉぉぉ」
「ちんじゃうよぉ、ゆぅ……ゆぅ……」
両親の訴えはどうでもよかったが、妹二匹のそれに男は足を止めてじっと二匹を観察し
た。
「そろそろ限界か。餓死されちゃつまらん」
男は、冷蔵庫を物色していつ入れたのかも忘れてしまったような野菜を幾つか見つけ出
した。どうせ食わないで捨てるようなものだ。これ幸いとそれを少量、箱に入れていく。
「それじゃあな」
男が出て行くと、ゆっくりたちはまたじっとドアを見つめていた。
そして、男が戻ってこないようだと確信すると、一心不乱に野菜を食べ始めた。人間が
食べたら腹を壊しかねないがゆっくりにとってはご馳走だ。
「「むーしゃむーしゃ、し、しあわせー!」」
「「むーちゃむーちゃ、ち、ちあわちぇー!」」
久しぶりに食後の歓喜の声を上げてゆっくりする。
「ゆ゛ぴ……だ、ふげで……」
「ゆ゛っ!」
だが、そのしあわせーな気分も長くは続かない。子まりさがずっと苦しみ続けて助けて
もらうのを待っているのだ。
「ゆゆっ! かべさん、どいてね!」
「まりさにまかせてね!」
「おとうしゃん、がんばりぇ!」
「おかあしゃん、がんばりぇ!」
はいはい餡子脳とでも言うべきか、昨日駄目だったのをすっかり忘れてしまったという
わけでもないが、時間が経ったら、根拠もなく、今度こそはと思っているらしい両親たち
は何度も何度も壁に体当たりした。
「ゆひぃ……ゆひぃ……」
「だ、だべだよ、やっぱりかべさんがどいでぐれないぃぃぃ」
で、昼頃にはようやく無理なのを再確認した。
「ただいまー」
そして、遂に男が帰ってきた。
「ゆ゛、れいぶ!」
「ま、まりざ!」
「ん?」
自分の顔を見た途端に親まりさとれいむが顔を見合わせるのを奇異に思った男が首を傾
げている間に、二匹はぐにっと体を前屈させて言った。
「ごべんなざい、まりざだちじゃおちびぢゃんをだずげられまぜん! にんげんざん、だ
ずげでぐだざい!」
「ごべんなざい、れいぶたちをおうちにかえじでくだざい!」
「お、おねえじゃんをたじゅげでえ!」
「おうちにがえちちぇ!」
どうやら、ようやく自分たちの状況が「詰み」であることを悟り、男に許しを乞うこと
にしたらしい。
「ああ、遅かったな。最初にそうしてくれてりゃな」
男は、ゆっくりたちが人間との力の差を理解したのに満足しつつも、そう言って笑った。
許すはずがない。
逃がすはずがない。
「お前らのおかげで、お前らを虐待する楽しさを思い出しちまったからなあ」
男の、自分たちをゴミ同然に思っている冷たい視線に射抜かれて、ゆっくりたちは身を
寄せ合って震え泣くばかりであった。
「やべひぇぇぇ!」
子まりさの舌の先端がうにうにしてるのを見た男は、ペンチを取り出して舌を打ち付け
ている釘を抜いた。
「ゆ゛ひぃ、ゆ゛ひぃ」
助かったのか? 感じた瞬間、舌に激痛。男は釘を板からは抜いたものの、子まりさの
舌からは抜かずにそれを引っ張った。
「ゆ゛びぃぃぃぃ!」
男は姿勢を低くして、子まりさを横から水平に見て何かをはかっているようであった。
右手に釘を持ってそれを上下に調整しており、左手にはいつのまにか長い竹串があった。
「よし、ここだ」
男は、呟くと竹串の先端を、子まりさの舌の先端に刺し入れた。
「ゆ゛っっっ!?」
ずぶりと竹串が舌に侵入、やがてスムーズに入らなくなると、男は竹串を挟んだ人差し
指と親指をこすり合わせるようにして串を回転させて、さらにねじ込んだ。
そして、とうとう竹串は子まりさの舌を貫き、そのまま本体も抜けて、子まりさの背中
から突き出た。
舌を一杯に伸ばした状態でそこを竹串に貫通されてしまい、もはや先端をうにうにさせ
ることすらできない。
「おい、痛いか。それなら舌を噛め」
「ゆひ?」
「舌噛んで死ねば楽になれるぞ」
「……ゆぅ、ゆぅ? ゆるひで……ゆるひで……」
しかし、人間ですら相当の覚悟を必要とする自決方法に、子ゆっくりが踏み切れるはず
もない。
それに、これは男の罠でもあった。人間でも、舌を噛んだからといってそう簡単に死ぬ
わけではない。ましてや無駄に生命力のあるゆっくりであるから、舌を噛んだ程度では中
枢餡に影響があるほどに餡は流出しないのですぐに死ぬことはない。
男は、子まりさが苦しみ、それを見て両親と妹が悲しむのをしばらく眺めていたが、や
がて時計を見ると、
「はぁ……明日も仕事だ。ゆっくりできない」
と言って、部屋から出て行ってしまった。
「よし、もう一度だけチャンスをやろう。俺が帰るまでにこいつを助けたら逃がしてやる
よ」
翌朝、男は仕事に行く前にまた言った。だが、もうこの透明の箱を突破して子まりさを
助けることなど不可能だと理解しきっている両親は、必死に謝り、許してくれるように懇
願した。
「まあ、がんばれー」
だが、男の返事はひたすら軽い。それらの態度からも、いよいよ男が自分たちの命など
ゴミだと思っていることを突きつけられてゆっくりたちは絶望する。
「たっだいまー」
その日、夜遅くに男は上機嫌で帰ってきた。
「にんげんざん! もうゆるじでぐだざい!」
「おねがいじまず! おねがいじまず!」
「俺と勝負して勝ったら許してやるよ」
「「ゆ゛?」」
箱の中のゆっくりたちは、男の提案に警戒する。勝負と言っても、またハナっから自分
たちに勝ち目のないものではないかと疑ったのだ。
ちなみに子まりさはもう涙も枯れたのか、虚ろな目で竹串が貫通してぴんと伸びた自分
の舌を見ているだけで全く動かない。
「実は、お前らを全面的に駆除することになった」
「ゆ?」
「く、くじょ?」
「くじょってにゃあに?」
「にゃ、にゃんだかゆっくちできにゃいかんじらよ……」
「まあ、つまりはゆっくり……お前らの仲間をどんどんとっ捕まえて殺すんだ。人間とお
前らの戦争と言ってもいい」
男は、説明した。
ゆっくり害の拡大は既に社会問題になっていたが、このたび、とうとう国が大々的な駆
除を決定。ペットの飼いゆっくりや加工所などの商品となる産業ゆっくりや、野良でも愛
護団体の息がかかっているような半野良と言うべき存在を除く人間の管理下にない野良や
野生のゆっくりが対象になっていた。
「一週間で、ほぼ完了します」
と、このゆっくり殲滅作戦の担当者は事も無げに言ったそうだ。
「な、なにぞれえええええ!」
「ゆっぐりできないぃぃぃぃ!」
「ま、まりしゃたちも、くじょすりゅの?」
「ゆんやああああ、やじゃああああ、れいみゅ、ゆっくちちたいよぉぉぉ!」
「まあ、それでお前らが勝ったら、逃がしてやるよ。もう絶対に手は出さないし、それど
ころか土産にあまあまをやるよ」
男の言う勝負とはそれであった。実のところ、仕事が忙しくて一週間ほど時間がとれそ
うにない。その間、いちいち手を加えずとも放置することが虐待になるような方法をあれ
これ考えていたのだが、そういえば大々的な駆除がもうすぐ始まると思い出し、それを利
用することにした。
もちろん、この「戦争」にゆっくりの勝ち目はないと男は確信している。
だが、囚われの一家は、その勝負を受けざるを得なかった。というか、受ける受けない
を決められる立場にすらなかった。
しばらく、男は全く手を出さなくなった。
本当に仕事が追い込みで忙しくなり、家には寝に帰ってくるだけなのだ。だが、それで
も寝る前に、ゆっくり駆除の様子を撮影した動画などを探してきて、それを一家に見せ付
けるぐらいのことはした。
「ゆ゛わあああああああ!」
「な゛、なにごれ……これ……ぜんぶ……う、うそだぁぁぁ! ゆっぐりでぎないよぉぉ
ぉぉ!」
「ゆぴっ、……ゆ、ゆげえええ!」
「きょわいよぉ、きょわいよぉ、もうやじゃぁ……」
凄まじい数の同族が次々に右から左へと機械的に処理されていく映像、死体が山と積ま
れた映像を見せられ、一家は恐怖した。
勝負に勝てば逃がしてもらえるどころかあまあまが貰える。
そう考えて、僅かの希望を抱いてゆっくりしないこともなかったのだが、それを見せら
れて芥子粒ほどの希望すら打ち砕かれた。
あまり大きな数を認識できぬゆっくりたちにとって、積み上がったゆっくりたちはとに
かくとてつもなくたくさん、だとしか思えず、もう自分たち以外の仲間は皆殺しにされて
しまったのではないかと戦慄した。。
男が嬉々として、これなんかはまだごく一部で、もっとたくさんのゆっくりが同じ目に
あっているのだと言うと赤ゆっくりの妹たちはともかく、成体の両親ゆっくりまでだらし
なく失禁した。
そして、子まりさ――。
「ああ、お前にも見せてやるよ、ほれ」
映像を流しているノートパソコンが子まりさの位置からは見えにくいと気付いた男は、
子まりさを摘み上げて、移動させてやった。
「ゆ゛?」
最初、子まりさは何が何だか状況が飲み込めなかったようだった。延々と続く激痛に精
神が磨耗し、もはや家族や男の言葉などろくに聞こえていなかったようだ。
「ゆ゛ぅっ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ」
だが、とにかくそれが大量の仲間の死体なのだと気付くと、目を見開き枯れていた涙を
再び溢れさせた。
「……」
子まりさは、しばらくすると泣き止み、妙に落ち着いた表情になった。
「ゆ゛っっっ!」
口を大きく開けて、それを閉じる。
かちん、と上下の歯が打ち合わされる音。
とうとう、心底絶望しきった子まりさは、舌を噛んで死ぬ道を選んだのだ。
「い、いひゃああああ! ゆ゛びぃぁぁぁ!」
だが、そう簡単に死ねぬのは既に述べた通りである。さらには竹串が貫通しているため
に、舌自体を噛み切っても切断面はくっついたままであった。
ここで、ゆっくりの中身が餡子であることが災いする。人間の血と比べて粘性な餡子は、
その状態ではあまり流れ出ないために、子まりさの苦しみは長引くことになった。
「お、おぢびぢゃん!」
「ど、どうじだの?」
「おねえじゃん、ゆっぐちちでえ!」
「もうやじゃ、もうやじゃ、もうやじゃああああ!」
突然痛がりだした子まりさに、家族は戸惑う。
それを見て、男は腹を抱えて笑っていた。
「あー、明日も仕事だ」
ひぃひぃと笑っていた男は、目尻の涙を指先で拭うと、晴れ晴れとした顔で部屋を出て
行った。
翌日の夜、男が帰ってくると、子まりさは死んでいた。
一家はゆんゆんと泣くばかり。
その悲しみに打ちひしがれる一家に、男はまた新たな映像を見せる。
人間とゆっくりの戦争の映像。
ただただひたすら殺されていくゆっくりたちの断末魔、死体の山。
翌日の一家の餌は、子まりさの死体だった。
男が竹串を掴んで無造作に箱に投げ入れて、
「今日はそれ食っとけ」
と言って、遅刻遅刻と呟きながら慌しく出て行ってしまった。
「おぢびぢゃああああん! ぺーろぺーろしてあげるがらね!」
「ぺーろぺーろ! ぺーろぺーろ! 目をあげでえ! ぺーろぺーろ!」
「おねえじゃん、しんじゃやじゃよぉ、まりしゃもぺーりょぺーりょすりゅよ!」
「やじゃよぉ……れいみゅ、もうやじゃ……やじゃぁ……」
既に死んでいるのを認めたくない両親と妹まりさは、必死に子まりさを舐めて治療しよ
うとする。妹れいむは、既に精神が崩壊しかかっているようだ。
その日の夜は、特に男は疲れた表情で帰ってきた。シャワーを浴びると、ゆっくり一家
には構わずに寝ようとする。
それを呼び止めて、食べ物を要求するゆっくりたちだが、男は子まりさの死体がそのま
まになっているのを見ると、
「それ食っとけって言ったろ。それ食わないうちは他の食い物はやんねえよ」
と言って、さっさと部屋を出て行ってしまった。
「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇぇぇ!」
翌朝、そんな幸せいっぱいの声に、両親と妹まりさは目を覚ました。
「「「ゆ?」」」
声は、妹れいむのものだ。すっかり弱っていた妹れいむのゆっくりした声に、一瞬とて
もゆっくりしているね、と歓喜の声をあげそうになった両親は、妹れいむが何をしている
のかを見て絶句する。
今、この箱の中にはむーしゃむーしゃできるものなど、一つしかないのだ。
「な、なにじでるのぉぉぉぉ!」
「やべでえええ! おぢびぢゃん、やべでえええ!」
「れ、れいみゅぅぅぅ! おねえじゃんをむーちゃむーちゃしちゃだめらよぉぉぉ!」
「むーちゃむーちゃ、むーちゃむーちゃ」
家族の制止など聞く耳持たずに、妹れいむは一心不乱に姉の死体を食い漁る。
「ちあわちぇぇぇぇ!」
何日かぶりのしあわせーな声をあげる。
やがて、妹まりさの喉がごくりと鳴った。
両親の喉が同じ音を立てるのにも時間はかからなかった。
そして、死んだ子まりさの分まで生きてゆっくりしよう、そのためにも……と理屈をつ
けて、子の、姉の亡骸を喰らうのに、時間はかからなかった。
男はその後ろくに一家に構わなかった。帰ってくると、シャワーを浴びてベッドに直行
である。
そしてある日、苦虫を噛み潰したという表現がぴったりの表情で、男は帰ってきた。手
にはビニール袋を持っている。
既に懇願も哀願も無意味であることを悟った一家は、何も言わない。
「おい……」
男は、そんな一家に声をかける。びくりと震えた一家に、嫌で嫌でたまらないという顔
で搾り出すように言った。
「……お前らの勝ちだ」
はじめ、何を言われているのかわからなかった一家に、男は苛立った様子で説明した。
人間は、ゆっくりの大々的な駆除の終了を宣言した。
目的を達成したからではない。
いくら殺しても湧いてくるゆっくり、当初の予定期間を過ぎてもなお絶滅とは程遠いそ
の繁殖力に、それを殺し続けることに要するコストを計算した結果の撤退であった。
つまり、ゆっくりは勝ったのだ。
