『最強』×『最弱』×『絶対』(後編)




 上条当麻がまず始めに感じたものは、近場から聞こえる爆発音の如く轟音であった。
 幾度となく発生する爆音は、彼に覚醒させるには十分過ぎた。
 目を覚まし、真っ暗な周囲にパニックになりかけながらも顔を上げる。
 そこは暗闇の中で、上条はぼんやりと靄が広がる思考で、何が起きたのかを思い出そうとする。
 たっぷり十数秒の時間を掛け、上条は思い出す。
 自身に降りかかった災いと、災いを引き起こした張本人達との邂逅とを、思い出す。
 思いだし、上条は勢いそのままに跳ね起きて周囲を見回した。
 見覚えのない景色に、近くから聞こえる轟音。
 身体は生臭い何かで濡れていて、首元には焼けるような熱い感覚があった。
 意識を失う前まで会話をしていた老人と女は、影も形もない。
 上条は悔しげに顔を歪ませ、唇を噛みながら行動を始める。
 近くで聞こえた轟音の方へと、迷うことなく足を踏み出した。
 そして、見た。
 力無く膝を付く大男と、十数もの刃を従えて大男を見下ろす白色の異形。
 上条は異形が醸し出す存在感に息を呑み、だが前に躍り出る事に躊躇いは覚えなかった。
 眼前で人が襲われていて、今にも殺害されようとしている。
 前に出ぬ理由はない。
 恐怖を無視し、己を鼓舞するように声を張り上げ、上条当麻は異形の前へと踏み出した。


「何やってんだよ、お前……! お前はあんな奴等の言いなりになって、本当に殺し合いなんて始めちまうつもりかよ!」


 上条当麻は、揺らがない。
 殺し合いの場にあって、明らかに人外の域にいる存在と対面して、それでも一切の揺らぎはない。
 殺し合いなんて間違っている。
 あんな奴等の言いなりになって殺し合いをするなんて、そんな未来は許せない。
 だから、止める。
 ただ、それだけであった。

「他の人たちを殺して、ただ巻き込まれただけの人たちを殺して、それで生き延びて、お前はそんな悲しい結末で良いのかよ! お前だって巻き込まれただけなんだろ?
 なら、ダメだ! あんな奴等の言いなりになるなんて、間違ってる。そんな事をしても喜ぶのは、あいつらだけだ! 殺し合いなんてしちゃいけねーんだ!」

 上条の言葉は力強く、不思議と胸の奥深くへと突き刺さるものであった。
 だが、この場においてその言葉がどれだけ場違いなものか、誰よりも深く知っていたのは承太郎であった。
 眼前の存在は、今更こんな説得に耳を貸すタマじゃない。
 それだけじゃない。
 この化け物が念じれば、今この瞬間にもあのウニ頭を死亡する。
 ウニ頭が行っている行動は、ピンを抜いた手榴弾の前で呑気に突っ立っているようなもの。
 何とかせねば、殺される。

「……消えろ……てめぇは今お呼びじゃねえ………死にたいのか……!」

 ようやくひり出した承太郎の声は、だが受け入れられる事はなかった。
 変わらぬ表情で上条は立ち尽くしている。
 承太郎の声は聞こえている。聞こえてはいるが、引くつもりなど微塵もなかった。
 今にも死にそうな瀕死の人物を見捨てて逃亡を選択する事など、上条当麻に行える訳がない。
 上条当麻が『上条当麻』である限り、そんな選択肢はあり得ない。
 上条は、ボロボロの身体でそれでも他者を案じた男へと一瞬視線を送り、再びナイブズを睨む。
 決意が固まっていくのを感じた。
 このボロボロの男を助ける、上条当麻はそう決意する。

「お前は、強いんだろ? 近くにいるだけで分かる。正直今すぐにでも逃げたしたいくらいだ。お前は途方もない力を持っていて、それを自由に操ることができる。
 俺なんかが立ち向かったところで傷一つ付けられるかも分からねぇ。俺なんかよりずっと強くて、すげえ存在だ。……なのに、そんな力を持ってるのに、あんな奴等の言いなりになっちまうのかよ。
 簡単に他者を見捨てて、自分だけ生き延びて、それで良いのかよ。こんな事は間違ってるって、そう思わねえのかよ!!」

