灯台下、明るし

52話 灯台下、明るし


アレックス、ジン、石川昭武の三人がようやく森を抜けた頃には、
既に夜は明け第一回目の定時放送の時間が迫っていた。

「おい、あれ見てみろよ。あれって灯台だよな?」

ジンが指差す先には白い巨塔――ならぬ、白い円筒状の建築物が。
三人共、長時間足場の悪い森の中を歩き続け、足に疲労が溜まっていた。
放送を聞くのも兼ねて、三人は灯台で一旦休息する事にした。

そして、灯台の管理人詰所と思しき部屋で、アレックス達は放送を聞く。
どこからともなく聞こえてくる、主催者の女の声。

『現在生き残っている皆さん。最初の6時間を生き延びた事を、まずは祝福します。
運悪く死んでしまった方も多いですが。

これより第一回目の定時放送を行います。
まずは禁止エリアの発表から。

7時より、エリアF-3。
8時より、エリアD-2。
9時より、エリアE-8……』

テーブルに座り三人がそれぞれの地図に発表された禁止エリアを書き込んでいく。

「確か、入ったら首輪が爆発するんだったっけ?」
「んーと、作動する、とは言っていたけど…っていうかジンお前字ィ汚ェなオイ」
「うっせーな! 昭武人の事言えんのかよ!」
「しっ! 二人共静かに!」

『では続いて死者の発表です。五十音順に言っていきます』

アレックス達が息を呑み、静かに放送に耳を傾ける。
一人も知り合いが呼ばれていない昭武も、同行しているアレックスとジンの
仲間の事が気になり死亡者の発表はしっかり聞くつもりだった。
そして最初の一人の名前が告げられた。

『亜美』

「なっ……!?」

ジンの顔から血の気が引いていく。しかしまだ死者の発表は続く。

『ガルム』

二人目の名前も、ジンは反応を示した。

『ケトル、剛田武、島崎隆博、鈴木正一郎』

呼ばれた名前を名簿に線を引いて消していく。
ジンはやや心ここに有らずといった感じだったが、それでもしっかり放送は聞いていた。
そんなジンの事を他の二人は心配したが、まだ放送は続く。

『ドラゴナス』

「なっ…!?」

今度はアレックスが反応を示す。

『ニコライ、フォナ・アンシュッツ』

次の二人の名前は三人共、全く関わりのない人物のものだった。

『ブライアン、ヘレン』

「!! そんな、ヘレンまで…!」

アレックスが悲しみと悔しさの入り混じった表情を浮かべる。

『源しずか、メリエ、元村憲章…………以上14人です。いいですね。中々のペースです。
どうも、殺し合いそっちのけで色々と好きな事ばかりしてる人も多いみたいですけど、
まぁ、いつ死ぬか分からない状況下で欲望のままに行動するというのも、
一つの道だとは思いますので、私は特に何も言いませんが。
今現在、自分が殺し合いの場にいる、という事実だけはゆめゆめお忘れなきよう。
それではこれで放送を終わりにします。
次の放送は昼の12時ですので、また放送が聞けるよう頑張って下さい。
それでは現在生き残っている33人のプレイヤーの健闘を祈ります』

放送が終わり、島に再び静寂が訪れた。

「畜生、亜美が死んだなんて…!」

ジンがテーブルに突っ伏し、涙を流す。
ヴァルハラを帝国軍から救うため、共に旅をし、共に戦った大切な仲間。
時の塔の巫女で、優しくも、決して折れない強い心も持った少女、亜美。
その亜美が死んでしまった。嘘だと思いたかったが、わざわざ嘘を吐く理由もないだろう。
更に帝国軍のデビルであるガルムも死んだらしい。
もう一人の仲間であるアキラ、もう一人の帝国軍デビルであるガーゴイルはまだ生きているらしいが。

「ブライアンの他に、ヘレン、ドラゴナスまでやられたってのか……畜生……!」

アレックスは涙こそ流さなかったが、悲しみとショックは大きかった。
最初に出会い直後に殺害されたブライアンの他にも、
金髪のエルフ娘であり仲間であるヘレン、魔王軍四天王の一角であり、
マイホームパパ的な存在だったドラゴナスも命を落としたという。
後知り合いで生き残っているのはゴメス、ムシャ、死神五世、デスシープの四人。
厳密に言えばデスシープとはほとんど面識はないのだが。

「……」

悲しみに暮れる二人に掛けてやれる言葉が見付からない青い狼獣人の青年、昭武。
自分はこの殺し合いには知り合いは一人もいない。
だからそれによっての悲しみを感じる事は恐らくないと思われる、が、
それでも大切な仲間を失ったアレックスとジンの気持ちは昭武も理解できた。

「くっ……」
「じ、ジン…大丈夫、じゃ、ないよな……」

右腕で涙を拭い、昭武の方に向き直るジン。

「悪ぃ、昭武……」
「い、いや、謝る事なんてねぇけど……アレックス」
「ああ…分かってる、よ。いつまでも泣いてもいられないよな……」

アレックスも、平静さを取り戻す、が、まだ無理をしているように見えた。
しばらく、沈黙が続く。互いに何の話から切り出せばいいのか、
何の言葉を掛ければいいのか分からなかったが、その沈黙を破ったのはアレックスだった。

「……放送で発表された情報、整理しておこうか」
「あ、ああ。そうだな」

第一回放送でもたらされた情報の整理を行う。
禁止エリアは午前7時からエリアF-3。午前8時からエリアD-2。午前9時からエリアE-8。
いずれのエリアも今自分達がいる灯台からは遠く離れているため、
すぐに移動する必要はなさそうだ。

そして、ゲーム開始から第一回放送までの6時間で14人もの参加者が落命した事実。
それだけ殺し合いに乗った参加者が多いという事だろうか、
いや、数人が大量に殺し回っている可能性もある。