「ゆ゛わああああああああ!」
「か、かっだ。まりさだぢが勝ったんだよ!」
「ゆわあああい、ゆっくりかっちゃよ!」
「ゆ? ゆ? おうち、おうちに、かえれりゅの?」
喜ぶ一家をさらに苦々しげに眺めていた男は、ええい、と一声叫ぶと、箱の蓋を開けて
一家を出してやった。
さらに、ビニール袋に入っていた大量の菓子を投げつけるようにくれてやった。
「ゆっ! それじゃおうちにかえろうね!」
「おうちであまあまをむーしゃむーしゃしようね!」
「ゆわぁーい、ゆっくちできりゅよ!」
「ゆっゆっ! ゆっくちぃ!」
意気揚々と戦利品を持って家を出て行く一家を、舌打ちして見送った男は、冷蔵庫から
ビールを取り出して飲み始めた。
今日は仕事が一段落してその後始末のためだけの出勤なので仕事は午前中で終わり、明
日から三日ほど有給休暇をとっているので、本当ならじっくりとゆっくり一家を虐待する
予定であった。
しかし、そのめでたいはずの日に飛び込んできたのが人間の敗北のニュースだ。
奴らにくれてやるお菓子を買って帰宅した。
まったく最高から最悪の気分へと、この落差は辛すぎた。
祝い酒が自棄酒になってしまい、男は沈んだ表情で酒盃を重ねる。
ゆっくりのことを侮りきっていた男は、人間が本気になってもゆっくりを駆除しきれな
かったことにショックを受けていた。種として、男が思っていたよりもゆっくりは弱くは
なかった。
なんだか、自分があの一家に本当に負けた気がした。錯覚といえば錯覚なのだが、そう
思ってしまった以上、約束通りに甘い菓子を持たせて帰すべきだと思ったのだ。
だが、しばらくすると段々と後悔してきた。人間に勝ったと大はしゃぎしていた連中の
ゆっくりした顔を思い出す度にむかむかしてくる。
「よし、明日は……」
この憂さ晴らしには、ゆっくり狩りしかない。
「ゆっゆっゆ~っ、ゆっくりのひ~」
「すっきりのひ~」
「ゆっくちのひ~」
「すっきちのひ~」
おうちに帰還したゆっくり一家は、早速お菓子をむーしゃむーしゃしておうたを歌って
いた。
「まりしゃたちはにんげんさんにかったんだじぇ!」
妹まりさは、だじぇ言葉で誇らしげに言った。
「ゆん、そうだね、まりさたちは勝ったんだよ」
「ゆゆぅ、ゆっくりできるね」
「ゆっくち! ゆっくち!」
で、喉元過ぎればなんとやら、一家はすっかり人間に勝利したことでこれで未来のゆっ
くりが約束されたと思い込んでいた。
これは、あの男が意識せずに施した一家への虐待であるとも言えた。
男が、人間とゆっくりの戦争だの、お前らの勝ちだのと言うから、ゆっくりたちはそん
な勘違いをしてしまった。
決して、人間はゆっくりに降参したわけではないのに、いや、むしろ全力を挙げて駆除
しきれなかったからこそ、やはり放っておいたら奴らは増える一方だという確信を抱かせ
ているというのに、自分たちは人間に勝ったのだというつもりのゆっくりたちがどんな運
命を辿るかは明らかなことであった。
「まりしゃたちは、にんげんさんにかったんだじぇ!」
「ゆぅ……しんじられないよ、にんげんさんは強いよ」
翌日、妹まりさは、早速出会ったれいむに、自慢していた。しかし、ここ数日、仲間を
次々に殺されたれいむには、とても信じられる話ではない。
「ほんとうなんだじぇ! にんげんさんがはっきりいったんだじぇ! まりしゃたちの勝
ちだ、っちぇ!」
妹まりさがどんなに言っても、やはりれいむは信じなかった。
「おっ、ゆっくりがいるぜ」
そこへ、十二、三歳ぐらいの少年が三人通りかかって言った。
「ゆひぃぃぃぃぃ! に、にんげんざんだぁぁぁぁ!」
れいむは、それと気付くと悲鳴を上げて必死にぽよんぽよんと逃げ出した。しーしーを
垂れ流しながら逃げるれいむを指差して少年たちが笑う。
「どーする? 追っかける?」
「いや、いーや、もう飽きた」
「そうだな」
少年たちは、既に相当な数のゆっくりをいたぶり殺していた。あの駆除作戦後、人間た
ちのゆっくりへの見方がやや変わった。それまでは殺すまではしなかった者でも、息の根
を止めるようになった。放っておいてはゆっくりが増えすぎてしまうという危機感が多く
の人間たちに生じたためだ。
少年たちはそれに乗ってゆっくりを殺し始め、いつしかあの手この手でゆっくりを痛め
つけて殺すのにハマってしまった。それでもさすがにやりすぎて、最近では飽きが来てい
た。
「ん? あれ?」
一人が、言うと、他の二人はその視線の先を追って、そこにぷくぅと膨らんでいる小さ
なまりさを発見した。
「あれ? あいつ逃げないのか?」
「怖くて体動かないんじゃない?」
「ちっちぇな、まだ生まれたばっかりかな」
「でも、怖がってるわりにはぷくぅってやってるぜ。あれ、ゆっくりの威嚇だろ?」
「……あれ、見てるとイライラしてくんだよな」
「よし、潰しとこうぜ」
一人が妹まりさに近付いていく。あれこれやる気にはなれないので踏み潰して一発で殺
す気だ。
「まりしゃはにんげんさんに勝ったんだじぇ! つよいんだじぇ!」
「んん?」
「なに言ってんだこの馬鹿」
「お前なんかが人間に勝てるわけないだろ」
こんな小さなまりさよりもずっと大きいゆっくりを何匹もなぶり殺した少年たちには、
ただの妄言としか思えない。
「勝ったんだじぇ! にんげんさんがじぶんで言ったんだじぇ! まりしゃたちの勝ちだ
っちぇ!」
しかし、なにしろ人間自身がはっきりと敗北を認めたのだ。妹まりさの中ではその「事
実」は揺るぎようが無い。
「よーし、じゃ、おれと勝負だ」
一人がしゃがんで右手を妹まりさに伸ばす。
「ゆっ! ぜったいにまりしゃ勝つのじぇ! まりしゃが勝ったらあまあま、ゆび!」
まりさが言い切る前に、少年は指でまりさを弾いた。
「ゆ゛ひぃぃぃぃ、い、いぢゃいのじぇぇぇぇ!」
額が凹んだまりさは声を限りに泣き叫ぶ。
「そんなんでどうやって人間に勝つんだよ」
「なにをどうやって勘違いしたんだろうな」
「あー、あれじゃね? ゆっくり殺せない人っているらしいじゃん。それが絡まれてさ、
あーはいはい、おれの負け、お前らの勝ちだよ、って感じで」
「おー、ありそうだな、それ」
少年たちは、まりさのことはほったらかして、なんでこの脆弱極まりない生き物が人間
様より自分は強いのだと勘違いしたのかと考察し始めた。
「ゆひぃ、ゆひぃ……ゆっ、ゆっ、ゆわあーん!」
まりさは痛みと悔しさに泣いていた。
今の少年の攻撃は、凄まじい威力であり、一発でとても勝てないと思い知らされるに十
分であった。おかしい、まりしゃはにんげんさんに勝ったのに、強いのに、なぜ?
「にゃんなんだ、じぇ……どぼちて……」
「なんでもなにも当たり前だろーが」
「人間に勝てるだなんて、ばっかじゃねえの」
「よし、そんじゃ潰すぞ」
少年が足を上げる。その靴の底を見ながら、まりさは死の恐怖を身近に感じてびくりと
震えた。
「お、おとうしゃぁーん、おがあしゃぁーん! たぢゅげちぇぇぇ!」
迫り来る死になす術も無い赤ちゃんのまりさにできることは、両親の助けを求めること
だけであった。
「ん? 親か」
足を上げていた少年がそれを下ろす。
「まあ、こんなちっちゃいのが一匹で遠出しないだろうから、すぐ近くに家族がいるんだ
ろうな」
「おい、お前のおとうさんとおかあさんは強いのか?」
「ゆ゛っ……つ、つよいよ! に、にんげんさんにだって勝ったんだよ!」
「へえー、じゃ呼べよ」
「ゆゆ?」
「その強いおとうさんとおかあさん呼べよ、そいつらとも勝負してやる」
「ゆ゛……ゆっへっへ、ふ、ふたりはとても強いんだじぇ」
助かる。
まりさの中で急速に希望が膨れ上がる。
確かに、自分はこの人間たちに勝てなかった。でも、おとうさんとおかあさんならば勝
てる。考えてみれば、この前の人間さんに勝った時は家族が一緒にいた。さすがに小さな
まりさだけでは人間には勝てないようだが、二人ならば……。
「おどうじゃあああん! おがあじゃあああん! だーぢゅーげーぢええええ!」
大きな声で叫ぶまりさ。しばらくそうやって叫んでいると、繁みの中から声が聞こえて
きた。
「ゆっ! おちびちゃんの声だよ!」
「ゆん! ……こっちだよ!」
ガサガサと繁みが音を立てて、丸いのが二つ姿を見せる。言うまでもないが、両親のま
りさとれいむだ。
「おちびちゃん、一人でおうちから離れちゃ駄目だよ」
「そうだよ、ゆっくりできな……ゆっ、に、にんげんさん」
「ゆぴゃあああん、このにんげんさんたちがいじめるのじぇぇぇ! やっちゅけてほしい
のじぇぇぇ!」
「ゆゆゆゆっ! れいむのおちびちゃんをいじめないでね!」
「そんなわるい人間さんは、まりさたちがせいっさいするよ!」
「よし、じゃ勝負だ」
少年が一人前に出る。他の二人は動かない。
「れいむたちは、人間さんに勝ったことがあるんだよ! 強いんだよ! ぷくぅぅぅ!」
「そうだよ! あやまるならいまのうちだよ! ぷくぅぅぅ!」
「うわー、こえー」
完全棒読みで少年が言い、他の二人は笑う。
「こわいんならあやまってね! 今のうちだよ!」
「そうだよ! それに、勝負に負けたらあまあまちょうだいね! たくさんでいいよ!」
「ひいいー、こわいよー、人間に勝ったゆっくりはやっぱり迫力が違うよー」
「ぷぷ、そうだな、他の連中とは一味違うよな」
「くくく、おい、最初から全力で行けよ、でないとやられちゃうぞ」
ぷくぅぅぅと膨れた親まりさと親れいむは、少年が自分たちを恐れながらも退くつもり
が無いと見て取ると、顔を見合わせて頷いた。
「今あやまればゆるしてあげようと思ってたのに……馬鹿な人間さんだよ」
「ゆん、かわいそうだけど、馬鹿は死ななきゃなおらないよ」
「おとうしゃんもおかあしゃんもかっこいいのじぇ! ふたりとケンカするにゃんてばか
にゃの? しにちゃいの? まりしゃたちはにんげんさんに勝ったのじぇ、しょうりしゃ
なのじぇ! ケンカじゃなくちぇぎゃくちゃいになっちゃうのじぇ! いたいいたいにさ
れちぇひれ伏すがいいんだじぇ!」
「ゆっ、いくよ、まりさ!」
「ゆっ、わかったよ、れいむ!」
ぽよん、と親れいむと親まりさが跳ねた。このまま跳ねて行って必殺の体当たりを喰ら
わせる気だ。あの身の程知らずな馬鹿人間はふっ飛ばされて餡子を吐くに違いない。
「ゆっひゃあ! ぎゃくちゃいなのじぇぇぇぇ!」
まりさは、両親の勝利を全く疑っていなかった。
「うわー、こえーよー」
少年は言うと、踏み込んで足を振り、親れいむの顔のど真ん中に爪先をめり込ませた。
「ひゃあー、やられるまえにやってやるー」
間髪入れずに、親まりさを真上から踏みつける。
「ゆ゛ぎゃああああ!」
「づ、づぶれるぅぅぅぅ!」
転がった親れいむは激痛に転がり回り、プレスされた親まりさは悲鳴を上げる。たった
の一発でこれである。
「おらおらおらおら!」
足を上げて、何度も何度も親まりさを踏みつける。
「ゆぶっ!」
親まりさは、とうとう口から餡子を吐いた。
「それそれそれそれ!」
今度は親れいむの方を踏みつける。
「お、どう、しゃん……おがあ……」
呆然とそれを見ているまりさ。
「いい勝負だな」
「ああ、今のところはこっちが押してるけど、油断してたら逆転されるぞ」
「おお、あのまりさとれいむ、強そうだからな!」
観戦していた二人の少年が、まりさに聞こえよがしに言った。それを聞いて、まりさは
今一度戦う両親の勇姿を見る。
「ゆべ! いぢゃ! や、やべぢぇ! ふまないで! だ、だずげで……」
「ゆ゛ひぃぃぃ、ど、どぼじて、どぼじて……れいむだち、人間さんより……強いんだよ、
ホントだよ……どぼじてぇぇぇ……」
踏まれ続けてみっともない醜態をさらしている親まりさとれいむ。
だが、まりさの目にはそれは虎視眈々と逆襲の機会を狙っているように見えた。
「ゆふふふ、おとうしゃんもおかあしゃんもまだよゆうだじぇ!」
「うん、そうだねー」
「ゆっくりゆっくり」
少年二人も同意――まりさの中では――したので、いよいよまりさの勝利への自信は揺
るがないものになった。
少年が、二人に「飽きた」と言い、二人が「よし、やっちゃえ」と言い、その次の瞬間
に、親まりさが踏み抜かれる時までは……。
「お、どうしゃ、ん?」
「死んだ?」
「まだ生きてるみたい。棒かなんか無い? 靴汚れちゃうよ」
「んー、ああ、石があるぜ、よいしょ、っと」
少年が屈んで持ち上げたのは、大きな石だった。
「よし、おれがやるわ」
その少年は石を持ったまま、体の真ん中に穴があいた親まりさのところまでやってくる
と、手を振って、他の二人を下がらせた。
「それっ」
石を上に放り上げて、バックステップで下がる。
「ゆぎゃっ!」
石は、親まりさに命中した。餡子が飛び散るが、後ろに飛んだために顔や服につくこと
はなかった。
「もっど、ゆっぐ……り……じだ……った……」
「おし、中枢餡を潰したぞ!」
親まりさが絶命したのを見て、狙い通りに当たったことを確認した少年は小さくガッツ
ポーズをとる。
「う、うしょだ……おとうしゃんが……負けるわけ、にゃいの、じぇ……」
「こっちのれいむはどーする?」
「あ、あれやろうぜ、ほら、この枝」
少年の一人が、木の枝を指差す。
その木の幹は太く、従って枝もそこそこの太さだ。
「おー、それならできるな」
「よし」
と、少年が息も絶え絶えの親れいむを持ち上げる。
「にげ……で……おちび、ぢゃん……にげ……で……」
さすがに自分たちが人間よりも強いなどという壮絶な勘違いを修正せざるを得なくなっ
た親れいむは、必死に言った。
「ま、まりしゃたちは、にんげんさんに勝ったんだじぇ! つよいんだじぇ! ばかでよ
わいにんげんさんは、まりしゃたちにひれ伏すんだじぇ! あまあまもよこしゅんだじぇ!