 止まることなく吐き出される言葉に、ナイブズが耳を貸すことはない。
 沢山の人々の心を揺さぶってきた上条の言葉を、右から左に聞き流す。
 ナイブズからすれば、所詮上条も排除すべき種族の一人でしかない。耳を貸す道理がなかった。
 ナイブズは上条を無視して、承太郎の殺害を行おうとする。
 承太郎を包囲する刃の群れが、ゆっくりと進み始めた。

「ッ!!、止めろ!!」

 今まさに殺人を執行しようとするナイブズへ、上条は叫びと共に一歩を踏み出す。
 上条からすればおそらく全力の、だが超人達からすれば拍子ぬけする程の速度での突進。
 それでも真っ直ぐに、最短距離を突っ走って男は進む。
 異形を止めるため、一つの命を救うために、上条当麻は走り出す。

 そんな上条に対して、ナイブズは視線も向けずに己の『力』を振るった。
 『持ってくる力』を発動させ、万物を切り裂く刃を数本形勢する。
 ナイブズからすれば、近くを飛びまわる羽虫を振り払うようなものだ。
 邪魔だから殺しておく。ただそれだけの行動であった。
 確かに、最初の邂逅時、この人間は一度自分の『力』から生存せしめた。
 しかし、先の攻撃は全方位に放たれたもので、男一人を狙いとしたものではない。
 謎の制限を掛けられた今ならば、幸運に幸運が重なり生き延びたという可能性が、万が一ほどはあるのだろう。
 気に止める必要もない。
 『時を止める』男は『プラントの力』を回避したが、それはこの男が別格なだけだ。
 おそらくは、自らの側近たる魔人とも渡り合う事が可能な男。
 人間としては最強に近い『力』を有しているのだろう。
 だからこそ、自分の『力』から生還することができた
 だが、所詮はその程度。
 何度『時』を止めようが、自分に勝利する事は不可能であり、プラントが『力』からは逃げる事しかできない。
 どれだけの制限が科せられていようと、『プラントの力』は人間如きに打ち破れるものではない。
 『力』が、振るわれる。
 全てを切り裂く『力』が―――。

(……マズ、い……ぜ……)

 上条の突撃に対して焦燥を覚えたのは、助けられる立場にあった空条承太郎であった。
 ナイブズの力を知る承太郎には、上条の突撃が無謀以外の何ものにも見えない。
 迫る白色の刃を無視して、承太郎はスタープラチナの視線を動かし、周囲を観察する。
 そこに、あった。
 最初の遭遇時、投石攻撃を消し去った『暗き穴』。
 その『暗き穴』が、自分を切り刻んだ『揺らぎ』へと変化していく。
 射線上にある、ありとあらゆるものを切り裂く『刃』。
 スタープラチナの拳すらも切り裂いた、絶対の『斬撃』だ。 
 上条を救わねば、という思いが承太郎の内に湧き上がる。

「スター……プラチナ……ッ!」

 他を想って動く時ほど、『黄金の精神』はより強く光り輝く。
 自己を省みず他人を救おうという想いは、瀕死状態にある空条承太郎へ、奇跡とも云える力を与える。
 もはや指一本と動かぬと思えた身体で、承太郎は己の力を発動させた。
 己の力……すなわち『時を止める』力を。
 『世界』が、止まる。
 限界を越えて発現した能力で、世界はまたもや二秒間の静止を迎えた。
 ミリオンズ・ナイブズも、何物をも切り裂く『揺らぎ』も、何もかもが止まった。
 この二秒間が、空条承太郎に与えられた猶予の時である。
 だが、その瞬間に―――糸が切れた。
 限界を超えた中で、承太郎は己の内にある『何か』が切れる音を聞いた。
 プツンと、儚げな音が、鳴る。
 同時に、身体の芯から、力が抜けた。
 それまで必死に塞き止めていた疲労感が、溢れ出す。
 ここに来て、と承太郎は己の無力を呪う。
 全てが脱落していくかのような感覚の中、承太郎はそれでも上条を救う為に動こうとする。
 だが、空条承太郎をもってしても、もはや抗いきれるものではなかった。
 首を回し、上条がいる方向へ視界を向ける事が精々であった。
 視界には、上条当麻がいた。
 握り拳を固め、異形へと直進しようとしている男が。
 『時』が動き出すと同時に死亡する男が。


 そこで―――、




(な……ッ!!?)



