宇宙人はみどり色

「ここは・・・どこだ?」
少年、風間 望は送り飛ばされた広い部屋の中で一人呟いた。
その部屋でまず目に付くのが、大量の机。続いて大きなホワイトボード。
そして、「防犯」や「交通安全」等と書かれたポスター。
どうやら、ここは警察署の一室らしい。

(警察署か・・・ここなら、わざわざ目的を持ってやって来る奴は少ないだろうな・・・
仮に殺し合いに乗った人間がここに来たとしても、広い警察署の中から僕を見つけ出すのは困難だろう。どうやら運は僕に味方しているみたいだ)
ひとまず身の安全を確認した風間は、次にデイバックの中身を確認し始めた。
デイバックには水、食料、地図、腕時計、参加者名簿など、生き残る為の必要最低限の物は入っていた。
そんな中で風間の目に止まったのは、二つの支給品だった。

ひとつは、無数のカードが収められた、黒い正方形のケース。
同封されていた説明書によると、これは「カードデッキ」という物らしい。
内容を要約すると、このケースを鏡に向ければ、オルタナティブというヒーローもどきに変身できるらしい。さらに読み進めていくと、オルタナティブは鏡の世界「ミラーワールド」に住むサイコローグというモンスターと契約を結んでおり、カードを使えば、いつでもミラーワールドから召還できるとの事だった。
まったく馬鹿げている。鏡の世界?鏡に住む怪物?これではまるで、新堂が話していた旧校舎の怪談話ではないか。もし書かれている事が本当ならば、かなり強力な武器であることは間違いないが、こんな現実離れした文章を、いきなり信じろというのは、流石に無理がある。とりあえず、カードデッキは保留する事にした。
できればこんな訳の分からない物は使いたくないが、どうしようもなく追い詰められた時は、これを使うしかないだろう。

もうひとつの支給品は、液晶画面の付いた、腕時計に似た小型の機械だった。
こちらは「人ナビ」というらしい。
この人ナビには、この会場の地図と首輪、つまり参加者の位置が表示されるとの事だった。
早速説明にしたがって人ナビの電源を入れてみる。
すると警察署と書かれた建物の中に、矢印が表示された。どうやらこの矢印が人ナビ本体の位置らしい。

(なるほど・・・これはいい物を手に入れたぞ)
さらにボタンを押して画面をズームアウトし、首輪の反応が無いかどうか確かめる。すると、西の方角にひとつ反応があった。
(結構近いな・・・西の方角にあるのは・・・博物館か)
風間は、その首輪の反応を10分ほど観察していたが、全く移動する気配が無い。これはふたつの可能性が考えられる。
ひとつは、この参加者が既に他の参加者によって殺害されているという可能性。
もうひとつは、殺し合いに乗っていない参加者が、恐怖でその場を動けずにいるという可能性。
もちろん、殺し合いに乗った者が、獲物を待ち構えているという可能性も無いわけではない。
しかしホテルや病院ならともかく、殺し合いの場でわざわざ博物館に向かう者はそうそう居ないだろう。
博物館で待ち伏せしても、あまり効率的とはいえない。
(となると・・・行ってみるしかないな)
この参加者が死亡しているなら、デイバックから新たな武器を入手できる。
既に持ち去られている可能性も高いが、それでも首輪だけは確実に手に入る。
首輪を入手できれば、自分の首にも巻きついている忌々しい首輪を解除する手がかりが掴めるかも知れない。
それが無理でも、爆弾として使用する事が可能だ。
もし怯えて動けずにいる参加者なら、仲間の振りをして接触する。
なにせ自分に支給された武器といえば、得体の知れないカードデッキだけだ。
しばらく仲間として行動を共にし、隙を見て武器を奪い、そして殺害する。
どちらにしても、移動する事で状況が悪化する事はまず無いだろう。
風間は、博物館を目指して歩き出した。


