運という不確定なものも時には必要

55話 運という不確定なものも時には必要


第一回目の放送を聞き終え、永倉萌は複雑な表情を浮かべる。
自分を含めて全47人いた参加者の内、最初の6時間で14人も死亡した。
その6時間の間、自分は一度も襲われる事は愚か他参加者に遭遇する事もなく過ごした。
これは幸運と言って良いのだろうか。
そう言えば数時間前にどこかから放送で呼び掛けを行っていた人物がいたが、
どうなったのだろう。もしかしたら先程呼ばれた14人の死者の中に入っているかもしれない。

現在位置と思われるエリアE-3は禁止エリアには指定されなかった。
一番近い所で廃精神病院があるエリアが指定されたが、
廃精神病院には行くつもりはないので気にする必要はないだろう。

「……」

この森の中に放置されていた廃車体に隠れて随分経つ。
このままずっとこうして隠れていれば安全だろうが……正直な所、一人では寂しかった。
と言うより不安だった。いつ、襲われるか分からない中、
何か不審な物音がする度、木刀を構えて音のした方向へ注意を向けた。
だが結局何も起こらず最初の6時間は過ぎた。

襲撃者に遭う事こそなくとも、萌は萌で神経及び精神をすり減らしていたのだ。

支給品の食糧の一つ、ツナおにぎりで食事を取りながら、
萌はこれからどうするか考える。

(ずっと隠れてるのも、辛いんだなぁ……ちょっと移動しようかな……)

確かに一ヶ所に留まっていれば襲われる確率は低くなるが、
誰も会話する者もいない、やる事も特にない状況でじっとしているのは想像以上に辛い事が分かった。
多少危険ではあるが、歩いて気を紛らわす事にした。

そして食事を終えた萌が廃車から外に出た瞬間。

「えっ……な――――」

まばゆい光が、萌を包み込んだ。



「……」

萌は呆然と、アスファルトの上に立ち尽くしていた。
ついさっきまで、森の中にいたはずの自分は今、寂れた商店街の通りに立っている。
一体何が起きたと言うのだろうか、先程のあの光は何だったのだろうか。
余りに超現実的な事で萌は理解に苦しんだが、結局分かった事は、
自分は森の中から、何らかの――魔法と言えば良いのだろうか――力でテレポートさせられた、という事か。
長時間同じ所に隠れ、戦闘もしなかったせいだろうか。

何はともあれ、現在、萌は島のどこかの市街地の道路に立っていた。
建物の壁際に寄り、木刀を持ち周囲を警戒しながら歩く。
思えばこの殺し合いが始まってからというもの、ずっと隠れたままだった。
こうして外を歩くのは実に数時間振りである。

しばらく道沿いに歩くと、古びた木造校舎が見えてきた。
地図にある「小中学校」のようだ。

「誰か、いるかな……」

もしかしたら、殺し合いに乗っていない人が集まっているかもしれないと、
淡い期待を抱きつつ、しかし警戒は怠らないようにし、萌は小中学校を目指し歩き始めた。



小中学校内、一階の用務員室。
放送を聞き終えた黒髪の青年、高野雅行は移動の準備を始めていた。

「……」

最初の放送までに計14人が脱落し、残りの生存者は自分を除くと32人。
自分が最初に殺害した――確か、ブライアンという名前だった――男の仲間、
アレックス――ブライアンがそう呼んでいた――と、鎧姿の男、ムシャの名前は呼ばれなかった。

まだそれなりに残っているが、この広い会場では遭遇率は自分が思っている以上に低くなるだろう。
殺しが目的の彼にとって、殺すための獲物である他参加者が見付からなくなるのは嬉しくない。
現に最初の6時間は結局一人殺しただけに留まってしまった。
犠牲者が14人と言う事は、一人で数人殺害している者もいるに違いない。

荷物を纏め、右手に自動拳銃・S&W M3566を携えて雅行は正面の昇降口に向かった。

「!!」

そこで雅行は、丁度扉を開けて入ってきたばかりの桃髪ツインテールの少女と鉢合わせになる。

「あっ……!?」

少女――永倉萌は、この殺し合いが始まって以来初めて出会う他参加者に驚く。
改まって声を掛けようとしたが、萌は前方の白いシャツを着た黒髪の青年が右手に持つ
拳銃らしき物を発見する。

加えて、青年からはどこか異様な雰囲気が感じられた。

萌は嫌な予感がした。そして。

「……」
「――ッ!!」

その予感はすぐに的中する事となった。

バァン! バァン! バァン! バァン!

四発の銃声が響き、萌の肉体を銃弾が貫いた。

「う、ああああああっ、い、いた、いいい……! 痛い!」

その場に崩れ落ち、被弾した箇所を手で押さえながらもがき苦しむ萌。
身体に空いた穴からは大量の血液が溢れ出し萌の白いセーラー服が瞬く間に赤く染まった。
今まで感じた事のない激痛に涙を流し、萌は喘ぎ苦しんだ。

「げほっ、い、痛い…痛いよぉ……た、たすけ、て、誰かぁ、たす」

もう一発銃声が響き、萌の心臓を銃弾が貫通した。
萌はしばらく口から血を溢れさせて痙攣していたが、やがて動かなくなった。
その目は見開かれたままで、光こそ失っていたが代わりに、絶望と恐怖、苦痛を未だ宿らせていた。

「……」

やっと二人目を殺害する事ができた事で、自然と雅行は笑みを零す。
人を殺す瞬間の感覚は、雅行にとっては甘美な麻薬に等しい存在だった。

雅行は名前も知らない少女の持物を漁る。
少女の持っていた武装は頭に被っているヘルメットと持っていた木刀のようだった。
自分が今装備している銃の方が何倍も役立つので、食糧のみ自分のデイパックに移した。
昇降口から外に出ると、爽やかな風がグラウンドを噴き抜けた。
森がすぐ近くに広がっているため木々が風に揺られ葉が擦れ合う音がよく聞こえる。
今が殺し合いという状況でなければ、とても清々しい光景なのだろうが。

雅行は頭の中で次の目的地を考えながら、ゆっくりと歩き始めた。


【永倉萌@オリキャラ  死亡確認】
【残り31人】


【一日目朝方/F-5学校:校庭】

【高野雅行@俺オリロワリピーター組】
[状態]:健康
[装備]:S&W M3566(10/15)
[持物]:基本支給品一式、S&W M3566のリロードマガジン(15×5)、
ベレッタM1951(8/8)、ベレッタM1951のリロードマガジン(8×5)、ツルハシ(血痕付着)、
ピアノ線、ハンドワイヤーカッター、 水と食糧(3人分)
[思考]:
0:殺し合いを楽しむ。
1:次はどこへ行こうか。
2:ムシャは次会ったら絶対に殺す。
3:さっきのは一体…?
※俺オリロワ開始前からの参戦、ではないかもしれません。
※アレックスとムシャの名前と容姿を記憶しました。また、大宮正悳(名前は知らない)の容姿を記憶しました。
※源しずかのデイパック(水と食糧抜きの基本支給品一式入り)はD-5森:南部に放棄しました。
※奇妙なフラッシュバック現象については保留する事としています。



※F-5学校:昇降口付近に永倉萌の死体、ハーフキャップヘルメット(永倉萌の頭に被さったまま)、
木刀、永倉萌のデイパック(水と食糧抜きの基本支給品一式入り)が放置されています。
※F-5学校周辺に銃声が響きました。



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声が届いた、届いた人はどう動く? 永倉萌 死亡
フラッシュバック――記憶の欠片 高野雅行 とある二人の殺人者の動向

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最終更新:2010年05月30日 11:06
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