主のため、自分のため、仲間のため

35話 主のため、自分のため、仲間のため

随分空が明るくなり、森の中をグレネードランチャー・H&K HK69を携えた、
青色の飛竜、大宮正悳は、デイパックの中から懐中時計を取り出し、時刻を確認する。
時計の針は、午前3時20分を指していた。
時刻を確認すると、正悳は時計をデイパックの中に戻し、
再び他参加者の捜索を開始する。

しかし、ここで正悳はふと考える。

(…よく考えたら、こんな広い森の中を参加者捜して歩くのって、
無謀じゃないか? 目印らしい物も何にもないし)

地図で見た限り、島の中央部に広がる森林地帯はかなり広大な面積を占めている。
どこかに参加者は一人か二人いるかもしれないが、
常に参加者が移動している可能性を視野に入れると、
それを捜して回るのは効率が悪い。
今自分が翼を使えれば話は別かもしれないが、何しろ翼を動かそうものなら、
耐え難い激痛が走り飛行するどころではない。

(森を抜けて、街の方へ行ってみるか。多分、他の連中も、同じ考え方をしている奴が、
かなりの数いるはず。わざわざ何もない森の中をウロウロしてる奴はそういな……ん?)

前方にツルハシらしき物を持っている、白いシャツを着た人間の青年が歩いているのを見付け、
正悳の思考は一旦中断される。

「……」

青年の方も正悳に気付いたらしく、足を止めて正悳の方に視線を向けた。

次の瞬間には、正悳はHK66を構え、引き金を引いていた。
銃口から放たれた40㎜榴弾が放物線を描きながら青年に向かって飛んでいく。
そして着弾と同時に大きな爆発が起こり、近くにあった樹木が爆風を受け倒れた。
もし青年が榴弾の直撃を受けていれば間違いなく絶命していただろう――が。

粉塵の中から、ツルハシを斜めに構え、自分に向かって突進してくる青年の姿を認めた時、
正悳の心に焦りが生じた。

「や、やばい――」

急いで空の薬莢を排出しデイパックから予備弾を取り出そうとするが、
もう既にその時には青年は正悳と肉薄する位置に到達してしまっていた。

ドガッ!!

「ガァアア!!?」

ツルハシの穂先が正悳の左脇腹を捉えた。
だが、咄嗟にデイパックを盾にしたので致命傷には至らなかったが、
それでも思い一撃が正悳の柔らかな脇腹に入り、正悳が苦鳴をあげる。

「うぐっ、ぐううううう!! げほっ! ごほっ…」

血反吐を吐き、地面で苦しみにのたうつ正悳。
青年は地面に倒れ苦しんでいる飛竜に、止めを刺すべくツルハシを大きく振り上げた。
先刻自分が殺害した、鎧姿の男のように。
その光景を見て、正悳は自分が間もなく殺される事を悟った。

(え? 嘘? 俺、殺される――死ぬのか? い、嫌だ。嫌だ嫌だ!
まだ、俺は死にたくない。生きて主人の元へ帰らなきゃいけないのに!
まだ、自分の思いを主人に告げていないのに――なのに――――)

もう、敬慕する自分の主人の元へ帰れなくなる。
自然と正悳の目から涙が流れ落ちた。
動きたくても身体が言う事を聞かない。どうしようもなかった。

(ご主人、ご主人ご主人ご主人――――!!!!)


ブンッ


「―――え??」

正悳が意外そうな表情を浮かべ拍子抜けした声を出す。
ツルハシは正悳に振り下ろされなかった。
代わりに、青年が背後に向けて薙ぎ払いを掛けた。

「おっと!」

正悳の目に、青年のツルハシを素早く後ろに跳んでかわす和風の鎧に身を包んだ男が見えた。
手には鋭そうな剣を装備し、デイパックを二つ持っているように見える。
何が起きたか分からなかった正悳だったが、この機を逃す手はないと、
脇腹の激痛に耐えながら起き上がり、落としてたHK66を拾い上げ、
北方向へと全力で駆け出し、戦線を離脱した。



