その思いは正義をも砕く

45話 その思いは正義をも砕く


病院二階への階段を登り切った所には、
幾つかの合成革張りのソファーと白いテーブルが設置された休憩スペースがあった。

「あら、貴方は確か……鈴木正一郎、だったかしら」
「お前、銀鏖院水晶か」

そこで、病院内を探索していた鈴木正一郎は、思いがけずクラスメイトと再会する事になる。
もっとも相手は普段から全くと言っていい程関わりのない人物だが。
銀鏖院水晶は正一郎と三、四メートル程距離を置いた所で対峙した。

水晶の右手に銃らしき物が握られているのを見ると、正一郎は水晶に尋ねた。

「銀鏖院。一階に死体が転がっていた。あれは、お前の仕業か?」
「……そうだけど。だったらどうなの? 向こうが襲い掛かってきたから反撃して殺した。
これは正当防衛じゃない?」

水晶は至って冷静に、しかしどこか正一郎に対して蔑みの念を込めた風な口調で答える。
少し癪に障ったのか正一郎は一瞬眉を顰めるが、落ち着いて水晶の返答内容を考察する。
一階で死体になっている女性が一方的に水晶を襲ったのであれば水晶の言い分はほぼ正しいが、
この場合は別の可能性も考えられる。

「…お前が殺し合いに乗っていなくて、一方的に攻撃されたのならな」
「あらあら、クラスメイトを疑うの?」
「臭うんだよ。お前」

今までポーカーフェイスを保っていた水晶が「臭う」という単語を聞いた途端、顔色が変わった。

「臭う? ――――そうね。臭うかもね」
「?」

いきなり自嘲気味な笑いを浮かべ始めた水晶を正一郎は訝しげに見詰める。

「鈴木君」
「何だ?」
「私ねえ、――――――――――――」

水晶の口から飛び出したのは、正一郎にとって余りに衝撃的な事。
数時間前に己が体験した、獣との強制的な交合の話を水晶は遠くを見詰めながら、
目の前の正一郎に淡々とした口調で聞かせた。

「そ、そんな……事が……」

その話を聞かされた正一郎はどう反応や言葉を返せばいいのか分からなくなっていた。
自分が言った「臭う」というのはそういった意味ではなかったのだが、
今の水晶にとってはトラウマを呼び覚ますに十分な凶器だったようだ。
元々は殺し合いに乗っているかどうか追及するはずだったがいつの間にかそれは、
水晶に対する奇妙な罪悪感へとすり代わってしまっていた。

「す、すまん銀鏖院、俺はそんなつもりじゃなかったんだが」
「ふふふっ、凄いんだよ鈴木君、狼の腰遣いって凄く激しいの」
「いや、もういいからっ! もう本当にいいから! 俺が悪かった!」

尚も事細かに話そうとする水晶がいたたまれなくなり、正一郎は必死に制止する。

「いいのよ。笑いなさいよ。超能力も使えない、おまけに強制されたとは言え、
獣姦よ? おまけに沢山出されたし、中に。多分それの臭いじゃなくて?
あはははは、愚民以下よ。今の私は愚民以下。あれ、おかしいな、目の前が曇ってきて見えないや…」

自分の悲惨な体験と、置かれている境遇を吐露していく内に、
次第に水晶の目からは涙が溢れ出した。
少女の涙に、異性との付き合いに疎い正一郎はいよいよどうして良いのか分からなくなり狼狽する。

「あ、えーと、その、」
「だから……」

不意に水晶の声の調子が変化した。
正一郎はその変化を聞き逃さなかった。

「私は…この殺し合いで勝ち残るッ!!」

涙で濡れた両目を見開き、水晶は右手に持った小型の短機関銃・イングラムM10の銃口を
正一郎に向け、引き金を引いた。
ダダダダダダダ、と連射音が休憩ホール内に響いた。

「なっ?」

だが、水晶は驚愕の表情を浮かべる。つい数瞬前まで、
イングラムの弾道上にいたはずの正一郎の姿が消えていた。

ガキィッ!!

