血に染まった僕の右手

82話 血に染まった僕の右手

「のび太はまだ生きているのか……」

放送後、新たに18人分の名前が消された名簿を見ながら骨川スネ夫は呟く。
現在スネ夫がいるのはエリアG-6の一角にある民家の中。
新たに指定された禁止エリアはいずれも現在位置からは離れており、
また、行く予定もないのでまずは気にする事はないだろう。

自分の友達で唯一の生き残りである野比のび太は先の放送では呼ばれなかった。
やはり簡単には死なないようだ。

自分が殺害した日宮まどかの名前も当然だが呼ばれた。
死体はあのまま島役場に放置したままのはずだが誰か発見しただろうか。
心ある人なら供養しているかもしれないが。

「さてと……そろそろ行くか」

既に昼食は取ってあった。放送も聞いた以上、この民家に留まる理由もない。
スネ夫はテーブルの上の短機関銃IMIウージーを装備しデイパックを提げ、
民家の出口へ向かった。



「ん……何だあれ」

民家を出て、ふと東の方角に目をやると煙が上がっているのが見えた。
参加者以外に市街地には人はいない事を考えると、あの煙は参加者が起こしたものだと考えられる。
明らかに目立つ行為のため自ら進んでやったとは思えないが、
理由は何にせよ、あの煙の元へ行けば他参加者に遭遇できる可能性が高い。

「行ってみるか。他に特に宛てもないし」

スネ夫は煙の立ち昇る方角を目指し歩き始めた。



野比のび太はいつしか市街地の路上をふらふらと歩いていた。
その目は血走り、口元は常時薄ら笑いを浮かべ、歪んみ、涎も垂れている。
誰がどう見ても正気でない事は明らかだった。

「ふふっ、うふふ。み、みんな、僕を殺そうとしてる……殺される前に殺さなきゃ……」

うわ言のように、何度も何度も同じフレーズ、似たようなフレーズの言葉を繰り返していた。

小学校高学年の少年である彼は、この殺し合いという、
過酷という言葉だけでは言い尽くせない状況に突然放り込まれ、
大切な友達を一気に三人も失い、更に、目の前で人が殺される所を目撃し、
追い打ちを掛けるかのように、仲間だと思っていた人間――獣人だったが――に、
裏切られ殺されかけ、自分はほぼ無傷だったもののまた目の前で人が二人死んだ。

これらの事はのび太少年の精神をすり減らし、崩壊させるのには十分過ぎた。

皆が自分を殺しに来るという被害妄想に囚われてしまったのび太は、
自分を保護してくれた人々も、果てはまだ生き残っている友達さえも信用できなくなっていた。
そして、灯台で一人の見知らぬ青年を射殺してしまう。

もはや、今の彼は自分に近付く人間は全て「殺さなければいけない敵」であった。

「あれ……何が起きたんだろう、ここ」

のび太は炎を上げて燃えている、道路両端の物体を発見した。
炎から立ち昇った黒煙は空高く舞い上がり、周囲には金属と油、タイヤのゴムなどが
焼け焦げた嫌な臭いが立ち込めていた。
燃えているのは、部品や形状などからしてどうやら車らしいが、
どちらも普通乗用車の半分ぐらいの大きさしかないように見える。
まるで、何らかの理由で真っ二つにされたかのように。

「ま、まさかね」

車を真っ二つにしてしまう参加者もいるのだろうか。
のび太はそんな想像を振り払い先へ進む。
だが、火災現場を抜け数メートル進んだ所でのび太の足は止まった。
前方に、とても懐かしい顔を見付けたのだ。

「スネ夫、スネ夫じゃない」
「やあのび太」

いつもの声の調子、いつもの言葉で、お互いに挨拶を交わすのび太とスネ夫。
しかし、二人の手には銃が握られ、首には金属製の死の首輪。
いつもの空き地でも学校でもない、殺し合いの場の見知らぬ街中。

もし、殺し合いが始まった時点でののび太であったのなら、スネ夫であったのなら、
お互いの再会を心から喜び合ったはずだった。
しかし、今や形は違えどどちらも人殺しの身、片や狂人、片や覚悟完了。

「……ジャイアンとしずかちゃんが死んじゃったよ……ドラえもんも……」
「ああ……分かってるよ……」

そう話しながらスネ夫はのび太の表情を観察する。

(何だか変だぞ……もしかしておかしくなってるのか?)

