────ねえ

めのまえがまっくらになった────

鏡音リンの全身から力という力が穴の空いた風船のように抜けていく。
萎み切ったリンは、その場で両膝をつき、目の前の光景を光のない目で見つめた。
彼女の目の前には、顔面が陥没し、ピクリとも動かない鏡音レンの死体があった。

こんな事が……こんなバカな事が起こる筈が……
ねえ、どうして寝てるの?どうして声をかけても起きてくれないの?
ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?

レンの体をゆさゆさと揺すってみたが、レンは反応を返してくれなかった。

「ねえ、レン、どうしちゃったの?どうして返事してくれないの?ねえ?」
からかうのもいい加減にしてよ。こんな状況で死んだ真似をするなんて、
なんて趣味の悪い冗談をするのよ。ねえ?私は鏡音リンよ?

「ねえ、私は鏡音リンよ?私は貴方の双子の姉よ?私が貴方を襲うわけないじゃない。
 ねえ、だから死んだふりなんてする必要はないのよ……ないのよ……
 ねえ、いつまで私をからかうつもりなの?もういいから!レンが悪戯好きなのは知ってるけど……」
リンは変わらない調子でレンに話しかけ続ける。

この悪戯好きは本当にどうしようもない奴だわ……こんな状況でも私をからかいたいみたい。
どうしてくれようかしら。どうしたらこいつの悪戯を止めさせられるのかしら。
ねえ、レン、貴方は何をどうしたら死んだふりを止めてくれるの?
私は貴方の死んだふりに騙されたふりをすればいいの?ねえ、そうなの?
そんなの、嫌よ!レンが死ぬなんて、家族が死ぬなんて冗談でも嫌よ!
ねえ、やめてよ。やめてよ本当に。冗談なんてしている場合じゃないでしょう?

あっ────そうだ。
いい事を思いついた。レンは脇をこそばされたらいつもいっつも大笑いしてしまう。
小さい頃から、ずっとずっと、レンの弱点は腋だった。

早速リンはレンの腋をこそばしてみる。

あれ……?おかしいわ。どうして?どうしてピクリとも反応しないのかしら……
いつの間にレンはこんなに我慢できるようになったの?
おかしいわ、こんなの……レンじゃない。……もっとこそばしてやる!

リンは必死になってレンの腋を弄くり回した。こそばしてこそばしてかつてない激しさでこそばし攻撃を続けた。
そんなリンとレンの姿を、民家の脇に隠れて盗み見ている男が一人いた。
男の名は木吉カズヤ。レンを殺した男だ。彼はカイトを追いかけていたのだが、
先程レンを殺した場所に何者かが近づいてきているのをレーダーで探知し、逃げるカイトよりは
相手にしやすいだろうと判断し、この村に戻って来た。

カズヤがこっそりと覗いていると、レンの脇を執拗に攻めていたリンが嬌声をあげた。

「ふ、ふふふふ、ふふ。今ぴくって動いたでしょ、レン。私、見逃してないわ……!
 ねえ、だからもう冗談はそろそろ終わりにしましょうよ。早く一緒に、姉さんや兄さん達を探しに行きましょう?
 ねえ、ねえったら……!え、何? 何なの?」

235 名前:────ねえ ◆N2K943LWJ1Uz [sage] 投稿日:2010/02/15(月) 23:14:47 ID:6cx5SH35


カズヤは神妙な面持ちをリンに向けている。リンはというと、何か、小声でレンに話しかけているようだ。
さっきまでの声より、ずっとずっと小さい。さすがに聞き取れないので、カズヤは歯がゆく思った。

(なんなの?レン、怪我?怪我して動けないの?えっ、顔を怪我したの?
 いつ?ねえ、いつ、どうして怪我しちゃったの?まさか、誰かに襲われたの?
 嘘でしょう?こんなバカみたいな殺し合いに、誰か乗る人がいるなんて……
 え、ほ、本当なの……?)

「う、嘘よ!そんなの嘘よ!誰も殺し合いなんて望んでないのよ!」
リンは突然大声を上げた。
「いくらなんでも、殺せって言われて殺せる人間がいる筈ないじゃない!
 元々このゲームは成り立たないのよ!だって、だって誰も乗らないからよ!
 え……そ、そんな事ないって、何を根拠にそんな事を……!!」

間違いない。彼女は死体と会話している。今の彼女の叫びでカズヤは確信した。
つまり、彼女は極度の精神錯乱状態にあるのだろう。ある種の幻覚を見ているのかもしれない。
カズヤは顎に手を当てて考える。ここで彼女を殺すべきか否か……
殺すのは簡単だが、彼女の精神錯乱はカズヤにとって都合の良い方向に転がってくれるかもしれない、
という淡い期待もある。レンは死んでいる。どうせ、レンを殺したのが自分だとはばれるわけがない。
それに加えて、彼女は非力な少女。今自分が彼女を殺さなくとも、きっとどこかで他の誰かに殺され、
力尽きるのは目に見えている。

さて、こうなったら、彼女を生かしておいた方が良さそうに思えてくるが……


「レン、ねえ、レン……その顔の傷は……いったい誰にやられたの?
 教えてよ……動けないレンの代わりに、私がきっとそいつをやっつけてあげるから……
 ねえ────レン……!!」

【一日目/黎明/C-3 鎌石村】
【木吉カズヤ@本格的!ガチムチパンツレスリング】
[状態]:健康
[装備]:メリケンサック、首輪探知機
[所持品]:基本支給品一式(パン残り3個)、ロープ
[思考・行動]
基本:全てはチャンス!優勝して強くなりたい。出来れば兄貴と決着をつけたい。
1:あの子(リン)をあえて生かしておくのも面白いかもしれないな……
※24時間ルールのノルマを達成しました。
※鏡音レンの支給品を拾いました。

【鏡音リン@ボーカロイド】
[状態]:健康、精神錯乱
[装備]:
[所持品]:基本支給品一式(パン残り2個)、不明支給品1~2個
[思考・行動]
1:ねえ、レン……!

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最終更新:2010年02月19日 22:04
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