」
しかし、まりさは、親まりさが踏み抜かれた瞬間に芽生えた、やっぱり人間さんは自分
たちよりも強いのでは、という疑問を押さえ込んだ。
そこは、ゆっくりの防衛本能が働いていた。とにかく、ゆっくりすることだ。自分たち
は強い、勝利者だと思うことでゆっくりできる、というより、もはやそう思い込むことで
しかゆっくりできないのならば、ゆっくりは簡単に思い込むことができる。
「ゆ゛ぎぃぃぃぃ! や、やべぢぇぇぇぇぇ!」
親れいむは、木の枝に刺された。その際に中枢餡を貫かれて、死んだ。
「おし」
「あのちっちゃいのはどうしようか」
「そうだなあ……」
少年が、まりさを摘み上げる。
「まりしゃたちは、つよいんだじぇ、にんげんさんに勝ったんだじぇ、しょうりしゃなん
だじぇ、ばかでよわいにんげんさんは、まりしゃにひれ伏すんだじぇ、あまあまもってく
るんだじぇ、まりしゃたちは、つよいんだじぇ!」
少年は、まーだ言ってるよ、といった感じの苦笑を漏らして、まりさを強く握った。
人差し指と親指で作った輪の部分に、まりさの右目が来るようにして少しずつ下の方、
つまり小指の方から締め付けていく。
「ちゅ、ちゅぶれりゅんだじぇぇぇ! やめるんだじぇ! まりしゃは、しょうりしゃな
んだじぇ!」
そんな声も、圧迫が口にまで及ぶと出せなくなった。
「ゆ゛ーっ、んーっ、んんんんーっ!」
ぷちゅ、とまりさの右目が飛び出した。
「ゆ゛ぴゃああああん、ま、まりじゃのおめめぎゃあああ!」
「こんな弱っちいのわざわざ殺すことないよ、死ぬ寸前まで痛めつけてほっとこうぜ」
「放置プレイってやつ?」
「ゆぎぎぎぎ、まりじゃは、ちゅよいんだじぇ! しょうりしゃなのじぇ!」
ぺち、と指で眼球を失ってただの穴になった右の眼窩を叩かれて、まりさは激痛に呻い
て歯を食いしばってそれに耐えた。
「そら!」
いつのまにか少年はまりさと同じぐらいのサイズの石を手に持っていた。それで思い切
り叩かれたのだからたまらない。まりさの前歯は一辺に折れ、或いは砕けた。
「ま、まりじゃのはぎゃああああ! い、いひゃいのじぇぇぇぇ!」
「あと命に別状なさそうなのは……」
「片目は残しておいてやるとして……」
「ああ、髪の毛」
ぶちぶちと、髪の毛が引き抜かれる。
「お、おぼうちかえずのじぇぇぇぇ! ゆっぐちできにゃいのじぇぇぇぇ!」
「ん? あー、そうか、こいつら帽子とか取られるの嫌がるんだ」
抜かれた髪の毛よりも、髪の毛を抜くために取り上げた帽子にまりさが異常な執着を見
せるのを見て、少年の一人が帽子を持った少年に、それを貸せと言った。
「お、なんか思いついた?」
「ああ……こいつを」
帽子を受け取った少年は、数歩歩いてしゃがむ。そこには親まりさの死体があった。
一度、そっとまりさの帽子を地面に置くと、親まりさの帽子を取り上げた。それを右手
に被せるようにする。そうすると、そこそこの大きさがある親まりさの帽子は、十分手袋
の代用品になった。
左手に拾った棒を持ち、それで親まりさの崩れた死体の一部を押さえて、手袋代わりの
帽子をはめた右手で、親まりさの死体を集めて、固めていった。
「おーし、復活」
むろん、皮は破れ餡子も流出し、生きていた頃のように元通りとは行かなかったが、そ
れでも親まりさはだいぶ復元されて生前に近い姿になった。
いったいなにをするつもりなのかわからない二人の少年は、黙ってそれを見守っていた。
「おい、そいつによーく見せとけ」
「ん、おう」
言われて、まりさを持っていた少年がその手を前に出す。
「ゆぴぃぃぃ、おどうじゃん……ゆ! おぼうち!」
凄まじい苦悶の表情で死んでいる親まりさの死体に恐怖しているまりさの目の前に、先
ほど奪われたお帽子が現れた。
「ほーれ、見とけよー」
帽子をひらひらと振った少年は、それを親まりさの死体の頭頂部に置いた。踏み抜かれ
たところをくっつけたところなので、そこの皮は破れて窪んでいる。
「ゆ゛っ、な、なにずるんだじぇぇぇ!」
親まりさの帽子をはめた右手で、それを押し込んだのを見て、まりさは絶叫する。
ずぶ、ずぶ、とまりさの大事なお帽子が、おとうさんまりさの死体の中に入っていく。
右手が抜かれた時、そこにお帽子は無かった。おとうさんまりさの死体の中に置いてき
たのだろう。
開いた頭頂の穴を塞ぐと、少年はにっと笑ってまりさに言った。
「ほれ、帽子欲しかったら、親の死体を掘ってみな」
「うわあー」
「マジ外道じゃん」
と、他の二人もその意図がわかってゲラゲラと笑い出す。
地面に下ろされたまりさは、ゆわゆわと震える。
「お、おぼうち、まりしゃの、おぼうち……」
ずーりずーりと這いずっていくのをもどかしく思った少年がまりさのまだ残っていた髪
の毛を掴んで持ち上げて、親まりさの死体の前まで連れていく。
「お、おぼうち……お、おどうじゃん、ご、ごめんなのじぇ、でも、おぼうちがにゃいと、
まりしゃ、ゆっぐちできにゃいのじぇ」
親の死体を損壊するのにさすがに気後れがするのか、まりさは少し躊躇いつつ、大事な
お帽子を取り返すために親まりさの死体に噛み付いた。
「ゆ゛? ……ゆぴゃあああん、は、はが無いのじぇぇぇ!」
そこで、前歯が全て喪失している自分には、噛み付くことで死体を削るようなことはで
きないのだと気付いて泣き喚く。
「おお、おれの前歯折りがここで活きた!」
まりさの前歯を折った少年が嬉しそうに叫ぶ。
「ゆ……ゆぅ、ぺーりょぺーりょ、ぺーりょぺーりょ!」
しょうがなく、まりさは親まりさの死体の傷口に舌を入れて舌で餡子をすくいだそうと
するが、遅々としてはかどらない。
「ゆひぃ、ゆひぃ、べろさんつかれたのじぇ……ゆひぃ、な、なんじぇなのじぇ、まりし
ゃはちゅよいのじぇ、にんげんさんに勝ったのじぇ、それがにゃんでこんな目にあうのじ
ぇぇぇ……」
「うーし、そろそろ行こうぜー」
「おう、そんじゃゆっくちがんばっちぇにぇ!」
「あはははは!」
少年たちは、去っていった。
まりさは舌を休めると、また必死に餡子を舐め取り始める。少年が放り投げた親まりさ
の帽子が間近に落ちたのにも気付かなかった。
「ま、まりじゃああああ! ゆぴゃああああん!」
繁みから、姉妹のれいむが飛び出してきた。
れいむは、両親に繁みの中で待っていろと言われてそうしていたところ、凄まじくゆっ
くりしていない悲鳴が聞こえたので、急いでやってきた。
そして、そこで繰り広げられる凄惨な両親の死と、姉妹に振るわれる暴力を、賢明にも、
繁みの中に隠れて震えながら見ていた。
そして、人間たちが去ったのを見て出てきたのだ。
「れ、れいみゅぅぅぅ、まりしゃの、まりしゃのおぼうじぎゃあああ!」
「ゆ、ゆぅぅ、れ、れいみゅもてつぢゃうよ……」
れいむは、まりさと違って歯がある。それを使って削り取るように親まりさの死体を掘
り進むことが可能だ。
「ゆっ、ゆっ、ごべんなじゃい、おどうじゃん、ごべんなじゃい」
「ゆっ、ゆっ、ぺーりょぺーりょ……にゃ、にゃんで、にゃんでちじょうさいきょーのま
りしゃがきょんな目にあうのじぇぇぇぇ……」
人間さんより強いから地上最強へ、ひどい目に合えば合うほど自分内ランキングがなぜ
か上がるまりさであった。
「おーおー、いい感じに刺さっとるなあ」
その時、声が聞こえてきた。
「ゆっ!?」
「ゆゆゆ、に、にんげんさん!」
一人の男が、何時の間にかやってきて、木の枝に刺さっている親れいむの死体を眺めて
いる。
「ついさっき死んだみたいだな」
指先でつんつん突付いている男に向かって、まりさは叫ぶ。
「やめるんだじぇぇぇ! おかあしゃんにきちゃない手でさわりゅにゃぁ!」
「んん? こいつの子供か」
と、まりさを見下ろしたその顔。
「ゆゆ!」
「ゆっ!」
あの人間だ。
とてもやさしくゆっくりしていた姉のまりさを殺して、その後、勝負に敗れて負けを認
めたあの人間だ。
「ゆふぅ……」
まりさは、拍子抜けした。この人間なら、もう自分たちよりも弱いことはわかっている
し、人間自身もそれを認めている。
「だれかと思っちゃら、この間のにんげんなのじぇ、おかあしゃんにさわるんじゃないの
じぇ、せいっしゃいするのじぇ!」
「あ? なんだその口の利き方は」
「そっちこそなんなのじぇぇぇ! まりしゃたちに負けたくせに、えらそーにするんじゃ
ないのじぇ!」
「負けた? ……あー」
と、男は、まりさとその後ろに隠れるようにしているれいむ、そして枝に刺さった親れ
いむと、地面の親まりさを見て頷いた。
「お前ら、こないだの奴らか」
「そうなんだじぇ! おまえに勝ったまりしゃしゃまなのじぇ!」
「……口悪くなったな、お前」
言いつつ、明らかに死んでいる親まりさと親れいむを見てニヤニヤと笑う。
男はあれから、やっぱりあいつら逃がしたりしないでぶっ殺してやりゃあよかったと一
晩後悔に後悔を重ね、翌日、その憂さ晴らしにゆっくり虐待をするために外に出た。
人間様が「全滅させてやろうとしたけど無理でした」と音を上げるだけあって、あれだ
けの大規模駆除があった後だというのに、野良ゆっくりはけっこう簡単に見つけることが
できた。
何匹かをその場で虐待して殺して、今は、その帰りなのだ。
久しぶりにやってみると、やはりゆっくり虐待は面白く、以前の飽きたと言っていた自
分に工夫が足りないこともわかった。まだまだやりようによっては色々と楽しめることが
わかった。そうなると、ゆっくり駆除作戦が成功して、虐待のために食用ゆっくりや捕食
種の生餌用のゆっくりを購入するようなことにならないでよかったと思った。
「くくく、そうか、一日もたなかったか」
自分で手をくだせなかったのに一抹の悔しさはあるものの、人間に勝ったと浮かれてい
た親まりさとれいむが、おそらくはそれによって人間を恐れなくなり、そのために殺され
たのだと思うと、いささか溜飲が下がった。
死体の状態を見ても、あっさり殺されたのではなく、執拗に打撃を加えられたようだし、
まったくもって気分がいいというものだ。
さらに気分がいいのは、自分で手をくだせる獲物が二匹も残っているということだ。
「で、お前らよく助かったな。こいつら人間にやられたんだろ?」
「ゆ……しょれは……」
まりさはなにがあったかを話す。人間さん――男よりも小さかったというから子供であ
ろう――がやってきておとうさんとおかあさんを殺してしまったこと、さらにまりさをい
じめて、お帽子を奪っておとうさんの中に埋め込んでからどこかに行ってしまったことな
ど。
「へえー、そんな手があったか」
親の死体に大事なお飾りを埋め込んで、子供に親の死体を損壊させることを強いるとは、
なかなか将来有望な子供たちだ。
「はやく、まりしゃのおぼうちを出すんだじぇ!」
「は? ……え? 俺が?」
何を言ってるのかよくわからずに男は尋ねる。
「あたりまえなのじぇ! まりしゃに負けたにんげんは、まりしゃの言うこときくんだじ
ぇ! しょんなこともわからにゃいのじぇ!? まりしゃはしょうりしゃなのじぇ!」
「はいはい、ゆっくりゆっくり」
男は頷いた。こいつの中では自分は敗者であり、勝利者であるまりさに従わないといけ
ないらしい。
「うーん、でもさあ、お前ら、俺より小さい人間にやられちゃったんだろー」
思い切り、蔑むように言ってやる。
「ゆっ! なにいっちぇるのじぇ! まりしゃはお前には勝ったのじぇ!」
「いやいやいや、あん時は親がいたじゃん」
「まりしゃのほうがつよいのじぇ! まりしゃはしょうりしゃなのじぇ!」
「よし、じゃもう一度勝負!」
「ゆ?」
「だから、もう一度勝負だよ。まりしゃはつよいんだろ?」
「ゆっ! そうなんだじぇ! なんかいやってもまりしゃの勝ちなのじぇ!」
「……ホント、手軽に幸せになれる生き物だよな、お前ら。絶対なりたくないけど」
「うるさいのじぇぇぇ! まりしゃのたいあたりをくらうのじぇぇぇ! ぎゃくちゃいし
てやるのじぇぇぇ!」
「そいや」
ぱん、と上から掌で叩いてやると、まりさはその一撃で餡子を吐いて泣き出した。
「弱えなあ、お前」
「しょ、しょんなはずないの、じぇ……まりしゃは、つよいの、じぇ……しょうりしゃ、
なのじぇ、さいきょー、なのじぇ……」
「ま、まりしゃぁ、ゆっくちちてえ」
まりさがやられたのを見たれいむが、ぽよぽよと跳ねて近付こうとする。おそらくはぺ
ーろぺーろしてあげようとしているのだろう。
ぱん、と男の掌が今度はれいむを叩いた。
「ゆびっ! ……い、いぢゃぁぁぁい! ゆひぃぃぃぃ」
「ゆ゛っ! れ、れいみゅにひどいことすりゅにゃああああ! せいっしゃいするのじぇ
ぇぇ!」
「うん、やれば」
男は、まりさの方を見もしないで、れいむを摘んで持ち上げた。
「よし、まりさとおそろいにしてやろうな」
にやりと笑うと、先ほど少年がまりさにしたように、右目の部分だけをさらして他の部
分を握って指で締め付ける。
「ゆ、ぎゅ……お、おめめぎゃ……やめちぇ……むぐ」
「や、やべるのじぇぇぇ!」
ぷちゅ、とれいむの右目もまた、まりさのそれと同じく、体から離れて宙に浮き上がっ
た。
「れ、れいびゅのおべべぎゃああああ! まりじゃ、たぢゅげぢぇ!」
「やべるんだじぇ! せいっしゃいするのじぇ!」
「うん、だから、やりたきゃやれば? おれはれいむをお前とおそろいにしてるからさ」
「ゆひ!」
男の言った「おそろい」という言葉に、れいむは反応した。
「や、やべちぇ! れいみゅのはをとらにゃいでぇぇぇ!」
「は? ……は、って、歯か?」
それは、全く気付いていなかった男に、そのことを教えてやったようなものだった。
「お、ちょっと口開けろ、おら」
男は、空いている方の手でまりさを摘み上げると、指を口の中に突っ込んで無理矢理開
かせて、その前歯が悉く無いのを見た。
「そうか、さっきの子供にやられたんだな」
「まりしゃのおぼうちを、おとうしゃんからだしゅのに、れいみゅのはがにゃいとこまり
ゅんだよ! だからやめぢぇ!」
なるほど、確かに前歯が無くては親まりさの死体を掘るのに苦労するだろう。
「そうか、わかった」
男は、石を拾い上げ、わかってくれたのだと希望に満ちた顔をしたれいむの口に、思い
切り叩き付けた。
「ゆびぃぃぃ、ゆ゛ああああ、はぎゃあああ、れいみゅの、はぎゃあああ!」
「よーし、これでおそろいだな」
「ゆっぎい! せいっしゃいするのじぇ! まりしゃをほんちょうに怒らせたのじぇ!」
「うん、だからやりたきゃやれって」
「ゆぐ、ゆぐ、れ、れいみゅ、まってるんだじぇ……れいみゅのことは、まりしゃが、ま
もるの、じぇ……」
「はやくしないと死んじゃうぞ、こいつ」
ずーりずーりと這いずるまりさに見せ付けるように、男はれいむを踏みつけて徐々に徐
々に体重をかけていった。
「まりじゃぁ、たぢゅ、げ……ぢぇ……」
「いま、いぐよ……れいみゅは、まりしゃが、まも、るの、じぇ……」
「おう、がんばれー……待ってるからな」
「まりしゃ、は……つよいのじぇ……よわいにんげんはまりしゃに、ひれ伏すのじぇ……
まりしゃは、さいきょー、なのじぇ……」
「ちゅ、ちゅぶれりゅぅぅぅ、じにぢゃぐにゃい、れいみゅ、じにぢゃぐにゃいよぉ……
まりじゃ、はやぐ、はやぐ、だぢゅげぢぇ」
「ゆっ、ゆっ、まりしゃが、きたのじぇ、もう、だいじょーぶ、なのじぇ」
目の前に、まりさの姿を見出して、れいむはとてもゆっくりした笑顔になった。痛い苦
しい、でもまりさが来てくれた。もう大丈夫だ。
「ゆっぐちちで、ゆ゛っ!」
そこで、れいむの笑顔が爆ぜた。
餡子が、まりさの顔に降り注ぎ、れいむを安心させてやるために浮かべた笑顔を染める。
「れ、れい、びゅ?」
理解できない。
でも、れいむがそこにいる。あのおリボンは見間違えるはずがない。
「れ、れいびゅぅぅぅぅ! な、なんでなのじぇぇぇ! まりしゃは、まりしゃはつよい
のに、さいきょーなのに!」
「この期に及んでそう思い込んでるのは本気で凄いと思うよ、うん」
「ゲ、ゲ、ゲスにんげんはせいっじゃいするのじぇぇぇぇ!」
「どうやって?」
「ゆ゛っ……ゆひぃぃぃ、どぼじで、どぼじでさいきょーのまりしゃが……ゆ゛ひぃ」
「さぁてと、そろそろ行くかな」
「ま、まづのじぇ! ま、まりじゃの、まりじゃのおぼうちぃぃぃ!」
「いや、お前が親の死体食って掘り起こせよそんなもん」
「まりじゃは、まりじゃはつよいのじぇ! だからいうこときくのじぇ! おばえは、お
ばえはまりじゃに負けたんだじぇ!」
「またそれか、もう聞き飽きたから、それ」
「ばかでよわいにんげんは、さいきょーでしょうりしゃのまりじゃにひれ伏すのじぇ!