どこか目の焦点が定まっておらず、血走っているように見える。
上半身をふらつかせ、涎まで垂らし、服装もぐちゃぐちゃだ。
どう見ても正気ではない事は明白。

(のび太には悪いけど、さっさと……)

「スネ夫……君もやっぱり、僕を殺すんだね」
「……え?」

まるで自分の心を読んでいたかのようなのび太の発言にスネ夫は戸惑った。
但し、のび太はスネ夫の心を読んでいた訳ではない。
それは、彼が手に銃を持っていた事と、自分の狂ってしまった頭が囚われた
被害妄想を結び付けた末で出た、言わば「世迷い言」だったのだから。

「……あはっ!!」
「!!」

のび太が大きく目を見開き、笑いながら右手に持ったH&K MARK23の銃口を
スネ夫に向け、引き金を引いた。

銃声が響き、空薬莢が路面上に落ちる。

しかし、ロクに照準も定めていなかったため、弾丸はスネ夫の右頬を掠めるに留まった。
そして今度はスネ夫のウージーが火を噴く。

「あ゛っ!!?」

連射音、そしてのび太の腹部が真っ赤に染まり、口から鮮血が溢れる。

「あ゛あ゛あああああ!! 熱い、熱っ、熱いいいい!!」

激痛は灼熱と化しのび太に襲い掛かる。
地面に倒れ腹を押さえのたうち回るのび太を見下ろしながら、
スネ夫はウージーの銃口をのび太の顔に向けた。
この時になっても、スネ夫の心は、寒気がする程冷静だった。

「すっ、スネ夫ぉ、助けてぇ、スネ夫ぉぉ」

涙を流し半狂乱で、自分を撃った相手に助けを求めるのび太。

「安心しろのび太――――――今楽にしてやるよ」

二度目の連射音。

のび太の頭部が、スイカ割りの時に割られたスイカのように弾けた。


ウージーのマガジンを交換し、のび太が持っていた拳銃を拾い、
デイパックの中身を漁るスネ夫。
大量の食糧に、もう二つ自動拳銃と予備弾薬が入っていた。
これだけの量が元々のび太の支給品だったとは考えにくいので、
他参加者の物を自分の物としたのだろう。
どんな経緯なのかはおおよそ予想はついた。

「食糧はもう十分持ってるし、余り沢山あっても邪魔になるだけだなぁ……。
持って行くのは銃と弾薬だけにしよう」

既に大量の食糧――無論武器弾薬もだが――を持っているスネ夫は
のび太の食糧は無視し武装のみを回収した。
様々な銃器で一杯になった自分のデイパックを肩に提げ、立ち上がるスネ夫。
これだけ多くの物を入れても満杯にならず重さも一定のデイパックに驚きを覚える。
まるでドラえもんの四次元ポケットのようだ、と。

「……じゃあな、のび太」

静かな声で別れを告げ、スネ夫はその場を立ち去った。




【野比のび太@ドラえもん  死亡確認】
【残り12人】



【一日目昼間/G-5、G-6境界線の市街地】

【骨川スネ夫@ドラえもん】
[状態]:健康、至って冷静
[装備]:IMIウージー(32/32)
[持物]:基本支給品一式(水一本、食糧一食分消費)、IMIウージーのリロードマガジン(32×6)、
三八式歩兵銃(2/5)、6.5㎜×50R弾(25)、コルト トルーパー(4/6)、.357マグナム弾(30)、
レミントンM870(4/4)、12ゲージショットシェル(16)、H&K MARK23(5/12)、
H&K MARK23のリロードマガジン(12×5)、マカロフ(7/8)、マカロフのリロードマガジン(8×5)、
S&W M3566(10/15)、S&W M3566のリロードマガジン(15×5)、ベレッタM1951(8/8)、
ベレッタM1951のリロードマガジン(8×5)、青酸カリスプレー、コンバットナイフ、 水と食糧(5人分)、
消毒用エタノール、ジッポーライター、焼酎
[思考]:
0:生き残るために殺し合いに乗る。
1:次はどこへ行こうか……。



※G-5、G-6境界線の市街地路上、火災現場近くに野比のび太の死体、
及びデイパック(基本支給品一式(食糧一食分消費)、水と食糧(6人分)入り)
が放置されています。
※G-5、G-6境界線周辺に銃声が響きました。





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とある二人の殺人者の動向 骨川スネ夫 摘み取られる希望の芽

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最終更新:2010年06月12日 23:06
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