脳筋+うっかり獣人+GOMES

28話 脳筋+うっかり獣人+GOMES

「……!」

クリス・ミスティーズは、市街地の表通りを歩いていた時、
前方から自分の方に向かって歩いてくる人影に気付いた。
まだ夜明けまでかなり時間があり、街灯が点灯しているとは言え、
市街地は薄暗く歩いてくる人影の容貌はまだ窺い知る事はできない。
歩いてくる人影の方はクリスにはまだ気付いていないらしく、
何らリアクションを起こす事もなく、クリスの方へ歩み続ける。

声を掛けるべきか否か、いざという時のために腰ベルトに差し込んでおいた、
先の狼女性剣士との戦闘で少し刀身にヒビが入ってしまった三徳包丁を、
いつでも抜き取れるようにしながら、その人影に近付いていく。

しばらくして人影もクリスの存在に気付いたらしく、立ち止まった。
だがここでクリスはある疑問を抱く。かなり距離は近くなっているはずだが、
相手の人影の容貌はそれでもよく見えない。
その原因がその人影の正体が、黒い毛皮を持っていたため夜の闇に溶け込んでしまっていたためだと分かった時。
クリスとその人影は歓喜の声を上げた。

「伯父上! ご無事だったのですね!」
「クリス! まさかこんなに早く再会できるとは…」

クリスと、黒い毛皮を持った人狼――レオン・ミスティーズは、
お互いに再会できた事を喜び合った。
しかしその再会劇に水を差す者が現れる。

「もし、取り込み中すまないが……」
「「!!」」

森の方向に続く道路から二人に近付いて声を掛けたのは、
髭面の大柄な男、ゴメスだった。
不意に現れた男を、クリスとレオンは警戒する。
クリスは三徳包丁を、レオンは自動拳銃――シグザウアーSP2340をゴメスに向け構えた。

「おっと待て。ワシは殺し合いをする気はないぞ」
「それならまず、その手に持っている銃を地面に置いて貰う」

レオンが冷徹な声でゴメスに命じる。
言われるがまま、ゴメスがアスファルトの上に持っていた黒塗りのリボルバー、
スタームルガー ブラックホークを置く。

「これでどうだ?」
「伯父上…」
「うむ…どうやら殺し合う気は本当にないようだ、な…」

ゴメスに戦意なしと判断した二人は構えていた武器を下ろす。

「信じてくれたか?」
「ああ…とりあえずこんな道のど真ん中で立ち話をしているのも危険だ。
適当な建物の中に入って、そこで話をしよう」
「分かった」




三人は「南部」という表札が掲げられた平屋建ての民家に入った。
ベッド、デスクトップパソコンの置かれた机、本棚などが置かれた部屋で、
クリスが窓の雨戸を外を警戒しながら閉めた。
流石に暗過ぎるので明かりを点けるため、光が可能な限り外に漏れないようにするためである。
ゴメスが部屋の明かりを点けると、ここではっきりと、初めて三人は、
三人互いの容姿を確認できるようになった。
レオンが机の椅子、クリスがベッド、ゴメスが座布団の上に座った。

「まず改めて自己紹介しよう。俺はレオン・ミスティーズ。
そしてこっちが私の甥にあたる…」
「クリス・ミスティーズだ。貴方の名は?」
「ワシはゴメスだ。レオンにクリスか。宜しく…ん? ミスティーズ?
どこかで聞いたような……」
「……」
「伯父上…」

恐れていた事態にレオンとクリスは顔を見合わせる。

「そうだ! 確かミスティーズと言えば……この殺し合いの主催者と名字が同じ!
……お前達、何か関係があるのか?」

ゴメスが二人を問い質す。隠しても仕方ないと判断したレオンが口を開く。

「ああ。この殺し合いの主催者……リリア・ミスティーズは私の姪」
「俺にとっては、妹だ。そして…ミスティーズ王国第18代王女」
「やはり…名簿を見た時から気になってはいたが、主催者の血縁者だったのか。
……色々事情がありそうだな。良ければワシに話してくれんか?」