 ―――走っていた。

 時の止まった世界で、その男は何ら変わった様子も見せずに、走っている。
 先程までと同様に、強固な意志に瞳を滾らせて。
 他を助けるためだけに、ミリオンズ・ナイブズへと突っ込んでいく。


(馬鹿な……そんな訳がッ……!! まさか、コイツもスタープラチナと『同じタイプ』のスタンドを……!!?)


 そう、『止まった時』の世界で、上条当麻は動いているのだ。
 ただ一人、世界の理から抜け出したかのように駆ける上条当麻の姿を、承太郎は薄れかけた意識の中で見る。
 確かに『時』は止まっている。
 あの白色の異形も動きを止め、異形が作り出した『揺らぎ』も直進を止めている。
 なのに、どうしてあの男は動いている。まさか、本当にスタープラチナと『同じタイプ』のスタンド使いとでも言うつもりか。
 『時』の止まった世界で、承太郎を殺害しようとしているミリオンズ・ナイブズへと突き進む上条当麻。
 『止まった時』の中で動く上条の姿に驚愕し、呆然としていた承太郎であったが、思い出す。
 ナイブズに接近するということは、その間にある『揺らぎ』にも接近するという事。
 その一歩一歩は、絞首台へ登る階段と同意義だ。
 時が止まっていようと、関係ない。
 あの『揺らぎ』に触れれば、全てが切り裂かれる。
 上条の突撃は、止めねばならない。
 だが、どれだけ念じようとスタープラチナを動かす事はできなかった。
 やはり、限界なのか。
 腕を伸ばし、足でも服でもそのどれかを掴めば良いだけなのに、身体は動かない。
 そして、遂に上条は足を踏み入れる。
 異形に手が届く距離へ―――すなわち『揺らぎ』が在る場へと。
 躊躇いなく振るった右拳を先頭にして、足を踏み入れた。
 それはまるで、数分前のスタープラチナと同様の挙動であり、だからこそ承太郎は後に訪れる惨劇が予想できる。
 上条の右拳が縦に割れ、痛みと失血により意識を失う。
 数分前の自分の姿を、空条承太郎はどうする事もできずに見詰めていた。
 不甲斐なさに、唇を噛み締める。




 承太郎の視界の中で、上条の拳が、『揺らぎ』とぶつかった。







 ―――キィン





 そして、





「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 






 上条当麻の拳が、ミリオンズ・ナイブズの頬を打ち抜いた。






 同時に、『時』が動き出す。
 世界は元通りに時を刻み始めた。
 上条は、ナイブズの頬を貫いた姿勢のまま止まっていた。
 承太郎も、ナイブズも、『時』が動き出したというのに、固まったままだった。
 誰もが誰も、胸中に浮かんだ疑問に動きを忘れていた。

 上条当麻は考える。
 コイツは一体何なのだ、と。
 腕を通して伝わる、ナイブズの圧倒的な堅牢さ。
 ビクともしない。ほんの数センチと後退させることができない。
 『幻想殺し』の反応はなく、つまりは眼前の存在は『異能』も何も関係ない状態だという事。
 この堅牢さも、特異な外見も、『異能』ではない。
 つまり、素の状態でコレなのだ。どれだけの力を有しているかなど、考えたくもなかった。

 空条承太郎は考える。
 何が起きたのか、と。
 あのウニ頭の拳と『揺らぎ』とが激突した瞬間、何か甲高い音が鳴った。
 次の瞬間には、『揺らぎ』は消失していた。
 スタープラチナの拳すら切り裂いた『斬撃』を、眼前の男は消し去ったのだ。
 理解不能なことだらけであった。
 『止まった時』の中で活動し、不可視にして異常な切れ味を誇る『斬撃』をも消した男。
 このウニ頭は一体何者なのか。
 スタンド使いだとして、どのような能力を使用したのか。
 疑問が尽きる事はなかった。

 ミリオンズ・ナイブズは考える。
 有り得ない、と。
 男へと撃ち放った数本の『刃』。
 何物をも切り裂く『刃』が、消失していた。
 何も、攻撃対象であった男をも、切り裂くことなく、消えていた。
 『プラントの力』が、消えた。
 無効化、された。
 有り得ない。有り得る訳がない。
 『プラントの力』を打ち破るものは、同様に『プラントの力』でしかない。
 『持ってくる力』と『持っていく力』。
 その二つを相反させる事によって、初めて無効化する事ができるのだ。
 それ以外に、『プラントの力』を打ち破ることなど……できやしない。
 殴られた事など、どうでも良い。
 何故『プラントの力』が消失したのか、それだけがナイブズの心中を波立たせていた。