「あっ…!」

次の瞬間、水晶の手からイングラムが弾かれ、少し離れた床の上に落下した。
続いて、大型のナイフが回転しながら床に落ち、何回かバウンドした後静止した。
弾丸を回避した正一郎が、水晶の持っていたイングラム目掛けマチェットを投げ付けたのだ。
激しく回転しながら、マチェットは見事にイングラムに命中した。
正一郎はすぐさま床に落ちたイングラムの元へ走り、それを拾い、水晶に銃口を向ける。
だが、水晶は既にもう一つの銃、S&W M19に持ち替え、銃口を正一郎に向けていた。
お互いに銃を向けたまま、事態は膠着する。

「やっぱり殺し合いに乗っていたのか、銀鏖院」

正一郎の表情からはもう狼狽の色は消え、酷く冷徹なそれへと変わっていた。

「そうよ……さっきも言ったように今や私は愚民以下になり下がってしまった。
だから、この殺し合いに勝ち残って、愚民以下から這い上がってやる。
誰にも、誰にも邪魔はさせない!」
「お前が受けた心の傷には同情するけどな……その『愚民』っていうのは、
お前個人の勝手な価値観だと思うが」
「うるさい! あんたなんかに私の気持ちが分かるもんか!!」
「……とにかく、お前が殺し合いに乗っているという事は分かった。
そして説得しても無駄なようだという事も………それで十分だ」

銀鏖院水晶は殺し合いに乗っている。説得にも応じそうにない。
その事実さえ分かれば自分がする事はただ一つ。
正一郎は右手に持ったイングラムの引き金を引いた。

だが、その銃口から弾丸が発射される事はなかった。弾切れである。
引き金を引けば弾が発射されると思っていた正一郎は一瞬困惑した。
それが隙を作った。

三回の銃声と共に、正一郎の胸元に三個の穴が空き、鮮血が噴き出した。
口から血を吐き、床に仰向けに崩れ落ち、鈴木正一郎はあっさり息絶えた。

「…バーカ」

正一郎の死体を見下ろしながら、水晶は侮蔑の念を込めて言い放った。



正一郎を殺害した後、その荷物を漁り、
マチェット、モルヒネアンプル、水と食糧を入手した水晶は、
一階の先刻、オレンジ髪の女の死体がある廊下へ下りてきた。

「何これ…」

そこで水晶は首と胴体が分かれたオレンジ髪の女の死体を目にする。
自分が殺した時は首と胴体は繋がっていた。
つまり、自分が上の階へ上がっている間に誰かが遺体を損壊したという事になる。
あの正義感馬鹿の鈴木正一郎がこんな事をするとは考えにくかった。
よく見ると、首にはめられていたはずの参加者の首輪がなくなっている。
首が切断されている点を踏まえて考えると、一つの結論が導き出された。

「首輪を取るために首を切断した…?」

自分にもはめられている金属製の首輪は外す事は当然できない。
しかし、何らかの理由で首輪が欲しい参加者がいた場合、どうするか。
首を切断して回収する以外には方法はない。
ではなぜ他人の首輪が必要になるのか。それはただ一つ。
首輪を調べるため、解除する手段を探るため、であろう。

「そんな簡単に解除できるような首輪なんてはめてないと思うけど、
まぁ、せいぜい頑張ってね、って感じ」

首輪解除を目指しているだろう何者かへ心の籠っていないエールを送り、
水晶は女の死体を通り過ぎ、病院の玄関へ向かった。



自動ドアを潜った先の外は、既に夜明け前でだいぶ明るくなっていた。
デイパックから懐中時計を取り出し時刻を確認してみれば、第一回放送の時刻まで、
後一時間と少しだという事が分かった。

「一旦、どこかで休むとしようかしら…」

そろそろ疲労も溜まってきたため、休息と放送を聞くため、適当な民家か何かに
身を潜める事にした。



【鈴木正一郎@自作キャラでバトルロワイアル  死亡確認】
【残り33人】



【一日目早朝/G-8病院周辺】

【銀鏖院水晶@自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]:精神的ダメージ(だいぶ回復)
[装備]:S&W M19(3/6)
[持物]:基本支給品一式、.357マグナム弾(24)、イングラムM10(0/30)、
イングラムM10のリロードマガジン(30×8)、マチェット、モルヒネアンプル(3)、
水と食糧(二人分)
[思考]:
0:殺し合いに乗る。優勝を目指す。
1:どこかに身を潜めて休息する。そして放送を待つ。
2:みんな殺す。とにかく殺す。クラスメイトでも容赦しない。
3:あの黒狼(レックス)は今度会ったら絶対に殺す。
※本編開始前からの参戦です。



※G-8病院周辺に銃声が響きました。但し屋内での発砲のため余り外には漏れなかったようです。



食える時に食うべし 時系列順 BIG HOUSE
食える時に食うべし 投下順 BIG HOUSE

さっさと調べろと言うのは無粋、無粋。 鈴木正一郎 死亡
愚民以下から這い上がれ 銀鏖院水晶 奇妙なすれ違い

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最終更新:2010年05月22日 10:22
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