導きの先にあるもの

83話 導きの先にあるもの


放送終了後、ドーラは神妙な面持ちで名簿を眺めていた。
新たに18人の名前が消された参加者名簿。
その中には、自分の上司の元愛人のウルフリングの女、シェリーの名前もあった。
別に悲しいという訳ではなかったが、上司――アインはどう思うのだろうと、少し気になった。
また、ガーゴイルやアレックスの知り合いの名前も呼ばれていた。

「ゴメス、五世まで……」

仲間として行動していたジンと石川昭武の二人。
しばしば自分や大勢の人の尻を掘り大惨事を巻き起こしたが、
豪放かつ実直で人望は厚かった髭面の海賊ゴメス。
魔王軍四天王の一人で、死神である死神五世。
新たな死者の中にその名前を呼ばれ、アレックスは再び悲しみに暮れる。
これで現在まで生き残っている知り合いは五世と同じ魔王軍四天王の一人、ムシャのみ。
数時間前に会った時、錯乱状態に見えたが、今、どこで何をしているのだろうか。
できる事なら会って何があったか聞きたいが、難しいだろう。
保護したのに逃げてしまった眼鏡少年――名前を聞くのを忘れたが、
先程呼ばれた18人の中に、あの少年の名前はあったのだろうか。

「アキラも死んだか……」

もう一人のデビルチルドレンの死を放送で知ったガーゴイル。
これでこの殺し合いに呼ばれた自分の知っている人物は全員死んだ事になる。

遼平は新たに死亡したのが18人と、前回よりも多くなっている事に愕然としていた。
残りは自分達を入れて僅か15人。47人もいた参加者が、
たった半日で32人も死亡した、という事になる。
恐ろしい、狂おしいばかりの異常状況。
改めて自分が今こうして、しかもほぼ無傷で生きているのが奇跡に近いという事を、
遼平は自覚した。いや、せざるを得なかった。

二階で首輪の解析、及びアレックスの支給品であるUSBメモリの中の首輪設計図の
真偽の確認作業を行っていた狼獣人ピタゴラスと女戦士エルザは、
死亡者の人数が多くなっている事には多少のショックは受けていたが、
余り気にはしていなかった。

むしろ、気になっていたのは、死亡者発表の前の、禁止エリアの発表。

エリアH-3が午後13時から禁止エリア。
自分達が今いるこの豪邸のあるエリアが、後1時間後に禁止エリアとなると言うのだ。



ドーラは豪邸一階居間に全員を集めた。

この豪邸のあるエリアH-3が禁止エリアに指定された。
一時間後の午後13時までに避難しなければ首輪が爆発し、死ぬ。
個人差はあれど、長い間拠点として留まってきた豪邸を離れなければ
ならない事に、皆不安を抱いていた。

「それで、どこへ行くかなんだけどね……」

ドーラがテーブルの上に地図を広げる。
そして次の拠点となりそうな場所を全員で話し合い絞り込んでいく。
その結果、エリアF-6の島役場に決定した。
隣のエリアF-5にある小中学校も候補になっていたのだが、
どちらも決定打に欠けたため、最初にアレックスが「島役場でいい」といった旨の発言を
したため、他のエルザ、ガーゴイル、ピタゴラス、久保遼平も
吊られるように、島役場を選んだ、それだけの事だったのだが。
もっともドーラ自身も正直な所どちらでも良いと思っていたので特に異議も唱えなかった。

「それじゃあ次の行き先は……島役場……で」

そう言いながらドーラはメモ帳を取り出し何かを書いていく。
そしてそれを首輪解析を任せているピタゴラスとエルザの二人に見せた。

〔で? あの設計図はどうなんだい? 本物なのかい?〕

アレックスの支給品USBメモリのデータに入っていた、
バトルロワイアルの参加者全員の首にはめられた特殊金属製の首輪の設計図。

この殺し合いを根底から覆しかねないものがなぜ支給品に?
ドーラ達は驚き、疑問を抱かずにはいられなかった。
そのため、設計図が本物かどうか、ピタゴラスとエルザに確かめさせていた。

〔……俺達が分解した首輪の中身と、設計図を照らし合わせてみた結果……。
どうやら、設計図は本物らしい〕

そして今、首輪解析者が、USBメモリの中の首輪設計図は本物だと断言した。

〔内部の配線、接続部、起爆装置、爆薬の量に種類、材質―――全て一致してる。
間違いない〕
〔そうかい……〕

首輪の設計図が本物であるという事に、
いよいよ首輪解除への道筋がはっきりと見えてきたドーラ達は嬉々とする。

「……今は余り時間もない。詳しい話は後にしよう」

ピタゴラスが筆談を一方的に切り上げた。
今、自分達がいるエリアが禁止エリアになるまで残り51分。
エリアの広さや、何が起こるか分からない事を考慮するとタイムリミットは
短いとも言える。早々に移動する必要があった。

