伸るか反るか

「さて、これからどうする?」
双海亜美の死体から支給品諸々を奪い取り、一段落ついた後、
チャベス・オバマは自分と同じくゲームに乗る四人の仲間達に向かって、口を開いた。
「言うまでもないでしょ?刈るのよ。他の連中をね」
「このまま五人揃って行動するのか?」
「あんた馬鹿? 当り前でしょ」
呉作の質問に対するハルヒの返答は早い。

「五人で固まっていた方が有利に決まっているじゃない。ま、誰かさんが裏切らなければ、だけどね」
「お、俺は裏切らねえよ!亜美ちゃんを殺した時に、か、覚悟は決めたんだ!」
「あんたは見てただけじゃない。殺したのはオバマよ」
ハルヒは口元を歪ませて、嘲笑うかのように言った。

「そ、そりゃそうだけどさ」
「もう何も言うな呉作。あれこれ言い訳した所で、ハルヒはお前を疑うだろうよ。
 上手い言い回しを考えるよりも、行動で示した方がハルヒは納得してくれると思うぜ?」
「勝手に決めてんじゃないわよ。バカキョン」

行動……それはつまり、俺がゲームに乗った者らしく、誰かを殺せということか?
呉作は誰も殺したくない。だから、キョンの言葉に戦慄する。
身勝手な話だが、死んだ亜美の前で誓った。『俺は誰も殺さない』
見殺しにするのも、亜美が最後だ。呉作は、こんな状況でも真っ当に生きたかった。

しかし、俺の支給品はハリセン……殺し合いするなってツッコミを入れても、誰も救われん……

だが、やると決めたらやらなければならない。呉作は覚悟を決める。
もう二度と、後悔するような真似はしない。誰にも殺させない。


「呉作を疑う気持ちは分からんでもないが、そろそろ話を元に戻さないか?
 これから参加者達を刈って回るのはいいとして、問題はどこに向かうか、だ」
オバマはデイパックから地図を取り出し、広げた。
「近くに氷川村という村があるわ。そこなら、他の参加者達も集まりやすいんじゃないかしら」
巡音ルカが口を開く。

「そうかしらね。その発想は短絡的にも程があるんじゃない?
 殺し合いに乗っていない連中が、いかにも人が沢山集まりそうな村に来ると思う?
 常識的に考えて危ないじゃない。私なら、まず行かないわよ」
「だったら、貴方はどこに行けばいいと思っているの?」
熱の籠ってない目でルカはハルヒをじとりと睨んだ。

「私は一先ず山の頂上を目指せばいいと思うの。ここから近いみたいだし、地図によれば
 展望台もあるみたいだしね。多分だけど、頂上からならこの島の全景が見渡せるんじゃないかしら。
 最終的にどこに向かうかは、展望台から島の様子を大まかに見極めてからでも遅くはないはずよ」
「なるほどな……」
オバマはハルヒの意見に素直に感心した。
「確かに色々と面白そうだな……私は賛成だが、さて……」
ハルヒ以外の面々の顔を見回すオバマ。

「俺も賛成だ。ハルヒにしては珍しい慎重論だからな」
「私も賛成よ」
「俺も、特に異論はないよ」

「決まりね……」
満足そうにすハルヒ。
「それじゃあ早速、神塚山頂上に向けて、出ぱぁつ!!」

▼ ▼ ▼

そんなこんなで山道を登り、彼らは頂上へと辿り着いた。
簡単な展望台が建設されており、眺めは思いの他良かった。
一つだけ困った事は、早く着きすぎたために、まだ夜が明けておらず、
展望台から見渡しても暗闇の所為でほとんど視界が利かないという事だった。

展望台の陰に隠れて、何者かが息を潜めている。ハルヒ達の足音を聞いて、
よく分からないまま反射的に隠れたのは、彼にとって幸運だったのかもしれない。
潜む者の名前はオーウェン定岡。ハルヒ達の中で、唯一ゲームに乗っていない鎌田呉作の同僚だ。

「さっさと明けてくれないかしら……どうして早く着きすぎて困る様な事になっちゃうのよ」
「まあ、そう愚痴るな。どの道、まもなくしたら空も白みだす」

ハルヒ達の会話を注意深く聞く。当然、定岡は彼らが殺し合いに乗っている事は知らない。
今は、連中のスタンスが分からないので一応隠れていだけだ。
はたして、彼らは乗っているのか、いないのか。

定岡は、五人の内の一人が自分のよく知る鎌田呉作だという事に気付いた。
(“四人”いる……その内の一人は呉作か……あいつが殺し合いに乗るとは思えない。
 という事は、あいつら“四人”は殺し合いに乗っていない、と見ていいのだろうか)
いくら考えても答えは出ない事は初めから分かっている。けれども、慎重になるのに越したことはない。
常に最悪の事態を想定していなければならない。

