85話 ゴーストノート
狐獣人の青年、高原正封。
青髪のマントを羽織った青年、クリス・ミスティーズ。
黒い毛皮を持った人狼、レオン・ミスティーズ。
三人はコンパスの示す方角を頼りに森の中の道なき道を進む。
しかし、胸部に浅からぬ傷を負っている正封と足を負傷しているクリスにとって、
かなり過酷な道のりだった。
ふと、クリスが時計を取り出し時刻を確認する。
時刻は14時2分、二時間程前まで自分達がいた男娼館のある
エリアC-7が禁止エリアになる時刻から2分過ぎている。
自分達の首輪が何の反応も示さない事から禁止エリアはとうに抜けたようだ。
「大丈夫か正封」
レオンが胸元をさする正封を気遣う。
「だ、大丈夫です……」
口ではそう言っていたが、一度身体を刀の刃が貫いており、穴が空いているのである。
それを包帯で巻いただけなのでまだ穴は空いたまま。
無理をすれば痛み、最悪、再び大量出血の危険もあった。
「……一旦、休むか。周囲に人の気配はない」
レオンの提案により一時休息を取る事にした。
木の根元に、それぞれが座り一息つく。
第二回目の放送で発表された禁止エリアは、13時より、エリアH-3。
14時より、エリアC-7。15時より、エリアG-8。
そして新たに死亡者として呼ばれた名前は18人。
第一回目の放送時より、4人も増えている。
「仲販遥」の名前が呼ばれた時は、正封は改めて遥が死んでしまった事を実感した。
他にも死亡を確認していた「トマック」、「銀鏖院水晶」の名前も呼ばれ、
これで遥と、そのクラスメイトは全滅してしまった事になる。
「ゴメス」の名前を聞いた時、レオンとクリスはとても辛い表情を浮かべた。
僅かな時間とは言え行動を共にした仲間だった。
その仲間である「アレックス」の名前は呼ばれなかった。と言う事は、
まだ放送の時点では生存しているという事になる。
もしこの先会う事があれば、ゴメスの事を伝える必要がありそうだ。
残りは自分達三人を除くと、僅か12人。いや、今現在は更に減っている可能性が高い。
自分の妹が、姪が起こしたこの馬鹿げたゲームでもう三十余人が命を落としたのだ。
ゴメスを始めとして、無関係な人々が次々と命を落としていく中、
主催者の血縁である自分達はまだ生き延びている。
この現実はクリスとレオンの罪悪感を更に増大させた。
正封は二人が主催者の血縁だという事は本人達から既に聞かされていた。
なので二人の気持ちは何となく理解できたが、掛けてやれる言葉も見付からない。
ふと正封は上を見上げる。木の葉の隙間から僅かに青空や陽の光が差し込む。
小鳥の囀る声も聞こえ、殺し合いという状況でなければそれなりに
和やかな風景に見えただろう。
「……」
――前にもどこかで見た事がある。
だが、どこだっただろうか、小、中、高の学生時代に遠足或いは修学旅行で、
このような感じの森など来た事はないが。
(……そうだ、あの夢……)
男娼館で意識を失っている間に見たあの夢の中の風景と、
今自分が見ている風景が重なっているのだと、正封は思う。
「……っ」
急に頭が痛み出し、正封は狐獣人種特有の先端の毛皮の色が濃い手で
自分の額を押さえた。
そして、脳裏に謎の光景が次々と映し出される。
「どうやら、市街地に到着したみたいね……誰もいない。当然か……」
「そりゃあ……こんなゲームを行うぐらいですから、きっと全員避難したんでしょう……ゼエ……」
「あの家で、ひとまず休みましょうか」
「へ? ……あ、はい!」
「しばらくここで休みましょう……散々走って歩いて、疲れたよね」
「そりゃあもう……こんな動いたの高校ん時の体育祭以来ですよ……もう足が痛くて痛くて……」
「無理無いわ……私、ちょっとこの家の中を見て回るわ。何か武器になる物があるかもしれないし。
高原君は休んでていいよ」
「分かりました……お言葉に……甘えまくります……」
「暗くなってきましたね。当たり前か、もう夕方の5時過ぎてるもんなぁ」
「そうね……今、何人生き残ってるのかしら」
「朱雀さん!? 一体どうし――!?」
「ざまあ……みやがれ……」
「正封? 大丈夫か? おい、正封!」
「はっ……」
急に頭を抱え俯き出した正封を心配しレオンとクリスが声を掛けていた。
呼び掛けに正封は我を取り戻す。
「あ、いや、何でもないです、大丈夫です」
「本当か? ……何かあったら言え。無理するなよ」
「お前にまで死なれては大変だからな」
「ありがとうございます。でも、本当、大丈夫なんで……」
取り敢えずは特に正封に異常は見られない事を確認すると、
やや心配しつつもクリスとレオンは元の自分が座っていた位置に戻った。
正封は急に脳裏に浮かんだ光景、「朱雀麗雅」なる人物との会話について考える。
風景は森の中、市街地、どこかの民家の中、そして、銃声が聞こえ、
入っていたトイレから出て向かった時――自分は侵入者の男にマシンガンと思しき銃で撃たれ、
その後、その男の喉に千枚通しを刺し――――。
(おいおい、これ、マジで? 俺――もしかして)
正封の中でぼんやりとした予想だったものが徐々に確信へと変わっていく。
(俺――前にも殺し合いを?? それで、一回、死んでる……?)
