32話 男達の花園
ゼェ、ゼェ、と息を切らしながら、森を抜けてエリアC-7の男娼館敷地内に進入する二人の参加者。
「はぁ……はぁ……は、遥ちゃん大丈夫?」
狐獣人の青年、高原正封が同行者である学生服姿の少女、仲販遥を心配する。
それに対し遥は息を切らせながらも何とか返事を返した。
「な、なんとかだいじょうぶ、みたい…」
「あいつは? 撒いたのかな?」
背後に広がる森の方を覗き込む正封。
二人は数十分前にエリアC-5にある湖の畔にて、
太刀を装備した狼獣人の女性剣士に襲撃され、東方向に逃走した。
木々の間を縫うように走り、息が切れ、胸が苦しくなり、足が棒のようになっても、
二人はとにかく必死に狼女剣士から逃れるため森の中を走り続けた。
「……誰も、追ってこないな。撒いた、のか?」
森の方から聞こえてくるのは風で木々の葉が擦れ合う音のみ。
少なくとも人の気配は感じられない。
「……撒けたっぽい、な。でも、まだ分からない。とにかくこの建物の中に隠れよう」
「うん…」
森に背を向け、正封と遥は男娼館の建物に向けて歩き始めた。
建物と建物の間の細い通路を通り中庭と思しき広場に出る。
「ここはなんなのかな?」
「ホテル…いや、モーテル? 何だろうな…ちょっと地図…」
地図で現在位置を確認しようと正封が自分のデイパックを漁る。
「よぉ、二人仲良くお泊りですか? 生憎ここはラブホじゃねぇんだよ」
「「!!」」
突然聞こえた軽快な口調の若い男の声に二人は驚き声のした方向に顔を向ける。
そこには銀色と白の毛皮を持った雄の人狼と――何故か全裸の白い毛皮を持った狼獣人の少年が立っていた。
衣服を着ていなくてもお咎めなしの人狼ならともかく獣人が全裸でいる事に驚きと疑問を抱きつつも、
正封は自分の武器であるニューナンブM60の銃口を雄の狼二人に向け、警戒する。
「だ、誰だアンタら?」
「おっと、そんな物騒なモン向けんなよ。俺らは殺し合いなんてする気はないさ。
なぁトマ」
「わう…」
「……トマ?」
人狼が「トマ」と読んで頭を撫でている白狼少年を、正封の脇にいた遥が凝視する。
そして自分の頭の中に残っているクラスメイトでよく似た、というより同一人物である、
野球部所属の白い毛皮を持った狼族の少年と、目の前のどこか虚ろな目をした全裸の白狼少年を、
何度も何度も照合し――そして答えを導き出した。
「…もしかしてトマックくん?」
「くぅ~ん?」
遥の呼び掛けにトマックと呼ばれた白狼少年は犬のような鳴き声を出しながら遥の方に顔を向ける。
「……え? 遥ちゃん? え、嘘、あれ、トマック、君? 君のクラスメイトの??」
「……うん。まちがいないよ。でも、なんだか…べつじんみたい」
「あ? お嬢ちゃんこいつの知り合いか? そりゃすまねぇ事したなぁ。
いやな、いい感じに美味そうな身体で、俺好みの面してたから、食っちまったんだ」
「い、いや、食っちゃったって……え?」
この場合の「食っちまった」という言葉が何を意味するものか、
そういう知識には疎い正封にも、ある程度は理解できた。
「それでな、ちょっとばかし改造してやったら思った以上に覚醒しちまったようで。
今じゃこいつは俺の忠実な奴隷……俺がやれといったら何でもするぜ」
「あお~ん」
「と、トマックくん…」
「オィィィィ!! アンタ一体そいつに何したんだよ!!?
何か俺が遥ちゃんから聞いたトマックとそこにいるトマックが一致しないんだけど!?
