光は希望とは限らない

26話 光は希望とは限らない

気持ち斜めに傾いている座礁客船内の客室区画通路を、
懐中電灯で前方を照らしながら、眼鏡を掛けた少年、野比のび太は歩いていた。
時折どこからともなく響いてくる船が軋む音、そして光が届かない暗闇の部分に怯えながらも、
必死に自分の萎えそうになる気持ちを自分で励ましながらのび太は通路を進む。
しかし、元々のび太少年は暗がり等の、いわゆる「怖い物」が苦手なのだ。

「ひっ!!」

故にどこかから聞こえた謎の物音にも敏感に反応し情けない声を上げてしまう。
誰かいないかとこの座礁客船内を探索していたのび太だったが、
一人で回るには船は広過ぎた。ましてや電力が完全に死んでいるようで、
電源のスイッチと思しき物を押しても何の反応も返ってこず、更に、
停電の際にも点くようになっているはずの非常口案内看板や消火栓のランプも消えていた。

窓があるレセプションエリアやプロムナードデッキなどならともかく、
船内通路は照明が落ちれば最早真っ暗闇、一切何も見えなくなる場所が多い。
懐中電灯で照らしてはいるが、もしこの暗闇の中で懐中電灯の電池が切れたりでもしたら、
そう思うだけでのび太の心は張り裂けそうだった。

「も、もう駄目。僕、こんな所、もういられない…誰もいないよね。
これだけ探していないんだから、だれもいないよね。もう駄目。
僕、もう、出よう」

今やのび太の思考は「自分の友人及び仲間になってくれそうな人を探す事」から、
「この船から逃げ出したい」に完全シフトされていた。

その時だった。のび太の背後からある物音が聞こえた。
その瞬間、のび太の動きが止まる。危うく呼吸まで止めそうになった。
ある物音――扉のノブが周り、開く音。

「あ、あの――」
「……へ?」

恐る恐る振り向いたのび太の懐中電灯の光に照らされたのは人間の若い女性。
少し眩しげに顔に手を翳しつつものび太の事を見る、バニーガールの格好をした女性――神山アキナだった。



折り畳まれた木製のデッキチェアーや、ボートダビット、救命ボートなどがある甲板。
島のある側、左舷側のベンチに、のび太とアキナは座って話をしていた。

「それじゃあ、アキナさんはこの殺し合いが始まってからずっとこの船に?」
「うん、下手に動き回るよりは安全かな、と思って……」

アキナは最初のスタート地点であった座礁クルーズ客船内の客室で、
のび太と遭遇するまで支給品である食糧の菓子パンやおにぎりを口にしたり、
客室内に残されていた週刊誌を読んだり、それでも気が紛れない時は、
自分で自分の乳首をしゃぶれないか挑戦したり(舌の先が辛うじて届いただけだった)、
とにかく考え得る様々な暇潰しを行っていた。

殺し合いの状況下で暇潰しというのもおかしいかもしれないが、
アキナにとっては時間を潰すというよりも、いつ襲われるか分からない、
いつ自分が死ぬか分からないという恐怖から逃れたいという意味合いの方が強かった。

ちなみにアキナは、セルフ乳首舐めの件は話さなかった。流石にまずいと思ったのだろう。

「でも、部屋の外から、誰かの足音が聞こえたから、
ちょっと、様子見のつもりで部屋から出たら…」
「僕と鉢合わせになったんだね?」
「うん……でも良かった。最初に出会えたのがのび太君みたいな人で。
もし殺し合いに乗っていた人だったら、私、今頃死んでいたかもしれない。
の、のび太君、一緒にいちゃ、駄目かな」

この殺し合いにおいて最初に出会った人間であり、
殺し合いに乗っていない事が分かった人間であるのび太に対し、アキナが請う。
のび太は少し考えたが、死の恐怖に独りで怯える目の前の女性を、
放っておく事などのび太にはできなかった。

「…分かったよアキナさん。僕と一緒に行こう。
一人くらいなら守れるよ」
「あ、ありがとう、のび太君」

同行する事を許してくれた少年に対し感謝の言葉を述べるアキナ。
年上の、しかもまだ小学校高学年の純朴な少年であるのび太から見れば、
目の毒とも言えるような格好をした美しい女性からの謝礼に、思わずのび太の顔が赤らむ。

