侍は踊る

53話 侍は踊る


エリアD-4東部の森の中で、和風鎧姿の男、ムシャは無念の表情を浮かべていた。

「ドラゴナスがっ……何てこった……」

自分と同じ魔王軍四天王の一人であり、大切な仲間でもあったドラゴナスが死んだ。
今しがたの定時放送の中の死者発表で、その名前が呼ばれたのだ。
多少天然が入っている所があるとは言え、四天王の一人としての実力は確かだった。
それ故簡単に死ぬ事はないとムシャは思っていたが。

「そういや、魔法や特殊能力とかは一切使えないんだったな……」

主催者・リリアによる制限で、ドラゴナスや死神五世、恐らくアレックス達勇者勢も、
魔法や特殊能力の類が一切使えなくなっていると思われる。
その状態ではドラゴナスは普通の人間が相手でも負けてしまう可能性がある。
それを考慮に入れておくべきだった。

放送によれば、勇者アレックスの仲間であるブライアンとヘレンも死亡したらしい。
他にも、前述したドラゴナス、ブライアン、ヘレンの三人を除くと、11人の参加者が、
最初の6時間の間に脱落してしまったようだ。
先刻戦った高野雅行なる男の名前は呼ばれなかった。

ムシャは、この殺し合いに呼ばれた自分の仲間、ドラゴナス、死神五世、デスシープのために
殺し合いに乗る決意をした。できる限り他参加者を殺して回り、
三人が生き残る確率を上げるためである。
自分のこの行動を、三人は恐らく良しとはしないだろう。
特に普段から公私共に付き合いが多い死神五世は、自分を殴ってでも止めようとするかもしれない。
だが、それでもやらなければいけない。既に名も知らぬ少女を一人この手に掛けた。
後戻りはもうできない。

だが、そんなムシャの思いを嘲笑うかのように告げられた仲間の一人の死。
ムシャの士気は必然的に下がった。

「……」

ムシャは14人分の名前が横線で消された参加者名簿と禁止エリアの場所と出現時刻が書き込まれた
地図を自分のデイパックにしまい込み立ち上がり、東に向け歩き始めた。

確かに仲間の一人であるドラゴナスは死んでしまった。だが、まだ、
死神五世とデスシープの二人が残っている。
仲間が一人でも生き残っているなら、立ち止まる訳にはいかない。



「こいつは……」

しばらく歩いた、北方向に急な坂が広がっている地点で、
ムシャは赤と白を基調にしたカラーリングの鎧を着た男の死体を見付けた。
見覚えがある。確か、アレックスの仲間の、ブライアン、だったはず。
死んでから5、6時間は経過しているらしく既に腐敗し始めている。
鎧の胸元に二つの穴が空きそこから血が流れているのでこれが致命傷なのだろう。
先程の放送でも、ブライアンの名前が呼ばれていた。
近くにブライアンの物と思しきデイパックも転がっていたが中身は漁られた後だった。

「……」

敵対しているとはいえ、無惨な屍を晒すブライアンを弔いたい気持ちはあったが、
そんな時間も道具も持ち合わせてはいない。
ふと、坂の方角の遠方に目をやると、鉄塔らしき物が立っているのが見える。
地図を確認すると、北方向に「鉄塔」とある。

坂を観察すると、気を付ければ下れない事もなさそうだ。
ムシャは鉄塔を目指し、それなりの傾斜がある坂を慎重に下り始めた。


ズルッ


「ちょwwwwやべwwwwwwww」


ズザザザザザザザザザザザ。


「アッーーーー!!」


滑落した。



朽ちた鉄塔の元に、鎧のあちこちに木の枝や葉っぱを引っ掛けた鎧武者が現れる。

「ったく酷い目にあった……むぅ、誰もいないか」

周囲を見渡すが人の気配はない。
数時間前にほぼ同じルートでとある人物がこの鉄塔に辿り着いた事など、
ムシャは知る由もないが。
もう一度地図を取り出し、鉄塔のあるエリアの周囲の地形を調べると、
真っ直ぐ北方向に行けば灯台や豪邸のある麓に行けるらしい。

「豪邸に灯台…ガソリンスタンドもあるな」

地図上に記載されている施設なら人も集まり易いだろう。

「行ってみるか…だがその前に、少し休むとするか」

次の行き先を決めたムシャは、鉄塔の基礎部分のコンクリートに腰掛けしばしの休憩を取る事にした。
ゲーム開始から6時間、ほぼ休みなしの強行軍の上、食事も取っていない。
腹が減っては戦はできぬという言葉もある。
デイパックから食糧であるツナおにぎりを取り出しムシャはそれを口にした。


【一日目朝方/E-4鉄塔】

【ムシャ@VIPRPG】
[状態]:身体中にダメージ(小)、食事中、悲しみ
[装備]:直刀(血痕付着)
[持物]:基本支給品一式(食糧消費中)
[思考]:
0:魔王軍の仲間を生き残らせる。それ以外は容赦なく殺す。
1:ドラゴナス…。
2:魔王軍の仲間とはできれば遭遇したくない。
3:とりあえず麓へ行く。
4:高野雅行は次に会ったら必ず始末する。
※高野雅行の名前と容姿を記憶しました。また、大宮正悳(名前は知らない)の容姿を記憶しました。




灯台下、明るし 時系列順 シリアルキラーツクール
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主のため、自分のため、仲間のため ムシャ 曉血殺傷

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最終更新:2010年05月26日 00:44
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