 ―――そう、全ては、上条当麻の右腕に宿る『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が齎したものであった。
 神の奇跡だろうと何だろうと、あらゆる異能を問答無用で打ち消す事のできる、謎の『力』。
 空条承太郎が発動させた『時止め』、果ては『プラントの力』すらも打ち消した、上条当麻の『力』。
 そう、『幻想殺し』は『スタンド能力』も『プラントの力』すらも異能と区分し、打ち消したのだ。
 空条承太郎の『時止め』は、己を光速に加速させる事で発動する力だ。
 つまりは、究極的なまでの肉体強化により相対的に発動する『時止め』なのだが、『幻想殺し』はそれすらも無効化した。
 持ち主たる上条をも『止まった時』の中で活動させ、その命を救ったのだ。
 『幻想殺し』の正体を知らぬ二人にすれば、まさに青天の霹靂といったところか。
 どちらも、己が絶対と信じていた『力』を容易く打ち破られたのだ。
 驚愕するなという方が、遥かに無茶だ。
 特に『プラント』の優越性を信奉としているナイブズからすれば、その衝撃は如何ばかりか。
 想像する事すら難しい。
 ひと先ず、上条当麻は己の脅威性をナイブズ達へと知らしめた。
 この事で場はどのような変化を来すのか、兎にも角にも視点を再び場に戻してみよう。



 それぞれ三者三様の思考に停止する争乱の場。
 停止した場において最初に我を取り戻したのは、比較的衝撃の少なかった上条であった。
 拳を引き、一歩二歩と距離を取る。
 座する承太郎を庇うように立ちながら、沈黙を貫くナイブズを見詰め、次にどう行動すべきかを考える。
 渾身の拳もまるでダメージが見えず、『幻想殺し』も通用しない。
 これまでも数多の実力者と戦ってきた上条であったが、その殆どが『法具』や『魔術』ないし『超能力』といった『異能』を使用していた。
 どれほど防御力の高い相手であろうと、『幻想殺し』であれば、その防御魔法ごと殴る事ができた。
 それが、今回は、通用しない。
 『幻想殺し』を当てようと手応えはまるでなく、微動だにしない。
 どう戦っていけば良いのか、これまでの経験がまるで活かす事ができない。
 上条は、焦燥を覚えながらナイブズを睨んでいた。
 その、次の瞬間であった。
 上条は反射的に右腕を突き出す。
 何か考えがあっての行動ではない。本当に無意識の中で、身体が勝手に動いた。
 直後、パキンという何かを割るような音が響く。
 『幻想殺し』が異能を打ち消した音だ。
 打ち消した上条自身、何を打ち消したのかは分からない。
 それ程までに異能は唐突に発生し、また上条の知覚できぬ速度で飛来したのだ。
 驚きを顔に貼り付かせながら、上条は己の右手とナイブズとを交互に見る。

「……何をした」

 そんな上条へ、声は唐突に発せられた。
 地の底から響いたような、暗い声。
 声に身体を震わせ顔を上げると、視線と視線とがぶつかった。
 思えば、眼前の存在と視線を合わせたのは初めてだろう。
 上条は殆ど思わずといった様子で構えを取っていた。
 警戒せずにはいられない。理性と掛け離れたところで、否応なしに身体が動く。

「答えろ」

 冷や汗に体を濡らしながら、上条は大きく息を吸った。
 口内が痛いほどに渇いていて、唇が上手く動かない。
 それでも一度の深呼吸は上条にある程度の落ち着きを与える。

「……俺の右手には『幻想殺し(イマジンブレイカー)』っていう力があってな。どんな異能だろうと、てめぇが出す異能だろうと、打ち消す事ができるんだよ」

 意を決して口を開き、上条は己の力を語った。 
 答えに、ナイブズは黙りこくった。
 眼前の存在が何を思考しているのか、上条には想像が付かなかった。
 ロシアで見た大天使・ミーシャ=クロイツェフと同じような、人類が理解できる範疇の外にある存在。
 上条には、ナイブズがそのような存在に思えて仕方がなかった。

