曉血殺傷

64話 曉血殺傷


潮風が吹き抜ける、海岸線沿いの幹線道路を、
野比のび太、神山アキナ、死神五世、ミーウの四人は歩いていた。
進行方向から見て右に、草原地帯を挟んで大海原、左に森と森に覆われた小高い山、
そして鉄塔と思しき建造物が見える。

「あれ……?」

その鉄塔を何となく見詰めていたのび太とアキナが、その方向の森から
出てくる、歴史の教科書の挿絵か何かで見たような和風の鎧具足に身を包んだ
人物の姿を認めた。

「どうしたのび太……! あ、あいつは……!」

鎧武者の姿を確認した死神五世は驚きと喜びの混じった表情を浮かべる。
その鎧武者は、五世がよく知る人物だったからだ。

「ムシャ! おーい、ムシャ!!」

大きな声で、その鎧武者の名前を叫んだ。



鎧武者――ムシャは予想だにしていなかった。
まさか森を抜けた所で、自分と同じ魔王軍四天王の一人であり仲間、親友である、
死神五世と遭遇する事になるとは。
何故かいつもの骸骨姿ではなく、女体化の姿だったのは気になったが、
とにかく、元の世界の仲間との再会が難しいと思われるこの殺し合いの中、
自分は仲間と再会する事ができた。

だが、ムシャは素直に喜ぶ事はできなかった。
なぜなら、自分は仲間――死神五世、ドラゴナス、デスシープを生き残らせるために、
この殺し合いのルールに則り、既に一人の名も知らない少女を殺害してしまった。
そのため、できる事なら、五世達には会いたくなかった。ドラゴナスは既に死亡しているが。
勿論、遭遇してしまう事も覚悟はしていたが――。

「良かった。無事だったんだなムシャ」
「あ、ああ……」

何も知らない五世はムシャとの再会を素直に喜ぶ。

「ムシャ、お前、放送は聞いたか?」
「聞いた。ドラゴナスが死んだ……らしいな」
「ああ……」
「……あいつが死んだなんて信じられないが……あの放送が嘘とも思えない。
事実なんだろうな……」
「ハーたんやハーナス、悲しむだろうな……」

五世とムシャは、先の放送で死亡が告げられた仲間、ドラゴナスの死を悼んだ。
その様子を、のび太達三人は割って入る気にもなれず、ただ見ている事しかできなかった。

「……いつまでも悲しんでても仕方ねぇな。
ああ、紹介するよ。今の俺の仲間だ」
「野比のび太です」
「か、神山アキナです」
「ミーウよ」

五世に促され、三人はそれぞれムシャに自己紹介をした。

「全員、殺し合いには乗っていない。俺達は何とかして、この殺し合いから脱出しようと思っている。
ムシャ、お前も協力してくれるよな?」
「……」

ムシャの予想通り、五世はムシャに協力を求めてきた。
五世は自分が、魔王軍の仲間のためとは言え殺し合いに乗っている、
ましてや、既に一人、か弱い少女を殺害しているとは夢にも思っていないのだろう。
自分の事を、仲間として、親友として、心から信頼している。
五世の言葉、表情、眼差しからそれが痛い程ムシャに伝わっていた。

自分は、五世と行動を共にする資格などない。
自分の手は血で汚れてしまった。
今更ながらに、後悔の念が湧き起こるが、もう後戻りはできない。

考えた末、ムシャは芝居を打つ事にした。

もっとも、芝居と言うには、余りに血に塗れた非情な計画だったのだが。

「悪い」
「ん?」
「五世。お前達とは、俺は行動できない」

ムシャの言った言葉が理解できず、目を丸くする五世。

次の瞬間、五世の目の前にいたはずのムシャの姿が消えていた。

「えっ?」

消えたムシャは、アキナの視界に映り込んでいた。
手にした直刀を、信じられないような早さで振り払い――――。

アキナは、首から下の感覚が消失したのを感じた。
なぜか、青空が見える。太陽が光り眩しい。
声を出そうと思ったが、出なかった。

青空の深い青の色が、真っ赤に染まる。
赤く、赤く、赤く、赤く、赤く。


――何、これ? 凄く、赤い――――ちょっと綺麗かも。


アキナの視界が真っ赤に染まり、そして、黒く塗り潰された時には、アキナの意識はなくなっていた。




「む、ムシャ!!? な、何て事を……!!」
「あ……ああ……!?」
「……ッ」

周囲の雑草やアスファルトに大量の真っ赤なペイントを施し、
首と胴体が泣き別れになった「神山アキナ」という女性だった肉塊。
その肉塊を作りだした張本人、ムシャが、親友のまさかの行動に動揺する五世、
目の前で起きた惨事にショックで尻餅を突き、唖然としているのび太、
至極冷静に、ムシャの事を見据えるミーウの三人の方向に向き直す。

「すまないが、死んで貰う」
「な、何を言っているんだよムシャ!! お前、まさか……!?」
「まさかも何も、まだ分からないのか? 俺はこの殺し合いに乗っているんだよ」