「さて、それじゃ全員、荷物を纏めな。忘れ物しても戻れないからね」

ドーラの号令に、アレックス達が自分の荷物を纏め始めた。
放送直前に全員食事は取ったので、後は所持品の整理のみである。

「アレックス、あんたにこれやっとくよ」
「これは、防弾チョッキか……ありがとう」

ドーラはアレックスに自分の支給品の一つである防弾チョッキを渡した。
アレックスは衣服を脱ぎそれを着込む。
やや重量感があるが、拳銃弾程度なら防ぐ事ができる代物だ。

「ガーゴイルさん、何ですかそれ」
「ん……いや、面白い本なのでな、折角だから持っていこうと」
「……いや、それ……」

遼平が、ガーゴイルが自分のデイパックに入れようとしている
小説本達を見て呆れた表情を浮かべる。
ガーゴイルが選んだ本のタイトルは以下の通り。

「14歳の女の子と愛犬、イケナイ交わり」
「どっぐらいふ~公園で野良犬と~」
「牡馬に魅せられた青年」
「双竜相打つ~淫らな肉の宴~」
「異種交愛・ワーウルフと富豪令嬢」
「ガーゴイルは少女に恋をする」

他3冊。

それらの小説本をガーゴイルは自分のデイパックに入れた。

(面白いって……そっちの意味? それとも純粋な気持ち? 分かんね……。
この人、いや人じゃないけど、普通の人間と感性が違い過ぎるな……)

心の中で遼平はある意味、感心していた。

ピタゴラスとエルザは、分解した首輪を台所で見付けた紙袋に入れ、
また、ノートパソコンとUSBメモリを適当に取ってきた衣服に包む。
もう少し入念に解析すれば、解除に手が届く所まで来ていた。
だが油断は禁物である。首輪分解、調査の事と、首輪の設計図の事が
盗聴されないよう、重要な会話は可能な限り筆談で済ませてきたが、
どこかから情報が主催者側に漏れている可能性もある。

この首輪設計図入りのUSBメモリを用意した、恐らく主催者側の何者か。
こんな物を用意するという事はこの殺し合いを潰そうと考えていると見て間違いない。
だが、その事がもし露見する所となればその「謎の外部協力者」はただでは済むまい。
最悪の場合、生存者全員が首輪を爆破され処刑、という事態も起こりうる。
そうならないように、祈るしかなかった。

ピタゴラスがノートパソコンとUSBメモリを、エルザが分解した首輪を持った。

荷物を纏め終わったメンバーが再び居間に集結する。
禁止エリア発生の時間は刻々と迫っていた。
早くエリアH-3から出る必要があったが、ドーラがここである問題を提起した。

「この人数で行動すると目立ち易いよ。袋にされたら全滅の恐れもある」
「……と言うと?」

エルザがドーラに訊く。

「……二手に分かれて、役場を目指そう」
「ええええ!? ちょ、マジですかドーラさん!?」

ドーラの提案に遼平があからさまに非難の色を帯びた声を上げた。

「……いや、遼平。ドーラの言う事はもっともだ」
「で、でもピタゴラスさん……」
「俺達は全員で6人もいるんだ。固まって動いていたら、やる気になってる奴の
格好の的になる恐れがあるだろう。もし、そいつがマシンガンやショットガンなんかを
持っていたら――最悪、全滅だ」
「う……」

理路整然としたピタゴラスの説得に、遼平も引き下がらざるを得なかった。
確かに6人全員で行動していれば目立ちやすく、襲撃を受ければ、
全員殺害される危険もある。そのためドーラは二手に分かれ別々のルートで、
目的地の島役場を目指そうと提案したのだ。
それは遼平も分かってはいたが、今まで共に行動してきた仲間と、
一時的とは言え別行動を取るのはとても不安だった。
ましてや殺し合いの中、今生の別れになる事も十分に考えられる。
それ故最初は遼平は抵抗したが、結局、ピタゴラスにより鎮静化される形となった。

話し合った結果、空を飛べるガーゴイルの背に、ピタゴラスと久保遼平が乗り、
一旦鉄塔方向へ向かった後、島役場を目指すルートと、
ドーラ・システィール、アレックス、エルザ・ウェイバーが陸路で直接島役場を目指すルートが
発案される事となった。

「さて、そろそろ出ないとマズいねぇ」
「……出発しよう」

禁止エリア出現まで、残り40分を切った。そろそろ出なければ危険だった。
6人はそれぞれの荷物を持ち、一旦、豪邸の外に出た。



豪邸の外、正面門前で、ガーゴイルが背中にピタゴラスと遼平を乗せる。

「う……重いな」
「大丈夫か? ガーゴイル」
「ああ、何とか……ギリギリだな」
「うわ……マジで空を飛ぶんですかガーゴイルさん」
「当然だ。この翼は飾りじゃない。しかしだ……どうせなら、美女を背に乗せたいものだ」
「……ガーゴイルさん、その気持ちは分かります」
「分かるのか遼平」

背中に乗せた二人と馬鹿な会話をするガーゴイル。

「それじゃ……アタイ達は陸から。アンタ達は空から」

そして、必ず島役場で合流しようと互いに約束する。
この殺し合いの中、生き残るために、脱出の手段を模索するために、
ドーラ、アレックス、ガーゴイル、エルザ、ピタゴラス、久保遼平の6人は共に行動してきた。
これが今生の別れにならない事を、全員が祈っていた。