「ハッ、俺なんかに消されるような異能を武器にして、お前は殺しあいに乗るつもりかよ。勝てる訳ねえな。俺なんかよりも強くて、俺なんかよりずっと真っ直ぐで人を思いやれる参加者が絶対にいる筈だ。
 それにな、例え一人では敵わなくても、人っていうのは協力する事ができる。皆で手を取り合い、強大な敵に立ち向かう事ができる。俺は知ってるぞ。そうやって世界は一度救われたんだ。自分達だけで大丈夫だと、上から目線の救いを蹴っ飛ばしてな。
 お前じゃ、殺し合いに勝つ事なんてできねーよ。どんなに強くても、たった一人じゃあな」

 だが、ナイブズを脅威の存在と判断して尚も、上条は語る口を止めなかった。
 一人で孤独に戦おうとする怪物へ、自分が見てきた世界を語った。

 力強い、迷いのない言葉であり―――だからこそか、返答は熾烈なものであった。

 ゴバ! と音が聞こえたかと思いきや、衝撃が世界を揺らした。
 気付けば視界が白色に染まり、景色がなくなる。
 直ぐ近くにいた筈のナイブズの姿すら見えなくなり、身体を凄まじい衝撃と浮遊感が襲う。
 まるで車に引かれたかのような衝撃に、意識を保つことすら出来なかった。
 意識が白色から漆黒に染まる。
 訳も分からぬままに、上条は本日二度目の意識喪失を味わう事となった。






 その瞬間を、空条承太郎は見極めていた。
 語る上条へと向けられるナイブズの表情が、僅かな変化を見せた事に、承太郎は気付いた。
 その顔から読み取れるのは、不快感と怒り。
 自分に対しては何ら感情を浮かべる事のなかった顔貌が、僅かに色めき立っていた。
 同時に承太郎は危険を察知する。
 もはや、スタープラチナを用いるまでもなかった。
 肉眼で視認できる程の、巨大な『暗き穴』。
 『揺らぎ』の前身としてあった形が、ナイブズの側に浮かんでいた。
 上条や承太郎に向けて放たれた『揺らぎ』を発生させた時も、確かに『暗き穴』は発現していた。
 だがそれは、スタープラチナの認識力でようやく発見できた程の微小なもの。
 今回のように、明確な視認など出来る筈がなかった。
 承太郎は察知する。
 今発現している『暗き穴』に込められたエネルギーを。
 視認できる程に巨大な『暗き穴』に込められたエネルギーを。
 瞬時に察知し、最後の力を振り絞ってスタープラチナを出現させた。

 刹那の後に、『暗き穴』が加速した。
 銃弾をも越える超加速で放たれた『暗き穴』に、どんなトリックがあってか上条は反応し、右手で迎え撃った。
 しかし、『幻想殺し』をもってしても、今回ばかりは勝手が違った。
 『幻想殺し』に触れた瞬間、『暗き穴』が爆発したのだ。
 白色の極光と共に膨張し、全てを飲み込む暴風と化した。
 規模は凡そ直径百メートル程で、暗闇の森林にてドーム状に広がる。
 爆発に秘められた、膨大かつ連続的なエネルギーは、『幻想殺し』であっても一瞬で消し去ることは不可能であった。
 爆風に押し負ける形で、骨が軋むような音と共に上条当麻の身体が後方へと吹き飛んだ。
 その衝撃は凄まじいもので、直ぐ後ろにいる承太郎もスタープラチナで受け止めようとするも、それでも寸分の障害とすらならなかった。
 上条と承太郎の身体が、爆風に押されて宙に舞う。
 重力から解き放たれて、二人の人間が夜天の空を一直線に進んでいく。
 気絶した上条を抱える承太郎は、自身も意識を失わないようにと気を強く持つ。
 スタープラチナで着地の衝撃を受けなければ、おそらく二人とも助からない。
 着地するまで意識を保たねば、そう考えながら承太郎は唇を強く噛む。
 十数秒の飛行が、まるで何時間にも感じた。
 地面が近づいてくる事を認識しながら、薄れ行く意識の中でスタープラチナを動かす。
 繰り出すのは左拳。着地の勢いを打ち消すように、地面へと拳を振るった。
 衝撃が身体を揺らす。
 もう、限界であった。
 身体を響かせる衝撃を感じながら、遂に空条承太郎は意識を手放した。