呉作はいい奴だ。きっと信じられる。
とてもじゃないが、殺し合いに乗るような男ではない。だが、万が一という言葉もある。
もし俺が奴らに接触して、呉作を含めた“四人”が殺し合いに乗っていたら、俺は間違いなく死ぬ。
勝てるわけがない。逃げる事すら出来ないまま、袋叩きにされてしまう。

「よっ、何そこで隠れてるんだ?」

定岡の全身がびくりと震えた。全身に悪寒が走る。突然背後から声をかけられ、首に刀を突き付けられた。
“四人”じゃない。もう一人いたんだ。五人目は、あえて後からやってきて────

「そうビビるな。俺も向こうの四人も、殺し合いには乗っていない。
 この刀は“念のため”突き付けているだけだよ。さて早速聞かせて貰うが、お前は殺し合いに乗っているか?」
言われた瞬間、定岡はぶんぶんと首を振った。あまりの慌てようだったので、キョンは苦笑した。
「念のため聞かせて貰うが、お前の支給品はなんだった?」
「ス、スナイパーライフル」
思わぬ言葉に、キョンはぴくりと反応する。なかなか強力なものを支給されているようだ。

(物騒なものを持っているみたいだが、手に持っていない所を見るとどうやらデイパックの中に入れたままらしい。
 いくら殺す気がなかったとしても、自衛のために直接手に持っとくくらいしとけばいいのにな)

「お、おい。質問に答えたんだから、その刀離せよ。俺は殺し合いには乗ってないって」
「悪いが俺だけで判断するわけにはいかないんだよな。すまんが俺の仲間達の所まで歩いてくれるか?」
キョンの指示通り、呉作は震えながらも、ハルヒ達四人の元へと歩いた。

定岡とキョンが四人の前に姿を現した時、呉作の目の色が変わった。
「うわああああん!!定岡さぁん!」
「ちょ!お前、そんな状況じゃないだろ!」
呉作は定岡へと駆け寄り、力いっぱい抱きしめた。普通、男二人が再会していきなり抱き合うか?
突然の行動にキョンは唖然としていたが、すぐに気を取り直し、呉作に向けてファルシオンをかざす。
呉作の行動に、キョンは勿論、ハルヒもオバマもルカも疑問符を浮かべる。

「呉作、こいつはお前の知り合いなのか? まあ、気持ちは分かるが、
 こいつはもしかしたら殺し合いに乗っているかもしれない。再会を喜び合うのは、
 定岡さんとやらの身の潔白を確かめた後にして貰えないか?」

勿論、キョンの言葉は単なる建前に過ぎない。いつ定岡の方へ裏切ってもおかしくない呉作を縛り付けるため、
キョンはファルシオンを彼に向けてかざしたのだ。

こいつ……今、何かしたか?オバマは呉作を流し目でちらりと見た後、気を取り直して定岡の方へと顔を向ける。

「定岡さんと言ったかな。キョン君が言ったと思うが、我々は殺し合いには乗っていない。
 だから安心して、正直に言って欲しい。君の素性、知り合い、支給品、今までどう行動してきたか……
 包み隠さず説明してくれないか。君が言った情報を元にして、我々は君が本当に、
 心の底から殺し合いに乗っていないのかどうか、確かめたいんだ。
 定岡さんを我々の信用できる仲間として受け入れるために、ね」

「な、仲間にしてくれるなら、そりゃあ何でも言うけど……」
そう言う定岡の目を見て、オバマは人懐っこい優しい笑みを見せる。
「では、始めるとしよう。ちょいと尋問みたいになるが、勘弁してくれ。
 あと、呉作君には席を外して貰おうと思う。知り合いがいたら、話し合いに狂いが生じるかもしれないからね」

オバマは地面に腰を下ろした。定岡もそれに倣い腰を下ろす。
デイパックを隣に置く。そういえば、スナイパーライフルを中に入れたままだ。
念のために出しておけばよかった……


オバマ……キョン……こいつら、やっぱり俺の事は何にも信用していないのか……
呉作は血の気が引く思いだった。あれよあれよと言う間に、定岡は四人の悪魔の手の平へと誘われてしまった。
早く何とかしないと、定岡さんが殺されてしまう。

オバマはルカをちらりと見た。ルカは全て心得ているように頷く。

「呉作……ちょっとこっちに来て」
呉作の耳元で、ルカは呟くように言った。断る理由が思いつかない。
ここで理由もなく断れば、呉作は本当に裏切り者と判断されて、殺されてしまうかもしれない。

定岡達と少し離れた所で、呉作とルカは向かい合った。
「なんだよ……」
「あの定岡って人は……貴方とどういう関係なの?」
「職場の同僚だ……」
何を言われるのだろうか。呉作の顔は暗い。その顔を見て、ルカはくすりと微笑んだ。