酷く冷徹な口調で、ムシャが言う。

「ば、馬鹿野郎! 何を考えてるんだ!? 何故だ!? 何故、
こんなクソったれたゲームに!!?」

怒気が籠った口調で、五世がムシャに訊く。
するとムシャは、ふっ、と、五世を嘲笑うかのように小さく笑った。

「何故? 何故だと? 話さなきゃ分からないのか? お前だって知らない事ないだろ?
俺が普段、お前らにどれだけ空気として扱われ、ぞんざいな扱いを受けてきたか」
「そ、それは……だけど、最近はお前も、それを受け入れてたじゃないか……!」
「……ああ。だが、心の奥底ではいつも燻っていた。どうして俺はいつも台詞を略される?
どうしていつも歩行グラが半透明設定なんだ? どうしていつもロクな役が回らない!?
どうして、いつもいつもいつもいつも!!」

後半になるにつれ、ムシャは興奮していくように見えた。
五世はムシャの壮絶とも言える心境の吐露を、黙ってじっと聞いていた。

「……だから、この殺し合いは俺にとって転機なのさ。
俺はもう空気じゃないって事を証明してやる。この殺し合いに勝ち残ってな!!
誰にも俺の邪魔はさせねぇぞ。例え、五世。お前でも、俺の邪魔をするなら容赦しねぇ!」
「……ムシャ……」

血走った目で宣言するムシャを、五世は半ば呆然としながら見詰めていた。
知らなかった。ムシャがこんなにも、心の奥底で自分が空気キャラだという事に
対するコンプレックスを抱えているなどと。
確かに、自分を含め、既に死んでしまったドラゴナスや、
この殺し合いには参加していないが同じく魔王軍四天王のニンニン、ダーエロも、
事ある毎にムシャを空気扱いしてはいた。
だが、最初は空気脱却に熱意を燃やしていたムシャも、最近ではむしろそれを受け入れ、
空気もキャラの一つだと認めるようになっていた、と思っていた。
だが――――。

「次は、そこの眼鏡だ」
「ひっ……!?」

ムシャが未だ腰を抜かしているのび太に、血に濡れた直刀を向ける。
のび太は今まで感じた事のない、肌を刺すような殺気を向けられ身動きが取れない。
正に「蛇に睨まれた蛙」の状態になっていた。

「死ねっ!!」

そして、直刀を構えたムシャがのび太に向かい猛スピードで突進する。

「やめろおおおおおおおおおおお!!!!!」

五世が負けじと、のび太を守ろうと全速力で走った。





自分ながら、役者になれるのではとムシャは思っていた。
ムシャの考えた芝居――それは、自分がこの殺し合いに乗り、優勝を目指していると思わせる事。
そして、五世の周囲にいる三人を殺害し、残った五世を峰打ちか何かで気絶させ、
その間に立ち去る。それがムシャが即座に立てた計画だった。

芝居と銘打ってはいるが、最終的な目的は違えど、自分が殺し合いに乗っている事は事実だった。
やはり、五世は怒り、自分を問い詰めた。
心の底から信じていたからこそ、激怒したのだろう。
ある意味、嬉しい事であったし、完全に芝居を信じ切っている証拠でもあった。
そして、あえて興奮しているような演技をしながら五世に向かって言い放つ。

「……だから、この殺し合いは俺にとって転機なのさ。
俺はもう空気じゃないって事を証明してやる。この殺し合いに勝ち残ってな!!
誰にも俺の邪魔はさせねぇぞ。例え、五世。お前でも、俺の邪魔をするなら容赦しねぇ!」

五世は少し呆然としているようだった。その目は悲しげだった。
ムシャは心が痛んだが、ここまで来てやめる訳にもいかない。
既に一人目、神山アキナなるバニーガールは首を刎ね飛ばし殺害した。
後は野比のび太、ミーウの二人。

「次は、そこの眼鏡だ」
「ひっ……!?」

そして、次の標的を野比のび太に定める。
完全に腰を抜かし、恐怖に満ちた眼差しで自分を見詰めている。
これならば殺すのは容易い。
余りモタモタしていれば、五世やミーウからの邪魔が入る可能性がある。
手早く済ませようと、ムシャは直刀を構え、のび太に向かって突進した。

「死ねっ!!」

「やめろおおおおおおおおおおお!!!!!」




ムシャが斜めに振り下ろした刃は、その者の胴体を切り裂き、
鮮血が地面や、ムシャの身体に降り掛かり、真っ赤に染めた。

「――――ぁ―――???」

だがムシャの面の下の顔に浮かぶ表情は、呆然。

何故なら。

「がっ……ゲホッ!!」
「ご、五世さああああああああん!!!!」

身体を袈裟に着られ、夥しい量の血を流し、ズタズタになった腸の一部が腹の傷から
飛び出した、黒髪の、紺色マントを羽織った水着風の衣装の女性が目の前に立っていた。
大量に吐血しながら、五世はガクリと膝を突き、息を荒げながら、ムシャの顔を見上げた。
その目からは、涙が溢れていた。