めーれーをきくのじぇ! ひれ伏すのじぇ! ひれ伏すのじぇ! ひ、ひ、ひれ伏じでぐ
だじゃぃぃぃ、まりじゃの、まりじゃのおぼうぢがえぢでえええ!」
「いや、ひれ伏してくださいって言われてひれ伏す奴はいねえだろ」
と、言いつつ、男は何気なく視界に入った木の枝に刺さった親れいむを見て閃いた。
「よし、ひれ伏しはしないけど、帽子を取り出してやるよ」
「ゆっ!? ほ、ほんちょなのじぇ?」
まりさは、いきなりすんなりと願いを聞いてくれると言った男にきょとんとしながらも、
目を輝かせた。
「ああ……そうか、手を汚さないために、親まりさの帽子を手袋代わりにしたのか」
餡子まみれの大きなまりさの帽子を見つけて、男は頷く。
男はさっきの少年のように、それを右手にはめてから親まりさの死体に手を突き入れ引
っ掻き回して、やがて、小さな帽子を発見して取り出した。
「ゆっ! ま、まりじゃのおぼうぢ! か、かえすのじぇ! まりじゃのめーれーをきい
たから、ゆるじでやるのじぇ!」
男は、帽子を持ったまま立ち上がった。
「ゆ? おぼうぢ! おぼうぢかえずのじぇ!」
「よっ、と」
男は、右手を、枝に刺さっている親れいむに突き入れた。そこには、まりさの帽子が握
られている。
「……ゆ? ……ゆゆ? ……ゆわああああ! や、やべるのじぇぇぇぇぇぇ!」
いったい何をするのか悟ってしまったまりさが声を限りに絶叫する。
そう、男は、まりさの帽子を今度は親れいむの死体の中に埋め込んでしまったのだ。
「はい、ここに入ってるから、自分で取ってね。さいきょーなんだから簡単でしょ」
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛……」
地面の親まりさの中ならば、時間をかければなんとかなっただろう。しかし、高いとこ
ろにある親れいむの死体には全く触れる術が無い。
「そんじゃな」
「……ま、まづのじぇ! まづのじぇ! まりしゃの、まりしゃのおぼうぢがえずのじぇ
ぇぇ!」
男は、まりさの声を無視して去っていった。
「……むーちゃむーちゃ、ごべんなのじぇ……」
数日後、まりさはまだあの場所にいた。
食事は、親まりさの死体を少しずつ食べていた。
そして、一日の大半を、潤んだ目で、親れいむの死体を見上げている。
なんの変化も無い、なんらなすことのない日々。それでも、大事な帽子がそこにある以
上、そこを離れるわけにはいかない。
そして、その日、変化が起きた。
「ゆ!?」
少し、親れいむの死体が動いたのだ。
「ゆゆゆ!?」
時間が経ち、さすがに重みによって死体が裂けていっているのだ。
まりさは、じーっと見ている。
その間に、少しずつ、少しずつ、親れいむの死体が近付いてくる。
「お、おぼうち! おぼうち! まりしゃの、おぼうち!」
まりさは、親れいむの死体を見上げながら叫んだ。
そして、遂に、親れいむの死体がぐらりと大きく動く。
落ちてくる!
そう思ったまりさは、大事なお帽子を逃がすまいと真下に移動して受け止めようとする。
「おぼうち! まりしゃのおぼうち! これで、これでまたゆっくちできりゅよ! みん
にゃのぶんまでゆっくちすりゅよ! だっちぇ……だっちぇまりしゃはつよいんだじぇ!
さいきょーなんだじぇ!」
来る。
もうすぐにでも、お帽子が帰ってくる。
「ばかでよわくてゲスなにんげんは、まりしゃにひれ伏すんだじぇぇぇぇぇ!」
それがまりさの最期の言葉だった。
落ちてきた親れいむの死体に潰されて、死んだ。
終わり
ようわからん話になったがぜよ(二回目)
それにしてもだじぇまりしゃはかわいいのじぇ、このゴミが。
名前だけども、あれこれ考えたってしょうがねえから、前作のコメント欄にあった
のるまあき、って名乗ろうと思うんだぜ。
つむりあき(仮)改め、のるまあき、なんだぜ。なんかゆっくりできない名前じゃ
のう。
子ゆっくりになりかけの、ごく標準の鶏卵と同じぐらいのサイズの赤まりさと赤れいむ
が一匹ずつ。
計四匹のゆっくり一家が透明の箱に閉じ込められている。
箱は、とある民家の部屋の机上に置いてある。
「……」
そこへ一人の男が現れた。
「ゆひっ!」
と、ゆっくりたちは一斉に恐怖にまみれた声をもらしたが、親まりさとれいむが意を決
して呼びかけた。
「にんげんさん、ごべんなさい、もう二度と来ません。おうぢにかえらぜでぐださい」
必死に、体を前屈させて、いわば土下座のような姿勢で、許しを乞い続ける。
「だから、お前らが勝ったら逃がしてやる。あまあまもやるよ」
男は、そう言うと箱の蓋を開け、生ゴミを放り込み、ちらりと一家を一瞥すると、その
まま何も言わずに出て行ってしまった。
一家は、先日、お引越しをした。
子供が二匹産まれてそれが成長し、それまでのおうちが手狭になったためだ。広くてゆ
っくりできるおうちを探そうと森から出てきてすぐに見つけたのが人間の家だ。
周囲を巡って調べると、入り口があった。そこから入り込んで、
「ここをまりさたちのおうちにするよ!」
「れいむたちのおうちだよ!」
と、おうち宣言した。返事が無いことで、このおうちが自分たちのものになったことを
確信した一家は、早速ゆっくりし始めた。
「あ? ゆっくりか……」
そこへ、男が帰ってきた。男は、ゴミを捨てに行っていたのである。
「そういえば、ドアちゃんと閉めなかったかな」
忌々しげに呟いた。それは自分の迂闊さを恥じてのことだったが、それはそれとしてゆ
っくりどもである。幸い、まだそれほどに部屋が荒らされていないのにほっとした男は、
さっさと出て行けと一家に言った。
「なにいってるの! ここはまりさたちのおうちだよ!」
「そうだよ! おうちをとろうとするのはゲスだよ!」
「ゆぴぃぃぃ、げしゅはこわいのじぇぇぇ」
「ゆわあああん」
「だいじょーぶだよ! おとうさんとおかあさんがついちぇるのじぇ! それにまりしゃ
だっちぇ!」
と、怖がる妹たちに言ったのは、一家の長女である子まりさだった。野球のボールぐら
いの大きさである。この子は同時に生まれた姉妹を全て失っており、二匹の妹たちにこと
のほか愛情を持っていた。
「はいはい、だろーね」
男は、部屋から出て行った。それを見て、おうちを諦めたのであろうと思った一家は中
断されたゆっくりを再開するが、男はすぐに戻ってきた。その手に透明の箱を持って。
ひょいひょいと手近にいた子供たちを箱に入れる。
「れいむのおちびちゃんになにするのぉぉぉぉ!」
「おうちをあきらめないなら、まりさがせいっさいするよ!」
男は、はいはい、と馬鹿にしたように頷くと、いきなり前に出て、ぷくぅと膨らんでい
た親まりさを蹴り飛ばした。
「い、いだぁぁぁい!」
「な、なにずるのぉ! まりさがいたがってるよ!」
「制裁するとか言っといて蹴られたらそれかよ。相変わらず暢気な生き物だよな」
男はそう言うと、今度は親れいむを蹴飛ばした。
「ゆぎっ! ど、どぼじでごんなごとするのぉぉぉ!」
どうしてさっさと箱に入れずに蹴飛ばしたかといえば、それはこの一家に自分たちと人
間との力の差を教えるためだ。そのために、男は一発で済まさず、致命傷を与えぬように
注意しながら両親を何度も蹴り付けた。
「ゆ……ゆ゛、せいっ、さいするよぉ」
「ゆっぐりでぎないにんげんは……じねえ」
もうこれ以上やったらオレンジジュース等での治療が必要だというぐらいに痛めつけた
が、親まりさも親れいむも、敵意に満ちた目でにらみつけるのを止めなかった。
「ほう、けっこう根性あるじゃねえか。……いや、物分りが壮絶に悪いだけか」
男がにやりと笑う。
透明の箱を所持していることから察しがつこうが、この男、ゆっくり虐待を趣味にする
者であるが、最近は仕事が忙しいのと、虐待自体に飽き気味だったこともあって御無沙汰
であった。
しかし、こうして住居に侵入し、痛めつけても屈しないゆっくりを前に、持ち前の虐待
心が燃え上がっていた。
「ここからだしぇぇぇ! おとうしゃんとおかあしゃんをいじめるゲスはまりしゃがせい
っさいしゅるのじぇぇぇ!」
箱の中から子まりさの叫び声が聞こえてきた。
「ようし、出してやる。制裁してもらおうじゃねえか」
男は、子まりさを摘み上げて床に置いた。
子まりさは選ばれてしまったのだ。
「ゆゆっ! まりしゃの体当たりをくらうんだじぇ!」
勇敢に男の足へ向かって飛ぶ子まりさは、一家に人間との力の差を思い知らせるための
「教材」として選ばれてしまったのだ。
ぽいん、と子まりさがぶつかった反動で後ろに飛んだ。
「ゆっ、もういっぱつなのじぇ!」
すぐさま体勢を立て直して体当たりを食らわせる。
「ゆふん!」
五回ほど立て続けに体当たりをした後に、子まりさは勝ち誇った顔で上を見た。そこに
は激痛に歪んだゲス人間の顔があるはずであった。
「ほい」
しかし、子まりさの視界にあったのはにやけた男の顔であり、次の瞬間に視界を覆った
のは男の足の裏であった。
「ゆぎゅ! ちゅぶれるぅ!」
思い切り踏まれて子まりさは潰れかかる。
「おし」
男は足の裏の感触で、子まりさが潰れる寸前に足を上げた。
「ゆ゛……ぎゅ……」
子まりさは少し餡子を吐いていた。目からこぼれる涙にうっすらと色がついている。血
涙ならぬ餡涙だ。
「おちびぢゃあああん!」
「やべでえ、ゆっぐりでぎないぃぃぃ!」
「おねえじゃんが、ちんじゃうよぉぉぉ!」
「ぎょわいよおおお、もうおうぢがえろうよぉぉぉ!」
ゆっくり一家は泣き叫ぶ。
「おうち? ここがお前らのおうちじゃなかったのか?」
男は言いつつ、赤ゆっくりの入った透明の箱に、両親も入れた。これで、子まりさ以外
は全て箱の中だ。
「さてと、時間がねえな」
男は時計を見つつ言った。仕事に行く時間が近付いている。
透明の箱を机の上に置き、その前に子まりさを置く。
机の引き出しを開けると、そこから剣山を取り出した。そこは、虐待に使う道具を入れ
てある場所だった。
「これがいいな、動きも止められるし」
子まりさの底部を、剣山に押し付ける。
「ゆぎっ!」
子まりさが突如広範囲に生じた痛みに声を上げる。
「よっ!」
男が、ぐっ、と子まりさを掴んだ右手と、剣山を持った左手を胸の前で合わせて力を込
めた。
「ゆ゛っびぃぃぃ!」
底部にずぶりと剣山の針が刺さった。
「よし」
家族からよく見える位置にそれを置いて男は満足そうに頷いた。
子まりさのあんよに刺さった針は一本一本はそんなに太くないために、傷は小さく、さ
らに刺さりっぱなしなので餡もほとんど流出しない。
これならば、激痛に苛まれながらも、夜までほうっておいても死にはしない。
「いぢゃいんだじぇぇぇぇ!」
子まりさは痛みに泣き叫ぶ、男はそれを尻目に着替えを済ませ朝食をとった。まだ今日
は食事をしていないらしく、それを見たゆっくり一家は涎を垂らしていた。
「まりさたちにも、ごはんちょうだいね!」
「そうだよ、一人だけむーしゃむーしゃしてずるいよ!」
「まりしゃもむーちゃむーちゃちたいのじぇ!」
「れいみゅだっちぇ!」
「あと、おちびちゃんをたすけてあげてね! 痛がってるよ!」
なんの効果も無い要求を大声で叫ぶ。力の差と、人間に逆らってはいけないことをまっ
たく理解していないことを男に教えるだけの無駄な行為だ。
「おい、おねえさんとやら」
「ゆ゛ひぃぃぃ、ゆ?」
家を出る直前、男は子まりさに声をかけた。
「最初に言っておくけど、おれはお前を絶対に助けない。それどころか、仕事……まあ、
お前らにもわかりやすくいうとごはんを得るための狩りに行って帰ってきたら、いじめる
だけいじめて殺してやろうと思っている」
「ゆ゛っっっ!」
「やめでね! そんなひどいごとじないでね!」
「そうだよ! おちびぢゃんがわいいでしょお! どぼじでそういうことするのぉ!」
「夜になるまでおれは仕事だ。ほれ、窓から外が見えるだろ。表が暗くなったらおれは帰
ってくる。そうしたら、お前は死ぬまで苦しい思いをして死ぬ。もうお前はゆっくりでき
ない」
「ゆ゛びゃあああああ! やじゃああああ、まりじゃ、もっどゆっぐりしぢゃいのじぇえ
えええ!」
ゆっくりにとっては、もう二度とゆっくりできない、という言葉は単純に殺すと言われ
るよりも精神的にはダメージが大きい。
「たでゅけでえええ! おとうじゃん、おかあじゃん、たじゅげでええええ!」
「それだ!」
男が突然、子まりさを指差して大きな声を出した。
「おれは暗くなるまで仕事に行っていない。その間に、おとうさんとおかあさんに助けて
もらえ」
「ゆ゛ゆ゛っ?」
「あいつらが、今お前を助けられないのは、そんなことしたらおれに蹴られるからだ。で
も、おれがいなかったら、大丈夫だろ? な?」
と、男は両親に話を振った。
「ゆ、ゆゆゆっ! そ、そうだよ、ひどいことする人間さんがいないなら、大丈夫だよ!」
「ゆん! そうだね!」
「ゆっ、だいじょーぶらね!」
「おねえしゃん、だいじょーぶなんらね!」
男は、にやりと蔑みの笑みを漏らした。そこで、変に賢くて透明の箱に閉じ込められて
いるのだから子まりさの救出は不可能だとか理解している連中ならばこの手は上手く行か
なかったが、期待通りの馬鹿一家である。
「それじゃ、おれは行ってくるからな。おれが帰ってくるまでに助けてもらわないと、痛
くて苦しくてゆっくりできない思いをして死ぬことになるからな。でも、お前はおとうさ