クリス、レオンの二人は、この殺し合いが起きる前に起きた、
魔王ガレスによる一連の事件、そしてリリアの性格や人間性についてゴメスに話した。
ゴメスにとっては別世界の出来事なのでミスティーズ王国の存在も、
魔王ガレスについても彼は全く知らない。
だが、彼の生きる「もしもの世界」には数多くの並行世界が存在するため、
恐らく目の前の二人もその並行世界のどれかの住人なのだろうとゴメスは心の中で結論付けた。

「……つまり、リリア・ミスティーズは相当に危険な人物、という事だな?」
「ああ。実の兄の俺が言うのも何だが、あの残虐性、攻撃性、そして唯我独尊。
今じゃ魔王としての力も手に入れてしまっている。
正に、魔王リリア……そう呼ぶに相応しい存在になり果ててしまった」
「…なぜこのような馬鹿げた殺戮ゲームを催したのかは、私達にも分からない。
あいつの思考は――もはや一般人のそれ、私達のそれとは別次元だ」

畏怖の感情をたっぷり込めた口調でクリスとレオンは語った。

「お前達も、大変だな…主催者の血縁者というだけで、あらぬ疑いを掛けられるんじゃないか?
主催者の手先だと誤解される可能性もあるぞ」
「そうなんだ。私達が危惧しているのはそれなんだが…今更言うまでもないと思うが、
私は殺し合いなどする気はない」
「勿論、俺もだ。何とかしてこの殺し合いを転覆させたい。
そしてリリアの奴を止めなければならない」

クリスもレオンも決意を固めていた。主催者の血縁者として、
殺し合いなど受け入れられない者として、何としてもこの殺し合いを潰さなければならないと。
もう現時点で何人か犠牲者が出ているかもしれない、
自分達の身勝手な親類のせいで、無関係の人々を地獄に落としてしまった事に、
二人は罪悪感を感じていたのだ。

「そうか。お前達の気持ちは分かった。ワシも協力しよう」
「本当か。ありがとう」

ゴメスはクリス、レオンに協力する意思を固め、二人はゴメスに深く感謝した。

「ゴメス、お前はこの殺し合いに知り合いは…」
「ああ、7人いる」
「な、7…!?」
「おっと気にする事はないぞ。血縁者とは言え、お前達には罪はないからな。
むしろお前達も被害者だ」

――そうは思ってくれない参加者もいるかもしれない、と、
レオンは心の中で呟いた。

「アレックス、ブライアン、ヘレン、ドラゴナス、死神五世、ムシャ、デスシープ。
…皆、こんな馬鹿げたゲームに乗るような奴じゃない、はずだが…。
できれば早めに合流したいものだ」
「「……」」
「おいおい二人共、言ってるだろう、お前達が気に病む事はないと」
「あ、ああ」
「だが…兄として、謝る。本当に、こんな事に巻きこんでしまってすまない。
ゴメス、お前にも、お前の知り合いにも、何て詫びたらいいのか…」
「詫びなどいらん。そうだな、強いていうなら、この殺し合いを破綻させ、
リリアに鉄槌を下して脱出する事が、最高の謝罪だろう」
「…ゴメス…」
「…ありがとう」

ゴメスの温かい言葉にクリスとレオンは少し救われたような気分になった。
今まで殺し合いなどを開催したリリアに対する怒り、絶望と、
殺し合いに参加させられた参加者達に対する罪悪感が大半を占めていた二人の心は、
少しではあるが明るい光が差し込み軽くなっていった。
その後三人は互いの支給品を確認したあと、これからの行動について話し合い始めた。

「まず、脱出するには……この首輪をどうにかする必要があるな」

レオンが自分の首にはめられた首輪を右手の爪で突く。

「そうだな。爆弾が内蔵されていると言っておったしな…機械知識がある奴がいれば。
あるいは外す手段も見付かるかもしれん」
「しかし伯父上、首輪を外したとしても易々と脱出ができるとも考えにくいですが」
「ああ。こんな大掛かりな舞台を用意しているくらいだ。監視体制も万全を期しているだろうな。
それに、今のリリアは強大な魔力も有しているはず。我々が首輪を外せたとしても、
生き残っている全員を……皆殺しにする、とも考えられる。
つまり、最終的にはリリアも何とかするしかない…という事、になるな」