痛みから来る涙でも、これから死ぬ事への恐怖からの涙でもない。

「……む……しゃ…………ごめん……な……ぁ…………」

やっと聞き取れるか聞き取れないかぐらいの、掠れくぐもった小さな声でそう言うと、
五世の目から光が消え、地面に崩れ落ち、もう、二度と動かなかった。

(嘘、だろ……俺……そんな……)

こんなはずではなかった。五世を、仲間を殺すつもりなんてなかったのに。
取り巻きの三人を殺害し、五世は気絶させるだけのつもりだった。
だが、五世は死んだ。自分の手で、殺してしまった。
自分が殺そうとした、野比のび太という少年を、身を挺して守り――自分に殺された。
最期に見せた涙――あれは、自分に対する懺悔の涙だったと言うのか。
あの怒りは芝居だった。だが、五世はそれを信じ、心から悔やみ、最期に謝罪の言葉を述べたと言うのか。
ならば自分のした事は――――。

「……ぁ」

ムシャは、足元がまるで音を立て崩壊していくような、言い知れぬ不安を感じた。
もう、何も考えられない。悲しみ、後悔、自分に対する怒り、どれとも取れぬ激情が彼を支配する。

「あ、ああ、ああぁぁあっああ゛あ゛あ゛っアアアアアアアアアアアア――――――!!!!!!」

そして、彼は走り出した。
どこへ行くかも分からない、もう何も考える事ができない、そんな状態で。
彼の瞳には、今や何も映っていないのだろう。




「……なんで、こんな……」

神山アキナ、死神五世の二人の死体を見詰めながら、
顔から完全に生気の失せたのび太が呟いた。
二人を殺したムシャという鎧武者は、五世を殺害した直後、まるで狂ったように叫び出し、
南部市街地のある方向へ走り去って行ってしまった。
後に残されたのは眼鏡の少年、狐獣人の少女、そして二人分の惨殺死体と所持品。

「う……うえええええええっ」

凄惨極まりない状況に、耐え切れずのび太が胃の内容物を吐き出し始めた。




ミーウは思わぬ展開に驚いていたが、二人分、殺す手間が省け、
更に自分をいぶかしんでいた死神五世が居なくなった事を心の中で喜んでいた。
ただ、先程の鎧武者が、自分を標的にしなくて良かったと、冷や汗もかいていたが。
五世の仲間だったらしいが、どうやらあの様子だと五世を殺すつもりはなかったらしい。
だが、思わぬハプニングで殺してしまい、錯乱状態に陥ってしまったのだろう。

(あのムシャとか言う奴には注意が必要ね……。
さて、さっさとこののび太を立ち直らせて先を急ごう)

まだ市街地まで先は長い。途中豪邸にも寄る予定もある。
先程のムシャのような危険がまだ待ち構えている可能性がある以上、
いざという時の盾になり得る「駒」は大切にしておくべきだろう。

未だ吐瀉を続けているのび太の後ろで、ミーウは冷酷な笑みを浮かべていた。




【神山アキナ@オリキャラ  死亡確認】
【死神五世@VIPRPG  死亡確認】
【残り29人】




【一日目朝方/G-3平原】

【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:疲労(肉体的、精神的共に大)、強烈な吐き気、悲しみ
[装備]:H&K MARK23(12/12)
[持物]:基本支給品一式(食糧一食分消費)、H&K MARK23のリロードマガジン(12×5)
[思考]:
0:殺し合いを潰す。
1:うええええ……。
2:ミーウさんと行動する。南部市街地へ向かう。
3:襲われたら戦う。


【ミーウ@オリキャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康、潮風の影響で毛皮にベタつき
[装備]:H&K G3(20/20)
[持物]:基本支給品一式(食糧一食分消費)、H&K G3のリロードマガジン(20×10)、
トマホーク(3)、ニコライの水と食糧
[思考]:
0:殺し合いに乗る。
1:南部市街地に着くまでは野比のび太と行動。
着いたら殺すつもりだが、道中に何らかの問題があった場合も同じように殺す。
2:可愛い子(女の子優先、死神五世は守備範囲外)がいたら…フフフ。
※参戦時期は本編死亡後です。
※名簿に書かれた主催者と同姓の二人が気になっています。
※トマホークの血痕は拭き取られたようです。


【ムシャ@VIPRPG】
[状態]:身体中にダメージ(小)、錯乱、疾走
[装備]:直刀(血痕付着)
[持物]:基本支給品一式(食糧一食分消費)
[思考]:
0:あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
※高野雅行の名前と容姿を記憶しました。また、大宮正悳(名前は知らない)の容姿を記憶しました。
※錯乱し前後不覚に陥っています。


※G-3平原の幹線道路付近に神山アキナ、死神五世の死体と所持品が放置されています。





焼け付く想いは憂い募らせる 時系列順 帰れない、帰らない
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最終更新:2010年05月29日 02:43
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