【一日目/黎明/E-8・森林】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]疲労(極大)、右腕断絶、気絶中
[装備]スタープラチナ・ザ・ワールド
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:気絶中
1:殺し合いを止め、兵藤をぶちのめす。
2:学生服の少年を守りつつ、目の前の異形をぶちのめす。
[備考]
※三部終了後から参戦しています



【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]疲労(小)、気絶中
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:気絶中
1:殺し合いを止める。
2:仲間と合流する。
[備考]
※原作22巻終了後から参戦しています








 消えていく二人を見詰めながら、ナイブズは一人佇む。
 現状で放てる渾身の一撃は、たかだか百メートルの破壊を産んだだけであった。
 本来の力であれば、地球(ホーム)よりも遥かに巨大な月を破壊し、その月より更に巨大な砂の惑星すら揺るがす程の力だった筈だ。
 その力が、この散々たる結果。忸怩たる思いを感じずにはいられない。

「『幻想殺し』……」

 加えて、渾身の一撃はたった一人の人間すらも消し去ることができなかった。
 『幻想殺し』―――異能を打ち消す、謎の『力』。
 爆風により吹き飛んだにせよ、制限があるにせよ、『幻想殺し』とやらは全力の発動すらも耐えきった。
 無敵である『プラントの力』を、正面から。

「く、くく……はははははは」

 ナイブズの心境には、もはや自嘲しかなかった。
 融合に次ぐ融合の末に手に入れた『力』。
 人類へ反旗を翻す為に入手した『力』をもっていながら、気付かぬ内に拉致され、謎の制限を架せられ、たった一人の人間すらも殺害できなかった。
 あまりに矮小な自己に、滑稽な気持ちを抑えられない。
 笑いが止まらなかった。


「よォ、お楽しみかよ。クソ野郎」


 そうして笑い続けるナイブズの前に、その人物は現われた。
 押したら折れてしまいそうな程に細い身体。
 不健康さを思わせる白い肌に白い髪。
 全てが白色の様相の中で、瞳だけが赤色に染まる。
 少年は、赤色の瞳を敵意で満たして、ナイブズを睨む。
 一方通行(アクセラレータ)。
 学園都市が誇る最強の超能力者が其処にいた。
 一方通行は見ていた。
 闇を照らし尽くす爆発の直後、空を吹っ飛んでいく二人の人間。
 その顔までは見えなかったが、あの高さから落下すれば一たまりもない事は確かだ。
 おそらくは、この存在。
 人間だかどうだかも分からないコイツが、先の爆発を引き起こし、二人の人間を殺害した。
 誰がどう見ても危険な存在であった。ならば、一方通行が取る手段は決まっている。
 迅速な排除。後を追ってくる女性が辿り着くよりも先に、この化け物は潰しておく
 それだけであった。

「てめェがどこの何者で、何でそンな愉快な身体をしてるのは知らねェ。どうでも良い事だ。ただ、てめェが邪魔な存在だってのは分かる。だからよォ―――潰れとけ」

 『最強』と『最弱』が消えた場に、また一人の『最強』が現われる。
 果たして、『最強』のスタンド使いが苦戦した相手に、科学の化け物は太刀打ちできるのか。
 ただ一つ言える事は、『ヒーロー』はもうこの場にいないという事だけ。 
 人外の怪物達による戦闘が、再び繰り広げられようとしていた。 



【一日目/黎明/D-1・森林】

【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]融合体、疲労感(大)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
1:会場にいる全てを殺し、バトルロワイアルの主催者どもも殺害する
2:眼前の人間を殺す
3:制限の源を解析し、制限を解く
4:『幻想殺し』……。
[備考]
※原作12巻・ビースト殺害の直後から参戦しています
※ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは×5が体内に埋め込まれ、力を大幅に制限しています。


【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康、能力使用状態(残り26分)
[装備]チョーカー型電極@とある魔術の禁書目録、一方通行の杖@とある魔術の禁書目録
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:打ち止めを探し、守る。
1:目の前の異形を潰す。
2:周辺を探索し、打ち止めを探す
[備考]
※原作22巻終了後から参加しています



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最終更新:2012年03月24日 00:06
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