「さて、そろそろ行くか」
「はい、伯父上……大丈夫か正封」
「行けますよ……ふぅ」
休憩を終え、三人は再び歩き出す。
当座の目的地はエリアD-6に存在するという処刑場。
一度そこに向かいそこから南下し、南部の市街地を目指す。
それが三人の目的であった。
そして、三人は周囲がかなり古ぼけたレンガ造りの壁に囲まれた広場を発見した。
「うわ……何だこれ」
正封が広場の至る所に設置された「器具」を見てたじろいだ。
ギロチン、磔台、絞首刑台、抽腸台、火刑台、鳥籠と呼ばれる刑具……。
どれもがよく使い込まれ、黒い染みが浮き出ていた。
この広場が地図にあった「処刑場」だという事は三人共すぐに察する事ができた。
既に新鮮な死体や血を何度も見てきた正封だったが、処刑器具の黒い染みや
使い込まれた様子はそれとは全く別の意味で、恐ろしく、生理的に嫌だった。
ともあれ、当座の目的地には到着する事ができた。後はここから南下する訳なのだが。
「こ、これは……!」
「どうしたクリス……!」
「わぁ……」
三人は、首と胴体が離れ離れになった死体を発見した。
ピンク色の服を着た、10代前半ぐらいの少女。
死んでからかなり経過しており、皮膚には死斑が浮き出、腐臭を発し、
それにつられやってきた複数の蝿が耳障りな音を発しながらたかっていた。
この名も知らぬ少女も自分の妹、姪が起こしたこのゲームが元で死んだのだと思うと、
クリスとレオンは何とも居た堪れなく、苦しかった。
埋葬する道具も持ち合わせていないため、少女の死体に向け、
正封は両手を合わせ、クリスとレオンは祈りを捧げた。
その後、三人はコンパスと地図で方角を確認し、市街地に向け南下し始めた。
再び殺し合いの無惨な犠牲者を目にしたクリスとレオンは、
一刻も早く、この馬鹿げた殺し合いを止めなければ、と、
より一層決意を新たにした。
【一日目昼間/D-6処刑場】
【高原正封@俺オリロワリピーター組】
[状態]:精神的疲労(大)、背中から右胸下辺りにかけ刺し傷(処置済)
[装備]:ニューナンブM60(5/5)
[持物]:基本支給品一式、38sp弾(20)、FNブローニングM1910(3/6)、
FNブローニングM1910のリロードマガジン(6×5)、手榴弾(3)、工具セット、
水と食糧(3人分)
[思考]:
0:殺し合いはしたくない。とにかく生き残る。
1:クリス、レオンと行動。南部市街地へ向かう。
2:襲われたら……。
3:俺は前にも殺し合いを……?
※俺オリロワ開始前からの参戦、ではないかもしれません。
※「朱雀麗雅」という名前が気になっています。
※胸元に重傷を負っているため、無理な行動は危険です。
※クリス、レオンの二人が主催者の血縁である事を知りました。
※自分が前にも殺し合いに参加させられていた、と確信し始めました。
【クリス・ミスティーズ@ムーンライトラビリンス改造版】
[状態]:全身にダメージ(中)、右足裂傷(応急処置済)
[装備]:サーベル
[持物]:基本支給品一式、太刀、コルト ディテクティヴスペシャル(6/6)、
.38sp弾(30)、双眼鏡、水と食糧(3人分)
[思考]:
0:リリアを止める。そのためにもこの殺し合いを潰す。
1:レオン、高原正封と行動する。南部市街地へ向かう。
2:首輪を外す手段を探す。
3:仲間を集める。同時進行でゴメスの知り合いも捜す。
4:襲われたら対処。
※参戦時期は本編終了後です。
※足を怪我していますが何とか歩行は可能です。
【レオン・ミスティーズ@ムーンライトラビリンス改造版】
[状態]:全身にダメージ(中)
[装備]:シグザウアーSP2340(12/12)
[持物]:基本支給品一式、シグザウアーSP2340のリロードマガジン(12×5)、
アーマライトAR18(0/30)、アーマライトAR18のリロードマガジン(30×10)、
スタームルガー ブラックホーク(6/6)、.357マグナム弾(24)、H&K HK69(1/1)、
40mm榴弾(3)、手斧、水と食糧(3人分)
[思考]:
0:殺し合いを止め、リリアと会う。
1:クリス、高原正封と行動する。南部市街地へ向かう。
2:仲間を集める。同時進行でゴメスの知り合いも捜す。
3:首輪を外す手段を探す。
4:襲われたらそれなりに対処はする。
※参戦時期は本編終了後です。
※拳銃の使い方を一通り覚えました。
最終更新:2010年06月13日 01:51