んとおかあさんに好かれてるし、大丈夫だよな! それじゃ、ゆっくり足掻いてね!」
「ゆ……いったね?」
「ゆゆっ……いったよ!」
男がドアを閉めてしばらく、ゆっくりたちは固唾を飲んでそのドアを見つめていたが、
男が戻って来ずに、本当に出かけてしまったようだと理解すると、ほっとしてゆっくりし
た表情をした。
「ゆひぃ、はやぐ、だじゅげ、で……」
しかし、あんよの痛みで子まりさだけはゆっくりするというわけにはいかない。早速こ
の痛みから救ってもらおうと両親に声をかける。
「ゆゆっ! それじゃゆっくりしないでおちびちゃんを助けるよ!」
「ゆん! まっててね、おちびちゃん!」
頼もしい両親の言葉に、子まりさは痛みに涙を流しながらも、安心した顔をした。
「ゆっ! ゆゆゆ!?」
「ゆっ! か、かべさんがあるよ! ゆっくりできないよ!」
「ゆゆゆ! ゆっ! いちゃいよぉ! まりしゃのたいあたりでもびくともしにゃいよ!」
「ゆん! ゆん! れ、れいみゅもらよ……」
「ゆーん、ゆーん、ゆーん……ゆぎぎぎぎ!」
「かべさんゆっくりこわれてね、邪魔しないでね!」
「ゆべっ! だ、だめだよ……かべさんどいてくれないよ……」
「まりさに、まかせてね! ゆべっ!」
そこで、ようやくこの透明の壁が自分たちではどうにもできぬと理解したゆっくりたち。
それでも一家の大黒柱の親まりさが何度も何度も体当たりをするが壁は微動だにしない。
このゆっくりを捕獲するために作られた透明の箱の強度は、ふらん種でも壊せないよう
に設計されていて、いくらまりさ種の中で優れている個体でもとても歯が立つものではな
い。さらに、初期の頃には中で何度も跳ねる度に少しずつ箱が移動して高いところに置い
ておいた場合に落下してしまうという事例があったため、底の部分の重量を増してゆっく
り程度の力では動かないようになっている。
「はやぐだじゅげでえええ! いぢゃいのじぇえええ!」
子まりさは、すぐにも助けてもらえると思っていたので、いつまでも家族が近付いても
こないのに不安を覚えて泣き叫んだ。
「ご、ごべんね、おちびちゃん……かべさんがあって、そっちにいけないよ……」
「ゆぅぅぅ、まっててね! まりさが、このかべさんを!」
「ただいまー」
夜遅くになって男は帰ってきた。
「あれえ? まだ助けてないの?」
わざとらしく、透明の箱の中で疲労困憊している連中と、剣山の上でゆぐゆぐ泣いてい
る子まりさに声をかける。
「おれが帰ってくるまでに助けないと、そいつ殺しちゃうよ、っておれ言ったよね? ね
え、なんで助けなかったの?」
「ゆひぃ、ゆひぃ、だ、だって……」
「かべさんが邪魔して、おちびちゃんを助けにいげないよぉぉぉ!」
「ふぅーん、壁ねえ」
男は、持っていたビニール袋からペットボトルのオレンジジュースを取り出した。
「んぐんぐ、ふーっ、疲れてる時はこれだよな」
半分ぐらい飲んでから、子まりさに少しかけてやる。
「ゆ……ゆわわわわ、ゆっく、ち」
「おい、ちびまりさ。お前、助けてもらえなかったのか?」
「ゆ、ゆ、ゆ、か、かべさんのせいで、たじゅげでもらえな」
「ああ、そうなの。まあ、あんな壁を壊せない程度の愛情だったってことだな。お前……
実はあいつらに嫌われてんじゃねえの?」
「そんなことないよ! へんなこといわないでね!」
「このかべをどかしてね! そうしたらすぐにおちびちゃんを助けられるよ!」
「んー、じゃ、もう一度チャンスをやろう」
男は、一度表に出ると、小さめの30センチ四方ぐらいの板と釘と金槌を持ってきた。
日中子まりさをどういじめてやろうかと考えていて、そういうものが物置にあったことを
思い出していたのだ。
板の上に、子まりさが刺さった剣山を乗せて、おもむろに帽子を取り上げた。
「ゆぴゃあああん! まりしゃのおぼうちかえすんだじぇえええ!」
「ほい」
子まりさの前に帽子が置かれる。
「ゆ゛っ……まり、じゃの、おぼ、うち……」
子まりさは舌を精一杯伸ばす。その舌先が帽子に触れたのを見て、男は帽子を子まりさ
から遠ざかるようにずらした。
「ゆ゛うぅ!」
逃すまいと懸命に子まりさは舌を伸ばす。もう、限界まで伸びたであろうというところ
で、男は帽子からは手を離し、その手に一本の釘を握った。
それを迷うことなく、子まりさの舌の先端に刺す。
「ゆ゛っ!」
舌の刺さった釘を板に突き立てて、もう片方の手で持っていた金槌で打ち込む。あっと
いう間に、子まりさは舌をいっぱいに伸ばした状態で打ち付けられてしまった。
さらに、男は剣山を動かした。
「のーびのーび、さすがに限界かな」
ただでさえ伸びていた子まりさの舌は、これ以上無理に伸ばせば裂けてしまうという状
態になってしまった。
「いはぃぃぃぃ」
もう、まともに痛いと言うこともできなくなっている。
「さーてと、そんじゃ飯だ飯」
男はビニール袋から弁当を取り出す。ゆっくりたちに見せ付けるようにそれを食べる。
自分たちにも食べ物をよこせという要求はもちろん無視だ。
「んー、そんならこのちびには特別に少しやろうかな」
食事を終えた男は、子まりさの頭をぽむぽむと指でつつきながら言った。
「まりさだぢにもちょうだいね!」
「もうずっとむーしゃむーしゃじでないよ!」
「おねえしゃんばっかちずりゅい! まりしゃも!」
「れいみゅにもちょうだいね!」
男は醤油さしを手に取った。
伸びた子まりさの舌にそれを数滴垂らす。
「ゆ゛ぴ……ゆ゛っ!」
ゆっくりとっては毒にも等しい辛味に、子まりさは目をいっぱいに見開いて涙を流した。
吐き出そうにも舌を伸ばされた状態で舌も体も固定されているので不可能だ。少しでも痛
みを紛らわすために暴れようとしても、やはり体が剣山で固定されているので無理だ。
「ぎゃひゃい、ぎゃひゃぃぃぃぃぃ!」
どうやら辛い辛いと言っているらしい。
とめどなく涙が溢れ出す。釘が刺さった部分よりさらに先の、ほんの5ミリ程度の舌先
がうにうにと蠢いていた。そこぐらいしか動かせる場所がないのだ。
それを見て恐怖と悲しみに震える両親と妹は、二度と自分たちにもよこせとは言わなか
った。
翌朝、男は子まりさの衰弱ぶりを見てオレンジジュースをかけた。
「じゃ、またおれは夜まで狩りに行って来るから、それまでにそいつ助けておくように…
…今度こそ、本当に殺しちゃうよ」
「か、かべさんが邪魔でだずげられないよぉぉぉぉ!」
「このかべさんどかじでね! いじわるじないでね!」
「ゆぴゃあああん、おにゃかすいちゃよぉぉぉ」
「ちんじゃうよぉ、ゆぅ……ゆぅ……」
両親の訴えはどうでもよかったが、妹二匹のそれに男は足を止めてじっと二匹を観察し
た。
「そろそろ限界か。餓死されちゃつまらん」
男は、冷蔵庫を物色していつ入れたのかも忘れてしまったような野菜を幾つか見つけ出
した。どうせ食わないで捨てるようなものだ。これ幸いとそれを少量、箱に入れていく。
「それじゃあな」
男が出て行くと、ゆっくりたちはまたじっとドアを見つめていた。
そして、男が戻ってこないようだと確信すると、一心不乱に野菜を食べ始めた。人間が
食べたら腹を壊しかねないがゆっくりにとってはご馳走だ。
「「むーしゃむーしゃ、し、しあわせー!」」
「「むーちゃむーちゃ、ち、ちあわちぇー!」」
久しぶりに食後の歓喜の声を上げてゆっくりする。
「ゆ゛ぴ……だ、ふげで……」
「ゆ゛っ!」
だが、そのしあわせーな気分も長くは続かない。子まりさがずっと苦しみ続けて助けて
もらうのを待っているのだ。
「ゆゆっ! かべさん、どいてね!」
「まりさにまかせてね!」
「おとうしゃん、がんばりぇ!」
「おかあしゃん、がんばりぇ!」
はいはい餡子脳とでも言うべきか、昨日駄目だったのをすっかり忘れてしまったという
わけでもないが、時間が経ったら、根拠もなく、今度こそはと思っているらしい両親たち
は何度も何度も壁に体当たりした。
「ゆひぃ……ゆひぃ……」
「だ、だべだよ、やっぱりかべさんがどいでぐれないぃぃぃ」
で、昼頃にはようやく無理なのを再確認した。
「ただいまー」
そして、遂に男が帰ってきた。
「ゆ゛、れいぶ!」
「ま、まりざ!」
「ん?」
自分の顔を見た途端に親まりさとれいむが顔を見合わせるのを奇異に思った男が首を傾
げている間に、二匹はぐにっと体を前屈させて言った。
「ごべんなざい、まりざだちじゃおちびぢゃんをだずげられまぜん! にんげんざん、だ
ずげでぐだざい!」
「ごべんなざい、れいぶたちをおうちにかえじでくだざい!」
「お、おねえじゃんをたじゅげでえ!」
「おうちにがえちちぇ!」
どうやら、ようやく自分たちの状況が「詰み」であることを悟り、男に許しを乞うこと
にしたらしい。
「ああ、遅かったな。最初にそうしてくれてりゃな」
男は、ゆっくりたちが人間との力の差を理解したのに満足しつつも、そう言って笑った。
許すはずがない。
逃がすはずがない。
「お前らのおかげで、お前らを虐待する楽しさを思い出しちまったからなあ」
男の、自分たちをゴミ同然に思っている冷たい視線に射抜かれて、ゆっくりたちは身を
寄せ合って震え泣くばかりであった。
「やべひぇぇぇ!」
子まりさの舌の先端がうにうにしてるのを見た男は、ペンチを取り出して舌を打ち付け
ている釘を抜いた。
「ゆ゛ひぃ、ゆ゛ひぃ」
助かったのか? 感じた瞬間、舌に激痛。男は釘を板からは抜いたものの、子まりさの
舌からは抜かずにそれを引っ張った。
「ゆ゛びぃぃぃぃ!」
男は姿勢を低くして、子まりさを横から水平に見て何かをはかっているようであった。
右手に釘を持ってそれを上下に調整しており、左手にはいつのまにか長い竹串があった。
「よし、ここだ」
男は、呟くと竹串の先端を、子まりさの舌の先端に刺し入れた。
「ゆ゛っっっ!?」
ずぶりと竹串が舌に侵入、やがてスムーズに入らなくなると、男は竹串を挟んだ人差し
指と親指をこすり合わせるようにして串を回転させて、さらにねじ込んだ。
そして、とうとう竹串は子まりさの舌を貫き、そのまま本体も抜けて、子まりさの背中
から突き出た。
舌を一杯に伸ばした状態でそこを竹串に貫通されてしまい、もはや先端をうにうにさせ
ることすらできない。
「おい、痛いか。それなら舌を噛め」
「ゆひ?」
「舌噛んで死ねば楽になれるぞ」
「……ゆぅ、ゆぅ? ゆるひで……ゆるひで……」
しかし、人間ですら相当の覚悟を必要とする自決方法に、子ゆっくりが踏み切れるはず
もない。
それに、これは男の罠でもあった。人間でも、舌を噛んだからといってそう簡単に死ぬ
わけではない。ましてや無駄に生命力のあるゆっくりであるから、舌を噛んだ程度では中
枢餡に影響があるほどに餡は流出しないのですぐに死ぬことはない。
男は、子まりさが苦しみ、それを見て両親と妹が悲しむのをしばらく眺めていたが、や
がて時計を見ると、
「はぁ……明日も仕事だ。ゆっくりできない」
と言って、部屋から出て行ってしまった。
「よし、もう一度だけチャンスをやろう。俺が帰るまでにこいつを助けたら逃がしてやる
よ」
翌朝、男は仕事に行く前にまた言った。だが、もうこの透明の箱を突破して子まりさを
助けることなど不可能だと理解しきっている両親は、必死に謝り、許してくれるように懇
願した。
「まあ、がんばれー」
だが、男の返事はひたすら軽い。それらの態度からも、いよいよ男が自分たちの命など
ゴミだと思っていることを突きつけられてゆっくりたちは絶望する。
「たっだいまー」
その日、夜遅くに男は上機嫌で帰ってきた。
「にんげんざん! もうゆるじでぐだざい!」
「おねがいじまず! おねがいじまず!」
「俺と勝負して勝ったら許してやるよ」
「「ゆ゛?」」
箱の中のゆっくりたちは、男の提案に警戒する。勝負と言っても、またハナっから自分
たちに勝ち目のないものではないかと疑ったのだ。
ちなみに子まりさはもう涙も枯れたのか、虚ろな目で竹串が貫通してぴんと伸びた自分
の舌を見ているだけで全く動かない。
「実は、お前らを全面的に駆除することになった」
「ゆ?」
「く、くじょ?」
「くじょってにゃあに?」
「にゃ、にゃんだかゆっくちできにゃいかんじらよ……」
「まあ、つまりはゆっくり……お前らの仲間をどんどんとっ捕まえて殺すんだ。人間とお
前らの戦争と言ってもいい」
男は、説明した。
ゆっくり害の拡大は既に社会問題になっていたが、このたび、とうとう国が大々的な駆
除を決定。ペットの飼いゆっくりや加工所などの商品となる産業ゆっくりや、野良でも愛
護団体の息がかかっているような半野良と言うべき存在を除く人間の管理下にない野良や
野生のゆっくりが対象になっていた。
「一週間で、ほぼ完了します」
と、このゆっくり殲滅作戦の担当者は事も無げに言ったそうだ。
「な、なにぞれえええええ!」
「ゆっぐりできないぃぃぃぃ!」
「ま、まりしゃたちも、くじょすりゅの?」
「ゆんやああああ、やじゃああああ、れいみゅ、ゆっくちちたいよぉぉぉ!」
「まあ、それでお前らが勝ったら、逃がしてやるよ。もう絶対に手は出さないし、それど
ころか土産にあまあまをやるよ」
男の言う勝負とはそれであった。実のところ、仕事が忙しくて一週間ほど時間がとれそ
うにない。その間、いちいち手を加えずとも放置することが虐待になるような方法をあれ
これ考えていたのだが、そういえば大々的な駆除がもうすぐ始まると思い出し、それを利