「貴方って、本当に演技が下手……。本当は、乗る気なんて全然ないでしょう?」
「いや、そんな事は……」
「オバマもハルヒもキョンも私も、皆気づいている。だけど貴方だけは、私達四人を騙せていると思い込んでいる。
 さっきの、突然の抱き着き行為は、何か私達には言えない狙いがあるのかしら……」
滝のような冷や汗が流れる。この流れは、やばい……

「だけど、安心して。私達は、貴方にチャンスを与えようと考えたの……
 私達ゲームに乗った者にとって、殺人鬼の数はなるべく多い方がいいから……だから」
次の瞬間、ルカは天地が引っ繰り返る様な事を言った。

「私達の目の前で、オーウェン定岡を殺害して。ね?」

顔面蒼白の呉作に対して、ルカは妖艶な笑みを浮かべて、言葉を紡ぐ。


「そうすれば────私達の本当の仲間にしてあげる」


▼ ▼ ▼

むずかゆい。原因は分かっている。呉作に抱きしめられた時、
呉作はすかさず俺のズボンの中に手を突っ込み、何かを入れた。感触からしておそらく紙切れだ。
いったいなんなんだろう。呉作は何のつもりでこんな事をした?

オバマという人は、恐らくいい人なのだろう。人柄の良さがひしひしと伝わってくる。
先程まで定岡の心の中にあった警戒心は、キョン、ハルヒ、オバマとの会話によって大分薄れてきた。
やはり人がいるというのはいい。今まではたった一人だったから、正直かなり心細かった。
早く仲間として受け入れて欲しい。

────安心が得られただけに、呉作の謎の行動が気にかかって来た。
呉作は何を思って、俺のズボンの中に紙切れを放り込んだ?あんな不自然な真似をしてまで……

「このゲームに参加している知り合いの名前を教えてもらえるか?」
「ビリー、カズヤ、池田、トータス、城之内、呉作、あとTDNだな……」
定岡は何気ない様子を装って、シャツの裾を直すような振りをして、ズボンの中にある紙切れを握りしめた。
ズボンから手を出して、ばれないようにそっと手を開く。紙切れに書かれた文字を見た瞬間、定岡の頭に電撃のような衝撃が走った。


【────俺以外の四人は、実は殺し合いに乗っている────】


すぐに手を閉じた。オバマの顔を観察する。どうやら気付かれていないようだ。
キョンも同じく気づいていない。助かった…………

あ、あれ?ハルヒは………?

さっきまでハルヒもここにいたのに、目の前に座っていたのに!
い、いつからいなくなった? ど、どこにいったんだ……?

【一日目/黎明/F-05 神塚山山頂展望台】
【涼宮ハルヒ@やる夫スレ常連】
[状態]:健康
[装備]:双眼鏡
[所持品]:基本支給品一式(パン残り2個)、手榴弾×3個
[思考・行動]
基本:優勝狙い。夜神月に誰が本物の神なのか理解させる
1:????
※このハルヒはただの一般人。特殊能力は何も持ってません。

【キョン@やる夫スレ常連】
[状態]:健康
[装備]:バールのようなもの、ファルシオン、スモークグレネード×1
[所持品]:基本支給品一式(パン残り2個)、救急箱、
[思考・行動]
基本:優勝狙い。とりあえず死にたくない。
1:呉作に定岡を殺させる。

【チャベス・オバマ@本格的!ガチムチパンツレスリング】
[状態]:健康
[装備]:剛剣マンジカブラ(刀)、スモークグレネード×1
[所持品]:基本支給品一式(パン残り2個)、携帯電話
[思考・行動]
基本:ゲームに乗る?
1:呉作に定岡を殺させる。
※24時間ルールのノルマを達成。

【巡音ルカ@ボーカロイド】
[状態]:健康
[装備]:十得ナイフ、スモークグレネード×1
[所持品]:基本支給品一式(パン残り2個)
[思考・行動]
基本:ゲームに乗る?
1:呉作に定岡を殺させる。

【鎌田呉作@本格的!ガチムチパンツレスリング】
[状態]:健康
[装備]:ハリセン、スモークグレネード×1
[所持品]:基本支給品一式(パン残り2個)
[思考・行動]
基本:誰も殺さないし殺させない
1:ピンチ……
2:亜美ちゃんごめん……

【オーウェン定岡@本格的!ガチムチパンツレスリング】
[状態]:健康
[装備]:
[所持品]:基本支給品一式(パン残り2個)、スナイパーライフル
[思考・行動]
1:どういう事なの……ハルヒはどこにいった?

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最終更新:2010年02月19日 22:07
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