「思っていたよりペースが早いな、最初の6時間で14人も死ぬなんて。
仲間を集めて脱出手段を探るにも、余りモタモタしてるとまずいかもな」

アレックスが深刻そうな顔で言う。
この殺し合いから脱出するのにまず必要と思われる事は、
首にはめられた首輪の解除だろうが、自分達を除くと残り29人となった生存者の中に、
果たして首輪を解除できそうな人物がいるのだろうか。
いると仮定しても、もしその人物が死亡してしまったらもはや脱出など夢のまた夢。
最悪、今組んでいるメンバーで殺し合いを演じるという事態に陥る可能性もある。
つまり仲間集めをするというならそれなりに急いだ方が良いのだが――。

「……やっぱり、人が集まるのは街だよな」

ジンが地図の、灯台近くの役場や小中学校がある市街地を指差す。
島の主要な施設が集中しているこの市街地なら多くの参加者が集まる可能性が高い。
アレックスとジンの残りの仲間も、自分達と同じくこの殺し合いからの脱出を目指す参加者達も。

「なぁ、ちょっといいか?」
「ん? どうしたんだ昭武?」
「この灯台の近くに豪邸があるみたいなんだけど、ここ、行ってみないか?」

昭武が地図で指差すのは、灯台から西の方角にある豪邸。
地図上で見る限り然程距離はないように見える。
ジンが西側に面する窓を少し開けて見てみると、確かに豪邸らしき建物が見えた。

「気になるのか、昭武?」
「市街地も確かに人集まり易いかもしれないけど、
意外とああいうトコにも人いるんじゃないか?」
「そうだな…そんなに遠くでもないし、行ってみるか」

アレックスは昭武の提案を呑む事にし、ジンもそれに賛同した。

「……ちょっと腹減ったな。飯にしない?」

ジンが空腹を訴える。こういう時でも食欲だけは失せる事はないようだ。

「それじゃあ、各自、食事を取って、しばらく休んでから豪邸に向かうとしよう」
「ああ」
「分かった」

三人は各々、自分のデイパックから食糧を取り出し食事を始めた。



カレーパンを頬張りながら、アレックスはブライアンを殺害したと思われる、
白いシャツを着た黒髪の男の事を考えていた。
男の名前は知らないので、もしかしたら先に呼ばれた名前の中に含まれていたかもしれない。
だが、勿論まだ生存している可能性も否めない。

次に遭遇した時、自分はどういう行動に出るだろうか。
怒りに任せ、殺してしまうかもしれない。
大切な親友であり、仲間であるブライアンを殺害したとは言え、
それをまた、自分が殺すのが最善だとは思わない。
だが、いざ相対した時、自分は冷静でいられるだろうか。

いや、もしかしたらとっくに死んでいるかもしれないのだが。

それと、自分の支給品であるUSBメモリの中身も気になる。
勿論、USBに対応したパソコンがなければ中身を見る事はできない。
もしかしたら脱出のヒントが、とも思ったがその可能性は限りなく低い。
なぜなら主催者がわざわざ殺し合いの破綻に繋がるような物を支給するとは考えにくいからだ。
確実にこの狂った殺し合いゲームを遂行したいのならそんな真似はしないだろう。
USBメモリも中身なんて何もない、ただの外れ支給品かもしれない。
だが、それでも一応中身は見ておく価値はあるはず。

とにかく今は、ジンと石川昭武の二人と行動して、自分やジンの知り合いと、
共に戦ってくれる仲間を集める事に専念しよう。
アレックスはそう心の中で思った。


【一日目朝方/H-4灯台:管理人詰所】

【アレックス@VIPRPG】
[状態]:全身にダメージ(軽度)、悲しみ、食事中
[装備]:サバイバルナイフ
[持物]:基本支給品一式(食糧消費中)、USBメモリ
[思考]:
0:仲間を集めて殺し合いを潰す。そして脱出する。
1:ジン、石川昭武と行動。食事した後、豪邸へ向かう。
2:元の世界の仲間と合流?
3:首輪も何とかしたい。
4:USBメモリの中身が気になる。
5:ガーゴイルには一応警戒しておく。
※襲撃者(高野雅行)の容姿を記憶しました。
※ジン、石川昭武と情報交換をしました。


【ジン@真・女神転生デビルチルドレンライト&ダーク】
[状態]:健康、深い悲しみ、食事中
[装備]:スティレット
[持物]:基本支給品一式(食糧消費中)、スタングレネード(3)
[思考]:
0:殺し合いはしない。アキラの捜索及び仲間集め。
1:亜美……。
2:石川昭武、アレックスと行動。食事した後、豪邸へ向かう。
3:死神五世、ムシャ、デスシープ、ガーゴイルには注意。
4:襲われたら戦う?
5:USBメモリの中身が気になる。
※参戦時期はレミエル打倒後、元の世界へ帰還した直後です。
※アレックスと情報交換をしました。


【石川昭武@オリキャラ】
[状態]:健康
[装備]:エンフィールドNo.2(6/6)
[持物]:基本支給品一式(食糧消費中)、.380エンフィールド弾(30)
[思考]:
0:殺し合いからの脱出。
1:ジン、アレックスと行動。食事した後、豪邸へ向かう。
2:首輪を何とかしたい。
3:死神五世、ムシャ、デスシープ、ガーゴイルには注意。
4:USBメモリの中身が気になる。
※アレックスと情報交換をしました。





第一回放送 時系列順 侍は踊る
第一回放送 投下順 侍は踊る

Triple axel アレックス 帰れない、帰らない
Triple axel ジン 帰れない、帰らない
Triple axel 石川昭武 帰れない、帰らない

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最終更新:2010年05月26日 22:56
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