巨大な恐竜や、中生代の古生物の化石が立ち並ぶ博物館。
昼間ならば親子連れの見学者を喜ばせたであろう、古代の地球の支配者たち。
だが無人の、不気味なほど静まり返った暗闇の博物館の中では、彼等は人気者などではなく、巨大な魔物の骸にすぎない。
「どうしよう・・・ハルくん・・・怖いよぉ・・・」
そんな異質な空間に、一人の少女が放り込まれていた。
秋姫 すもも。星城学園に通う14歳の少女である。
14歳の少女にとって、夜の博物館、そして殺し合いという状況はあまりに異常すぎた。
とある薬の影響で、夜にぬいぐるみに変身する体になってしまったユキちゃんこと、石蕗 正晴を治すために、星のしずくを集めていた時にも危険な事はあったが、直接自分の命が狙われるような事は、経験した事がなかった。
殺し合いのゲームが始まって既に30分が経過したが、すももは未だに恐怖で動けずにいた。
このままじっとしていても何も変わらないのは分かっている。
しかし、一歩外へ出た瞬間、目の前に殺人鬼がいた場合の事を考えると、とても動くことなど出来なかった。

ギィ・・・
カッ・・・カッ・・・
「ひゃあっ!?」
その時、入場口の扉が開き館内に乾いた足音が響き渡った。
ついに殺人鬼がここにやって来たのだろうか。
「い、いや・・・来ないでぇ・・・」
ついにすももは恐怖のあまり泣き出してしまった。自分が殺されるかもしれないという恐怖と、二度と正晴に会えないかもしれないという恐怖。
これらは、元来気の小さい彼女にはとても耐えられる物ではなかった。
「君、大丈夫?」
「・・・え?」
死を予感していたすももは、いきなり自分に掛けられた予想外の言葉に驚く。涙を拭き、顔を上げると
「僕が来たからにはもう大丈夫だよ。だから泣かないで」
満面の笑みを浮かべる風間の姿があった。


風間とすももが遭遇し、5分が経過した。
最初は泣いてばかりだったすももだが、他人と会ったことで気分が落ち着いたのか、だいぶ平常心を取り戻していた。
だが、一方の風間は違っていた。
(参ったな・・・女の子、しかも見たところまだ中学生じゃないか。その上かなりカワイイぞ)
人ナビの反応を頼りにすももと遭遇した風間は、内心戸惑っていた。
自分が生き残るために他人を殺す事など、何の躊躇も無いが、相手が可愛い女の子なら話は別だ。
なにせ彼は、自称紳士的なカッコマンなのだから。

「あ、あの・・・」
「うん?何かな?」
「えっと・・・自己紹介がまだだったから・・・私、秋姫 すももです。あの、よかったら、名前を聞かせてくれませんか?」
「ああ、ゴメンゴメン。こういう時は男の方から挨拶しなきゃいけないのに。僕は風間 望。よろしく。」
「あ、はい・・・こちらこそ、よろしくお願いします」
「ところで、すももちゃん。僕らは殺し合いに乗る気はないけど、身を守るのにもそれなりの武器が必要だ。
 だからここは、お互いの支給品を確認しようじゃないか。」

すももとの挨拶を済ませた風間は、殺すかどうかはひとまず保留するとして、すももの支給品を確認する事にした。
「ちなみに僕は、この首輪発信機と、訳の分からないカードデッキとかいうおもちゃだ。
 発信機はともかく、このカードデッキが役に立つとは到底思えないけどね」
風間はポケットから取り出したカードデッキを見せびらかし、ヘラヘラと笑いながらそう言い放った。

「えっと・・・私は・・・」
風間の言葉を受け、すももはデイバックの中身を探り始めた。どうやら確認がまだだったらしく、少々手こずっているようだ。

「こんな物が出てきました・・・」
すももが取り出したのは、日輪マークが刻まれた玩具のような銃であった。
風間は、すももから渡されたそれを、手に取って注意深く観察する。

(これは光線銃かな?おもちゃみたいな造りだけど、どうやら本物らしい・・・
 見たこともないタイプだけど、少なくとも地球の技術でない事は確かだな)
あらかた銃の観察を終えた風間は、すももにそれを返した。本当ならば一刻も早く武器が欲しいのだが、
ついさっきまで恐怖で泣いていた少女から、数少ない武器を取り上げるのは、流石に気が引けたからだ。