青年――高野雅行と鎧武者――ムシャは、数メートル距離を取り対峙する。

「お前も殺し合いに乗っているのか?」
「……そうだと言ったら、どうする?」

ムシャの問いに、雅行が酷く無感動な口調で返答する。
その口振りと様子から目の前の青年は殺し合いをする気でいる事に間違いないと判断したムシャは、
自嘲気味の笑いを浮かべながら言った。

「責める気はないさ。俺も同じだ――もう一人殺した」

ムシャは数時間前、見ず知らずの少女を手に掛けた。
彼が持っているもう一つのデイパックはその少女の持物である。

「……俺も、だ」
「そうか…………名前を聞かせてくれるか?」
「高野雅行」
「タカノ・マサユキ…か。俺はムシャだ……それじゃあ、出会ったばかりで悪いが、死んでくれっ!!」

ムシャが手にした直刀を構え、雅行に向かい突進する。
そして直刀を大きく振り被り、雅行の身体目掛けて思い切り振り下ろした。

ビュンッ!!

「……ッ!」

間一髪でかわす雅行だったが、自分がかなり不利な状況に陥っている事に気付く。
相手の鎧武者は、コスプレイヤーの類でも何でもない、本物の武士だという事に、
幾多もの死線を潜ってきた歴戦の強者だという事にも気付いた。
身体能力に多少自信はあるとはいえこちらはあくまで普通の人間。
今持っているツルハシでは目の前のムシャと名乗る男に勝てる見込みがない。
それならば、と、雅行はムシャの持つ二つのデイパックに目を向ける。

あのデイパックの中に、武器が隠されている可能性も否定できない。
武器などがなくても食糧はあるはず。どちらか一方を奪う事はできないだろうか。

ヒュッ!

雅行がそう思案している最中も容赦なくムシャの攻撃は続く。
段々自分が追い込まれていると感じた雅行は、考えている余地はないと判断した。
ムシャの斬撃の隙を縫い、ムシャが右肩から掛けている方のデイパックを、
思い切りツルハシの穂先で薙ぎ払いながら引っ掛け、飛ばした。

「なっ!?」

突然の雅行の行動にムシャが瞠目する。
飛ばされたデイパックはそのまま地面に落ちた。
すかさず雅行はデイパックの方へ走り、それを拾い上げる。
ムシャの方に振り向き、相変わらず感情の籠らない口調で言い放った。

「悪いが俺も無茶はしたくない。これで失礼する。これは貰っていくぞ」

そう捨て台詞を残し、雅行は東方向へ走り去っていった。

「くそっ、待て!!」

ムシャは雅行の後をしばらく追い掛けたが、すぐに見失ってしまった。

「はぁ、はぁ、はぁ…油断したな…」

呼吸を整えながら、ムシャが悔しげな表情を浮かべる。
とは言っても普段は面を被っているため、あまり表情の変化は分からないのだが。
ムシャが奪われたデイパックは先刻殺害した少女の物だった。
中身はまだ確認していなかったので、何が入っていたかは分からない。

(奪われたのは残念だが…まぁいい。俺には刀さえあれば十分だ)

戦利品を横取りされたような気分だったが、主要な武装は無事だったので、
ムシャは特に落ち込む様子もなかった。

(さて…そろそろ森を出て、街の方へ行くとするか)

デイパックから地図とコンパスを取り出し、ムシャは次の行き先を決め始めた。



ムシャから逃亡する事に成功した雅行は、
息を整えながら、適当な木の幹の根元に座り、ムシャから奪ったデイパックの中身を確認した。
その中に入っていた支給品を見て、雅行は思わず笑みをこぼす。
基本支給品の他に入っていたのは、自動拳銃が二丁――S&W M3566と、ベレッタM1951――と、
その予備マガジンがそれぞれ5個ずつ。雅行にとって願ってもない、恵まれた装備が入っていた。

M3566を装備し、ズボンのポケットに予備のマガジンを2個忍ばせ、
後の予備マガジン、M1951、M1951の予備マガジン、ツルハシ、水と食糧を、
自分のデイパックの中に押し込む。
M3566の装弾数は15発。M1951は8発。装弾数が多い方が有利だ。