ビフォーアフターってレベルじゃねーぞ全くの別人じゃねーか!!!」
ほとんど関わりがなかったとは言え、クラスメイトの変貌ぶりに言葉を失う遥と、
遥から聞かされたトマックと目の前にいるトマックの余りの違いに人狼にツッコミを入れる正封。
この時二人は、自分達がついさっきまで追われていたという事を失念してしまっていた。
「……?」
人狼――シリウスが正封の背後に何かの影が動いた事を見付けた時。
――もはや時すでに遅し。
グサ。
「がっ……!?」
正封の右胸のやや下辺りから、太刀の刀身が生えた。
生え際から真っ赤な染みが広がりやがてそれはポタポタと地面にドス黒い染みを作り始める。
「!!」
「あ…!?」
「きゃああああああああああああああ!!!」
シリウスとトマックが突然の事態に驚き、遥が悲鳴を上げる。
太刀が正封の身体が引き抜かれ、それと同時に口からも鮮血を溢れさせ、狐の青年は地面に崩れ落ちた。
その光景を見て腰を抜かしてしまったのか遥がへたりとその場に座り込んでしまった。
「殺し合いの最中に外で楽しく談笑とは、油断にも程があるんじゃないのかい?」
正封を背後から襲い、そして、先刻まで正封、遥の二人を追走していた張本人、
狼女剣士、シェリー・ラクソマーコスが嘲笑うように言う。
そして視線を腰を抜かしている遥の方へ向ける。
遥はガタガタと震えながら後ずさりをする。立とうと思っても立ち上がれない。
「安心しな。ハルカ、だったっけ? すぐ狐の後追わせてやるから」
「――!!」
シェリーが遥に太刀の切っ先を向ける。
自分の死を直感した遥の心を絶望と恐怖が支配した。
「それじゃ、さよな――ぐっ!?」
しかし刃が遥を切り裂く前に、シェリーの身体が大きく後ろに吹き飛んだ。
シリウスがシェリーの身体にかなりの勢いで体当たりを食らわせたのだ。
すぐに立ち上がり落とした太刀を拾い、目の前の銀色の人狼に敵意の眼差しを送るシェリー。
しかし、シリウスの手にはいつの間にか正封が持っていたニューナンブが握られていた。
「!!」
ぱんっ、ぱんっ、と、乾いた銃声が計三発響いた。
「がっ…!」
一発目、二発目は何とか太刀で弾き返したが、三発目がシェリーの左肩に命中した。
激痛に顔を歪めるシェリー。
「くそっ…!」
形勢不利と見たのか、シェリーは男娼館の玄関がある方向に向かって走り出した。
シェリーの背中に向けシリウスは弾倉に残った二発の弾丸を発砲するが、
いずれも当たる事はなく空気を切り裂くに留まった。
シェリーの姿が完全に見えなくなると、シリウスは背後から刺されて倒れた狐青年の方へ駆け寄った。
「たかはらさん! たかはらさん!! しっかりして! しんじゃだめだよ!」
「……う……」
「まだ息があるみたいだ…でもこのままじゃ」
遥と素に戻ったトマックが地面に伏し血溜まりを作る正封を心配する。
「……とりあえず中に運ぼう。止血はしなくちゃならねぇ。
トマ、手伝え」
「はい、ご主人様…」
「たかはらさん…!」
シリウスとトマックは慎重に正封を自分達が使っている部屋へと運ぶ。
遥は正封の身を案じ、涙目になりながらその後を追った。
男娼館の受付ロビーに逃げ込んだシェリーは、
左肩口の銃創の痛みに顔を歪め、舌打ちを打つ。
剣士にとって肩は重要な部位。利き腕である右腕と右肩が無事だったのは幸いだったが、
これでは両手で剣を持って構える事が困難になってしまった。
片手でも十分に剣は振るえるが、それでも両手の時と比べると戦法は限られてくる。
自分に重傷を負わせた銀色の人狼を憎らしく思いながら、
シェリーは男娼館の入口から外へ出た。
だが扉をくぐった瞬間、銃声と共にシェリーの頭上のガラス窓が砕け散った。
「オラァァ!! やったるぞォォォォ!!」
数メートル先には灰色のツナギを着た短髪の青年が、
拳銃の銃口をシェリーに向けていた。