「それでは……行くぞ!」

ガーゴイルが大きく翼を広げ、思い切り羽ばたかせる。
巨体が宙に浮かび、瞬く間に空高く青い魔獣は飛び上がった。

「う、うおおおお! スゲーーーーー!!」

初めて空を飛ぶ遼平は思わず子供のようにはしゃいでいたが、
すぐにピタゴラスとガーゴイルにダブルで叱責されおとなしくなった。
そして、狼獣人と青年を背に乗せたガーゴイルは、森の中にそびえる鉄塔を
目指し、飛んで行った。

ドーラ、アレックス、エルザの三人はそれを最後まで見送る事はせず、
足早に東の方向、南部市街地へ続く幹線道路の上を歩き始めた。


また、必ず会おう。

そう固く約束した。

そう強く信じた。



【一日目昼間/G-3、G-4境界線付近の幹線道路】

【アレックス@VIPRPG】
[状態]:全身にダメージ(軽度)、右腕上腕に裂傷(処置済)、悲しみ
[装備]:サバイバルナイフ、防弾チョッキ
[持物]:基本支給品一式(食糧三食分消費)
[思考]:
0:仲間を集めて殺し合いを潰す。そして脱出する。
1:ドーラ、エルザと行動、島役場を目指しそこでガーゴイル達と合流。
2:元の世界の仲間と合流?
3:首輪も何とかしたい。
4:ムシャ……どうしたんだ?
5:眼鏡の少年(野比のび太)の事が少し心配。
※ミーウの名前と容姿を記憶しました。
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。


【ドーラ・システィール@FEDA】
[状態]:健康
[装備]:イサカM37(4/4)
[持物]:基本支給品一式(食糧二食分消費)、12ゲージショットシェル(30)
[思考]:
0:殺し合いをする気はない。
1:アレックス、エルザと行動。島役場を目指しそこでガーゴイル達と合流。
2:首輪を外したい。
※参戦時期は少なくともコバルトを倒した後です。
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。


【エルザ・ウェイバー@オリキャラ】
[状態]:腹部に二発被弾(処置済)
[装備]:九五式軍刀
[持物]:基本支給品一式(水一本、食糧二食分消費)、レミントン デリンジャー(0/2)、
.41リムファイアー弾(30)、首輪探知機、フォナ・アンシュッツの首輪(分解)、
雄獣人エロ写真詰め合わせ
[思考]:
0:殺し合いを潰す。脱出手段の模索。
1:アレックス、ドーラと行動。島役場を目指しそこでガーゴイル達と合流。
2:もう少しで首輪を外せる……!
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※首輪のおおよその内部構造、及び解除方法の手掛かりを見付けました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。



【一日目昼間/G-3、F-3境界線付近の上空】

【ガーゴイル@真・女神転生デビルチルドレンライト&ダーク】
[状態]:健康、飛翔、背中にピタゴラス、久保遼平を乗せている、
E-4鉄塔方面へ飛行中
[装備]:RPG7(1/1)
[持物]:基本支給品一式(水二本、食糧三食分消費)、85㎜対戦車擲弾(3)、
官能小説(獣姦・異種間モノ9冊)
[思考]:
0:殺し合いからの脱出。
1:ピタゴラス、久保遼平と行動。島役場を目指しそこでドーラ達と合流。
2:襲われたら説得を試みる。駄目ならば戦うか逃げる。
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。


【ピタゴラス@オリキャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康、ガーゴイルの背に乗って飛行中
[装備]:コルトM1911A1(7/7)
[持物]:基本支給品一式(食糧二食分消費)、コルト ガバメントのリロードマガジン(7×5)、
ノートパソコン(USBメモリ装着)
[思考]:
0:殺し合いには乗らない。首輪を外したい。
1:ガーゴイル、久保遼平と行動。島役場を目指しそこでドーラ達と合流。
2:襲われたら戦う。
3:眼鏡の少年(野比のび太)の事が少し心配。
※参戦時期は本編死亡後です。
※毛皮の色は作者の想像です。
※自分が以前別のバトルロワイアルに参加していた事を久保遼平に話していません。
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。


【久保遼平@オリキャラ】
[状態]:健康、ガーゴイルの背に乗って飛行中
[装備]:ハンティングナイフ
[持物]:基本支給品一式(水一本消費、食糧二食分消費)、トランジスタラジオ
[思考]:
0:殺し合いはしたくない。生き残りたい。
1:ガーゴイル、ピタゴラスと行動。島役場を目指しそこでドーラ達と合流。
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。





血に染まった僕の右手 時系列順 余命××秒
血に染まった僕の右手 投下順 余命××秒

少年の置き土産 アレックス 摘み取られる希望の芽
少年の置き土産 ドーラ・システィール 摘み取られる希望の芽
少年の置き土産 ガーゴイル 雲なしの午後には
少年の置き土産 エルザ・ウェイバー 摘み取られる希望の芽
少年の置き土産 ピタゴラス 雲なしの午後には
少年の置き土産 久保遼平 雲なしの午後には

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最終更新:2010年06月12日 23:05
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