折角の獲物だったと言うのに邪魔されたのは不快だったが、
結果的に武装を強化する事ができたので、雅行はある意味、ムシャには感謝していた。



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

いつの間にか、正悳は綺麗な水を湛えた湖の畔に来ていた。
周囲を見渡し、誰もいない事を確認すると、湖の畔に座り込み一息つく。

「畜生……まさか避けられるなんて……俺こんな調子で大丈夫なのか…?」

自分が撃ったグレネードがあっさり避けられ、手痛い反撃を受けてしまった事に、
正悳は頭を片手で抱え、少し自信喪失気味になっていた。
後一歩で殺される所だったが、突然現れた鎧武者のおかげで命拾いする事ができた。

(あの鎧武者、俺を助けてくれたのか? それとも…まぁどっちにしても、
本当に助かった、ありがとう鎧武者さん)

心の中で鎧の武者に礼を言う正悳。

(にしても、ここは……湖? って事は――)

地図を取り出し現在位置を確認する。
するとエリアC-5に「湖」という表記がある。

「……じゃあ、このまま真っ直ぐ北に行けば……街か」

地図によれば、北方向へ進めば島北部の市街地区画へ抜ける事ができるらしい。
一度死に直面し、森の中を走り続けてきた正悳は、どこかで一旦休息する事を考えた。
精神も肉体も疲労している時に無理はしない方がいいと考えたのだ。

「……行くか」

正悳は脇腹をさすりながら立ち上がり、北方向、市街地方面へ歩き出した。


【一日目黎明/C-5湖】

【大宮正悳@オリキャラ】
[状態]:左脇腹に打撲、口が血塗れ、B-5市街地方面に移動中
[装備]:H&K HK69(0/1)
[持物]:基本支給品一式、40mm榴弾(5)
[思考]:
0:元の世界に帰るために、優勝する。
1:市街地に向かい、どこかで一旦休息する。
2:他参加者を見付けたら容赦なく殺す。
※高野雅行、ムシャ(どちらも名前は知らない)のおおよその容姿を記憶しました。


【一日目黎明/D-5森:南部】

【高野雅行@俺オリロワリピーター組】
[状態]:健康
[装備]:S&W M3566(15/15)
[持物]:基本支給品一式、S&W M3566のリロードマガジン(15×5)、
ベレッタM1951(8/8)、ベレッタM1951のリロードマガジン(8×5)、ツルハシ(血痕付着)、
ピアノ線、ハンドワイヤーカッター、 ブライアンの水と食糧、源しずかの水と食糧
[思考]:
0:殺し合いを楽しむ。
1:他参加者の捜索。
2:ムシャは次会ったら絶対に殺す。
※俺オリロワ開始前からの参戦です。
※アレックスとムシャの名前と容姿を記憶しました。また、大宮正悳(名前は知らない)の容姿を記憶しました。
※源しずかのデイパック(水と食糧抜きの基本支給品一式入り)はD-5森:南部に放棄しました。


【一日目黎明/D-5森】

【ムシャ@VIPRPG】
[状態]:健康
[装備]:直刀(血痕付着)
[持物]:基本支給品一式
[思考]:
0:魔王軍の仲間を生き残らせる。それ以外は容赦なく殺す。
1:魔王軍の仲間とはできれば遭遇したくない。
2:次はどこに行くか…。
3:高野雅行は次に会ったら必ず始末する。
※高野雅行の名前と容姿を記憶しました。また、大宮正悳(名前は知らない)の容姿を記憶しました。



※D-5周辺に爆発音が響きました。また、D-5森の一部が爆発により破壊されています。



≪支給品紹介≫
【S&W M3566】
1993年に発売された競技用及び実戦用自動拳銃。
「PC356」という名称でエアソフトガンが販売されている。
ポピュラーな9㎜パラベラム弾より強力な高速弾「.356S&W」を使用し、
試験投入されたコンバット・シューティング競技でも輝かしい実績を挙げた。
現在では絶版モデルでかなりレアなピストルとなっているとの事。
使用弾薬:.356S&W弾 装弾数:15発

【ベレッタM1951】
1953年にイタリアのベレッタ社が開発した自動拳銃で、
後に非常に知名度の高い拳銃となる「M92」の原型となった。
使用弾薬:9㎜×19弾 装弾数:8発




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最終更新:2010年05月16日 14:18
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