その目は血走っており、極度の興奮状態である事が窺えた。
(大丈夫やろ、向こうは刀や。どうやっても銃持ってる俺の方が有利のはずや)
再び照準を前方にいる狼獣人の女性に合わせようとした青年――元村憲章だったが。
ついさっきまでいたはずのその女性の姿がなかった。
突然狼女性が消えた事に戸惑う憲章だったが、
程なくして狼女性の姿は見付かる事となる。
自分のすぐ懐に。
ズバッ。
狼女性――シェリーが右手に持った太刀を思い切り横に払い、
憲章の胴体を腰の辺りから両断した。
だがその事に憲章が気付く事はなかった。永遠に。
太刀の刃が憲章の胴を断ち切った瞬間、彼の意識は消失してしまったのだから。
ドサ。ブシュウウウウウ……。
先に上半身が落ち、次に鮮血を噴き出しながら下半身が倒れた。
「あたしゃ今、機嫌が悪いんだよ…糞が」
たった今自分が殺害した男の死体に向け毒づきながら、
シェリーは男、憲章が持っていた拳銃とデイパックを回収した。
【元村憲章@オリキャラ 死亡確認】
【残り38人】
【一日目黎明/C-7娼館】
【高原正封@俺オリロワリピーター組】
[状態]:背中から右胸下辺りにかけ刺し傷、大量出血、意識不明、
シリウスとトマックにより搬送中
[装備]:なし
[持物]:基本支給品一式、38sp弾(30)
[思考]:
0:………………。
※俺オリロワ開始前からの参戦です。
※仲販遥のクラスメイト(銀鏖院水晶、ケトル、鈴木正一郎、トマック)についての情報を多少得ました。
【仲販遥@自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康、激しく動揺
[装備]:手斧
[持物]:基本支給品一式、手榴弾(3)
[思考]:
0:死にたくない。高原さんと一緒にいる。
1:高原さん、死なないで…!
2:狼族の男の人(シリウス)とトマック君についていく。
3:他のクラスメイトの皆については保留。
※本編開始前からの参戦です。
【シリウス@オリキャラ】
[状態]:健康、トマックと共に高原正封を搬送中
[装備]:ニューナンブM60(0/5)
[持物]:基本支給品一式、不明支給品(1~2)
[思考]:
0:殺し合いをする気はない。いい男がいたら食べる(性的な意味で)。
1:狐の青年(高原正封)の手当。
2:トマックと、少女(仲販遥)を連れて行く。
【トマック@自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康、全裸、シリウスに対する服従心、シリウスと共に高原正封を搬送中、
性感が増大している、精神不安定
[装備]:不明
[持物]:基本支給品一式、不明支給品(1~2)
[思考]:
0:ご主人様(シリウス)と一緒にいる。
1:狐の青年(高原正封)の手当。
2:仲販遥を連れて行く。
3:もっとご主人様に可愛がられたい。
※本編開始前からの参戦です。
※衣服は破かれC-7娼館:中庭に放置されています。
※シリウスに性的調教を受けたため人格が崩壊気味です。
ただし理性はあります。
【一日目黎明/C-7娼館:玄関付近】
【シェリー・ラクソマーコス@FEDA】
[状態]:左肩に銃創
[装備]:太刀
[持物]:基本支給品一式、FNブローニングM1910(5/6)、元村憲章のデイパック
[思考]:
0:面白そうなので殺し合いに乗る。
1:どこかで傷の手当をする。
2:とりあえず見付けた参加者から殺していく。
3:ドーラ・システィールについては保留。
4:銀色の人狼(シリウス)は今度会ったら絶対に殺す。
※参戦時期は少なくともコバルトを倒した後です。
※クリス・ミスティーズの名前と容姿を記憶しました。
※C-7娼館周辺に銃声が響きました。
※C-7娼館玄関付近に元村憲章の死体が放置されています。
最終更新:2010年05月22日 21:24