余命××秒

84話 余命××秒

放送を聞いた後、戸高綾瀬は困った表情を浮かべていた。
自分がいるエリアG-8が今から約3時間後の午後3時、つまり15時に、
禁止エリアになると放送で言われたのだ。
長い間拠点にしてきたこの民家を去らなくてはならない。
まだ時間はあるが、タイムリミットがある事を考えると落ち着かない。

「さっさと移動した方がいいわね……」

綾瀬は分解した首輪と工具箱を自分のデイパックの中に押し込み、
ボウイナイフをスカートに差し込んで今まで隠れていた部屋を後にした。


玄関から外に出た綾瀬は周囲を警戒しながら、取り敢えずは
一番近場の島役場に行ってみようと、誰もいない路上を歩く。
先の放送によれば現在の生存者は自分を含め15人。
かなり数が減っているのでこれから先は他参加者との遭遇率も低くなるだろう。
病院ですれ違ったあの銀髪の少女はどうなったのだろうかと、少し気にもなる。

しかしそれ以上に綾瀬が危惧していたのは自分を除き残り14人となった
参加者の中に一体どれだけ、殺し合いを拒んでいる者がいるのか。

首輪を解析し、解除方法の大方の予測がついたものの、
手順が複雑で精密操作が要求される故自分で自分の首輪を解除する事は、
事実上無理と判断した。そのため協力者を捜す必要が出てきたのだが。

次に会う人間が、果たして殺し合いに乗っているのか否か、
その見極めが肝心であった。さもなければ即、死に繋がる。

「あれ、ここどこだろ」

考え事をしながら歩いていた綾瀬はいつの間にか、どことも知れぬ
通りを歩いていた。周囲には目印になるような目立った建物が見当たらない。

「どうしよ、迷っちゃった?」

ただでさえ土地勘のない街、しかも殺し合いの中で道に迷うのは非常に
危険だという事は今までずっと民家に隠れ首輪解析の他、
性的な遊びしかやってこなかった綾瀬にも分かっていた。
少し焦った様子でデイパックから地図を取り出そうとした。

「おい」
「……え?」

突然背後から声を掛けられ綾瀬は後ろを振り向く。

そして一薙ぎの風。

綾瀬の視界が真っ赤に染まった。

「……な……に……?」

自分の身に何が起きたのか、理解の瞬間が訪れるよりも、
綾瀬の意識が闇に呑まれる方が早かった。



たった今斬り殺した女性の衣服で直刀の血を拭い取り、ムシャは立ち上がった。

先の放送の死者発表の際、「死神五世」の名前が呼ばれた時は
再び悔恨と罪悪の念に駆られた。
更に勇者アレックスの仲間の「ゴメス」、魔王城の中ボスモンスター「デスシープ」の
名前も呼ばれた。

これで、魔王軍勢は自分のみ。知り合いでも生き残っているのはアレックスただ一人となった。

森の中で対峙した「高野雅行」も、死んでしまったらしい。
放送で先述の三人と一緒に名前が呼ばれた。
その前に高野に襲われていたあの青い飛竜はどうなったかは知らない。
まだ生きているかもしれないし、死んでいるかもしれなかったがどうでも良かった。



とんだお笑い草だ。
魔王軍の仲間を生き残らせるために殺し合いに乗ったと言うのに、
自分のミスでその仲間を死なせた挙句、他の仲間も全員死に、
しかし自分は今もこうして生きている上、また一人見知らぬ女性を手に掛けた。
最早自分はただの殺人鬼に成り下がってしまったのだ。



この殺し合いに優勝し、主催者のリリアを殺す。その後は――分からない。
――いつからこんな自己満足もいい所の行動指針に変わったのだろう。

ムシャは自分で自分に嫌気が差していた。

しかし、もう今更引き返す事などできるはずもなく。

新たな獲物を捜し、鎧武者は歩き始めた。



【戸高綾瀬@オリキャラ  死亡確認】
【残り11人】



【一日目昼間/F-7市街地:路上】

【ムシャ@VIPRPG】
[状態]:身体中にダメージ(小)、決意
[装備]:直刀
[持物]:基本支給品一式(食糧一食分消費)
[思考]:
0:優勝し、リリア・ミスティーズを殺す。それのみ。
1:どこへ行くか……。



※F-7市街地路上に戸高綾瀬の死体、ボウイナイフ、
デイパック(基本支給品一式(食糧一食分消費)、メリエの首輪(分解済)、
工具箱(調達品)入り)が放置されています。






導きの先にあるもの 時系列順 ゴーストノート
導きの先にあるもの 投下順 ゴーストノート

線路は続くがどこに続くかは分からない 戸高綾瀬 死亡
仮初めの光求め呑んで候 ムシャ

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最終更新:2010年06月12日 18:48
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