用することにした。
もちろん、この「戦争」にゆっくりの勝ち目はないと男は確信している。
だが、囚われの一家は、その勝負を受けざるを得なかった。というか、受ける受けない
を決められる立場にすらなかった。
しばらく、男は全く手を出さなくなった。
本当に仕事が追い込みで忙しくなり、家には寝に帰ってくるだけなのだ。だが、それで
も寝る前に、ゆっくり駆除の様子を撮影した動画などを探してきて、それを一家に見せ付
けるぐらいのことはした。
「ゆ゛わあああああああ!」
「な゛、なにごれ……これ……ぜんぶ……う、うそだぁぁぁ! ゆっぐりでぎないよぉぉ
ぉぉ!」
「ゆぴっ、……ゆ、ゆげえええ!」
「きょわいよぉ、きょわいよぉ、もうやじゃぁ……」
凄まじい数の同族が次々に右から左へと機械的に処理されていく映像、死体が山と積ま
れた映像を見せられ、一家は恐怖した。
勝負に勝てば逃がしてもらえるどころかあまあまが貰える。
そう考えて、僅かの希望を抱いてゆっくりしないこともなかったのだが、それを見せら
れて芥子粒ほどの希望すら打ち砕かれた。
あまり大きな数を認識できぬゆっくりたちにとって、積み上がったゆっくりたちはとに
かくとてつもなくたくさん、だとしか思えず、もう自分たち以外の仲間は皆殺しにされて
しまったのではないかと戦慄した。。
男が嬉々として、これなんかはまだごく一部で、もっとたくさんのゆっくりが同じ目に
あっているのだと言うと赤ゆっくりの妹たちはともかく、成体の両親ゆっくりまでだらし
なく失禁した。
そして、子まりさ――。
「ああ、お前にも見せてやるよ、ほれ」
映像を流しているノートパソコンが子まりさの位置からは見えにくいと気付いた男は、
子まりさを摘み上げて、移動させてやった。
「ゆ゛?」
最初、子まりさは何が何だか状況が飲み込めなかったようだった。延々と続く激痛に精
神が磨耗し、もはや家族や男の言葉などろくに聞こえていなかったようだ。
「ゆ゛ぅっ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ」
だが、とにかくそれが大量の仲間の死体なのだと気付くと、目を見開き枯れていた涙を
再び溢れさせた。
「……」
子まりさは、しばらくすると泣き止み、妙に落ち着いた表情になった。
「ゆ゛っっっ!」
口を大きく開けて、それを閉じる。
かちん、と上下の歯が打ち合わされる音。
とうとう、心底絶望しきった子まりさは、舌を噛んで死ぬ道を選んだのだ。
「い、いひゃああああ! ゆ゛びぃぁぁぁ!」
だが、そう簡単に死ねぬのは既に述べた通りである。さらには竹串が貫通しているため
に、舌自体を噛み切っても切断面はくっついたままであった。
ここで、ゆっくりの中身が餡子であることが災いする。人間の血と比べて粘性な餡子は、
その状態ではあまり流れ出ないために、子まりさの苦しみは長引くことになった。
「お、おぢびぢゃん!」
「ど、どうじだの?」
「おねえじゃん、ゆっぐちちでえ!」
「もうやじゃ、もうやじゃ、もうやじゃああああ!」
突然痛がりだした子まりさに、家族は戸惑う。
それを見て、男は腹を抱えて笑っていた。
「あー、明日も仕事だ」
ひぃひぃと笑っていた男は、目尻の涙を指先で拭うと、晴れ晴れとした顔で部屋を出て
行った。
翌日の夜、男が帰ってくると、子まりさは死んでいた。
一家はゆんゆんと泣くばかり。
その悲しみに打ちひしがれる一家に、男はまた新たな映像を見せる。
人間とゆっくりの戦争の映像。
ただただひたすら殺されていくゆっくりたちの断末魔、死体の山。
翌日の一家の餌は、子まりさの死体だった。
男が竹串を掴んで無造作に箱に投げ入れて、
「今日はそれ食っとけ」
と言って、遅刻遅刻と呟きながら慌しく出て行ってしまった。
「おぢびぢゃああああん! ぺーろぺーろしてあげるがらね!」
「ぺーろぺーろ! ぺーろぺーろ! 目をあげでえ! ぺーろぺーろ!」
「おねえじゃん、しんじゃやじゃよぉ、まりしゃもぺーりょぺーりょすりゅよ!」
「やじゃよぉ……れいみゅ、もうやじゃ……やじゃぁ……」
既に死んでいるのを認めたくない両親と妹まりさは、必死に子まりさを舐めて治療しよ
うとする。妹れいむは、既に精神が崩壊しかかっているようだ。
その日の夜は、特に男は疲れた表情で帰ってきた。シャワーを浴びると、ゆっくり一家
には構わずに寝ようとする。
それを呼び止めて、食べ物を要求するゆっくりたちだが、男は子まりさの死体がそのま
まになっているのを見ると、
「それ食っとけって言ったろ。それ食わないうちは他の食い物はやんねえよ」
と言って、さっさと部屋を出て行ってしまった。
「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇぇぇ!」
翌朝、そんな幸せいっぱいの声に、両親と妹まりさは目を覚ました。
「「「ゆ?」」」
声は、妹れいむのものだ。すっかり弱っていた妹れいむのゆっくりした声に、一瞬とて
もゆっくりしているね、と歓喜の声をあげそうになった両親は、妹れいむが何をしている
のかを見て絶句する。
今、この箱の中にはむーしゃむーしゃできるものなど、一つしかないのだ。
「な、なにじでるのぉぉぉぉ!」
「やべでえええ! おぢびぢゃん、やべでえええ!」
「れ、れいみゅぅぅぅ! おねえじゃんをむーちゃむーちゃしちゃだめらよぉぉぉ!」
「むーちゃむーちゃ、むーちゃむーちゃ」
家族の制止など聞く耳持たずに、妹れいむは一心不乱に姉の死体を食い漁る。
「ちあわちぇぇぇぇ!」
何日かぶりのしあわせーな声をあげる。
やがて、妹まりさの喉がごくりと鳴った。
両親の喉が同じ音を立てるのにも時間はかからなかった。
そして、死んだ子まりさの分まで生きてゆっくりしよう、そのためにも……と理屈をつ
けて、子の、姉の亡骸を喰らうのに、時間はかからなかった。
男はその後ろくに一家に構わなかった。帰ってくると、シャワーを浴びてベッドに直行
である。
そしてある日、苦虫を噛み潰したという表現がぴったりの表情で、男は帰ってきた。手
にはビニール袋を持っている。
既に懇願も哀願も無意味であることを悟った一家は、何も言わない。
「おい……」
男は、そんな一家に声をかける。びくりと震えた一家に、嫌で嫌でたまらないという顔
で搾り出すように言った。
「……お前らの勝ちだ」
はじめ、何を言われているのかわからなかった一家に、男は苛立った様子で説明した。
人間は、ゆっくりの大々的な駆除の終了を宣言した。
目的を達成したからではない。
いくら殺しても湧いてくるゆっくり、当初の予定期間を過ぎてもなお絶滅とは程遠いそ
の繁殖力に、それを殺し続けることに要するコストを計算した結果の撤退であった。
つまり、ゆっくりは勝ったのだ。
「ゆ゛わああああああああ!」
「か、かっだ。まりさだぢが勝ったんだよ!」
「ゆわあああい、ゆっくりかっちゃよ!」
「ゆ? ゆ? おうち、おうちに、かえれりゅの?」
喜ぶ一家をさらに苦々しげに眺めていた男は、ええい、と一声叫ぶと、箱の蓋を開けて
一家を出してやった。
さらに、ビニール袋に入っていた大量の菓子を投げつけるようにくれてやった。
「ゆっ! それじゃおうちにかえろうね!」
「おうちであまあまをむーしゃむーしゃしようね!」
「ゆわぁーい、ゆっくちできりゅよ!」
「ゆっゆっ! ゆっくちぃ!」
意気揚々と戦利品を持って家を出て行く一家を、舌打ちして見送った男は、冷蔵庫から
ビールを取り出して飲み始めた。
今日は仕事が一段落してその後始末のためだけの出勤なので仕事は午前中で終わり、明
日から三日ほど有給休暇をとっているので、本当ならじっくりとゆっくり一家を虐待する
予定であった。
しかし、そのめでたいはずの日に飛び込んできたのが人間の敗北のニュースだ。
奴らにくれてやるお菓子を買って帰宅した。
まったく最高から最悪の気分へと、この落差は辛すぎた。
祝い酒が自棄酒になってしまい、男は沈んだ表情で酒盃を重ねる。
ゆっくりのことを侮りきっていた男は、人間が本気になってもゆっくりを駆除しきれな
かったことにショックを受けていた。種として、男が思っていたよりもゆっくりは弱くは
なかった。
なんだか、自分があの一家に本当に負けた気がした。錯覚といえば錯覚なのだが、そう
思ってしまった以上、約束通りに甘い菓子を持たせて帰すべきだと思ったのだ。
だが、しばらくすると段々と後悔してきた。人間に勝ったと大はしゃぎしていた連中の
ゆっくりした顔を思い出す度にむかむかしてくる。
「よし、明日は……」
この憂さ晴らしには、ゆっくり狩りしかない。
「ゆっゆっゆ~っ、ゆっくりのひ~」
「すっきりのひ~」
「ゆっくちのひ~」
「すっきちのひ~」
おうちに帰還したゆっくり一家は、早速お菓子をむーしゃむーしゃしておうたを歌って
いた。
「まりしゃたちはにんげんさんにかったんだじぇ!」
妹まりさは、だじぇ言葉で誇らしげに言った。
「ゆん、そうだね、まりさたちは勝ったんだよ」
「ゆゆぅ、ゆっくりできるね」
「ゆっくち! ゆっくち!」
で、喉元過ぎればなんとやら、一家はすっかり人間に勝利したことでこれで未来のゆっ
くりが約束されたと思い込んでいた。
これは、あの男が意識せずに施した一家への虐待であるとも言えた。
男が、人間とゆっくりの戦争だの、お前らの勝ちだのと言うから、ゆっくりたちはそん
な勘違いをしてしまった。
決して、人間はゆっくりに降参したわけではないのに、いや、むしろ全力を挙げて駆除
しきれなかったからこそ、やはり放っておいたら奴らは増える一方だという確信を抱かせ
ているというのに、自分たちは人間に勝ったのだというつもりのゆっくりたちがどんな運
命を辿るかは明らかなことであった。
「まりしゃたちは、にんげんさんにかったんだじぇ!」
「ゆぅ……しんじられないよ、にんげんさんは強いよ」
翌日、妹まりさは、早速出会ったれいむに、自慢していた。しかし、ここ数日、仲間を
次々に殺されたれいむには、とても信じられる話ではない。
「ほんとうなんだじぇ! にんげんさんがはっきりいったんだじぇ! まりしゃたちの勝
ちだ、っちぇ!」
妹まりさがどんなに言っても、やはりれいむは信じなかった。
「おっ、ゆっくりがいるぜ」
そこへ、十二、三歳ぐらいの少年が三人通りかかって言った。
「ゆひぃぃぃぃぃ! に、にんげんざんだぁぁぁぁ!」
れいむは、それと気付くと悲鳴を上げて必死にぽよんぽよんと逃げ出した。しーしーを
垂れ流しながら逃げるれいむを指差して少年たちが笑う。
「どーする? 追っかける?」
「いや、いーや、もう飽きた」
「そうだな」
少年たちは、既に相当な数のゆっくりをいたぶり殺していた。あの駆除作戦後、人間た
ちのゆっくりへの見方がやや変わった。それまでは殺すまではしなかった者でも、息の根
を止めるようになった。放っておいてはゆっくりが増えすぎてしまうという危機感が多く
の人間たちに生じたためだ。
少年たちはそれに乗ってゆっくりを殺し始め、いつしかあの手この手でゆっくりを痛め
つけて殺すのにハマってしまった。それでもさすがにやりすぎて、最近では飽きが来てい
た。
「ん? あれ?」
一人が、言うと、他の二人はその視線の先を追って、そこにぷくぅと膨らんでいる小さ
なまりさを発見した。
「あれ? あいつ逃げないのか?」
「怖くて体動かないんじゃない?」
「ちっちぇな、まだ生まれたばっかりかな」
「でも、怖がってるわりにはぷくぅってやってるぜ。あれ、ゆっくりの威嚇だろ?」
「……あれ、見てるとイライラしてくんだよな」
「よし、潰しとこうぜ」
一人が妹まりさに近付いていく。あれこれやる気にはなれないので踏み潰して一発で殺
す気だ。
「まりしゃはにんげんさんに勝ったんだじぇ! つよいんだじぇ!」
「んん?」
「なに言ってんだこの馬鹿」
「お前なんかが人間に勝てるわけないだろ」
こんな小さなまりさよりもずっと大きいゆっくりを何匹もなぶり殺した少年たちには、
ただの妄言としか思えない。
「勝ったんだじぇ! にんげんさんがじぶんで言ったんだじぇ! まりしゃたちの勝ちだ
っちぇ!」
しかし、なにしろ人間自身がはっきりと敗北を認めたのだ。妹まりさの中ではその「事
実」は揺るぎようが無い。
「よーし、じゃ、おれと勝負だ」
一人がしゃがんで右手を妹まりさに伸ばす。
「ゆっ! ぜったいにまりしゃ勝つのじぇ! まりしゃが勝ったらあまあま、ゆび!」
まりさが言い切る前に、少年は指でまりさを弾いた。
「ゆ゛ひぃぃぃぃ、い、いぢゃいのじぇぇぇぇ!」
額が凹んだまりさは声を限りに泣き叫ぶ。
「そんなんでどうやって人間に勝つんだよ」
「なにをどうやって勘違いしたんだろうな」
「あー、あれじゃね? ゆっくり殺せない人っているらしいじゃん。それが絡まれてさ、
あーはいはい、おれの負け、お前らの勝ちだよ、って感じで」
「おー、ありそうだな、それ」
少年たちは、まりさのことはほったらかして、なんでこの脆弱極まりない生き物が人間
様より自分は強いのだと勘違いしたのかと考察し始めた。
「ゆひぃ、ゆひぃ……ゆっ、ゆっ、ゆわあーん!」
まりさは痛みと悔しさに泣いていた。
今の少年の攻撃は、凄まじい威力であり、一発でとても勝てないと思い知らされるに十
分であった。おかしい、まりしゃはにんげんさんに勝ったのに、強いのに、なぜ?
