0話 殺戮遊戯、開始
俺の名前はアレックス。世界の平和を守る勇者だ。
とは言っても、敵対しているはずの魔王軍の連中は遊んでばかりで悪さも滅多にしないし、
それで俺も近頃はただのニート状態だ。笑うな!
今日も特に何も無い一日だったなぁ、家に帰って、パソコンでもして寝よ。
最近リリアの奴ともご無沙汰だな。今度頼んでみるか。
目覚めた時、世界は暗闇だった。
明らかに俺の部屋じゃないって事は分かる。
なぜならベッドの上では無く固い石造りの床の上に俺は寝ていた。
しかも、周囲からはかなり大人数の人の気配がする。
勿論話し声もだ。老若男女問わず、大勢の人がいるようだ。
「おいおい、ここどこだ? 真っ暗で何も見えないぞ」
「キャッ! ちょっと気を付けてよ!」
「いや、気を付けろって言われてもこう真っ暗じゃ……」
みんな俺と同じように困惑しているみたいだ。
一体何が起きてるんだ? まさか魔王軍の連中がまた何かしでかしたか?
と、俺は自分の首に違和感を感じた。
手で首の辺りを触れてみると、俺の首に金属製の冷たい首輪がはめられているらしかった。
おいおい、一体何なんだこの首輪は?
「うお、眩しっ」
首輪に手を触れていると、突然前方から光が差し込んできた。
すっかり暗闇に慣れてしまった両目を右手で保護しながら光に慣れるのを待つ。
そしてようやくまともに目が開けるようになって、前方に向き直ると明かりが灯されたステージが見えた。
そのステージの上には、青いドレスを着た、どこかの国の王女のような感じの黒髪の女性が立っている。
「リリア!?」
どこかから男の声で誰かの名前が呼ばれた。
ステージ上のあの女に向かって言われたみたいだけど…リリアってあの女の名前?
何という偶然。俺のワイフ的存在と同名だなんて。
いや、そんな事今はどうでも良い。
リリアと呼ばれた青いドレスの女はマイクらしき物を口に当て、喋り始めた。
「ようこそ皆さん。私の名前はリリア・ミスティーズ。お見知りおきを」
丁寧に自己紹介をするリリア。
「リリア! これはどういう事だ! 何をしようとしているんだ!」
「お兄様、すみませんが、少々お静かに。これから説明しますので」
「くっ…!」
先程リリアの名前を呼んだ男が叫ぶが、それを難なく制すると、
リリアは再び演説を始め…ん? お兄様? 兄妹なのか?
「これからあなた方には、殺し合いをして頂きます」
――――な、何だってー!?
リリアの登場で静かになっていた群衆が再びざわめき立つ。
それはそうだ。いきなり殺し合えなんて言われても納得できるはずも無い。
「逃げる事はできません。リタイアもできません。
最後の一人になるまで、皆さん全員で互いに殺し合って頂きます。
どんな手を使っても構いません。とにかく最後の一人になればいいんです」
「ふざけんな! 誰が殺し合いなんかするかよ!!」
「そ、そうよそうよ! 私達を帰して!」
恐らく少年のものと思われる怒声をきっかけに、
群衆はリリアに対し罵詈雑言を浴びせ始める。
それに対し、リリアは特に怒る様子も無い、それどころか不敵な笑みを浮かべたように見えた。
「皆さん、首にはめられている首輪、お気付きでしょうか」
リリアの言葉に、群衆の怒号は止んだ。
前からの明かりで辛うじて見える俺の周りの人々は一斉に首に手をやり、
首輪の感触を確かめ始めた。
この首輪、どうやらここにいる全員にはめられているらしい。
「その首輪、無理に外そうとしたり、逃げようとしたりはしないで下さいね。
もしそんな事をすれば、その首輪が爆発します」
――――な、何だってー!!?
首輪を触っていた奴が一斉に手を下に下ろしたように見えた。
「信じられないという方もおられるでしょうから、実演をしましょう。
はい、持ってきてー!」
リリアがステージの袖の方に声を掛けると、黒と赤の毛皮を持ったワーウルフと、
赤いブレザーを着た女子高生っぽい女の子が、何やらローラー付きの柱に拘束された、
青いタヌキみたいな生き物(?)を運んできた。
よく見ると、首に銀色の首輪がはめられている。
「ど、ドラえもん!!」
甲高い少年の声が響き、群衆を掻き分けて一人の眼鏡を掛けた少年がステージに向かって飛び出した。
バリィッ!!