(い、いやいや、僕にはしずかちゃんがいるんだからっ)

表面上には出さないが、心の中で必死に自制するのび太。

「そう言えば……のび太君は、この殺し合いに友達が呼ばれてるんだったっけ?」
「えっ? あ……うん……」

アキナからの問いに、のび太は殺し合いに呼ばれた友達三人の事、
そして開催式で見せしめに殺された唯一無二の大親友の事を思い出す。

「…ドラえもん…」
「え…? ドラえもん、って…あ!」

のび太が思わず口にした名前、そしてのび太の声色で、アキナは気付く。
開催式の時、首輪爆破の見せしめに殺された青い耳のない猫のようなロボット。
それを止めようとし、そしてロボットが破壊された時慟哭していた少年。
その少年も「ドラえもん」と叫んでいた。その少年の声と、目の前の眼鏡を掛けた少年の声は、同じ。

「あなた…あの開催式の時の……」
「……大事な、友達だったんだ」

のび太が少し俯き加減で、静かに言った。

「一緒に暮らして、冒険したりして、たまに、喧嘩もしたけど…でも、
本当に、大事な友達だったんだ。なのに……!」

静かだった口調は次第に震え、怒気が籠っていく。
アキナはそれをただ黙って聞いているしかなかった。

「僕は絶対、こんな殺し合いから脱出してやるんだ。
ドラえもんのためにも、絶対に! 勿論、友達も一緒にね。
それから、アキナさんも。絶対、みんなで一緒に脱出しよう!」
「……うん!」

大切な友達を理不尽に殺されて尚、その悲しみに飲まれる事なく、
殺し合いからの脱出を目指す、目の前の少年を見て、今まで恐怖と絶望の色に染まっていたアキナの心に、
希望という名の明るい色が差し込み始めた。

「ところで…アキナさんの支給品は何だったの? 僕はこの拳銃と、
予備のマガジンだったんだ」
「私は…拡声器と……毒薬、だね」

アキナが自分のデイパックから拡声器と小さな瓶に入った劇薬、
シアン化リウムを取り出しのび太に見せる。
拡声器を見たのび太がある事を閃いた。そしてその閃いた事をアキナに提案する。
最初アキナはそれに難色を示していたが、のび太の熱意に押され、承諾した。



「それじゃ、やるよ? アキナさん」
「うん…」

甲板からうっすら見える山の影、陸地に向けて、
のび太が拡声器越しに演説を始めた。



『僕は野比のび太と言います! 今、エリアE-1にある座礁した船の甲板にいます!
この放送を聞いている人、もし殺し合いをする気がなかったら、
お願いです! どうかE-1の座礁船まで来て下さい!
僕はこの殺し合いから脱出しようと思っています! みんなで協力すれば、
きっと何とかなるはずです!! 

しずかちゃん! ジャイアン! スネ夫! もし聞こえていたら、
お願いだ! 座礁船まで来て!!』



その後ものび太による演説が、会場である島の東部、座礁船周辺に響き渡った。




【一日目黎明/E-1座礁客船:左舷甲板】

【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:健康、リリア・ミスティーズに対する怒りと憎しみ、拡声器で演説中
[装備]:H&K MARK23(12/12)、拡声器
[持物]:基本支給品一式、H&K MARK23のリロードマガジン(12×5)
[思考]:
0:殺し合いを潰す。友人達と一緒に脱出する。
1:拡声器で放送を流し、仲間を集う。
2:アキナさんと行動する。
3:襲われたら戦う。

【神山アキナ@オリキャラ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[持物]:基本支給品一式、シアン化リウム
[思考]:
0:死にたくない。
1:のび太君と行動する。
2:武器が欲しい。



※座礁客船を中心にかなり広範囲に野比のび太の放送が響きました。



異世界と異文化 時系列順 声が届いた、届いた人はどう動く?
異世界と異文化 投下順 声が届いた、届いた人はどう動く?

幽霊船で泣く兎 野比のび太 そして狐は忍び込む
幽霊船で泣く兎 神山アキナ そして狐は忍び込む

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年05月05日 19:26
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。