「にゃんなんだ、じぇ……どぼちて……」
「なんでもなにも当たり前だろーが」
「人間に勝てるだなんて、ばっかじゃねえの」
「よし、そんじゃ潰すぞ」
少年が足を上げる。その靴の底を見ながら、まりさは死の恐怖を身近に感じてびくりと
震えた。
「お、おとうしゃぁーん、おがあしゃぁーん! たぢゅげちぇぇぇ!」
迫り来る死になす術も無い赤ちゃんのまりさにできることは、両親の助けを求めること
だけであった。
「ん? 親か」
足を上げていた少年がそれを下ろす。
「まあ、こんなちっちゃいのが一匹で遠出しないだろうから、すぐ近くに家族がいるんだ
ろうな」
「おい、お前のおとうさんとおかあさんは強いのか?」
「ゆ゛っ……つ、つよいよ! に、にんげんさんにだって勝ったんだよ!」
「へえー、じゃ呼べよ」
「ゆゆ?」
「その強いおとうさんとおかあさん呼べよ、そいつらとも勝負してやる」
「ゆ゛……ゆっへっへ、ふ、ふたりはとても強いんだじぇ」
助かる。
まりさの中で急速に希望が膨れ上がる。
確かに、自分はこの人間たちに勝てなかった。でも、おとうさんとおかあさんならば勝
てる。考えてみれば、この前の人間さんに勝った時は家族が一緒にいた。さすがに小さな
まりさだけでは人間には勝てないようだが、二人ならば……。
「おどうじゃあああん! おがあじゃあああん! だーぢゅーげーぢええええ!」
大きな声で叫ぶまりさ。しばらくそうやって叫んでいると、繁みの中から声が聞こえて
きた。
「ゆっ! おちびちゃんの声だよ!」
「ゆん! ……こっちだよ!」
ガサガサと繁みが音を立てて、丸いのが二つ姿を見せる。言うまでもないが、両親のま
りさとれいむだ。
「おちびちゃん、一人でおうちから離れちゃ駄目だよ」
「そうだよ、ゆっくりできな……ゆっ、に、にんげんさん」
「ゆぴゃあああん、このにんげんさんたちがいじめるのじぇぇぇ! やっちゅけてほしい
のじぇぇぇ!」
「ゆゆゆゆっ! れいむのおちびちゃんをいじめないでね!」
「そんなわるい人間さんは、まりさたちがせいっさいするよ!」
「よし、じゃ勝負だ」
少年が一人前に出る。他の二人は動かない。
「れいむたちは、人間さんに勝ったことがあるんだよ! 強いんだよ! ぷくぅぅぅ!」
「そうだよ! あやまるならいまのうちだよ! ぷくぅぅぅ!」
「うわー、こえー」
完全棒読みで少年が言い、他の二人は笑う。
「こわいんならあやまってね! 今のうちだよ!」
「そうだよ! それに、勝負に負けたらあまあまちょうだいね! たくさんでいいよ!」
「ひいいー、こわいよー、人間に勝ったゆっくりはやっぱり迫力が違うよー」
「ぷぷ、そうだな、他の連中とは一味違うよな」
「くくく、おい、最初から全力で行けよ、でないとやられちゃうぞ」
ぷくぅぅぅと膨れた親まりさと親れいむは、少年が自分たちを恐れながらも退くつもり
が無いと見て取ると、顔を見合わせて頷いた。
「今あやまればゆるしてあげようと思ってたのに……馬鹿な人間さんだよ」
「ゆん、かわいそうだけど、馬鹿は死ななきゃなおらないよ」
「おとうしゃんもおかあしゃんもかっこいいのじぇ! ふたりとケンカするにゃんてばか
にゃの? しにちゃいの? まりしゃたちはにんげんさんに勝ったのじぇ、しょうりしゃ
なのじぇ! ケンカじゃなくちぇぎゃくちゃいになっちゃうのじぇ! いたいいたいにさ
れちぇひれ伏すがいいんだじぇ!」
「ゆっ、いくよ、まりさ!」
「ゆっ、わかったよ、れいむ!」
ぽよん、と親れいむと親まりさが跳ねた。このまま跳ねて行って必殺の体当たりを喰ら
わせる気だ。あの身の程知らずな馬鹿人間はふっ飛ばされて餡子を吐くに違いない。
「ゆっひゃあ! ぎゃくちゃいなのじぇぇぇぇ!」
まりさは、両親の勝利を全く疑っていなかった。
「うわー、こえーよー」
少年は言うと、踏み込んで足を振り、親れいむの顔のど真ん中に爪先をめり込ませた。
「ひゃあー、やられるまえにやってやるー」
間髪入れずに、親まりさを真上から踏みつける。
「ゆ゛ぎゃああああ!」
「づ、づぶれるぅぅぅぅ!」
転がった親れいむは激痛に転がり回り、プレスされた親まりさは悲鳴を上げる。たった
の一発でこれである。
「おらおらおらおら!」
足を上げて、何度も何度も親まりさを踏みつける。
「ゆぶっ!」
親まりさは、とうとう口から餡子を吐いた。
「それそれそれそれ!」
今度は親れいむの方を踏みつける。
「お、どう、しゃん……おがあ……」
呆然とそれを見ているまりさ。
「いい勝負だな」
「ああ、今のところはこっちが押してるけど、油断してたら逆転されるぞ」
「おお、あのまりさとれいむ、強そうだからな!」
観戦していた二人の少年が、まりさに聞こえよがしに言った。それを聞いて、まりさは
今一度戦う両親の勇姿を見る。
「ゆべ! いぢゃ! や、やべぢぇ! ふまないで! だ、だずげで……」
「ゆ゛ひぃぃぃ、ど、どぼじて、どぼじて……れいむだち、人間さんより……強いんだよ、
ホントだよ……どぼじてぇぇぇ……」
踏まれ続けてみっともない醜態をさらしている親まりさとれいむ。
だが、まりさの目にはそれは虎視眈々と逆襲の機会を狙っているように見えた。
「ゆふふふ、おとうしゃんもおかあしゃんもまだよゆうだじぇ!」
「うん、そうだねー」
「ゆっくりゆっくり」
少年二人も同意――まりさの中では――したので、いよいよまりさの勝利への自信は揺
るがないものになった。
少年が、二人に「飽きた」と言い、二人が「よし、やっちゃえ」と言い、その次の瞬間
に、親まりさが踏み抜かれる時までは……。
「お、どうしゃ、ん?」
「死んだ?」
「まだ生きてるみたい。棒かなんか無い? 靴汚れちゃうよ」
「んー、ああ、石があるぜ、よいしょ、っと」
少年が屈んで持ち上げたのは、大きな石だった。
「よし、おれがやるわ」
その少年は石を持ったまま、体の真ん中に穴があいた親まりさのところまでやってくる
と、手を振って、他の二人を下がらせた。
「それっ」
石を上に放り上げて、バックステップで下がる。
「ゆぎゃっ!」
石は、親まりさに命中した。餡子が飛び散るが、後ろに飛んだために顔や服につくこと
はなかった。
「もっど、ゆっぐ……り……じだ……った……」
「おし、中枢餡を潰したぞ!」
親まりさが絶命したのを見て、狙い通りに当たったことを確認した少年は小さくガッツ
ポーズをとる。
「う、うしょだ……おとうしゃんが……負けるわけ、にゃいの、じぇ……」
「こっちのれいむはどーする?」
「あ、あれやろうぜ、ほら、この枝」
少年の一人が、木の枝を指差す。
その木の幹は太く、従って枝もそこそこの太さだ。
「おー、それならできるな」
「よし」
と、少年が息も絶え絶えの親れいむを持ち上げる。
「にげ……で……おちび、ぢゃん……にげ……で……」
さすがに自分たちが人間よりも強いなどという壮絶な勘違いを修正せざるを得なくなっ
た親れいむは、必死に言った。
「ま、まりしゃたちは、にんげんさんに勝ったんだじぇ! つよいんだじぇ! ばかでよ
わいにんげんさんは、まりしゃたちにひれ伏すんだじぇ! あまあまもよこしゅんだじぇ!
」
しかし、まりさは、親まりさが踏み抜かれた瞬間に芽生えた、やっぱり人間さんは自分
たちよりも強いのでは、という疑問を押さえ込んだ。
そこは、ゆっくりの防衛本能が働いていた。とにかく、ゆっくりすることだ。自分たち
は強い、勝利者だと思うことでゆっくりできる、というより、もはやそう思い込むことで
しかゆっくりできないのならば、ゆっくりは簡単に思い込むことができる。
「ゆ゛ぎぃぃぃぃ! や、やべぢぇぇぇぇぇ!」
親れいむは、木の枝に刺された。その際に中枢餡を貫かれて、死んだ。
「おし」
「あのちっちゃいのはどうしようか」
「そうだなあ……」
少年が、まりさを摘み上げる。
「まりしゃたちは、つよいんだじぇ、にんげんさんに勝ったんだじぇ、しょうりしゃなん
だじぇ、ばかでよわいにんげんさんは、まりしゃにひれ伏すんだじぇ、あまあまもってく
るんだじぇ、まりしゃたちは、つよいんだじぇ!」
少年は、まーだ言ってるよ、といった感じの苦笑を漏らして、まりさを強く握った。
人差し指と親指で作った輪の部分に、まりさの右目が来るようにして少しずつ下の方、
つまり小指の方から締め付けていく。
「ちゅ、ちゅぶれりゅんだじぇぇぇ! やめるんだじぇ! まりしゃは、しょうりしゃな
んだじぇ!」
そんな声も、圧迫が口にまで及ぶと出せなくなった。
「ゆ゛ーっ、んーっ、んんんんーっ!」
ぷちゅ、とまりさの右目が飛び出した。
「ゆ゛ぴゃああああん、ま、まりじゃのおめめぎゃあああ!」
「こんな弱っちいのわざわざ殺すことないよ、死ぬ寸前まで痛めつけてほっとこうぜ」
「放置プレイってやつ?」
「ゆぎぎぎぎ、まりじゃは、ちゅよいんだじぇ! しょうりしゃなのじぇ!」
ぺち、と指で眼球を失ってただの穴になった右の眼窩を叩かれて、まりさは激痛に呻い
て歯を食いしばってそれに耐えた。
「そら!」
いつのまにか少年はまりさと同じぐらいのサイズの石を手に持っていた。それで思い切
り叩かれたのだからたまらない。まりさの前歯は一辺に折れ、或いは砕けた。
「ま、まりじゃのはぎゃああああ! い、いひゃいのじぇぇぇぇ!」
「あと命に別状なさそうなのは……」
「片目は残しておいてやるとして……」
「ああ、髪の毛」
ぶちぶちと、髪の毛が引き抜かれる。
「お、おぼうちかえずのじぇぇぇぇ! ゆっぐちできにゃいのじぇぇぇぇ!」
「ん? あー、そうか、こいつら帽子とか取られるの嫌がるんだ」
抜かれた髪の毛よりも、髪の毛を抜くために取り上げた帽子にまりさが異常な執着を見
せるのを見て、少年の一人が帽子を持った少年に、それを貸せと言った。
「お、なんか思いついた?」
「ああ……こいつを」
帽子を受け取った少年は、数歩歩いてしゃがむ。そこには親まりさの死体があった。
一度、そっとまりさの帽子を地面に置くと、親まりさの帽子を取り上げた。それを右手
に被せるようにする。そうすると、そこそこの大きさがある親まりさの帽子は、十分手袋
の代用品になった。
左手に拾った棒を持ち、それで親まりさの崩れた死体の一部を押さえて、手袋代わりの
帽子をはめた右手で、親まりさの死体を集めて、固めていった。
「おーし、復活」
むろん、皮は破れ餡子も流出し、生きていた頃のように元通りとは行かなかったが、そ
れでも親まりさはだいぶ復元されて生前に近い姿になった。
いったいなにをするつもりなのかわからない二人の少年は、黙ってそれを見守っていた。
「おい、そいつによーく見せとけ」
「ん、おう」
言われて、まりさを持っていた少年がその手を前に出す。
「ゆぴぃぃぃ、おどうじゃん……ゆ! おぼうち!」
凄まじい苦悶の表情で死んでいる親まりさの死体に恐怖しているまりさの目の前に、先
ほど奪われたお帽子が現れた。
「ほーれ、見とけよー」
帽子をひらひらと振った少年は、それを親まりさの死体の頭頂部に置いた。踏み抜かれ
たところをくっつけたところなので、そこの皮は破れて窪んでいる。
「ゆ゛っ、な、なにずるんだじぇぇぇ!」
親まりさの帽子をはめた右手で、それを押し込んだのを見て、まりさは絶叫する。
ずぶ、ずぶ、とまりさの大事なお帽子が、おとうさんまりさの死体の中に入っていく。
右手が抜かれた時、そこにお帽子は無かった。おとうさんまりさの死体の中に置いてき
たのだろう。
開いた頭頂の穴を塞ぐと、少年はにっと笑ってまりさに言った。
「ほれ、帽子欲しかったら、親の死体を掘ってみな」
「うわあー」
「マジ外道じゃん」
と、他の二人もその意図がわかってゲラゲラと笑い出す。
地面に下ろされたまりさは、ゆわゆわと震える。
「お、おぼうち、まりしゃの、おぼうち……」
ずーりずーりと這いずっていくのをもどかしく思った少年がまりさのまだ残っていた髪
の毛を掴んで持ち上げて、親まりさの死体の前まで連れていく。
「お、おぼうち……お、おどうじゃん、ご、ごめんなのじぇ、でも、おぼうちがにゃいと、
まりしゃ、ゆっぐちできにゃいのじぇ」
親の死体を損壊するのにさすがに気後れがするのか、まりさは少し躊躇いつつ、大事な
お帽子を取り返すために親まりさの死体に噛み付いた。
「ゆ゛? ……ゆぴゃあああん、は、はが無いのじぇぇぇ!」
そこで、前歯が全て喪失している自分には、噛み付くことで死体を削るようなことはで
きないのだと気付いて泣き喚く。
「おお、おれの前歯折りがここで活きた!」
まりさの前歯を折った少年が嬉しそうに叫ぶ。
「ゆ……ゆぅ、ぺーりょぺーりょ、ぺーりょぺーりょ!」
しょうがなく、まりさは親まりさの死体の傷口に舌を入れて舌で餡子をすくいだそうと
するが、遅々としてはかどらない。
「ゆひぃ、ゆひぃ、べろさんつかれたのじぇ……ゆひぃ、な、なんじぇなのじぇ、まりし
ゃはちゅよいのじぇ、にんげんさんに勝ったのじぇ、それがにゃんでこんな目にあうのじ
ぇぇぇ……」
「うーし、そろそろ行こうぜー」
「おう、そんじゃゆっくちがんばっちぇにぇ!」
「あはははは!」
少年たちは、去っていった。
まりさは舌を休めると、また必死に餡子を舐め取り始める。少年が放り投げた親まりさ
の帽子が間近に落ちたのにも気付かなかった。
「ま、まりじゃああああ! ゆぴゃああああん!」
繁みから、姉妹のれいむが飛び出してきた。
れいむは、両親に繁みの中で待っていろと言われてそうしていたところ、凄まじくゆっ
くりしていない悲鳴が聞こえたので、急いでやってきた。
そして、そこで繰り広げられる凄惨な両親の死と、姉妹に振るわれる暴力を、賢明にも、
繁みの中に隠れて震えながら見ていた。
そして、人間たちが去ったのを見て出てきたのだ。
「れ、れいみゅぅぅぅ、まりしゃの、まりしゃのおぼうじぎゃあああ!」