「他には・・・わぁっ!?」
すももが再びデイバックに手を入れた瞬間、中から10cmほどの昆虫が3匹飛び出した。三匹の昆虫は2mほど上空で静止している。
一見すると蜂に似ているが、見たことも無い種類だ。第一、10cmともなると、蜂としては規格外のサイズである。
「ん?これは説明書かな?」
ふと風間が地面を見ると、すもものデイバックの側に紙が一枚落ちていた。恐らく蜂もどきが飛び出した勢いで外に落ちたのだろう。
風間はとすももは、その紙に目を通す。

ペンバリー
偵察用の小型モンスター。目で見たものを正確に記憶し、針をペン代わりにその光景を絵に描く事が出来ます。
偵察に出す場合は、地図に記されている記号で指令を出してください。
使用主が移動しても見つけ出して戻ってきます。
注:参加者を指定して偵察してくるような命令は出せません。

「なるほどね・・・」
風間は静かに呟いた。
「すももちゃん、これはいい物を引き当てたよ」
「え?そうなんですか?」
「そうさ。正直、ペンバリーだけじゃ使いにくいアイテムかもしれない。
 確かに便利だけど、参加者を指定して命令を出せないというのは少しキツイ。
 指定できるのが場所だけじゃあ、ほとんどの場合、偵察は無駄骨に終わるだろうしね。
 偵察に出した場所にたまたま参加者が居たとしても、ペンバリーが戻ってきて絵を描き終えるまでに、そいつがずっとそこに留まっているとは到底思えない。
 だけど、僕の持っている人ナビと併用するのなら、話は別さ。
『誰がどこに居るか』は分からないけど、人ナビに反応があった場所に偵察に出せば、『そこにどんな参加者がいるのか』は分かる。
 そいつが移動しても人ナビで追跡できるし、強力な武器を持っていたり、いかにも強そうな奴だったら逃げればいい。
 遠くは無理でも、近場の偵察には十分役立つはずさ。どう?何か問題でもあるかい?」
風間は自慢げに解説してみせた。


「す・・・すごーい!風間さんって頭いいんですね!」
「はは。それ程でもないよ。さて、それじゃあどこに偵察に出そうか・・・お?
 北東、D-2の採石場にちょうど反応が3つあるな。ペンバリー!」
風間が呼ぶと、3匹のペンバリーが舞い降りてきた。
「D-2の偵察を頼む。急いでくれよ」
風間の命令を聞き入れたペンバリーは、窓ガラスを突き破って外に飛び出していった。
「おいおい・・・こんな状況なんだから静かに頼むよ・・・まぁ、すぐ近くに反応が無かったからいいけどさ。
 さて、こうしてじっとしてるのも何だし、仲間になる人を探しに行こうか」
「はい!」
先ほど泣いていたのが嘘のように元気に答えを返し、風間の後を追うすもも。
彼女は自分の幸運を喜んでいた。この殺し合いの場で、風間のように優しく頼りになる人物に出会えた事に。
だが、彼女はまだ知らなかった。
風間の正体が、地球侵略計画のスパイとして、母星から送り込まれた宇宙人、スンバラリア星人だという事を。
世界で最も星に近い町に生まれた少女と、地球侵略を企てる宇宙人。
二人の出会いはどんな物語を紡ぎだすのか------

【一日目/深夜/E-1/博物館】


【風間 望@学校であった怖い話】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、
    オルタナティブのデッキ@仮面ライダー龍騎
    人ナビ@エアマスター
[思考]
基本:首輪を外す
0:すももちゃん可愛いなぁ・・・
1:サンプルとして首輪が欲しい
2;今のところ積極的に殺し合いをする気はない(ただし、襲われた場合は容赦なし)
3:すももに人が死ぬ(自分が殺す)瞬間を見せたくない

【秋姫 すもも@ななついろ★ドロップス】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式
    サンシュート@天体戦士サンレッド
[思考]
基本:風間について行く
1:同上。
備考:名簿を見ていないため、撫子と結城が参加している事を知りません。

支給品解説
ペンバリー@冒険王ビィト
本文中の通り、偵察用モンスター。風間はロボットか何かだと思っている。

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最終更新:2010年03月05日 02:57
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