「うわあっ!」
しかし少年の行く手は見えないバリアーによって阻まれた。
眼鏡少年は後ろに吹き飛ばされ、なおもあのドラえもんと呼んだ青タヌキの名前を叫びながら、
向かって行こうとしたが、周囲の人々に制止された。
ドラえもんは何かを喋ろうとしていたが、口がガムテープらしき物で塞がれ、声を出せないようだった。
リリアは少年の方をチラリと見て、嫌な笑みを浮かべた。
そして、女子高生から何やらリモコンらしき物を受け取り、
リリア、女子高生、ワーウルフの三人がドラえもんから距離を取った。
「いいですか皆さん。首輪が爆発すると……」
「やめろ――――――――――ッ!!!」
少年の悲痛な叫びが聞こえた。ドラえもんが大粒の涙を流しながら、少年の方を見た。
「こうなります」
リリアがリモコンのスイッチを押した。
ピィ――――バァン!!
短い電子音の後に爆発音、そして閃光。
ドラえもんと呼ばれた青タヌキは、首元に大きな穴を開け、もうピクリとも動かなかった。
よく見れば機械部品が見える。あれはロボットだったのか…。
「う、うわああああああああああああああああああ!!!!」
少年の慟哭が聞こえる。
正直に言えば他人事だが、胸が締め付けられるような思いだった。
群衆は、少年が泣きじゃくってる事を除けば完全に静まり返った。
もう誰も、リリアに逆らおうとは考えられなくなったのだろう。
そんな事をすれば自分達もあのドラえもんと同じ運命を辿る事になるから。
群衆の反応を見てリリアが満足そうな表情を浮かべる。
後ろにいるワーウルフと女子高生は表情一つ変えない。
「これで分かって頂けましたか? こうならないように心掛けて下さい。
では、これよりルールの説明に移ります」
リリアから、恐るべき殺戮ゲームの詳細が告げられる。
「先程も言ったように、最後の一人になるまで殺し合って頂きます。
最後まで生き残った方が優勝となり、元の自分の世界に帰る事ができます。
あなた方にはめられた首輪は無理に外そうとする、ゲームの進行を邪魔する、
それと、禁止エリアに入って一定時間経つと爆発します。
禁止エリアについては後で説明しますね。
皆さん一人一人には必要最低限の物資と、武器などの不定支給品が入ったデイパックを渡します。
中身はゲームが始まったらそれぞれ確認して下さい。
特に武器は、当たり外れはありますが何かしら役に立つ物は入っていると思うので。
本当に何の役にも立たないゴミみたいな物だった場合は…運が悪いと思って諦めて下さい。
0時、6時、12時、18時の一日四回、私から放送を行います。
その時間までに新しく死んだ方と、禁止エリアの発表です。
禁止エリアですが…地図の外や、上空100メートル以上も禁止エリア扱いですので注意して下さい。
それと……24時間誰も死なかった場合、全員の首輪を爆破しますので悪しからず。
その時は優勝者は無しです。全員死亡した場合も同じです。
……主なルールは以上です」
くそっ、何てこった…いやまてよ?
復活の魔法、レイズを使えば…。
「ああ、そうでした。あなた方の一部の方が使える魔法やその他特殊能力の類は、
一切使う事は出来ません。これは一般人も多いので、ハンデを少しでも無くすためです」
――――な、何だってー!!!?
じゃ、じゃあ、今死んだらもう二度と復活出来ないって事か…!
いやそれだけじゃ無い、一切って事は、他の攻撃魔法や回復魔法も全部駄目って事か…!?
「皆さん、理不尽だと思われるでしょうが、それは違います。
人生はゲームです。皆さんは必死になって戦って、
生き残れる、価値のあるキャラクターになりましょう。
それでは、ゲーム開始です。皆さん、頑張って下さい」
リリアがゲームの始まりを宣言したのと同時に、俺の意識が遠退いていく。
……くそっ、大変な事になっちまった……俺はこれからどうなるんだ……!
「ふう、いよいよね。楽しみだわ。 あなた達はどう? 黒牙に、弓那」
「今度は見る側ですからね、ちょっと楽しみです」
「でもそれ以上に、私達を生き返らせてくれた事が本当に嬉しいです~」
「お安いご用よ。部屋は後で案内してあげるわ」
誰もいなくなった暗闇のホールで、リリア、黒牙、大木弓那の三人が他愛も無い会話をしていた。
さあ、楽しい楽しい殺し合いの始まりです。
【ドラえもん@ドラえもん 死亡確認】
【ゲーム開始/残り47人】
GAME START |
アレックス |
再会と死別 |
GAME START |
リリア・ミスティーズ |
第一回放送 |
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黒牙 |
第一回放送 |
GAME START |
大木弓那 |
第一回放送 |
GAME START |
ドラえもん |
死亡 |
最終更新:2010年05月15日 14:01