「ゆ、ゆぅぅ、れ、れいみゅもてつぢゃうよ……」
れいむは、まりさと違って歯がある。それを使って削り取るように親まりさの死体を掘
り進むことが可能だ。
「ゆっ、ゆっ、ごべんなじゃい、おどうじゃん、ごべんなじゃい」
「ゆっ、ゆっ、ぺーりょぺーりょ……にゃ、にゃんで、にゃんでちじょうさいきょーのま
りしゃがきょんな目にあうのじぇぇぇぇ……」
人間さんより強いから地上最強へ、ひどい目に合えば合うほど自分内ランキングがなぜ
か上がるまりさであった。
「おーおー、いい感じに刺さっとるなあ」
その時、声が聞こえてきた。
「ゆっ!?」
「ゆゆゆ、に、にんげんさん!」
一人の男が、何時の間にかやってきて、木の枝に刺さっている親れいむの死体を眺めて
いる。
「ついさっき死んだみたいだな」
指先でつんつん突付いている男に向かって、まりさは叫ぶ。
「やめるんだじぇぇぇ! おかあしゃんにきちゃない手でさわりゅにゃぁ!」
「んん? こいつの子供か」
と、まりさを見下ろしたその顔。
「ゆゆ!」
「ゆっ!」
あの人間だ。
とてもやさしくゆっくりしていた姉のまりさを殺して、その後、勝負に敗れて負けを認
めたあの人間だ。
「ゆふぅ……」
まりさは、拍子抜けした。この人間なら、もう自分たちよりも弱いことはわかっている
し、人間自身もそれを認めている。
「だれかと思っちゃら、この間のにんげんなのじぇ、おかあしゃんにさわるんじゃないの
じぇ、せいっしゃいするのじぇ!」
「あ? なんだその口の利き方は」
「そっちこそなんなのじぇぇぇ! まりしゃたちに負けたくせに、えらそーにするんじゃ
ないのじぇ!」
「負けた? ……あー」
と、男は、まりさとその後ろに隠れるようにしているれいむ、そして枝に刺さった親れ
いむと、地面の親まりさを見て頷いた。
「お前ら、こないだの奴らか」
「そうなんだじぇ! おまえに勝ったまりしゃしゃまなのじぇ!」
「……口悪くなったな、お前」
言いつつ、明らかに死んでいる親まりさと親れいむを見てニヤニヤと笑う。
男はあれから、やっぱりあいつら逃がしたりしないでぶっ殺してやりゃあよかったと一
晩後悔に後悔を重ね、翌日、その憂さ晴らしにゆっくり虐待をするために外に出た。
人間様が「全滅させてやろうとしたけど無理でした」と音を上げるだけあって、あれだ
けの大規模駆除があった後だというのに、野良ゆっくりはけっこう簡単に見つけることが
できた。
何匹かをその場で虐待して殺して、今は、その帰りなのだ。
久しぶりにやってみると、やはりゆっくり虐待は面白く、以前の飽きたと言っていた自
分に工夫が足りないこともわかった。まだまだやりようによっては色々と楽しめることが
わかった。そうなると、ゆっくり駆除作戦が成功して、虐待のために食用ゆっくりや捕食
種の生餌用のゆっくりを購入するようなことにならないでよかったと思った。
「くくく、そうか、一日もたなかったか」
自分で手をくだせなかったのに一抹の悔しさはあるものの、人間に勝ったと浮かれてい
た親まりさとれいむが、おそらくはそれによって人間を恐れなくなり、そのために殺され
たのだと思うと、いささか溜飲が下がった。
死体の状態を見ても、あっさり殺されたのではなく、執拗に打撃を加えられたようだし、
まったくもって気分がいいというものだ。
さらに気分がいいのは、自分で手をくだせる獲物が二匹も残っているということだ。
「で、お前らよく助かったな。こいつら人間にやられたんだろ?」
「ゆ……しょれは……」
まりさはなにがあったかを話す。人間さん――男よりも小さかったというから子供であ
ろう――がやってきておとうさんとおかあさんを殺してしまったこと、さらにまりさをい
じめて、お帽子を奪っておとうさんの中に埋め込んでからどこかに行ってしまったことな
ど。
「へえー、そんな手があったか」
親の死体に大事なお飾りを埋め込んで、子供に親の死体を損壊させることを強いるとは、
なかなか将来有望な子供たちだ。
「はやく、まりしゃのおぼうちを出すんだじぇ!」
「は? ……え? 俺が?」
何を言ってるのかよくわからずに男は尋ねる。
「あたりまえなのじぇ! まりしゃに負けたにんげんは、まりしゃの言うこときくんだじ
ぇ! しょんなこともわからにゃいのじぇ!? まりしゃはしょうりしゃなのじぇ!」
「はいはい、ゆっくりゆっくり」
男は頷いた。こいつの中では自分は敗者であり、勝利者であるまりさに従わないといけ
ないらしい。
「うーん、でもさあ、お前ら、俺より小さい人間にやられちゃったんだろー」
思い切り、蔑むように言ってやる。
「ゆっ! なにいっちぇるのじぇ! まりしゃはお前には勝ったのじぇ!」
「いやいやいや、あん時は親がいたじゃん」
「まりしゃのほうがつよいのじぇ! まりしゃはしょうりしゃなのじぇ!」
「よし、じゃもう一度勝負!」
「ゆ?」
「だから、もう一度勝負だよ。まりしゃはつよいんだろ?」
「ゆっ! そうなんだじぇ! なんかいやってもまりしゃの勝ちなのじぇ!」
「……ホント、手軽に幸せになれる生き物だよな、お前ら。絶対なりたくないけど」
「うるさいのじぇぇぇ! まりしゃのたいあたりをくらうのじぇぇぇ! ぎゃくちゃいし
てやるのじぇぇぇ!」
「そいや」
ぱん、と上から掌で叩いてやると、まりさはその一撃で餡子を吐いて泣き出した。
「弱えなあ、お前」
「しょ、しょんなはずないの、じぇ……まりしゃは、つよいの、じぇ……しょうりしゃ、
なのじぇ、さいきょー、なのじぇ……」
「ま、まりしゃぁ、ゆっくちちてえ」
まりさがやられたのを見たれいむが、ぽよぽよと跳ねて近付こうとする。おそらくはぺ
ーろぺーろしてあげようとしているのだろう。
ぱん、と男の掌が今度はれいむを叩いた。
「ゆびっ! ……い、いぢゃぁぁぁい! ゆひぃぃぃぃ」
「ゆ゛っ! れ、れいみゅにひどいことすりゅにゃああああ! せいっしゃいするのじぇ
ぇぇ!」
「うん、やれば」
男は、まりさの方を見もしないで、れいむを摘んで持ち上げた。
「よし、まりさとおそろいにしてやろうな」
にやりと笑うと、先ほど少年がまりさにしたように、右目の部分だけをさらして他の部
分を握って指で締め付ける。
「ゆ、ぎゅ……お、おめめぎゃ……やめちぇ……むぐ」
「や、やべるのじぇぇぇ!」
ぷちゅ、とれいむの右目もまた、まりさのそれと同じく、体から離れて宙に浮き上がっ
た。
「れ、れいびゅのおべべぎゃああああ! まりじゃ、たぢゅげぢぇ!」
「やべるんだじぇ! せいっしゃいするのじぇ!」
「うん、だから、やりたきゃやれば? おれはれいむをお前とおそろいにしてるからさ」
「ゆひ!」
男の言った「おそろい」という言葉に、れいむは反応した。
「や、やべちぇ! れいみゅのはをとらにゃいでぇぇぇ!」
「は? ……は、って、歯か?」
それは、全く気付いていなかった男に、そのことを教えてやったようなものだった。
「お、ちょっと口開けろ、おら」
男は、空いている方の手でまりさを摘み上げると、指を口の中に突っ込んで無理矢理開
かせて、その前歯が悉く無いのを見た。
「そうか、さっきの子供にやられたんだな」
「まりしゃのおぼうちを、おとうしゃんからだしゅのに、れいみゅのはがにゃいとこまり
ゅんだよ! だからやめぢぇ!」
なるほど、確かに前歯が無くては親まりさの死体を掘るのに苦労するだろう。
「そうか、わかった」
男は、石を拾い上げ、わかってくれたのだと希望に満ちた顔をしたれいむの口に、思い
切り叩き付けた。
「ゆびぃぃぃ、ゆ゛ああああ、はぎゃあああ、れいみゅの、はぎゃあああ!」
「よーし、これでおそろいだな」
「ゆっぎい! せいっしゃいするのじぇ! まりしゃをほんちょうに怒らせたのじぇ!」
「うん、だからやりたきゃやれって」
「ゆぐ、ゆぐ、れ、れいみゅ、まってるんだじぇ……れいみゅのことは、まりしゃが、ま
もるの、じぇ……」
「はやくしないと死んじゃうぞ、こいつ」
ずーりずーりと這いずるまりさに見せ付けるように、男はれいむを踏みつけて徐々に徐
々に体重をかけていった。
「まりじゃぁ、たぢゅ、げ……ぢぇ……」
「いま、いぐよ……れいみゅは、まりしゃが、まも、るの、じぇ……」
「おう、がんばれー……待ってるからな」
「まりしゃ、は……つよいのじぇ……よわいにんげんはまりしゃに、ひれ伏すのじぇ……
まりしゃは、さいきょー、なのじぇ……」
「ちゅ、ちゅぶれりゅぅぅぅ、じにぢゃぐにゃい、れいみゅ、じにぢゃぐにゃいよぉ……
まりじゃ、はやぐ、はやぐ、だぢゅげぢぇ」
「ゆっ、ゆっ、まりしゃが、きたのじぇ、もう、だいじょーぶ、なのじぇ」
目の前に、まりさの姿を見出して、れいむはとてもゆっくりした笑顔になった。痛い苦
しい、でもまりさが来てくれた。もう大丈夫だ。
「ゆっぐちちで、ゆ゛っ!」
そこで、れいむの笑顔が爆ぜた。
餡子が、まりさの顔に降り注ぎ、れいむを安心させてやるために浮かべた笑顔を染める。
「れ、れい、びゅ?」
理解できない。
でも、れいむがそこにいる。あのおリボンは見間違えるはずがない。
「れ、れいびゅぅぅぅぅ! な、なんでなのじぇぇぇ! まりしゃは、まりしゃはつよい
のに、さいきょーなのに!」
「この期に及んでそう思い込んでるのは本気で凄いと思うよ、うん」
「ゲ、ゲ、ゲスにんげんはせいっじゃいするのじぇぇぇぇ!」
「どうやって?」
「ゆ゛っ……ゆひぃぃぃ、どぼじで、どぼじでさいきょーのまりしゃが……ゆ゛ひぃ」
「さぁてと、そろそろ行くかな」
「ま、まづのじぇ! ま、まりじゃの、まりじゃのおぼうちぃぃぃ!」
「いや、お前が親の死体食って掘り起こせよそんなもん」
「まりじゃは、まりじゃはつよいのじぇ! だからいうこときくのじぇ! おばえは、お
ばえはまりじゃに負けたんだじぇ!」
「またそれか、もう聞き飽きたから、それ」
「ばかでよわいにんげんは、さいきょーでしょうりしゃのまりじゃにひれ伏すのじぇ!
めーれーをきくのじぇ! ひれ伏すのじぇ! ひれ伏すのじぇ! ひ、ひ、ひれ伏じでぐ
だじゃぃぃぃ、まりじゃの、まりじゃのおぼうぢがえぢでえええ!」
「いや、ひれ伏してくださいって言われてひれ伏す奴はいねえだろ」
と、言いつつ、男は何気なく視界に入った木の枝に刺さった親れいむを見て閃いた。
「よし、ひれ伏しはしないけど、帽子を取り出してやるよ」
「ゆっ!? ほ、ほんちょなのじぇ?」
まりさは、いきなりすんなりと願いを聞いてくれると言った男にきょとんとしながらも、
目を輝かせた。
「ああ……そうか、手を汚さないために、親まりさの帽子を手袋代わりにしたのか」
餡子まみれの大きなまりさの帽子を見つけて、男は頷く。
男はさっきの少年のように、それを右手にはめてから親まりさの死体に手を突き入れ引
っ掻き回して、やがて、小さな帽子を発見して取り出した。
「ゆっ! ま、まりじゃのおぼうぢ! か、かえすのじぇ! まりじゃのめーれーをきい
たから、ゆるじでやるのじぇ!」
男は、帽子を持ったまま立ち上がった。
「ゆ? おぼうぢ! おぼうぢかえずのじぇ!」
「よっ、と」
男は、右手を、枝に刺さっている親れいむに突き入れた。そこには、まりさの帽子が握
られている。
「……ゆ? ……ゆゆ? ……ゆわああああ! や、やべるのじぇぇぇぇぇぇ!」
いったい何をするのか悟ってしまったまりさが声を限りに絶叫する。
そう、男は、まりさの帽子を今度は親れいむの死体の中に埋め込んでしまったのだ。
「はい、ここに入ってるから、自分で取ってね。さいきょーなんだから簡単でしょ」
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛……」
地面の親まりさの中ならば、時間をかければなんとかなっただろう。しかし、高いとこ
ろにある親れいむの死体には全く触れる術が無い。
「そんじゃな」
「……ま、まづのじぇ! まづのじぇ! まりしゃの、まりしゃのおぼうぢがえずのじぇ
ぇぇ!」
男は、まりさの声を無視して去っていった。
「……むーちゃむーちゃ、ごべんなのじぇ……」
数日後、まりさはまだあの場所にいた。
食事は、親まりさの死体を少しずつ食べていた。
そして、一日の大半を、潤んだ目で、親れいむの死体を見上げている。
なんの変化も無い、なんらなすことのない日々。それでも、大事な帽子がそこにある以
上、そこを離れるわけにはいかない。
そして、その日、変化が起きた。
「ゆ!?」
少し、親れいむの死体が動いたのだ。
「ゆゆゆ!?」
時間が経ち、さすがに重みによって死体が裂けていっているのだ。
まりさは、じーっと見ている。
その間に、少しずつ、少しずつ、親れいむの死体が近付いてくる。
「お、おぼうち! おぼうち! まりしゃの、おぼうち!」
まりさは、親れいむの死体を見上げながら叫んだ。
そして、遂に、親れいむの死体がぐらりと大きく動く。
落ちてくる!
そう思ったまりさは、大事なお帽子を逃がすまいと真下に移動して受け止めようとする。
「おぼうち! まりしゃのおぼうち! これで、これでまたゆっくちできりゅよ! みん
にゃのぶんまでゆっくちすりゅよ! だっちぇ……だっちぇまりしゃはつよいんだじぇ!
さいきょーなんだじぇ!」
来る。
もうすぐにでも、お帽子が帰ってくる。
「ばかでよわくてゲスなにんげんは、まりしゃにひれ伏すんだじぇぇぇぇぇ!」
それがまりさの最期の言葉だった。
落ちてきた親れいむの死体に潰されて、死んだ。
終わり
ようわからん話になったがぜよ(二回目)
それにしてもだじぇまりしゃはかわいいのじぇ、このゴミが。
名前だけども、あれこれ考えたってしょうがねえから、前作のコメント欄にあった
のるまあき、って名乗ろうと思うんだぜ。
つむりあき(仮)改め、のるまあき、なんだぜ。なんかゆっくりできない名前じゃ
のう。