脱出。一言で言えば簡単だが、それを達成するために乗り越えなければならない壁は、
三人にとって余りにも高く感じられた。

「何にせよ、首輪を外さなければ何もできない。首輪を外せるだけの、
機械知識を持った者…果たして参加者の中にいるかどうかは分からないが、
探す必要がある。それと、全員が全員殺し合いに乗っているというのはあるまい。
我々と同じ考えの奴も多いはずだ。仲間も集めよう」
「同時進行でいいからワシの知り合いも探してくれ」
「ああ。分かった」

行動方針が決まった所で、次にこれからの行き先を決める事となった。
レオンの地図を取り出し、それを見ながら協議する。
コンパスや周囲の地理から、おおよその現在位置は割り当てていた。

「今俺達がいるのは、多分、B-3辺りだと思う」
「主要な施設は南に集中しているな…東西にある海岸線沿いの道を通るか、
中央の森を突っ切って進むか…それとも比較的手近な施設を回るか」
「それなら希望があるんだが、いいか?」

ゴメスが二人に向けて言った。
まだ後ろめたさがあったのか、クリスとレオンはそれを承諾した。

「ここなんてどうだ?」

ゴメスがエリアC-7にある施設を指差して言った。
その施設名を見た時に、クリスとレオンは固まってしまった。




「「……男娼館……だと……!?」」




もしかしたら自分達はとんでもない男を味方にしてしまったのかもしれないと、
クリスとレオンは心の中で少し後悔していた。



【一日目黎明/B-3市街地:南部家】

【クリス・ミスティーズ@ムーンライトラビリンス改造版】
[状態]:健康、硬直
[装備]:三徳包丁(刀身に僅かな亀裂有)
[持物]:基本支給品一式、双眼鏡
[思考]:
0:リリアを止める。そのためにもこの殺し合いを潰す。
1:な……何だと……!?
2:レオン、ゴメスと行動する。
3:首輪を外す手段を探す。
4:仲間を集める。同時進行でゴメスの知り合いも捜す。
5:襲われたら対処。
6:シェリー・ラクソマーコスには注意。
※参戦時期は本編終了後です。
※シェリー・ラクソマーコスの名前と容姿を記憶しました。

【レオン・ミスティーズ@ムーンライトラビリンス改造版】
[状態]:健康、硬直
[装備]:シグザウアーSP2340(12/12)
[持物]:基本支給品一式、シグザウアーSP2340のリロードマガジン(12×5)
[思考]:
0:殺し合いを止め、リリアと会う。
1:な……何だと……!?
2:クリス、ゴメスと行動する。
3:仲間を集める。同時進行でゴメスの知り合いも捜す。
4:首輪を外す手段を探す。
5:襲われたらそれなりに対処はする。
※参戦時期は本編終了後です。
※拳銃の使い方を一通り覚えました。

【ゴメス@VIPRPG】
[状態]:健康
[装備]:スタームルガー ブラックホーク(6/6)
[持物]:基本支給品一式、.357マグナム弾(30)
[思考]:
0:殺し合いには乗らない。脱出手段を探す。
1:あれ、何だか妙な空気になってるw
2:クリス、レオンと行動する。仲間を集める。
3:元世界の仲間、知人と合流したい。ただしヘレンとムシャは警戒。
4:首輪を外したい。
5:襲われたら説得してみる、無理なら戦うか逃げる。






声が届いた、届いた人はどう動く? 時系列順 二度目の生で成すべき事
声が届いた、届いた人はどう動く? 投下順 二度目の生で成すべき事

兄の苦悩 クリス・ミスティーズ 壊される汚される、そして失う
考える伯父 レオン・ミスティーズ 壊される汚される、そして失う
海賊と竜、反対の思考 ゴメス 壊される汚される、そして失う

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最終更新:2010年05月21日 00:38
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